フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない 作:ノシ棒
告知が遅れて申し訳ありませんでした。
アニメ化記念の合同企画に参加させていただきました!
多くの作者様方が集まって書き上げた、素晴らしい短編集となっております!
ぜひぜひ読んでいただければ嬉しく思います!
以下作品ページのURLとなります。
http://novel.syosetu.org/55471/
企画発案及び企画進行をしていただきましたウンバボ族の強襲様に、この場にて感謝の意を。
ありがとうございました!
最近。
「シエル、お前、何してるんだ?」
「――――――ギルですか。見ての通り、調整しているんです」
「何の・・・・・・?」
「――――――バタフライエフェクト。一見無駄な動きが、世界線に介入する鍵なんです」
「わかった、わかったからもういい。おい・・・・・・おい! その場で回り続けるんじゃない!」
シエルちゃんが。
「ちょっと! ちょっとシエル! 何してんの!? ここ火気厳禁だって!」
「――――――止めないでくださいロミオ。これは人力故の様式美ですよ?」
「意味解んないから! 何それ何の儀式!?」
「――――――儀式の人の儀式しかないでしょう?」
「んな不思議そうな顔されても。もういいから松明をしまって・・・・・・しまってお願い! ワニキャップどっからだしたのそれ!?」
なんだか。
「あっ! シエルちゃーん! 一緒に訓練しよーよ!」
「――――――ええ、ナナ。いいですよ」
「にへへ・・・・・・やっぱり二人だと訓練も楽しいね!」
「――――――ええ、本当に。これも私に誰かと触れ合うことのあたたかさを気付かせてくれた、副隊長のおかげです」
「うん・・・・・・すごいよねえ、ユウ。フライアが行く先行く先、色んなとこで誰かを助けちゃって。もうブラッドの顔ー! って感じ!」
「――――――少しでも副隊長を支えられるよう、一緒に訓練しましょうね。よろしければ、私がメニューを作りますが」
「あ、お願いしちゃってもいい? わー、シエルちゃんそういうの詳しそうだから、どんなのかちょっと興味あったんだ」
「――――――それでは、今日は高速移ドゥエの練習をしましょう」
「高速い・・・・・・え、移動? じゃない?」
「――――――移ドゥエ練習です」
「移ドゥエ」
「――――――訓練を重ね、いずれ移ドゥができるように頑張りましょうね」
「移ドゥ」
「――――――ドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエ」
「ハヤァイ!?」
変だ。
そう言って、ナナが涙目で詰め寄ってきたのは、ユウが懲罰房から出てすぐのことである。
この一週間と少しの間何が起きていたというのか、ユウには解らない。
だがナナの尋常ではない様子からして、シエルに何かが起こったのだろうという予想はつく。
厄介事の臭いがするなあ、と諦めモードに入るユウであった。
「あんなのぜったいおかしいよぉ!」
――――――いや、俺に言われましても。
「ユウのマネしてるんだよ絶対!」
――――――俺は空中をショートブレードで滑空して着地と同時にステップ刻んで移動速度高めようとかしない。
「嘘だよぉ!」
――――――だってステ弱繰り返すかした方が速いじゃん? アドバンスドステップ連打のが楽だし。
「すてじゃ・・・・・・あどば、んす・・・・・・う、うん?」
――――――シエルのはエリアルステップが抜けてるからまだまだだな。俺だったらツイドラ連射だなあ。ナナもシャッガンなんだし、多少はね?
