フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない   作:ノシ棒

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ごっどいーたー:20噛 GE2

あなたは今、フェンリル本社のデータベースにアクセスしようとしています。

 

閲覧アクセスキーを提示してください。

セキュリティクリアランス確認・・・・・・3レベルを確認しました。

ようこそ、管理職員様。

指定ファイルを開示いたします。

アクセスしています・・・・・・アクセスしています・・・・・・。

 

警告1:以下のファイルは最高機密に分類されます。

警告2:このファイルにアクセスしている無許可の職員は情報ミームにより精査され、権限を剥奪されます。

警告3:いかなる理由、いかなる地位、いかなる存在であっても、当ファイルの持ち出しおよび他者への開示は権限の剥奪事由となります。

警告4:安全装置の解除確認がされぬ場合、当ファイルの閲覧に際して一切の生命の保証はされません。

警告5:固体名[データ編集済]は以降、当ファイルに指定されたロットナンバーで呼称するようにしてください。

警告6:上記の警告全てが遂行されていない場合、情報ミームにより精査され、閲覧者に即座に適切な処分が下されます。

 

ファイルナンバー:■■■

ロットナンバー:[データ編集済]以下Ω(オメガー)

説明:Ωは一般的な人類種ホモサピエンスの成人男性です。身体的特徴は極東支部における日本人の平均値以内にあります。

発見経緯は極東支部にてゴッドイーターとして登録されたことによります。現時点の登録は移動拠点フライアにあります。(任務登録名[データ編集済]へと変更。ドクター榊によるもの)

限定下の状況に遭遇した際、Ωはあらゆる事象を捻じ曲げ操作し、あるいは可能性すらを喚起させ、自らの保全を行います。

平時では基本的に超人的技能として発現しています。

Ω自身が存在ミームとして機能しており、小規模の認識災害を引き起こします。その存在を知覚した瞬間、可能性の喚起現象に巻き込まれ、基点とさせられる恐れがあります。

また、Ωは自身の特異性を知覚することができません。ほとんどの場合、環境の変化、事象の捻じ曲げは偶然であるとしか感知できません。

あらゆる機器による観測も、偶然であるという証明の裏付けにしかなりません。

Ωの存在目的は世界の[データ編集済]であり、[データ編集済]のためにあらゆる行動が帰結します。

 

事件記録:■■■-■■

 

フェンリル本部管理権限において、Ωの複製を育成せよとの要請が行われました。

帰納法的アプローチにより、Ωの身体機能を訓練により身に付けさせ[データ編集済]

あらゆる試みの結果、喚起能力は複製することは不可能であると結論付けられました。

身体機能の複製においては一定の結果を見出すことができました。また、副産物として、Ωの固有特性であったバレットエディットの体系化イメージを転写することに成功しました。

バレットエディターは脳内イメージとして、下部に向かう樹形図的チャートによって表せられます。

高度なバレットエディットイメージと身体能力を併せ持つ被験者を、Ω-2と呼称します。

Ω-2の後期ロットについては、アーサソール及び各地のフェンリル直轄支部へと派遣し、喚起能力の発現を観察します。

 

事件記録:■■■-■■

 

[データ編集済]

 

欧州フェンリル直轄区におけるΩへの精神的加圧実験は、最終的に研究職員■■名とアーサソール隊員■■名の損失を招く結果となりました。

イギリス支部のゴッドイーターによるクーデターとして、カバーストーリーを作成。ミームの拡散を阻止しました。

Ωは多数の職員および隊員を殺害後、激しく苦悩する様子を見せました。その後[データ編集済]不特定の周期でオラクルパルスを検出。

精神的加圧を続けた結果、Ωの行動理念が積極的攻勢へとシフトしました。

以降、本部監察官の許可なしにΩに対するあらゆる心理実験を禁じます。

なお、戦闘データの大半は消失しましたが、戦闘痕より発見されたΩの遺された神機を分析した所、アーサソール神機由来のオラクル細胞が検出されました。

神機による神機の捕喰が行われたと推察されます。これにより神機に意思が宿る現象が発生したかは不明です。

極東支部により破棄処分が行われたΩの第二世代神機は偽装であると確認済。回収班の派遣は却下されました。

 

※オラクルパルス放出中、多元世界との交信の可能性有。可能性喚起を行ったと思われる。これによる現事象世界への影響は不明。

※他存在の可能性の締結が、Ωの可能性の喚起エネルギーであると考えられる。詳細不明。実験申請中。

 

補遺1:極東支部周辺地域にて、欧州で記録されたオラクルパルスを確認。可能性の喚起現象が発生したと考えられる。

補遺2:ドクター榊による存在ミーム流布、神狩人(未確認)が確認されました。ドクター榊の適切な処分を申請します。

 

メモ1:可能性の喚起だって? ああ、簡単に言えばトライ&エラー、ロード&コンテニューさ。ゲームのあれだよ。やったことないのか?

メモ2:アーサソールがどうなったか知りたいの? アツアツのトーストに塗りたくられたストロベリージャム。執拗にすり潰されていたわ。

メモ3:ドクター榊がなぜ野放しにされてるのかって、そりゃ優秀すぎるからだろ。核弾頭の管理してくれるんだから、ありがたいね。ろくな死に方はできんだろうぜ、ありゃ。

 

事件記録:現在進行中

 

+閲覧にはセキュリティクリアランス4レベル以上の承認が必要です。

-承認

 

[データ編集済]

[データ編集済]

[データ編集済]

 

フライア活動範囲にて、Ωのオラクルパルスを測定しました。

血の力に覚醒したと思われます。

これにより仮定されていた可能性喚起能力、[データ編集済]が証明されました。

また、α(別ファイル参照・固体名[データ編集済])の血の力と直接接触した際、αの世界受容能力に影響を受け[データ編集済]世界[データ編集済]能力の発露が顕著となり[データ編集済]

Ωはαの対存在であると考えられます。

シナリオGE:3の発動を要請[データ編集済]

 

[データ削除]

[データ削除]

[データ削除]

[データ削除]

 

不正規のアクセスキーが確認されました。

重大な規約違反が発生しました。

情報ミーム精査により、当ファイルを遮断します。

ただちに閲覧を停止してください。

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ただちに閲覧を停止してください。

ただちに閲覧を停止してください。

ただちに閲覧を停止してください。

 

適切な処分を開始します。

致死性ミーム散kaaaaisyyyyyesss――――――

 

