たばこ   作:園田那乃多

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うおおがんばるます



4.No Cigarette, No Life

 

 七星と飲む約束をした店は、全国チェーンで学生御用達の居酒屋、烏貴族だった。なんでも大学から一番近い店舗は知り合いにばれる可能性があるらしく、街中の方になった。流石陽キャ、居酒屋に行けば知り合いに出くわすとは恐れ入った。

 俺としてはどの店舗も等しく知らないという意味で何でもよかったし、アルコールに弱いくせに酒は好きというめんどくさい性質なので、内心ちょっと楽しみにしていた。

 どのくらい楽しみにしていたかと言うと、指定の時刻の一時間前には集合場所に着いちゃうくらいには楽しみにしていた。

 

 幸いなことにここはこの都市の中心街。暇をつぶせる店、施設などいくらでもある。

 まあ、我ら喫煙者は時間が空いた時の過ごし方など決まっているが。

 

「喫煙所どこだ喫煙所……」

 

 さながら幽鬼の如く喫煙所を求めて徘徊する俺は、見ようによってはヤニに脳みそがやられた本当のゾンビのようだ。ほらいるじゃん、ゴキブリに毒針刺して脳みそ破壊してゾンビにしちゃう蜂。あれみたいな。って誰がゴキブリじゃ!(セルフツッコミ)

 

 基本的に、喫煙者は社会から疎まれ隔離される存在である。そのため、喫煙所は路地の奥の方とか、ぱっと人目につかないような陰気くさい場所に設置される傾向にあると思う。俺の所感だが。

 なので路地が碁盤の目のようになっているこの都市の特性上、その場所を把握するのは容易……

 

「なんだこれ全然ないぞこれ」

 

 ではない。

 なぜかは知らんがさっきから全然見当たらない。おかしいな、地元ではこの方法で百パーセント見つかるのに。

 いつの間にか待ち合わせ場所からも少し離れてしまったので、少し休憩でもするかと目についた公園のベンチに腰を下ろす。にしても繁華街のど真ん中にあるにしては結構大きいなここ。遊具とかは全然ないけど。

 もう夏の訪れを実感できる季節という事もあり、夕方でもまだまだ外は明るい。缶コーヒーでも買うかと目線を上げれば、スカートスーツを着た女性が、幽鬼のようにふらふらと公園の奥に吸い込まれるように歩き去って行くのが目に入った。

 俺は確信した。

 

ゴキブリ(同類)だ……!」

 

 って誰がゴキブリやねん!(セルフツッコミ)

 

 

 

 

 案の定と言うかなんというか、先のスーツの女性は俺と志を同じくした人だった。

 そして、確信の元ついて行けば、公園の奥にまるで外界と隔絶させるがごとく反り立つ壁に囲われた喫煙所があった。そんなに人目に触れさせたくないか。こんな近くにあるの見逃すなよという意見もある。灯台下暗しか……。

 

 中に入れば、やはり女性の比率が多かったが、街中という事もあってか男性の姿も見受けられた。まあ俺を除いて一人だけど。なんか心なしかその男の周りだけ人口密度高い気がする。台風の目みたいになってるよあそこ。

 そんな、いまだちょっと慣れない光景を見ながら、俺はここに来る前に何となく買ってみたセブンスターに火を点ける。別に七星がどうとかいうあれは無い。断じてない。

 今までピースしか吸ってこなかったのもあって、ちょっとワクワクしている。誰だよ俺に『和』なんて名前つけたの。平野和略して平和(ピース)じゃねえか。俺にピースしか吸えない業を背負わせるな。いや名前つけてくれたのおばあちゃんなんだけど。嫌いじゃないです、この名前。

 まあ小学生の時には女子っぽいという理由でいじられたものだが。いじってきた奴、悪魔と書いてデビルくんだったからな。そっちのがよっぽどたち悪いだろ……。

 こういう過去はこの世界に来てどうなってるんだろうな。なんか都合いい感じに書き換わってたりするのかな。七星とか段田さんの名前を見るに、名前の男女っぽさに関してはそのままな感じするし……。

 

 セッターもなかなか行けるなんて思いつつ、ふと気づけば俺の隣に女の人が立ってた。うおびっくりした。恐ろしく速い移動、俺でなきゃ見逃しちゃうね(見逃してた)。

 てかこの人さっきのスーツの女の人だ。ヤニ吸って生気取り戻してたからぱっと見で分からんかったけど間違いない。というかそもそも顔見てないから元を知らん。特徴という特徴は無くて、強いて言うならそう、こう、バリバリキャリアウーマンやってる感じではなさそうな……。

 

「あの」

 

 うひゃあ話しかけてきたぁ!

