葬送の吸血鬼   作:mituha

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遅くなりました。
書きたいストーリーは決まっているのに、文章にしようと思うと中々進まない。
微弱な百合表現があります。それでもいいという方だけお進みください。

追記、お見苦しく編集が行き届いていませんでした。直しました。


良い子へのプレゼントは希望か?絶望か?【後編】

 

 

 

『……………けさなきゃ』

「え?」

 

 

聞こえないほど小さな声で呟いたせいか、将又無意識に出た日本語に戸惑ったのか、或いはその両方か。スミスが呆けた瞬間、私の両手は彼女の首へ伸びた。

 

「ひッ!」

 

咄嗟に身を引いて逃げようとするスミス。しかし、私のスピードのほうが早かった。手加減なしで床に押し倒し、両手はその細い首を捉える。

 

「かっ………は!、やめ」

 

 

苦痛に顔を歪め、逃げようとする彼女を逃さないように足を体に巻き付けて拘束する。ガリガリと音を立てて、私の手を退けようと必死に藻掻くが、齢12の幼子の力などたかが知れてる。両手にさらに力を込める。

 

大丈夫、殺れる。

 

「放して!あ"っ、……い"や!」

 

けさなきゃ。

秘密を知る者は全部。

 

「やめっ! だれ……かっ!」

 

消さなきゃ。

生かしておけない。他人は信用できない。

 

「あぅッ゙!……ぎぃッ」

 

消さなきゃ!

簡単だ。こんな細い首なんてすぐに折れる。

あの時に比べたら血痕も飛び散らないし後始末だって楽だ。

 

足をバタつかせて逃れようとするのを、全体重をかけて抑え込む。

そして抵抗の力が徐々に弱まり、涙と鼻水で汚れた顔は生気を無くしていく。最後の言葉が溢れ落ちる。

 

「ッ゙…………たす、けッ…………て」

 

何かが聞こえた気がする。

こいつが何か言ったのか?

まだ、生きているのか?

若い人間はやはり元気だ。血は若い人間ほど甘美で美味だ。

これなら前のよりおいしそ…………………………いや、待て。獲物?

いつから私は人間を獲物と認識している

 

 

ふと、虚ろになっていく彼女の瞳に写る自分に目が行った。見つめ合う自分自身は眼力が据わり、頬を染め上げて、長い牙を剥き出し飢えた獣その者のような姿をしていた。

 

これが、私………………………?

こんな顔……………悍ましい顔をしていた?

 

『たすけて!』

 

その時、脳内に響いた誰かの声に絞めつける力が緩んでしまう。

 

「ガッ……!ゲホッ゙、ゲホッ゙」

 

その隙に不足した酸素を急速に取り込み咳き込む彼女に何もできずに呆けてしまう。

自分自身が逆らえないものに支配された感覚。

今のは一体…………?

 

しかし、すぐにこの状況に目が移る。僅かに痙攣しながら私の拘束から逃れようとするスミス。

その瞳には明らかな恐怖と怯えの感情が見て取れた。

 

「ひっ!やめて!殺さないで!たすけ」

「黙れ」

 

咄嗟に彼女の口を塞ぎ、黙らせる。

叫ばれると誰かが部屋に入ってくるかもしれない。

まるで狐に追われる兎のように震える姿に少し悪いことをしたと後悔が襲う。

しかし、そんなことより今は優先すべきことがある。

 

「答えろ。どこでその秘密を知った?嘘をつけばその喉を喰い破る」

「ゆるし」

「答えろ」

 

手短に済ませたいのに彼女は口を震わせてまともに会話ができない。

話にならない。

 

始業の時間も迫ってきている。魔法薬学を遅刻するわけにもいかない。しかし、こいつを放置とか以ての外だ。

仕方ない。こいつは何処かに閉じ込めて後でゆっくり尋問しよう。必要の部屋なら丁度いいがあれは8階にある。ハッフルパフの寮は地下で8階まで登って、魔法薬学の教室の地下までまた往復している時間はない。第一にそこまで行くのに目撃者が多すぎる。

 

「黙ってついてこい」

「いや、放して!」

 

私が胸ぐらを掴んで引き摺ろうとすると、スミスはまた大声で叫び、手足を振り回して暴れ始めた。

時間がないのに、立場も弁えず、言葉の通じない子供にいい加減私の怒りのボルテージが限界に達する。

 

「だまれ」

「っ!」

 

「?」

 