「ショットガンに加速装置なんて付いてないんだけど」
――――――ラッシュファイアとかドローバックショットの後にローリングで余裕。ラファロリはともかくドロリは練習しないとな。
「も、もー! もー!」
――――――痛い痛い。叩くのやめて、ぽかぽか叩くのやめて。
「シエルちゃんしゃべり方もユウそっくりになったし! なんか変なしゃべり方・・・・・・ユウ語しゃべってるもん! 変だよあれ! 自覚ないの!?」
――――――うん、それ以上は俺が傷つくからやめようね。
「もうユウのマネっこさせるの禁止ね! きーんーしー!」
――――――いやだから、それを何で俺に言うのかっていう。
「シエルちゃんにちゃんと伝えといてね! もーだよ、もー!」
――――――お、おう・・・・・・後で言っとくよ・・・・・・。
シエルは変わった。とても良い方向に。
ほとんどのフライア職員から、シエルが付き合いやすくなったとの声が上がっている。
時折、その鋼鉄だった顔に笑みまで浮かべているのだから、皆さぞや驚いたことだろう。
オペレーターであるフランは、ミッションからシエルが帰ってくるたびにオペレートの的確さの礼を言われる、ととても嬉しそうにしていた。
まるでロボットだという以前の冷たさから一転、ふわりとした、可憐な花のような少女となったシエル。
どこか、この振る舞いでいいんですか間違っていませんか、とおどおどとした小動物じみた態度もまた、特に男性職員から人気が集まる要因である。
「それは“服”に着られるんじゃなくて、着こなせるようになったからだわ」とレア博士が目元をぬぐいながら意味深なことを語っていたのが印象的だった。「花には、青い空。そう決まっているんだから」と。
シエルの笑みは、荒んだ世界に一輪の儚げな花の如く、見るものを癒すものとなっていた。
たとえそれが、ユウの体毛をピンセットで拾い集めビニールパックに詰めては今日の日付と時間を記入する行為の最中に浮かべられたものだとしても。
シエルの変貌はユウが何かしたからではないか。
フライアに広がる噂である。
というのも、その原因はユウの『血の力』にあった。
懲罰房では反省を強制的に促される更生プログラムをすると同時、各種メディカルチェックを厳重にユウは受けていた。
血の力に目覚めてなお、その効果の程が不明であったユウは、逐一データを採らねばならなかった。
神機兵に生身で搭乗するということは、考えているよりも心身、特に精神に大きな影響を与えかねない。効果不明であったユウの血の力と相まって、生命維持にまでその影響は及ぶかもしれない。
どのような影響が、と説明し始めたのは、黒いヴェールに表情を隠し、車椅子に穏やかに掛けるラケル博士だ。表情は穏やかに微笑んではいたが、あれはどうやら、静かに怒っていたらしい。
“説明”はユウだけ個別に5時間以上、半日掛けて行われたのだからたまらない。ラケル博士は休憩あり、ユウは地面に正座でぶっ続け。昼時に目の前で紅茶とサンドウィッチを見せ付けるように食べられたのが一番にこたえた。
「『種は一人で芽吹くものではない』」
何かの一節だろうか。
ユウへの個人授業後、ブラッド隊全員を集めてからラケル博士は言った。
「私はユウを誇りに思っていますよ。愛する家族を守ってくれて、本当にありがとう。これ以上咎められることはもうありませんよ」
感極まって、ソファーに座った左右から抱きついてくるロミオとナナをいなしつつ、今後の予定を聞く。
どうやら神機兵の無人運用テストは、極東支部に到着するまで一時凍結となることになったらしい。
シエルを窮地に追いやった神機兵の小破停止は、データ不足が原因だったようだ。
極東にいるアラガミは、通常のアラガミに見えても中身は別物である。それは極東に近づくにつれ、顕著に表れる。
神機兵が停止したのは、強くなっていくアラガミに対する演算がエラーを起こしたため。
クジョウ博士は青白い顔をいっそう青くさせていたが、この決定は妥当なものであった。
「ううー、ユウー!」
「ユウー! 心配したんだぞこんにゃろー!」
――――――はいはい。ありがとね。
「騒がしい奴らだ」
「でも悪くない、だろう?」
「ふん・・・・・・」
「あの、ロミオ、ナナも。そのくらいに・・・・・・副隊長が困っていますから」
「はーい。へへ、シエルちゃん、何だか柔らかくなったね」
「そう、でしょうか?」
「うん! そっちの方が、ずっと可愛いよ!」
「その・・・・・・ありがとうございます。きっと、私が変われたのなら、それは副隊長のおかげです」
シエルちゃんが笑った、と嬉しそうに驚くナナに、ヒューヒューと口笛を吹くロミオ。
呆れたようにして、しかしはしゃぐ彼等を壁際で見守るギルに、どこか満足そうにしてユウの肩を叩き頷くジュリウス。
仲間。そういうには距離が近く、ずっと温かみが溢れた光景がそこにはあった。
「『喚起能力』・・・・・・とでも呼びましょうか。ユウ、貴方には心を通わせた者の“真の力”を呼び覚ます力がある・・・・・・」
ラケルがブラッド隊のじゃれあいを眩しそうに見詰めて言った。
喚起能力――――――他者の力を呼び覚ます力。
それが効果不明であったユウの、ブラッドとしての能力であると。
連日のメディカルチェックデータにより判明した、ユウの血の力である。
「はー、ナルホドね。だから今までよくわかんなかったのかー。サポート系? だったんだな」
――――――ぱっとしないってのは変わんないよな。ちぇー。
「それでシエルの血の力も目覚めたってことか?」
――――――たぶん。俺は全然自覚がないけど。
「ねえねえユウ」
――――――はいはいナナちゃん何ですの?