「あら、バレてしまいましたか・・・・・・。ここまでのようですね。

 しかし、なるほど、そういうことでしたか。極東からの推薦人員、どのような人材かと思えば・・・・・・やはり裏がありましたか。

 ふふ、ふふふ、ふふうふふうフフフフフ・・・・・・。

 やってくれましたね、榊博士。

 存在ミーム・・・・・・可能性の喚起能力。

 『喚起の血の力』を持つ者・・・・・・最大の不確定要素。

 いいでしょう、彼が人の極致であるというのなら、愛しいあの子はそれすらも受け入れ、取り込み、超えていく。

 あらゆる可能性の締結である、終末捕食。

 私の宿願、星の願い、人の時代の終焉、生命の・・・・・・可能性の再分配。

 全てを終わらせ、そしてもういちど始めましょう。

 さあ、残さずに、よく噛んで食べなさい――――――」

 

ファイルの閲覧を終了します。

おつかれさまでした、管理職員様。

 

「私の可愛い――――――ジュリウス」

 

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

鉛のような目をしている。

それが、敬礼をする『シエル・アランソン』という少女へと感じた、ユウの第一印象であった。

“此処”を見ているようで、“何処”もみていない。そんな目だ。

極東支部外部居住区の最外周部で、この目をしている者を何人も見てきた。

アラガミに子供を食われた親、十数人と輪姦された女、薬の買えなくなった独居老人、騙されて借金をこさえた青年・・・・・・最近では、“赤い雨”にうたれた者たち。

皆総じて同じ、輝きを発さない、濁った泥のような目をしていた。

諦めた者特有の、輝きの失せた瞳だった。

きっと、かつての自分も、同じ瞳の色をして――――――。

 

「へ? 血の力がわからない?」

 

ぐい、と近づくナナの近さに戸惑いながら、ユウはぎこちなく頷く。

相変わらずナナの距離感には慣れない。

 

「いやいや、ブラッドアーツは使えてるんだろ? そもそもブラッドアーツ自体、血の力が戦闘用の技になったやつなんだしさ」

 

「ふえ?」

 

「ラケル先生がこのあいだ言ってたろ? ブラッドアーツは神機の技で、同じ神機だったら同じ技が使えるけど、血の力はその人特有の能力だって」

 

「うーん? そう言われれば聞いた気も・・・・・・?」

 

――――――曖昧だよな、そこらへん。ブラッドアーツって言っても、オラクルをこう、ぶわーっと放出してるだけじゃん。第二世代使ってた時もなんかそういう経験あったよ。

 

「あ、そっか、ユウは機種変したんだっけ。どっかの紫ゴリラと違って多芸だよな。全部の武器使えちゃうんだからさ」

 

――――――器用貧乏感がすごいけどね。使いこなすっていうにはちょっとなあ。ほら、特にあれ、最近実装された大鎌。あれ難しいんだ。

 

「ぐわーって伸びて、がりがりーって削るやつだよね? 私のハンマーに似てるね。振るのが重たいとことか」

 

――――――咬刃ね。あのぐわーって伸びるやつ。

 

「こーじん」

 

「こーじん」

 

――――――咬刃展開すると攻撃範囲がやたら広くなって便利なんだけど、ぶん回すと遠心力で動けなくなるんだよ。足が止まって、そこを狙い打ちにされると。刃先に当てなきゃ有効打にはならないし。扱いが難しいよ。

 

「とか何とか言っちゃって、ちゃっかり鎌のブラッドアーツも使えるようになってんじゃん。

 いや、マジで武器使うの何かコツとかないの? 俺、バスター以外だとどうもしっくりこなくてさ。神機自体が拒絶っていうか、嫌がるっていうか」

 

――――――慣れと違う? いいじゃん、全武器全種コンプリートしろとか言ってこないんだから・・・・・・また今回もだよ。

ミッションリザルトの確認中にさ、ブラッドアーツの覚醒率とかがぽーんと頭の中に表示されるんだよ。ご存知の通り神機様のお告げだよ。おう1%も上がってないぞあくしろよ、みたいな。

 

「お、おう・・・・・・覚醒、率? パーセント?」

 

――――――もうぶんぶん丸だよ。俺もう思考ストップぶんぶん丸だよ。ハンマーとかショートとかスピアとかとりあえず通常連打で振り回しとけみたいな。アホみたいに振り回しとけばいいんちゃうかみたいな。そんで覚醒率上げたらいいんちゃうかみたいな。

 

「いや、何に凹んでるのかわかんないけど、ブラッドアーツってそういう数値化とかって出来ないんじゃ。ぶんぶん丸てお前・・・・・・」

 

――――――どうせまた強BAとか弱BAとか分類させられて縛りプレイが開始されるんだぜ・・・・・・。スピアのチャーグラ系BAに神機様ビンビン反応してるんだけどそれはどっちの意味なの? 使わせたいの使っちゃだめなのどっちなの?

 

「なんか、闇が深いな・・・・・・」

 

「ねね、第二世代のときーって、ブラッドだけのものじゃないのブラッドアーツって? 名前だってほら、ブラッドだし」

 

――――――血の力が先かブラッドアーツが先か・・・・・・こう、第二世代機は穴が空いてないって感じだったかなあ。俺の印象だと。パスが通ってないっていうか。

前の世代の神機でも、もしかしたら誰かが外からこう、パスを通してやればブラッドアーツは使えそうな気がするんだけど。感応現象の攻撃転用な訳で。血の力はまあ、別物として。

 

「血の力はブラッド・・・・・・私達第三世代だけのものってことで、ブラッドアーツはいずれ誰もが使えるようになるかも、ってこと?」

 

「あ、ピンと来た。そのための教導って奴じゃね? 俺たちブラッドは、いずれ全ゴッドイーターを教導する存在となるんだって、ラケル先生が言ってたやつ」

 

――――――ジュリウスの血の力なんて完全それ向きだよな。統制だっけ。

 

「ああー、バヒューンって光ってちょっとのあいだ強くなるやつね!」

 

「あれすげーよな。いきなりフルバーストになれるんだもん」

 

――――――ジュリウスのは見た目にわかりやすい変化が起きるけど、俺のはそうじゃないらしいんだよね。使ってはいるらしいんだけど。

 

「ユウの血の力は発動してるのに目立った変化がないってこと?」

 

――――――たぶん。なんか普通にしててもたまにオラクルの波が検出されるとかで、おそらく常時発動型だって言われたけど、効果はさっぱり。地味すぎてなんかね。がっかりよほんと。

 

「えーと・・・・・・これから、じゃん?」

 

「そーそー! そのうちなんかわかるって! たぶん! ね? ハピハピー」

 

――――――アバドンのぬいぐるみで頭もしゃもしゃするの止めてくれませんかねえ?

