たばこ   作:園田那乃多

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おそくなりました



5.ロクでなし限界大学生と貧乳後輩

 

「平野君は烏貴族来たことある?」

「ないなー」

「そうなんだ! じゃあいつもどんなところで飲むの?」

「家か、近所の居酒屋のどっちか」

「へー。こんど行ってみたいなぁ」

「今度な、今度」

「えへへ。うん」

 

 七星が予約を取ってくれていた為、店にはスムーズに入ることができた。そして予定調和の喫煙席。なんでも、大学近くの方は全席禁煙だからこの店を選んだという理由もあったそうだ。さっきも迎えに来てくれたし(普通に喫煙所来ただけとも言う)、予約も取ってくれてたし、ヤニ配慮もあるしで七星の株が止まらない。何だこの子いい子過ぎんか。

慣れた手つきでタッチパネルで注文を始める彼女を見ていると、とあるメニューが気になった。

 

「なにこれ。キャベツおかわり無料なのここ?」

「あ、そうなんだよー。すごいよね。注文してみる?」

「もち。無料でもらえるものはとりあえず何でも貰っとく主義」

「なにそれウケる。じゃあ注文っと。他には?」

 

 自分の分は入れ終わったのか、パネルの画面を見せつつ聞いてくる。こっちが言ったものをカートに入れてくれるようだ。

 キャベツがメイン級のつまみになるか分からないので、取り敢えず個々のメニューをいくつか頼んでみることにする。

 

「取り敢えず生と、ねぎまとハツをそれぞれ塩とタレで」

「了解了解。平野君ハツ好きなんだ」

 

 大学生でいきなりハツに行くのは珍しいのか、七星がそう訊ねる。

 ハツは心臓のことであるが、俺はこれが存外に好きなのだ。あの食感と、それでいて変に臭みがない感じが。

 

「まあな。でもキャベツが美味しかったらこれ以降キャベツオンリーで行く所存」

「ええもったいな! もっといろんなの食べようよー」

 

少し笑いながらそう言いつつ、たばこを取り出す七星。いいかと目で聞いてくるので、首肯で返す。そうして俺もセブンスターを取り出した。

 

「あれ。平野君いつもピースじゃなかったっけ?」

 

出会って一日経ってないのに俺がいつも吸っているたばこの銘柄を知っていることはさておいて、まあ特に理由は無いと告げる。いやマジで七星は関係ねえから! まじで!

 

「ピースもあるぞ」

「あ、そうなんだ。…うん、やっぱそっちのが平野君って感じする」

 

七星はセッターを咥えながらそうはにかみ笑った。

 ……ふむ。ちょいとかましてやるか。

 

「吸う? ピース」

「え」

 

 あ、セッター落とした。

 

「……じゃあ、これと交換ってことで」

「ぇ」

 

 そう言いつつ俺はピースを一本七星の前に置き、その流れで先ほど彼女が落としたセッターを拾い上げ、口に咥えた。

 

 ど、どどどどうよこれは。一回咥えた奴だぞ。間接キスだぞ。こ、これは相当揺さぶったんじゃないのか……? 正直ルージュが付いてるたばこ拾った時点で俺も相当テンパってる自覚はあるが、これで向こうが「え、そんなん普通ですけど?」みたいな顔してたら恥ずかしくて立ち去る自信がある。

 

 そう思いつつ七星の顔を見れば、

 

「じゃあこれ貰うね」

 

 そう言いつつライターの火を点け始める。

 え、あれ? なんか全然普通なんだけど……。頑張って揺さぶりにかかった策が失敗に終わった俺は、わりかし死にたかった。主に恥で。

 

「あ、あれ? なんでだろ。火が点かない?」

 

 その言葉に我に返りつつ目を凝らせば、七星も七星で動揺してくれたいたことが分かった。

 

「七星先生、たばこ逆さだぜ」

「……っ」

 

 七星はかあと顔を赤らめ、俺でなきゃ見逃しちゃうような恐ろしく速いスピードでたばこを返すと、何事もなかったかのように吸い始めた。

 

「……あー!! ピースはやっぱり香りがいい!香りが!」

「……そうだね」

 

 なんだかちょっと七星とは上手くやっていけそうな気がした。

 

 

 

 

 夏休みになった。

 あれから七星とは普通に仲良くしているが、残念なことに男女のそういうあれはまだない。おかしい。そろそろ襲ってくれてもいいのではないか。元の世界で俺が七星の立場だったらとっくにそうしているのに。もしやこの世界ではあまりそういうガツガツしていないのか……? でも風俗とかママ活とかは前の世界基準でも同じようにあったしな……。

 ともあれ七星とはそんな感じである。

 とは、とか意味深に言ったが七星のほかに良い感じの子はいない。…なんで? もっとこう、あるやろ! 逆ナンとか逆ナンとか逆ナンとか!!

