フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない   作:ノシ棒

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ごっどいーたー:27噛 GE2

お願い

ギル

私を

 

――――――殺して。

 

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

愚者の空母。

一説によれば、アラガミが現れた混乱に乗じて政治的転覆を目論むテロリストの根城であった、とも。

アラガミが現れた極初期に火事場泥棒を行っていた盗賊団の拠点であった、とも。

無法者と、それに抵抗する法を司る者達の戦場であったという。

しかしアラガミの乱入によって共倒れとなり、きれいさっぱり、誰もいなくなったとさ……などと笑い話として語られることの多い、極東のフェンリル職員にとっては馴染み深い作戦区域である。

悪も正義も、アラガミにはなんの関係もないものだ。人が作り出した概念だけの絵空事でしかないと思い知らされる。

愚者の空母、とはなんとも皮肉めいたものではないか。

人間の愚かさを象徴したかのような名だ。

ヒューマニズムなど、精神性など、人間性など、生存競争になんの役に立とうか。

 

崩壊した橋と、座礁した空母が、くの字型に一体となったかのようなその場所は、今は静まり返り、波の音を静かにさざめかせている。

時折、飛沫が甲板の上にぽつぽつと落ちては、〝不可思議な”軌道を描いては消えていく。

海。それは、オラクル細胞の〝シチュー”である。

今や環境の根本とも言えるほどに拡散したオラクル細胞は、その多くは自然環境と一体化していた。

目を凝らしてみれば穏やかに見えるさざ波も、その潮流は時折、物理法則を超えたうねりを生じさせている。

アラガミだ。肉眼では捉えられないほど小さな……プランクトン型のアラガミが群生を成しているのだ。

海はすべての命の母とも言う。その通りであった。アラガミは、海から来て、大地に染み渡り、そして天へと昇り、再び海へ還っていく。

 

まるで、地球の意思そのものだ。

 

遠く眼下に見える、夕日の赤焼けに染まった空母。

年々じわじわと削りとられ、〝自然”へと還されていくそこに任務で訪れる度、感じずにいられない。

 

輸送ヘリのローター音にかき消されまいと声を張り上げる。

限界高度ギリギリの中空飛行。これ以下は遠距離への攻撃手段を持つアラガミに捕捉され、これ以上は飛行型のアラガミに検知される。

極東のヘリパイロットは、須らく超一流の腕を持っている。

アラガミの個体レベルが異常域に達している極東においては、〝空”がもっともリスキーな移送手段であった。

天と地のアラガミを恐れ、おっかなびっくり、〝空中と空”の間をふらふらと飛ばねばならない。

ここは、空の境界だ。

人が生きる場所はもはや、どちらでもない、境界線上にしか存在しないのかもしれない。

 

だが、その境界を踏み越え、あるいは打ち壊すものがいるのだとしたら。

それは。

 

――――――俺、なんでここにいるんだろ。

 

それは、ゴッドイーター以外にはない。

眼下に遠く見えるアラガミの群れに怯むことなく、轟音に心乱されることもなく、ただ静かに佇んでいるゴッドイーターの音声をマイクに確認しつつ、ヘリパイロットはそう思った。

 

――――――お酒ってこわい。ハルさんと飲んでたところまでは覚えてる……気づいたら出撃書類にサインしてた。

何を言ってるかわからないと思うし、俺も何を言ってるかわからない。何が起きてるんだ……新手のオラクル攻撃か……?

こんな、こんな馬鹿げた作戦サインするわけ……したんだよ俺が。俺の馬鹿! うおぉ、頭イテェ……ゴッドイーターを二日酔いさせるアルコール度数とか……。

アルコールだよね、これ? 工業用のなんかそういうのじゃないよね? 配給ビールも一般に流したら厳罰だって言われてたし……だめだ、これ以上考えるのはやめ……イテテテ。

 

これが、英雄。

ああ、これが、英雄なのだ。

言葉では言い表せないような深い感動があった。

頼りきってしまうようで情けない話だが、この人がいたら大丈夫だと、根拠もなく思える。

思わせられる何かがある、不思議な男だった。

自分がゴッドイーターでないことを、今日ほど悔やんだことはない。だが、今日ほど己の仕事が誇らしいと思ったこともなかった。

空挺部隊と言えば聞こえはいいが、物を運ぶしか能がない癖に飛べばよく落ちる、運び屋以下の扱いであるのが実情であった。

だが。

 

――――――空はいいよねえ、空は。嫌なことぜんぶ、空を飛んでるとこう、消えてなくなってくみたいな感じがして。

やっぱり空を目指してかないと。ああ人はいつから顔を上げるのをやめてしまったんだろうかみたいな? 哲学とかしてみたり?

ほんとヤバイ空ヤバイサイコー。語彙力ない俺。でもヘリのローター音で刻々と体調が悪化してるの。遠くを見て気持ち悪いのこらえる療法するのも限界。吐きそう。

だからもう帰りません? ね? この作戦もおかしいから、ね? 聞いてます?

 

この男と肩を並べて戦えないことは残念でならないが、だがその足となり力となれることに、どれだけ胸が高鳴っているか。

ああ、さすがに気分が高揚します。

そう伝えられたらどれだけいいだろう。

できるのは、ランデブーポイントに到達したことを告げることだけ。

 

――――――だからさあああ! 極東人はさあああ! 人の話をさあああ! 聞かないのがさあああ!

