新生活の準備で忙しくまともに執筆できず、こんなに間が空いてしまって申し訳ないです。年明けから体調を崩してばかりでしたがもう元気です。ちゃんと3月中(最終日)に投稿できました!
プロローグ 吸血鬼はもういない
勇者一行が王都を旅立って1年後。
路銀を稼ぐため近隣の村から魔物の討伐依頼を受け、一行は夜の森で休憩を取っていた。
休んでいるとは言ってもそこは魔物も生息する夜の森、前衛2人はいつ戦闘になっても反応できるように武器の手入れを、僧侶は
「いつも思うけど、フリーレンのトランクはほんとうに何でも入るな」
剣の手入れをしていた勇者は魔法使いの手の中にある荷物がスルスルと大きさや重さを無視して収納されていく光景を興味津々に見つめる。
「その鞄にも魔法がかけられているんですよね?お陰で私達は身軽に旅ができます。偶に、鞄の中に入って何をしているのかは気になりますが…………。しかし、空間を弄る魔法は高度なのでヒンメルが言った通り貴方は優秀な魔法使いですね」
僧侶の褒め言葉に魔法使いは手を止めて首を横に振る。
「これは私の魔法じゃないよ。私の師匠の友達で私の姉弟子が施したものだよ」
「大魔法使いフランメの友人ですか………もしや歴史書に出てくる人類初の治癒魔法と空間魔法の権威『エミリア』ですか?」
「有名なのか?」
魔法に明るくない戦士の問いにハイターは力強く頷く。
「これまで回復魔法は女神の魔法を使える僧侶しか扱うことができませんでしたが、彼女は魔法使いが使える治癒魔法を開発した賢者ですよ。その他にも聖都シュトラールと北側諸国グラナト領を繋ぐ転移装置の開発者と言われています。これにより魔王軍との前線である北側諸国に安全に物資の流通路が確保され今日まで人類が魔族と渡り合えている一つの要因となりました」
「あの人が広めた空間魔法や治癒魔法は今でこそ魔法使いの間に広く知れ渡っているけど、使える人は極少数だよ。理論を理解するのが難しいし、相性の問題があるみたい」
私もあまり得意じゃない、と魔法使いは落ち込んだ顔をする。
「その他にも彼女には多くの逸話が残されています。中でも有名なのが吸血鬼討伐ですね」
「!」
吸血鬼討伐。その単語に魔法使いの耳が揺れる。
「吸血鬼はその吸血行為だけで同族を増やしていきます。ねずみ算式に増え続ける吸血鬼をすべて討伐し、絶滅させた偉業がなければ人類は魔族にやられる前に吸血鬼に支配されていたと言われています」
「「へぇぇ」」
僧侶の説明に戦士と勇者は感嘆し、魔法使いは顔を伏せる。
「そんなに強い魔法使いなら賢者エミリアはエルフだったのか?」
「さぁ……それが人物画は一切出回ってないんですよ。人類の魔法の開祖フランメが人間だったんですからその共同者なら人間だった説が今のところ濃厚ですが………」
「フリーレンはフランメの弟子だったなら賢者エミリアに会ったことがあるんだろう?どんな人?」
「……………」
「?」
顔を伏せたまま黙りこくる魔法使いに勇者が違和感を覚えたその時、鋭い殺気が突き刺さる。
「!!」
和やかな会話を中断し、一同は戦闘態勢に入る。草木を薙ぎ倒しながら姿を表した大蛇の魔物に向かって魔法使いは業火を放った。
「フリーレン、さっきはごめんよ」
「なんのこと?」
討伐後、一行が帰路についていると勇者は魔法使いに頭を下げる。
「君が過去のことをあまり話したがらないのを知っていたのに興味本位で聞いてしまった」
「あぁ、そんなこと。別にいいよ、ヒンメルたちからすれば歴史の偉人なんでしょ?興味ない方がおかしいと思うよ」
魔法使いは徐に利き手を広げる。
いつも魔法の杖を召喚する動作。しかし、淡い光と共に出現しその手に収まるのは彼女の相棒ではなく、長さがたった30センチ程しかない木の棒。
魔法使いはその細い魔法の杖を優しく撫でるとポツリと言葉を漏らす。
「でも、そっか…………あの人の話はそんなふうに伝わってるんだ」
勇者は魔法使いの横顔を見て息を呑む。
普段彼女は自分の師であるフランメの思い出を語るような穏やかな表情ではなく、幼子が痛みを堪えるような表情をしている。
「それは?」
「あの人、エミリアの杖だよ。私にはあまり合わないみたいで魔法をうまく発動してくれないんだ。私より、元の持ち主のもとに戻りたいみたい」
魔法使いの言葉を肯定するように杖先からは赤い火花が吹き出す。それに魔法使いは口を尖らせる。
「……………私も、もう一度だけでいいから会いたい。でも仕方ないじゃん。あの人はもう生きてないんだから」