 な、なんだろ逆ナンかな……(懲りない)

 

「な、何ですか?」

 

 生気を取り戻したとはいえ、なんかこう、どんよりしていると言うか、幸薄そうと言うか、ともすれば怒っているのではないかという雰囲気のこの女性。少し明るめの黒髪をローポニーテールで結っており、その薄幸さ加減から分かりにくいが目鼻がすらっと通っていて普通に美人だ。さっきから俺の巨乳判定センサーがアラートをならしているところを見るに胸もでかい。

 何か怒らせるようなことでもしたかと記憶をたどるが、それらしい記憶はない。だって初対面だし。あ、もしかして心の中で同類扱いしたことかな。エスパーかこの人?

 

「火を、貸していただけませんか……」

 

 全然違った。ただ火を貸してほしい人だった。よく見りゃ俺より早く着いてるのに吸えてないし。じゃあヤニ吸って回復できてなかったのかよ! さっさと回復させてやるよ! 火ィ使えおらあ!

 

「い、いいですよ。どうぞ」

 

 しかし、やっぱり逆ナンではなかったな。別に悲しくない。ない……。

 女性は目を閉じて、たばこを咥えた唇をん、とこちらに寄せてくる。うわなんかエロい。

 女の人とこういうことするの初めてだなあと、ちょっとドキドキしつつ、かっこいいからという理由だけで買ったジッポの火をたばこの先端に近づけていって――

 

 カチッ、ボオォッ…

 

 横から現れたターボライターに、その役割を奪われた。

 思わず二人してその腕の主を見やる。

 

 

「……平野君さあ、何やってるの?」

 

 出会って数時間だけど分かる、明らかに怒った様子の七星希が、そこにいた。

 

 

 

 

 七星希がたばこを吸い始めたきっかけは、特段変わったものではない。

 好きなアニメのキャラクターが吸っていたからという、ごくありふれた理由だ。だが、きっかけがアニメであっただけに、その影響をもろに受けていた。

 

 そのアニメには、とあるシーンがある。それは別に男女の甘酸っぱいものではないが、主役格の男女のキャラ二人がたばこを吸う場面だ。一人がたばこに火を点けようとするも火が点かず手こずり、もう一人が黙ってライターの火を差し出すというもの。不器用ながらも二人の仲が知れるようで、作中よく出てくるシーンでもある。

 希は当然それに憧れ、いつかやってみたいと思うようになる。

 だがしかし、ただでさえ男の知り合いがいないというのに、それが喫煙者なんて望むべくもない。そもそも男性の喫煙率も高くないのだ。

 だから、それが叶う相手である和が、自分以外の女にそうやって火を点けようとするのが嫌だった。というか他に女の人がいるのにわざわざ和に近づいてくるなんて下心があるに決まってる。おっぱいも大きいし敵だ。

 

 和の咥えるセブンスターから、灰がぽとりと落ちた。

 

 

 

 

「何って……火を貸しただけだが」

「ならもう点いたからいいよね」

 

 七星が怒っている理由は何となく、『遊ぶ約束をしていた男が他の女といた』的なところだろうと予想がつくが、このスーツの人とは偶然居合わせただけだし、ただ火を貸していただけなのだ。まあちょっとエロいなとは思ったが。

 別にやましいところは何もないものの、こうやって俺に執着してくれているのを目の当たりにすると、こう、なんだか嬉しいですね(小並感)。いやあこいつ俺のこと好きすぎじゃね? がはは。

 そうやって七星の心中は十二分に察することができるので、さっさとこの場は退散するぜ!

 

「そうだな。お姉さんすいません、連れが来たんで行きますね」

「えっ、あっはい……」

「それじゃ。行こうぜ七星」

 

 こういう時は、俺は相手の女に欠片も執着が無いと示すのがいい。ような気がする。

 何の未練もなく(と言ったら嘘になる。おっぱい……)、俺は彼女の手を引いて喫煙所を後にした。

 

「ひぇ、ひらのくんと手つないでる……」

「さー今日は飲むぞー」

「お、おー!」

 

 なんかいい感じに抜けられたのでヨシ!

 別に今はもう手をつないでいる必要は全くないが、かといって離す理由がどう頑張っても見当たらないのでこのまま行くことにしよう。可愛い女の子と手をつなぐ機会なんていくらあってもいいしな!

 ちょっとテンションも上がったので冗談なんて言ってみる。

 

「もちろん七星の奢りな!」

「え、最初からそのつもりだけど」

「え」

「え?」

「「……え?」」

 

 あ、この世界男女逆なんだった……。

 

 

 




・登場人物1
 スーツのお姉さん
 八田翠→八→蜂 翠→エメラルド
    →エメラルドゴキブリバチ(ゴキブリの脳みそ破壊して都合のいいゾンビにする奴) 
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