「シエルちゃんにいったいどんなことをしたの?」
その時ブラッド隊に電流が奔る。
圧倒的衝撃。前代未聞。
ユウに視線が集中する。
「えっ・・・・・・ユウお前、何かしたのか? ナニかしたのか!? あっ、喚起させるって、そういうこと!?」
――――――何で二回言うんですかねえ!? やめろ誤解を呼びそうな意味にするんじゃない! もっと俺の喚起を大事にして! ・・・・・・おいなんだお前達、その目は。
「当人同士の合意があればその限りじゃないが、正直に言ったほうがいい。シエルは体はともかく、実年齢が・・・・・・あれだからな。お前のためを思っていうぞ。白状しろ」
――――――おいギル! お前、お前常識人じゃ・・・・・・え、何この空気怖い!
「待ってください、皆さん。誤解です」
前に出るシエル。
情動が成長したシエルは、空気を読むということを覚えたのである。今まさにユウが窮地に立ったと察し、庇わんとしているのだ。
真実を語って。
まかせてください、とシエルはユウに目配せして胸に手をあてる。
「私と副隊長は、何か特別なことをしたのではありません」
――――――お、おう! 言ったれ言ったれシエル!
「ただ、私達は一つになっただけです」
――――――そうそう! そのとお・・・・・・り・・・・・・えっ?
「それは特別なことではなく、人の営みの中で、とても自然なこと・・・・・・そう、それは愛、と呼ばれるものなのかもしれません。愛の営みと・・・・・・」
「なん・・・・・・だと!?」
「むー」
「いいの? それ言っちゃっていいやつなの!?」
「深く・・・・・・そう、深く私達はつながったのです」
「やべぇよやべぇよ・・・・・・!」
「ジュリウス、憲兵を呼べ」
「なるほど事案か」
「むー!」
「とっても・・・・・・あったかかったです」
――――――やめてお願いだからもうやめて! お腹に手を当てて眼をつむって感慨深く言うのはやめて!
「いいんだ、ユウ。ちゃんと解っているさ」
――――――ジュリウス! 俺のことわかってくれるのはお前だけだ!
「本当の家族になるだけだ。本当のな。安心しろ、フライアは設備が整っているから一人増えたところでわけはないさ」
――――――てめーとはもう絶交だゼッコー! なんなの? 俺はどうしたらいいの!? 死んだらいいの!?
「死んで責任から逃れようなどと、この俺が許さんぞユウ! 逃げるな! 生きることから・・・・・・逃げるな! これは命令だ!」
――――――それ俺の台詞ゥ!
「まあ、感応現象を利用した介入能力、と捕らえると解りやすいだろう。『喚起』によって相手の意思や感情の爆発に共鳴して感応し、触媒となって血の目覚めを促す。
その際にお前のオラクル細胞を何らかの形で譲渡していると考えられる。“受け渡し弾”のようなものだ。
それでシエルの血の力が覚醒したんだ。『直覚』・・・・・・アラガミの状態を解析し、それを仲間達と共有する、それがシエルの血の力だ。
自身の感覚を伝播させる力、これも一種の介入能力と言ってもいいだろう。
俺の『統制』はコントロール能力・・・・・・干渉能力だ。お前達のように分け与えるものではない。よく似ているよ、お前達は」
「似ている・・・・・・似ている・・・・・・ありがとうございます、ジュリウス。これまでにあった何よりも、嬉しいです。本当に、嬉しい・・・・・・」
「じゃあシエルちゃんも感情が爆発したってこと? シエルちゃんでも爆発することあるんだねえ」
「えっ? あ、は、はい。そ、そうですね。なんだか恥ずかしいです」
「何この会話。まーやっぱりユウは白だったってことで」
「俺は信じていたぞ」
――――――ぶっとばすぞお前ら。おいジュリウス、お前、喚起の血の力こと、詳しく知ってたわけだよなそれ。さっきのは何なの?
「無論お前をからかっただけだが、何か?」
――――――ザッケンナコラー! スッゾオラー!
仲間と呼ぶには距離が近く、温かみに溢れた光景。
それはきっと、家族と呼ばれる――――――。
黒いヴェールの向こう側で、ラケルの顔に微笑みが浮かぶ。
黒いヴェールの向こう側で、眩しいものを見詰めるように細められた目は、優しさと慈しみを湛えている。
黒いヴェールの向こう側で、濡れた舌先が、ルージュを引いてもいないというのに真っ赤な唇を、一舐めして濡らした。
■ □ ■
最近、シエルが、どこか、変だ。
ナナではないが、俺もそう思う。
なんていうか、アリサの変貌を思い出すくらいに急にガラッと変わった。
柔らかくはなった。とっつきやすくはなったんだけど・・・・・・その。
「副隊長! これ、これを!」
額に汗を滲ませて、息を切らせては駆け寄るシエル。
俺を探していたのだろうか、ふうふうと走るその姿は、おとなしい大型犬が主人の姿を見かけて尻尾を全力で振っては大喜びする姿を連想させる。
これ、と喜び勇んで差し出したシエルの手には、一冊の雑誌が。
ええと、なになに?