 

「まま、そんなことよりも、ね?」

 

――――――そっちが話題ふってきたのにそんなこととか言われたでござる。

 

「シエルちゃんのことなんだけど」

 

「あー、んー、なんか堅そうだったよな、あの子。戦術がなんとかとか」

 

「その・・・・・・ね? お願いユウ! 仲良くしたげて!」

 

――――――はっはっは、この前も同じこと言ったね君? ジュリウスに頼んで、どうぞ。

 

「ジュリウスは特別任務があるって、いなくなっちゃって。忙しそうにしてたからこんなこと頼めないよ」

 

「特務前のジュリウスってピリピリしてて話しかけらんないよな。すっげー難しいこととか考えてるんだろうなって、もう見ただけでわかるもん。そりゃ話しかけられないって」

 

――――――あいつずっと部屋に閉じこもって箱庭ゲーしてんだけど・・・・・・癒されたいとか何とかぶつぶつ言いながら。難しいことって、攻められない設備の配置がとかしか考えてねーよ絶対・・・・・・。

 

過去にジュリウスとシエルには面識があったらしい。

また、児童養護施設マグノリア=コンパスにて、である。

シエルの自己紹介後にユウがジュリウスに呼び止められ、説明を聞いたものをまとめると、どうもジュリウスが“やらかし”て、決別していたそうだ。

幼さゆえの残酷さで切り刻んでしまったとかなんとか。

ジュリウスが酷く憔悴していたため詳細まではわからなかったが、概要は把握した。

おそらくは、ジュリウスのような才能ある者の放った一言が、シエルのコンプレックスを抉り取ったのだろう。

彼女もまた、ナナやロミオのように、戦闘訓練を幼少期から受けてきたのであろう。一挙手一投足を見れば解る。体幹が全くブレない、何らかの戦闘術を学んだ者の動きを自然としていた。

“体に染み付いた動き”から推察するに、努力型だ。才能型はそれを外部に悟られないようにするからである。体に染み付ける必要が無いからだ。むしろ、染み付いているそれを抜き取り隠蔽する努力をする。

さらに言えば、シエルの動きは洗練されたものだった。無駄なく美しくあるよう加工された挙動・・・・・・“軍事訓練”によって身についた動きだ。

軍事訓練は通常の戦闘訓練とは一線を画するものである。戦うための技術だけを教え込むのではない。軍事訓練とは、戦術思考、補給線、兵器運用法諸々、知識面での要素にこそ重きを置いたものだ。

戦闘技術を含む、かくあるべしという“ふるまい”・・・・・・理想像と言ってもいい。人間が知性によって編み出した最高効率の行動理論。それが軍事訓練には詰め込まれている。

シエルはその体現者であった。

良く言えば、ロボット。悪く言えば、ぜんまい仕掛けの“カタカタ”玩具。

人間性を自ら捨てた存在。それはユウが最も嫌うべくところの人種である。だが、ユウは彼女に嫌悪感を抱くことができなかった。

それは彼女の見た目にあった。

軍人然とした鋼の無機物が、綺麗で可愛らしい服を着せられ飾り立てられている。歪さを感じさせるに十分なもの。

命令されて着込んだものではないだろう。間違いなく、彼女の意思によるファッションだ。

そう、ファッションである。そこには実に人間味が溢れている。

だが、それもまた歪さが含まれたものだ。

あの服装は、彼女が好んでのものではないような気がする。どうも違和感を感じざるをえない。

お堅い印象であるというのに、あの可愛らしい服装。人間性を捨て去り、しかし、彼女の意思による選択という、矛盾がある。

カタブツに見えて実は可愛いものが好きでした、とはまるで思えない。

フリルが嫌味なく、しかししっかりとあしらわれたブラウス。細い首元にきゅっと結ばれたリボンタイ。胴をしっかりと締め、女性らしさを強調する黒のコルセット。濃緑のスカートには、これもフリルがあしらわれている。

そして、鋼を思わせる鈍い光沢のある銀髪・・・・・・肩の中ごろにまで達するセミロングだろう、それを緑のリボンで“メビウスリング”にしている。

一見すれば夢見がちな少女趣味を前面に押し出したような格好である。

その夢を冷たく砕く、ショルダーホルスター。背中でクロスするタイプのガンベルトだ。中には大型の拳銃が収められている。

十二分に手入れされているように見受けられるそれは、実弾が装填されているであろうことを容易に想像させる。あの口径ならば、ゴッドイーター相手であっても致命打となるのは間違いない。

そして、スカートの裾から見え隠れする、ナイフホルスター。太股のまばゆい白に映える黒革のベルトは、明らかに使い込まれた光沢を放っている。

あのナイフは、拳銃は、“使われてきた”ものだ。それも、ホルスターの磨耗具合からみて、人間相手に。あまり考えたくはないことだ。

しかし、あの服装にこの装備、機能的ではない。

何故あんなフリフリとした少女趣味の服装に、これ見よがしに大型拳銃とナイフとを装備しているのか。

正直なところ、理解に苦しむ。

苦しむ、が。

 

――――――ああいうのもアリだな。コルセットに強調された胸・・・・・・その側にそっと飾り立てられる大型拳銃。

母性の象徴たる大型バルジ愛宕型に、人の命を容易く奪う冷たい鉄の塊・・・・・・おお、バーニングムーブメント!

 

「アハハ、というわけでよろしくお願いしまっす! “副隊長”!」

 

――――――おま、それ、やめ。

 

「はは、がんばれよ副隊長! はは、ははは・・・・・・」

 

「あっ・・・・・・やば」

 

「副隊長かあ・・・・・・まあ、しょうがないよなあ。いきなり血の力に目覚めちゃうんだもんなあ。へへ、俺なんか・・・・・・俺なんか」

 

「もしかして、やっちゃった?」

 

――――――もしかせずにやっちゃってるよ。あのさ、ロミオ。

 

「なんすか副隊長? あ、敬語使わなきゃだめっすよね。さっせん。敬礼もしたほうがいいっすか?」

 

――――――これが最初で最後だぞ・・・・・・神狩人、語録!

