フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない 作:ノシ棒
また、活動報告の使い方もテストさせて頂きたく思います。
感想板の方に質問など乗せていただけたら、活動報告の方でお答えしていきたく思います。
よろしくお願いします。
※誤字チェックありがとうございました。
後日修正いたしますので、いましばらくお待ちを!
やってきました女神の森【ネモス・ディアナ】!
アラガミ防壁に囲まれた、緑が残る街!
やっぱり、人間には緑が大事だと思うんだ。荒野じゃ人の心だって荒むよ。
へへ……俺、ネモス・ディアナにいったら、街の人と一杯仲良くするんだ。
こいよアラガミ! オラクル細胞なんか捨ててかかってこい!
そして訪れるハートフル展開!
最後は住民の人達と涙ながらにお別れするんだ。またくるよ忘れないぜ、って!
よーし、俺、全力でゴッドイーターしちゃうぜ!
そう思っていた時期が、俺にもありました。
わぁぁーい……きつぅーい……。
風当たりがきつぅーい……。
「また余所者が」「極東の」「役立たず」「あいつらがアラガミを連れて来てるんじゃ」とか、そんなボソボソ言ってるのがすごい聞こえてくる。
うん、お腹痛い。
ちょっと待って、こんなに風当たり強いとか、俺も初めての経験なんですけど。
確か少し前に極東支部との間に提携が結ばれて、物資とか搬入されたんじゃなかったっけ?
歓迎ムードだったって聞いたけど、何でこんな……ちょっ、痛い!
痛い痛い石痛い。
石投げないで痛いからあ!
そらフェンリルの駒とか犬とか、ゴッドイーターがそんな好かれてないのはわかってますけどね!
でも命削ってやりたくもない戦働きとかしてるんだから、もうちょい優しくしてくれてもいいでしょ!
感謝しろとかまでは言わないから、優しくしてもさあ!
優しく……優しくしてぇ……。
おい誰ださっきから俺の尻に執拗に石を当ててる奴!
しまいにゃキレるぞオラァ!
くらぇぇぇぇぇ!
神回避ィィイイイ!
□ ■ □
女神の森【ネモス・ディアナ】。
三年前、エイジス島建設の技術者であった葦原総統が建設を始めた、対アラガミ防壁に囲まれた居住区……私の故郷。
もう珍しくなってしまった、森に囲まれた地。
それも、壁の内側だけだけれど。
壁がなかった頃は、皆肩を寄せ合って、アラガミの恐怖に震えていた。
でも私は、周りにいる大人達の方が怖くて、いつも泣いていたのを覚えている。
「極東の奴らのせいで」、私が子守唄代わりにいつも聞いていた台詞だ。
怖くて、怖くて……だから、歌を唄った。
私の歌は――――――何かから、逃れるためにあったのだ。
今日、また新しく極東支部から、ゴッドイーターが派遣されるらしい。
アリサさんやソーマさん達は、一時避難で滞在していただけ。正式に、この街にも守護がおかれるようになった。その足がかりなのだとか。
幼馴染のサツキと、話のタネに、ということで、様子を見に行くことにした。
正面入り口ゲートから真っ直ぐ先、人が集まる広場に居るのだとか。
あまり、街の空気が良くないのがわかる。
「あいつらのせいで」
また、囁き声が聞こえた。
「人は愚かな生き物さ」そう言って、おじいちゃんが笑っていたのを思い出す。
物に心は左右され、受けた恩もすぐに忘れ、支援がなくなればそれを恨みに思う。
「この街にだって非はある」これもおじいちゃんが言っていたこと。
捨てられる理由がある。そう聞こえて、私はまた怖くなって……。
そんなおじいちゃんも、つい先日、死んでしまった。
アラガミに襲われて。
私はまた歌を唄った。
泣くことはなかった。
「うっ……!?」
サツキの短い悲鳴に我に返ると、いつの間にか、人の輪がぽっかりと開いた場所に辿り着いていた。
ざわざわと、恐怖と不安がないまぜになったような、そんなざわめきが続いている。
その人の輪の中心に――――――何かが、いた。
少し斜めに傾いた、ピンク色のキグルミが――――――。
耳がくたびれて折れ、身体は元は鮮やかなピンク色だったんだろうけども、薄汚れて色が斑になっている。
目は虚ろで、どこを見ているのかもわからない。
だらりと両手は下がり、どこか疲れた様子にも見えた。
そんなキグルミが、高速で、左右に、残像を残しながら移動し続けている。
反復横とびをしているんだろうか?
