たばこ   作:園田那乃多

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14.カスですが、なにか?

 

 あいつはまだ居るだろうか。

 なんて思いながらアクセルを回す。なんだか青春映画のワンシーンみたいだな。想いを寄せる二人がすれ違い、それでも仲直りのために片方がひた走る、みたいな。まあ現実はパチンコに行くために置いてきた女の子の様子を見に行くとかいう、ただのクズがバイク乗ってるだけなんだけど。だって七星がフリーズしちゃってたから仕方ないじゃん……!

 

 そこの交差点を右に入れば、あのセブンはすぐである。

 喫煙所に彼女の姿はない。流石にもう居ないかなんて思いつつ、あまり広くない駐車場にバイクを着ける。まだ俺がここを出てから十分少々とは言え、ラインを見ていたらこの場を立ち去ってしまうというのは容易に想像がつく。

 

「そういえば返信とかあったっけ」

 

 そう言いつつスマホをひらく。

 これで既読無視されていたら、それはもうお察しである。やっちゃった案件だ。まあ幸いなことに俺はこういったことには慣れているので、三日三晩寝込んだ後数か月引きずるだけで心の傷を収めることができる。慣れているとは(哲学)。

 

「あれ。平野君戻ってきたの?」

 

 俺がラインのトーク画面を確認するのと、店の自動ドアから七星が姿を現すのはほぼ同時だった。怒っていたり機嫌が悪そうな様子はなく、あくまで普通に聞いてきている声音だよかった……。とはいえ、汗がつうと伝う。焦っているともいう。

 

 やばい戻ってきた理由とか思いつかねえ。パチンコに行ったという事はメッセージには書いていないので、多分向こうは俺が普通に帰ったのだと思っているだろう。俺がこの場にいる理由を正直に言ってしまえば、自然とパチンコに行ったことがばれてしまうではないか。

 それはまずい。パチンコに行く人間なんて大体碌なもんじゃないので、できれば秘密にしておきたい。今でこそ毒されて何とも思わなくなってしまったが、昔の俺なら「パチンコしてる女の子はちょっとな……」ってなるし。基本的に普通属性の七星がパチンコ耐性を備えているとは思えない。……あれ?普通の大学生ならパチンコ行くのでは?(謎理論)

 

「え、あー、まあな! ……そ、そう! 家の近所に京都レモネード売ってるコンビニ無くてそれでしぶしぶ戻って来たってワケ!」

「あーなるほど! 美味しいよねあれ」

 

 よかった。苦し紛れのいい訳だったが納得してくれたようだ。

 京都レモネードとは期間限定を謳って全国で販売されているペットボトル飲料であるが、名前のくせに市内でも売ってるコンビニと売ってないコンビニがある。なんでだよ京都網羅しろよ。

実際我が家の近所では売っていないし、先ほど水を買った際にここにはあることは確認済みなので、あながち嘘というわけでもなかった。普通にうまいしな。

 

「そうそう。夏はたばこ吸うのだるいだろ? そういう時にあの冷たいレモネード飲んで気分をフレッシュさせるんだよ」

「わかるわかる。平野君大学のとこのコンビニでいつも買ってるもんね」

「あ、ああまあな」

 

 うんうんと七星が同意を返してくれているが、なんで俺がいつも京都レモネード買ってること知ってんだ? 同じ授業取ってる日はそりゃあるけど、そんな話はしたことは無かったし。あーでも毎週同じ飲み物持ってて、別の日でも通りしなに喫煙所にいるの見かけてたら分かるっちゃあ分かるか。

はえーよく見てるなあ……。

七星とかいう普通の陽キャと絡んでいると、いかに自分が鬱屈した生活をしているのかがよく分かる。多分そうやって観察できるからこそ、友達とかにも好かれるし数も多いのだろう。俺なんて大学入ってからというもの、カスかクズの知り合いしか出来んぞ。なんでだよ。

あ、俺自身がクズでカスだからか……(納得)。

 

「そういう七星は何買ったんだよ。たばこ? たばこ? それともたばこ?」

「たばこしか買ってないじゃん! 私そんなにヤニカスじゃないよ! ……いやまあ買ったのはたばこだけどさ」

 

