フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない   作:ノシ棒

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誤字ご報告ありがとうございました。
諸所変更していきたいと思います。よろしくお願いします。


ごっどいーたー:3噛

実を言うと、とヨハネス・フォン・シックザールは前置いて語り始めた。

 

「私は人類の行く末を、そう悲観してはいないんだ」

 

片手に濃紅色のワインをくゆらせて。

儚げな響きを孕んだ声。

冷酷に見えてその実内面は烈火のような、この男に似つかわしくない、そんな表情をしながら。

 

「知っているか、ペイラー。ある実験の話しだ……細菌に死滅処理を施すという、極めて単純な実験だ。

 他全ての細菌は死滅したが、ある固体だけは、いかなる処置を施したとて死ぬことはなかったという」

 

「アラガミの始まり、オラクル細胞を発見した実験のことを言っているのかい? ヨハン」

 

「似ているが、違う。もっとずっと古い時代の実験さ。言っただろう? いかなる処置を……と。

 アラガミ……オラクル細胞はオラクル細胞によって捕食される。それは死と定義してもいいだろう。ゴッドイーターはアラガミにとっての死、そのものだ。

 消滅することのないオラクル細胞に、死の定義を当てはめることなどナンセンスだが……」

 

「いや、興味深い。続けてくれ」

 

「不滅のオラクル細胞を持つアラガミにも死は訪れる。殺す方法がある。だが旧時代に行われた実験にある、その細菌は、いかなる手段を持ってしても殺すことが出来なかった。

 切り刻んでも、焼いても、本来の姿へと復元してしまう。死なないんだ。ここまでならオラクル細胞のそれと同じだが……最終的に、ありえざる現象を発生させ、死そのものを回避するにまでに至った」

 

「ありえざる現象、とは何だい?」

 

「自らに向けられた攻撃を物理的にありえない方向へと捻じ曲げた。消滅が確認されたが数日後に復活していた。確実に消滅するであろう劇薬を運んでいた研究者が、突如として昏倒した。スプリンクラーの誤作動で実験が中止となった……」

 

「オカルト染みてる」

 

「純然たる、事実だ」

 

ヨハネスはワインで舌先を湿らせると、俯き、微笑んだ。

今にも崩れてしまいそうな、泣き出す前の子供のような、そんな笑みだった。

 

「研究者を志す前……まだ顕微鏡をのぞいていただけの少年だった頃に、父の書斎で見つけた資料に記されていたのを覚えている。あれが私の研究者としての原点だった」

 

「ヨハン、それは」

 

「どんな手を使っても死なず、時には周囲の環境すら捻じ曲げ、死を回避する。奇跡を自在に操る存在……まるで、神だ。

 そう、不死の存在には、不死の存在をぶつけるしかない。さすれば、真の不滅がどちらであるか、自ずと解る。

 ゴッドイーターではない。ゴッドイーターでは不足なんだ。だから、私は……」

 

「死なない細菌があるなら、死なない人間だっているはずだ。そう言いたいのかい? つまり、ソーマ君は」

 

「あれには悪いことをしたと思っている」

 

「珍しいね……君が素直に間違いを認めるなんて」

 

「過ちは過ち以外の何物でもないさ」

 

「そうだね、その通りだ……なら、もう少しソーマ君に目をかけてやってもいいんじゃないかい?」

 

「勘違いしているようだな、ペイラー。あれは対アラガミのカウンターとしては成功例だ。カウンターとしてはな。あれではアラガミを滅ぼすことはできない」

 

ペイラーが訝しげにヨハネスを見やる。

ヨハネスは虚空に向かって独白を続けた。

 

「追い詰められた人々の希望となるべく、息子には奇跡を宿そうとした。あの細菌のように、神の如く人間を創り出そうとした。だが、人間だった。

 あれは……あの子は、どこまでも人間だった。私のエゴで、ただ強い力を得てしまっただけの人間なんだ……私と、アイーシャの子だ……」

 