それにしては、まったく足が動いた様子に見えない。
率直に言って、怖い。
「ひぃこっち見た!」
ぐりん、と首から上だけがこちらを向く。
「ちょっ、くんな! こっちくんな!」
スイー、と先ほどの独特な移動方法で、滑るように近付いてくるキグルミ。
人間の出せる速度ではないし、そもそも人間はそんなふうには動けない。
私達がリアクションをする前に、がっしりと手を握られる。
――――――よろしくお願いします。
ファンシーな見た目にはそぐわない、落ち着いた、男の人の声。
キグルミの腕には、特徴的な、ゴッドイーターの腕輪が。
彼が、正式に配属されたゴッドイーターなんだ。
「たった一人かよ、ふざけやがって」吐き捨てるような誰かの声が聞こえた。
心がまた、ざわめいた。
「ちょっ、ちょっ、ちょーっと! おさわりは許可をとってからにしてくれませんかねぇ? ほら、離れて離れ……見た目キモッ!」
サツキ、だめだよそんなこと言っちゃ。
この人は私たちを守ってくれるために、やってきてくれた人なんだから。
ほら、しゅんとしちゃった。
「いや、いくらゴッドイーターだからって、これ完璧に不審者でしょ」
――――――芸が、できます。怖くないです。
「芸って……どんな? いや、やっぱりやらなくていいです」
――――――よ、よいこのみんな、みんな! あっ、あっ、あっ、あっつまれぇ~!
「うわぁ何も言ってないのに始め出した」
――――――ようし、みんな素直だ、素直が一番成長するぞう……そんな成長期のみんなでゴッドイーターのうたを歌おうかな! いえーい!
「えらいドギツイのがきちゃいましたね……」
――――――ゴッドイーターのーうたーみんなでうったおうー。
「うわ、子供たちが……だめだめ! 変な人に近づいたらだめって教わったでしょ! こらガキんちょ共! ダメだって……あぁー抱きついちゃってるし、振り付けまで」
――――――YO! YO! シェケ! YO! シェケYO!
「情操教育に悪すぎるでしょうが! いつもユノの歌を聴いてたから耳が……この音痴! やめなさーい! やめろ! もう帰れ!」
――――――受け入れられようと頑張って歌までうたったのに、帰れとか言われたでござる。ここ歌とか流行ってるって聞いて、超練習してきたというのに……解せぬ。
サツキとキグルミの彼が言い合いを始める。
その横で私は。
「ちょっと、ユノ! あなたも笑ってないで、この馬鹿ゴッドイーターになんとか言ってやってくれませんかね!」
私は……私は。
すごく、おかしくなって、吹き出してしまっていた。
自分以外の歌を、久しぶりに聞いた気が、した。
歌をあんなに楽しく歌える人が、いたなんて。
私は、私の歌が慰みになればと思って、歌っていた。
静かに聞き入ってくれる人がいたのは、素直に嬉しかった。
皆、落ち着いたような、安らかな顔となっていた。
でも……それだけ。
そこから先は、何もない。
気が付けば、私は彼の手を、こちらから取っていた。
顔を見せて欲しいと頼みながら。
――――――加賀美リョウタロウです。
キグルミの頭を外して、彼は答えた。
静かな声に似合う、穏やかな顔付きで。
「えっ……ちょっ……ユノ、あなたまさか……!」
子供たちが「ユノ顔赤い」「ほんとだまっかだ!」と笑っている。
私の歌では、子供たちに笑みを与えることは出来なかった。
加賀美リョウタロウ――――――さん。
初めて会ったばかりの、極東からやってきたゴッドイーター。
その人となりは、まだよくわからないけれど。
子供たちの笑顔が、全ての答えに思えた。
□ ■ □
えいっえいっ。
えいえい、そやーっ。
「ユノ、あなた何してるんですか?」
振り付けを、覚えてるんです。
ワン、ツー、ワンツー、ごーなな。
ごっどいーたーのーうたー。
「趣味悪すぎでしょ……ほんと」
中々いい歌ですよ?