 

機械制御された〝ロケットエンジン”に火が付いたことを、計器が全力で知らせてくる。

その威容を何と表現したらよいだろうか。

巨大な、鉄塊……そうとしか言いようのない物体が、ヘリ下部からワイヤーによって吊り下げられたコンテナに納められていた。

後背部からは、ロケットエンジン特有の鋭い炎尾が迸り始めている。

最も近いものとして挙げるならば、旧世界の物質兵器、第二次世界大戦末期に対戦艦戦にて用いられた徹甲弾、であろうか。

ヘリ本体にも勝るほどの巨大な鉄塊。その上に人影が一つ、しがみ付いていた。

ゴッドイーターである。

 

――――――今回のだってギルが頑張っちゃったのが俺巻き込まれた原因でしょ! どおりであいつがサクヤさん見る目が怪しいと思った! 知りたくなかったそんなこと!

 

正気の沙汰ではない。

聞けば、このゴッドイーターの志願により当作戦は決行されたものであるという。

本来、廃案となるべくしてあった当作戦は。

当然である。

〝ロケット”によってアラガミの群れにゴッドイーターを突っ込ませ殲滅する、などというゴッドイーターの消耗を度外視した狂気の作戦など。

鉄砲玉ならぬ、使い捨ての徹甲弾として、ゴッドイーターを用いるなどと。

このようなもの、設計者であるリッカでさえ実現不可能であると破棄した代物など、果たして使い物になるのだろうか。

そもそも、こんなものを使用して生還できるのだろうか。

アラガミを、倒すことなど出来得るのだろうか。

 

――――――あああああ、やっぱ無理! やっぱ無理! すぐに肉弾戦法に走るのは極東の悪癖だって! 止めてください死んでしまいます! これをすぐにとめ、あっ、ハッチ開い、ヤメッ、ヤメロォーッ!

 

できる。

できるのだ。

彼ならば、必ず。

必ず事を成す。そう信じられる……否、確信している。

なぜならば、彼が。彼こそが。

 

――――――ダメ吐く! もう吐く! 限界! もう限界だからァ! あっ、ああああ!

 

極東が誇る最強のゴッドイーター。

神狩人なのだから。

 

――――――オロロロロロ――――――

 

放たれた一矢、神を射抜く。

 

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

強力なアラガミの周囲には、〝おこぼれ”を狙い中規模のアラガミの群れが発生することは、アラガミ生態学においては基礎である。

まるで台風のように、食い散らかされた残飯にアラガミ達が群がるのだ。

そう、その中心は、即ち〝目”、である。

このアラガミの嵐を越えた先に……いる。

あの赤いカリギュラが――――――。

 

「ギル! お前ちょっと下がれ! 頑張りすぎだ!」

 

「ハルさん……でも!」

 

「こりゃ、甘く見てたか……! 数多すぎんだろ!」

 

銃撃形態に神機を変形させ、後退するギルバートに、ハルオミは冷や汗を流す。

戦況は明るくない。

自分も銃撃形態へと神機を変形させ、アラガミの群れを牽制するも、この台風……アラガミの包囲網を抜けることが出来ずにいた。

神機を変形させる度に、接続部分に砂を噛むかのような、嫌な違和感が生じている。

ハルオミは元々、第一世代の近接型神機の適合者である。

今や世界中の第一世代ゴッドイーターに増えつつある、第二世代型への再適合、言わば乗り換えを行い戦力を増強した一人であった。

それも今は昔。

 

ハルオミの〝キャリア”は十年以上にも上る。

そのキャリアのほとんどをグラスゴー支部という、小規模の支部に務めたハルオミは、自然と自身の適正を把握するに至った。

専守防衛、要所防衛。

守ることが、自身の本分である。

これが防衛戦であれば、リンドウらが欧州で発見したという新種の狐型の大型アラガミであっても、数分は単騎で持たせられる自信がある。

だが、今回のように攻め入るような戦いでは。

ギルバートも、チャージスピアという突撃槍を獲物としているものの、その根幹はハルオミと等しいものであった。

 

「極東も頭の堅い……!」

 

思わずギルバートの口から悪態が漏れる。

独自路線の色が強い極東であるが、ゴッドイーターの管理や任務調書についてはフェンリル本社の定めた規則に則っていた。

常時は改竄上等の構えであることは公然の秘密であるが、フェンリル本社直轄領ともいえるフライアとの連携となれば、その規則による縛りは一層強くなる。無視することが出来ぬほどには。

極東支部第四部隊隊長と、フライア所属ブラッド部隊副隊長との合同任務は、あらかじめ定められていない突発的な緊急任務において、非常時による戦力集中を避けるなどという理由から認可が下りるまで要請から数日の時を要したのである。

それが数日間時間的拘束をされるサバイバルミッションであるならば、特に。

その煽りを今回痛感した形となった。

〝弟子”に頭を下げ、給料何ヵ月分かという高級酒をいくつも注いでは自分なりに誠意を見せたというのに、このオチだ。

つくづくツイていないと笑ってしまうほどだった。

 