「ヨハン……」

 

「ソーマは、人々を守る存在として産まれた。私とアイーシャは、我が子をアラガミを滅ぼすものとしようとしたというのに……子供はいつだって親の手を離れていくものだな」

 

「ヨハン、ワインはもうそれくらいにしたほうがいい。飲み過ぎだよ」

 

「いいんだ、ペイラー。私とて酔いたい時はある。ソーマは……親の押し付けと、自らが背負った使命に板ばさみになっている。

 あの子は守る者だ。だが、私のエゴと、アラガミとなった母によって、それを認められないのだろう。

 だから私は、あの子を『カルネアデスの板』の、守人に……」

 

ヨハネスは、はっと、何か失言を取り繕うかのように口元を押えると、目を閉じて深く息を吐いた。

 

「すまない、ペイラー。君の言う通り、飲み過ぎたようだ。こんなものに頼らなければ、感傷に浸ることも出来ない。ままならないものだ」

 

「いや、いいんだ。そういう時もあるだろう。今日は8月28日……アイーシャの……いや、ソーマ君の誕生日だったね」

 

ああ、と諦めたかの用に一瞬笑ったヨハネスは、次の瞬間には常の傲岸不遜でいて不敵な態度へと立ち戻っていた。

それがこの不器用な男なりの、愛する人を悼む姿であることを、ペイラーは理解していた。

何も言わずに立ち去ってやるのが、友人としての優しさであろう。

 

「私は見つけたぞ、ペイラー」

 

ヨハネスの私室から立ち去るペイラーの背にヨハネスが投げ掛けた。

 

「天文学的な遺伝確率の下に産まれる存在。時には奇跡さえ起こし、死を遠ざける存在。もはや死なないのではなく、死ねない存在。その存在を前にしては、アラガミなど、欠けた似姿でしかない」

 

「欠けた、似姿だって?」

 

「人から産まれし、真なる神――――――」

 

――――――アラ“ヒト”ガミ。

と、ヨハネスは虚空を睨み付けて囁いた。

 

「皮肉だな……何もかも。ならば私は、自らの責務を果たすまで」

 

「ヨハン、君は……いや、アラヒトガミとは、まさか、“彼”のこと……なのかい?」

 

黙して語らず。

固く閉じられた瞳が、それ以上の会話を全て拒んでいた。

血の気が失せた蒼白な頬には、アルコールの熱は微塵も残っていない。

それは、ペイラーも同じである。

不気味な沈黙だけがそこにあった。

炎の匂いが染み付き、焦げ付き、むせ返るような。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

うおおおおッ、しゃああああい!

帝王牙とーーーーったどーーーー!!

おおおいやエイッシャオラーーーー!!

 

へへうへへへへ……これでやっと獣剣の強化が出来るぜ……。

長かった、本当に長かった。

何度も何度も心が折れそうになった……でも俺はやったぜ! やりとげたぜ!

ヒバリ嬢に吸い取られていくなけなしの給料を貯め、趣味のものなんて一つも買わず、食費を切り詰めまくって武器を揃える毎日さ。

使える武器種はもうもう全種類コンプリートするくらいの勢いだよ。

 

か、勘違いしないでよねっ。

すごいすごい言われるけど、何でも使っていかないと死んじゃうんだからねっ。

別に褒められたいからやってるんじゃないんだからねっ。

 

いや、マジで。

普通ゴッドイーターって、自分のメイン武器種決めたら、それ極めてくものでしょ。

使用武器の適性みて任務あてられるのが普通なのに、なぜか俺は適性外のアラガミをばんばんあてられるものだから、次々武器を使い分けていかないと普通に死ねる。

なんなの……陰謀なの?

フェンリル本社は俺を殺そうとしてるの……?

今日だって、偶然カノンの流れ弾が飛んでこなけりゃ危なかったし。

 

いかんいかん、ネガティブ思考はやめよう。

今日は獣剣が次のステップに進んだ祝いだ。

材料集めに比べて、強化は一瞬。

さすがリッカ、いい腕してる。

たまにハグしてくれるし、ホンマうちの技術班は世界一や!

