葬送の吸血鬼   作:mituha

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連載が休載になった。
もう終わりだ。一週間何を目標に働けばいいの?
もう、二次創作で供給するしかない!

仕事してると執筆の時間がマジでない。書き溜めストックなくなってきてやばい。


無知とは罪か救いか?

 

 

 

 

 

 

 

 

今年の夏休みのこと。

 

「お嬢様に開心術を?」

「閉心術を習得するには開心術を受けることが一番効率がいい。心閉ざし方、使っていると悟らせない術を学ぶには実践が一番」

 

そのためにサンに開心術を会得させた。適性がなかったのか人並みの腕になるのに5年もかかったけど。

 

「不確かな気休め程度の予防策に頼るより、私が習得したほうが話しが早い。お前は私の言いつけ通り鍛錬を欠かさなかったようだし、そろそろ閉心術を試す頃合い」

 

戸惑うサンに父の杖を渡す。

 

「勿論、私の心を読み知り得た思考、感情、記憶をその他をいかなる方法を用いて、種族、生物に漏らすことは許さない」

「かしこまりました。お嬢様……」

 

傅くサンを一瞥して私も杖を取り出す。

 

「じゃあ、早速お願い」

「はい……開心(レジメンス)!」

 

カッと目を見開いたサンと目を合わせた瞬間、言いようのできない悪寒が背筋を駆け巡る。

蛇に全身を弄られているような気持ち悪さ。

 

ダメだ。何も考えるな。

何も思い出すな。

 

「?」

 

 

しかし、その感覚は唐突に解けた。サンを見るとなんだか困惑した様子で立ち尽くしている。

 

「どうしたの?」

「いえ、その…………」

 

失敗したのか?

どうもサンの様子がおかしい。

何か言いうことを躊躇っているようだ。

 

「言いたいことがあるなら言いなさい」

「ーーーーはい、お嬢様、実は………」

 

 

 

 

その教室に入った瞬間、鼻が曲がりそうな強烈なニンニクの匂いに意識を失わなかった自分をまず褒めたい。

 

「くっさあー!!ナニコレ!?」

 

横で騒ぎ立てる小娘に珍しく同意できる。部屋には尋常じゃない数のニンニクと十字架が天井から吊るされ、壁には銀の剣、食器、甲冑等、銀製調度品などに囲まれている。おまけには教卓の背後には水族館とかにありそうな天井まである高さの水槽。

 

「吸血鬼にとっては悪夢みたいな部屋だね」

 

まったくだ。

首筋がゾワゾワして落ち着かない。今すぐ回れ右して逃げたい。

これが必須授業じゃなければサボれるのに。

 

「なによりクィレル先生だいぶ変わったよね。あの怯えた様子、そんなにルーマニアの吸血鬼にヒドイ目にあわされたのかな?」

「さぁ?」

「…………イギリスの吸血鬼も怖いし、気の毒」

「聞こえてるぞ」

 

不幸なのは私の方だ。何でよりにもよって私はこんな肉体に生まれ変わったのだろう。最悪な時代、自由にならない体。よりにもよってこの世界。この物語は娯楽として読むから面白いのであって実体験するとなると別だ。

 

「ところでお前、今日中に夏季休暇期間の予知夢の報告を出せよ」

 

流石に夏季休暇期間ずっとサンを監視につけることはできなかった。普段の家事業務もあるし、ほっといたら本当に24時間365日監視する。元々こいつの監視は当初の計画に含まれていなかった。

情報漏洩の心配からサポート役は一人でいいと思い、他にしもべを雇ってこなかったことがこんな形で裏目に出るとは。

流石に働くことが生き甲斐の屋敷しもべ妖精でも、あの広い屋敷の維持管理に私の三食の世話をすれば過労死すると思い、最低限、自分の世話は自分で出来るように、家事を覚えなくてはいけなくなった。

 

「あ!そうだ。そのことなんだけど聞いてよ〜」

 

図々しくもスミスは私の隣に座り、体を密着させてくる。

気持ち悪い。離れろ。

一応、スミスは周りを気にし私の耳にコソッと耳打ちする。

 

「休みの間、暇さえあればずぅっと昼寝てたんだけど……」

「いや、勉強しろよ」

「私、夢を見ることに慣れたからか、ある程度見たい年代を絞れるようになったの」

 

それはつまり、いつ、どこかで起こる未来を任意で見れるようになったということか?