 

「うえっ!? え、何!?」

 

――――――ゴッドイーターに天地無し。地位はまやかし。ただただ、その責務を全うすべし・・・・・・だろ? たまには榊さんも良い事を書く。なあ、ロミオ、お前がすごい奴だってこと俺は知ってる。だからさ、卑屈になる必要なんてないんだ。

 

「ユウ、いや、ちょっとマジな顔になるなって。冗談だって。やだなー、そんなマジになんなくても」

 

――――――ロミオ。俺はわかってる。

 

「だから冗談だっての」

 

――――――わかってる。わかってるさ、ロミオ。

 

これはおだてて言っているのではない。本心である。

ロミオはこう見えても一年の先駆けがある。

フライアという移動拠点、ブラッド隊に所属して、一年の経験を積んできたのだ。

ゴッドイーターにとってそれがどれだけの重さを持つか。

極東の激しさに身を浸し続けたユウにとって、それを知らぬことはありえない。

そして本心からの言葉は、届くものである。

 

――――――なあロミオ、だからさ、そんな棘のあるような事言うなよ。寂しいじゃんか。頼むよ、な?

 

「・・・・・・ちぇ。俺が悪かったよ。なんか凹んでた。へへ、また後で、飯でもおごらせてくれよ! んじゃーな!」

 

ばつが悪かったのだろう、手を振って席を立つロミオ。

ゴッドイーターは実力社会だ。だが、解ってはいても、認めがたいものがある。

これを人の業として愚かだと断じることは出来ない。

若さからくる青さや人間臭さ。面倒だとはぼやいていても、嫌いきれないのはやはり、自分にもそれがあるからだろう。

ナナがごめんね、と片手で礼をし、チラと奥を見やる。ユウに示すように。

あまり悪く思っていないようだった。もしかしたら、意図的にロミオの劣等感をあおり、ユウにケアの糸口を掴ませようとしたのかもしれない。

扇情的な服装をしていて、しかしその内面は性的なものを感じさせない涼やかさがある、アンビバレントな少女。しかし、やはり、女であるということなのだろう。

流し目に、背筋をぞろりと舐め上げられたように感じた。

ナナが見やった先は、ユウ達が座っていたベンチからほどなく離れた場所。

何かの文庫本を読み込んで座っているシエルの姿があった。

 

――――――あれ見たら何とかしてって言いたくなる気持ちもわかるけど。

 

「ね? もう見てらんないよあれ。近くにいって、ぎゅーってしてあげたいもん」

 

――――――じゃあしてあげたらいいじゃん。俺カウンセラーじゃないねんぞホント。

 

「私だって、人との距離感くらい、計るんだよ・・・・・・?」

 

――――――俺とは計れてないじゃん・・・・・・これが最後にしてくれよ、ほんともう押し付けるのは止めてねマジで。

 

「えへへ、でもやってくれるユウ大好き」

 

――――――はいはい・・・・・・あーでもあれは、うわあ、キツイな。ぼっちですわあれ。もう完全なぼっち体質ですわ。

遠からず近からず、すげー微妙な距離で存在アッピルしてるもん。

本読みながら周囲に興味なんてありません、みたいな風に見せちゃってさ。たぶんこっち超意識してんでしょあれ。何か見てて痛々しい・・・・・・。

 

一人になりたいのならばもっと遠くに行けばいいというのに、こちらの存在を知り、知られることの出来るギリギリの距離をキープしているように見える。

ユウは頭を抱えたくなった。

彼女自身に自覚があるのか、ないのか。

こちらは痛々しくて見ていられない。が、こちらから接触しようとするのは、正直つらい所がある。

はっきり言って気まずい。

 

「いけっ、ユウ! 君に決めた!」

 

――――――ぴっがちゅう!? やめっ、ちょっ、押すのやめっ!

 

「じゃっ、後よろしく!」

 

――――――ファーーーー!?

 

ナナに押されつんのめってシエルの側に行く。ナナはそのまま走って消えた。

どうしたらいいものか迷うユウに、シエルはベンチからすくりと立ち上がり向き直る。

妙にできたタイミングであった。

やはり、話しを聞いていたのか。

 

「何か?」

 

――――――いや、あの。

 

「そうですか。副隊長、改めてよろしくお願いいたします」

 

――――――は、はい。こちらこそ・・・・・・。

 

「さっそく今後の方針を打ち合わせしたいのですが、副隊長、先に確認しておきたいことがあります」

 

――――――何かな?

 

「ブラッドとして作戦行動を行った回数はどのくらいでしょうか?」

 

――――――えーと、ブラッドとして・・・・・・? だと、あんまり、じゃないか、な?

 

「・・・・・・個人では?」

 

――――――これくらい。ほら、個人証明・・・・・・アバターカードどうぞ。

 

「虚偽報告は処罰の対象となりますが。まさか」

 

――――――あー! まあ常識の範囲だよねってことで! 表示がバグってるなーこれ!

 

「なるほど。つまり、どちらもほとんど経験がないということですね。それでは次回の任務以降、しばらくは戦術レベルでの連係訓練を行っていくべきですね。

 副隊長の活躍はラケル先生から伺いました。早くも血の力に目覚め、めざましい戦果をあげたと。私も実戦経験では及びませんが、そのぶん戦術の知識でブラッドに貢献できればと考えています」

 

よどみなくスラスラと言い終えるシエル。

言葉だけを見れば柔らかな物腰に感じるが、それを抑揚無く、無表情で口にされると反応に困る。

社交辞令なのか、本心からの言葉なのか。

こちらも日本人的な曖昧な笑みを浮かべ、よろしくと頭を下げるしかない。

自然とユウも言葉がなくなってしまう。

 

「ええと、こういう時は・・・・・・えっと・・・・・・」

 

ここで初めてシエルの表情に変化があった。

途切れた会話を繋げようとしているのか。手に持っていた文庫本をぱらぱらとめくり、何かを確認しているようだった。

本を見ているのではない。あれは、文庫本に栞代わりに挟まれた、何通もの手紙、だろうか。

国際便の印が押された手紙を確認しては頷いている。

すみません、思い出しました。と早口で言うシエルが可愛らしく思えてしまって、ユウは小さく吹き出した。

やはり、自分の考えすぎだったのだろう。

人間性を捨て去ったなどと、馬鹿馬鹿しい。

おそらく、軍事訓練の最中で、その過酷さに心を殺さねばならなかったのだろうか。それならば、いずれ解れて、仲間皆で暖めてやればいいのだ。

なにより、こんなに可愛らしいのならば、大歓迎だ。

 

「お互いに足りないところを補って高めあっていければ・・・・・・と、思っています」

 

――――――はは、うん、そうだな。その通りだ。

 