しかし、あの後にカウンターでオペレーターのヒバリに用意させていた書類はなんだったのだろうか。

直接手を掴まれてサインを阻止されていたようだが。

サインしたと同時にヒバリがはらはらと涙していた。女泣かせめ、と落胆を誤魔化すかのようにからかったが、さて。

 

「早く、行かないと……アイツが!」

 

グラスゴー地域から姿を消し、数年。今の今まで確認されることのなかった赤いカリギュラが、徘徊の性質を持つアラガミであることは疑いようもない。

ここで逃してしまえば、次に相見えるのはいつになるだろう。

また数年後か、それとも。

 

待てない。

ハルオミの結論である。

落ち着き払った態度であらんとしたハルオミであったが、その実、誰よりも焦っていたのもまたハルオミであった。

ハルオミのキャリアは十年を超え、十一年目となった。

ゴッドイーターとしては引退の二文字が脳裏に浮かぶキャリアである。

活動限界……オラクル細胞をその身に宿すゴッドイーターの、抗えぬ宿命である。

ここであの赤いカリギュラを取り逃してしまえば。

もはやハルオミに、本懐を遂げる手は無くなってしまうのだ。

ギルバートも〝タイムリミット”を考えていたはず。

あれだけ関わるなと釘を刺したというのに、つい口をつく悪態は。

果たして誰を求めてのものだろうか。

 

「これは……! ギル!」

 

「そんな……」

 

いったい何匹のオウガテイルを切り捨てただろうか。

ハルオミとギルバートの眼前に……壁。

壁が出現した。

両腕に人面盾を構えた、鉄蠍。

ボルグ・カムラン十数匹による、〝ファランクス”。

 

ハルオミ達の顔面に、冷や汗が伝った。

鉄盾にはギルバートの槍では相性が悪い。

では自分のバスターでとなれば、そうともいかない。

蠍にはバスター、などと言われていたのはいつの頃だったか。

槍にハンマー、そして鎌……神機の新武装が開発されていくに従い、戦術もまた見直されつつあった。

ボルグ・カムランには、バスターを代表とする破砕属性の神機であたるべし。

これは変わらないことである。

バスターならば弱点は突ける。だが、バスターでは〝相性”が悪いのだ。

ボルグ・カムランのように素早く、かつ堅い敵には、バスターは向かないというのが戦術研究者達の意見である。

ハルオミもそれには同意する。

これが広く知られるようになるまで、極東におけるバスター神機持ちのゴッドイーターの対ボルグ・カムラン死傷率は、目を覆うほどであった。

 

経験で覆せるだけの突破力はあるはずだ。

だが、機を見出すことができない。

この機勢というものは何とも厄介なもので、所謂戦いにおける流れというものである。

個々の能力を上げるならば、ハルオミとギルバートは決して劣ったものではない。

しかし守勢を本質とする二人だ。

踏み込む機を、その後の戦いに向けた余力をいかにして残すか。

見出せぬままに、足が止まった。

ハルオミに諦観が過る。

ギルバートもまた、苦悩に顔を歪ませた。

 

ここで。

ここまできて。

仇が目の前にいるというのに。

諦めるしか、ないのか。

 

ああ――――――あの男がいてくれたなら。

激戦区の鉄火場に、悠々と踏み込んでいくような、あの男がいてくれたなら。

否、あの男ならば、きっと。

 

――――――オオオッパアアアアイ! 風圧の感触シエル級ゥウウウアアア!

 

轟音と共に戦場に吹き荒れる破壊の嵐。

爆風に目を寸瞬閉じ、開けばそこにはクレーターが形成されていた。

巨大な……あれを神機と呼んでもいいのだろうか。巨大な神機を、世界を縫う剣のようにして突き立てる影。

破壊の爪痕は、大容量コンデンサによるオラクルバレットの一斉掃射によるもの。

あの巨体は、〝ブラスト銃身のオラクルリザーブ”に近い技術であるのだろう。凄まじい破壊力である。

ハルオミは見た。

焼き払われたアラガミの群れを。ボルグ・カムラン達を喰らう、黒い影を。

 

プレデタースタイル地の捕喰型:ミズチ――――――。

 

極東で独自に技術開発された、神機の新捕食機構である。

その技術の全ては全ゴッドイーターに開示されているというのに、未だに使いこなすものが現れぬのは、制御機構を直接操作することはアラガミ化する危険があまりに高まるため。

そして、操作に要求される技量が、戦闘中には現実的ではないほど精密かつ緻密であるからだ。

そう、あらゆるプレデタースタイルを使いこなすのは、技術開発者であるこの男をおいて他にない。

 

「ユウ――――――!」

 

「リョウ――――――!」

 

異なる二つの名は、その男を指す名である。

ゴッドイーター……神狩人の名を。

 

――――――うおおおお生きてるぞ俺ええええ! 生きてるって素晴らしいいいい!

 

「やっぱり来てくれたか、リョウ!」

 

――――――制御に失敗して流されてきただけなんですけどね!

 

「そういうことにしとく! サンキューな! ちょっくら手伝ってくれ!」

 

――――――今何がどうなってるのかさっぱりなんですけどお!

