絶対曇らせてくる世界VS.俺   作:TE勢残党

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03 これから・上

 「原作」ことサバイバーシリーズにて、プレイヤーは新たにこの世界へ降り立った「渡り」として冒険をする。

 

 この手のオープンワールドゲームにはままあることだが、いわゆるストーリーラインは最低限程度にしかない。というより、それなり程度のボリュームを持った一連のクエスト群……「道筋」が無数に用意されている。

 

 世界各地に散らばった文献などから世界観を考察しても良し。

 

 「三大勢力」と呼ばれる人類文明圏のどれかに与しても良し。

 

 世界を裏から支配する黒幕たちに喧嘩を売りに行っても良し。

 

 「暗黒領域」と呼ばれる未踏の大地を探索しても良し。

 

 仲間を集めて勢力を起こし、他勢力と争ったり協力しても良し。

 

 ひたすらに強さを求めて世界の強い奴らと戦って回るのも良し。

 

 職人や商人として面白いもの/珍しいものを手に入れるのも良し。

 

 プレイヤーの数だけと言われるほどの自由度があって、ネット上には実況動画や解説動画、攻略情報の紹介などのコンテンツが多く産まれた。俺自身、ネットの海を漂うそれらほどこのゲームをやり込んだ訳ではなかったが、大学時代のありあまる時間を投じて、一通りのシステムは体験したつもりだ。

 

 その中で基本的には、あちこちの街や村、遺跡などで「寄り道」を繰り返していくうちに、自然とどこかの勢力に入れ込んでいき、力を貸し、イベントを進め、飽きたら他の土地へ。そんなプレイスタイルが想定されていたように思うし、俺もそれを楽しんだ。

 

 各勢力のクエストを一通り完遂すれば簡素なエンドロールも見られるが、その後も自分が続けたい限りゲームは続く。

 

 それこそ、膨大な手間と時間をかけて全勢力を滅ぼすような「取り返しのつかない」事象を起こさない限りは。

 

 

 

 ※

 

 

 

 ――リリは一度、生きるのをあきらめた。

 

 「口減らし」の対象に選ばれた時か、一緒に追い出された男に犯されそうになった時か、その男がリリの両親もろとも天敵に食われた時か……。

 

 本人も正確には覚えていないが、リリは13歳と数か月にして、生をあきらめるのに十分なだけの絶望を味わってきた。まだ死んでいないのは、単に死ぬ機会がなかったからに過ぎない。

 

 そして、リリに「死ぬ機会」が与えられなかったのは、姉のダリアによるところが大きい。抜け殻のようになっていたリリを、それでもダリアは見捨てなかった。

 

 リリもまた、姉に言われるがまま他の大人たちと協力し、段々と増えていく天敵の襲撃から逃げ回り、危険を冒して食料を確保し……本隊と別れて、道具もなく、10人もいない絶望的な状況を、危機に陥ることもなく生き延びてきたのだ。

 

 そして、今日がやってきた。

 

 まとまって寝ていたのが仇になり、大規模な天敵の群れに包囲された。

 

 ただ、見張りが二人とも叫ぶ間もなく食われたというだけ。いつかは起こる事故だった。だが、彼らは天敵を倒せる腕利きもいない小規模な群れ。小さな事故一つで、いや何もなくとも遅かれ早かれ天敵に食われる運命にある。

 

一月近く延命したこと自体、奇跡と言ってよかった。少なくともリリは、そう思ってとっくに諦めを付けていた。

 

 だがダリアは、そうは思っていなかった。

 

 周りの大人たちが次々食われていく中で、いち早くリリの腕をつかんで逃げ出し、機転を利かせてかなりの長時間天敵相手に逃げ回り……足をくじいて動けなくなっても、想像を絶する苦痛と恐怖の中でリリを庇い続けた。

 

 リリは、姉が生きたまま食われていくのを、姉の体越しに見せつけられたのだ。

 

 これまでで一番近くに「死」を感じて、いよいよ自分が死ぬ段になって、マヒしていた生存本能が復帰した。「死にたくない」という思いが一気に湧き上がり、最早意味もないのに滅茶苦茶に叫んだ。

 

 

 死にたくない。

 

 助けて。

 

 誰でもいいから。

 

