葬送の吸血鬼   作:mituha

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早く上がるとか抜かして結局日数経ってすみません。
思ったより長くなったので当初は前後編の予定でしたが三話に分割しました。


良い子のプレゼントは希望か?絶望か?【中編】

 

 

 

「ふむ……………どれにしようか」

 

大広間のハッフルパフのテーブル。

昼食の野菜のキッシュを摘みながら私は羊皮紙1枚と格闘していた。

 

長い冬が終わり、早いものでホグワーツを入学してもうすぐ2年が経つ。

ホグワーツでは3年目から必須授業の他に各自選択授業が追加される。受講数に制限はない。なんなら全部の授業を受講することだってできる。ただし、その場合、逆転時計による一年間時差ボケになる副作用と勉強狂いになる狂気の発作付きだ。

 

正直、逆転時計の本物に触れてみたい気はするが、時間を扱う繊細で高度な魔法に触れることに恐怖する感情のほうが勝っている。

好奇心を抑えられない者の末路は悲惨だし、今回は諦めておくか。

 

なにはともあれ、この選択授業は将来の進路にも大きく影響してくるのが現状だ。

ものによっては就職で履修が条件になっている職業もある。本来ならそれも考慮して真剣に選ぶべきなんだろうけど、生憎、私は卒業したらイギリスを捨てて別の国のマグル界で生きていくつもりだ。

魔法をうまく使ってバレないように生計を立てることなんて簡単だろうし、念の為マグル界で使用するための魔法使いの偽造戸籍とパスポートも随分前に作っている。

 

将来、明確な職業に就くつもりのない私としては適当に選んでも問題ない、が、取り敢えず『占い学』は除外だな。後、『マグル学』も。前者は担当教授が未来視の才能がないホラ吹きインチキ予言者(笑)だし、後者は言わずとも必要性がない。

まぁ、単位を取りやすいから履修するのもありだろうけど。

 

「こんにちは。悩んでいるわね?」

「……………」

 

なんか聞こえる。

 

「どうして無視するのかしら?」

「……………」 

 

幻聴か?

 

「貴方に言ってるのよ?ミス・パヴィエル」

「……………なんですか、フォーリー先輩」

「どうやら選択授業を何にするか随分迷っているようだから、先輩としてアドバイスしようと」

「不要です。さようなら」

 

クリスマスプレゼントを無視したのがよほど気に食わなかったのか、あの二人は休暇明けから隙あらば昼間でも堂々と私に接近してくるようになった。勿論、深夜の突撃も変わらず、寧ろ頻度が多くなった。

さっさと席を立とうとしたが、彼女に腕をつかまれ、引き戻される。

 

「まぁまぁ、実際に受けている先輩の助言ほど役立つものはないわよ」

 

それは、否定しないけど私はすでにどんな教科か知っているので必要ない。

 

「まず占い学、これは駄目ね。時間の無駄だわ。担当教授のシビル・トレローニー先生はのご先祖は本物の予言者だったらしいけど、あの人に予言の才能なんてないもの。毎年誰かが死ぬ予言をしてるけど当たったことがないの」

 

それはよく知ってる。まぁ、完全に能力がないわではないが、本物の予言をしたのは今から10年前の一度きり。それが、あの主人公二人の因縁を作ったなんて本人は気がついてないんだろうなぁ。

 

「同じ占いなら数占い学!コッチのほうがいいわ」

「……………」←(前世の苦手科目数学。証明問題白紙提出)

「あら、微妙な反応ね。ならマグル学取ってみる?面白いわよ。マグルってなんで暖炉じゃなくて鉄の塊を動かそうと思ったのかしら?興味深いわよね。私、もうマグルが使う()()を使いこなせるのよ」

 

言葉が間違っている時点で信用に値しないな。

 

「残りは魔法生物学と古代ルーン文字学ね。この2つもなかなか役に立つわよ。特にルーンは杖なし魔法みたいにいざという時に……って、もう!話の途中よ」

「自分のことは自分で決めます。大きなお世話はもう結構です」

 

