たばこ   作:園田那乃多

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13.クズ好きの下剋上 下

 

「あーやっぱいた! せんぱー……いと、誰?」

「げえっ新田」

「誰が関羽ですか」

 

 こんにちは! 勘違い新田です! 自分では「あんな人好きになるのなんて私くらいっしょ」と思ってました。でもふらりと会いに行ったせんぱいの隣に知らない女の子がいて肩身が狭いです。ねえせんぱいその人誰ですか? やけに親しげじゃないですか?

 そんなこんなで迎えた知らない女の子とのファーストコンタクト。とはいえいきなり詰め寄ったりするのは常識的じゃないしそんなことしたら普通にただのヤバい奴なので、取り敢えず普通に愛想よくいってみたいと思います。

 

「あー、すいません突然。私はせんぱいのバイト先の後輩の新田って言います。あ、今のはすいませんと吸いませんを掛けた激ウマギャグで」

 

 何言ってんのこいつ?的な視線を投げかけてくるせんぱいには取り敢えずエルボーを入れて黙らせておく。今の時代女が男に暴力はどうのと言う人もいるが、まあせんぱいはせんぱいなので良しとする。体格差あるし、このくらいじゃれついてる程度にしか思わないだろう。

 

 私が登場してからというもの、面食らったようにびっくりして固まっていた様子の地雷系ファッションの女の子が、それでようやく動き出した。

 ちなみに吸わないと嘘をついた理由は特にない。なんか語呂が良かったからくらい。

 

「そ、そうなんだ! はじめまして。私は七星希って言うの。平野君とは同じ学部で……友達?」

 

 そう言いつつわたわたとたばこをもみ消していた。あー気使ってくれたんだこれ。いい人だよこれ……。

 バリバリの重ため姫カット系の地雷系ファッションの女だったら、せんぱいにもちょっとヤバくないですかみたいにこそっと言えたかもしれないが、この人は量産型の方の地雷系だしふわっとしたかわいい系で、悔しいことに凄い似合ってるんだよなぁ……!

 わたわたとか普通の女がやってたらちょっと引くような擬音もなんかこの人だと自然だし、ファッションといい、結構珍しいタイプだ。少なくとも私の周りにはあんまりいない感じ。

 

 友達であるという確認に、先輩も首を縦に振っているところを見るに実際友達関係なんだろうし、そしてまだ仲が浅いのだろう。

 せんぱいに女の知り合いがいたことに最初こそ驚いたが、逆に考えてみれば見てくれはいいのだから居ても不思議ではない。思えばそういった類の話は今までしてこなかったし。  

問題はこの地雷系ファッションの女…七星さんが先輩に気があるのかどうかだ。でも初対面でそんなこと聞けないし、今はまだ様子見かな……。

 私が一人納得していると、つい数十分前に別れたばかりの私がここにいることに疑問を感じたのか、せんぱいが不思議そうに尋ねてきていた。

 

「そんで、お前はなんで来たの? バイトはどうした」

「いや普通に休憩時間だったんでヤニ補給しに来ただけですけど。どうせ先輩もいるだろうし」

 

 まあ嘘だが。

 バイト先や知り合いには喫煙者であることを黙っている私がたばこを吸いに来た訳がない。休憩時間なのは本当なので、どうせバイト終わりにはここで一服しているであろうあなたに会いに来た……とは言えず、そう言って誤魔化すしかなかった。

 

「えっ吸わないんじゃ……」

「あ」

 

 が、想定外の人物が居た。

 七星さんが困惑の表情を浮かべて私と先輩を交互に見ている。

 冷静に考えれば七星さんにばれても問題はないのだが、思わず私もしまったという顔で先輩を見つめた。何とかしてくださいお願いします。

 

 しかし先輩は動こうとしない。自業自得だみたいな呆れた視線を向けてくるのみだ。こんな時は助け船くらい出してくれたっていいじゃないですか……! 

 

 仕方がない。あれをやるしかない。自分で言うのもなんだけど私は顔がいい。体格も小柄で愛嬌もある。そんな私だからこそ許される必殺奥義……! 相手は死ぬッ!!

 私はすうと小さく息を吐き、目一杯表情をかわいく取り繕うと七星さんに向き直った。

 

「い、いやーバレちゃいました? 新田ちゃんじょーっく!!」

「えっと…………」

「……なんて」

 

 固まる七星さん。凍る空気。

 あっやばい死にたい。

 

「うわきつ」

 

 そんな中この人だけはいつも通りの反応をくれた。

 ナイスと言わんばかりに私は先輩に肘鉄をかますと、そのまま場の空気を払拭するようにいつもより強めにじゃれつき始める。流石に空気を読んでか、先輩も強引に引きはがしたりはせずいい感じにあしらってくれている。流石ですよせんぱい……! 今のは中々の先輩力です……!!