子供向けだから、大人には合わないかもしれないけれど。
「そういうことを言ってるんじゃないんですけどねぇ……はぁ」
ほら、サツキも一緒にやろ?
コンゴウのポーズ!
うほーい。
「嫁入り前の娘がやめなさい!」
じゃあ、誘うサリエルのポーズ?
「ユノが極東からきたゴッドイーターに毒された……ほんともう極東はろくでもないことばっかりしてくれて! まったく!」
サツキ、どこ行くの?
「あのゴッドイーターのとこに文句言いに行ってやるんですよ!」
こんな夜遅くに?
あ……もう!
私も後を追いかける。
こうして塔を自由に出入りできるようになったのも、最近のことだ。
壁ができる前はそうじゃなかった。
三年前、父さん――――――葦原総統は、エイジス島から帰ってきて、変わってしまっていた。
私をこの塔に押し込めて、ずっと政務に取り掛かっていた。
フェンリルに恨みをぶつけるように。
私はこの塔から街を見下ろして、いつも鬱屈した思いを抱いていた。
自分一人だけ守られて、街を見下ろしている。
籠の鳥のように扱われ、お前は他の者と違うのだと言われているような気分だった。
こんな世の中になって、甘いことを言っているという自覚はある。
でも、生きているだけで、良いなんて。
安全な暮らしができるだけで幸せだなんて。
私にはどうしても思えなかった。
贅沢を言っているのだろうか。
甘やかされた女の意見なのだろうか。
私は……。
「ちょっと! リョウタロウさん! あなたウチのユノに何を教えちゃってくれてるんですかね!」
――――――しーっ、静かに。やっと寝付いたとこだから。
静かに、と口元に指を立てるリョウタロウさんは、キグルミを着ていなかった。
今日はキグルミを着ていないんですね、と言うと「それ以上、言わないでくれ」と深刻そうな顔をして俯いてしまった。
聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。
きっと、私たちには言えない任務に関わるものなのだろう。
「ああ……子供たちですか」
サツキの声がリョウタロウさんの手元を見て、小さくなる。
リョウタロウさんは、眠る子供たちの中心で、すがりついて目を閉じている女の子の頭を、ゆっくりと撫でていた。
優しく、優しく――――――。
「この前、アラガミの襲撃があったんですよ。それでたくさんの人が死んだんです」
――――――この子たちは、それで?
「ええ、孤児になったんです。私たちの祖父もね……。フェンリルが神機兵を派遣してくれたら、極東支部のゴッドイーター達がもっと早くきてくれたら、ねえ? どう思います?
この子たちのことを見て、かわいそうだって、胸が痛みますか? それはなぜ? 自分達の罪だと、そう思っているからでは?」
静止の声を上げる前に、彼が指を口に当てた。
サツキの舌打ちだけが、夜の帳に響いた。
――――――なぜ、この子たちは、大人を頼らないんだろう。
リョウタロウさんが、女の子の髪を撫でながら、ぽつりと言った。
――――――たかだかここに来て数週間の俺のところに群がるのは、なぜだと思う?
「それは……」
――――――俺がゴッドイーターだから、守ってもらえると? そうじゃない。子供は純粋だ。傷付いた子は、特に。
「ここの大人たちに、近付きたくないからだと、そう言いたいんですか?」
――――――どうかな。でもあなただって、ここの大人たちの一人だ。
サツキは何かあきらめるようにして大きく息を吐き出すと、パイプ椅子に力なく腰掛けた。
ぎしりと椅子の錆が軋む音がした。
その通りだ、と私も思った。
広場の一角に建てられたほったて小屋に、アラガミ襲撃によって家を失った人、家族を失った人達が身を寄せ合っている。
リョウタロウさんも、この小屋が並び立つ広場の隅に場所をとり、生活していた。
聞くところによれば、まともな食事も出されていないのだとか。
露骨な嫌がらせだと思う。
父さんに直談判をしに行っても、政治的なつきあいや取り決めで、これは仕方のないことなのだと諭された。
「なんですこれ……ぎゃあ!」
サツキがテーブルの上においてあった箱を何気なしに開ける。
一気に顔が真っ青になり、箱を放り出した。
中からは、大きな何かの幼虫が、何匹もうぞうぞとはい出ていた。
――――――ああ、俺の明日の弁当が。
「はあ!? 弁当!? これが!?」
――――――うん。ほら、おいしい。
「ぎゃーっ! 食べたぁ!」
サツキ、うるさいよ。
もう。
「ぬぐぐ……いやでもこれ、あなた配給はどうなったんですか? ああ、ゴッドイーターだから足りませんね。そうですね、すみませんね大した食事も用意できずに」
――――――はい、きゅう?