 

おお……おお、これが獣剣の輝き!

ふ、ふおっ、ふおおお……ふつくしい……!

かっこいいだけじゃない。なんとこれ、麻痺効果まで付いてるっていう。

ショートソードの手数。麻痺効果。これ以上のシナジーのある武器もないだろう。

これでアラガミと戦うのも少しは楽で安全に……。

 

えっ、ちょっ、神器さん?

なんで装備せずにクロークに戻すの?

は? 獣剣は甘え……?

麻痺とかヌルゲー……?

いや、じゃあなんで作ったっていう……あ、そうですか。

コレクター魂がうずいたんですか……。

 

え、コンプしたい?

やめてぇ! もう限界!

もう俺は限界だからぁ!

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

そこは一面の瓦礫の海。

海向こうを見れば、穴空きチーズのようにはつられたビルが、荒野からぽつぽつと唐突に顔を出している。

そこが何万という人が行き交う日本の首都であったとは、誰も信じられないだろう。かつての面影は全く残っていない。何もかもが乾いて、朽ち果てたような、そんな有様だった。

自分達が立っている場所も、旧時代の人間が残した船であるという。

旧時代、とは言ったものの、それは20年程前でしかない。

たった20年で、世界は一新してしまったのだ。地獄へと。

そして、乾いた世界に僅かに残る旧時代の残骸を、ガツガツと貪る異形の化物がいる。

どこまでも貪欲に世界を捕食するオラクル細胞の産み出した、神の名を冠する食欲の化物――――――アラガミ。

 

「ソーマだ。サリエル堕天種一体を確認。後ろに着けたぞ」

 

――――――了解。こっちも位置に着いてる。指示と同時に飛び出して、奴の気を引いてくれ。

 

その異形は女神か、魔女か。

女性の上半身を模し、巨大な眼玉の冠で周囲をギョロギョロと見渡すアラガミ――――――サリエル・堕天種だ。

サリエルからやや離れた位置では、機械油にまみれながら物陰に隠れ、無線で連絡を取り合う二人の青年がいた。

彼らはフェンリル極東支部に所属する、ゴッドイーター第一部隊の隊員である。

第一部隊の主な任務は、アラガミ防御壁外周に近づくアラガミの、強襲殲滅。

壁に囲われた都市に近づくアラガミを、片端から殺し尽くしていく直接戦闘任務。言わば、予防対策であり、最前線を任される部隊である。

その第一部隊に課された使命とは、積極的自衛という任務の性質上、防衛班のように専守的に人々の命を守るというよりは、人間の生活圏を広げていく攻勢防衛という意味合いの方が強い。

 

「希望の火を守る、か」

 

臭い言い方だな、と青年の一人……ソーマは、無線に送られる信号でもう一人の青年の位置を確認し、口の端を釣り上げた。

彼はかつて、ソーマにこう言ったことがある。

 

――――――なあ、一人で戦おうだなんて、そう思っているのなら、やめた方がいい。俺と一緒に行こう。

 

黙れ、とソーマはその時、彼に言い返し、胸ぐらを掴み、壁に叩きつけた。

ソーマの戦う理由は、もっと個人的なものからだった。

怒りや憎しみや、そんな感情からだった。

そう思っていたはずだった。そうでなくてはならなかった。

彼は、そんなソーマの胸の内を見透かしたようにして、再び口を開いた。

 

――――――人はそんなに弱くない。放っておいてもしぶとく生きていくさ。俺たちはただ与えられた任務をこなせば、それでいいんだ。

だから余計なことをする必要も、考える必要もない。それ以外に、何が必要なんだ? なあソーマ、お前は一体、何に苦しんでいるんだ?

