フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない   作:ノシ棒

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8/28:ソーマ・シックザール誕生日

気が付けば初投稿から、ちょうど1年がたっていました。
時間が流れるのは早いですね。


ごっどいーたー:24噛 GE2

別になんてことはないさ。

ぶるって逃げちまった。

ビビったんだよ、俺は、みっともなくな。

それだけさ。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

やばい、冷や汗が止まらない。

はやくも俺はもう、限界かもしれない。

 

「制服着るのって適合試験以来だねえ。あ、ロミオ先輩その帽子かっこいいね!」

 

「だろだろ! へへん、どうよ。第一印象が大事だからな、ナメられないようにしねーと!」

 

「ギルも制服、シュッとしてて似合ってるよ!」

 

「ありがとよ」

 

「ジュリウスもいつもよりずっと綺麗だねえ」

 

「綺麗・・・・・・か? それは褒められているのか?」

 

「えー、ジュリウスは綺麗だよー」

 

「そう、か・・・・・・ありがとうナナ」

 

「ナナ、ナナ、誰かを忘れていませんか? 一番大事な、ほら・・・・・・極東ワードで、最後にトリを飾るという、ほら」

 

「え、ユウのこと? ユウはいつもと同じでしょー」

 

――――――ですよねー。私服とか持ってないからいつも制服だしなあ。

 

「いえ、副隊長はいつも輝いております! いつもと同じなどありえないことです。ナナは審美眼が優れておりませんので、違いがわからないんです!」

 

「えー、それひどくない? だって変わんないものは変わんないし」

 

「何を言うんですか! 慈悲の心に溢れ、理知に富み、その魂の燦然たる美しさたるや、日に日に輝きを増しているじゃないですか!

 その証拠に、これ、私のこのデータブックにきちんと毎日、記録されています! 髪一本に至るまでその違いが現れているでしょう!」

 

「出すな。シエル、ステイ。ステイ!」

 

「おのれギル・・・・・・ご安心を副隊長。私は違いがわかる部下です。ゴールドブレンドです」

 

「シエル、口呼吸、息が荒い。お口チャックだ。いいか、俺たちはフライアのゴッドイーター代表として・・・・・・」

 

――――――オールバックバナナがなんか言いよるわ。なんなの? 同じ制服着てるはずなのにこのオーラの差。俺もうギリギリなのに何これ、嫌味なの?

 

「ま、なんたって極東は最前線、だろ? ジュリウスの言う通り、バチッとキメていかないとな。

 そりゃ優秀なゴッドイーターがわんさか・・・・・・おおおっ!」

 

ロミオの感嘆の声に出入り口ゲートの先を見れば、そこには見慣れた光景が広がっていた。

多くのゴッドイーターがところ狭しとカウンターに足を運び、今日の戦果を語らい合い、次のミッションのミーティングに熱を上げている。

その中心には、カウンターに折り目正しく立つミッションオペレーター。竹田ヒバリ嬢の姿が。

フランが氷柱とするならば、ヒバリは鉄骨であろうか。最前線に相応しい、埃と泥の香りを感じさせるたくましさが、その所作に現れている。

彼女を中心として、ゴッドイーターがひっきりなしに行き交う光景。

つまりは、いつも通りの――――――騒がしい、極東の光景だ。

 

――――――ただいま極東。こんにちは修羅場。

 

「すっげー! 極東ってこんなに人いるんだ!」

 

「ほえー・・・・・・人がいっぱいだー・・・・・・」

 

「フライアは私たちとフェンリル職員だけでしたから、ずいぶん賑やかですね」

 

――――――わー、俺こんなにゴッドイーターが中央ホールにいるとこ見たことないやー。

 俺が来るとみんなサーッてどっか行っちゃうもんなー。あははー。

 

「おい、懐かしいのはわかるが、そんな所で突っ立ってないで早くいくぞ」

 

――――――泣いてないよ? 俺、泣いてないからね? ねえ聞いてるギル?

 

「まためんどくさいモードに入りやがった・・・・・・」

 

「無視していい」

 

いくぞ、とジュリウスに腕を掴まれ、ゲートをくぐる。

重たい門の敷居をまたいだ、その瞬間である。

ざわり、と騒がしかった空気が凍り付いたのは。

 

「おい、あれ・・・・・・」

 

「よその支部のゴッドイーターか・・・・・・いや・・・・・・見覚えが・・・・・・」

 

「まさか・・・・・・いや、うん・・・・・・」

 

「いやまさか・・・・・・まさか、だよな? だって北欧に出向いてるはずだろ?」

 

「はは、そんなことあるわけ・・・・・・ほら、黒い腕輪とか見たことないし・・・・・・いや、でも」

 

「あんな髪型だったっけ? もっとこう、野暮ったかったっていうか。あれもあれで地味だけど」

 

「あれはヅラかもしれん。被り物ばっかしてたしあの人。なんかターミナル操作するたびに髪型とか変わってたじゃん。ワイルドに決めるぜとか」

 

「被りものがアレだって以外の印象・・・・・・意外と薄いよな」

 

「戦績はガチだけど影薄いよな・・・・・・最初の頃とかソーマさんが主人公だと思ったし」

 

「かみか・・・・・・いや、しかし」

 

「かみかり・・・・・・いや、そんな、なあ?」

 

「信じて送りだした極東の英雄が、別支部の任務にドハマリして腕輪が黒くなって帰ってくるなんて・・・・・・」

 

「シッ! 滅多なこと言うんじゃない!」

 

「そうよ! 任務のところは調教って言い直しなさい!」

 

「もう遅い・・・・・・手遅れだ・・・・・・腐ってやがる・・・・・・」

 

「くそっ、こんなになるまで放っておいたなんて!」

 

水を打ったような雰囲気。

これだよ、これ。

わあ、この空気懐かしー。この何かいたたまれない空気が漂うのが俺の知ってる極東だよ。

へへ・・・・・・なんか泣けてきた。

何で俺こうなるの・・・・・・見た目? やっぱりイッケメェンじゃないと駄目なの?