 

笑ってしまう。

同行を認められなかったからといって、そんなことでこの男……ギルの手前、ここではユウと呼ぼうか。

ユウの歩みを止められようか。その決意を阻めようか。

任務違反の曲解や、不可抗力による内容変更の常習犯なのだということを、どうして忘れていたのだろう。

緊急任務において、別所属の隊長格が二人そろってしまっても、それは仕方がない。

〝実験中の事故”ならば仕方がない。仕方がないことだ。

疲れが飛ぶとはこのことだ。

ハルオミは屈託なく笑い、ギルバートは複雑な感情に苦い顔をして帽子を直した。

 

「そのご立派様で穴を開けてくれ! レディを扱うように激しくな!」

 

――――――あひぃ神機様がオートエイム!

 

巨大神機が焔を上げ、アラガミの壁を平らげていく。

焼けた銃身がパージ。現れたバスターを超える巨刃。背部ブースターが点火され、ユウは駆け出す。

神機による〝抜刀術”である。

ハルオミ、ギルバート、ユウ、以上三名。現時点を以て緊急時対応処置につき、第四部隊隊長と、ブラッド副隊長の合同任務が現時点で認可される。

アラガミの台風を抜け、〝目”へと……愚者の空母へと、ゴッドイーター混成部隊、突入す。

 

――――――うおおおっしゃおらあ! 抜けたどー!

 

「アラガミ! いるか!」

 

「いるか! ユウ!」

 

――――――アラガミいたよ! いたよアラガミ!

 

「でかした!」

 

「でかした! ユウ!」

 

食事を邪魔されて怒らない生物などいない。

それはアラガミであっても例外ではない。万物を喰らうアラガミだからこそ、であろうか。

 

「ファイア! ファイア!」

 

「怯ませろ! 撃て! 撃てェッ!」

 

――――――ああっ、くそっ!

 

「どうしたユウ!」

 

――――――無茶苦茶したから、腕が痺れて狙いが……! ホーミング持って来りゃよかったな!

 

「かてーなコイツ……本当に効いてるのか!?」

 

暴虐。

台風の目などとんでもない。荒れ狂う暴力は、ユウを以てしても手が付けられない程。

でかい。

ハルオミの記憶にある姿よりも、二回りは大きくなっている、その緋色の体躯は。

極東に頻発する、異常進化個体の流れを間違いなく汲んでいた。

ここに渡って自己進化したのか。それともここが〝古巣”であるのか。

極東において、暴君として君臨するに相応しい威容にて、吠え猛るアラガミ。

赤いカリギュラ――――――『ルフス・カリギュラ』。

 

「ダメだ、硬すぎる!」

 

「俺が貫きます!」

 

「よせ、ギルーーーー!」

 

ルビーのように紅く煌く躰。

弧を描く角は、まるで王冠のよう。

カリギュラ種特有の、背から生えた角状突起からのオラクル噴射により、高速移動を可能とする。

両腕には巨大に展開する多角ブレードが。

戦闘方法は単純だ。

背からオラクルブーストを噴かし、両腕のブレードを振り回す。

これを巨体に見合わぬ超速で、かつ巨体に見合う怪力で行う。

それは、ゴッドイーターにとっても致命の一撃。

 

「紅い――――――」

 

声にならぬ声が、ギルの喉から漏れた。

その紅さはルフス・カリギュラの体色なのであろうか。

それとも、夕日の赤さなのだろうか。

それとも、額から落ちた血が目に入り込んだからなのだろうか。

それとも……あの日流れた、流してしまった、あの人の――――――。

 

「ギルゥウウウウウーーーーッ!」

 

ルフス・カリギュラの放ったブレードの一撃が、ギルバートの体をその意識毎、空へと〝叩き落とし”た。

 

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

届かなかった。

俺は、届かなかった。

届かなかったんだ。

 

「アンタ、腕輪が……ッ!」

 

「ごめんね……浸食が進みすぎた……アラガミ化が、始まった、みたい……」

 

「ああ……そんな、そんな……!」

 

「ねえ、ギル……わかってる、よね……?」

 

「できません! 今からすぐに戻れば、きっと……きっと……!」

 

「たぶん無理かな、ギル……ほら、もう……」

 

「できません……俺にはできません……」

 

「ギル、お願い……」

 

「できませんッッ!」

 

「もう、苦しいの……」

 

「ハルさんだってアンタを待ってる! それに、アンタの体は……!」

 

「それを言うのは、ずるい、かな……ね、ギル」

 

「できません……俺には、俺にはできません……」

 

「ごめんね……本当にただのわがまま、なんだけど、さ……私、ギルを襲いたく、ない、んだ……だから、お願い」

 

俺の中に、ずっと残ってる。

彼女の流した血の温かさが。彼女の髪から立ち込める香りが。

俺の手に、ずっと残ってるんだ。

 

「私を――――――殺して」

 

彼女の体を、神機で貫いた感触が。

ずっと。

 

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

「……ル! ギル!」

 

――――――ハルさん、こっちももう!

 

「こっち向けってえの!」

 

―――――タワシが重いわ手が痺れるわでもう……! どっちかっていうと吐きそうなのがもう! ちょっと限界っていうか!