 

 そして何の間違いか、その願いは聞き届けられた。

 

 助けてくれるひとが、現れたのだ。

 

 あれだけ多くの命を奪った、人類にとっての「天敵」を、まるでほこりでも払う勢いで薙ぎ倒せるひと。

 

 言い伝えに出てくる「渡り」は。

 

 「勇者」は、実在した。

 

 

 「このひとに守られたい」

 

 

 今のリリの心情は、この一言に尽きる。生まれてからずっと天敵に苛まれていた彼女にとって、強い力に守られることはあまりにも甘美だった。

 

 そのあと、「このひとと一緒に居たい」「このひとのお役に立ちたい」「このひとの子供を産みたい」が続く。要するに、少しでも長く守られるための方法を、本能が必死で考えているのである。

 

 そこに「口ぶりからして同行してくれないかもしれない」という恐怖、姉への恩返しという名分、上手く誘惑できない不器用さが合わさった結果、出てきたのがあの爆弾発言である。

 

 結果だけをまとめてしまえば「一目惚れ」。しかしそう呼称するには、籠る気持ちが、そう、いささか重すぎる。

 

 

 ※

 

 

「…………」

 

 

 例の爆弾発言からたっぷり数秒。俺は絶句し、リリはこちらをじっと見つめたままだ。思えば教師の怒りや上司の怒号を抜くと、誰かからここまで感情をぶつけられたことは今までなかったかもしれない。

 

 俺は何と返事すればいい?

 

 考えている暇はない。今のリリには、本当に文字通り「何でも」やってしまうだろう圧を感じる。

 

 この状態ではまともな会話は望めない。とにかく落ち着かせられそうなことを思いついたはなから口に出していく。

 

「捨てない。ってか捨てる捨てないじゃないだろ。そんなに重たい関係作った覚えないぞ」

 

 この沈黙がいけなかった。

 

「じゃあ作る! 作るよ、関係!!」

 

 興奮……というよりは怯えた様子で、おもむろにワンピース……のようなポンチョのような、簡素な服を脱ぎ始めるリリ。

 

「待て待て待て脱ぐな脱ぐな!!」

 

(しまったこじれた! どうして俺はいつもこうなんだ!)

 

 心の中で悪態をついても状況は変わらない。視界を覆うあばらの浮いた裸体から目をそらして解決策を考える。

 

 俺が守る……って言えるほどこの世界に詳しいわけじゃなし。

 

 心配するな……は問題の先送りにしかなってない。

 

 とにかくまずは落ち着かせないとまずいか。なら――

 

「リリ」

 

 かがんで目線を合わせ、両肩をがっしり掴んで目を見つめる。この際裸がどうだとか言ってる場合じゃない。

 

 ……これは卑怯な手だ。だがリリが嫌々にでも納得しそうな手を、他に思いつかない。

 

 

 やるしかない。

 

「さっき何でもって言ってたな……じゃあ」

 

「……っ!」

 

 顔をこわばらせるリリ。何か、多分俺が考えるよりかなり凄惨なことを想像して、それに耐える覚悟を決めたのだろう。

 

 覚悟してもらったところ悪いが、そんな風にはしない。

 

「ジン」

 

「え」

 

 気の抜けた声を出すリリ。それを意に介さず、言葉を続ける。

 

「津川迅(つがわ じん)、俺の名前。二人に聞いた時名乗ったろ。だからその……勇者様って呼び方止めてくれよ、くすぐったいから」

 

 リリはきょとんとした様子だが、段々要求が飲み込めてきたらしく、異論も挟まずおずおずとそれに応えようとする。自分で吹っ掛けておいてあれだが、律儀なことだ。

 

「じゃ、じゃあ……ジン、様?」

 

「せめてさん付けで」

 

「そんな!」

 

「何でもするんだろ? ならそれくらいしてくれよ」

 

「それは……でも」

 

 しばらくもごもごとしていたリリだったが、たっぷり数十秒かけて自分の中で折り合いをつけたのか、段々と語気がはっきりしてくる。

 

「えっと、えっと……ジ、ジンさん」

 

 結局、俺の要求は通ったらしかった。

 

「うん! そんじゃ、改めてよろしくな」

 