なんか今………自分の声とは思えないものが出た気がする。喉に手を当ててみるが声の調子が悪いわけではない。

そして、突然抵抗の力が弱まった。

不自然に思いスミスを見ると瞳は虚ろに、不自然に腕を振り上げた状態で動きを止めていた。

 

「ア、ぁ゙」

 

まるで何か催眠にでもかかった様だ。

と、取り敢えず大人しくなったなら幸いだ。私は自分のトランクを引き寄せダイヤルを変える。

これは普段は教科書を詰め込むだけの普通のトランクだが、留め具のダイヤルを変えると検知不可能拡大呪文のかかった空間に繋がる魔法のトランクだ。蓋を開けると石段が続く空間が広がっており、抵抗しないスミスを引き摺ってその中に押し込んだ。

抵抗しないが動きもしないので、かなりの重労働である。

最低限、頭をぶつけないようにだけ気を付けて階段を下り、トランクの小部屋の床にその体を転がす。反応の薄いスミスがあまりにも不自然で息や脈を確認してみたがちゃんと動いている。

顔色も覗き込もうとしたが、予鈴がなる音が聞こえた。

 

不味い!

 

「暫くそこにいろ」

 

慌てて階段を駆け上がり、トランクから出ると蓋を締めて鍵を掛ける。

 

コロポータス(閉まれ)

 

念の為、魔法をかけて床に落ちていた教科書を掴み、走って寮から飛び出す。革靴の音を響かせながら暗い地下通路を駆け抜け、魔法薬学の教室に滑り込んだのと教授が部屋に入室してきたのはほぼ同時だった。スネイプ教授の視線が刺さる。

 

「ふむ………どうやらハッフルパフは時間に余裕がないらしい。おかしなものだな?寮と大広間、何方からも一番近いこの教室にギリギリに来るとは。どうやら、授業を受ける時間すら覚えていない生徒もいるようだ。この城に時計も読めない生徒がいるとはまったく嘆かわしい」

 

教授にはチクチク嫌味を言われ、同級生たちには親の仇を見るような視線を向けられる。

 

「何をしている。さっさと席につき給え」

 

減点くらい覚悟していたが、どうやら見逃されたようだ。

入り口に近いところに座ると教授はサッと杖を振る。黒板には今日調合する魔法薬の調合の手順が現れる。

 

「今日はふくれ薬の調合をしてもらう。材料と手順は以下の通りだ。何をぼさっとしている?さっさと始め給え!」

 

鍋に火をかけていると横の生徒の声が聞こえてくる。

 

「ねぇ、ミリアがいないわよ?」

 

「あの子昼食前に突然何処かに走っていったのよ」

 

「珍しい、初めてじゃない?あの子が授業をサボるなんて。しかもよりにもよって魔法薬学を」

 

あいつが普段どんな人間関係を築いているのか知らないが、どうやら随分慕われているらしい。大半の生徒が落ち着かない様子で出入り口をチラチラと窺っている。

 

 

「ミス・パヴィエル」

「っ、はい!」

 

背後にぬっと現れたスネイプ教授に肩を震わせる。

目線を合わせず、体だけ向ける。

この人は嘘が通じない。できるなら話したくなかったのに。

 

「ミス・スミスが授業に現れん。君が最後にやってきた。何処かで彼女を見かけたかね?」

 

手元から視線をあげない。

材料を刻むナイフを握る手に汗が滲む。

閉心術が使えない私が開心術から身を守る手段は視線を合わせないこと。心を空っぽにすること。

たった、それだけ。

長年二重スパイをやり続けている作中屈指の魔法使い、スネイプ。嘘をついてもこの人を欺ける気がしない。

 

なら、本心をありのまま利用するしかない。

嘘と真実は織り交ぜることで信憑性が増す。

努めて平静に。

慎重に口を開く。

 

「誰ですか?それは」

 

 

 

 

 

 

 

カツン、カツン…………………。

 

杖明かりを手に石段を降りると肩を震わせて勢いよくこちらを振り向く影が一つ。

私はそいつを見下ろした。

 

「起きたんだ」

「ひっ!」

 

私が声をかけるとそいつは部屋の隅に身を寄せ、ガタガタと震える。

 

「安心しなさい。この場所でどう、叫び、喚こうが誰にも聞こえない。助けは来ない。大人しく、聞かれたことにだけ素直に答えれば苦しませないから」

 

最後の段に腰掛けて足を組む。

 

「勿論、生きてこの場所から出られるかはお前の回答次第だけどね」

 