そんなボソボソ言われるくらい俺ってイケテナイメンなの?

いちおう初対面なのに、極東はほんと地獄だぜふぅははー・・・・・・。

うん、初対面初対面。俺と君たち初対面だから。指ささないでください。写メはやめて。

写メはやめ・・・・・・おいそこのお前、いますぐデータを消せ。そうだ・・・・・・それでいい。

ウッオー! クッアー! チックショー!

大丈夫大丈夫俺はまだ大丈夫! バレテナイバレテナイバレテナイ!

あああ見ないでぇぇ俺を見ないでぇぇぇ。

ヒバリさんと目が合ったやばいよおぉぉ。

何かぐっ、と空気飲んで、わかってますよ、みたいな顔して頷かれましても!

それ絶対、黙っててやるから出すもの出せよ? のサインですよねぇぇぇ。

あぁぁまた搾取されるのかぁぁぁぁ。

もう限界・・・・・・限界だからあ!

俺をいじめるのはやめてぇ!

 

「ふん・・・・・・わかっちゃいたが、こうも露骨に余所者扱いされるとな。極東は閉鎖的だと聞いたが、その通りみたいだな」

 

ギルが何か斜め上な感じに勘違いしてる。

いいぞ、もっとしろ!

 

「なんかみんなユウのこと見てない?」

 

――――――ぎくりぎくり。

 

「そりゃ元々ユウはこっちにいたんだからさ、懐かしいんじゃないの?」

 

――――――いやほら、あれだよ! うん、ほら、あれだって! ね!

 

「あれってなにさ」

 

――――――ほら、ね! うん・・・・・・あっ、あー! これ! 腕輪! 黒いじゃん! ブラッドじゃん!?

 

「じゃんって。そりゃブラッドじゃんか、俺たち」

 

「あ・・・・・・そっか。あの人たちからしてみたら、ユウは仲間だったんだよね。でも今は私たちのユウだから、あの人たちにとったら」

 

「あー、仲間をとられた、みたいな?」

 

「あっ・・・・・・ああっ、副隊長! その・・・・・・極東のゴッドイーターに、籍を戻したい、とは・・・・・・思って・・・・・・」

 

――――――いや、俺はもうブラッドだよ。どこにも行かない。ここが俺のいる場所だからさ。

 

「ユウ・・・・・・」

 

「副隊長・・・・・・」

 

ていうか、どこにも行けないからね?

黒くなった腕輪外せないだろうし、俺もうユウ君として生きていくしかないからね?

リョウタロウはもうどこにもいないのだ・・・・・・。

どうしてこうなった・・・・・・どうしてこうなった!

 

「でもやっぱり、つらいよね? いいんだよ、私たちのこと気にしなくても。その、ちょっとは寂しいけど、極東の人たちと遊んできても」

 

――――――いいからいいから大丈夫だから。なんかもうね、呼吸するのがつらくなるから言わないでお願い。

 

「うん・・・・・・」

 

「人工呼吸が必要と聞きまして」

 

――――――あー元気になったー! すごい元気になったー! ほら極東の支部長の所に挨拶にいかないと! 

 俺が案内するし! ここに住んでたから知ってるし! こっちだし! 早く来いし!

 

「ははは、焦っているようだな、ユウ」

 

――――――知らないし・・・・・・黙れし・・・・・・。

 

「お前はいつか俺たちにごめんなさいしないといけないな? ん?」

 

――――――もう気付いてるなら気付いてるっていっそ言ってよぉ!

 

「どうせ上層部の策謀にでも巻き込まれたんだろう? お前がどんな奴だということくらい、俺は知ってる」

 

――――――ぐぬぬ。

 

「ははは、信じているぞユウ」

 

いつか絶対にこのしたり顔してるジュリウスをキャン言わせたる・・・・・・絶対にだ!

オラァ! ここが黒幕風眼鏡の執務室だぞ!

あいさつの時間だオラァ!

眼鏡“ベコベコ”にしてやるよォ!

 

「お! やあ、ブラッド隊の諸君! 極東へようこそ!」

 

「ハッ! 歓待ありがたく存じます」

 

「そんなに堅くならなくてもいいよ。エミールが世話になったそうだね。出来れば直接会いたいと思っていたんだ。

 今回の申し出はこちらとしても願ってもいないことさ。今、極東のゴッドイーター達は『感応種』の登場に頭を痛めているからね・・・・・・」

 

「やはり、戦況は芳しくないのですか?」

 

「何せ新型神機も旧型神機も関係なく動かなくなってしまうからね。おっと・・・・・・もう新型神機、と呼ぶことは出来なくなるのかな」

 

チラ、と薄く線となっていた目が、ほんの少しだけ見開かれる。

狐のような細面から、裂けるようにして現れる眼光は、見るものを畏怖させる力があるようだ。

ナナとロミオが、うっと喉を詰まらせて体を引いた。

いつも通りの、榊博士である。

お久しぶりですねこんちきしょん。

 

「君たちブラッドはその能力で感応種を撃退できる。実にすばらしい、とても心強いよ」

 

――――――こっち見るなし。

 

「我々の最善を尽くします。フライアは極東での活動準備に追われておりますので、また改めてごあいさつに・・・・・・」

 

「ああ、そうだね。ええと、キミはブラッド隊の隊長の、ジュリウス君、であっているね?」

 