 

苦しんでいる、などと。

ソーマの身にまつわる特別な事情のことなど、その時の彼は少しも知らなかったはずなのに。

自分すらも見ないようにしてきた、自らの胸の内を暴かれ、ソーマは激高した。

彼を殴りとばし、周囲の制止を振り切って馬乗りになり、殴って、殴って、そうして自分をじっと見つめる瞳に、手を止めた。

 

――――――こんな程度じゃ俺はどうにもならないよ。もっと強く殴れよ。本気でやれ。

 

ソーマの膂力は一般人はもちろん、通常のゴッドイーターと比べても一線を隔すものがある。

だが彼は淡々としているくせに、本当にしぶとかったのである。本気で、全力でやれと言っているのだ。

すぐ死ぬ奴らなんかと一緒に戦えるか、とソーマはいつも周囲を突き放してきた。

ソーマにとって、仲間意識は重荷でしかなかった。

他人を信頼しても、死という最悪の形で絆は消えてしまう。

そうして次から次へと新たに補充される人員と、コミュニケーションを一から取らなくてはならなくなる。それはとても疲れるのだ。

はじめまして。

こんにちは。

さようなら。

お前の事は忘れない。

そんな風に何度も繰り返される儀式に耐えられるよう、ソーマは出来ていなかった。

何故ならば、自分はアラガミと戦うために産まれたのだから。アラガミを滅ぼすために産まれたのだから。

人との絆を築き、守るためには出来ていないのだから。

だからソーマは一人でいようと決めた。他人など不要と考えた。

そうしなければ、戦い続けることが出来ないから。

そうしなければ、母を――――――父の――――――。

 

――――――大丈夫さ、俺は死なないから。

 

静かな瞳で、確信を持って彼は言う。

こんなことを言う男が、今まで居ただろうか。

何も考えるな。ただ、戦えと。きっとその先に答えはあるのだと。

そして戦うのならば――――――共に。

自分が理想とする在り方を口にする彼は、正にその生き方を体現していた。

任務中は冷静沈着。機械のように正確な動作。的確な指示。

どれを取っても、6年も前から前線で戦っている自分を遙かに超えている。

それでいて彼は、人としての情を捨ててはいなかった。

 

――――――気にするなよ、ソーマ。俺はゴッドイーターだ。

 

お前もそうだろう。そう言っているようにも聞こえた。

だから一緒に戦おう。お前も、何もかもも守ってやる。そして生き抜いてやる。だから、お前も。

俺と同じものとなれ。真なるゴッドイーターに。

言外に含まれたは意志は、確かにソーマに届いた。

 

――――――見た目より頑丈なんだ。だからほら、もう一発キツイのを頼むよ。任務サボれるくらいのをさ。さあ、本気でやれ。

 

お前よりも強いのだから死なないのだ、と言いた気に、殴られて腫れた顔に浮かべる、勝ち誇った笑み。

その通りだった。

ソーマは拳を振り上げた。

肩の上まで掲げられた拳は、ぶるぶると震えて、力なく地に落ちた。

チクショウ、とソーマは負け惜しみを言うしかなかった。

この男には勝てないと、ソーマが思い知った瞬間だった。

ソーマも、彼の言葉を全て鵜呑みにした訳ではない。あのリンドウだっていなくなってしまったのだ。戦場に絶対などない。

だが、しかし。

彼が自分達のリーダーとして在る間くらいは、こいつの話を、ある程度はまあ、聞き留めてやろうか。

不思議と素直にそう思えてしまう。

 

 

「おい。まだか」

 

――――――まだだ、もう少し。

 

「チッ・・・・・・おい、リーダー。もう一度聞くが、お前、ほとんど道具を持っていなかったろ。そんな装備で大丈夫か?」

 

――――――大丈夫だ、問題ない……たぶん。

 

「たぶんって、おい」

 

――――――初期装備なんだ、これ。笑えるだろ。

 

