たばこ   作:園田那乃多

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皆様温かいコメントありがとうございます!
1~20話が一巻までの内容となっており、20話の続きが一巻のラストという形になっています。21話より話が飛んでしまったのは巻をまたいだからですね……紛らわしくて申し訳ありません。
また、アニメイト、メロンブックスで一巻をご購入の方には書き下ろしのSSリーフレットが付くらしいですよ!頑張りました!!



22.これは心霊現象ですか?

 木屋町通界隈は夏休み期間中ということもあってか、深夜だというのに若者でにぎわっていた。一方通行の通りには飲み屋やバーなどがずらりと軒を連ねていて、脇を流れる高瀬川とその伝統的街並みは、繁華街だというのにどこか風情を感じさせる。まあ感じさせるだけで目を凝らしてみるとそこらにゲロとかゴミとか落ちてて、風情もへったくれもないけど。そういえば前に七星と飲んだ烏貴族もこの辺りだったと、どこか遠い過去を思い出すかのように思い起こされた。

 俺は深夜だしいいだろうと四条小橋の辺りでバイクのエンジンを切ると、高瀬川沿いにある喫煙所前にバイクを停めた。新田の現在地は木屋町通をもう少し北上した辺りだったが、どうせあいつもたばこ吸うだろうしここで待っていようと判断してのことだった。あと新田の知り合いに出くわすと気まずい。新田の知り合いということはすなわちギャルやパリピの類であり、そんな奴らに絡まれようものなら反射的に殴ってしまう恐れがある。

 喫煙所から高瀬川を挟んですぐのコンビニで二本水を買い、一本を空けちびちび飲みながらたばこをふかしていると、一本吸いきらないうちに新田は現れた。

 

「お待たせしましたー」

「待ちくたびれて帰るとこだったわ」

 

 なんて言いつつペットボトルを無造作に彼女に差し出す。別に他意はない。何となくだ。

「えっ⁉」

「なんだよ。要らないなら俺が飲むけど」

 

 新田は驚いた表情で大きな目をぱちくりと瞬かせている。俺が施しを与えることがそんなに珍しいか。いや珍しいな。

 これは俺のただの厚意なので、新田が受け取らないというならそれでいい。そう思い引っ込めようとした俺の手を、彼女は掴んだ。

 

「要らないなんて言ってないじゃないですか! びっくりしたんですよ……ほら」

 

 そういう新田の手には、燦然と輝く黄金色の清涼飲料水、京都レモネードが握られていた。

 

「これ、迎えに来てくれたし先輩にあげようと思って」

「お前……」

 

 にへらと笑うと新田はずいと京都レモネードを差し出してきた。さっきのコンビニには置いてなかったし、別のところで買ったのだろう。俺の好みを把握しているという点を含めて存外に面食らってしまった俺は、たばこを吸うことも忘れて目を白黒させるしかなかった。

 

「じゃあこれは交換ってことで、ありがたく貰っておきますね。あ、でも私、そんなにお酒弱くないんですよ?」

「あ、ああうん。知ってる……」

 

 正確にはリカバリー能力がめっちゃ高い。こいつ酔うと大槻班長になるから。そういう意味では買っておくのは水ではなくスニッカーズだったかもしれないと、俺は意味が分からないことを考えていた。

 考えついでに、開封してしまっていた水を一気に飲み干す。

 

「え、どうしたんですかすごい勢いで水なんか飲んで。そんなに喉乾いてたんですか?」

「バッグにペットボトル二本も入らないんだよ」

 

 若干引き気味の新田に、肩に提げていたチェストバッグを揺らしながら答えた。小ぶりで気に入っているが、財布とペットボトル一本入れたら満杯になる容量の小ささがネックだ。普通はペットボトル二本も携帯すること無いからそんなに困ってないけど。

 俺の説明に納得した顔を向けてくる新田は、水に口を付けながらあ、と動きを止めた。

 

「何、どうした」

「私のバッグにもペットボトル入らないんですけど……」

 

 しまったという顔をして、肩掛けのポーチを見つめる新田。ぱっと見は水一本くらいならと思わなくもないが、スマホなり化粧品なりがスペースを取っていることを鑑みると、言葉の通り入る余地はないのだろう。

 俺はまさかなという嫌な予感をひしひしと感じながら、次に発せられる言葉を待つ。絶対にこいつ「水飲み切ってくれませんかあ~」とかほざき始めるぞ見てろ。

 

「先輩……」

 

 ほらきた。俺は仕方ないと計一リットルの水分を取る覚悟を決めた。頼まれてもいない物を渡したんだから、責任の一端は俺にもある。

 

「水、飲み切っちゃうのでちょっと待っててもらっていいですか?」

「はいはい分かった……え? 分かんないなんて言った今?」

「どっちですか……。水はここで飲み切るからたばこ吸って待っててくださいって言ったんです!」

「おお、てっきり俺は水を俺に寄越してくるものだと……」

「しませんよそんなこと!」

 

 新田はぷんぷんしながら何事が呟いた後にしんせいに火を点けだした。彼女らしからぬ殊勝な態度に俺は感心するものの、だったら俺が急いで水を飲み切る必要なかったのではと一人損した気分を持て余してしまっていた。

 ……京都レモネード貰ったし、まあいいか!