「ああ、おかしなことを言っていたらすみません。社交的な会話にはどうも不慣れなもので・・・・・・あっ」

 

シエルのもっていた本の間から、手紙がぱらぱらと地に落ちた。

ページを下向きにして持っていたからだ。小脇にでも抱えておけばいいものを、一応副隊長という目上の人間に対し、手を前に組んでお行儀良くしているからだ。

これもまた軍事訓練の賜物か、とユウは足元にまで滑ってきた手紙を拾い上げてやろうと、身をかがめる。

・・・・・・背筋がざわりと粟立った。

 

「――――――触れたら殺します」

 

手が止まる。

全身が凍りついたようだ。

吐息さえ白く濁ってしまったかのような錯覚。

殺気・・・・・・否、これは、殺意だ。

この娘は、今、本気で、俺を害そうとしている。

硬直するユウの眼前から攫うようにして手紙が回収されていく。

 

「すみません。お見苦しいところをお見せしました」

 

――――――い、や・・・・・・別に・・・・・・いいさ・・・・・・。

 

何事もなかったかのように、シエルは続ける。

 

「どうぞ、こちらが皆さんの戦闘データを元に作成したトレーニングメニューです。

 1日24時間のうち、睡眠8時間、食事その他雑時2時間、任務に4時間として・・・・・・残り10時間のうち戦闘訓練に4時間、座学に6時間分配します。

 そしてこちらが各メンバーに合わせた訓練計画です。少し精度が甘いかもしれませんが、十分小隊戦力の底上げになるかと。

 あとこちらは次のミッションの詳細です。私なりに立ててみました。後で目を通しておいてください」

 

液晶タブレットを手渡され、つらつらと説明をされる。

反応を返せないのは、情報量に圧倒されたからではない。

背骨に差し込まれた冷たい氷柱が、未だ抜けないからだ。殺意の寒さが身を包んでいる。

こんな場所で、命の危険を心底から感じるハメになるとは、思ってもみなかった。

予想外の打撃であった。

なすがままに聞くユウに、シエルは満足したのか、ではと頷く。

 

「では失礼いたします。これからよろしくお願いします、副隊長」

 

それだけ言い置いて、さっと身を翻し、ブーツの音を立てながらシエルは颯爽と立ち去っていく。

一切の未練を感じさせない身の振りに、ユウは堅く引きつった笑みを零すしかなかった。

こちらへの接触のタイミングを図っていた理由は、人間関係を良くしようという意図ではなく、この液晶タブレットを渡したかっただけなのだろう。上官の会話を遮らぬようにする、それだけの理由か。

表示された訓練内容としては温いの一言。拘束時間が長いのはいただけないが、新兵には悪くはないメニューだ。だが、どうにも教科書的すぎていけない。

否、そうではない。重要なのは、そんなことではない。

 

――――――俺が、ビビるくらいかよ。

 

じっとりと滲んだ脂汗を指先で拭う。

久しく感じ得なかった、命の危機。

死の恐怖。

 

――――――恨むぞ、ジュリウス。

 

怪物が産まれたのはなぜ。

どいつもこいつもが、よってたかって仕立て上げたのだろう。

今日もまた、スピーカーが喧しく出撃アナウンスを吐き出していく――――――。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

『こちらブラッドα、対象を補足した』

 

『ブラッドβ、そちらにもヤクシャが接近中、注意してください』

 

「了解。迎撃します」

 

ほう、と感嘆の声を上げるギルバート。見えるのは、シエルの戦う姿。

オウガテイルの群れを流れるかのように“すり抜け”れば、そこには足を切り裂かれ倒れるヴァジュラテイル達。

入れ食いだな、とギルバートは獰猛に笑い、オウガテイル達を捕喰する。バーストモード。オラクル波がギルの体表を伝い、空間中へと放出される。

シエルの戦いは、まるで舞踊のようであった。足を止めず、スピードと慣性を活かし、すれ違い様にショートソードの一撃でもって敵を切り裂く。

距離を開けてターンをすれば、神機はスナイパータイプのガンモードへと変形している。振り向き様に、蜂の一撃。もがくアラガミの額を穿ち、一撃で絶命させる。

アクアマリンに染め抜かれた神機が翻れば、そこには死山血河が築かれる。

ショートソードの決定打の無さは、ギルバートの槍によるチャージグライドがカバーする。

撃ち漏らしはユウがトドメだ。バランスのとれた三人一組、スリーマンセル。

ただ、シエルの動きに合わせられるのは、ある程度合理的な思考の持ち主・・・・・・経験を積んだゴッドイーターだけであろう。

「あいつらに見せてやりてえ」とギルバートはしきりに感嘆の声を上げている。だが。

 

「息が詰まるがな。否定するつもりはないが・・・・・・」

 

同感である。

戦いの中で最も重要なものは何か。ユウは、それは“士気”であると思っている。モチベーションと言ってもいい。ギルも同意見だろう。

それを維持するために益の無い話もするし、下の下卑た話題だって振る。こういう戦いの流れというものを重視するのは、むしろ軍隊の兵卒であろう。シエルは軍事教練は受けてはいるのだろうが、しかし。

理論とはすなわち、最適解のことだ。だが、人間は最適解を出し続けられるようには出来ていない。

その代表が、ギルの言うところのあいつら、ナナとロミオだ。

二人の声は、無線機からひっきりなしに届いていた。戦いを楽しむような声だ。同行しているジュリウスも、好きにやらせているのだろう。

ナナは最近になってようやく実戦に慣れてきたようで、戦場の中をハンマーに振り回されることが楽しくてしかたがない、といった風だ。

ロミオも、バスターという武器種は細かい事を考えずにぶっ放す代物だ、と博士となった友人が言っていたように、直感で戦うタイプである。

和気藹々とした二人のハシャギ様に、ジュリウスから「まるでピクニックだな」というプライベート通信が入る。

ユウはそっとジュリウスとの回線を閉じた。

 

『ブラッドβ! 作戦対象に無い中型アラガミの接近を確認・・・・・・ヤクシャが近づいています! 予測到着時刻はおよそ30秒後!』

 

「ヤクシャか。想定より近いな・・・・・・片付けにいくぞ」

 

了解、とユウが応答しようとした瞬間であった。

「待ってください」とシエルからの静止が入る。

 

「討伐対象外のアラガミが接近した場合、一時退避という内容の作戦だったはずです」

 

「・・・・・・俺たちの仕事はアラガミの討伐だ」

 

「ギル、作戦通りに行動できないようではより強力なアラガミとは戦えません」

 