この人のアドバイスは大して参考になるものはなかったということだけが収穫だったな。

食べかけのキッシュを口に放り込んで羊皮紙をひったくり席を立つ。

 

「ミス・パヴィエル」

「なんですか」

「ルーン文字学。取ってみたほうがいいわよ。将来、貴方の役に立つわ」

「はぁ?」

 

なんでお前にそんなことが分かるんだよ。

 

「絶対」

 

手を強く握られ、フォーリーの有無を言わせないような眼差しに思わず喉を鳴らし、視線をそらす。

 

「………消去法でどうせ取ります。命令しないで下さい。不快です」

 

握られた手を叩き落とす。

しかし、フォーリーは表情を変えずニコニコしている。

 

「そう、なら良かったわ。あぁ、言い忘れてたけど、ミリアが貴方のことを探してたわ」

「…………………ミリア?」

「ミス・スミスのことよ。名前覚えてないの?」

「興味がないので、では会わないように気をつけます」

「いや、だから彼女はあなたを探してるのよ」

「私は会いたくありません」

 

脳内にキャンキャン吠える小型犬のような小娘が思い浮かび、辟易する。

 

大広間から逃げるように立ち去り、階段を降りる。

 

午後の授業は何だったかな?

魔法史じゃないと嬉しい。今、食べたばかりだからあの子守唄のような朗読を聞いたら間違いなく寝そう。

 

そんなことを考えながら寮へ教科書を取りに戻ると私の部屋には先客がいた。

顔を見た瞬間、気分はさらに落ち込む。

 

「やっと来たわね。パヴィエル」

 

部屋で仁王立ちで待ち構えていたのはさっき私を探していると聞いたスミスだった。

 

「………………家主がいない部屋に勝手に入るのはどうかと思うわよ。スミス?」

「あんたはどうせ私を避けるから待ち伏せしておいてあげたのよ」

 

誰がそんなこと頼んだ。

扉を締め、スミスを無視して鞄を漁る。

 

「あんたに話があるの。大事な」

「そう、私にはないわ」

 

次は魔法薬学か。魔法史よりかマシかと言われると悩むな。気を抜けない授業に変わりない。

 

「正直言って、あんたは私のことが嫌いでしょう?」

「嫌い」

 

魔法薬って料理みたいだけど料理より手順が細かくて、アレ試験で暗記して作るのなんて絶対無理だ。

 

「私もあんたのこと気に食わない。でも、私は………あんたと仲良くなれるかもしれないって思ってる」

 

鞄に教科書を詰め直す手が止まる。

 

「どうして?」

 

私はお前みたいなタイプが一番合わない。

うるさくて、空気を読まなくて、子供っぽい。ウザい。お人好しで思い込みが激しい。大嫌いだ。

 

「あんたは、本来なら困ってる人を見捨てないような優しい人間なんじゃないかって思う。今は他者を傷づけたくなくて態と悪いフリをしているような………そんな感じがするの。誰も傷つけたくないし、自分も傷つきたくなくて…………色んなことを恐れている」

 

いつもは何を言われても聞き流せるのに。

その言葉一つ一つで何故か神経を逆なでされるような不快感に襲われ、スミスを睨みつける。

 

「私が何を恐れるの?」

「自分を」

 

ハッと鼻で笑う。

 

「私を自分の都合の良い妄想のネタにしないで。私はあんたたちが嫌いだし、関わりたくもない。何度言っても学習しないのね」

 

荷物をまとめて部屋を出ようとスミスの横を通り過ぎようとすると手首を強く掴まれる。

 

「何?離せ」

「どうして人と関わりたくないの?」

 

まるで命乞いをしているようなスミスの顔に一歩引く。

どうして?