 ついでに最初の問題も有耶無耶にできて一石二鳥、なんとか凌ぎきれたろう。俺にしては頑張った方だ。

 

「こんなことでいいんですか……?」

 

「いいんだよ。リリはつまり、守ってほしい……んだよな?」

 

 うんうんと大げさに首を振るリリ。リリはどことなく……小動物っぽい所がある。

 

「で、俺は一人でいると寂しい。なんでか強いだけで、常識含めてこの辺りのことを全く知らないし、その辺を補佐してくれる人が必要だ」

 

「でも」

 

「自分じゃなくてもいいだろって?」

 

「…………うん」

 

「それはお互い様だろ。俺じゃなくても勇者なら二人は助けられるし、二人じゃなくても俺に助言できる」

 

「でもな、今俺が頼れる人間はダリアとリリだけだし、あの時二人を助けられたのは俺だけだった」

 

 ――だから、お互い様。それじゃ駄目か?

 

 たっぷり10秒ほど、沈黙。

 

 短い付き合いだが、リリのことがなんとなくわかってきた気がする。

 

「……駄目じゃ、ないです」

 

「よかった。まあそういう訳だから、対等……は無理でも、出来るだけフランクにやっていこう。な。敬語もなしでいい」

 

「うぅ、が、がんばります」

 

「そっか、ありがとう。……しかし、アレだな。俺ばっかり要求するのもどうかと思うし、何かないか? 守る以外でやってほしい事とか」

 

 そう提案した俺に、リリは顔を赤らめながらよくわからない提案をして来た。

 

「じゃ、じゃあ。あの、えと。名前……貰っても、いい?」

 

「貰う? 名前を?」

 

「うん、リリ・ジン、って、感じで……」

 

 言い終わるころには耳まで真っ赤になったリリ。一方の俺はと言えば、リリの言っていることが理解できず頭をひねっていた。名前を貰うとはどういう意味だ?

 

 いや、ゲーム中のどこかの台詞……文書だったか? 何かこういうのが書いてあったような……。一瞬脳裏をその情報がよぎったものの、結局具体的な部分は思い出せず。

 

 ……暫くフリーズした後、一つの仮説にたどり着いた。

 

「それは……あれか? 俺いま、結婚を申し込まれてるのか?」

 

「けっこん!? いや、えっと、違うっていうか、そうっていうか、それ以上っていうか……」

 

 あ、結婚という概念はあるんだ――と変な所に思考を飛ばしている間、リリは自分の指を弄びながら、何やらもごもごと口走る。急に歯切れが悪くなった。

 

 つまりこれは……返答を間違えた、んだろうな。

 

「悪い。違ったんなら忘れてくれ。すまん、早とちりして悪かった……あークソ、こっ恥ずかしい!」

 

 後頭部をガシガシ掻きながら、横を向いて取り繕う。早口なのが自分でも理解できる。顔から火が出そうだ。どうして俺は素っ頓狂なことを口走ってしまうのか。

 

 だが、リリはそんなこと意にも介していないようだった。俺の台詞に「それより」とかぶせる。思わずよそ見を辞めてリリの方に向き直り――もう一度目をそらし直す。裸なのを忘れていた。

 

「名前。もらってもいいの?」

 

「別にいいけど……」

 

 なんでそんなにこだわるんだ、と聞く前に、リリが歓喜の声を上げた。

 

「そっか、良いんだ、勇者さま……じゃなかった、ジンさ、んの名前……えへ、へへへぇ……」

 

 "様"を取るのに少し意識する必要があるようで、若干呼び方は

 

 先ほどとは全然違う、緩み切った笑み。何が何だかサッパリだが……とりあえず落ち着いたようだし、まあいいか。詳しい所は今度聞こう。

 

 話が一段落した所で、真面目な顔をしてリリの肩に手を置く。

 

「ふひゃっ!」

 

 奇声とともに目をむき、顔を真っ赤にして急に挙動不審になるリリ。

 

「えっと、その、初めてだか……」

 

「んじゃ、とりあえず服着ような。焚火の前だからってカゼ引くぞ」

 

 っと、何か言いかけてたな。自分の声で遮ってしまった。

 

「…………バカ」

 

「今綺麗に纏まってただろ!?」

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