狙った男性と深い仲になるには、男を喜ばせるテク100選・・・・・・わ、わあー。
「私、ずっと考えていたんです。副隊長に喜んでいただけるにはどうしたらいいか・・・・・・。
レア博士に聞いたところ、この雑誌に男性を元気にさせる術が全て載っていると」
それたぶん違う意味の元気にさせるってことだよね。
雑誌、というより少女マンガの付録じゃんこれ。
肝心な部分は載ってないけど、やたらめったら過激なやつ。最近流行ってるよなこういうの。
なんていうか、チョイスがもう、レア博士っぽい。
どことなく香るポンコツ臭・・・・・・うん、でも、ごめんなさい。
正直とってもムーブメントです! つらいけど!
「その、副隊長にぜひ喜んでもらいたいと・・・・・・その、た、試してもよろしいでしょうか?」
ムーブメントだけど・・・・・・ムーブメントだけど・・・・・・!
ここで頷いたら俺は死ぬ!
本で顔の半分を隠して恥ずかしそうにしながらこっちをうかがってチラ見するとか、すごいポイント高いけど!
フランがカウンターの奥から見てるから! さっきからタイピングの音がダカダカッターンてすっごい大きいから!
向こうのほうにいるギルの耳もピクピク動いてるから! 聞いてないフリしてすっごい聞き耳立ててるから!
――――――それをやったら二重の意味で俺は死ぬから、やめよう、ね?
「そんな・・・・・・はい、わかりました。確かに、そうですよね。考えてみればバナナを舐めることが何故男性を喜ばせることになるのか、理解不能です」
バナナって結構な高級食材なんですけどね。俺食べたことないもん。
ジュリウスの頭に年中生えてるけどさ。
「では、こちらをどうぞ」
こちら、とは。
一瞬、何をされたのか・・・・・・目の前に無防備に放り出された“それ”が何なのか。
これを理解するには、脳の処理能力を超えている。
これは・・・・・・これは・・・・・・。
「その、実は、同年代の平均のものとくらべて肥大していると検査で伝えられてから、みっともないものではないかとコンプレックスに思っていたんです。
でもこれを使えば男性はだれでも幸福感を得られるのだとこの本に・・・・・・ですので、ぜひ副隊長に使って、喜んでもらえればいいな、と。
そう考えたら、このような体であっても・・・・・・私は自分に自信が持てるのではないかな、と・・・・・・その、ですので・・・・・・どうぞ!」
おっぱい。
おっぱいだ。
これは、おっぱいだ。
おっぱいが差し出されている。
生おっぱいではないが、白ブラウスに包まれた平均以上のおっぱい。
間違いない、これはおっぱいだ!
下に手をそえられて、どうぞと突き出されているおっぱいだ!
自分の手じゃないのに解る、ずしりとした質感・・・・・・シエルの手の平からこぼれおちる程の、おっぱいだ!
あ、あああ。
あああああああああ!
お、お、俺が悪いんじゃねえ!
俺は悪くねえ! 俺は悪くねえ!
もう俺ここで死んでもいいや。
うん。
ここで俺は死ぬ! 社会的に死ぬぞ!
俺は人間を辞めるぞ、ジュリウスーーーー!
「ゴホーン! ゴホゴホーン! エホンゴホンエフンエフンフ!」
うわあああっあっあっあ!
ふ、フラン様が見てるぅうううっうっう!
咳払いしながらめっさ睨んでるううう!
あ、危なかった・・・・・・危なかった・・・・・・間一髪だった!
フェンリルはセクハラ事情にものごっつい厳しいんだった!
オペレーターに給料吸い取られてくぐらいに!
ああ・・・・・・おっぱい・・・・・・でも命はまだ惜しいとです・・・・・・あああ。
――――――し、シエル? その、気持ちは嬉しいけど、そういうのは、ね? 大事な人にだけ、ね? するもんだからお願い寄せてあげて近づけないで!