そんなのここがハリー・ポッターの世界で数年後には戦争が始まるから。巻き込まれたくないし、平穏に暮らしたいから。だから、一人で国外に逃げるために極力、自分の痕跡を残さないように………。

 

「そんなのお前になんの関係がある?」

「関係あるわ。だって、貴方はッ!…………っ」

 

そこまで言ってスミスは俯いて口を噤んでしまう。

 

だって私は…………なに?

何が言いたいの?

何を躊躇している?

 

いつものウザい絡みがないと本当に本人か疑いたくなる。

 

 

沈黙が部屋を支配し、私の腕を掴む手が緩まる。

後味の悪い雰囲気だが、そろそろ移動しないと授業に遅れる。

するりとスミスの手から逃れ、部屋を出ようとすると背中越しに呟かれた言葉に動きを止める。

 

 

 

 

 

 

「あんたが、私達と違う………吸血鬼だから避けるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぇ……………。

 

ドサッと持っていた教科書が床に落ちる。

視界が歪み、頭がガンガンと打付けられた衝撃が身体をめぐり、カタカタと小刻みに体が震える。

 

あ、はははは…………気の所為、だよね?

 

 

今こいつなんて言った?

 

吸血鬼?

嘘だ。そんな……っ、なんで?

バレるはずないのに。

私はっ!充分気を付けて。

 

 

「ねぇ、パヴィエル?」

「ッ!」

 

震える体をなんとか動かし、首だけでも振り返る。

悲しそう、辛そう、私を労るような見たことない表情を向ける彼女。

 

それに対して今、……………私ははどんな顔をしているのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消さなきゃ

 

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

月明かりが照らす中、ゼーリエは自身の居住の庭で寛いでいた。

そこへ足音も魔力も隠さずに近づく輩が一人。

彼女は近づいてくる影に振り返らず、溜め息を吐く。

 

「まだいたのか。バカ弟子」

 

悠々と歩み寄り、姿を表したフランメは酒瓶を片手にゼーリエに笑いかける。

 

「そう言うなよ。愛弟子が近くにいるのが嬉しくないのか?」

「ふんっ、生意気な孫弟子共とさっさと此処から立ち去ればよかったんだ」

「相変わらず、素直じゃない人だな」

 

フランメは盃を二つ取り出すとゼーリエに突き出す。ゼーリエはそのうちの一つを無言で受け取り、酒が注がれる。

 

「フランメ、お前はまだ全ての人間が魔法を扱える世の中を夢見ているのか?」

「あぁ、帝都に来たのはそのためでもある。皇帝に魔法研究の認可を下させる」

 

酒を煽る弟子をゼーリエは呆れ顔で見つめる。

 

「愚かだな。人類が大手を振って魔法を扱えるようになるのはまだまだ先の事だ。お前の寿命では圧倒的に時間が足りん。その分、自分の研鑽に時間をあてろ。その才を無駄にするな」

「何度言われようと私は諦めねぇよ。でも、師匠の考えが悪いとは思わない。魔族の殲滅を考えるならそれが正しいのかもしれない」

「なら」

「でも、これは理屈じゃないんだ。私がそうしたいんだ」

 

揺るぎないフランメの意思を感じ取りゼーリエは溜息を吐く。

 

「お前とは結局分かり合えない。全ての人間が魔法を扱うなどくだらん。魔法は特別であるべきだ」

「なぁ、…………師匠。実はエミリアにもその話をしたことあるんだ」

 

フランメの口から出た名前にゼーリエは興味を持つ。

 

「あの異界の孫弟子にか?」

「あいつの世界では魔法は特別な力だったらしい。選ばれた人間だけが使える、使えるものには当たり前に備わっている体の一部。でも、そのせいで使える者と使えない者の間で何度も争いが起こったらしい」

 

フランメは数年前に交わした会話を思い出す。

 

“魔法使いとマグルの因縁は恐らく魔女狩りからかな”

 

故郷の歴史を話すエミリアはいつもやるせない思いを抱いている表情をしていた。

 