私の脅しにそいつは震える体を強張らせ、しかし、勇ましくもキッと睨みあげる。

 

「あんたに人殺しができるわけない」

「できる。()()、一人、二人殺そうが大して変わらない」

 

ニヤリと笑って鋭い牙と爪をチラつかせる。

 

「………ホグワーツって便利だよね。たとえ、生徒が行方不明になっても数日は大騒ぎしない。だって城自体が摩訶不思議で一定条件を満たさないと出られない部屋とか普通にあるもん。貴方が消えても、数日は誤魔化せる。死体は森に放置すれば蜘蛛の餌になって証拠は残らない」

「蜘蛛?」

「気にすることはない。こっちの話」

 

杖を構える。あいつの杖はすでに回収済みだ。

 

「それで?何処で、誰に私の秘密を聞いたの?」

「…………」

 

黙ったまま喋ろうとしない。視線が揺れ、迷っていることが手に取るようにわかる。

私は躊躇なく杖を振る。

 

エクスペリアームス(武器よ、避けよ)

 

私の放った武装解除呪文がその小さな体に直撃し、吹き飛ばす。

 

「まだ、自分の立場が分からない?素直に話さないと痛い思いをするのに」

 

吹き飛んだ小さな体を追いかけてしゃがみこみ、見下ろす。

そこまで強くはやってない。

私だって子供を痛めつける趣味はないから。

 

「っぅ!誰にも……聞いてない!」

「ふーん」

 

誰にも聞いてない……ね。

 

「じゃあ、どうやって知ったのかな?」

「わ、私は………」

コンフリンゴ(爆破)

 

反対の壁に向かって放った呪文が爆発する。赤い爆炎を巻き上げた魔法に一段と震え上がる。

 

「早く言え」

 

ゴクリと喉が鳴る。

スミスは私に視線を上げて慎重に一言だけ言葉を紡いだ。

 

「私は、未来が見える」

 

予想していなかった言葉が飛び出て目を見開く。

お伽噺のような回答で、一瞬こいつも転生者なのかという可能性が頭をよぎり、杖を額に突きつける。

 

「未来?」

「夢で……未来が見える。あんたの秘密は今年度に入る前、夏休み中に見た。そこであんたの秘密を知った。誰にも言わない!誰にも言うつもりなんてなかった!私は変えたい未来があるから貴方に接触しただけ!お願い信じて!」

 

夢…………予知夢か。

まさか本当にそんな能力があるのか?

だが、未来を見る、予言する才能は確かに存在するし…………。

なにもない部屋の隅に視線を向け、すぐに戻す。

 

「それで、何を変えたいの?」

「このままじゃ、近い将来戦争になる!例のあの人が復活する!大勢死ぬの!どうしてそうなるのか、具体的なことまで見れなかったけど………私はそれを阻止したいの!」

 

子供らしい動機がいっそ哀れに思え、吹き出しそうになり口を抑える。

そんなことしても無駄なのに。

若さ故の無謀な挑戦に鼻で笑って蹴ろうとしたが、続いて口にした予言に言葉を飲み込んだ。

 

「私があんたに秘密を打ち明けた一番の理由は、あんたにも関係あることだから。………このままだと、あんたは5年後に命を落とすから」

「は?」

 

5年後………つまり不死鳥の騎士団編で私が命を落とすと?

 

「なんで私が死ぬの?」

「分からない。私が見たのはあんたが動かなくなってしまうシーンだけだった。見たい未来を必ずしも見れるわけじゃないの」

「夢って言った?毎日見るの?」

「ほぼ毎日、でも時系列はバラバラ………」

 

杖を引っ込めてなにもない天井を見上げ、暫し思考を巡らせた。そして、大きく息を吸い込んで吐き出す。

 

「…………いいよ。取り敢えずその話は信じてあげる」

「本当?」

 

顔を上げた彼女の顔は心から安堵したように緩みきっていた。私は努めて物腰柔らかく表情を作る。

 

「私の方こそごめんなさい。知っているかもしれないけど、魔法界の純血主義の仕組みの前では私の正体が知られると色々不味いから、人との接触は過敏になってたの。そんなすごい力じゃどんなに気を使って隠しても意味ないわね。でも………」

 

スミスの両肩を掴んで首元に刃を突き立てる。

軽く、鬱血痕ができる程度に吸い付き耳元で囁く。

 

「これで私の秘密を誰かに漏らしたら、その時点で私には筒抜けになる。そうなれば私はお前の親兄弟すべてを皆殺しにする。分かったな?」

「う、うん」

 