 

「頼む、リョウ! もう少しだけ耐えてくれ……くそお! なんでこっちを見ない!」

 

庇われている。

ギルバートが目を覚ました時に見えたのは、ユウの背中。

盾型に展開させた巨大な神機を〝削る”のに夢中な、ルフス・カリギュラの姿。

そして、その首筋に突き立った、〝旧型のロングブレード”。

 

「副……隊長……もう、いい……! 無茶は、よせ!」

 

――――――やかましい! いいから回復してろ!

 

「う……ッ!」

 

――――――もういいからそういうのは! なんか俺狙われてるから、アイツの注意引き付けて隙作るから! ギルは攻撃だけに集中するんだ!

大丈夫、俺が何度だってサポートしてやるから!

 

ソーマじゃないんだからガチンコ突撃なんて何度もさせられたらたまんないし、というつぶやきも聞こえたような気がする。

その時、ギルバートの目に映ったのは、その胸に到来したのは、深い情動だった。

似ていると、ずっと思っていた。

どうして今、あの人の言葉を、顔を、思い出してしまうのだろう。

だから。

ああ、そうだ。

あの人はああ言っていた。

だから。

 

「リョウ――――――ッ!」

 

――――――あっ、これだめなやつ。

 

ユウの神機が、アタッチメントパーツが砕かれ、空を舞った。

戦闘中に神機を無防備に手放すなど、普段のユウを知るものならば、ありえないと言うだろう。

だがギルバートはそうは思わない。それは信頼ではなく、怠惰だと思っている。

事故は起きうるのだ。完璧な人物などいないのだ。

いかに強いと嘯かれる神機使いであろうとも、疲弊する。

慣れぬ実験機を使わされ、作戦区域が異なる場所から愚者の空母にまで駆け付け、さらには本来は何日にもかけて行われるべきサバイバルミッションを、そのままの状態で突貫したのだ。

あのミスは疲労の現れである。

ルフス・カリギュラが、無防備を晒したユウにブレードを振り上げるのが、ゆっくりと見える。

ああ、俺はまた、こうやって大切な人を失うのか――――――。

 

「――――――いや、違うだろ、俺」

 

覚えている。

あの日の感触を。

あの日の――――――あの人の、言葉を。

だから。

 

『お互いが、支えあえるだけ支えあうのって、相当素敵なことだと思うんだ』

 

だから、そういうことなんですね。

『ケイト』さん――――――。

 

「ここで、諦めるわけには、いかねぇんだよッ!!」

 

ギルバートが帽子を脱いだ。

〝かなぐり捨てた”のである。

 

「なんとかしろ! ユウッ! なんとかしろおッ!」

 

――――――う、うおおお死にたくねえええッ! 帰ってきたらシエルにバニーガールコスしてもらうって約束してるのに死ねないうおおおお!

 

なんとかしろ、などと。

何ら具体性のない作戦を、戦闘中に口走るなど。

ましてや、ユウが〝なんとかする”のを信じて、後先考えずに〝チャージ”し始めるなど。

これまでのギルバートには考えられぬことだった。

あいつはなんとかする。

解らないが、なんとかするに決まっている。

ギルバートは信じたのだ。

 

――――――うおおおおお! アクロバット回避ィア!

 

ユウはギルバートの信頼に応えた。

扇状に展開されたブレードの隙間を中空で縫うという、超絶技巧でもって。

 

――――――神機を相手の首筋にシュゥゥーーッ! 超! エキサイティン!

 

ルフス・カリギュラの右の首。

そこに突き立っていた、旧型の神機の、柄。

それを、飛び上がった勢いそのままに、ユウは蹴り込んだのだ。

ゴッドイーターと接続しておらず、活性化されていない神機であったとしても、その構成材質はすべてが対アラガミ素材となっている。

オラクル細胞の結合を崩壊させることはできなくとも、破断は十分に可能なのだ。

 

赤陽よりもなお赤い、ルフス・カリギュラよりもなお紅く染まったその神機。

忘れもしない。穏やかでありながらその実誰よりも苛烈であった、持ち主の内面を表しているかのようなその神機は。

あの人が、最後の戦いで残したものだ。

それが抜けずにずっと、刺さっていたのだ。

ずっと、あの人は、独りでそこにいたのか。

ずっと、戦っていたのか。

 

――――――あもう無理これ限界オロロロロ。

 

痛みに暴れ狂うルフス・カリギュラに弾き飛ばされ、ユウが地を転がっていく。

ルフス・カリギュラは自身を傷つけたものを許しはしない。

燃える瞳が、ユウを睨み付けている。

こちらに意識はない。

好機……だが、まだチャージ完了には時間が足りない。

あと数秒。

ほんの一秒でもいい。

時間を。

 

「ギルゥウウウウウ!」

 

瞬間、がくり、とルフス・カリギュラが膝を突いた。

ハルオミが、膝の逆関節目掛け、タックルを仕掛けたのだ。

カリギュラに代表されるハンニバル種相手に、近接攻撃を……ましてや接触を図ろうなど、自殺行為そのものだ。

ルフス・カリギュラはハルオミの体を毟り取らんと、その爪をすべて、胴体にずぶりと突き刺した。

引き千切られる――――――だが。

 