「最初は魔法の使えない人間が魔法の使える者たちを虐げた。彼らはきっと恐れたんだ。いざという時、自分達には魔法に対する抵抗手段を持てないことに。だから自分達には使えない、悪魔の技だ、奴らの手先だと民衆に思い込ませて亀裂を作ってしまった」

 

人間とは自分の理解が及ばないものを忌避する傾向がある。

 

そして、その大きな溝は未来で取り返しのつかない結果を招いた。数で圧倒的な非魔法族の前では魔法使いといえども敵わない。いつの日か魔法使いたちの存在は御伽噺となり、日影の世界に押し込められた魔法族の燻りはカリスマ性を持つ先導者の手で殺意へと変わっていった。

 

「分かるか?魔族なんていう人類を脅かす敵がいないそんな世界でも魔法を巡る争いが起きる。魔法が使えるからこそ使えない者を虐げる奴と反対に使えない者を守る同族争い。

おまけに使えない者はそんな両者の残虐性に恐怖し、二つの種族が歩み寄ることはない」

 

そして、争いの火種は最悪の形で闇の魔法使いを生み出した。

 

「あいつは魔法は特別な物であると言う認識の中で生きてきたが、特別なものでなければ争いは起こらなかったって語ってた」

 

“この世界はいいよね。みんなが微力ながら魔力を持ってる。空気中にも魔力が満たされてる。誰もが使おうと思えば魔法を使える”

 

黙ってフランメの語りを聞いていたゼーリエは酒を煽る。

 

「人間は愚かだな」

「全くだ。だからこそ、私の夢に賛同してくれたよ。誰もが魔法を使える世界を。最も、誰もが魔法を使える場合に発生する問題点も山ほど指摘をくれたがな」

 

魔族との攻防、新しい魔法の発見による王族からの褒賞。それによる貴族社会の序列の形成。優秀な血筋の凡人と平民の天才との周囲の評価。劣等感や生まれによる差別。それによる反乱や内戦の危険性。etc

 

挙げればキリがないくらい細かくエミリアは問題を指摘した。フランメはゼーリエに向き直る。

 

「師匠、あいつは自分の答えをとっくに分かってたよ。本人も目を逸らしていたことを認めた。なぁ、師匠。あいつの呪いは貴方でも解けないのか?」

 

フランメの問いにゼーリエは逆に聞き返す。

 

「お前はどうなんだ?」

 

ゼーリエの試すような眼差しにフランメは悔しそうに顔を歪める。

 

「何度かあいつの呪いを解析した。見たことない術式に複雑な魔力の残滓が血中を巡っている。全てを取り除くのは不可能に近い」

「そうか、なら諦めろ」

 

ゼーリエは一眼見た時からエミリアの呪いを見抜いており、確かにあれは途方もない年月を費やさなければ解呪は不可能だと確信していた。寿命の短いフランメが自分の夢と並行して彼女の呪いを解くことに時間を当てればそれこそ自分の研鑽に時間を当てられない。

それはゼーリエの望むことではない。

だからこそ冷たく突き放す。

 

しかし、フランメの瞳に宿る炎は諦めていなかった。ニヤリと不敵に笑うとゼーリエに顔を近づける。

 

「解くのは呪いをかけた本人にしか無理だろうな。でも師匠、ちょっと耳を貸してくれ」

「あ?」

 

フランメに言われ、ゼーリエは顔を近づける。内緒話をするようにフランメはゼーリエの耳にボソボソと耳打ちする。

それ聞いたゼーリエは目を見開き、体を曲げて笑い転げる。

 

「く、くははははっ!そんな方法があるか?お前本気でそんな方法を己の弟子に試すのか?全く、お前は失敗作の弟子だと思ったが………訂正するフランメ。お前はイカれた弟子だ」

「なんだってやるさ。あいつのためなら」

 

フランメの強い決意の言葉にゼーリエはずっと疑問に思っていた言葉を投げかける。

 

「なぜあの吸血鬼にそこまでしてやる?あいつもフリーレンと同じお前の弟子の一人に過ぎんだろう?」

 