「ハッ、ブラッド隊隊長、ジュリウス・ヴィスコンティ、現時点をもって極東支部に着任いたします」

 

「うん。そうだね・・・・・・極東支部について、どう思ったか聞かせてくれないかい?」

 

「どう、とは?」

 

「ここは最前線と言われる場所だ。アラガミの強さ一つとっても、他地域と同じ姿であるとは思えない程の強度を誇る。

 そんな中で戦い続けるゴッドイーター達を君は見たはずだ。どう思った?」

 

「活気がある場所だ、と思いました。とてもここがこの世の果て、強力なアラガミの跋扈する地獄であるとは思えない。

 ゴッドイーター達も皆、一人一人が小支部のエース級の実力を持っている。先日こちらで預かったエミールでさえそうでしょう。・・・・・・ですが」

 

「ですが、なんだい? 言い難いことでもかまわないよ。率直に、どんな意見でも言いたまえ」

 

「ここは人の命が燃え、最も強い輝きに満ちた場所でしょう・・・・・・ですが、光が強いほど、闇もまた濃い」

 

「ほう・・・・・・なぜそう思うんだい?」

 

ジュリウスの眉間に皺が寄る。

極東支部に入る直前、海沿いのルートを通ってきた。

そこで皆が見た。

建設破棄されたエイジス島の成れの果てを。

ゴッドイーターならば誰もがあの島に感じるはずだ。

アラガミを・・・・・・オラクル細胞を引き寄せる何かがあると。

事実、エイジス島のおかげで極東の“アラガミ動物園”化は歯止めが利かなくなりつつあった。

 

「あの」

 

申し訳なさそうに口を開いたのはナナだった。

上官と支部長の会話中、口を挟んではいけないと理解しているはずなのに、言わずにはいられない事があったのだろう。

ジュリウスが鋭く叱咤しようとしたが、榊博士によいと手で制される。

 

「極東支部の、壁を越える寸前に・・・・・・その、外の人たちが、助けてって、壁の中にいれてくれって、泣いてるのを見ました・・・・・・」

 

「そうかい・・・・・・君達はここに来る途中にエイジス島を見たね? “事故”により前支部長が亡くなり、アラガミを誘引する場所となって開発が頓挫したものだ。

 エイジスに回す資材が余剰するようになったとはいえ、未だどうにもならないことはある。

 君達は“箱庭”の世界しか知らないようだ。これが今の人類の置かれた戦況だよ。

 私とて心を痛めている・・・・・・しかし壁を開いてしまっては、ここはすぐにパンクしてしまう。牙を尖らせたアラガミがすぐ目の前にいる・・・・・・扉は閉ざされていなければならない。

 救う人間を選んでいるのではない。だがね、どうにもならないこともあるんだ・・・・・・それを君達は、ここで学ぶといい」

 

「でも・・・・・・!」

 

――――――ナナ。

 

「・・・・・・はい、わかりました。ごめんなさい」

 

どうにもならないこともある。

しようがないことさ。

ゴッドイーターに異様に明るくって派手な奴らが多いのは、そういうプレッシャーから逃れようとしているからなのかもしれない。

戦いの中、吹いたら消えるしかない命を、誰かに覚えていてもらおうとしているのかも。

誰も彼もが追い詰められていて、必死なんだ。

決断を下さなきゃいけない榊博士も、そりゃあつらいもんだぜ。

疲れたように目元を擦るのは、決まって誰かを切り捨てなきゃいけない判断をした時だ。

研究のためなら何日も徹夜したってピンシャンしてるこの人がだぜ。たまんないよな。

戦うやつもいれば、逃げ出す奴もいる。

誰も責められないさ。

誰もね。

 

「だが、我々もただ見捨てるなどということはしない。決してだ。それは信じてほしい。今、対アラガミ装甲で覆った新たな居住区をいくつも建設しているんだ。

 極東にくらす人々の・・・・・・人類の生存権を拡大しようというプロジェクトが進められている。ぜひ、君達にも参加してもらえたら嬉しいよ」

 

「わあ・・・・・・はい!」

 

泣いた子がなんとやら。

あれか、『クレイドル』か。

ここを出た時、ほとんど着の身着のままで飛び出しちゃったからな。

誰にも会わずにフライア入りしちゃったもんなあ。

フライアっていっつも移動してるから、“停留所”に留まってるとこ急いで飛び乗らないといけなかったもん。

アリサ元気にしてるかなー。

 

「榊支部長、私の部下を不用意に巻き込まないでいただきたい」

 

――――――おおっとぉ。

 

「ああ、うん・・・・・・うん?」

 

ジュリウスさん何してはるん?

え、ちょっと、おま。

何ガチの殺気振りまいてんの?

おいやめろマジで。

この人これでも支部長だかんな? 

初対面で敵意剥き出しとか、失礼ってレベルじゃねーぞ!

お前さんがそんなこと解らないわけねーだろうが!

 

「ユウもまた、そうやって善意を貼り付け、正義を隠れ蓑に、自ら志願するように差し向けたのでしょう?」

 

「えっ・・・・・・私、まさか・・・・・・」

 

「ナナ、不用意に提案にうなずいてはいけない。ここは極東で、俺達は所詮ぬるま湯しか知らない、余所者に過ぎないんだ」

 

目が怖い、目が!

ど、どうしちゃったのこいつ。

ナナも騙されていたの、みたいな顔しちゃってるし。

ちょっと! 榊さんこっち見ないで!

怪しまれないように視線そらしてたの台無しじゃん!

わあ! すごい! 聞こえる! 心の声が! アイコンタクト!

その時ユウと榊の間に、電流走る・・・・・・!

 

(リョ・・・・・・ユウくん・・・・・・これ、どういうことだい?)

