フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない   作:ノシ棒

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文量チェックも兼ねて投稿&ストック了。これくらいなら早めに投稿できるかな……?

また、活動報告の使い方もテストさせて頂きたく思います。
感想板の方に質問など乗せていただけたら、活動報告の方でお答えしていきたく思います。
よろしくお願いします。

※誤字チェックありがとうございました。
後日修正いたしますので、いましばらくお待ちを!


ごっどいーたー:6噛

やってきました女神の森【ネモス・ディアナ】!

アラガミ防壁に囲まれた、緑が残る街!

やっぱり、人間には緑が大事だと思うんだ。荒野じゃ人の心だって荒むよ。

へへ……俺、ネモス・ディアナにいったら、街の人と一杯仲良くするんだ。

こいよアラガミ! オラクル細胞なんか捨ててかかってこい!

そして訪れるハートフル展開!

最後は住民の人達と涙ながらにお別れするんだ。またくるよ忘れないぜ、って!

よーし、俺、全力でゴッドイーターしちゃうぜ!

 

そう思っていた時期が、俺にもありました。

 

わぁぁーい……きつぅーい……。

風当たりがきつぅーい……。

「また余所者が」「極東の」「役立たず」「あいつらがアラガミを連れて来てるんじゃ」とか、そんなボソボソ言ってるのがすごい聞こえてくる。

うん、お腹痛い。

 

ちょっと待って、こんなに風当たり強いとか、俺も初めての経験なんですけど。

確か少し前に極東支部との間に提携が結ばれて、物資とか搬入されたんじゃなかったっけ?

歓迎ムードだったって聞いたけど、何でこんな……ちょっ、痛い!

痛い痛い石痛い。

石投げないで痛いからあ!

 

そらフェンリルの駒とか犬とか、ゴッドイーターがそんな好かれてないのはわかってますけどね!

でも命削ってやりたくもない戦働きとかしてるんだから、もうちょい優しくしてくれてもいいでしょ!

感謝しろとかまでは言わないから、優しくしてもさあ!

優しく……優しくしてぇ……。

 

おい誰ださっきから俺の尻に執拗に石を当ててる奴!

しまいにゃキレるぞオラァ!

 

くらぇぇぇぇぇ!

神回避ィィイイイ!

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

女神の森【ネモス・ディアナ】。

三年前、エイジス島建設の技術者であった葦原総統が建設を始めた、対アラガミ防壁に囲まれた居住区……私の故郷。

もう珍しくなってしまった、森に囲まれた地。

それも、壁の内側だけだけれど。

 

壁がなかった頃は、皆肩を寄せ合って、アラガミの恐怖に震えていた。

でも私は、周りにいる大人達の方が怖くて、いつも泣いていたのを覚えている。

「極東の奴らのせいで」、私が子守唄代わりにいつも聞いていた台詞だ。

怖くて、怖くて……だから、歌を唄った。

 

私の歌は――――――何かから、逃れるためにあったのだ。

 

今日、また新しく極東支部から、ゴッドイーターが派遣されるらしい。

アリサさんやソーマさん達は、一時避難で滞在していただけ。正式に、この街にも守護がおかれるようになった。その足がかりなのだとか。

幼馴染のサツキと、話のタネに、ということで、様子を見に行くことにした。

正面入り口ゲートから真っ直ぐ先、人が集まる広場に居るのだとか。

あまり、街の空気が良くないのがわかる。

 

「あいつらのせいで」

 

また、囁き声が聞こえた。

「人は愚かな生き物さ」そう言って、おじいちゃんが笑っていたのを思い出す。

物に心は左右され、受けた恩もすぐに忘れ、支援がなくなればそれを恨みに思う。

「この街にだって非はある」これもおじいちゃんが言っていたこと。

捨てられる理由がある。そう聞こえて、私はまた怖くなって……。

そんなおじいちゃんも、つい先日、死んでしまった。

アラガミに襲われて。

私はまた歌を唄った。

泣くことはなかった。

 

「うっ……!?」

 

サツキの短い悲鳴に我に返ると、いつの間にか、人の輪がぽっかりと開いた場所に辿り着いていた。

ざわざわと、恐怖と不安がないまぜになったような、そんなざわめきが続いている。

 

その人の輪の中心に――――――何かが、いた。

少し斜めに傾いた、ピンク色のキグルミが――――――。

 

耳がくたびれて折れ、身体は元は鮮やかなピンク色だったんだろうけども、薄汚れて色が斑になっている。

目は虚ろで、どこを見ているのかもわからない。

だらりと両手は下がり、どこか疲れた様子にも見えた。

そんなキグルミが、高速で、左右に、残像を残しながら移動し続けている。

反復横とびをしているんだろうか?