その質問にフランメは気まずそうに目を逸らし、本当のことを白状する。

 

「実はエミリアは弟子じゃないんだよ。弟子にしたかったけど断られた。そして、弟子になることを賭けた勝負にも負けた。あいつ、あの見た目に反して結構根に持つし、頑固なんだよ」

 

柄にもなく落ち込む弟子をゼーリエは珍しいものを見る目で観察する。

 

「じゃあ、お前とあいつの関係はなんだ?」

「ただ友人だよ。少なくとも私にとっては最初で最後の」

 

フランメはこれまで友人と呼べる人間関係を築いたことがなかった。幼少期は幼くして両親を奪われ、ゼーリエに拾われてからはひたすら魔法の腕を磨くことだけに力を注いだから。大魔法使いと呼ばれ始めてからは己の夢の為各地にコネ目的で人間関係を築き、知り合いは増えたが、自分と同じ目線で話す対等な関係はいなかった。魔族と戦う上で戦士や僧侶といった仲間を得る機会はあったが、皆自分を置いて亡くなっていった。

 

エミリアと初めて出会いは最悪の形だったが、すぐに彼女が魔族と同じ存在でないことが分かった。

 

「最初は監視の意味を含めて弟子にしようと思ったんだ。師匠のことを思い出して弟子を育ててみるのも悪くないかなぁって。でも、あいつは私との関係は友人同士だと言ったんだ。魔法を教えてやるから対等だと」

「ふん、大方お前の生意気な言動が癇に障って一方的な教えを乞う関係が気に食わなかったんだろう」

「お察しの通りデス。だから、【友人】なんてただその時、都合のいい言葉だから選んだと思ったんだよ。でも……」

 

フランメは思い出の一つを語る。

 

あれは出会ってひと月が経った頃だった。

フランメはエミリアを連れて街に行った。

あの頃はまだエミリアは言語を習得しておらず、一人で行動することはなかった。

フランメの買い物に大人しく着いて歩き、物珍しそうに街を観察していた。

 

すると、目の前に子供が転がりこんできた。

まだ10になるかわからないその子供の顔には大きな痣があり、どうやらその子供は他の子供に虐められているらしく、瞳に涙を溜め込み体を震わせていた。

どうやら顔の痣が魔族のように不気味に見えるために虐められているらしい。

そんな子供にエミリアは迷わず駆け寄り、傷を癒してやった。

彼らのやりとりを聞き取れなかったエミリアはフランメに質問した。

 

“ねぇ、フランメ。なんでこの子は除け者にされるの?”

 

見た目のせいで標的になっていることを簡潔に説明するとエミリアはその子供の手を取り、言葉が通じないのを承知で真剣に言い聞かせる。

 

“君の体をめぐる血は青い?魔族みたいに死んだら体が塵になる?ならないでしょ。世界のどんな人種も一皮剥ければ同じ骨と血の塊だよ。次に彼らに会った時、こう言ってやりなさい。『お前たちの目の前にいるのは頭からツノを生やした人型の猛獣でも、人を喰らう捕食者でもない。同じ赤い血を持つ一人の人間だ』って”

 

“魔族とは違い、明確な悪意や害意を理解する人間が理解した上で害意を振り撒き、悦に浸るのは食べもしないのに人間を殺す魔族以下だ。それを理解しない人間は魔族より醜い”

 

フランメが通訳して受け取った言葉でその子供は涙を引っ込め、走って何処かに行ってしまった。

 

後日、フランメは件の子供が顔に怪我を増やしていたが、同じく顔に怪我した同年代の子供達と笑い合っているのを目撃した。

そのことをエミリアに報告したが彼女は大して驚きはしなかった。

 

“お前はこうなることがわかっていたのか?”

