ぱっとしない人生。
それが私のすべてだった。
中学高校と文化部に所属し、所謂オタクという存在になって。学校ではそのことをひた隠しにして、いじめられないように気を配ってきた。最近はオタクにやさしいギャル男とかいう概念もあるけど、やっぱりあんまり男子受けよくないから。目立たないように、出来るだけ波風立てないようにしてきたつもり。
そんなだから、そこそこ楽しい学校生活だったけど、彼氏は出来なかった。告白なんかはもっとそう。自分からしたことはあったけどね。
大学生になって、おしゃれにも気を配りだした。テンプレな感じのファッションではあるけど、それはそれで無難だから私的にもよかった。そうして大学デビューを飾ったはいいけど、やっぱり現実は甘くない。理想のキャンパスライフなんてものは無くて、仲良くなった女友達と遊んだ時に気分が乗ってナンパとかしてみたり、バイト先の男の子に話しかけたりはするけど、全然ダメ。ナンパに成功した話とかそこそこ聞いたりするんだけど、結局何をするにも、『ただし美人に限る』って注釈が着く。別に私だってブサイクって訳じゃないんだぞ……。彼氏できないのは私は悪くない!社会が悪い! って現実逃避するくらいには、華のない大学生活だ。大学にはいっぱいかっこいい人いるんだけどなあ、出会いがなあ……。
平野和君も、そんな『いっぱいいるかっこいい人』の一人だった。
校内を歩いていれば、講義を受けていれば、「あ、この人カッコイイ」と思う男の子は結構いる。うちの大学大きいしね。二回生になって取った授業で、いつも前の方に座る男の子がいるのを見て、「真面目だなあ眼福眼福」なんて思っていたら、授業前の行動が同じで。
まあ、喫煙所なんだけど。平野君より先に着けば、「まだかな。あ、来た」と内心ちょっぴり喜んで。私が後だったら、「もういるかな。あ、いた」と、いつの間にか彼のことを目で追うようになってた。男の子で珍しくたばこを吸っていることも相まってそのうち、妙な親近感すら覚えてきて、「向こうも私のこと意識してるんじゃ…!?」と思うようになった。友達に話したらキモがられたけど。
そんな訳で、平野君は私が勝手に特別視している、いわば推しのような存在だった。
名前を知ってる理由? それは……まあ使いまくったよね、伝手。あの時ほど友達に感謝した時は無いよ~。友達の友達の友達が、平野君と同じ言語のクラスらしくて、そこでいろいろ情報を仕入れさせていただきました。ラッキーガールすぎだよ私。ラッキーストライクに浮気しちゃおうかな。今のたばこ吸ってる理由も、自分の名前と同じ銘柄だからってだけだし。いやまあしないんだけどさ。
そんなこんなで数か月が経って、日を追うごとに平野君のことが気になってきてしまった私。友達と男の子の話するときも彼のことばっかり話してるみたいで、「厄介オタク」とか「ヤニカスストーカー」とか不名誉なあだ名で呼ばれることもしばしば。推しなんだから仕方ないだろ!いい加減にしろ!
そんなだから、周りのみんなからはさっさと告白して玉砕しろってせっつかれてて、確かに私としても平野君と付き合えたらこれ以上ないくらい幸せだし(フラれる想像ができない処女特有の思考)、いい加減このままだと本当にストーカーになってしまいそうだったので、そろそろ何かアクションを起こさなきゃなあとは思っていた。
そんな折だった。
その日は平野君と同じ授業の日だし、いつもより気合も時間も掛けてメイクして、オアシス(喫煙所。私が勝手にそう呼んでる)で彼を待っていた。
(あ…来た)
数日ぶりに見る平野君はやっぱりカッコよかったけど、同時になんだか様子が違うとも思った。
いつもは、というか普段の彼は何物にも無関心そうで、でも気取ってないと言うか、ジムに通っていたりバイク好きだったりクールに見えるんだけど、でも寄り道してお菓子買ってたりして可愛い所もあって、友達が言うには発表の時とか真面目に原稿作ってくるんだけど、時々ユーモアもいれてたりしてお茶目さんで意外と親しみやすくて優しくて、えなに平野君から優しくされちゃってんの今度殺す!!…まあ何が言いたいのかと言うと、私は平野君が好きという事だ。あれれ?