 

――――――(いや、俺にもさっぱり。何でこいついきなりブチ切れてるのか意味不明なんすけど)

 

(この敵意の向けられ方は尋常じゃないのでは・・・・・・いったい何が・・・・・・)

 

――――――(ていうか、あんまりこっち見ないでくれませんかねえ? 俺は清廉潔白な新兵のユウ君なんで。支部長のつながりとかあるわけないペーペーなんで)

 

(待ちたまえ。私が悪いんじゃないぞ。二年は帰ってこないという計算だったんだ。

 フライアに長期間滞在することになるからこそ、あんな強引な手段をとったんじゃないか。

 適当に暴れてもらったら、技術交換の名目か何かでこちらに帰ってきてもらうつもりだったんだ。

 その後は戦死したなりなんなり、こちらで技術解析して黒い腕輪を複製したなり、なんとでも言い訳は立ったはずだよ。

 それを君、半年たたない内に戻ってくるとか、私としても想定外だよこれは!)

 

――――――(んなこっちゃ俺に言われましても知りませんがな。完璧おれが割りを食ってますやん。どないしてくれるんでっか!)

 

(私にも・・・・・・解らないことくらい、ある)

 

――――――(なんだってとか言わないしごまかされないぞ俺は! うわジュリウスがかつてないくらい怖い顔してるんすけど!)

 

(そうか、解ったぞ!)

 

――――――(どういうことだってばよ博士ェ)

 

(ジュリウス君はデータを見ただけでもとても有能だ。君の事情など、すでにさくっとまるっとお見通しだろう。

 そして・・・・・・いや、だから彼は勘違いをしている! 賢いからだ! 自らが見つけた手がかりを疑うことはない・・・・・・!)

 

――――――(つまり?)

 

(どうも彼は、君を私がハメて、後ろ暗い任務に就けたと思っている・・・・・・のではないかね?)

 

――――――(えー、いやそんなことありえ・・・・・・うーん、ないと思うけどなあ)

 

ジュリウスをチラ見する。

なんかすごいイライラカリカリしてる。

こんな苛立ってるジュリウス初めて見たようわー。

 

「ユウは私の部下です。榊支部長、こちらにいた頃はいざ知らず、もはや彼は私の部下なのです。

 以前のつながりを傘に命令を下されたら、立場としても、心情としても、彼は従うしかないでしょう。

 だが私は違う。私はあくまでフライア直轄の部隊、その隊長です。不当だと判断した任務は拒否する権限が私にはある。

 そして拒否権を行使した場合、説明義務が発生します。ご理解・・・・・・いただけますか?」

 

「え・・・・・・うん、まあ・・・・・・」

 

「私の部下は・・・・・・ユウは、俺が守ります」

 

わーかっこいいー。

ちょっと、アイコンタクトやめてくださいよ博士。

 

(だいたい合ってそうじゃない? しかもこれ、私に脅迫されたとか言い出しそうなんだけど?)

 

――――――(何か俺に裏事情があって、それに俺が不満抱いてるっていうのまでは見抜かれましたけど、こんなナナに言ったのが飛び火して爆発するとか)

 

(いやあ、わからないよ。だってどう見ても彼、君のこと好き過ぎるもの)

 

――――――(うげぇ、やめてくださいよ・・・・・・)

 

「あなたが何を考えているかはわかりません。ですが、極東の支部長というお立場で、我々フライアのメンバーにお命じになるのならば、相応のお覚悟をお願いします」

 

(これ・・・・・・まさか、私が何かの陰謀の黒幕だ、とでも思ってるんじゃないだろうね?)

 

――――――(誰もが通った道。しょうがないね?)

 

(まってくれ誤解だ! 私はこんなにも目が澄んでいるじゃないか・・・・・・あっ、逸らさないで。助け舟を! カルネアデスの板を!)

 

――――――(残当)

 

なんぞかんぞで榊博士にくらった最大級のやらかしだからね?

潜入調査のために別人になったはいいけど、古巣に全員連れて引き返すハメになるとか、さすがに予想しきれないのはわかるけどさ。

今後、フライアの体制が極東に一時的に組み込まれることになるだろうし、うん・・・・・・部隊内ならまだいい。フランや、文官の人達にバレるとこれは本当にやばい。

軽く言ってるけど詐称や書類偽造繰り返しまくってるから、フライアの面子にバレるとガチでやばい。本部直轄だからほんとやばい。直通で通報されちゃう。

榊さん揉み消してくれるんすかねほんと・・・・・・。

一時的にデータ収集のため立ち寄っただけーってことだし、それ終わるまでの辛抱だろうけど。どんだけかかるんだろ。

エミールとかエミールとかエミールとか・・・・・・あとエリナとかコウタとか、そういうところから漏れる未来しか見えない。

冷や汗が止まんない・・・・・・大丈夫大丈夫大丈夫。

まだバレてないまだバレてない。

まだ・・・・・・ってことはいつかバレ・・・・・・イヤァァァァ!

もうここまで来るのに限界だったからあ!

嫌だよこんなギスギス生活!

もう限界!

限界ですからあ!