「これで俺を無視できないだろ……ぐ、ん、ぐうううッ! は、はは!」

 

だが、折れない。

決意を固めた男は折れない。

 

「今だ、やれえええッ! ギルゥウウウウ! 俺ごとやるんだッ!」

 

「でも、ハルさんが!」

 

「やるんだ、ギル! 頼む、俺を……ケイトを……」

 

ハルオミは泣いていた。

万感の想いが込められた涙だった。

男は涙を見せぬものさ、などとハルオミが笑って言ったことがある。

どんな失敗をしても、目の前で救えなかった命があったとしても、いつも笑っている男。

それがハルオミだった。

自分の妻が死んだ時すらも――――――。

そのハルオミが、泣いている。

顔で笑い、心で泣く。

それが真壁ハルオミという男の、真実の姿であった。

 

「救ええええッ! ギルゥウウウウ! ケイトを救ってやってくれえええええッ!」

 

ギルバートの神機が赤黒の輝きを放つ。

ブースト展開。オラクル細胞連結開放。

槍が輝く――――――その槍は、亡き者の遺志を継ぐ戦士の槍。

銃身が震える――――――その銃は、命ある限り同胞を護り続ける銃。

盾が唸る――――――その盾は、人との繋がりがある限り新たな力を生み出す盾。

オラクルエネルギー蓄積、フルチャージ。

ああ、今こそ。

 

「お、お、おおおおあああああッ!」

 

ブラッドアーツ――――――開眼。

『バンガードグライド』、起動。

 

「届けぇええええええーーーーーッ!」

 

オラクルの槍が、ルフス・カリギュラを貫く――――――!

 

――――――これがギルの、血の力か。

 

その血の力を、『鼓吹』という。

己の意思を、他者に吹き込むことを意味する言葉である。

敵には必滅の意思を。

そして味方には――――――。

ブラッド特有の広域感応現象により、ハルオミに、ユウに、ギルバートの想いが伝搬する。

それは深い後悔と、悲しみと、圧し折れそうになっている男の心だった。

そして、戦いたい、と。

戦いたい、守りたいと叫ぶ、熱い、身を焼く程の想いが、そこに。

 

――――――すっげえ。こりゃだめだなって思ったけど、こんなこともあるもんなんだなあ。

 

間の抜けたユウの声が、嫌に響いた。

全員が呆けたような顔をして、腰を抜かしていた。

ユウも、ギルバートも、そして、自分ごとルフス・カリギュラを貫かせたハルオミも。

あのまま、ルフス・カリギュラを貫かせると同時に、自身の身も千切れ、死すと思っていた。

だが、奇跡が……そうとしか言いようのないものが起きた。

ルフス・カリギュラを、ギルバートの槍の穂先が貫いた瞬間。

その巨躯の首元に遺された神機が、一瞬、活性化し、ルフス・カリギュラの腕部の結合を崩壊させたのだ。

ハルオミの体へと爪を喰い込ませていた腕の。

 

時を思い出したかのように、ルフス・カリギュラが、ぐらりと傾いた。

重い地鳴りをたて、紅い巨体が地に沈む。

 

『アラガミ、沈黙しました……!』

 

ルフス・カリギュラにまつわる因縁を知っていたのだろう。静かにしていたオペレーター、ヒバリの感極まった声が、無線越しに聞こえた。

 

「勝った、のか……?」

 

風切り音。

ルフス・カリギュラの腕を切り落とした遺された神機が、回転しながら空母の甲板上へと突き立った。

 

奇跡に名を付けるならば。

生体接続口である柄を、ユウのような強大なゴッドイーターに蹴り付けられ、神機が起動したのかもしれない。

もしくは、ギルバートのたった今目覚めた血の力……他者のオラクル細胞を活性化させる力が、遺された神機のオラクルリザーブ内に微量に残存していたオラクルの〝残り香”に作用したのかも。

 

「聞こえたか?」

 

気が付けば、ハルオミがギルバートの傍に立っていた。

傷は浅くないだろうに、いつもの、無理矢理浮かべた笑みを貼り付けながら。

 

「俺は、聞こえたよ。ケイトの声が……もう大丈夫だね、って。はは、あいつらしいや、はは……」

 

最後に一筋だけ涙を落とし、ハルオミは笑った。

 

――――――ほんとに今回はマジで死ぬかと思った……兵器実験とかもう二度としない。神機兵反対。

 

ぶつくさと言いながら、ユウがギルバートへと「――――――ほら」と帽子を手渡す。

受け取ると、その手を拳の形にして、にかっとしている。

ぶつけろ、と言いたいのだろう。

 

「はっ……いや、やんねえって」

 

――――――あらら。

 

自然と笑みが零れた。

差し出された拳を無視して、ギルバートはユウの手首を掴む。

よっ、とユウが軽い声を上げ、ギルバートを引き起こした。

若い神機使い達の、不器用な絆がそこにあった。

 

「よっしゃ……ふいーしんど」

 

ハルオミが、二人の間に倒れ込み、肩に手を回す。

 

「重いっすよ、ハルさん。どいてください」

 

――――――汗くさいっすよ、ハルさん。どいてください。

 

「君たち重傷者に厳しすぎない? ったく。んじゃー……」

 