「私の大事な人は、副隊長です」
――――――おあぁぁ理性が・・・・・・俺の理性が結合崩壊していくぅぅ・・・・・・。
「あれから、ずっと考えまして・・・・・・どうしてもお伝えしたいことがあるんです。
ブラッドというチームは決して戦術理解度が高いわけでも規則正しく連係しているわけでもないのに、高い汎用性と戦闘力を兼ね備えた部隊です。
その強さとは、私の理解をはるかに超えて、高度に有機的に機能していることによるようです。
それはおそらく・・・・・・副隊長、きっとあなたが、みんなをつないでいるからなんです」
――――――つながり、ですか。
「私もまた、あなたとつながったという、実感がありました。とても、あたたかかったんです・・・・・・とても。
私は戸惑っています。正直、今まで蓄積してきたものを全て否定された気分です。
でも、嫌な気持ちじゃないんです。それどころか、なんというか・・・・・・ええと、どう説明すればいいのか、ううん・・・・・・少々お待ちください」
きょろきょろと忙しなく視線をさ迷わせるシエル。
ものすごく言葉を選んでいることがわかる。
頬を上気させ、しきりに手をもじもじと揉んで。言葉を尽くして、想いを伝えようとしているかのような。
まるで男女の仲になるための、告白をしようとしているかのようだ。
「副隊長、折り入って、お願いがあります」
――――――う、うん。ナニかな?
「私と・・・・・・友達になってください!」
言い切って、勢いよくシエルは頭を下げた。
勢い余って、両手が羽のように後ろに広げられていた。
しばらく呆気にとられていると、唇を何度も噛み締めて不安気にこちらを見上げるシエルと目が合う。
「あの・・・・・・どう、でしょう」
――――――ええと、俺で、いいの?
「はい! もちろんです!」
――――――なんだ、折り入って何て言うから、どんなお願いだろうと思ったけど、そんなことだったのか。
「・・・・・・だめ、でしょうか」
――――――いや、もうとっくに、友達(ダチ)だって思ってたからさ。びっくりしただけだよ。
「あ・・・・・・ありがとう、ございます!」
ぱあ、と花が咲いた。
一輪の、しかし大輪の、色鮮やかな可憐な花が。
「私はずっと訓練ばかりしていましたので、あまり、こういうことに慣れていなくて。
ずっと、不要だと思っていました。ゴッドイーターには、戦うためには・・・・・・と。
でも、本当は憧れていたんです。仲間とか・・・・・・信頼とか・・・・・・命令じゃない、みんなを思いやる関係性を」
ず、と濁った鼻をすする音がした。フランだった。
カウンターから、こちらを見ないようにして、しかし会話を聞き逃さんといつの間にかタイピングの音が止まっていた。
ハンカチを取り出して目元を軽く抑えるフラン。
オペレーターは副隊長と同レベル程度の、戦闘員の経歴を閲覧する権限が与えられている。
ちらりと流し読みしただけでも、シエルのこれまでの生活環境は、尋常なものではない。
フランもそれを知っていたのだろう。
よかった、よかった、と小さく呟く声が聞こえた。
ギルも帽子を目深にかぶり、表情を見えぬようにしていた。
「あ・・・・・・もうひとつ、不躾なお願いがあるんですけど・・・・・・いいでしょうか?」
――――――ああ、どんとこいさ! 何でも言ってくれ。さっきみたいのじゃないなら、大歓迎さ。
「あなたを呼ぶとき・・・・・・『君』って、呼んでいいですか?」
――――――・・・・・・んんん?
「あ、すみません。いきなり君って呼ぶのは、いくらなんでも早すぎますよね」
――――――え、早い、のか? いや、いいよ別に。
「・・・・・・!」
すごい、まぶしい! 驚いた顔がまぶしい!
ダメだこの子純粋すぎる!
純粋培養軍人娘じゃん!
いろんな、こう、人間関係とか情動について無垢すぎる!
さっきの意味不明な行動も、たぶん俺のことを『君』って呼ぶの許してもらえるような、ポイント稼ぎだったってことでしょ。
性知識とかゼロなんじゃ・・・・・・なんだろうなあ。
純粋に俺を喜ばせようって感じで、男を誘おうっていう色気がなかったもんな。
飼い犬が新しく覚えた芸を見せて、ほめてほめてって擦り寄ってくるような、そんな感じだったし。
わんこ・・・・・・首輪・・・・・・プレイ・・・・・・。
くっ・・・・・・だめだ! 静まれ! 静まれ俺のムーブメント!
くそう、それもこれも全部おっぱいが悪いんや!