 

「安心したまえ」

 

榊博士が静かに口を開いた。

 

「権力の座に着いた者は、嫌が応にもその力を行使しなければならない。冷酷に切り捨てなければならぬ時もあるし、誰かに泥を被ってもらわねばならない時もある。

 でもね、私は・・・・・・私は、少数を切り捨て、多くを救うというロジックを認めない。それはご理解いただけるね?」

 

「ですが・・・・・・必要に駆られれば」

 

「そうだね。私もまた、人の矛盾を抱える者だ。きっとその泥を被るのは、ここにいるゴッドイーター達だろう。だが私は、信じている。極東の戦士達は、絶望の沼など揚々と踏み越えていくと」

 

にっこりと榊博士は笑った。

何時もの胡散臭い笑みではない、子供を教えるような、大人達がよく浮かべる表情だ。

 

「私に信が置けずともいいさ。でも、彼のことは信じられる、そうだろう? 大丈夫だ。どんな壁も、彼は打ち壊して、乗り越えていくさ。だから、安心しなさい」

 

「・・・・・・ハッ、口が過ぎました。大変失礼な真似を」

 

「いいんだよ。では、さっそく15時にラウンジに集まってくれたまえ」

 

「ブリーフィングですか?」

 

「まあ、そんなところだよ」

 

――――――エエ話しにして勘違いフラグ回避しよったでぇ・・・・・・。

 

「何か? 質問でも?」

 

――――――いいえ何もありませんです、サー。

 

「よろしい。では改めてフライア諸君、ようこそ極東へ」

 

にんまりとする榊博士は、いつもの胡散臭さを漂わせていて。

 

「そして、おかえり。“リョウ”君」

 

――――――ちょっ。

 

「リョウ?」

 

「彼のあだ名さ。R・ユウ・・・・・・リョウ、とね」

 

――――――いいの? これセーフなの!? いいの!?

 

「後でまた、ゆっくりと話そう」

 

本当に冷や汗が止まらない。

でもこの刃の上に立っているヒヤヒヤ感。ああ、極東に帰ってきたんだなあ、と強く実感する。

綺麗なお姉ちゃんよりも、故郷を想わせるのが胡散臭いおっちゃんの含み笑いだったってところがまた、らしいかもしれない。

比較的スムーズでありつつ、多大な波乱の予感を含みつつ。

フェンリル極致化技術開発局フライア所属、ブラッド隊。

極東入り――――――。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

「んんんん! 見渡す限りのご飯、ご飯、ごはーん! こっ、ここが人類の理想郷・・・・・・!? 極東って・・・・・・最ッ高じゃないですかーっ!」

 

「ブリーフィングという名の歓迎パーティか・・・・・・フ。どうやら先入感を抱いていたのは俺達の方かもしれないな」

 

「ねね! ジュリウスこれおいしいよ! これも! 私テンプラなんて初めて食べたよー!」

 

「そうか。ジャパニーズ・スシを食べるのは俺も初めてだ」

 

「あ、これムツミちゃんが隊長さんにーって! おとなだけ? が飲むジュースだって!」

 

「ありがたくいただこう」

 

「あーらら、はしゃいじゃってまあ・・・・・・」

 

――――――サツキさん達もこっちにきてたんですね。いやあ、偶然だなあ。

 

「ま、こっちはいくらかフェンリルの動向掴んでますからね。榊支部長からいいことあるからおいでって言われたら、そりゃあなた絡みでしょうよ。ねえ、ユ・ウ・君?」

 

――――――いやあ、あはは・・・・・・。

 

「えっ・・・・・・まじで!? おまっ、“リョウ”じゃん! 帰ってきてたの!?」

 

――――――人違いです。

 

「なんだよもー! どこの支部に行ったかも教えてくれずに・・・・・・フライアだっけ? あのでかい艦みたいなの。すげーなリョウ!」

 

――――――人違いです。

 

「あー! エミールがなんかこの前、研修って名目で助っ人に行った所か! はー、世界って狭いもんだなあ。あいつひっきりなしに不死鳥がどうとか、ニンジャがなんとか言ってたけど」

 

――――――人違いです知りません。ニンジャなんていない。いいね?

 

「アッハイ・・・・・・てゆーかユノ! 生ユノ! いやーユノさん極東に帰ってくるの久しぶり・・・・・・ほら手振ってる手! 口パクしてるから! り・よ・う・く・ん? モゲろよお前!」

 

――――――人違いです。人違いだってば。

 

「リョウも帰ってくるならくるって言ってよもー! そしたらアリサとかソーマも呼んでさー」

 

――――――人違いだっつってんだろうがこの野郎! コウタ馬鹿野郎!

 

「えっ、なに? 何で急にキレるの?」

 

「リョ・・・・・・ウ・・・・・・ですも・・・・・・!?」

 

――――――シエルちゃんは向こうに行ってようねー!

 

「副隊長の姓名は・・・・・・神薙・R・ユウ・・・・・・Rユウで、リョウ・・・・・・あだ名呼びは、極東における親友の証・・・・・・!」

 

――――――お、おう?

 

「今後は私をアランとお呼びください」

 

――――――お願いだから綺麗な思い出にしといてくれませんかねえ!?

 

「ぐむむ・・・・・・極東には負けません・・・・・・負けませんから!」

 

――――――はーいシエルちゃんナナと一緒に遊んでようねー!

 

「あー、なに? 別人設定とかそんな感じ? まためんどくさいことしてるよね。スパイ?」

 

――――――声がデカイっての。榊さんに文句いってくれよほんと。

 

「リョウはこっちでのあだ名ってことで通せばいいんじゃない? リョウなんてありふれた名前っしょ? 俺ゴッドイーターになってから10人くらいリョウって登録名見たし」

 

――――――ほんとかよ・・・・・・あの雑誌のほら、恥ずかしいやつとかはどうなの?

 

「あーあれ。あれはプライバシーのなんとかで名前掲載されてないし大丈夫っしょ」

 

――――――なんなの? 名前バレまではOKなの? 重く考えすぎてるのは俺だけなの? 訳がわからないよっ!