 

 まあそんなわけで単位も全然取れなかったしむしゃくしゃした俺は、雀荘ではした金を稼ぐと、パチンコ屋に向かうためクソ暑い中まなみ号Ⅱ(バイク)を走らせるのだった。あれ? 俺普通にクズでは?

 

 涼しさと騒々しさが同居する店内は、平日の午後にもかかわらずそこそこ人がいて、世界が変わっても人間のクソさは変わらないんだなあと感慨深い(ブーメラン)。この世界でパチ屋に来て困ることは、前は店員は綺麗な女の人が多かったのに、そうではなくなったことと、男女逆転に伴い知ってるアニメがちょっと変わったことくらいだ。要するにあまり困ってない。

 

 さっきは雀荘でいい感じだったし、今日は出る気がする。

 そう確信の元、4パチの目当ての機種に腰を下ろすと、俺は軍資金を投入しハンドルを握るのだった。いっけーエヴァンゲリオーン。

 

 

 

 

 案の定負けましたね。

 麻雀で勝った金をすべて使い果たし、生活費に手を掛けようと伸びた手を何とかひっこめることに成功した俺は、一度運気をリセットさせようと喫煙所に逃げ込んだ。

 

「あーーー……金保留からの単発終了は無い。ほんと無い……」

 

はあ、と深く息を吐きだす。

 もう今日はだめだな。軍資金も尽きたし、帰ってジムでも行こう。段田さんに癒されよう。

 しかし、やはり手っ取り早く金を稼ぐにはママ活とかに手を染めるのが最短ルートなのか……? 万年金欠ヤニパチカス賭麻雀限界大学生とか言うこの世の終わりみたいな肩書を持つ俺なら、今更そこにママ活男子とか言う称号が重なってもいいような気がしてきた。

 あー思考が終わりすぎてる。いかんいかん。

 

 ふと、電話がかかってくる。

しかしバイト先の後輩とかいう全然知らない相手だったので無視した。いやな予感しかしない。主にシフト変わってくれとか。この平野和、わたしは常に「心の平穏」を願って生きている人間なのだよ。激しい「喜び」も深い「絶望」もない、「植物の心」のような人生をね……(ギャンブル依存症)。

 そんな訳で俺は何も見なかったことにし、パチ屋を後にした。

 ガラス戸の自動ドアをくぐり、まなみ号Ⅱのもとへ向かう。

 

「あ、やっぱいた。せーんぱい」

「……」

 

 腹が減ったな。ラーメンでも食べて帰るか。あ、でも俺お金ないんだった。

 

「せんぱい? 聞こえてますよね? 返事してください」

 

 どうしようか。家に何もないぞ。スーパー寄ってくか?

 

「ふーん、そういうことするんだ。…ちなみに私今日勝ったのでラーメンくらいなら奢ってもいいと――

「えー新田じゃん何でこんなとこに!!? すごい偶然だなあ!!」

「こいつ……」

 

 俺の圧倒的掌返しに、バイト先の後輩であるこの女、新田莉生(にったりお)は、そう半眼で睨みつけるのだった。

 明るい亜麻色の髪のセミロングで、大きな瞳が特徴的な女。異性の友人も多くテニサーに所属しており酒に強く、つまりはギャルだ。あと胸が小さい。絶望的に小さい。完全に対象外だ。背は高いんだけどなあ。

 そのためか俺の彼女への扱いも最初からぞんざいで、向こうも向こうで結構ガンガン言ってくる性格という事もあり、基本的に顔を合わせればぎゃーすか言い合っている気がする。だから嫌われているかと思いきや、これがたまにラーメンを食べに行ったりする。陽キャは分からんね。

 

 ちなみに彼女はパチンカスでありヤニカスであることをバイト先の人間にひた隠しにしている。俺はその気になればこのネタでいつでも強請るというわけだ。いやしないが。

 

「まあまあ。ほら、乗れよ」

 

 なおもこちらを威嚇し続ける新田に、ヘルメットを投げ渡す。こいつはこのパチ屋から家が近いため、万が一自転車で来ていたとしてもバイクで行って問題はないのだ。

 ヘルメットが二つある理由? そんなのいつでも女の子を乗せられるため以外にないが? まあこいつ以外乗せたことないけど。誠に遺憾です。

 

「…っと。……ありがとうございます」

「おー。じゃいつものとこでいいか?」

「えーたまには新しいとこ連れてってくださいよー」

「聞こえんな」

「……まあ、せんぱいといれるならいいんですけど」

「あー? なんて? 風で聞こえん」

「何も言ってないですぅ!」

 

 




・ヒロイン2
  新田莉生(にったりお)→新田→新
            →莉生→生 →新生→シンセイ→SHINSEI


賭麻雀は犯罪です
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