 特にレジ袋などは持っていなかったし、ヤニカスの七星だし、まあたばこだろうと当たりをつけたが、案の定正解だったみたいだ。

 というかヤニカスっていう自覚が無いのか。気付いてないのかもしれないが、買ったセッター、もう火が点いてるんだぞ。無意識でそんな吸ってるなんて、もうセブンスターの申し子だな。是非とも末永くそうであってほしい。

 

「……な、なんでそんな温かい目を」

「いや七星はヤニカスじゃん」

「ち、違うよ? だっていつでもやめれるし……」

「常套句じゃんそれ」

「ぐぐぐ……」

 

 まあ七星がヤニカスなのは当然の事実であることは置いておいて、この分なら当初の心配は無用そうだ。俺もどうせバイク置きに家に帰らないといけないし、このまま解散でいいかな。

 なんて思い、胸をなでおろしつつ解散を口にしようとする。

 

「平野君は吸ってかないの?」

「もちろん吸うが?」

 

 結論。俺もヤニカス。

 当然帰宅は二本吸った後になりましたとさ。

 

 

 

 

 家に帰った俺は、早速暇を持て余していた。

 新田の授業が終わるのが午後8時で、飲むのはその後という事になっている。今はまだ6時ちょっとだから、ほんとにどうしよう。パチンコ行くか?(クズ)

 

 金が無いのは事実なので一つ勝負に出てもいいっちゃいいが、さっきは折角やめれたんだから、ここで再入場かましたらもう後戻りできないレベルのカスに堕ちてしまうのではという懸念はある。

 一瞬「課題」とかいう単語が浮かんだが、何だか意味がよく分からないものだったので頭の片隅に追いやった。期限はまだまだ先だしセーフセーフ。

 

「散歩でも行くか……」

 

 夕方に差し掛かったかな、という空模様。気温も日中ほど高くなく、散歩するには丁度いいコンディションといえた。

 俺はスマホとたばこだけひっつかむと、ボロアパートから脱出した。

 

 

我が家の近所には小高い山があり、神社や公園がその中にある。市内にぽつねんと存在する山はこの辺りの住民の憩いの場となっており、早朝にはじいさんばあさんが散歩コースを爆走し、午後になれば小学生たちがドッジボールやらかくれんぼやらに興じる。そして夜のとばりが降りた頃には、公園の器具を使って延々筋トレを始める大学生や、爆音でダンスの特訓をする大学生、そしてあてもなくただ徘徊する大学生など、混沌を極める。

昼と夜の差が激しすぎるなここ。というか大学生の不審者率が高すぎる。まあ大学生なんて大体不審だし不穏だし不安定だから仕方ないか。

 

 そんなこの山には、奥まった誰も来ないような場所に突然ひらける草原がある。まあ草原と言っても大した大きさではなく、小さな池の周りに芝が広がってるだけのものだ。

 俺は静かで一人になれるこの場所が好きで、時折訪れては読書に興じたりたばこをふかしたりしている。

 今日は本は持ってきていないので、適当に寝そべりながらピースに火を点けた。

 すぐに起き上がった。虫がすげえなここ。とても寝転べるもんじゃねえよこんなの。

 

「くそ、虫よけスプレーしてくるんだった」

 

 悪態をついて、いい感じの倒木に腰を下ろした。

 あ、そうだ。たばこの煙で全身を燻せば虫よけになるんじゃね? おいおい天才かよ。

 さっそくトライだ。俺はすうと多めに煙を吸い込むと、足から順にくまなく全身に吹きかけた。インディアンの間ではたばこは魔除けとして使われてたらしいし、これはなんかいい感じな気がする。

 

 これでしばらく時間潰そう。

 俺は先ほど寝転がった場所に再度体を横たえると、しばし目をつぶった。

 

 

 

 

 数時間後。

 

「うわせんぱいどうしたんですかその顔」

「めっちゃ腫れてるよ大丈夫? ムヒ要る?」

「……」

 

 めっちゃ蚊に刺された。全インディアンは俺に謝りに来た方がいい。

 




 身内バレって怖い。もうやだ死にたい(投稿ボタンポチー)
 
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