たばこ   作:園田那乃多

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お久しぶりです。
もう既にご存じの方もいるかもしれませんが、当作品「たばこ」はオーバーラップ文庫様より「貞操逆転世界のたばこ事情」と題を改め、書籍化する運びとなりました。本文に大幅な加筆修正を加え、「たばこ」既読の方にも楽しんでいただけるように頑張りました。
ここではご報告に留め、詳細は私のTwitter(Xとも言う)、オーバーラップ文庫公式ホームページにてという形とさせていただきます。
10月25日全国書店及びアニメイト、メロンブックス、各種通販でも発売です。
みんな買えよ!よ!!



21.俺たちの足元にはシケモクが溜まっている

 

 正確な時間は分からないが、恐らく日付は跨いでいるだろうという時間。

 

「だめだ。全く寝れん」

 

 寝苦しい真夏の夜だからなのか、それとも不規則な生活習慣がたたったのか。ど深夜にもかかわらず、俺はむくりと布団から体を起こした。エアコンなんて高級品は付けない。何故なら電気代が払えなくなるから。

 室内は真っ暗で、引っ越しの際に実家の物置から引っ張り出してきた年代物の首振り扇風機の稼働音と、キッチンの蛇口から水滴がシンクに落ちる音が聞こえてきている。夜の静寂の中、規則的に聞こえる壊れかけのモーターの音と、古アパートのシンクが水滴によりびたんびたんと歪に反響する音。いっそ不気味なまでに聞こえてくる二重奏にしばしの間ぼうっと聞き入っていると、ふとある考えが頭に浮かんだ。

 

「そうだ、肝試ししよう」

 

 その一声により、室内の静寂は破られた。

 

  ☆

 

 京都という町は、その歴史ゆえかいわゆる心霊スポットが多い。そのため肝試しをする場所に事欠くことがなく、そして俺はバイクで移動ができるため、殊更に肝試しという案が現実的であることに拍車をかけていた。

 起き抜けとは一転して明るさを取り戻した室内で、俺はスマホを前に思案に耽っていた。

 別に今更肝試しに二の足を踏んでいるというわけではなく、誰か誘ってみようかという、それだけのことだ。俺のバイクもといサイクロン号Ⅱは二人乗りなので、あと一人道連れにすることができる。道連れなのかよ。

 真っ先に幸中と会沢に電話をかけてみたが、案の定というか当然の如く出なかった。そりゃあ普通は寝ていて当たり前の時間なのだからもっともと言えばそうであるが、不規則生活習慣大会なんてものがあったらワンツーフィニッシュを決めてきそうなあいつらが寝ているなんて意味が分からない。俺を含めて表彰台独占できる面子である。

 俺は寝汗を拭いため息を一つ零すと、その次の候補である人物のアイコンを睨みつけた。

 

「七星、は誘っていいもんかなあ……」

 

 スマホの時計を見れば、時刻は深夜一時三十分。普通は寝ている時間だし、着信音で起こされようもんなら俺はそいつを殴る自信がある。幸中と会沢はどうせ終わってるからノーカン。

 そもそも、距離感的にこんな時間に誘っていい仲なのかという疑問も残る。七星は良い奴だからきっと文句を言ったりはしないだろうが、そのあたりの気兼ねの無さ的な部分はまだちょっと探り探りなのだ。多分これは、向こうが俺に気があるんだろうなって分かっているから。そういう好意に付け込んだ感じ嫌なんだよな……。その点で新田とかならほんとに嫌なら断ってくるって分かってるから誘うの楽なんだけど。候補が四人しかいない俺の大学生活が孤独過ぎる。

 

「まあ新田安定か……」

 

 そう呟くと、彼女のトーク画面を開いた。寝てるなら寝てるでいいし、その時は大人しく一人で行こう。まあ大方どっかで飲んでるだろうから起きてるだろ。

 俺が通話ボタンをタップしようと指を伸ばしたその時、小気味いい音と共にトーク画面が更新された。

 

『先輩、今暇ですか?』

 

 やべ、既読付けちまった。

 よく考えれば既読を付けて困ることなんてないのに、反射的にそう思ったのと、新田から電話がかかってくるのは同時だった。通話ボタンをタップする。

 

『せーんぱいっ!』

 

 電話越しでも分かるくらい喜色を露わにした新田の声が聞こえてきた。と同時に、倦怠感に見舞われた。いや分かるけどさ、話そうと思った相手がすぐ既読つくとちょっと嬉しいの。

 

「なんだよ……」

『なんだよってなんですかー。私とのトーク履歴見返してたくせにー』

 

 違うわと反論しようとして、諦めた。なんだかんだ用があったのは事実だし。

 

「お前今どこにいんの? なんかざわざわ聞こえてっけど」

『サークルの皆で飲んでたんですよ。でも気付いたら終バス無くなっちゃって……』

 当初から感じていた疑問が氷解すると同時に、嫌な予感をひしひしと感じ始める。

「まさかお前」

『せーんぱーい、かわいいい後輩を迎えに来てくださいよー!』

「……」

 

 やっぱりなと嫌な予感が的中し、続いて彼女の現在地の情報が送られてきた。どうやら木屋町で飲んでいるらしい。うちの大学はともかく、同志社とか京大のやつらは大体その辺で飲み明かしてるから、新田がそこにいるのも納得だ。

 そういえば俺から誘うつもりでいたのに、なんで行きたくないみたいなスタンスでいるんだ? 自分の行動のおかしさに気付くものの、今更はい行きますと素直に言えるはずもなく、俺の口からは思いとは裏腹な言葉が漏れ出てきてしまう。

 

「えー、カラオケとかで朝まで粘ればいいじゃん」

『先輩が無理そうならそうするつもりですけど』

 

 電話越しに誰かが彼女の名を呼ぶ声が聞こえ、新田もそれに何事か返している間、そういえばこいつの大学での話ってあんまり聞いたことないなと、ぼんやり思う。明るくて親しみやすい新田のことだ。きっと俺がここで断っても、その後友達たちと楽しくやるんだろう。忘れがちだが彼女は普通に友達も多く、俺といるより、むしろその方が……。

 そこまで考えると、俺はやはり一人で行こうと決意を――

 

『でもどうせ先輩は暇じゃないですかー』

「上等だオラ行ってやるよ‼」

 

 固めることは無かった。むしろ何としてでも先輩を舐め腐ったこいつを心霊スポットに連れて行こうと決意した。

 





うおーーー書籍化嬉しいぞー!!!!

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