コクコクと首を縦にふるスミスを離して階段を指差す。

 

「その階段を登れば部屋に出る。部屋から出れば8階に出られる。言わずともわかっているだろうけど、今日のことも誰にも話すな。話せば私には分かる」

 

最後にダメ押しでひと睨みするとスミスは転がるように階段を登りトランクの小部屋から消えていった。

完全に人の気配がなくなったのを確認して私はその場に腰を下ろす。

 

「はぁぁぁぁぁ………」

 

今日一、長い溜め息を口から吐き出す。

 

「未来視かぁ、存在は聞いていたけどまさか本当にあるなんて」

 

ただ数年、学生ごっこをすればいいだけだと思っていたのに。予想外なことが多すぎる。

これは1から計画を見直す必要がありそうだ。

 

振り向き、なにもない部屋の隅に目をやる。

 

「それで、どうだった?」

「あの娘の言葉に嘘はありませんでした。お嬢様」

 

 

何も無い空間からパッと布のような物を剥ぎ取って姿を表したのは下僕のサン。その手には古い杖が握られている。サンはそれを恭しく私に返した。

 

予めサンには透明マントを着せ、父の杖を持たせて部屋の隅に配置していた。私はまだ開心術が使えないのでサンにはこんな時の為に随分前に開心術を習得するよう命令し今回は開心術者役を任せていたというわけだ。

 

「そう………じゃあ、未来視云々は事実なんだ」

「はい。あの娘が本気で戦争も回避しようとすることも事実でした」

「サン、お前に次の仕事だ。あいつを監視しろ。そして秘密を喋ればその時点で抹殺しろ」

 

私の命令にサンはその零れ落ちそうな目を見開き悲痛な表情で胸の前で手を組んだ。

 

 

「お嬢様それは!」

「無理?」

「どうかお許しください!お許しください!」

 

屋敷しもべ妖精は本能的に人に仕える。そのため人を攻撃する命令には忌避感を人一倍抱えており、命令の撤回を主人に懇願することもある。

こいつも同じなのか

 

「じゃあ、いいや。すぐに報告、意識を刈り取って私の前に連れてこい。秘密を知った者と一緒に私が殺る」

「かしこまりました。…………あのお嬢様、こんなことをして本当に大丈夫なのでしょうか?」

「何が?」

 

あ、あいつの杖返してなかった。

後で返しておかないと。

 

「ここはダンブルドア校長()()のお膝元でございます!そのような場所で生徒を攫ったり、こ、殺そうとしている!サンはお嬢様がアズカバンなどに連行されるのではないかと……」

 

なんだそんなこと。

 

「だから、魔法が必要な場でお前を使ってるんだよ。生憎、私達は杖を使えば杖の履歴から何をしたのかバレてしまう。その点、お前たちの魔法は魔法族より遥かに強力で高度だ。杖に頼らず、魔力の痕跡すら残さない。特定されない。いくらダンブルドアでもはじめから屋敷しもべ妖精を使っていると断定しない限りお前を追うのは不可能。ホグワーツにも屋敷しもべ妖精はいるけど、私に限らず純血の家の子息はしょっちゅう自分の家のしもべを呼び出して雑用を言いつけている。怪しまれることはない」

「さ、左様でございますか?」

「勿論、お前も今日見たこと、これから私が殺ることを見ても誰にも話してはならない。漏らしてはならない」

 

屋敷しもべ妖精は命令を遵守する都合の良い生物だと思ったら大違い。彼らも命令に背くことがある。滅多にないことだが、自分の意志で命令に背けば自傷行為でお仕置きし、それで許されたと勘違いする。

 

「勿論でございます」 

「よし、行け」

 

バチンと音がしてサンは姿くらましでこの場を去った。

 

「お前も使えるかどうかは今後の働き次第だ」

 

私は自分のしもべすら信用しない。

屋敷しもべ妖精は確かに奴隷であることが本能のような種族だが自由意志までは縛れない。

私が信じられるのは自分自身だけだ。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

遡ること数刻前

 

「あいつを呪う」

「イかれてるな、お前は」

 

弟子から飛び出た解決策にゼーリエは正気を疑った。どうして、呪いから救うと宣言した相手を逆に呪うなんて結論に至ったのか。

しかし、フランメはそんな師を試すように問いかける。

 

「師匠、例えば高熱を出す呪いと、体温が低下し続ける呪い、同時に受けたらどうなると思う?」

 