「状況に応じて臨機応変に戦うべき局面もある」

 

「作戦理由は何ですか? 本当に戦うべきなのですか? 貴方はただ、戦いたいだけなのでは?」

 

「・・・・・・チッ!」

 

すさまじいメンチの切り合いだ。

先ほどまでの歓迎ムードは何処へやら。ギルの眼光に鋭さが増す。

シエルはというと、こちらは変わらない。変わらず、冷たい頑なさが顔に張り付いていた。

 

『落ち着け二人とも。現場での指揮権は副隊長にある』

 

『ケンカはよくないよー』

 

『あっはっは、ギルの奴怒られてやんのー』

 

『さあ、副隊長、あとはお前が決めてくれ。あと、任務後に個人的に話しがある。覚えていろ』

 

やりやがったな、ジュリウスの野郎。

ギルとシエルがじっとこちらを見ている。

 

――――――え、と。ろ、ロミオの奴またあんなこと言ってらー。ほーんと、しょうがない奴だなー。

 

「ふん・・・・・・あれは、まあ、なんだ・・・・・・あれはあれで、悪くはないさ」

 

――――――おっとお、意外なツンデレ反応・・・・・・あ、なんでもないです。睨まないで。

 

あれはあれで、というギルの言葉は正しい。ユウもそう思っている。

ロミオは、本人に自覚はないだろうがコミュニケーション能力に非常に長けている。

一見しただけでは、ロミオは相手の間合いを鑑みず、ぐいぐいと入り込んでいくムカツク勘違い野郎、とも見える。

だがその本質は、その人が本当に望むものを感じ、そして与えんと努力するギブ&テイクの精神だ。

精神的“対話”・・・・・・とも言うべきか。

つまり、ギルにとって、ロミオのあの接し方こそが望んだものであり、ロミオもまた無意識にギルは“ガス抜き”をすべきと判断して、挑発めいた物言いをしているのだ。

ギルは“罰せられたがっていて”、ロミオはその意を汲んだのではないか。

ギルの破滅的な罪悪感は、ロミオを攻撃することによっていくらか解消されたのではないか。マスコミが流した世論を殴りつけることは出来ない。だから・・・・・・と、ユウが思うに、ギルのロミオへの態度は後ろめたさからであろう。

ギルの最も深い場所に踏み込んだのは、間違いなくロミオだった。怒りと同時に、有難さも感じたはずだ。それをギルも理解していた。だから、憎んではいないのだと、そう言っているのだ。

 

「副隊長。指示を」

 

「ユウ、決めてくれ」

 

――――――もう少し現実逃避したかったよ・・・・・・。

 

答えは解りきっていると言わんばかりに、シエルはアイテムポーチを確認している。

一時退避の準備である。

ユウの答えは――――――。

 

『――――――ヤクシャ沈黙。対象の討伐を確認しました。おつかれさまでした』

 

足元に転がるヤクシャの死体・・・・・・溶けて消え失せるアラガミに死体という表現は正しくないのかもしれない。

オラクルの塵となっていくヤクシャを見れば、自ずと答えは知れよう。

出現予測ポイントへ急行、迎撃。

それがユウの出した指示であった。

 

「・・・・・・任務完了。これより帰投します」

 

やっと口を開いたかと思えば。

ユウが指持を出してからこちら、シエルから一切の発言は無くなっていた。

不服であるという意思表明であるかのようだった。

納得はいかないが、命令であれば従う、という態度のように思える。

事実その通りなのだろう。

ギルが解っている、と言った風にポンと肩を叩いた。

 

「こいつは独り言だが――――――」

 

独り言としては大きな声で、シエルにも聞こえるようにしてギルが言った。

 

「俺は単にアラガミを潰す目的だけで意見を言った・・・・・・そうだな、白状する。戦いたかっただけだ。

 だが、こいつの判断は違ったようだぜ。

 端末のマップを開け・・・・・・ヤクシャの出現ルートを逆にたどってみろ。ヤクシャがやって来た進路上に、物資運搬路がある。

 アラガミから隠された小さなものだ。こいつはおそらく、“はぐれ”だ。この運搬ルートを根城にして付近に遠征をしていたんだろう。

 運搬ルートと、この作戦領域を行き来するタイプ・・・・・・回遊型だな。見ろよ、移動経路がレーダーの策敵範囲外になってやがる。

 だからこれまで発見されていなかった、作戦対象になかったんだ。回遊型は場所に固執しないからな・・・・・・もしかしたら、逃していたかもしれない。

 ここいら一帯には大きめの集落がある。聞いた話しだが、少なくはない被害が出ていたようだぜ。

 アラガミにやられたんじゃない。物資が届かなくて、飢えて死んだんだ。じわじわと苦しむ死に方さ・・・・・・。

 こいつを野放しにしていたら、どうなっていたことやら」

 

「私の、データ収集不足であったと、そう言いたいのですか?」

 

「独り言だ。ただ、こいつの判断は正しかった。俺たちの思惑を超えてな・・・・・・だろう?」

 

「・・・・・・命令には従います」

 

「それでいいさ・・・・・・だが、命令に従うのは信頼があるからだと、そう考えた方がいい。

 上官は信じられる奴の方がいいさ。こいつの決めたことなら・・・・・・そう思える奴の方がな。

 そんで死ぬなら・・・・・・まあ、良い終わりだろうさ。そうだな・・・・・・死ぬには、それがいい」

 

帰投していくギルとシエル。

ぽつんと残されたユウは。

 

――――――なんか、いい話し的な感じでまとめられたのは何故なんだぜ・・・・・・。

 

極東理論でアラガミ絶対許さないしただけなのに、と首をひねるばかりであった。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

どうにも精神的な疲労感が抜けない。

ギルとシエルとの任務後、次にナナとロミオ、そしてシエルとのフォーマンセルを組んで新たに任務にあたった。

ナナとロミオはいつもの調子。

シエルはと言えば・・・・・・圧倒の一言。

 

「ロミオ、シユウには頭部の狙撃を推奨します」

「ナナ、グボロ・グボロの尾ヒレにハンマーはあまり効率的ではありません。胸ビレと砲塔が最も効率的なはずです。そちらも狙ってください」

「ロミオ、無駄な会話が多すぎます。周辺状況の報告をこまめにお願いします」

「ナナ、アラガミの特性によっては銃形態での攻撃で効率が上がります。神機の機能を全て活かすことで最大の成果を得ましょう」

「副隊長、より戦術的な指示や交戦ポイントの選択があります。慎重かつ迅速な指示を――――――」

「副隊長、戦闘中に遊ばないでください。同じパターンの攻撃を当て続けるのはやめてください。そのような事をしてもブラッドアーツの覚醒率は上がりません」

「副隊長、拾ったものを食べてはいけません」

 