 

フランメの問いにエミリアは首を横に振った。

 

“どうなるかわかなかったのが本音。あの子はやられた分やり返したんだね。中々行動力がある。相手の子はあの子に殴られて初めて他者の痛みをその頭で感じた。一度理解してしまえば、もう殴れない”

 

“『魔族は言葉があるから人類と分かり合える』なんてことをほざくらしいけど、言葉があっても人間同士で戦争するんだから、そんなの戯言だ。人が共存し合うのに求めるべきなのは【言葉】じゃなくて【共感】だよ。相手の気持ち理解し、自分のこととして置き換え、同じ気持ちを共有できるから思いやりを持てる。思いやりが持てたら争いなんて起きない”

 

“異種族間で共存し合うことは不可能じゃない。現にエルフやドワーフが人類と共存できるのは魔族と違って人類と感情を共感し合えるから。”

 

“フランメだって私の境遇に同情して共感してくれた。だから、私はお前と友人になろうと思った。お互いを思い合えるならそれは友好関係を築く十分な理由でしょう?”

 

吸血鬼はどちらかといえば魔族に近しい種族だ。しかし、フランメはあの時、エミリアは魔族とは決定的に違うものを感じた。

 

どんな形にせよ弟子の成長にゼーリエは無意識に口角があがる。

 

「ずいぶん歳の差がある友人ができたな」

「まあな。………でも、歳のこと本人に言わない方がいいぞ。肉体戦法で関節技をきめてくる。結構怪力だし、魔族だって普通に殴り倒せる」

「魔法使いがか?」

「魔法使いが」

 

 

 

 

「ぁ………」

 

微睡みから目を覚ましても風景は暗くて何もなかった。不思議に思って体を起こすと自分に覆いかぶさっていた毛布が落ちた。

私、こんなの被って寝たっけ?

ていうか、

 

「何してたんだっけ………?」

 

まだ、半分寝ぼけているのか意識が落ちる前の記憶がよく思い出せない。

 

ここは…?

 

辺りを見回しても明かりもない、ただ暗闇が支配する空間。

あるのは不自然に浮かんでいる扉一つだけ。

この光景、既視感がある。

 

「あぁ、そうか」

 

思い出した。

 

「泣き疲れて寝たのか」

 

ゼーリエに断られて、拗ねて引き篭もって、フランメに胸の内を吐き出して。

みっともない姿を見せたな。

子供みたい。

膝を抱えて丸くなる。

 

意識が落ちる前のフランメの顔を思い出す。

 

「言うつもりなんてなかったんだけどなぁ」

 

すべて墓まで持っていくつもりだったのに。

人間も吸血鬼も心が弱くなると誰かに支えて欲しくなるのか。でも、吐き出して少しスッキリした。

 

「少し、散歩しよう」

 

静寂だけで自分の心臓の音しか感じない。

ずっとこんな空間に閉じこもっているから気分が落ち込むのかもしれない。

 

部屋とも呼べない空間から一歩出るとそこはいつものリビングスペース。

暖炉の薪がパチパチと音を立てて燃え、自分で飾り付けた黄色いインテリアに今まで黒一色の部屋に居たせいかホッとする。

二人の気配を探ると一人は案外近くにいた。

 

「フリーレン………」

「すぴー」

 

ベッド三つが空だったと思ったら、フリーレンは暖炉の前のソファで爆睡していた。

そして周りには散らばった魔導書の山。

片付けろっていつも言ってるのに………。

 

持っていた毛布を上からかけてやる。

 

「むにゃあ…………」

 

呑気なものだ。

…………そういえば、この子はエルフだから私と同じで、人間からしたら永遠に近い時間を生きるんだろうな。

フランメはフリーレンが魔王を倒すことを期待している。私とは違い、彼女には魔族を殺すことに特化した魔法を厳しく叩き込んでいる。本人もそれを望んで受け入れているからなんとも思ってないだろうけど、この子は気づいているのだろうか?