彼にはある悪癖があることをソーマは知っている。

自分を追い込む悪癖だ。

勝ちが積み重なれば、全てが崩れていってしまうとでもいう、強迫観念を抱いているかのようだった。

今回もその悪癖が発揮されたようだ。

彼の装備しているのは、訓練用のナイフにシールド、そして制御装置。

訓練用とはいえ、戦闘のためにつくられた本物だ。戦えないことはないが、当然威力は心許ないものである。

時折彼は、こうして自分自身を縛って遊ぶかのような、そんな奇行をしでかす。

その時は決まって、頬を釣り上げて笑いながら、戦いに身を置いているのだ。

 

「お前が今どんな顔をしているか、想像がつく。ムカつく面だ」

 

――――――君ね、もう少し年上を敬おうとかいう気持ちは無いの?

 

「うるせぇ馬鹿野郎。ちょっと早く産まれたくらいで、デカい面しやがって。帰ったら覚えてろ」

 

――――――解ったよ。帰ったら、また一緒にクラシックでも聞こう。今度は俺が酒の飲み方を教えてやるからさ。興味あるんだろ?

 

「……ふん。いい加減その癖を何とかするんだな。アリサがまた泣くぞ」

 

何で俺が後でフォローしなきゃいけねえんだ、とソーマは自分の頬が釣り上がるのを自覚する。

彼の悪癖を強く止めるように言えない理由が、これだ。

つられて笑ってしまうのだ。自分も。

彼と肩を並べて戦うことが楽しいと、そう思ってしまう自分がいた。

 

『はいはい、無駄口はそこまで。アリサがヤキモチ焼いちゃってもう、すごい顔してるわよ。ソーマがリョウを独り占めしてるー、って』

 

耳にかけた骨伝導イヤホンから、繋ぎ放しにしていた無線連絡が届く。

 

『ふぇあっ!? さ、サクヤさん! いい加減なこと言わないでください! そんなこと無いです、あ、有り得るはずがありません!』

 

『本当に?』

 

『そ、それは……』

 

――――――そっか、やっぱり俺、嫌われてたんだ……。

 

『いや、それは違くてですね! 本当は逆で、あの、その』

 

――――――逆? どういうこと?

 

『う、ううーっ! もうっ、リョウの馬鹿! 脳味噌コウタ並! ドン引き! ドン引きですっ! 通信終わり!』

 

『あらら、怒られちゃったわね、リョウ』

 

――――――脳味噌バカラリーって言われた……。

 

「そいつについては同情してやる」

 

『……コウタ君、やっぱりそんな扱いなんだ』

 

第一部隊の面々は全員がっくりと肩をおとした。

一人は少女に嫌われたと誤解し、一人はやれやれまたかと辟易し、一人は尊敬する彼に最大級の侮辱を吐いてしまった後悔に、一人は基地にて待機中であるもう一人の少年の扱いの悪さに。

随分と温くなったものだ、とソーマはフードをかぶり直す。

だが、嫌な気分ではない。

悪くない。

まったく、悪くはなかった。

砂の波の音と潮の臭いを嗅ぎながら、ソーマは身を屈めた。

アラガミの通った道は全てが無毛の大地と化すか、荒れ果てるかのどちらかしかない。それでも海は変わらないのだから、おかしな気分だった。

こんな光景を目の当たりにしては、終末思想も蔓延る訳だ、とソーマは皮肉気に頬を釣り上げた。

 

終末思想も、ある種の救いなのであることは否定しない。いっそ何もかも全てを壊してくれたなら、諦めもつくという考えは、人類共通のものだろう。

生命の再分配と、地球の再生だったか。

波間に漂う木の板だか何だか知らんが、トチ狂ったことを。

 

ソーマは彼の言葉を思い出す。人間は良い意味で生き汚い生物である。地獄であっても、人はしぶとく生きていける。

アナグラに暮らす人々の顔を思い出す。

ろくに関わりを持とうとしなかった自分にも、笑いかけてくれた人々。

彼の言う通りだと思った。

これから先、どれだけの陰謀や事件、新たなノヴァが産まれこれ以上の地獄が創造されたとしても、人はしぶとく生きていくのだろう。

今の自分ならば、そう信じられる。

彼は初めから解っていたのだろう。

こんな地獄にあって、人々が笑っていられること。それが希望なのだと。

ゴッドイーターが希望の光であるなどと、勘違いも甚だしい。

 