それにしては、まったく足が動いた様子に見えない。

率直に言って、怖い。

 

「ひぃこっち見た!」

 

ぐりん、と首から上だけがこちらを向く。

 

「ちょっ、くんな! こっちくんな!」

 

スイー、と先ほどの独特な移動方法で、滑るように近付いてくるキグルミ。

人間の出せる速度ではないし、そもそも人間はそんなふうには動けない。

私達がリアクションをする前に、がっしりと手を握られる。

 

――――――よろしくお願いします。

 

ファンシーな見た目にはそぐわない、落ち着いた、男の人の声。

キグルミの腕には、特徴的な、ゴッドイーターの腕輪が。

彼が、正式に配属されたゴッドイーターなんだ。

「たった一人かよ、ふざけやがって」吐き捨てるような誰かの声が聞こえた。

心がまた、ざわめいた。

 

「ちょっ、ちょっ、ちょーっと! おさわりは許可をとってからにしてくれませんかねぇ? ほら、離れて離れ……見た目キモッ!」

 

サツキ、だめだよそんなこと言っちゃ。

この人は私たちを守ってくれるために、やってきてくれた人なんだから。

ほら、しゅんとしちゃった。

 

「いや、いくらゴッドイーターだからって、これ完璧に不審者でしょ」

 

――――――芸が、できます。怖くないです。

 

「芸って……どんな? いや、やっぱりやらなくていいです」

 

――――――よ、よいこのみんな、みんな! あっ、あっ、あっ、あっつまれぇ~!

 

「うわぁ何も言ってないのに始め出した」

 

――――――ようし、みんな素直だ、素直が一番成長するぞう……そんな成長期のみんなでゴッドイーターのうたを歌おうかな! いえーい!

 

「えらいドギツイのがきちゃいましたね……」

 

――――――ゴッドイーターのーうたーみんなでうったおうー。

 

「うわ、子供たちが……だめだめ! 変な人に近づいたらだめって教わったでしょ! こらガキんちょ共! ダメだって……あぁー抱きついちゃってるし、振り付けまで」

 

――――――YO! YO! シェケ! YO! シェケYO!

 

「情操教育に悪すぎるでしょうが! いつもユノの歌を聴いてたから耳が……この音痴! やめなさーい! やめろ! もう帰れ!」

 

――――――受け入れられようと頑張って歌までうたったのに、帰れとか言われたでござる。ここ歌とか流行ってるって聞いて、超練習してきたというのに……解せぬ。

 

サツキとキグルミの彼が言い合いを始める。

その横で私は。

 

「ちょっと、ユノ! あなたも笑ってないで、この馬鹿ゴッドイーターになんとか言ってやってくれませんかね!」

 

私は……私は。

すごく、おかしくなって、吹き出してしまっていた。

自分以外の歌を、久しぶりに聞いた気が、した。

歌をあんなに楽しく歌える人が、いたなんて。

私は、私の歌が慰みになればと思って、歌っていた。

静かに聞き入ってくれる人がいたのは、素直に嬉しかった。

皆、落ち着いたような、安らかな顔となっていた。

でも……それだけ。

そこから先は、何もない。

気が付けば、私は彼の手を、こちらから取っていた。

顔を見せて欲しいと頼みながら。

 

――――――加賀美リョウタロウです。

 

キグルミの頭を外して、彼は答えた。

静かな声に似合う、穏やかな顔付きで。

 

「えっ……ちょっ……ユノ、あなたまさか……!」

 

子供たちが「ユノ顔赤い」「ほんとだまっかだ!」と笑っている。

私の歌では、子供たちに笑みを与えることは出来なかった。

 

加賀美リョウタロウ――――――さん。

初めて会ったばかりの、極東からやってきたゴッドイーター。

その人となりは、まだよくわからないけれど。

子供たちの笑顔が、全ての答えに思えた。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

えいっえいっ。

えいえい、そやーっ。

 

「ユノ、あなた何してるんですか?」

 

振り付けを、覚えてるんです。

ワン、ツー、ワンツー、ごーなな。

ごっどいーたーのーうたー。

 

「趣味悪すぎでしょ……ほんと」

 

中々いい歌ですよ?