逐一、シエルはこの調子である。

間違ってはいない。いないが、監視されているようで息が詰まる。ギルの言った通りである。

ナナとロミオも同じようで。

 

「おでんぱん食べるーって聞いたんだけど、いりません、ってー」

 

「あー、そういやギルはどうなったんだっけ? この前あいつもいらねえって言ってたけど」

 

「ギルは食べてくれたんだよー! この前は悪かったって言ってくれて! だから、ほらこれ、初心者用のおでんぱんあげたんだー」

 

「初心者用・・・・・・?」

 

「串のとこがパスタなの」

 

「・・・・・・そっか」

 

「上級者用のいっとく?」

 

「いや、いいです」

 

「ぶー。男は度胸、何でも試してみるもんだよー、ロミオ」

 

「もう先輩も無くなって・・・・・・あ、いいっす上級者用のいらないっす。いいですそれで、はい」

 

「この前の任務でさ、またシエルちゃんに怒られちゃった・・・・・・。怒ってはいないんだろうけど、うー、もっと仲良くしたいのにー」

 

「シエルに肩の力抜いたらって言ったら、そうですね神機は慣性で振るうべきですねって。そういうことじゃないんだけどなあ」

 

――――――ロミオの出番なんじゃ? ほら、話しにいけばいいじゃん。対話しにいけよ対話しに。心開いてやれって。

 

「いや・・・・・・あれは心を開いてないとかじゃなくて・・・・・・なんて言ったらいいか、こう、勘違いしてるっていうか、ズレてるみたいな?」

 

――――――歩み寄るとかじゃなくって?

 

「いっそ拒絶してくれたら楽なんだけどなあ。そしたらさ、嫌なことがわかる訳だから、逆に好きなことだってわかるじゃん?」

 

――――――深いな。拒絶されるってことは、つまりコミュニケーションを取ってくれてるってことなのか・・・・・・。

 

「よせよ。昔あったことの実体験からだって。肌がこう褐色でさ、手に包帯ぐるぐる巻いた女の子がいたんだけどさー。あー、あの子今どうしてるかな」

 

「拒絶されてるわけじゃない。話しは聞くし、言ってくれるけど、でも気持ちを出してくれるわけでもない・・・・・・うー、難しいよー」

 

どのように接したらよいのか困惑している、というのが正しいだろう。

ここ数日ロビーで行われている会話である。

価値観の相違が発生している相手、例えば文化圏の違う人種同士でコミュニケーションを計った時、しばしば起きる現象であるらしい。

固定観念の齟齬が起きているのだ。

シエルの言う理論の徹底とは、その本質は作業の合理化ではない。精神性の統一なのである。ここをシエルは誤認しているように思える。

低年齢化が進むゴッドイーターに、軍隊の精神性を持ち込もうとしてもエラーが生じるのは当然のことなのだ。

未成熟な精神に、完成された精神性を持っていることが前提の理念が適応できるはずがない。

そしてシエルが致命的に見落としている点がある。

自身もまた、その未成熟な精神性を持った少女であるということだ。

 

――――――シエル、もっと柔らかくなればいいのになあ。

 

「そうねえ」

 

エレベーターの中。

ユウの独り言に、困ったように笑う女神がいた。

いや、ユウの見間違いである。

レア博士がいた。

長い付け爪でエレベーターのボタンを押せず、しょんぼりとしていた所をユウが発見したのである。

指を曲げて間接部分で押せばいいのに、と言ったところ、その発想はなかったという顔をされた。

「天才なの・・・・・・! おそろしい子・・・・・・!」という驚愕の呟きが聞こえた気もしたが、空耳だったのだろう。きっと。

正直なところ、博士としてそれはどうなのだろう、と思わなくもない。

故に、レア博士は博士なのではない。

女神なのだ。

 

――――――良い匂いがする・・・・・・良い匂いがする・・・・・・! 天国はここにあったんや! エレベーターの中にあったんや!

 

レア博士の香水と女性特有の甘い香りがエレベーター内の空間を包み、ユウの思考を掻き乱す。

全ての女性は須らく女神であり、それだけで全てが許されるのだ。

少しの欠点はチャームポイントだ。ステータスなのだ。

博士なのにどこか残念ぽいのが何だというのだ。

博士なのに黒幕臭が全くしないと言い換えるべきだ。

本当に、フェンリルの博士なのに何らかの思惑を感じさせないことは奇跡ではないだろうか。

榊博士に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぐらいだ。否、自分で飲む。レア博士の付け爪を煮出して出汁をとったスープを飲みたい。

どちらかと言えば、努力して怪しさを演出をしようとしているような。それにしては空回りしているが。

だが、それがいい。

 

「そういえば、ねえ、シエルの様子はどう? ブラッドにうまく溶け込めているのかしら?」

 

エレベーターが上階へと昇っていく。

ワイヤーの軋む音がする。

エレベーターもまたクラシックな作りなのは、設計者の趣味なのだろうか。

 

「シエルは元々、裕福な軍閥の出身でね。両親が亡くなったのをきっかけにラケルに引き取られたの」

 

レア博士はどこか遠くを見るかのような目をして語りだす。

後悔をその横顔に滲ませながら。

 

「マグノリア=コンパスでシエルはとても過酷で、高度な軍事教練を施されていたようね・・・・・・極限状態でのストレステストや、少しのミスで懲罰房に入れられたりして・・・・・・」

 

――――――ストレステスト?