「君が、私にとっての初めての・・・・・・友達、です。本当にありがとう」
――――――きっと、すぐにたくさん友達ができるさ。友達がたくさんいると、楽しいもんだぜ。
「そう、でしょうか」
――――――ナナや、ロミオや、ギルにジュリウス、みんなに聞いてみるといい。もうとっくに友達だって言ってくれるさ。
「はい・・・・・・はい!」
そんなに嬉しそうにしてくれると俺もなんだか、つられて嬉しいよ。
まあ、ちょっとずつでいいさ。ちょっとずつで。
歩くような速さでいい。
そうやって、人と人のつながりを、紡いでいけばいい。
何になるかはわかんないけどさ、それがきっと、生きるってことなんだろうと思う。
誰かとのつながりが、俺たちの・・・・・・ゴッドイーターの強ささ。
きっとね。
すぐ消えてなくなるつながりだったとしても。
「でも・・・・・・一番深く、強い絆を結びたいと思うのは、副隊長・・・・・・ううん、君と、ですから」
――――――そうかい。そりゃあ嬉しいな。まあ、ゆっくりでいいよ、ゆっくりで。
「はい。いつかきっと、親友と呼べる間柄になれるように、尽力したいと思います」
――――――努力するもんでもないさ、そんなもの。気付けば勝手になってるようなもんだよ。気にしなくていい。きっと・・・・・・必ずそうなるから。
「はい・・・・・・その時を楽しみにしています。いつか私達の絆が深まったときに、最上の絆が結ばれたもの同士でしか許されない儀式を、きっとしましょうね」
――――――う、うん?
「深い絆を結んだ二人にだけ許される儀式・・・・・・セクロスを!」
わあ、なにそれ聞いたことない単語。バイクレースゲームのことかな?
おいレア博士ェ!
正しい性知識はちゃんと学ばないといけないと思います!
規制かなんかしらないけど、漫画冊子だからちゃんとした語句使えないってのは解るけどさあ!
これが今のティーンエイジの女の子達のトレンドなの?
下ネタという概念が存在しない世界とかになっちゃったらどうしてくれるの!
――――――ま、まだ早いというか、ね? その、ね? 俺がそれをするには色々と問題があって、ね?
「はい・・・・・・それこそ、まだ早すぎますよね。でもきっと、いつかしましょうね」
――――――いやそれはちょっと。
「私は君としたいんです! とても、すごく、したいんです。本当なら、今ここででも」
――――――いつかどこかで前向きに善処しますのでお許しくださいやがれお願いします!
「はい! 約束、ですよ? いつか必ず、セクロスしましょうね」
――――――削れていく。おれの正気度が削れていく。SAN値がピンチになっていく。
「ゴホーン! ゴホゴホーン! エホンエホン!」
「ゲッホ! ゲーッホゲホゲホ! ゲホオ!」
――――――わかってるからあ! イジメいくない!
「風邪が流行っているのでしょうか? いけませんね。自己管理がなって・・・・・・いいえ、移動拠点ですから、予防策をとっても限界がありますよね。
君は大丈夫ですか? 体に寒気や不調はありませんか?」
――――――うん、脈拍とらなくても大丈夫だから。あとあれは風邪じゃなくてモールス信号みたいなものだから。
「呼吸、脈拍共に異常ナシ。体温やや高め・・・・・・少々お待ちください。今、医療班の要請を」
――――――いや、大丈夫だから。これは精神的な疲れによるものだから。気にしないで、うん・・・・・・。
「精神的な・・・・・・疲れ・・・・・・ハッ!」
――――――わあ、嫌な予感。
「これを! どうぞ、これを! 元気になれると!」
――――――お願いだから時間と場所をわきまえてね!
「・・・・・・ハッ! それは、つまり・・・・・・その」
――――――そろそろ俺は泣く。
「ふ、二人だけの秘密・・・・・・というものでしょうか!」
「ゲホンゲホン」
「ゲホゲーホゲホゲホ」
――――――わあ圧力がすごい。うん、そうだね。だからめったにやるもんじゃないよ? ほんとお願いだから・・・・・・。
「秘密・・・・・・約束・・・・・・はじめて、です。君は本当にすごいです。たくさんの初めてを私にくれる、君は本当に・・・・・・」
――――――俺は耐えた。耐え切ったぞ。
あ、あぶなかった。
長く苦しい戦いだった。
エンディングだぞ、泣けよ。
俺は泣く。
「先日の二人で出撃した任務も、本当にすごかったです。君は舞うように戦場を翔けて、息を吸うかのようにアラガミを殺す。
合理的ではない動きも、すべて意味があるものに見えました。綺麗でした。心が熱くなるとは、きっとああいうことを言うんだと思いました。
ただ無駄を削ぎ落としただけでは、その輝きは豪華絢爛足りえないと。きっと君は、絢爛舞踏と呼ばれるものなんだと思います。