 

「あ、あはは……仲いいんだね」

「まあ、付き合い長いですからね!」

「いやあんま変わらんだろ……。というかさ、お前この後も授業あんのに大丈夫か? 匂い付くぞ」

 

 あーそれなんですよね。正直匂いはもうちょっと付いてるはずなので、教室戻ったらファブしてそれでもなんか言われたらどうしよう? 潔く喫煙者だとばらしてもいいけど、イメージがなあ……それに私一回生だし……。

 こちらを向くせんぱいと目が合う。

 そうだこの人のせいにしよう(名案)。私はにこりと笑うと、先輩の肩を叩いた。

 

「いやー大丈夫っしょ、全部せんぱいのせいにするし!」

「おい、俺のただでさえいいとは言えない塾内での評判をこれ以上貶めてくれるな」

 

 可愛い後輩の為の犠牲になってくださいね、せんぱい! それにこないだラーメン奢ったしこのくらいは許してほしい。後別にあなた嫌われてないですから。むしろ逆ですよ逆。

 

「え、平野君バイト先で評判悪いの?」

 

 案の定七星さんが食いついてきた。さっきも言ったけど先輩は別に評判悪くはないし、ここで嘘つくデメリットもないので普通に答える。なんか当の本人は遠い目して虚空見てるし。

 

「いやそんなことないですけどね? だってほら、せんぱいってちょっと近寄りがたい感あるじゃないですか。話してみると意外と気さくなんですけど」

「あーわかるわかる。私も最初めっちゃ緊張したし」

「七星さんはせんぱいとは何きっかけなんです? 同じ学部って言ってもあんまり個人と関わる機会ないじゃないですか、言語クラスとかですか?」

「違う違う。いやまあ友達は同じクラスだったらしくて相当協力してもらったけど違くて……。あー言っちゃっていいのかこれ……?」

「言っちゃいましょーよー!」

 

 話してみると七星さんはとっても普通な感じで、別にこちらに敵意とか敵愾心とかも感じないし、普通にいい人そうだ。これならほんとにただの友達で偶然会ったってだけっぽそうだ――

 

「あ、あのね、大学横のコンビニの喫煙所でね、その、ナンパを……」

「えーっ!! ナンパしたんですか!? この人を!?」

「こ、声が大きいよ!」

 

 前言撤回。やっぱり敵だ。

 というか先輩も先輩だよ。ちょっとかわいい子に声かけられたからってすぐ仲良くしちゃうんだから。そりゃ今まで浮いた話が無かった方がおかしいまであったけどさ、にしても突然が過ぎる。私だってそこそこかわいいと思うんだけどな……。

 言い知れない胸のもやもやは、しかして終ぞ吐露することは出来ず、私の大声にこちらを向いたこの人に知られることは無いのだろう。

 

「せんぱいがナンパにホイホイついて行っちゃうような人だとは思いませんでした幻滅です今までの私の気持ちどうしてくれるんですか返してくださいあとこの後飲み行きませんか」

「貶したいのか誘いたいのかどっちだよ」

「あっ飲みに行くなら私も行きたいな……なんて」

 

 いや全然吐露しちゃったよ。全部言ったよ全部。マシンガン過ぎて前半ほぼ流されたけど。

 

「勘違いしてもらっちゃ困るが、俺はそんなに安い男じゃないぞ。俺が七星にホイホイついて行ったのはな、七星がかわいかったからだ」

「か、かわっ!?」

 

 七星さんが、びくぅっと痙攣して固まった。死んだなこりゃ……。

 というかなんですぐこういうこと言っちゃうかなこの人は。天性のすけこましか、多分今までガチめにモテてなくて距離感ガバガバなんだきっと。モテてないっていうのは考えずらいけど、実際今まで女の人の気配すら感じなかったことを考えると、あながち違うとも言い切れない。

 むむむと考え込んでしまいそうになるが、ちょっと先の発言おかしくねとツッコんだ。あまり会話の流れを止めるのもよろしくないし。

 

「てか結局ホイホイ行ってるじゃないですか」

「いや見ろこれ、多分異性から褒められなれてないせいであたふたしてんのかわいくないこれ」

「確かにかわいいですけど……」

 

 異性から云々とかおまいうって感じだが、まあ七星さんかわいいのは確かなので同意せざるを得ない。というかかわいいって私に言ったこと無いくせに、ぽっと出のかわいい子にはポンポン言っちゃうのおかしくないですか。もっと私にも言ってくださいよー! すねるぞー!!

 

 そこで一旦会話が区切れたためか、無意識で腕時計を見た先輩。腕ごと盤面をこちらにも見せてくる。あー前腕の血管がいい仕事してるー……(脳死)。

 

「お前時間大丈夫か?」

「げ、うわーまじかもうこんな時間……」

 

 腕エロいなーなんて思ってない。断じて思ってない。私はちゃんと時計見てた。その証拠に今の時間が休憩時間終わるギリギリだって分かったしもし仮にエロいなとか思ったとしてもそれは健全な女子大生として至極当然の摂理というかなんというか……。

 

「じゃ、私行きますね。フリーズしてる七星さんにもよろしくです」

 

 いや正直に言いまして今まで先輩のことそういう目で見てこなかったのかと言えば嘘になるけどなんでか今は無性にこの場を立ち去りたい。

 なんでだろ、善意に付け込んだ感があるからかな……。

 ともあれ、まあ普通に時間も押してるし、私はくるりと踵を返すと教室の方に歩きだし

――

 

「じゃ、夜はその辺の烏貴族でいいよな?」

 

 呼び止められた。

 

「え? ……いいんですか!?」

「まあなんだかんだお前と飲み行ったことなかったし。あ、もちろん奢りな」

「何でですか……今回だけですよ」

 

 さっきぽろりとこぼしただけの、誘いともいえないような文句だったけど、ちゃんと覚えてくれてたんだ。……ちょっと嬉しい、かな。ふふ、これはポイント高いですよ? せんぱい。

 まあたかってくるのは、ちょっとあれだけど。まあいいです。あー俄然やる気出てきた。この後も頑張るぞー!

 

「あ、折角だし七星も連れていっていいか?」

「何でですか!?」

 

 うがーと憤慨する。

 ポイント低いですよそういうとこー!!

 

 まだまだ言いたいことはあったものの、時間がもうないので小走りで教室に戻る。

 何だかんだ思うところはありつつ、私の心は弾んでいた。今日は飲むぞー!!

 

 





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