子供向けだから、大人には合わないかもしれないけれど。

 

「そういうことを言ってるんじゃないんですけどねぇ……はぁ」

 

ほら、サツキも一緒にやろ?

コンゴウのポーズ!

うほーい。

 

「嫁入り前の娘がやめなさい!」

 

じゃあ、誘うサリエルのポーズ?

 

「ユノが極東からきたゴッドイーターに毒された……ほんともう極東はろくでもないことばっかりしてくれて! まったく!」

 

サツキ、どこ行くの?

 

「あのゴッドイーターのとこに文句言いに行ってやるんですよ!」

 

こんな夜遅くに?

あ……もう!

私も後を追いかける。

こうして塔を自由に出入りできるようになったのも、最近のことだ。

壁ができる前はそうじゃなかった。

三年前、父さん――――――葦原総統は、エイジス島から帰ってきて、変わってしまっていた。

私をこの塔に押し込めて、ずっと政務に取り掛かっていた。

フェンリルに恨みをぶつけるように。

私はこの塔から街を見下ろして、いつも鬱屈した思いを抱いていた。

自分一人だけ守られて、街を見下ろしている。

籠の鳥のように扱われ、お前は他の者と違うのだと言われているような気分だった。

こんな世の中になって、甘いことを言っているという自覚はある。

でも、生きているだけで、良いなんて。

安全な暮らしができるだけで幸せだなんて。

私にはどうしても思えなかった。

贅沢を言っているのだろうか。

甘やかされた女の意見なのだろうか。

私は……。

 

「ちょっと! リョウタロウさん! あなたウチのユノに何を教えちゃってくれてるんですかね!」

 

――――――しーっ、静かに。やっと寝付いたとこだから。

 

静かに、と口元に指を立てるリョウタロウさんは、キグルミを着ていなかった。

今日はキグルミを着ていないんですね、と言うと「それ以上、言わないでくれ」と深刻そうな顔をして俯いてしまった。

聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。

きっと、私たちには言えない任務に関わるものなのだろう。

 

「ああ……子供たちですか」

 

サツキの声がリョウタロウさんの手元を見て、小さくなる。

リョウタロウさんは、眠る子供たちの中心で、すがりついて目を閉じている女の子の頭を、ゆっくりと撫でていた。

優しく、優しく――――――。

 

「この前、アラガミの襲撃があったんですよ。それでたくさんの人が死んだんです」

 

――――――この子たちは、それで?

 

「ええ、孤児になったんです。私たちの祖父もね……。フェンリルが神機兵を派遣してくれたら、極東支部のゴッドイーター達がもっと早くきてくれたら、ねえ? どう思います?

 この子たちのことを見て、かわいそうだって、胸が痛みますか? それはなぜ? 自分達の罪だと、そう思っているからでは?」

 

静止の声を上げる前に、彼が指を口に当てた。

サツキの舌打ちだけが、夜の帳に響いた。

 

――――――なぜ、この子たちは、大人を頼らないんだろう。

 

リョウタロウさんが、女の子の髪を撫でながら、ぽつりと言った。

 

――――――たかだかここに来て数週間の俺のところに群がるのは、なぜだと思う?

 

「それは……」

 

――――――俺がゴッドイーターだから、守ってもらえると? そうじゃない。子供は純粋だ。傷付いた子は、特に。

 

「ここの大人たちに、近付きたくないからだと、そう言いたいんですか?」

 

――――――どうかな。でもあなただって、ここの大人たちの一人だ。

 

サツキは何かあきらめるようにして大きく息を吐き出すと、パイプ椅子に力なく腰掛けた。

ぎしりと椅子の錆が軋む音がした。

その通りだ、と私も思った。

広場の一角に建てられたほったて小屋に、アラガミ襲撃によって家を失った人、家族を失った人達が身を寄せ合っている。

リョウタロウさんも、この小屋が並び立つ広場の隅に場所をとり、生活していた。

聞くところによれば、まともな食事も出されていないのだとか。

露骨な嫌がらせだと思う。

父さんに直談判をしに行っても、政治的なつきあいや取り決めで、これは仕方のないことなのだと諭された。

 

「なんですこれ……ぎゃあ!」

 

サツキがテーブルの上においてあった箱を何気なしに開ける。

一気に顔が真っ青になり、箱を放り出した。

中からは、大きな何かの幼虫が、何匹もうぞうぞとはい出ていた。

 

――――――ああ、俺の明日の弁当が。

 

「はあ!? 弁当!? これが!?」

 

――――――うん。ほら、おいしい。

 

「ぎゃーっ! 食べたぁ!」

 

サツキ、うるさいよ。

もう。

 

「ぬぐぐ……いやでもこれ、あなた配給はどうなったんですか? ああ、ゴッドイーターだから足りませんね。そうですね、すみませんね大した食事も用意できずに」

 

――――――はい、きゅう?