「正式に配備されたゴッドイーターなんだから、毎日あなただけに用意された配給物資があるはずでしょう」
――――――えっ。
「んん? ちょっと、まさか……嘘でしょう? 今まで何を食べてたんです?」
――――――なんかそこら辺に生えてる草の根っことか、虫とか。
「移動とか、神機の整備はどうしてるんですか?」
――――――移動は、普通に走ってるけど。神機は整備班がたまにくるから、そこに預けてる。
「移動手段もなし、極東からの人員だけがサポートしているですって……? こちらでの支援が打ち切られているということ……? まったく、どいつもこいつも!」
ああ、まただ。
またこの感じだ。
嫌な感情が、胸の中に湧きあがってくる。
やはり、という思いが。
やっぱり、そうだったんだ。
「あいつの食事に、汚物を混ぜてやったぜ」なんて、嘘だと思っていた。
でも本当だったんだ。
今じゃ、食べ物を出しもしないなんて。
――――――どうした、ユノちゃ……さん。
リョウタロウさんは、どうしてゴッドイーターになったんですか?
色んなひとからいじわるされて、非難されて……全部、あなたのせいじゃないじゃないですか。
命をかけて戦って、こんな仕打ちをうけて……それでも、なぜ。
――――――あー……俺が、ゴッドイーターになったのは、正直なりゆきだよ。ある日突然、紙っぺら1枚が届くんだ。
おめでとう、君はゴッドイーターに選ばれましたって。
覚えてるよ。怖くて怖くて、震えながら寝てた。これは夢だ、悪い夢なんだって。引き摺られて連れていかれるまで、駄々を捏ねて、自分の家に閉じ篭ってた。
だって、無理だよ。
それまで普通に暮らしてたのに、ある日突然、君は選ばれたんだって武器を持たされて化け物と戦わされるんだ。人喰いの化け物と殺し合いをしろって。
無理だよ、そんなの。明日もまた、今日と同じ日が続くと思ってた。
その日暮らしで、適当に職を見つけてさ……いい加減、無職も恥かしかったし。
そういう明日がくるものとばかり思ってた。
そんな、なんでもない明日がさ……。
「無職、だったんですか?」
――――――うん。一昔前の職が溢れてた時代はフリーターなんて呼ばれてたらしいけど、今はそんなものなんかないでしょ。俺のいた所は腹をすかせてどうしようもない奴ばかりいたから、汚い仕事を持ち込まれても、喜んで飛びついたさ。俺もね。
「汚い仕事、というと、何をしていたんです?」
――――――物資の横流しの手伝いとかね。思い出したよ。俺はここに何度も来たことがある。子供の頃から、運び屋の手伝いとかもしてたんだ。運んでたのは、壁だった。
アラガミ防壁なんてちょろまかしてたんだ、護衛なんて付けられるわけがない。金を握らされて使い捨てにされたんだよ、俺達は。ここの総統さんにね。
「三年前に行われた対アラガミ防壁の建設には、あなたも関わっていたんですか……かなり無茶なことをしたと聞いてはいましたが」
――――――恨んじゃいないよ。二束三文だったけど、それで喜び勇んで手を上げたような奴らさ。それでも中にはそこそこ成功する奴もいる。
そいつらと一緒に、運輸業で何か一発立ち上げようって、話してたんだ。その矢先だよ、ゴッドイーターなんてのにさせられたのは。
ゴッドイーターになったことに後悔してるとか、そういうのはなかったよ。そもそも拒否権なんてないし。嫌だなんて思っても、さ。
アリサ達もここに来たんだって? じゃあ聞いたんじゃないかな。皆を守るために私は戦う、とか。
「あなたは違うんですか? あなたの戦う理由は」
――――――最初は、死にたくないから戦ってるだけだった。今は……なんだろう、わかんなくなったよ。
「はっ、お気楽なことですね。武器使えるってだけのフェンリルの駒に成り下がって、恥かしくないんです?」
――――――うん。それも、何も考えられなくなった。ただこれだけは言えるよ。顔も知らない誰かを守るためだとか、使命感でやってるんじゃない。そういうの求められても、その、困る。幻滅させて悪いけれど。
悪いついでに、あんまりそういうの、他のゴッドイーターに言わないでやってほしい。ゴッドイーターはさ、ほら、どんどんその、低年齢化していってるから。
「どういう意味です? お仲間を庇いたいんですか?」
――――――ゴッドイーターは死亡率が高い。だから、次々に補填してかなきゃいけない。新しく連れてこられるのは、年端もいかない、子供って言えるくらいの奴らだ。
最近そんなのばっかりだ。極東にやってくる新入りは若いんだよ。すごく。
言えるか? 役目だから、仕事だから、食わせてもらってるんだから、命かけて戦えって。
私たちのために死ぬのが当然ですよね、ってさ。
子供相手に、言えるか?
