たばこ   作:園田那乃多

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お詫び

主人公の男友達の名前変更してます。こいつだけもじってないの嫌で……。申し訳ありません。


15.俺の後輩がこんなに酒に弱い訳が無い

 

「夏の夕方に草むらで寝るとか正気ですか? そんなの蚊の餌になるに決まってるじゃないですか」

「で、でも煙で燻したし……」

「効くわけないでしょーよそんなの。なんでせんぱいって偶にものすごく頭の悪いことしちゃうんですか。しかもムヒ持ってないとか正気の沙汰じゃないですよ」

「むむむ……」

 

 出会いがしらに虫刺されの痕で顔中真っ赤になっている俺の顔面をひとしきり笑った後、その事情を聞いた新田が、最初とは一転してこめかみに手をやりながらやれやれとため息を吐いた。

ちなみに七星は集合場所としたセブンから家が近いためムヒを取ってくると言い、一旦この場を離れている。七星マジ聖母。

 

 例によって俺たちのバイト先から程近いためたばこをふかしているのは俺一人だが、何か普段より三割増しくらいで新田の圧が強めなのは、きっとたばこを吸えていないせいだろう。こいつも家近いんだから着替えがてら吸ってこればよかったのに、というのはやめておいた。火に油だし。まあ怒ってるわけじゃないけど。

 そしてこれまた例によって店は七星が予約を取ってくれている。彼女にとっては普段行く店だし勝手知ったるからだろうが、俺の何もしてなさと言ったらやばい。俺から誘ったくせに、したことと言えば七星を置き去りにしてパチンコ行ったことくらいだからね。しかも新田の奢りを期待してるとかいうカス振りだ。申し訳なさ過ぎて帰りたいレベル。

 

 まあ、俺の金欠具合と言ったら大学生の模範たるべき度合いなのは周知の事実ではあるので、ここは潔く奢られるムーブかましとこう。俺の方が先輩? 関係ないね。プライドでは飯は食えないのだ。俺はいざとなったら土下座も辞さない男なのである。

 

「今日はゴチになります新田さん! あざっす!! ウッス!」

「めんどくさい先輩ですねほんと……。まあいいですよ、こないだ勝ったお金あるし懐は暖かいので。仕方ないので奢ってあげます」

「あざーっす!! さすが新田さん、俺にできないことを平然とやってのける!」

「はいはいしびれる憧れる」

 

 感謝の気持ちは本物だが、奢らないとか言われても俺には金が無いのでそうなれば普通に帰るしかなくなるところだった。よかった新田がこないだパチンコで勝ってくれてて。

 

「あ、でも」

 

 俺が顔をぽりぽり掻きながら新田になむなむと拝んでいると、思い出したというような言い方で新田が口を開いた。

 

「……私以外にそういうことしちゃだめですよ?」

 

 まるで自分にならいくらでもしていいというような口ぶりだが、言われるまでもなくこんなこと他にしない。いや新田相手でも滅多なことがなければしないし。

そもそも、基本的に孤独な俺をして他に相手がいるべくもない。まあクズの幸中とかには平気でするしされるが、七星相手にこんなことできるはずがないし。あ。そういやさっき千田に無心されたか。あれほんと好感度急降下すると実感したので、今後は尚更しないな。

 なんて思いつつ、了承の意を真面目に伝えるのもどうかと思い何となく茶化したくなってしまう。

 

「じゃあ今後はどんどん新田にたかっていくな、よろしく!」

「なんでそうなるんですかー!」

 

 むきーと憤慨する新田を適当にあしらっていると、今度は誰が見てもちゃんと小走りの七星が戻ってきた。

 

「お待たせー。はいこれ」

 

 そのままムヒを差し出してくる。あ、液体タイプの奴ね。

 俺は礼を言ってから受け取ると、ぽんとキャップを外し顔中に塗りたくった。

 

「あ、そんな無差別に塗ってたら……」

「あーあ」

 

 そんな俺の様子を見ていた二人があちゃーという目線を向けてくる。

 ……何か俺やっちゃいました?

 

「なんだよ……あ、あれ? なんか顔がすげえ痛いんですけど。かゆいのは止まったけど目の周りとかヒリヒリしてきたんですけど!!」

「「あーあ」」

 

 粘膜にムヒが浸透してしまい俺がしばらく悶えたのはまた別のお話。

 

 

 

 

「とりあえず生かなー」

「じゃあ俺も」

「私はハイボールにします」

「OK、生二つにハイボールっと」

 

 注文用のタッチパネルに、七星が慣れた手つきでオーダーを通していく。食べ物類はお通しが来てからとのことで、各自最初のドリンクを決めたところだ。ちなみにこの店は前の烏貴族とは違い全席禁煙とのことで、恐らく新田のストレスゲージが上昇したことは想像に難くない。ちょっと見たら、店舗によって喫煙席があったりなかったりするんだそうな。まあ席は禁煙だが、店の軒先には灰皿が設置してあるので、きっと俺たちは都度そこに通うことになるだろう。

 

「前も平野君ビールだったよねー。結構好きなの?」

「いやあんまり。とりあえず生って言いたいがために頼んだ」

「ミーハーだね……」

 

 ちなみに席順は、奥に七星、手前に俺と新田が座った。まあ関係性を考えれば妥当なところだ。きっと新田はばかすかたばこを吸たいはずなので、通路側にしたのも俺のさり気無い気遣いの賜物である。誰かもっと褒めて。

 