軍の中で聞いた、古い、とても古い伝説です」
――――――買いかぶりすぎじゃないかなあ。死んだ魚みたいな光のない目をしてるとはよく言われたけど。
「先日のバレットの件もそうです。ラケル先生はお忙しいので、極東支部に到着するまでは独自で研究を進めていて・・・・・・。
検証実験の感覚では血の力に目覚めたときの感覚ととても似ていたので、君の血の力の影響によるものではないかと思っています」
先日のバレットの件、とはシエルから誘われてバレットエディットの検証をした任務のことである。
ブラッド隊に配属されてからこちら、実のところを言うと、密かな悩みがあった。
バレットエディットのことだ。思うようにバレットが作れなかったのである。
挙動に関してはまあ、新しく乗り換えた神機であるからして、不自由な組み合わせしか出来ないのは想定の範囲内だ。これには慣らしが必要だから、とにかく撃ちまくって神機を“オラクル細胞を吐き出す形”に最適化してやるしかない。
問題は挙動ではなく、オラクル細胞の制御機構にあった。
第三世代機はその見た目と機能からして第二世代機・・・・・・旧新型機とほとんど同じように見えて、その実、やはり中身は完全に別物であるらしい。
オラクル細胞の制御機構がまるで異なっており、第二世代機と同じ感覚で弾をぶっ放していたら、生体部分にまで消耗が及び、整備部に大目玉をくらったのである。
これにはギルも悩んでいたようだ。
“機種変”をしてからこちら拭えない違和感の正体が、これだ。
見た目は同じなのに中身は異なる。前と同じ感覚で使おうとしても、動きはするが、それが本来の使用用途ではないのだ。
バレットエディットとは、ゴッドイーターの感覚によって行われるものであるが、大部分が体系化されつつもある。
ただしそのデータは第一から第二世代機のもの。
どうも第三世代機の“制御モジュール”は完全に異質、別物であるようで、これまでと同じ運用では余剰エネルギーのロスが大きすぎるのだ。
モジュールそのものを変化させるしかないのではないか、と考えてはいるが、どうしたものか。
構成部分から抽出して構築しなおさなければいけないんじゃないか、とは思うけど、うーん。
第三世代機特有のバレットモジュール・・・・・・そいつを見つけ出さなくてはいけない。
シエルとの話し合いもまた同じ結論に至った。
どうも俺との出撃で何かを掴んだらしく、うんうんと首をかしげて考え込んでいた。
バレットがエディットしたものから意図せぬ変化をしたらしい。暴走の危険を孕んだ大問題であるが、どうやらその変化とは良い方向での変化だったようだ。
ここに第三世代機特有の“変異性”が隠されているのではないか。
そしてその変化は、俺の喚起によって引き起こされたものなのではないか。
おおよそ延々とシエルがバレットについての持論を展開し続ける時間だったが、自分だけが口を開いていることにはっと気付くと恥ずかしそうに顔を赤らめるのだから悪くは思えない。
熱くなってしまいました、としゅんとする姿を見て、本当に変わったなあとも思った一件だった。
バレットエディットが好きなのかと問えば、「はい、好きなんです」とほわわーとした顔をしてくれるもんだからもうね。
ムーブメント。
――――――しかし俺の喚起能力って、そんなバレットにまで影響するの?
「・・・・・・」
――――――いきなり真顔になられるとすごい怖いんですけど。
「君を分解して解析すれば、より理解できるのでしょうか・・・・・・?」
――――――ヒェ。
「ふふっ・・・・・・あははっ! 冗談です! そんなに驚いた顔をしないでください!」
――――――あ、あー、あーあれな、冗談な! あははは、はは・・・・・・。
「いえ、そんなに面食らうだなんて、意外と真面目なんですね」
――――――シエルに言われたかないよ。いやマジで。冷や汗すごいんですけど。
ほんの少し変わった関係。
そして変わらぬ日常がまた訪れる。
フライアのアナウンスが鳴り渡る。
よく通る、フランの声が。
『到着まで、推定時間30分となりました』
だれかが、おお、と声を上げた。
窓の外に壁が見えた。
巨大な、対アラガミ防壁が。
円形にめぐらされた壁の中心にそびえ立つ、壁よりもなお巨大なタワー。
そう長期間離れていたわけではないのに、何故か懐かしく感じる。
『ただいま極東支部に到着しました。長時間の運行、お疲れさまでした。手荷物のおまとめ、忘れ物等ございませんよう・・・・・・』
きっと、どこに居たとしても、この光景が胸の奥から消えて無くなることはないだろう。
ふとした時に蘇る憧憬と、ほんの少しの寂しさ。
それを感じる場所を、“故郷”と呼ぶのだろう。
■ □ ■
「んー、んんー」
――――――ナナ、どうした?