 

「正式に配備されたゴッドイーターなんだから、毎日あなただけに用意された配給物資があるはずでしょう」

 

――――――えっ。

 

「んん? ちょっと、まさか……嘘でしょう? 今まで何を食べてたんです?」

 

――――――なんかそこら辺に生えてる草の根っことか、虫とか。

 

「移動とか、神機の整備はどうしてるんですか?」

 

――――――移動は、普通に走ってるけど。神機は整備班がたまにくるから、そこに預けてる。

 

「移動手段もなし、極東からの人員だけがサポートしているですって……? こちらでの支援が打ち切られているということ……? まったく、どいつもこいつも!」

 

ああ、まただ。

またこの感じだ。

嫌な感情が、胸の中に湧きあがってくる。

やはり、という思いが。

やっぱり、そうだったんだ。

「あいつの食事に、汚物を混ぜてやったぜ」なんて、嘘だと思っていた。

でも本当だったんだ。

今じゃ、食べ物を出しもしないなんて。

 

――――――どうした、ユノちゃ……さん。

 

リョウタロウさんは、どうしてゴッドイーターになったんですか?

色んなひとからいじわるされて、非難されて……全部、あなたのせいじゃないじゃないですか。

命をかけて戦って、こんな仕打ちをうけて……それでも、なぜ。

 

――――――あー……俺が、ゴッドイーターになったのは、正直なりゆきだよ。ある日突然、紙っぺら1枚が届くんだ。

おめでとう、君はゴッドイーターに選ばれましたって。

覚えてるよ。怖くて怖くて、震えながら寝てた。これは夢だ、悪い夢なんだって。引き摺られて連れていかれるまで、駄々を捏ねて、自分の家に閉じ篭ってた。

だって、無理だよ。

それまで普通に暮らしてたのに、ある日突然、君は選ばれたんだって武器を持たされて化け物と戦わされるんだ。人喰いの化け物と殺し合いをしろって。

無理だよ、そんなの。明日もまた、今日と同じ日が続くと思ってた。

その日暮らしで、適当に職を見つけてさ……いい加減、無職も恥かしかったし。

そういう明日がくるものとばかり思ってた。

そんな、なんでもない明日がさ……。

 

「無職、だったんですか?」

 

――――――うん。一昔前の職が溢れてた時代はフリーターなんて呼ばれてたらしいけど、今はそんなものなんかないでしょ。俺のいた所は腹をすかせてどうしようもない奴ばかりいたから、汚い仕事を持ち込まれても、喜んで飛びついたさ。俺もね。

 

「汚い仕事、というと、何をしていたんです?」

 

――――――物資の横流しの手伝いとかね。思い出したよ。俺はここに何度も来たことがある。子供の頃から、運び屋の手伝いとかもしてたんだ。運んでたのは、壁だった。

アラガミ防壁なんてちょろまかしてたんだ、護衛なんて付けられるわけがない。金を握らされて使い捨てにされたんだよ、俺達は。ここの総統さんにね。

 

「三年前に行われた対アラガミ防壁の建設には、あなたも関わっていたんですか……かなり無茶なことをしたと聞いてはいましたが」

 

――――――恨んじゃいないよ。二束三文だったけど、それで喜び勇んで手を上げたような奴らさ。それでも中にはそこそこ成功する奴もいる。

そいつらと一緒に、運輸業で何か一発立ち上げようって、話してたんだ。その矢先だよ、ゴッドイーターなんてのにさせられたのは。

ゴッドイーターになったことに後悔してるとか、そういうのはなかったよ。そもそも拒否権なんてないし。嫌だなんて思っても、さ。

アリサ達もここに来たんだって? じゃあ聞いたんじゃないかな。皆を守るために私は戦う、とか。

 

「あなたは違うんですか? あなたの戦う理由は」

 

――――――最初は、死にたくないから戦ってるだけだった。今は……なんだろう、わかんなくなったよ。

 

「はっ、お気楽なことですね。武器使えるってだけのフェンリルの駒に成り下がって、恥かしくないんです?」

 