「それは……」
――――――たまらなく嫌になるよ。自分よりもずっと年下のゴッドイーターが、皆を守りたいんです、なんて張り切ってる姿をみるのは。
笑って犠牲になりに行くんだ。持たざる人々の犠牲にさ……。自分の命、未来、全部差し出して、戦えと言われるんだ。誰かを守るためにって。
武器を取るのは当たり前だ。人を守る仕事は尊いものだ。だから皆、納得したような顔して、死んでいくんだ。
さっさとアラガミを殺せよ役立たず、なんて言われて。
頼むよ。お願いだから。俺には唾を吐きかけても、石を投げつけても、糞入りの飯を食わせてもいいからさ、これからここに来るだろう、幼いゴッドイーター達には、お願いだからそういうの、全部遠ざけてやってくれ。
人を守るものにさせられた子供たちには……人の悪意に触れるには、まだ早い。
あなたは報道関係の仕事をしていたんだろ? 言葉でわかるよ。
そうさ、あなたの言葉が、みんなの言葉になるんだ。
それを忘れないでやってほしい。
「そんなの……あなたに言われずとも、わかってますよ!」
サツキが声を荒げ、椅子を跳ね飛ばすようにして飛び出していく。
ごめんなさい。頭を下げた。
サツキも、口が悪いだけで、根が悪い人じゃないの。
でも、おじいちゃんが死んで……それで。
――――――大丈夫、わかってるから。生きるのって、つらいなあ。
儚げに笑うリョウタロウさんの、笑みが、胸を刺す。
私は……私は……。
――――――ああ、しまったな。うるさくしすぎた。
子供たちがむずがって、目を擦り始めた。
リョウタロウさんも、どうしたらいいか慌てている。
――――――この子たち、夜うなされて、悲鳴を上げて飛び起きて暴れるんだ。手が付けられないって、預かり所も放り出したらしい。
私は……。
考えるよりも早く、口が開いていた。
――――――これは、子守歌……?
私には、これくらいしかできないけれど。
それでも、少しでも、慰めになるのなら。
――――――みんな穏やかな顔してる。ありがとう、君のおかげだ。
ありがとう、だなんて。
やめてください。
私なんて。
――――――それでも言うさ。ありがとう。
みんな、勘違いしてるんです。
私のことを、悲しみを救ってくれる聖女だなんて言う人も……。みんなが言う程、私、良い子じゃないんです。
私だって、汚いことを考えるし、嫌なことだって考えもします。
その、い、いやらしいことだって……。
色んなことを考える、普通の女の子なんです。
みんな、勘違いしてるんですよ……。
――――――俺もそうさ。そこら辺にいる、普通の男さ。八つ当たりしにきた女を、冷たくあしらうくらいの。
あっ……サツキの、その。
――――――サツキさんには、ごめんって伝えておいて。あーあ、やっちゃったなぁ……あの人すごい美人なのになぁ……嫌われちゃったかあ……。
きっと大丈夫ですよ。
サツキはああやって、叱ってくれる人が好きですから。
おじいちゃんくらいしか、サツキのこと、叱ってくれる人はいませんでしたから……。
――――――そっか。よっぽどいいおじいさんだったんだ。
ええ、とっても。
私たち、似てますよね。
私は塔に。
あなたはゴッドイーターという枷に囚われていて。
――――――泣きたくても、泣けない。
……はい。
――――――じゃあ、さ。誰かのために泣いてやればいいんじゃないかな。
誰かの、ために……?