 

 

 

私が今、思い悩んでいることはそっくりそのまま自分に当てはまることに。

 

フランメは自分の寿命を全てを使ってフリーレンに託す気でいる。そうなれば必然的にフランメは弟子と共に魔王討伐に参加できずにこの世を去る。

 

魔王がどれ程の強さなのか、私は知らないがあのフランメが自分では無理だと思っている。いくらフリーレンが天才でもそんな強敵相手に単身で挑むことはしないだろう。

そうなれば、この子には一緒に魔王を倒す仲間が必要になる。それも、前衛や回復魔法を使うような僧侶、ちゃんとした役割を持った仲間が。

 

そして、その仲間は同じエルフ種とは限らない。むしろその可能性は限りなく低い。

この旅路でも滅ぼされたエルフの集落にいくつか遭遇した。生き残りは絶望的、エルフは数を減らしていく。と、なれば彼女の仲間は圧倒的に人間になる確率が高い。

 

フリーレンは感情が希薄で空気を読まないし、冷たい言動が目立つ。偶に「こいつ魔族並みに人の心とかないのか?」と、思うこともある。

でも、諭したり、叱れば、ちゃんと理解して次は気をつけている。

最近はよく顔の表情に変化が出るようになった。

 

だからこそ思う。

大事な人。共に時間を歩いていきたい人が現れても、いつか来る残酷な別れを私たちは受け入れなければならない。

 

人を時間によって失う。その現象に八つ当たりすべき標的は存在しない。その痛みを知ってしまえば、知らなかった頃には戻れない。

 

この子にとっては私やフランメと過ごす時間は僅かな時かもしれない。

でも、人との関係の重さは過ごした年月だけじゃない。どんな関係を築いたかが重要なのだ。

 

手の中からそれがこぼれ落ちた時、「時間なんていくらでもあったのに」「もっと、ああしていればよかった」そう思っても遅い。

 

時間という怪物は遠いように見えて毎日確実に私たちの足元を削っていく。

 

呑気な小さな子供の頭を撫でる。

 

「フリーレン、せめてフランメとの時間を無駄にしないで。こういうのはどうやったって後悔が残る。なら、傷は浅いほうがいい」

「ぅうう〜、タマネギ……嫌いぃ」

 

コテンと寝返りを打つ彼女に向かって祈るように言い聞かせた言葉は寝言で返ってきた。

 

「まだ、よくわかんないかぁ」

 

苦笑し、最後にひと撫でしてからテントから出る。宿の窓から覗く景色は既に真っ暗で今がかなり深夜であることが分かった。

 

都合がいいな。

窓の淵に足をかけてそのまま外へ飛びだす。

背中から翼を出し、速度を落としながら地面に着地。

 

初日に訪れた時賑わっていた大通りは猫一匹すらいない。

 

街灯なんてない。

街中を照らす光は夜空に見事に浮かぶ満月と星だけ。

 

「吸血鬼にはピッタリな夜だ」

 

実際、吸血鬼の力は満月の夜に強まる。

私の場合少し力が強くなって、回復が早まったり酔ったみたいに気分が高揚する。

でも、今はそんなに気分が上がることはない。

月に手翳す。

 

「これから、か………」

 

どうしよう。

私はどうしたいんだろう?

瞳を閉じて自分の心を言葉にする。

 

「私は、私が生まれた世界に帰りたい」

 

誰もいないかもしれないのに?

私の知っている人は誰もいない。私の居場所はもうないかもしれないのに?

 

口に出した欲求に対してどうしようもない現実が迫ってくる。

 

「呪いを解きたい」

 

そんなことが本当に可能だと?

血の呪いが解けた症例があった?

不可能だ。呪いをかけた吸血鬼はもういない。

 

「解放されたい」

 

子孫にこの重荷を背負わせるのか?

あの日の誓いに背くのか?

子供たちの笑顔をお前が奪うのか?

 

「…………諦めるしかないのかな?元の世界に帰らず、呪いも解かないで、生き続ければ誰も傷つかない」

 

諦めろ。

どうせ一度死んだ身だ。

生きたいと願った。だから、神様はそんな丈夫な体を授けてくれたんだろう?