――――――うん。それも、何も考えられなくなった。ただこれだけは言えるよ。顔も知らない誰かを守るためだとか、使命感でやってるんじゃない。そういうの求められても、その、困る。幻滅させて悪いけれど。

悪いついでに、あんまりそういうの、他のゴッドイーターに言わないでやってほしい。ゴッドイーターはさ、ほら、どんどんその、低年齢化していってるから。

 

「どういう意味です? お仲間を庇いたいんですか?」

 

――――――ゴッドイーターは死亡率が高い。だから、次々に補填してかなきゃいけない。新しく連れてこられるのは、年端もいかない、子供って言えるくらいの奴らだ。

最近そんなのばっかりだ。極東にやってくる新入りは若いんだよ。すごく。

言えるか? 役目だから、仕事だから、食わせてもらってるんだから、命かけて戦えって。

私たちのために死ぬのが当然ですよね、ってさ。

子供相手に、言えるか?

 

「それは……」

 

――――――たまらなく嫌になるよ。自分よりもずっと年下のゴッドイーターが、皆を守りたいんです、なんて張り切ってる姿をみるのは。

笑って犠牲になりに行くんだ。持たざる人々の犠牲にさ……。自分の命、未来、全部差し出して、戦えと言われるんだ。誰かを守るためにって。

武器を取るのは当たり前だ。人を守る仕事は尊いものだ。だから皆、納得したような顔して、死んでいくんだ。

さっさとアラガミを殺せよ役立たず、なんて言われて。

頼むよ。お願いだから。俺には唾を吐きかけても、石を投げつけても、糞入りの飯を食わせてもいいからさ、これからここに来るだろう、幼いゴッドイーター達には、お願いだからそういうの、全部遠ざけてやってくれ。

人を守るものにさせられた子供たちには……人の悪意に触れるには、まだ早い。

あなたは報道関係の仕事をしていたんだろ? 言葉でわかるよ。

そうさ、あなたの言葉が、みんなの言葉になるんだ。

それを忘れないでやってほしい。

 

「そんなの……あなたに言われずとも、わかってますよ!」

 

サツキが声を荒げ、椅子を跳ね飛ばすようにして飛び出していく。

ごめんなさい。頭を下げた。

サツキも、口が悪いだけで、根が悪い人じゃないの。

でも、おじいちゃんが死んで……それで。

 

――――――大丈夫、わかってるから。生きるのって、つらいなあ。

 

儚げに笑うリョウタロウさんの、笑みが、胸を刺す。

私は……私は……。

 

――――――ああ、しまったな。うるさくしすぎた。

 

子供たちがむずがって、目を擦り始めた。

リョウタロウさんも、どうしたらいいか慌てている。

 

――――――この子たち、夜うなされて、悲鳴を上げて飛び起きて暴れるんだ。手が付けられないって、預かり所も放り出したらしい。

 

私は……。

考えるよりも早く、口が開いていた。

 

――――――これは、子守歌……?

 

私には、これくらいしかできないけれど。

それでも、少しでも、慰めになるのなら。

 

――――――みんな穏やかな顔してる。ありがとう、君のおかげだ。

 

ありがとう、だなんて。

やめてください。

私なんて。

 

――――――それでも言うさ。ありがとう。

 

みんな、勘違いしてるんです。

私のことを、悲しみを救ってくれる聖女だなんて言う人も……。みんなが言う程、私、良い子じゃないんです。

私だって、汚いことを考えるし、嫌なことだって考えもします。

その、い、いやらしいことだって……。

色んなことを考える、普通の女の子なんです。

みんな、勘違いしてるんですよ……。

 

――――――俺もそうさ。そこら辺にいる、普通の男さ。八つ当たりしにきた女を、冷たくあしらうくらいの。

 

あっ……サツキの、その。

 

――――――サツキさんには、ごめんって伝えておいて。あーあ、やっちゃったなぁ……あの人すごい美人なのになぁ……嫌われちゃったかあ……。

 

きっと大丈夫ですよ。

サツキはああやって、叱ってくれる人が好きですから。

おじいちゃんくらいしか、サツキのこと、叱ってくれる人はいませんでしたから……。

 

――――――そっか。よっぽどいいおじいさんだったんだ。

 

ええ、とっても。

私たち、似てますよね。

私は塔に。

あなたはゴッドイーターという枷に囚われていて。

 

――――――泣きたくても、泣けない。

 

……はい。

 

――――――じゃあ、さ。誰かのために泣いてやればいいんじゃないかな。

 

誰かの、ために……?