 

「パヴィエルは【明晰夢】って知ってる?」

「夢の中で夢と自覚することでしょ。自覚できれば夢をある程度コントロールできる」

「そう、そんな感じなの。今までは、まるでテレビを見てるような視点だったんだけど、今の見え方はちゃんと自分と同じ見え方、まるで未来の自分と視点を共有しているというか…………」

 

説明しづらそうに身振り手振りを付け加えスミスはその時の情景を説明する。

 

「ふーん」

「体験したことのない景色だから、すぐにこれは夢だと気がついて「もう少し前のことを知りたい」とか、「この先の続きが見たい!」とか思うと勝手に切り替わるの」

「なら、これからはちゃんと古い年代から見ることだね。極端に先を予知しても過程を知らないと役に立たないから」

 

あまり先を知られたらこの能無しが何をしでかすか分からない。未来改変に協力するフリをして行動を操作しているのにそのことを予知されたら堪らない。

 

「分かってるよ。正直今まで、時系列をランダムに見てると混乱してたから」

 

ここまでの会話と反応、サンからの報告で懸念していたこいつが私と同じ転生者という可能性はなくなった。ここまで私の言うことを疑いなく素直に信じている。精神年齢は見た目通り、只たまたま奇跡的な力を発現した子供ということか。でも、原作では当然こんな奴、登場しなかった。もしかしたらひっそりと存在していたが描写されなかったのか?

 

いや、こいつの性格から私がいなかったら真っ先に主人公たちとコンタクトを取っているはず。

 

私の存在が影響を与えてしまった?

 

いや、確かに私は愛想がないし、口は悪い。嫌われている自覚もある。だけど原作にここまでの影響を与えるほど大立ち回りした覚えはない。それに私は生まれてからほぼ人と接触することはなかった。

 

可能性は低いな。

 

「それで、肝心の私の死因は特定できたの?」

 

こいつを生かしている理由。それはその未来視によって私の死亡を予知したからだ。すでにイレギュラー続きで私の持つ知識通りになるか分からない。回避法を探るために仕方なくこいつと手を組んでいるんだ。

 

「ん~?まだ見てない」

 

はあ?

そこが一番重要な要素だろうが。

なに呑気な返事してるんだよ。

一気に頭に血が上る。

 

「何でよ!」

「だって、見たら私が持つ取引材料がなくなっちゃうでしょ」

 

余裕の笑みを浮かべるスミスの言葉に私は口を結ぶ。

 

「貴方なら私に開心術でもかけて無理やり聞き出しそうなんだもん。だったら敢えて私はまだ詳細を見ない。見てほしかったら、戦争回避に協力してね」

「………」

 

こいつ……!

 

「今の私が欲しいのは優秀な人材の味方。安心して。貴方の将来的な魔法技術の高さは予知で保証済みだから」

「それはどうも!」

 

小生意気にニヤける小娘の顔に不快になり、顔を背ける。

絶対誰かこいつに入れ知恵している。こいつは夏休み前までこんなに狡猾じゃなかった。命を私が握っていると錯覚させれば簡単にべらべら喋ったのに。

 

不味いな。

本当は立場が逆なことに気づかれた。だからこんなにも態度が強気なんだ。

痛めつける戦法はもう使えない。

外堀を埋めようか?

 

身内を人質にする?

親兄弟を……いや、待て。

 

「………お前って、予見者の家系なの?」

「え、なんで?」

 

生粋の魔法族相手だったらそんな手使えない。行方不明になれば魔法省の捜索の手が回る。幾ら実行するしもべ妖精の魔法が優れていても、はじめから事件性アリと判断されて捜査されれば誤魔化せない。リスクが高すぎるし、卒業前に退学になりかねない。

 

「未来を予知する能力なんて魔法界でもそうそういない。有名どころはトレローニー家だけど、分家の出かなにか?」

 

私の質問に素直に答えるとは思えないが、今この瞬間もサンはこいつを見張っている。嘘をつけばすぐわかるし、この際だから改めてこいつのプロフィールを把握しておくべきだ。