その問いにゼーリエはハッと顔を上げる。

 

「通常はより強力な呪いが勝る。しかし、両方が同等なら………」

「「効果を打ち消し合う」」

 

二人の声がハモる。

フランメはそれにニヤリと笑みを浮かべ、指を立てる。

 

「現状、あいつの呪いのデメリットは三つ。

寿命がない。吸血衝動がある。死ぬと子供に呪いが移ること。あと、本人曰く流水に浸かると皮膚が焼ける。銀が触れない」

「優先して必要なのは『生き物を短命にする呪い』『血肉を拒否する呪い』『魔法が血縁に受け継がれない呪い』………そんなところか?」

「そして並行して帰還方法の模索。寿命が出来てから探したんじゃ、今度は逆にあいつが生きている間に叶うか怪しいからな」

 

ゼーリエは酒を煽り、機嫌よさそうに会話を続ける。

 

「呪いを消しつつ帰還魔法を探す………中々大仕事じゃないか」

「そうだな」

 

だが、一つ懸念事項が残っている。

 

「しかし、やはり時間の問題だな。お前に、それだけの課題に付き合う時間があるのか?」

 

いくらフランメが天才でも自分の夢の片手間にできる課題ではない。人生の全てを捧げても世界を越える魔法、魔法の極みに辿り着けるかどうかなどわからない。

ゼーリエの質問にフランメは暫し考え込み、意を決して口を開く。

 

「ーーー」

 

 

 

 

「ーーーと、言うわけだ。お前のその呪いを根本から変えることは今の魔法技術では叶わない。だが、煩わしく思っている部分を相反する呪いで相殺すれば………」

「人間並み、いや、そこまで高望みはしない。でも、私も限りある寿命を得られるかもしれない…………」

 

私の呟きにフランメが頷く。

呪いを呪いで消す。

そんな方法が………いや、でも前世で何処かで聞いたことがある。反対作用の薬を同時に飲むと効能を打ち消して治療効果が出ないことがあると。それと似た感じになるのか?

 

突飛な発想だ。しかし、フランメのその案はどん底にいた私に確かな光を与えてくれた。

その証拠に私の頭は呪いに対する具体的なイメージを組み立て始めている。

 

「勿論、成功する保証はない。その身に複数の呪いを宿すことになる。どんな危険があるか未知数だ。だが、幸いこの世界には呪いを使う都合のいい種族がゴミのようにいる」

「魔族………」

 

私の呟きにフランメが頷く。

 

「奴らの魔法はお前のソレと同じ、人類には複製不可能なものだ。正しく【呪い】だな。私の見立てでは威力も十分だ。流石にピンポイントで求めるものが都合よくあったりはしないかもしれないが、試してみる価値はあるだろう?」

 

自分が求める呪いをワザと受けて、呪いを無効化。尚且つ魔族も討伐できて一石二鳥?

 

フランメの言葉が頭の中で反復し、段々と理解していく。

私にはまだ希望は残されている?

 

いや、確かに希望などなかった。

 

これは私たち一族が苦しみ、絶望するためにかけられたものだ。

そして、私がこれから歩むのはフランメが無理矢理作ってくれた、ねじ込んでくれた道だ。まさか、呪った方も私が異世界に行くことまでは予測不可能だっただろう。

 

下を向いていた顔が徐々に上に向く。

 

「やっと目を合わせたか」

「…………酔ってる?」

「少し飲んだからな」

 

フランメは楽しそうに話し続ける。

 

「後はそうだな…….お前が無事、家族が生きる時間に帰れるかという問題だが、これは私よりお前の方が向いている課題かもしれない」

「?」

 

フランメより向いている?

どういう意味だろう?

 

「以前、お前は私に【逆転時計】の話をしてくれたな」

「そういえばしたね」

 

随分前にフランメのご機嫌とりに魔法族が管理していた時を操る魔導具、【逆転時計】について聞かせた。小さな砂時計をひっくり返した分だけ時間を遡ることができる魔導具。

しかし、あれは………。

 

「神秘部の戦いで全部壊しちゃったって………」

「でも、お前、その壊れたやつくすねたんだろ?」

「……………」

 

思わず顔を逸らして口をつぐんでしまう。

な、なんでそれを知ってるんだ?!

私の態度にフランメは呆れたように首を左右に振る。

 

「お前の話では正式な許可を得て使ったことなど無いはずだ。でも、いくら前世で存在を知っていても、道具の構造まで熟知していると言うことは手元に置いて調べたことがあるんだろう?」

 

墓穴を掘ってた!