 

「別人だってしちゃったんなら、もう適当に自由にしてたら? 名前縛りももうそんな意味ないだろうしさー。それじゃこうしようか」

 

――――――それじゃあって、何するのさ。

 

「わー! リョウ久しぶりだなー! お前、あの神狩人と同じ名前だもんなー! 伏せられてるけど神狩人の名前もリョウだからなー! 同じ名前だわーカーッ! リョウだわー! 同姓同名だわー! 極東じゃよくいる名前だもんなーリョウってー! カーッ!」

 

――――――やめ、やめろォ! マジで何やってくれるのお前!? 

 

「まじで!? え、神狩人の名前ってリョウっていうの!? ユウのあだ名と同じ名前なの!?」

 

――――――ロミオも向こうに行ってろい! こういう話題だけ食いついてくんな!

 

「ほらね、こうやってバーンとオープンにしてった方がいいんだって。バレないバレない。

 同一人物だってことが解んなきゃいいのさ。潜入するために誤魔化すのが必要だったのは最初だけ、腕輪の審査通す時だけでしょ? 入っちゃえばこっちのもの、もう隠す必要もないって。後からバレても平気だよ」

 

――――――フェンリル直轄領の怖さを知らないからそんな事言えるんだっつーの!

 

「フェンリル本部のやり方は知らないけど、榊博士のことは信じてるよ。もう対処済みでしょそこんとこ」

 

――――――どんどんドツボに嵌っていく感じがしてる・・・・・・なんで榊さんも偽名設定とかしたし・・・・・・後でこーやって展開がわちゃわちゃしてくるんだからさー、俺が続投じゃなくて、新キャラつくったらよかったじゃん。

 ほら壁外でやんちゃしてたレンカ君とかさあ、すげー主人公体質じゃん。なんで俺なんだよもう。

 

「本人確認がとれなきゃセーフセーフ。同名のそっくりさんだってことで。リョウはあだ名。いいんだよそれで」

 

――――――コウタが毒された・・・・・・俺が隊長なんかにしたから!

 

「ほんとだよ。そこんとこ俺マジで恨んでるからね」

 

――――――ごめんなさい。

 

「でもさ、こんだけすぐにボロが出てくるんだから、いつまでも隠し通せるなんて思わないほうがいいよ。むしろ開けっぴろげにして、公然の秘密みたいにしてった方がいいんじゃない? それにもう向こうは全部承知の上で、泳がされてるだけなのかも」

 

――――――だよなあ。普通に考えるとバレてない訳ないんだよなあ・・・・・・考えたくないけど。ラケル博士とか陰謀好きそうだし。なんで博士ってのはこう・・・・・・ぶつくさぬいぬい。

 

「榊博士もカンフル剤扱いで入れたんじゃない? リスク承知で劇薬に劇薬ぶちこんだとか、そんな感じだと思うけど。裏返せば、それをしなきゃいけない理由がある、ってことで」

 

――――――榊さんが警戒するとかなんだよ。また終末的なアレか? 中身がやばそうな神機兵くらいしかなかったけど。

 

「何、リョウ神機兵乗ったの? いーなー、あれかっこいーよなー。俺フィギュア欲しいんだけどさあ」

 

――――――なんとかいうバーチャルアイドルはどうなったのよ。

 

「シプレは別腹シルブプレ? で、神機兵はどうだった? やばいってのは、終末的な?」

 

――――――どうだかな。暴走とかして野良アラガミ化しそうな雰囲気はあるなあ。俺はその前に自分の生活が終末になりそうで怖いんですけど。

 

「アフターフォローは万全でしょ。支部長になってから榊博士の権限増えたし、裏工作とかもうお手のものでしょ。人を一人増やしたり減らしたり、それがバレても問題ないってふうに取引したりさ」

 

――――――まあ、リンドウさんとかソーマに比べたら大した爆弾じゃないんだよな。成果上げてたら黙認されるとこもフェンリルにはあるし。

 

「リョウはやりすぎてるとこあるけどね。ま、榊博士が警戒してリョウを投入したっていうんならさ、これはもう、普通のことじゃない」

 

――――――俺がってだけで大げさな。

 

「控えめだよ。これでもね。悪いけど、俺、フライアの中枢信じてないからね。ブラッド隊だっけ? いい面子だと思うよ。でも知らないうちに踊らされるなんてこと、よくあることでしょ?

 それはあっちの隊長さんも、同じ意見なんだろうけどね」

 

――――――わかるんだ?

 

「わかるよ。これでも俺、極東支部第一部隊の隊長だからさ。こっちをさぐるような気配がたまに飛んでくる。同じ隊長だから、そりゃ気になるよね」

 

――――――いい顔になったよ、本当に。隊長らしくなった。

 

「前任者が優秀だったもんだから、これくらいは当然っていうかさ。まあ、“第一部隊の隊長の仕事”はいつでも出来るように準備しておくよ。俺は引き金を絞るのに、三つ数える必要なんてないからね。あじーん、どばー、とりーってね。

 で、それはまた向こうも同じ、と。いいんじゃない? 銃口突き付け合わなきゃ信用できないっていうんなら、それはそれで」

 

――――――隊長ってのは本当に面倒臭いもんだな。お前におしつけ・・・・・・任せて正解だったよ。

 

「言い方変えてもだめだからね? 聞こえてるからね?」

 

――――――なんの因果か、なんでかおれもブラッド隊副隊長だよ・・・・・・。

 

「ぷーくくく! ざまぁ! 俺に押し付けた報いだっての!」

 

――――――こいつ・・・・・・っ!

 

「なんやかんやあって結局あれじゃん? 最終的に、リョウがブラッド隊の隊長になっちゃったりするんでしょ?」

 

――――――なんやかんや言うの止めろよ! こえーよ!