 

 そして。

 

「あれ。先輩先輩、私の家もう過ぎましたよ?」

「はっ、もしかして先輩の家に連れて行って……⁉」

「……なんかどんどん山の方に向かってる気がするんですけど」

「ねえ先輩⁉ なんでさっきから何も言ってくれないんですか⁉」

 

 などと、後ろでぎゃーすか騒ぎ立てる後輩を連行し、京都でも有数の心霊スポットと名高いとあるトンネル前に到着した。洛中の西の端に位置するここは、車の通りや街灯は全くと言っていいほど無く、歩いて帰ろうとするには絶望的立地である。もう逃げられないね、新田?(はあと)。

 一旦バイクを路肩に停め、エンジンを切る。ヘッドライトの灯りが消えると当たりは闇に包まれて、ぼやっとした月明かりの下、トンネル内の消えかけのハロゲンランプのみがその存在を示すように映し出された。

 

「さ、着いた着いた」

「うぅ、どこですかここ……」

「酔いはさめたか?」

「最初からほとんど酔ってないですよ!」

 

 恐る恐るといった様子でバイクから降りてくる新田。案外ホラーとか苦手なのだろうか。まあどうせ俺は暇人なので付き合ってもらうけど。京都レモネードを恵んでもらった恩はあるが、それはそれである。

 

「ここは清滝トンネルって言ってな、京都でも指折りの心霊スポットらしい」

「心霊スポット‼」

「なんでも、昔ここを通ろうとした女……いや男か。そう男が山賊に襲われて殺されたっていう話が多くてな。まあ時代っちゃ時代なんだろうけど、それ以来殺された男の霊がよく出るらしい」

 

 ネットで聞きかじった情報を垂れ流す。この世界では男が女に襲われるし、幽霊も白い着物の男が定番なのだ。元々ホラーは好きだが、そのせいでホラー映画とかを見ても怖いとか以前に違和感があり過ぎて、純粋に楽しめなくなってしまった。今回はその腹いせ的な要素もあったりする。新田は巻き添え。

 いざトンネルに入っていく前に簡単な説明をしたが、当の新田の様子はどうだろうと彼女の顔を確認してみる。流石に本気で嫌がってたら引き返すつもりだ。

 

「あれ、お前案外怖いの得意なの?」

「ま、まあ全然平気、的な? だってお化けとかいませんし? ほんとに怖いのは人間ですし?」

 

 きょどりながらそう嘯く新田は明らかにビビっていたが、嫌がってはなさそうなのでそのまま向かうことにした。バイクに乗るように促す。

 

「……一応聞くけど、大丈夫だよな? 見るからに怖がってるけど」

「なななな何かですか⁉ 怖がってる? 私が⁉ こここ怖いって何ですか? むしろ怖いって感情を教えて欲しいですよ‼」

 

 苦しいくらい俺の腰に引っ付きながらそんなこと言われても信用できない。

 まあ新田は本当に嫌だったら「嫌です帰りましょうほら早く!」とか言ってくるし、これは案外に乗り気であると判断していいやつだ。言質取ったし、今更引き返すという選択肢はこれでなくなった。

 ちなみに、トンネルは片側通行となっており、両端の出入り口には信号が設置されている。これがなかなか厄介で、赤が灯っている時間が長いのでスムーズに入っていくことが難しいのだ。

 そういえば、と俺はぼそり独り言ちた。なぜそんな説明をし始めたのかと。

 

「……このトンネルを通る時、ちょうど信号が青になっていると『呼ばれてる』らしいな」

「えっ……」

 

 その時、ぱっと信号の色が変わった。

 示す色は、当然の如く青色。さあ、と新田の顔色が悪くなる。

 

「さ、いくぞー」

「えっ、ちょ、嫌です帰りましょうほら早く‼」

「あーあー聞こえなーい」

 

 新田の悲鳴を後ろ背に聞きつつ、我ながら完璧なタイミングだったと俺は一人笑みを浮かべた。進入時に青信号だと云々という話は本当だが、そうなるように調整しつつ話していたのは作為的なものだ。演出と言い換えてもいい。どうせ幽霊なんていないのだから、せめて雰囲気くらいはという俺の気概である。

 





21話投稿したら久しぶりだからかお気に入りめっちゃ減ったんよな……(しょんぼり)
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