 

「それをこちらで解析にかければ時間に関する魔法の解析も飛躍的に進歩する」

「確かに私のトランク内にあれはあるけど、どちらにせよ向こうの世界にある。どう解析すれば………」

「手伝ってやろうか?」

 

それまで完全に話に参加せず空気と化していたゼーリエが突然口を開いた。

 

「お前の世界と違い、こちらでは時間や空間に関する魔法はそれほど発達していないが、ものを召喚する魔法はこちらが上だ。無機物と有機物では召喚の難易度は遥かに違う。そのトランクだけをこの世界に召喚するだけなら想像より容易いかもしれん」

 

「ゼーリエ………どうして?」

 

私はあなたの期待に応えられるような魔法使いじゃなかったのに。ゼーリエは面倒臭そうに私の隣に立つ。

 

「バカ弟子がらしくもなく懇願してきたからな。それに私も異世界の魔法に興味がある。こんな面白いものをフランメだけが独占しているなど許せん」

「?」

 

スッとゼーリエの顔が私の耳に近づく。

まるで内緒話をするような囁き声で。

 

「だが、その前にお前の口から直接聞かせろ。お前にとってフランメはどんな存在だ?嘘はつくな」

 

どんな存在?

なんでそんなこと聞くのだろう?

分かりきったことじゃないか。

 

「ただの友人です。私にとっては久方ぶりで孫と同じくらい歳が離れてるけど」

「種族も歳も、考え方も違うのにか?」

「………それって友人関係築くのにそこまで重要ですか?」

 

私の世界だと血みどろの歴史を重ねるゴブリンとだって仲良くなるやつもいたし、ヴィーラと結婚できる魔法使いもいた。異種族間の友人関係なんてそこまで珍しくなかったんだけど、こっちでは種族が四種族しかいないから珍しく思うんだろうか?

 

私の理解できないっと言う表情にゼーリエは初めて眉を緩めて和らいだ表情をする。

 

「いや、そうだな。関係ない。お前は信用できそうだ

「?」

 

満足そうにゼーリエは私に背を向けた。

それに首を傾げる。

何がしたかったのかさっぱり分からな…………あっ!フランメの弟子って設定すっかり忘れてた!え、でもゼーリエから指摘なかったし…………?嘘はついてないから見逃された?うぅむ、分からん。

 

「まぁ、助ける条件として使い終わった逆転時計は私に寄越せ。異世界の魔導具は貴重だからな」

 

逆転時計を?

まぁ、あれは確かに危険な代物だけど壊れてるし、ゼーリエなら無闇に使ったりしない………よね?

 

「それくらい良いですけど……慎重に扱ってくださいね。下手すると世界が滅びますから」

「サラッと恐ろしいこと言うな……」

 

私の前にフランメの手が差し出される。

 

「さて、どうする?エミリア。私は道を用意したぞ」

「…………」

「私は必ず、夢を叶える。誰もが魔法を使える世界、魔王を倒すためにフリーレンを育てる。お前は諦めるのか?」

 

人間の脳は単純だ。想像力はたった一言の言葉。単語、感情からどんどん派生し、枝分かれを繰り返す。想像力を広げることはできても、停止させることはできない。それを止める術を人間は持ち合わせていない。一度、可能かもしれないと、想像してしまったものが感情と結びつくとソレは時間ごとに肥大化していく。

 

私も単純かもしれない。

先ほどまで全てを諦めかけていたのに、こんな不確定要素の塊に心を動かされかけている。

フランメの提案は不確かなものばかりで、成功する可能性の方が今の所低い。

だが、

 

「意地悪な質問だね、フランメ」

「そうだな」

 

全てがゼロの状態なら諦めた。

 

「人間って生き物は欲張りなんだよ。お前は違うのか?」

「そんなわけないじゃん。私は欲しいものは意地でも手に入れるタチだよ。知っての通りに私は諦めが悪いからね」

 

最後に一つでも残った状態なら私は諦めない。ここまでお膳立てしてもらった。それを台無しにするのはもったいない。

 

差し出されたフランメの手を今度はしっかり握る。

 

「私は【呪い】の研究をする。何年でも、何十年でも、何百年かかってもいい。向こうがどれだけ時間が流れていても、必ず元いた時間軸に帰れる魔法を探す!無ければ作る。そうすれば全て解決だ」