 

もう油断しないほうが良さそうだし。

 

しかし、私の懸念など他所にスミスはあっさり首を横にふる。

 

「違うよ。だって私、マグル生まれだもん。母親がマグルで父親が魔法使い。父親は魔法族の名家の長子らしい」

 

ハーフか。

それにしても"らしい"とは随分他人行儀な。

私も人のことは言えないけど。

 

「会ったことないの。会いたくもないけどね。私がママのお腹の中にいた時にママを捨てて魔法界に戻ったらしいから」

「ふぅん」

「興味なさそうだね」

 

自分から聞いてきたくせに、と口を尖らせる彼女から視線をずらし、声を潜める。

 

「実際そこまで興味はない。珍しい話でもないし。名家の子息息女って大抵生まれたときから婚約者が決まってるものなんだよ。それは本人達の相性が合う合わないの問題じゃない。家同士の存続の為の結婚。だから一時の自由を求めてマグルの中を遊び歩くボンボンが愛人作る……なんて、よくある話」

 

この世界に限らず、貴族制度やその名残がある地域、この時代から数十年先でも同様のことはまだある。被害者からすれば理不尽極まりないだろうし、気の毒だと思うがこの問題に都合の良い解決策など存在しない。

 

「そう、なんだ」

 

私の言葉にスミスは相槌を打ち、少し考えてから言葉を続けた。

 

「私さ、最初は自分が魔法使いだって教えられた時、ママを捨てた父親と同じ才能を持つことに嫌悪感で溢れたの。ママは私を愛してくれているけど、私自身はあの男の血が私に流れていると思うと気持ち悪い。でも、いつも私と遊んでくれた近所のお姉ちゃんも実は魔女だって分かって。魔法の力自体は悪いものじゃないって思うようになった」

 

「それで、この学校に入学したの?」

「魔法使いになればママの手伝いも出来るし、お姉ちゃんと一緒に学校に行ける。まだ自分が何に成りたいとかよく分からないけど、皆が安心して暮らせるような未来にしたい。この力だってきっとその為に授かったんだから」

 

そんな都合の良い事あるか。

 

決意を固めたように言い切る横顔を見ながら私はどこか冷めていた。世の中、そんなフィクションのようにはいかない。希望なんて持ったところで無駄なことだ。期待なんてはじめからしないほうが傷つかないのに。

 

「あ、授業が始まるよ」

 

クィレルが教室に入って来たことで会話を中断する。私は彼の顔ではなくどうしてもあのターバンを巻いた後頭部に目が行ってしまうが、どうやら私だけではないようだ。

 

大半の生徒もアレが何なのか根拠のない噂話を信じている。まさか、あの中に闇の帝王が寄生しているなど誰も思わないだろうな。

誰もが授業そっちのけで教師の変貌ぶりに注目しているおかげで私が少々怪しんでも築かれる可能性は低い。

 

あぁ、本当に良かった。

 

 

 

 

「理解できない?」

 

魔法を中断したサンの言葉に首を傾げる。

 

「お嬢様の考えていることはサンに聞こえてきました。しかし、サンには理解できないのです!お嬢様の心の声が」

 

申し訳無さそうに涙を溜め込み、許しを請う姿勢に少し困惑する。別に分からないなら分からないでいいんだけど。

むしろその方が都合がいい。

 

「お嬢様の心の声は外国語です!サンはお嬢様の心を聞く事はできても内容を理解できませんでした」

 

サンの告白の意味を悟りハッと口を押さえる。

私は日本で生まれ、日本で暮らした記憶が長い。

今世でイギリスで生まれ育った以上、英語の習得は当然だが思考する言語は日本語だ。それは易々と変わることはない。

 

つまり、例え開心術受けても対象が英語圏の人間でなければ情報を与えてしまうこともない。

 

言葉の壁。

なんで今の今まで気が付かなかったんだろう。

 

そういえば去年、スミスに正体がバレて監禁した時スネイプに所在を聞かれてもシラをきれたことに不思議に思っていた。あの教師はダンブルドアほどお優しくないから、怪しい生徒に気づかれないように開心術を使うことなんて造作もないはず。

 

