たばこ   作:園田那乃多

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23.はい、心霊現象です

 トンネル内は薄暗く湿っており、気温も低い。心霊的な怖さとは別ベクトルの、原初的な怖さが沸き上がってくるようで、俺は非常に満足していた。多分新田も大いに満足してくれていると思う。知らんけど。

 

「新田大丈夫かあ!」

 

 とは言いつつ、様子は窺う。車一台がやっとこさ通れるくらいの幅のトンネルで、バイクのエンジン音と俺の声がぐわんぐわんと反響した。

 

「あんなこっといっいな! でっきたっらいいな! ふっしぎなポッケで―――」

 

 あ、だめだこいつドラえもんのテーマソング歌ってやがる。現実逃避決め込んでるよ。

 ここまでビビられると流石に申し訳なくなって――来るはずもなく、何だか逆に面白くなってきてしまった俺はギアを二速に落とし、ゆるゆるとブレーキを掛ける。速度がだんだんと落ちていき、時速十キロを下回った。するとどうなるかというと、

 

「っ⁉ な、なんですか急に……?」

 

 がたんと車体が揺れ、エンジンがストップするのだ。つんのめって俺の背中にぶつかった新田が、抗議めいてこちらを窺うように尋ねてくる。

 

「いやなんかエンジン止まった」

 

 まあ故意に俺が止めただけだが。まるで原因が分からないとでも言いたげに、悪びれることなく俺はそう嘯いた。面白いくらい狼狽した新田が、俺のシャツをひっつかんでぐらんぐらん揺らしてくる。

 

「ど、どどどどういうことですか早く進んでくださいよぉ‼」

「まあそう慌てるなって。こんな深夜に後続車も対向車もいないんだし」

「そういうことじゃなくてぇ……先輩ぃ……」

「わかったわかった」

 

 新田の声に嗚咽が混じり始め、流石にここまでだろうと俺はクラッチを握るとエンジンスタートボタンに手を掛けた。そうしていつものように250CCクラス最高峰の二気筒エンジンが惚れ惚れするようなそのサウンドを響かせる……ことは無かった。

 

「……あれ」

 

 数回試してみるも、結果は変わらない。セルは回っているので電気系ではないように感じるが、スパークプラグの劣化だろうか。いずれにせよここでエンジン掛からないと困る。片側通行のトンネルの中だぞここ。対向車来たら詰む。

 俺が運転席で悪戦苦闘している様子が新田にも伝わったのか、後ろに座る新田の俺を呼ぶ声音にだんだんと恐怖の念が混ざり始める。俺は俺で心霊的なあれとは全く別ベクトルで恐怖を感じ始めてきた。最悪これ押して帰らないといけないのか……?

 

「先輩? ど、どうしたんですか……?」

「なんか……エンジン掛からないんだけど」

 

 俺の顔に冗談の色が見えない事が最後の砦を破ったのだろう。新田は「こひゅ」みたいな音を発したかと思うと、白目をむいた。即ビンタして正気に戻す。ここで寝たら死ぬぞ!(対向車に轢かれる的な意味で)。

 

「はっ……」

「起きたか。早速だが緊急事態だ。このままだと対向車来たら終わる。だから新田、先行して出口に行って、車とかいたら事情話して止めててくれ」

 

 起き抜けで申し訳ないが、俺はバイクを押して行かなければいけないので新田に頼むほかない。狭くて押しながらだと旋回できないし、一旦出てからまた引き返すしかないなこれ。

 

「わ、分かりました!」

 

 後部シートから降りた新田は、俺の意を酌んで神妙に頷いてくれる。ヘルメットを俺に手渡すと、そのまま踵を返し出口に向かい始める彼女。こんなことになってごめんなという、心からの謝罪を投げかけようと口を開きかけ、

 

『……さない』

 

 前の方から何事か呟く声が聞こえた気がして、思わず別の言葉で彼女を引き留めてしまう。

 

「あ、おい。今なんか言ったか?」

「え? 私は何も言ってませんよ?」

 

 振り返った新田は本当に何のことか分からないと言った様子。少なくとも新田の声ではないようで、俺は少し不気味に思いつつも、外の環境音がトンネルで反響しただけだろうと思い直した。ただの勘違いかと、何でもないと言うように首を横に振った。

 何だかよく分からないと言いたげな新田の顔を見ると、先ほどまではあれだけ怖がっていたのに、こいつもう今は怖くないのかという考えがよぎる。しかしここでそれを言ってまたビビり出したら嫌なので黙って見送った。

 バイクは一旦キーをOFFに回しているためヘッドライトの灯りもエンジンの音も無く、俺たちの周囲は完全な静寂に包まれていた。それこそ、外の環境音なんか聞こえないほどに。一歩二歩と離れていく彼女の影が薄暗いハロゲン蛍光灯に照らされて、ゆらゆら揺れている。

 ふいにぽちゃんと音がして、俺は咄嗟に首を回し音の発生源を向く。しかしどうやらただの水滴のようで、安堵のため息が漏れた。そんなだから、自然と先のよく分からない出来事を思い起こしてしまう。確かに、人の声がしたように聞こえたんだ。俺たち以外に誰か居るはずもないのに。

 

『んで……の……』

 

 ぞわりと悪寒がこみ上げてくる。

 前の方からだ。ぼそぼそとした、けれど芯に響いてくるような、形容しがたい人の声。外の木々のざわめきや風切り音、水滴の音なんかじゃない、明確に人の肉声。

 

『……ゆるさない‼』

「新田ぁ!」

「せんぱいせんぱいせんぱいここここ声があ‼」

 

 聞こえた。絶対に聞こえた。聞こえるはずのない、聞こえちゃいけない声が。鳥肌が立ち強張る体を鼓舞するように、自分でもびっくりするくらいの声量で怒鳴るように新田の名を呼ぶ。戻って来いという意を込めて。

 新田も聞こえてしまったのだろう、言わずとも顔面蒼白に駆け寄ってくる彼女にヘルメットを投げ渡すと、刹那の時間にキーをイグニッションに回しハンドルを目一杯切り、アクセルをぶん回し車体を地面すれすれまで傾け急旋回する。なんで急にエンジンがかかるようになったかなんて、今は考えている時間も余裕も無かった。

 

「乗れ!」

 

 言うが早いか新田は飛び乗ってくる。俺はアクセルターンそのままに、ドラッグレースかくやというくらいまでにアクセルを振り絞ると、新田の声を置き去りにするくらいのスピードでトンネルを脱出した。

 

 





なんかよく分かんないけど突然エンジン掛かるってことたまにあります。
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