アナグラのラウンジにて、あいつの戦う背中に希望が見える、と口を滑らせてしまったことがある。

一番最初に反応したのは、アリサだった。

アリサは鼻をならし胸を反らしながら、自慢気に言った。

彼が希望なんて、あなたは勘違いをしている。

町を見なさい。そこに希望がある。

彼はそれを、初めから知っていた。

私たちの仕事は輝くことじゃなくて、希望の火を守ることなんだ。

 

何故お前が自信満々に答えるのだ、とコータに突っ込まれて赤くなるアリサだったが、アリサの答えはソーマの内にすとんと落ち着いた。

なるほど、と思った。

あれがゴッドイーターの真の姿か。

6年も戦い続けてそんなことも解らないなんて、馬鹿か俺は。

あいつが俺を易々と超えていったのも、当然のことだ。

単純なことだった。

人々を守ること、それがゴッドイーターの使命なのだ。当然のことだった。

それ以上も、以下もない。その他の理由など不要であるのだ。

私心は捨てろ、というツバキの教えが、ゴッドイーターの真理を表していた。

戦っている間は、たとえそれが何者であろうとも、バケモノであったとしても、ゴッドイーターなのだ。

怒りや憎しみといった、戦いに理由を持ち込んではいけない。単純に思えて、これが難しい。アラガミに憎しみを持たない者など、探すのが困難なご時世なのだから。

だが、彼はどうなのだろうか。

 

彼の戦う姿に、ソーマは尊さを感じていた。

だがそれと同時に、恐ろしさも感じていた。背筋がうすら寒くなるような感覚だった。

彼は憎しみや怒りを持たずに戦っている。

そして、それ以外の全ても捨てようとしているようにも見えてならなかった。いずれ愛や優しさでさえも。

彼は加賀美リョウタロウではなく、『ゴッドイーター』という現象か、装置になろうとしているのではないだろうか。

そう思えてならなかった。

戦闘中に倒れた仲間にリンクエイドを施すのは、ほとんどが彼だ。これが防衛作戦であったり偵察であったのならば、何の問題もない。

しかしそれが最前線での任務中とあれば、話は別。

リンクエイドとは、自らのオラクル細胞を他者に注入し、活力を与える技術なのである。

つまり、自分の命を分け与えているに等しい。

身を隠す隙も場所もなく、撤退も許されない中でアラガミの猛攻に耐えながらのリンクエイドは、正気の沙汰ではなかった。

そんな最中でリンクエイドをして回る彼に恩義を感じ、アナグラ所属のゴッドイーターは彼にだけはリンクエイドを何としてもしようと試みる。

ソーマもそうだった。

何度も助けられたし、彼が未熟だった頃は、助けもした。

しかし最近は助けられる一方だった。

出撃する度に洗練されていく彼の動き。

彼が戦う姿は、これが唯の作業だと、そう言っているかのよう。

それを悪しと言うつもりはない。

戦いを舐めているのかと、そんなことをこと彼に限って言うことなど、絶対に出来ないことだ。

だが、彼の戦いを見ていると、皆恐怖を感じてしまうのだ。

彼自身が怖いのではない。彼が何か別の、自然と頭を垂れたくなるような存在になってしまうような気がして。ああやって優しく微笑んでいてくれる彼が、今にも消えてしまいそうな気がして。怖い。

畏怖というやつだ。

あるいは、彼を失った自分達がどうなってしまうのか……という恐ろしさか。

 

かつての自分ならばそんなことは無かっただろうに。

やはり、随分と温くなったものだ。

ソーマは神機を握り締めた。

“純白”の神機は確かな手応えをソーマの掌に伝えてくれる。

そういえば、『シオ』もあいつに随分と懐いていた。

似た者同士、か。

薄らと昇り始めた月を見上げながら、ソーマは通信機に集中する。

機は近い。

 

「まだか。いつでもいけるぞ」

 

――――――よし、今だ! 頼んだぞ、ソーマ!