「ちょっと制服が窮屈で・・・・・・ほら、インナーとかぴちーっとしててオヘソの窪みが浮かんでるし、首のとことかぐえーって締め付けられて苦しいの」
――――――あー、慣れだよ慣れ。戦闘服だから快適だし、これはこれでいいもんさ。
「ユウはいっつも制服じゃんか。だからそんなこと言えるんだよもー。スカートって動きにくいなあ」
――――――だって服これしかないですし・・・・・・まあブラッドにいる以上、こういう特別感を演出してかないといけないんだと。
「きょーどーする立場になってくってやつ? なんだか実感ないなあ」
――――――俺もなんで副隊長なんてやってるのか、ほんと実感ないよ。仕事はきついのにさ。
「でもユウは実際すごいじゃん。射撃のマニュアル作ったりとか、近接突撃の感状とか、フェンリルからの賞状とか一杯もらっちゃってるし」
――――――なんぼ賞をもらったところでお給料は増えないんだよなあ、これが。賞状に関しては俺もよくわかんない内に増えてくし。
人呼んでなんちゃらって名乗っていいよとか、“称号”あげるよってなんなのよ。
「それだけたくさん出撃して、がんばったってことの証だよきっと。
アラガミの攻撃とかすいすいすいーッてよけて、ズバババーッて攻撃して、ジュリウスと肩を並べられるのはユウしかいない、なんて言われてるくらいだし」
――――――う、うん。それも半分神機様のアシストっていうか・・・・・・最近は自力でやってるけど、うん。
「慈善事業への寄付もフライア月間最多になったって、この前フランちゃんが言ってたし」
――――――それは初耳なんですけど。
「ジュリウスは会議とか研究とかが多いから、フライアのゴッドイーターで誰かを助けてるの、ユウが一番多いと思うな」
――――――そうかあ? アラガミ絶対殺すマン、みたいな感じで、怖がられる方が多いような気がするけど。
「ちゃんと皆わかってるよ。シエルちゃんだって、ユウに助けられたから、あんなに優しく笑えるようになったんだよ。きっと」
――――――そっか。うん、そうだといいな。俺が誰かを助けられてるんなら、いいなと思うよ。
「私のことは助けてくれなかったのにね!」
――――――・・・・・・。
「ねね、どうして私のこと見捨てたの? 教えてよ、ユウ」
――――――・・・・・・。
「ねーえ! いじわるしないで教えてよー! もー!」
――――――・・・・・・。
「ユウのいじわるー。いいもーんだ。今日の極東のご飯、ユウの分まで食べちゃうからね!」
――――――・・・・・・。
「楽しみだなあ、極東。私、昔は極東に住んでたんだけど・・・・・・あ、それはユウも知ってるよね。極東にはどんな食べ物があるのかなあ」
――――――・・・・・・。
「あっ、いっけない。ラケル先生に呼ばれてるんだった! 最近、すっごく頭が痛くって・・・・・・。ごめんねユウ、もう行くね! それじゃ、また後でね!」
――――――ああ、また、極東でな・・・・・・ざまあみろだよ、俺。
いやあ、短編集、楽しかったです。
こういう合同企画、本当にワクワクしますね!
ハーメルンでは合同企画は初めて、なのかな?
私のものに限らず、たくさんのご感想を、短編集ページに書き込んでいただけると嬉しいです。
多くの作者様達の合同スペースとなりましたので、少し書きにくいなーというのがご意見に上がっておりました。
んが、あまり気になされずいっぱい書き込んでいただけると嬉しいです。
ゴッドイーターもとうとうアニメ化しましたね!
アリサが動いたァァア! 下乳! 三角締め! スカートに三角ハーネス食い込む股関節!
ありがとうございます! ありがとうございます!
主人公もいろいろ言われていましたが、全然アリじゃないですかかっこいい。
ただいきなり延期とか総集編とかはさむらしいのがちょっと怖いんだぜw
オオグルマ先生がアニメでどうなってしまうのか、私気になります!
さてGE2主人公の喚起能力の考察です。
つまりこういうことだったんだな?
(´・ω・`) <喚起能力でみんなの真の力を目覚めさせるよ!(パーソナルアビリティ組み換え※GE2RBで追加されたキャラクタービルド要素)
パーソナルアビリティとは、喚起能力によって神機を通じて脳を主人公に操作されるという、真剣に考えるとちょっと怖いシステムのことだったんだよ!
組み換えられた側は主人公と一緒にいると、何か急に色々出来るようになったり出来なくなったりして、ハテナ状態だったことでしょう。
何か今日は調子がいいぜ! へへっ、お前と一緒に戦ってるからかな! みたいな熱血ノリで流していたのかも?
傍から見てると、影響を受けた者はすごい異様な動きを急にするようになったとしか見えないと思います。
こんな感じで。
ζ*'ω')ζ <ドゥエドゥエドゥエドゥエ
(´・ω・`) <ドゥドゥドゥドゥシキソシキソ
( ゚Д゚) <一同ポカーン
次回から楽しい(極東基準)極東支部編(ノーマルモードただし極東基準)はっじまっるよー!