 

――――――そう。自分のために泣けないなら、泣けないやつの代わりに、泣いてやればいい。受け売りだけどね。イサムとジョニーの。

 

もうっ。

途中まですごく格好良かったのに、最後で台無しですよ。

イサムさんと、ジョニーさんも、ゴッドイーターのお友達ですか?

 

――――――いや、あいつらはもっと凄い奴らさ。世界を救った二人だ。漢の中の漢だよ。

 

すごいなあ……そんなふうに思える相手がいるなんて。

男の子同士の友情って、なんだか格好良いですね。

誰かの代わりに涙を流す。

そんなふうに、うん、できたらいいなあ。

 

――――――できるさ、きっと。君は最初の一歩を踏み出す勇気がほしいだけだ。俺とは違うよ。俺はずっと同じところで足踏みしてるんだ。似てるようで、全く違う。だから、大丈夫さ。

 

リョウタロウさん、そんなことは。

 

――――――飛べるさ。君は羽ばたいていける。君の見る世界が、俺たちの希望だ。

 

どうして……そんな。

何でもないというふうに、そんなことを、言えるんですか。

どうして、会って間もない私のことを、信じられるんですか。

どうして、あなたはそんなにも……優しい、目をして。

 

――――――さ、ユノさんも、部屋にお帰り。もう遅いからさ。

 

もう少しだけ、もう少しだけここに居させてください。

あなたの側に――――――きゃあっ!

 

――――――アラガミ警報! 来たか……!

 

「ひ、い、い、い、いい、いいい!」

 

子供たちが悲鳴を上げて飛び起きる。

私は何もできず、オロオロとするばかりで。

 

――――――歌ってくれ。

 

リョウタロウさんが神機のケースを担いでいた。

止め具が外される。

青い、悲しみを何もかも飲み込んでしまったかのような、深い青色の神機が、そこにあった。

 

――――――よーしみんな、ゴッドイーターの俺が、アラガミなんかぱぱっとやっつけて来てやるからな! ゴッドイーターの歌、2番だ!

 

私を指さすリョウタロウさん。

え、ええっと。

ご、ごっどいーたーのうたーみんなで歌おうー。

 

――――――その調子、その調子。大丈夫、君は無力なんかじゃない。

 

リョウタロウさん!

 

――――――なんだい、ユノさん。

 

その、私のこと、ユノって呼んでください。

 

――――――了解、ユノ。俺のことも、好きに呼んでくれ。それじゃ行ってくる。

 

はい……はい!

いってらっしゃい、リョウ君!

 

私の声、届いたかな?

残像だけを残し、去っていくリョウ君。

どうか、無事に帰ってきて。

 

「おにいちゃん、ゴッドイーターをしにいったの?」

 

不安気にこちらを見る女の子。

はっと気付く。

リョウ君は、ゴッドイーターを“しにいった”のだ。

それは簡単なことで。

でも私にとっては大切なこと。

大丈夫よ、と言って、抱き締める。

大丈夫。大丈夫よ。

あの人がいる限り……ゴッドイーターがいる限り。

世界はきっと綺麗なままだから。

 

雨の臭いが、すぐそこまで近付いてきていた――――――。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

自分のために泣けないなら、泣けないやつの代わりに、泣いてやればいい。

なんつってなーんつって!

うへへへうへうへ! 言っちゃった! 言っちゃったぜ!

一度は言ってみたいカッコイイ台詞!

ああ……超気持ちいい……!

 

ありがとうバガラリー!

主人公イサムに、そのライバルジョニー!

観ていてよかったバガラリー!

サンキューコウタ!

 

よーし!

待ってろアラガミ!

今すぐに行ってやるからな!

徒歩で!!

 

徒歩で……。

 

 

 

 

 




いやあGEみたいなサツバツ世界観、大好物です。
ひゃっはーーー!!
主人公に地獄を見せてやるぜぇーーー!!
二重トラウマを植えつけてやるぜぇーーー!!

うん。どうしてもGEみたいなマッポー世界観じゃ、シリアスになってしまうん。
最強系主人公が、ゴッドイーターが救いをもたらすなんて。
その勘違いを、ぶっ壊す!(上条さんAA略
ごめんなさい。
でもシリアス勘違い系SSとしてやっていけたらいいなあ。

それでは、次回投稿は少しお時間を頂けたらば……!
評価してくださった皆様、感想をお書きくださった皆様。
ありがとうございました&ありがとうございます!

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