いやそうだけどそうじゃなくて、何だかその時の彼は何処か挙動不審と言うか、きょろきょろと辺りを探っているように見えた。その証拠にいつもは私が見ててもぜんっぜん気付いてくれないのに、その時は何度か目が合った。え、もしかして私のことすき?(そんなことない)
後から考えても何でかよく分からないんだけど、その時は「今ならいける」と直感した。第六感と言うか、女の勘というか。まあ平野君喫煙所にいるときはむさ苦しい女所帯に舞い降りた男神的な雰囲気あるし、少なからずみんな意識してるから、他の女に取られるくらいなら…! と、とっさの判断だったのかもしれない。
「あの、平野君、だよね? 次の家族社会論取ってる……」
最初から名前とか色々知ってるのおかしいし、ここはファーストコンタクトムーブで行こう…という思考の元、そんな刹那の隙を付いた訳なんだけど、流石に挙動不審過ぎたかと、思い返せば後悔が残る第一声だった。というか平野君だよね? ってわざわざ確認取ってるのキモすぎる。そんなの来た時から確信持って知ってるっての!(もっとキモい)
振り返った彼と、初めて声を掛ける事実に心臓はバクバクうるさかった。
(わ、わ、声かけちゃった! 声かけちゃった~!!)
「あ、やっぱりそうだ。いつも前の席に座るから覚えたんだー」
ナンパは人生で初めてって訳じゃないのに、今までなんか比じゃないくらい緊張してるのを必死で押し殺して、いたって平静を装う。
少し驚いた顔の平野君の視線が私の頭からつま先まで一往復し(胸辺りで一瞬止まった。なんでだろ)、一瞬だけ逡巡して、少し困った顔をする。
「あー、えっと?」
記憶にある人物かどうか確認したのだろう。そして合致しなかったと。
当たり前だよね。そもそも顔をしっかり見ることすら初めてだし。私が一方的に知って、勝手に親近感を抱いていただけの、関係とすら呼べないような関係。
それなのに。
「あ…そうだよね、ごめん。私の名前なんか知らないよね……」
どうしてこんなに悲しいんだろう。
けどだめだ。ここで落ち込んだら向こうの印象も最悪になってしまう。
私は空元気を振り絞って声音を取り繕う。ここで間を空けてはいけない。
「私、七星希って言うんだ。よろしくね」
「七星さんね。よろしく」
同じ大学の同じ講義を取っているからか、全然知らない人に声を掛けるより向こうの反応がいい。これで素っ気なかったらショックで死んじゃってたかもだけど。
「てかいい名前だな七星希って」
アっ(ショック死)
「あ、で、でしょ!?」
だめだ、名前を褒められた衝撃で天に召されかけた……。
嬉しすぎて踊り出しそうだ。私もうここで死んでもいいや……。
「で、なんか用だった?」
ふぇ?
あー……なんだったっけ。何か行けそうな気がするって咄嗟に声かけたはいいけど、具体的に何しようとか全然決めてなかった。というか会話できただけでもう満足レベル。よし、解散……だめだだめだ! そんなんだから彼氏できないんだぞ私!
でもなにしたらいい? 今までのナンパでは何を目標にしてたんだっけ?
えーとえーと……!
「あ、えと、そうそう! わ、私も次同じの取ってるからさ……よかったらライン交換しない!?」
い、言ったぁ……! 言っちゃったぁ!!
わたわたとQRコードを表示させると、お辞儀するみたいに手を前に突き出して待つ私の内心は荒れていた。わーどうしよどうしよ、恥ずかしくて死にそう(死亡フラグ)
断られたらどうしよ――
「うお、逆ナンだ」
アッ!!(フラグ回収)
はッ(蘇生)
……危ない今死んでた。
でもあれなんか変じゃなかった?逆ナンって男の方から女に声かける、あの都市伝説のことだよね。これは普通にナンパですが……!!
「だ、だめ……?」
そう祈るように顔を上げる。もしかして軽蔑されたかなとか、顔を上げたらもう立ち去ってましたとか最悪を想像しつつも、...でも。そこにあったのはいつもの平野君の顔だった。
「全然いいよ。はい追加」
「え“っ!? いいの!? ほんとに!? やったー!」
信じられなくてスマホを見ると、『新しい友だち』に平野君の名前とアイコンが映っていた。やばいなにこれ嬉しくてずっと見てられる。なんなら踊り出しそう(もうしてる)。
私のラインに。女友達しかいない私のラインに。平野君が!えっ私今日死ぬのかな。
思わずガッツポーズしそうになって、寸でのところでギリギリ耐えこぶしを握り締めていると、少し焦った顔の平野君が時計を指さしながら口を開いていた。
「やっべ七星さんもう授業始まる!」
「えっやば」
まあ私からしたら、授業よりももっと大事なことが今目の前で起きている訳で、授業なんて出ないでもっとたくさんお話したいななんて思ったり――
「急げあの教授遅刻に厳しいぞ!」
「わっわ、まってまって~!!」
ちなみに。『男の子と言い合いながら遅刻ギリギリに走って授業に行く』は、いつか叶ったらいいなって思い描いてた私のキャンパスライフ像のひとつだった。
夏を感じさせる風と共に、今やっと、私の青春が始まりそうな予感がする!
も~っと評価してくれよな!(欲求不満)
見た目地雷系だけど中身は拗らせオタク概念もっと流行れ