「お前がか?」

「不可能だと思いますか?ゼーリエ様。魔法はイメージの世界。今の私には成功するイメージしか湧かない」

 

何せ最強の魔法使いが二人も味方してくれる。

 

 

 

 

 

それから夜が明けるまで三人で研究について計画を話し合った。私は第一段階として自分の荷物をこの世界に召喚する。ゼーリエにはそれを手伝って貰うことになった。

しかし、例え無機物でも世界を越える召喚は普通より難易度が高く、儀式の材料も希少だった。試験運用を準備するだけで10年はかかる見積もりだ。

ゼーリエは付き合ってくれるが、フランメとフリーレンにずっと私の研究を付き合ってもらうわけにはいかない。

彼女たちには其々、打倒魔王と人類に魔法を普及させるという大役がある。この中で唯一時間に制限があるフランメには自分の夢を後回しにせず、優先してほしい。

 

「と、いうことはここで一旦お別れだね」

「そうだな」

 

フランメたちはこのまま北上し、皇帝に謁見する。その後は各地を転々としながらフリーレンの修行をつける予定だ。

 

「私は召喚に必要な材料を集めつつ、ゼーリエ様の元で召喚の研究するよ。この先のために自分の手で召喚できるようになりたいからね」

「今のお前なら単独で大魔族に出くわさない限り大丈夫だ。だが、精神攻撃の耐性が他より弱いことはくれぐれも忘れるなよ」

 

フランメの言葉にしっかり頷く。

アインザームを操る魔族にやられかけたことは記憶に新しい。なるべく出会わないように気をつけよう。

 

「そうだ。あのテントはフランメ達が持っていって良いよ」

「良いのか?」

「私はまた必要になったら作るから」

 

二人にはルーンの彫り方も教えたし、ライフラインの取り替えは問題ないだろう。まぁ、片付けしないタイプ×2が一体何日部屋の状態を保てるかが心配だけど。

 

フランメは新しく酒を煽る。

 

「それにしても出会って7年か………」

 

7年といえばホグワーツで学生した年と同じか。

 

「それなりに長い付き合いだよね」

「そうか?短いだろ」

「「十分長い」」

 

ゼーリエの主観では7年は短いらしい。いや、ゼーリエに限らずエルフ、おそらくフリーレンも同じ感想なんだろう。

それを考えたら私もいずれ、同じ思考に陥るのかな?

そういえば、あいつが亡くなって一人になってから、孫達に会うとその都度成長のスピードに驚かされた。

あの時は子供の成長は早いなーっとしか思わなかったけど、今思うと一人で過ごしていると一日、一年の感覚が曖昧になっていた。あっという間に一年が過ぎていた。

年を取ると自然と周りとの時間の感覚にズレが生じるのだろうか。

 

 

そんな無駄話をしながら私たちは一緒に過ごす最後の夜を明かしていった。

 

そして翌日、フランメとフリーレンはこの街を旅立つことになった。フリーレンが寝ている間に色々勝手に決めてしまったが、私が旅を抜けることは良くも悪くも何か言ってくることはなかった。

 

「あっそう、じゃあね」って。

 

いや、確かにそう言う奴だと理解していたが、もう少し何か言うことくらいあるだろ。

誰が毎朝叩き起こして、ご飯作って、洗濯して身支度整えてあげたと思ってるんだ。

 

「やめてよぉ〜、髪の毛引っ張らないでぇ〜三つ編みは先生みたいでやだよぉ」

「…………何やってんだ?」

 

ムカついたのでフリーレンの髪を簡単に解けないようにキツく三つ編みと編み込みで縛りあげた。

 

「可愛くなったじゃないか、フリーレン」

「髪がギュウギュウに縛られて頭が痛いよぉ」

「ふんっ」

 

しょぼくれた顔で泣き真似をするフリーレンに鼻息荒く、そっぽを向く。大人気ないと思うが、成長しないフリーレンが悪い。

 

街の出入り口まで二人を見送った。

振り返ってこちらを見る二人に小さく手を振る。

 

「じゃあね」

「………随分あっさりした別れの挨拶だな」

 

何故かフランメのこめかみがピクピクと痙攣している。

 

「ダメかな?」

「少なくともフリーレンのあっさり過ぎる別れの反応にキレた奴がすることとは思えんな」

 

はっ!

確かに。

 

「長い感動の別れ台詞でも考えればよかった?」

「ちげぇよ。もっと簡単なことがあるだろう」

 

そう言うとフランメは両腕を左右に広げて何かを求めるような格好をする。

 

「ん!」

 

なんだろう?