 

「飢餓状態、持続的暴力に晒された環境、他者を自らの意思に反して傷つけなくてはならない状況・・・・・・性暴力は行われなかったようだけれど、何の慰めにもならないわ。もっと聞きたい?」

 

首を振る。

聞きたくもない。

聞かずとも実感として理解出来ることを、聞く必要はない。

 

「しばらくして彼女にあった時には命令を忠実に実行する猟犬のような・・・・・・そんな女の子になっていたの」

 

やはり“フェンリルの”博士には向かない女性であると思う。

感情が顔に出すぎている。

痛むのならば、口に出さなければいいのに。

 

「ジュリウスのボディガードをずっと任されていたんだけど・・・・・・。

 守る守られるの関係だったせいか、ふたりは友達にはなれなかったみたいね」

 

過酷な訓練を受ける前、の話しだろうか。

あるいはその最中でのことだろうか。

どちらにしろ、ジュリウス自身から聞いた顛末となったのだろう。

シエルは自分からジュリウスと目を合わせようとはしない。命令を聞くときのみに顔を向ける。

それが事実だった。

 

――――――シエルのこと、よく気にかけているんですね。

 

「ええ。マグノリア=コンパスであの子と一番話していたのは私だから。あの子の服も、私が買ってあげたのよ。

 あの子が初めておねだりしたの・・・・・・嬉しかったわ、本当に。髪型もね、最初は私が結ってあげてたの。

 それまではこう、ひっつめ髪か、伸ばしっ放しのオバケ髪だったのよ。

 身なりなんて気にしたことがない、自分の“性能”を高めることだけが唯一絶対だと信じてた・・・・・・今も信じてるのね。

 そんな女の子・・・・・・ええ、女の子なのよ、あの子は」

 

――――――それは・・・・・・俺も、わかります。あの子は可愛い。

 

「あーあ、とられちゃうかなあ。でもシエルを任せるには、もうちょっとしっかりしてもらわないとね、副隊長さん?」

 

――――――比較的前向きに善処します・・・・・・。

 

「フフ・・・・・・ね、ユウ。あなたなら解っているんじゃない?」

 

――――――何を、ですか?

 

「マグノリア=コンパスで何が行われていたのか。あなたは強いわ。それは戦闘データを見ても一目瞭然。

 シエルが入隊して、うまく部隊が回らなくなって、ブラッドの戦闘効率が落ちてきている最中、あなたの能力だけは上昇を続けている。

 ナナとロミオを見て、何か思わなかった? こんなにも強いあなたに“ついて行けてしまえる”あの二人のことを」

 

――――――戦えるな、と。どこかで訓練を“積み続けてきた”動きです。

 

「基礎訓練だけじゃ説明がつかない戦闘能力よ・・・・・・あなたも同じようなものだけれどね」

 

――――――それは。

 

「誰しも秘密にしたいことはあるわ。私は・・・・・・・私は・・・・・・・駄目ね、自分の馬鹿さ加減が嫌になるわ」

 

――――――秘密は・・・・・・隠したいことは、たくさんあります。あってもいいんだと思います。

 

「でも、生きていくにはつらいわ」

 

――――――自分自身にさえ、いえ・・・・・・自分にこそ、隠したいものがあるのなら、目を瞑って生きていくしかない。

 

「そう・・・・・・暗がりを生きるには、この世界は寒すぎる」

 

――――――誰かが、手を引いてくれる誰かが、います。必ずいます。あなたの側に、きっと。だから、触れ合った手は暖かいから、きっと。

 

「私の側にそんな人は、もう・・・・・・手をつないで欲しい人は、ああ、私がすがりつくだけの手になってしまったわ。私に誰かの手が差し伸ばされることはない」

 

――――――そんなことは。

 

「だって、私、マグノリア=コンパスで何が行われていたのか、知らないもの。

 いいえ・・・・・・理解していて知ろうとはしなかった。怖かったのよ。

 あそこにしか居場所がなかったナナが、ロミオがなぜゴッドイーターとして戦えるまでになっていたのか。

 シエルの受けた訓練内容。シエルの名前が書かれた、内出血と薬剤による皮膚異常で黒く染まった人型の、経過観察資料。

 あの子と一番接していたのは、私なのにね。

 そして・・・・・・そして、ラケルの・・・・・・全部に目を閉じてきたわ。あなたの言う通りよ。そうしなければ、生きてはいけなかった」

 

――――――レア博士?

 

「もし、全部が終わりに向かっているのだとしたら・・・・・・あなたが・・・・・・全部、壊してくれる?」

 

レア博士が何を言っているのか、意味が理解できない。

怪訝そうな顔をするユウに、レア博士は「ごめんね」と言って笑った。

儚く、今にも壊れてしまいそうな、ガラス細工の笑みだった。

 

「フフ、冗談よ。ここのところずっと研究続きだったから、疲れちゃったのかも。今が朝なのか、夜なのか・・・・・・駄目ねえ、肌がくすんじゃって」

 

――――――いえ、眩しいですよ。とても“レア”だと思います。本当に。

 

「もう・・・・・・そうやって極東でも女の子達に良い顔してたんでしょ?」

 

――――――いやあ、あはは。

 

「シエルは人との距離の取り方がとても不器用な子だけど、少しずつ変わろうとしているわ。よければ仲良くしてあげてね」

 

到着のベルが鳴る。

局長室のある階層を示すライトが点いた。

レア博士が手を振ってエレベーターを降りていく。

どこか、何かに諦めたような、自分を傷つけ贖罪を得んとしているかのような、そんな後姿だった。

扉がしまる。

ユウは屋上へのボタンを押した。

フライアの中で、最も“空”に近い場所。

花に囲まれた庭園で、きっと今日もシエルは、一人きりで何かを考えているのだろう。

エレベーターが静かに昇っていく――――――。

 

 

 

 

 

 




まばたきをしたら死ぬホラーフリーゲームにはまってました。
そして日本語化された元ネタサイト・・・・・・ああ、天国はここにあったんや!

いやあ、こんな楽しい設定遊びが海外にあったなんて。毎日寝不足でたまらんです。
冒頭はそれらのオマージュとしてとっていただけたら!
あからさまな伏線、隠してみた伏線。
書いている側にしか解らないようなネタを入れていくのもまた楽しいですね。
遊びながら書けるっていうのは素敵だと思いました。

け、決して前回の投稿で解りやすいところにバキネタ入れたのに全く触れられなかったのが悔しいからじゃないんだからねっ!

しかし今回の投稿分を見返してみますと、かなり文量が長くなっています。
あれ? 短くすると言ってたのに、2万文字くらいになってる、だと?
な、何を言っているかわからねーと思うが・・・・・・なぜだ・・・・・・。
毎回短くするよ的な事を言ってたはずですが、なぜか短くなりません。
そのくせ、場面展開がぽこぽこ起きるので、どうも読んでいて追いつかない感じがしてしまいます。
うーむむ。ゲーム本編も一戦毎にシーン変わりますから、一貫性のあるものを長く、となるととても難しく感じてしまいます。
これが私の腕の限界か・・・・・・!
なんとか短く解りやすいさっぱりした文が書けないものかー。 

仲間達がぎすぎすしているのを見ると、いちゃいちゃしているように見えますよね。
な、何を言っているかわからねーと思うがry



活動報告もまた更新しました。
今回は東方のあれこれでー。

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