 

「仕方な、」

「仕方なくない」

 

誰にも聞かれていないと思っていた呟きに被せられた声に振り返る。

金髪のエルフと赤毛の人間の魔法使い。

 

「街中では翼をしまえ。魔族と間違われるぞ」

「ゼーリエ、フランメ………」

 

何処に行ったのか気になってたけど、ゼーリエのところに行っていたのか。

でも、今はなんとなく会いたくなかったな。

 

「何の用?今は一人になりたい」

「いつまで一人でいる気だ?」

「………………」

 

いつまで。

フランメの問いに答えられない。

そんなの私だって分からない。

どうやったって自分の気持ちに踏ん切りがつかない。

 

「諦めるのか?私に散々大事な家族だって話していたくせに」

「もう死んでるかもしれない」

 

こっちでの一年、一ヶ月、一日、たったそれだけで向こうでは途方もない時間が経過していたら。

 

「まだ、何も試してないだろ。何一つ物的証拠はない。絶望するのはそれからでも遅くない」

「…………だったら、フランメは一生私と一緒にいてくれる?無理でしょ?私も誰かを吸血鬼にする気はもうないよ」

 

同族を作れば、この境遇を共有できれば………。

そう思わなかった日はない。

でも、それは同族(なかま)を作るんじゃない。犠牲者を作ることになる。

 

 

「………確かに私はお前と同じ時間を過ごしてやれない。お前からすれば瞬きの間に消える命だ」

 

私の手をフランメが掴む。

 

「お前は言ったな。永遠の命や寿命を延ばす魔法を追い求めるな、と。人が人でないものになるには代償が必要だと。お前の警告はいつも正しい。だから私はそれに従う」

 

分かってる。命を弄る魔法は私が最も忌避する魔法だから、そんなの使ってほしくない。

 

「だけど、私にもできる事、おまえに希望を残してやれる事がある」

 

フランメの瞳に諦めの文字はない。

その若さ故の情熱が眩しくて、目を細めてしまう。

 

「ふーん。どんな?」

 

大して期待なんてしていない。

天才でもどうにもならないことはある。

私が諦めが悪い性格でも限度があるように人生には潔く諦めたほうが得策なこともある。

 

 

 

しかし、フランメから出た提案は私の予想の斜め上だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前を呪う」

「…………………はぁ?」

 

 

 

 

 

 

 




前回、投稿するつもりで忘れていたオマケです。


〜色仕掛け伝授中〜

「ねぇ、師匠。こんなの本当に役に立つの?」
「あぁ、これはいつか絶対に役に立つ」
「魔王に色仕掛が効くとは思えないんだけど………」
「そう思うだろ?だが、魔王は自分の城に金銀財宝や宝を溜め込んで、若い美女を献上させる性癖の持ち主らしいから色仕掛だって覚えておいて損はないと思うぞ」
「そうなの?師匠、魔王に対峙したことあるの?」
「ない。ただ、エミリアに魔王の話をしたらそんな事呟いてた」

『へーこの世界は魔王がいるの?倒し方?知らないよ、私の世界には魔族がいないんだから。あ~、でも前世で(アニメや漫画)は魔王って宝を自分の城に溜め込んだり、人間の若い女やエルフを手元においておくことに優越を感じたりしてたかな。コッチもそうなの?』

「エミリアの前世には魔王がいたんだ。なら、参考にしておかないといけないか」
「あと、『魔王は残虐無比なド鬼畜な性格してるわりに厨二病臭い見た目をしている』とか『精霊女王で最弱最古の魔王ならファンタジーなこの世界にもいるかも………』とか理由のわからない事も言ってたな」
「チュウニビョウ?精霊なのに魔王?ナニソレ」
「さぁ?」
「二人共〜ご飯できたよ?」 

前世は色々読んでた↑



☆厨二病の見た目の魔王※某ありふれた主人公。
☆精霊女王で魔王※某スライム転生
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