――――――そう。自分のために泣けないなら、泣けないやつの代わりに、泣いてやればいい。受け売りだけどね。イサムとジョニーの。
もうっ。
途中まですごく格好良かったのに、最後で台無しですよ。
イサムさんと、ジョニーさんも、ゴッドイーターのお友達ですか?
――――――いや、あいつらはもっと凄い奴らさ。世界を救った二人だ。漢の中の漢だよ。
すごいなあ……そんなふうに思える相手がいるなんて。
男の子同士の友情って、なんだか格好良いですね。
誰かの代わりに涙を流す。
そんなふうに、うん、できたらいいなあ。
――――――できるさ、きっと。君は最初の一歩を踏み出す勇気がほしいだけだ。俺とは違うよ。俺はずっと同じところで足踏みしてるんだ。似てるようで、全く違う。だから、大丈夫さ。
リョウタロウさん、そんなことは。
――――――飛べるさ。君は羽ばたいていける。君の見る世界が、俺たちの希望だ。
どうして……そんな。
何でもないというふうに、そんなことを、言えるんですか。
どうして、会って間もない私のことを、信じられるんですか。
どうして、あなたはそんなにも……優しい、目をして。
――――――さ、ユノさんも、部屋にお帰り。もう遅いからさ。
もう少しだけ、もう少しだけここに居させてください。
あなたの側に――――――きゃあっ!
――――――アラガミ警報! 来たか……!
「ひ、い、い、い、いい、いいい!」
子供たちが悲鳴を上げて飛び起きる。
私は何もできず、オロオロとするばかりで。
――――――歌ってくれ。
リョウタロウさんが神機のケースを担いでいた。
止め具が外される。
青い、悲しみを何もかも飲み込んでしまったかのような、深い青色の神機が、そこにあった。
――――――よーしみんな、ゴッドイーターの俺が、アラガミなんかぱぱっとやっつけて来てやるからな! ゴッドイーターの歌、2番だ!
私を指さすリョウタロウさん。
え、ええっと。
ご、ごっどいーたーのうたーみんなで歌おうー。
――――――その調子、その調子。大丈夫、君は無力なんかじゃない。
リョウタロウさん!
――――――なんだい、ユノさん。
その、私のこと、ユノって呼んでください。
――――――了解、ユノ。俺のことも、好きに呼んでくれ。それじゃ行ってくる。
はい……はい!
いってらっしゃい、リョウ君!
私の声、届いたかな?
残像だけを残し、去っていくリョウ君。
どうか、無事に帰ってきて。
「おにいちゃん、ゴッドイーターをしにいったの?」
不安気にこちらを見る女の子。
はっと気付く。
リョウ君は、ゴッドイーターを“しにいった”のだ。
それは簡単なことで。
でも私にとっては大切なこと。
大丈夫よ、と言って、抱き締める。
大丈夫。大丈夫よ。
あの人がいる限り……ゴッドイーターがいる限り。
世界はきっと綺麗なままだから。
雨の臭いが、すぐそこまで近付いてきていた――――――。
□ ■ □
自分のために泣けないなら、泣けないやつの代わりに、泣いてやればいい。
なんつってなーんつって!
うへへへうへうへ! 言っちゃった! 言っちゃったぜ!
一度は言ってみたいカッコイイ台詞!
ああ……超気持ちいい……!
ありがとうバガラリー!
主人公イサムに、そのライバルジョニー!
観ていてよかったバガラリー!
サンキューコウタ!
よーし!
待ってろアラガミ!
今すぐに行ってやるからな!
徒歩で!!
徒歩で……。
いやあGEみたいなサツバツ世界観、大好物です。
ひゃっはーーー!!
主人公に地獄を見せてやるぜぇーーー!!
二重トラウマを植えつけてやるぜぇーーー!!
うん。どうしてもGEみたいなマッポー世界観じゃ、シリアスになってしまうん。
最強系主人公が、ゴッドイーターが救いをもたらすなんて。
その勘違いを、ぶっ壊す!(上条さんAA略
ごめんなさい。
でもシリアス勘違い系SSとしてやっていけたらいいなあ。
それでは、次回投稿は少しお時間を頂けたらば……!
評価してくださった皆様、感想をお書きくださった皆様。
ありがとうございました&ありがとうございます!