なんか求められてる?

この光景なんか既視感があるぞ。

あっ!分かった。

フランメの間合いに入り、そっと両手をフランメの頭部に添える。

 

「?」

 

そのままフランメの顔を自分に引き寄せ

 

ちゅ

 

頬に自分の唇を押し当てる。

 

「なゔっ!」

 

自分から求めてきてなんでそんな潰れた蛙のような声を出す?

押さえていた手を話し、離れる。

 

「これで良いでしょ?」

「言いわけあるか!?」

「ぃだぁっ!!」

 

何故か顔を赤くしたフランメから光の速さで繰り出された拳骨を食らった。

 

「っぅ〜!何すんの!自分から求めてきたくせにぃ」

「アホか!普通あの状況なら抱きしめ合うだけだろ!誰がキ、キスっしろなんて言った!」

「え、そうなの?」

 

可笑しいな。

こう言う場合はキスしろってミリアに教わったのに。

頬を染め上げプンプン怒るフランメは大股で歩き出した。

 

「もう知らん!行くぞ!フリーレン」

「師匠、なんで赤くなってるの?」

「だ・ま・れ!」

 

何に怒ってるんだろう?

あ、忘れてた。これは言い忘れちゃダメだ。

 

遠ざかるフランメに向かって声を張り上げる。

 

「フランメ!」

「なんだ!?」

「ありがとう!今まで」

 

フランメは一瞬で赤い顔を引っ込め、キョトンとした顔になるとそのまま前を向いて歩き出し、こちらを見ずに手を振り返した。

 

それを見届けて私も背を向けて自分の道に歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

そして50年の月日が流れた。

 




ちょっと整理。

⭐︎エミリア
どん底から立ち直った。
自分の呪いを無効化するべくゼーリエの元で修行と研究をしている。
キスは唇以外の場所は全て親愛や友愛の証だと思っている。
10代の頃は今は性格が違う。本人にとっては黒歴史。
長生きしているので魔力はフランメと同等。
精神攻撃に対する耐性、防御は甘い。

関係

エミリア→フランメ
こちらの世界に来て始めて関係を持った友人。何も分からない状態を助けてもらった恩人だと思っているが同時にいい加減で大雑把、手のかかる子供と思うこともある。

エミリア→フリーレン
手のかかる友人の妹?的な存在。
フランメに比べたら素直だけど、彼女と同じだらしない性格には色々と物申したい。


⭐︎フランメ
後の歴史に残る大魔法使い。
大雑把でガサツだが、魔法に対して妥協を許さない。また、対人能力にも長けた一面があり、王族や貴族との付き合いも上手くやる。
エミリアは初めて出来た友人。弟子みたいに魔法を教えるけど日常生活では立場が逆転する。魔法学校の思い出話を聞くのが楽しみ。
魔法使いを育成する機関に関心が高い。
本心では一緒に旅を続けられないことに寂しさを感じていた。

フランメ→エミリア
人生初の友人。吸血鬼であることはあまりに気にしていない。面倒見が良くてお母さんみたいと密かに思っている。偶に人の話を聞かないこと癖は直してほしい。教わった癒しの呪文を魔法使いが使える回復魔法として人類の魔法形態に残した。
※別に恋愛的な感情は抱いていないが、エミリアがフリーレンやゼーリエなど誰にでもキス(頬限定)している光景は盗られた感があり嫉妬している。

フランメ→フリーレン
弟子。可愛い。本気で(エミリアの余計な知識のせい)色仕掛けを教えてみたら破壊力抜群だった。魔法の才能もあるし、本当に魔王を倒せると期待している。ただ、性格の問題で仲間が出来るかどうか心配。

⭐︎フリーレン
後の勇者一行の魔法使い。
ドライで神秘的な雰囲気のエルフ。この時点で原作軸に近いくらい表情に変化があり、対話もできる。(私が育てましたbyエミリア
「魔王がエルフの色仕掛けに弱い」という情報を本気で信じており、フランメとエミリア直伝の色仕掛けの数々は投げキッス以上の効果を放ち、未来で勇者を何度か殺しかけた。

フリーレン→エミリア
師匠の友人。身の回りの世話を焼いてくれるし、自分にはよく分からない人間の機敏を教えてくれる。怒らすと怖い。
親戚のお姉さん的な存在

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千年前の物語編はあと一話で終了し、次から次章に移ります。
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