ルフス・カリギュラのオラクル細胞が空に溶け、消えていく。

その様を見上げ、ハルオミは眩しそうに目を細めた。

遺された神機が、神機使い達を祝福するかのように、夕日に輝いていた。

 

「帰りますか! アナグラに!」

 

サバイバルミッション、『アンブレイカブル』。

ミッションクリア。

評価ランク――――――SSS+

 

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

「俺も聖人君主じゃないからさ……そりゃ、ギルに対する割り切れない思いが、多分、あったんだよ」

 

――――――おっぱい会議からいきなりシリアストークになった件。

 

「いいから、聞いとけって。ていうかお前さっきまでバニーシエルちゃんにお酌してもらってたろ」

 

――――――ふひひ、サッセン。

 

「ジュースと間違えてイッキしちゃって潰れちゃうとか、またベタな子ウサギちゃんだな。

 後でちゃんと部屋に送り届けてやれよ。ゴッドイーターの肝機能に分解されないよう調整されたやつだからな、これ」

 

――――――狼にならないよう気を付けます。今日は性なる探索はしないんですか、ハルさん。

 

「網タイツに隠されちらりと見える輝く脚、今にも零れんばかりのたわわな胸、思わず手を回したくなるくびれた腰、どれをとってもパーフェクト。ああ、アリサちゃんにも着せてやりたい。

 二人のフィギュアが発売されたらセットで買うね。五万はしても買うね。そしてなにより、彼女は無垢だ。俺色に染めたくなる……が、ま……今日くらいはな」

 

――――――ちょっと本音漏れてますよね。それで、どうしたんですか?

 

「俺がここに、極東に来る前、いろんな支部を転々としてたことは知ってるな? ギルと同じ、仇討ちなんてこと考えてたんだ。ガラにもなくな」

 

――――――ああ、たしか、この前話してた。

 

「もっかい語らせてくれよ。そう彼女は……彼女の名前はケイト。ケイト・ロウリー……グラスゴー支部の隊長で、俺の、嫁さんだった」

 

――――――この前は、付き合ってた、としか。

 

「ああ、言ってなかったっけ。俺、こう見えても結婚してたのよ。こう見えて嫁一筋のかたーい男だったんだぜ」

 

――――――信じられないなあ。

 

「言ってろ。それで、グラスゴー支部は俺とケイト、ギルを含めてゴッドイーターが三人しかいない小さな支部でな。

 ここに比べりゃアラガミの被害も少なくてさ……ま、極東に比べりゃどこも平和だが、俺たち三人だけでもなんとかうまいこと捌けてたんだ。

 その日も、いつも通り、簡単な討伐のはずだったんだ。そうなるはずだった……」

 

――――――ルフス・カリギュラの。

 

「ああ……そのミッションではいつも通り、ギルとケイトはペアで行動し、俺は別ルートから回り込む形でアラガミを撃破していったんだ。

 こことは違って、偵察班なんてのは存在していないからな。現場についてみたら、なんてことはしょっちゅうだった。

 グラスゴー支部周辺のアラガミの生態系を考えると、強力な個体は発生しようがない……どこからか流れてきたんだろうな。極東からかもしれない。

 そいつに、ケイトはやられた。

 その時点でケイトはこの仕事が長くてな……オラクル細胞の制御限界が、とっくに来てたんだ。そんなときに枷である腕輪が壊れれば……あっという間にアラガミの仲間入りさ」

 

――――――アラガミ化……。

 

「チームの誰かがアラガミ化したときの対処手段……お前に聞くことじゃなかったな」

 

――――――いえ……仲間がそうなったことは、たくさんあります。でも、近しい人がそうなったことは……ギルの気持ちは、俺にはわかりませんから。

 

「そうか……こいつが、ギルが泣いてるとこ見るのは、これで二回目だよ。気持ちよさそうに眠ってら……泣きながら、本当に……」

 

――――――飲ませすぎちゃいましたね。こりゃ、明日がつらい。

 

「眠らせてやってくれ。そのまま、もう少しだけでいいから。俺がさ、あの時、駆け付けた時には……もうケイトの姿はそこにはなかった。

 岩に縫い付けられてた、ケイトの服だけがあった。そして、ギルがケイトの腕輪を大事そうに抱えて……ずっと、泣き続けてたんだ」

 

――――――上官殺しっていうのは。

 

「グラスゴーは狭い場所だったからな。そういう所で口さがない奴が騒ぎ立てた噂ってのは広がるもんだ。

 もちろん軍法上も無罪だった。だがな、その言葉がどれだけギルを傷つけたか……。

 本来ならそれは隊長格の仕事で……副隊長だった俺がすべきことで、情報遮断も俺の仕事だったのに。俺はそいつを怠ったんだ。

 ギルをかばってやれなかった。俺も、しばらく頭が真っ白になってたんだ。ギルと顔を合わせることができなかった。

 誰も、あいつを責めることなんてできやしないのにな……」

 

――――――つらいですよね、副隊長なんて。

 

「後を託される立場で、実際〝そう”なったらな。たまんねえよ……本当、たまらなかった……。それで、ギルとはそれきりで、やっと極東で再会したってわけだ」

 

――――――今、全部吐き出しちゃった方がいいですよ。酔っぱらってるんだから、誰もまともに聞くことなんてないですから。

 

「ああ、ありがたいな……いい奴だよ、お前は。俺が、ギルに抱いていたわだかまりはさ、それだけじゃなかったんだな。

 みっともない、男のジェラシーだよ。ケイトとの最後の時を過ごしたのは、俺じゃない、ギルだったんだ。最後にケイトに触れたのは、あの細く白い指先をとったのは、俺じゃなかった。

 俺じゃなかったんだよ……どうして俺じゃなかったんだろうって、ずっと思ってた。怖くてさ、聞けなかったんだよ」

 

――――――それは、何を?