 

「ままま、それじゃ俺、代表挨拶しなきゃだから後でねー。えー! ブラッド隊のみなさーん、極東へようこそ! それでは、ブラッド隊ジュリウス隊長にお声を一ついただきましょう!」

 

「本日はこのような会を催していただき――――――」

 

「やだ・・・・・・イケメン・・・・・・!」

 

「ほんとやだ・・・・・・イケメン・・・・・・!」

 

「もうだめ・・・・・・イケメン・・・・・・!」

 

――――――あのバナナ枯れたらいいのに。分離してブーメランになればいいのに。ロアルドロスになっちゃえばいいのに。

 

「先輩は自分を卑下しすぎ。うっとうしいんで落ち込まないでください。まあ、そこそこだと思いますけど? そこそこ、まあ」

 

――――――俺の味方はエリナだけだよ・・・・・・あ、俺先輩とかいう人と人違いだからね。違う先輩だからね。

 

「はいはい、もー、面倒くさいなあ」

 

「ああー、いー顔! ほんとに駄目なんだから、みたいな顔! そんないい顔Sランク評価取ったときでも見たことないや俺」

 

「コウタ隊長はあっち行っててください! ジュリウス隊長を見習ったらどうですか? すごい隊長っぽいですからね! そんなだからコウタって言われるのよ!」

 

「ごめんリョウ、俺同じ隊長だとかってカッコ付けてたわ。これ意外と傷付くわ」

 

「バカラリー、ハウス。ああもう、先輩も! 手ぶらじゃないですか! ほらドリンクと軽食! まったくもう、もう!」

 

――――――なんかこのサンドウィッチ形がいびつっていうか、ムツミちゃんが作ったのこれ?

 

「私ですけど何か? 別に、サンドウィッチとかパンを切って具材を挟むだけでしょ。文句があるなら食べないでください」

 

――――――あ、食べる食べる。うまいなあ。うまい。

 

「ふん。初めから素直にそうしたらいいんですよ。ほんとに素直じゃないんだから」

 

「ブーメラン」

 

「で、先輩、まだ言ってないことあるんじゃないですか? 大事なこと」

 

――――――んー、ん・・・・・・まあ、そんな感じじゃないし、またすぐ出てくだろうけどさ。

 

「はっきり言う!」

 

――――――ただいま、エリナ。

 

「ん! おかえり・・・・・・おにいちゃ」

 

「おお? おおおっ! おおおおおっ! 心の友よ! 強敵と書いてともと呼ぶ、我がライバルよ! 楽しんでいるかい!」

 

「ウザ」

 

――――――出よったわ。

 

「極東はどうだい? フライアも優雅だが、ここはここで趣があっていいだろう!

 土と油のにおい・・・・・・それは決して不快ではない。むしろ懸命に生きている人の活力が伝わってくる。さらにその中で一杯の紅茶を飲む。

 それら全てのにおいが混ざったときに感じるんだ。

 ああ・・・・・・僕は彼らを護り、また僕も、彼らに護られているんだ・・・・・・と!」

 

――――――言ってることは立派なんだけど。ほんと立派なんだけど・・・・・・ほんとね。

 

「そう、君のように・・・・・・かみかりう」

 

――――――忍者だから! 俺忍者だから! ケジメすんぞ!

 

「おっと、失敬。僕としたことが・・・・・・どうか許してほしい。君もまた、僕のように、不死鳥となりし存在だということを失念していた。ああ友よ! 君の秘密を容易に口にせんとしたこの僕を、どうか許してくれまいか!」

 

「エミールうるさい! 今は私が話してるでしょ!」

 

「ああ、フライア諸君、このエリナは極東の妹ポジションと思って扱ってくれたま」

 

「しにゃーっ!」

 

「るるーっしゅっ!」

 

「エミールの水平飛行ってもう極東名物だよな」

 

――――――ナイスキックナイスパンツエリナ。

 

「ふしゃーっ!」

 

――――――なんかブラッドメンバーもあちこちで騒いでるし、みんな馴染むの早くね? ナナはムツミちゃんにべったりだし、ロミオは野郎ズに混じって肩組んでるし、シエルは・・・・・・何? 何か動物? 見てるの?

 

「ああ、あれカピバラ。何かそのへんにいたから、ここで飼おうって」

 

――――――そっすか・・・・・・。

 

「よいしょっと、また俺の出番ね。こういう司会とかって俺けっこー好きなんだよね。えー、続きまして! ユノさんお帰りなさい! どうぞ何か一言!」

 

「えと、あの、ユノです。皆さんおひさしぶりです。極東支部は、いつきても活気がありますね。

 ここに来る前に、サテライトを訪問してきました。サテライトの建設が始まる前・・・・・・覚えていますか?

 みんな、泣いていた。つらくて、くるしくて、お腹がすいて、寒くて・・・・・・寂しくて、心細くて。

 私が初めて極東支部を訪れた時、見たものは、壁に寄り添うようにして・・・・・・亡くなっていた方々でした。

 小さな子供もいました。おなかの大きな女の人も。壁にすがり付いて、小さくなっていました。

 そして・・・・・・そのすぐ傍らで、ぎゅっと拳を握って、唇を噛んでいる、ゴッドイーター達の姿が・・・・・・。

 サテライトの建設が始まった頃です。今では、人が住める場所が増えました。でもあの頃はそうじゃなかった。

 誰もが命をつなぐことさえ出来ず、そして、ゴッドイーターはその架け橋となることさえ出来ず・・・・・・。

 では、無駄だったのでしょうか。あの人たちの悲しみは、あのゴッドイーターの握り締めた手の中にあった、無力さは、全部無駄だったのでしょうか。

 いいえ、違う。違うと思います。私は違うと、そう思います。

 旅立つ前に学んだことがあります。これも、あるゴッドイーターが教えてくれたことです。何も語らずに、その背中で、生き方で、私に教えてくれたことです。

 たとえ明日、世界が滅んだとしても、私は今日、リンゴの木を植える――――――そういうことだと、思います。

 えと・・・・・・長々とすみません。こういう挨拶は慣れていないので・・・・・・それで、もしよかったら、歓迎会のお礼に」

 