「結構お二人で飲み行ったりしてたんですか?」

「まだ数回くらいだよ。新田ちゃんはどうなの?」

「私はこの人とは付き合い長いんで結構ご飯とか行きますね。あ、こないだもせんぱいのバイクでラーメン屋行きました!」

「へー……まあそれは知ってたけど」

「あそこ味と値段はいいんですよねー。接客はクソだけど」

「へえ、そうなんだ。私も行ってみたいな」

「あ、じゃあ場所教えますよ! ライン交換しましょ」

「いいよー! じゃあQR出すね」

 

 どうしよう早速俺抜きで会話が弾んでらっしゃる。なんでだ初手で置いてかれたぞ。しかももうラインを交換だと……。いかに同性とはいえ、このスピード感は尋常じゃない。俺なんて同性の幸中でさえ連絡先交換すんの三回遊んでからだったぞ。

 陽キャの真髄に打ち震える俺は、通路側を新田に譲ったことを早速後悔し始めていた。俺が外側に居たら自然とたばこ吸いに外に逃げられたのに……!

 

「ね、平野君はラーメン好きなの?」

「うぇ、あ、ああ好きだな」

 

 しまった構えてなさ過ぎて折角のパスを受けきれなかった。

 

「お待たせしましたー生二つとハイボール、後こちらお通しでっす」

 

 が、折よく注文したものが運ばれてきた。ナイスだ店員、俺のどもった感じがいい感じに誤魔化された。愛想を振りまく男子大学生の図はいまいち慣れないが、あの店員には陰ながら感謝だ。

 

「取り敢えず乾杯しよっか」

 

 乾杯の発声の後に、きん、とグラスがぶつかる小気味いい音が響く。

 

「っぷはーッ」

「おお!せんぱいいける口……って全然飲んでないし!」

「何を言う。ビールがうまいのは泡だけだろ。最初はそれを味わうんだよ」

「泡しか飲んでないんですか……。見てくださいよ、七星さんなんかもう空ですよ空」

「っはー! これだね!」

 

 そう言うと七星はぐいと口元を拭い、どんと豪快に空になったジョッキを置いた。その様は俺のような酒よわよわ人間からしたら流石の一言で、しかして彼女のイメージとは異なるものだった。

あ、あれ。前はもっとおしとやかな感じで飲んでたんだけどな……。おかしいな、ここがホームだからか……?

 

「流石だなやっぱ……」

「わ、私もそこそこ強いんですよー?」

 

 そう言ってなぜか新田もぐいとハイボールを飲み干した。おいおいまじか。俺の周り酒豪多すぎないか? てか俺も飲み干す流れ……?

 

 どん、とジョッキの音が響き、俺たちの前には空になったジョッキが三つ並んだ。

 うわあやっちまったよ。これ今はいいけど後々来るんだよな……。

俺の体とビールってやつはどうやら相性が悪いらしく、一、二杯でつぶれてしまうのだ。すきっ腹に入れてしまったこともあり、この後の頭痛からの眠気は必至である。

 

「話戻るけどさ、ラーメン好きなのって、男の子なのに珍しいよね。バイクとかもそうだし。あ、食べたいものあったら言ってね」

「その自覚はある。まあ好きなもんは仕方ないけどな。あ、俺キャベツ盛りで」

 

 最早オーダー奉行と化した七星がタッチパネル片手にそう聞いてくる。

 男女が入れ替わってるんだから、もともと俺が好きだったものがこっちでは女が好きそうなものになってるのだ。俺は俺のままなので、それは仕方のないこと。前の世界換算でいくと、俺は男のロマンが分かる系ダウナーお姉さんというニッチな属性という事になってしまうが、果たして俺がこの世界でモテモテにならない理由はそこなのだろうか。いや顔面的な問題ではない、と思いたいのでそうに決まっている。絶対そう。

 

「私はぁ、ねぎまのタレと塩お願いしまーす」

「了解っ…と」

 

 そういえば何の違和感もなく俺だけが前の世界の価値観を持っていると思い込んでいるが、他に同じような奴が居てもおかしくないよな……幸中にでも聞いてみるか……?

 なんて一人ちょっとシリアスなことを考えこんでいると、顔が上気している新田がどんと肘で小突いてくる。心なしか目もちょっと座っている。え、まさかもう酔った……?

 

「ちょっとせんぱい! 無料のなんて頼んで、なーに遠慮してるんですか! へたっぴですよ欲望の解放のさせ方が! せんぱいが本当に欲しいのは、こっちでしょ?」

 

 そう言いつつ、タッチパネルのハツを指さす。なんでこいつ俺の好きな焼き鳥知ってんだよ。

 

「これを肴に梅酒をいっぱいやりたい……でしょ? でもそれだと値が張るから、こっちのしょぼいキャベツ盛りでごまかそうって言うんです!」

「いや俺これ普通に好きだから……」

「せんぱい! 駄目なんですよ……! そういうのが実にダメ! その妥協は痛ましすぎる……! せんぱい、折角の奢りなんですから、小出しはだめです! 違いますか!?」

 

 だめだこいつ酔うと大槻班長みてえになりやがる。知らなかったぞこんな厄介な特性あったなんて。ほら七星もぽかーんてしてるし。

 取り敢えずスニッカーズでも食わせておきたいところだが、生憎そんなものはないし、まあ折角こう言ってくれてるんだしと、俺は言われた通り梅酒とハツを頼むことにした。

 

「わかったわかった。これでいいか?」

「人の金で食う焼き鳥は美味いかー?」

「うわこいつめんどくせえ……」

 

 俺たちの宴会はまだ続く。

 





登場人物

男友達:幸中充(こうなかあたる)
→「幸」運(ラッキー) 「中」る、「充」(ストライク)→ラッキーストライク
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