 

「何だったかな……あれだけこだわってたのに、もう忘れちまったよ。

 なあ、リョウ……いや、ユウ。こいつのこと、頼んでもいいか?

 たぶん、今のギルなら、ケイトがよく言ってたこと、理解してると思うんだ。

 お前さんはギルを支えてくれた。ギルだって、お前のこと支えてやりたいって、きっと思ってる。だからさ、頼むよ。な?」

 

――――――ええ……俺も、副隊長ですから。仕事押し付けられそうな奴は大歓迎ですよ。いや、マジで。

 

「そうか、ああ……安心した。我ながら、本当にらしくもない、仇討ちなんて考えて色んな支部を渡り歩いてきたけどさ。

 お前みたいなまっすぐな若いヤツのおかげでさ、ギルが前を向いて歩き出したんだ。だからそろそろ……俺も歩き始めるよ」

 

――――――ハルさん……。

 

「気長に待っててくれるかな、ケイトのヤツ」

 

――――――聖なる真理なんて追い求めてるんだから、そりゃもう、カンカンに怒って待ってますよ。きっと。

 

「はは……やっぱ、お前にゃバレてるよな。そりゃあな……んじゃ、俺は部屋で飲みなおすから、ここらでおいとまだ。いい夢みろよーっと」

 

――――――ええ、ハルさんも。

 

ハルオミが去り、バーカウンターに静けさが戻る。

ゴッドイーター達も、事情は知らずとも感じ入るものがあったのだろう。

気を遣い、誰もラウンジには立ち入ろうとはしなかった。

ラウンジの主たるムツミもまた、十という歳もあり、カウンターの内側は人の気配がない。

ユウの名を寝言で呼ぶシエルの声と、ハルオミに潰されるまでブランデーを飲まされたギルバートの苦しそうなイビキが、そして時折傾けられるユウのグラスが立てる氷の音だけが響く。

大きな窓ガラスがぼんやりと夜間灯に照らされて、雲の隙間から見える星明りが美しく瞬いていた。

 

――――――ギル、お前は……。

 

逡巡した後、ユウはその問いを、洋酒と共に飲み込んだ。

琥珀色が波打ち、カラリと氷に打ち付ける。隣で静かに零れていた透明な雫を、気付かぬふりをして拭ってやった。

 

それは、ハルオミがこの場に捨てていったものだ。

酒の〝さかな”にするべきものだ。

陽が昇るまでに、アルコールで喉を焼き、飲み干してしまわなければならないものだ。

そうしてくれと、託されたのだから。

だからユウは、問わなかった。

 

彼女を愛していたのか――――――と。

問うことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




大変長らくお待たせいたしました。
GEの投稿を初めてから、GE2バースト、リザレクション、アニメとたくさんのメディア展開があり、そして近日シエル・アリサのバニーコスフィギュア発売と、時間の流れを感じますね!
いやあ、まだまだGE熱は冷めないようでうれしい限りです。
最近では漫画、side by sideの発売が記憶に新しいですね。
主人公の活躍もそうですが、サブキャラクターたちの話も大好きです。

チラホラとアニメ版やリザレクションの要素を取り入れて今回は書くことができ、設定フリークとしてはヒャッハーな時間でした。
ギル編書くの難しすぎるんよぉ……。
さあ、次はナナ編だ……。


長らく感想返信、ご返答等できず大変申し訳ありませんでした。
活動報告の方でもご報告させていただいておりましたが、現在、被災地への緊急対応の職に就いておりまして
災害の爪痕深く、まだ復興には程遠いのが現状です。
メッセージを送っていただけたウンバボ族の強襲様、また当作を読んでいただき励ましのお言葉を頂きました皆様方、お心遣い大変ありがとうございます。

なかなかまとまった時間が取れずにおり、早く進めたいのに書き進められないジレンマを感じております。
東北の震災のおりに、数年音信不通になりましたときから全く進歩しておりません……あちらのオリ作の方をお待ちして頂いている方々にも、重ねて申し訳ないです。
一番困っていることが、不在中に湿気とほこりでPCが不調になりまして、新PCにしたところパスワード関係がすべて紛失したことです。
下書き……設定集……ウフフ画像……すべてなくなったすべて。
返信ひとつとっても思うようにいかず、心苦しく思っております。
次回投稿まで、どれだけの期間が開くかわかりませんが、気長にお付き合いいただけるなら幸いです。


それでは、次回もまた!

※タグを

勘違い→勘違い系

と編集いたしました。
かなぐり捨ててやんよォ!!


ガチ勘違いもの難しすぎるんよ…(´;ω;`)
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