当然、私にも使ったはずだ。

無いよりマシとはいえ、私がやったのは初歩的な対抗策。ベテランの開心術者に適うわけない。

それなのに何も追求がなかったのは私が考えている言語を理解できなかったからだ。

考えている内容を読み取れないので深入りしてこなかったのか。

 

口元がニヤけるのを我慢する。

 

良かった。

まだたった13の私がすぐに閉心術を習得できるとは思っていない。

だが、これで計算外に時間ができた。

 

勿論、生粋のイギリス魔法族の私が縁も無いハズの日本語を母国語としていることは伝わったかもしれないがその秘密は私の中だ。

 

世界で最も習得難易度が高い言語の名は伊達じゃない。

 

そう簡単に暴けはしない。

 

「サン、修行を続けろ」

「え?よ、よろしいのですか?」 

 

ワントーン上がった声色の私にサンは怯えている。

なんでだよ。

 

「お前は、何も疑問を持つことなく私の命令に従え。次はもっと本気でやれ、遠慮はいらない」

「かしこまりました!」

 

 

 

 

 

「ーーーーーで、ですから!ボ、まね妖怪の退治には、ふ、複数のま、ま、魔法使いが」

 

グリフィンドールの双子が如何にしてクィレルのターバンを剥ぎ取るか画策している光景に憐れみの視線を向ける。知らないって幸せだなぁ。

 

さて、目標は今年度中に並程度になることかな?

こみ上げてくる喜びを噛みしめるように私は懐の杖を握り直した。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「結果から言わせてもらうが、コレを人類が作ったとは到底信じられん」

 

フリーレンと別れ、聖都シュトラールのゼーリエの居住に戻った私は研究室に直行。

待ち構えていた彼女はいつもより一層不機嫌そうな顔で出迎えてくれた。

 

「どう言うこと?」

 

作業台の上には割れたガラスの容器とそこから僅かに漏れ出す極小の砂。

私が彼女に預けた壊れた逆転時計だ。

 

「お前から預かったこの魔導具を解析した結果、器自体は大したことはない。ただのガラスと金属だ。だが中身の砂、これが問題だ」

 

ゼーリエは漏れ出ている砂を一粒摘む。

砂のように見えるがそれは極小のダイヤモンドだった。青白く発光するソレは不思議と目を引く。

 

「コレ一粒には膨大な魔力が込められている。恐らく、時間を遡るという神なる所業のエネルギー源はコレだ」

「見た目はただの鉱石っぽいですね。一粒で凡そ100年分の魔力がある。こんな物質が私の世界にあったなんて」

 

見た目はダイヤモンドのようだけど、あり得ないくらいの魔力が込められている。自然物じゃなさそう………賢者の石のように錬金術で編み出された物質だろうか?

自分でも解析してみるが天然物と違い、何やら分子レベルまで術式が組み込まれている。

内容はよくわからないけど。

 

「私が知る限り見たことも、聞いたこともない素材です。錬金術か、絶滅した魔法生物から採取したものでしょうか?」

 

逆転時計が作られた背景は謎だ。いつ、何処で、誰が発明したのか。まともな魔法使いじゃないのは確かだ。

 

「……そうだな。コレを見た奴は普通お前のような反応をする。そう考える」

「?」

 

ゼーリエが意味ありげにつぶやいた言葉を拾う。どういう意味だろう?

 

「ところでエミリア。お前の世界では物質を変化させる魔法が一般化しているらしいな?」

「え?あ、はい」

 

今更、唐突になんだ?

私の魔法の中でも変身術はよく驚かれる。

箪笥を豚に変えたり、鼠を食器に変えたりする度にどんな原理なのかしつこく聞かれる。

 

「生き物を無機物に変える。私たちから見ればそれは魔族の【呪い】のような人知の超えた魔法だ。お前の世界の書物を読ませてもらったが、遺伝子操作から原子化合など説明され、理論を理解できてもイメージを構築するには時間がかかる。それはお前と私たちとの間では物事や現象に関する認識と常識に差があるからだ」

 

ゼーリエの言っている事はすぐには理解できず、首を傾げてしまう。

 

「例えばお前はアレを破壊できるか?」

 