「お、おおっ、歌ですね! いやー、なんかジンときちゃって・・・・・・はは、実は準備バッチリなんだなこれが! ささ、ピアノの調律も完璧ですよ! それじゃユノさん、お願いします!」

 

「――――――窓を開けて、濡れた、その瞳上げて・・・・・・」

 

「キレイな歌ですね・・・・・・なんだか、胸が」

 

「うんうん、私トリハダぶわーってきた!」

 

「あのユノさんがブラッドのために歌ってくれた・・・・・・俺もう死んでもいい、極東で死んでもいい・・・・・・極東に来てよかった・・・・・・」

 

――――――ロミオ君ガチ泣きでらっしゃる。ハンカチ使う?

 

「なんだよ、ユウは感動しないの? なんでそんな飯食ってるの? パスタ大盛りすぎっしょ!」

 

――――――まあ、聞きなれてるっていうか。正直あんまり趣味じゃないっていうか。

 

「はあ? あ、ユノが、生ユノさんが手を! 手を振って・・・・・・! り・よ・う・く・ん? お前かよ! どうなってんだよ!」

 

――――――気のせい気のせい。

 

「しかし過剰なまでの歓迎を受けてしまったな。歓迎会があるのなら事前に教えて欲しいものだ。スピーチを即興で考えるのもなかなかに骨だ」

 

「いやー、でもバッチリだったよ! さすがジュリウス。こういうの得意そうだもんね」

 

「やめてくれ恥ずかしい。だがまだ終わりじゃないからな。一番大事なものが残っている」

 

「うん? 終わりの挨拶?」

 

「否・・・・・・!」

 

「ん!?」

 

「極東におけるシメとはすなわち・・・・・・一発芸・・・・・・そう、隠し芸だ!」

 

――――――おつかれさまでしたー。

 

「ユウ! 行くぞ!」

 

――――――うおお放せやめろおおお! 俺を巻き込むんじゃねええあああ! こいつ酒臭っ! 誰だよジュリウスに酒なんて飲ませたのは! 酔っ払ってんじゃ・・・・・・引っ張るな!

 

「ユノさんの歌に続きまして、我々も返礼のデュエットを皆さんにお届けしたいと思います」

 

「お、おおー! プログラムにあったっけ・・・・・・いや、さすがはブラッド隊! それではブラッド隊隊長と副隊長による歌、どうぞ聞かせていただきましょー!」

 

「あと、踊ります」

 

――――――事故するよ? 大怪我するよ? やめよ!?

 

「そこーにゆーけばー」

 

――――――急に歌うよ!?

 

「どおんーなゆーめもー」

 

――――――やめ・・・・・・あああやめ・・・・・・やめ・・・・・・! 見ないでぇ、見ないでぇ。

 

「かーなうとー、いーうよー」

 

――――――あああああ振り付け完璧ィ。

 

「In Gandhara, Gandhara」

 

――――――They say it was in India

 

「Gandhara, Gandhara」

 

――――――Gandhara, Gandhara

 

「副隊長・・・・・・副隊長・・・・・・! 私は、私はぁぁっあっあっ・・・・・・!」

 

「リョウ君・・・・・・リョウ君・・・・・・!」

 

「もうこれ訳わかんねえな」

 

「この後滅茶苦茶パーティした、ってことで」

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

なんてことはない。

俺はぶるっちまったんだ。

 

「ギル・・・・・・? ギルじゃないか! 極東に来てんなら言ってくれりゃいいのに!」

 

鋭い槍の軌跡は心を移す鏡のようなものだろう。

覚悟を込めた穂先は命を突き獲る。

そして迷いに鈍った穂先は、苦しみを。

 

「グラスゴー以来か。ずいぶん昔の気がするなあ。

 覚えてるか? お前いっつも噛み付いてたよな。グラスゴーに配属予定の新型神機使いが極東に持ってかれるのは支部長の怠慢ー、だっけ? 直談判までしに行ったの」

 

覚えている。

この手はずっと、覚えている。

 

「あらら、カノンちゃんが呼んでら。ああ、今のが俺の率いる第四部隊唯一無二の隊員、カノンちゃんだ。いろいろ頼りなくてあれだが、出るとこ出てるからいいかなー的な? おっと、また査問会に呼ばれちまうか」

 

穂先から伝わる命の鼓動を。

その灯火が消える、最後の息吹を。

ずっと、ずっと、覚えている。

 

「ハハ、そんじゃギル、近々飲もうぜ。またな」

 

「はい、ハルさん――――――」

 

彼女はこの手に握った槍の先で、もがいたんだ。

 

 

 

 




ほんとだ1年たってる・・・! 

メッセージでとても暖かなお言葉を頂き、そこではっと気付きました。
なんだかついこの前に投稿を始めたような気がしています。
去年の今ごろは、GE2が発売されて半年・・・・・・レイジバーストが発表された頃でしたね。
いやー懐かしい。そこからまさかアニメ化するとは思ってもいませんでした。

アニメ化し、さらには旧作リメイクも決まり、どんどん高まっていくゴッドイーター熱!
今後とも、またよろしくお願いたします!

E7が・・・・・・E7がぁ・・・・・・丙やねんぞこれ!?
なんでだ山城答えろ山城ォ!


久しぶりに活動報告を更新
ぽけもんのあれ的な

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