 

「任せておけ!」

 

雄叫びを上げ、飛び出す。

一人で戦うなと言っておきながら、単独出撃を繰り返している馬鹿に見せ付けてやろうではないか。

お前の背中を預けられるのは、自分達だけだということを。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

「うおおおおおお!」

 

よしきたソーマ、リンクエイドな。

久しぶりの共同任務だから、にいちゃんちょっと張り切っちゃうぞう。

はいすいませんアラガミさん、そこちょっと通りますよ。

 

「ぬおおおおおお!」

 

はいはい、リンクエイドリンクエイド。

 

「フオオ――――――ッ!」

 

へへっ……俺の回復薬はまだ1セットあるぜ……!

 

「ぐ、がふっ、ぐ、う、うう、うおおおおおお!」

 

ていうかなんで俺以外の誰もリンクエイドしようとしないんだよこんちきしょん。

何なの? リンクエイドした後って、回復薬がぶ飲みしないといけないんだよ?

俺の事を薬箱と勘違いしてるんじゃなかろうか。薬代も馬鹿にならないんだぞ。 

何これイジメなの?

俺を破産させようとしてるの?

ヒバリ嬢に貢がされて懐事情が火の車だってのに。

アリサ、サクヤさん、もっと回復弾撃ってくださいよお願いします。

素材も出ないし、もう俺は心が折れそうだよ……。

 

無だ、心を無にしなければやっていけない。

私心を消すのだ、とマイ女神ツバキさんも言っていたじゃないか。

無心無心。

……やばい、作業感が増して来た。

でも今日は俺の素材集めのためだけに、わざわざ皆が付き合ってくれてるんだから、良い顔をしてないと失礼だ。

スマイルスマイル。

 

「へ、へへっ、そうだな、お前もそう思うか。これからが楽しくなってくる所だ。行くぜ! うおおおおッ!」

 

お前はもういい……! もう……休めっ……! 休めっ……! ソーマっ……!

 

本当にごめんよソーマ。

サリエル15連戦とか馬鹿な苦行に付き合わせちゃって。

他の皆みたく、ローテーションしてくれたらいいのに。

良い奴だよお前、本当に良い奴だ。

俺が入社したての頃も面倒を見てくれたのはソーマだったよな。

うん、本当にもうね、あんまりにも待遇が悪過ぎて俺が鬱入っちゃった時も、ぶん殴って立ち直らせてくれたのはソーマだったし。

お前一人で出撃して素材独り占めするんじゃねえよ、もういっそ殺しておくれよー、ってへらへら笑ってた俺。

うわあ、ドン引きだ。

ソーマも気持ち悪くて泣きそうになってたし。

ごめんなソーマ。

でもリンクエイドはそろそろ勘弁な。

 

 

「すまねえ・・・・・・。足、引っ張っちまったな」

 

いいさ、相棒。お互い様だろう? 俺がやばくなったらお前が助けてくれよ。

 

「・・・・・・ああ! 任せろ、お前の背中、俺が守ってやる」

 

さあ、一気に畳みかけるぞ!

 

「うおおおおっ!」

 

うおおおおっ!

頑張れソーマ! 頑張れ俺の神機様ー! 

超他人任せだけどごめんね!

 

さあ今度こそ出ろよ縮光体ーーーーーーっ!




思っていた以上に好感触で、大変ありがたく思います。
皆様、ご感想ありがとうございました!

でもね。
短編ですから!
タグにもそう書いてあるよ!
だから次くらいで・・・終わるんだぜ・・・!

勘違いもののネタが浮かばなさすぎて、長期続けていくのはやはり難しいです。
ほんと勘違いもの書いてる方々の頭の回転の早さが羨ましい・・・

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