そう言ってゼーリエが指差したのはずっと気になっていた部屋の面積を圧迫する人型の謎の置物。ずっとガ◯ンダムかと思っていた。

触ってみると冷たい金属製の感触、魔法を事前に組み込まれた痕跡を発見した。

 

「ナニコレ」

「戦闘用ゴーレムの試作品だ。フランメが開発したらしい。今、統一帝国では急速に大量生産されている」

「ふむ……」

 

素材は鋼鉄。防御術式は勿論、あらゆる攻撃魔法が事前に組み込まれほぼ自動で発動するようになっている。

あ、ここにルーンが彫ってある。

そうか、あいつ私が教えた魔法をこんなふうに使って魔法を発展させたのか。

これは『守り』に特化したやつだ。フランメも中々使いこなしたようだ。

 

「どう壊すか……普通に木っ端微塵に刻むか押し潰せばいいのでは?」

 

プレス機とかあれば一瞬だ。

取り敢えず思いついたことを口にするとゼーリエは小首をかしげる。

 

「出来るのか?」

「えぇ、少し本気でやれば」

 

拳を握り込んで構えると呆れたようにゼーリエは首を振る。

 

「アホか。魔法でやるんだ。誰が物理で壊せと言った」

「魔法で……『大体なんでも切る魔法(レイルザイデン)』」

 

ゴーレムの左腕に狙いを定めて杖を振り下ろすと左腕の装甲が胴体から引き裂かれた。

 

甲高い金属音を響かせ左腕が地面に落ちた。

 

簡単すぎる。

何が言いたいんだろう?ゼーリエは。振り返るとゼーリエは無表情で手を叩く。

 

「見事だ。このゴーレムにはあらゆる魔法が組み込まれている。防御術式だけでも耐熱、耐寒、耐水、おまけにお前がフランメに与えたルーンとやらがそれらの魔法の威力をさらに底上げしている」

 

今度はゼーリエがゴーレムに触れる。

 

「殆どのルーンは刻まれている部分を削り取ればなんともありませんし、施されている防御術式も基礎的なもの。革新的な魔法は何も使われていませんよ」

「そうだな。確かに私もこのゴーレムを壊すことは出来る。私の場合、まず向かってくる攻撃魔法を反射させ、排出口を潰す。だが、破壊することはまだ出来ない」

 

ゼーリエの言っていることがわからない。

壊せるのに破壊できない?

 

私がピンときていないことを察しゼーリエは落ちた左腕を拾い上げる。

 

「触れて解析すればコレは単純な構造だと魔法使いなら誰でも理解できる。だが、これは魔力で動く。魔力さえあれば動き続ける。内部の魔力が貯蓄されているコアを破壊するか、魔力切れを待つかしなければ機能停止しない」

「魔力切れは現実的ではありませんね。貴方ならともかく、並の魔法使いが相手では先にこちらが魔力切れになる」

 

だからコアを破壊する方が手っ取り早い。

ゼーリエは頷き、さらに続ける。

 

「私には不思議でならなかった。何故、お前はこの装甲に干渉できるとイメージ出来るのか」

「鉄ですよね。色々と加工できると思いますけど」

「確かに鉄は熱を与えれば変形する。だが、頑丈だ。強度も木や石に比べて遥かに高い。我々は鉄を溶かさず加工する術をまだ持てていない。だから私にはコレを熱以外の方法で破壊できない」

 

そこまで言われてやっと理解した。

この世界の文明は地球で言うところの古代。まだ鉄を武具に組み込み始めたばかりだ。

最新鋭の硬い材質を壊すイメージを現地人はまだ持つことができない。

 

一方、私にはもう遠い昔になってしまったが、地球の化学技術が発達した世界で生きた記憶がある。大抵のことは実現可能な世界。実際に見たことはないが、私はテレビ映像などで鋼や鉄、金が切断される場面を見たことがある。

 

流石にダイヤモンドを砕いたり……なんて、勿体無いことをする奴は見たことはないが、今の自分なら砕ける気がする。

 

魔法はイメージの世界。

この世界の人類にとって今、鉄は何よりも硬い物質。最新鋭の兵器を作るための貴重な資源だろうが、私にとっては違う。

 

鉄は鋼や銅に比べたら案外柔らかいし、酸に弱い。何より切れないものじゃない。

私にとって如何なる鉱石も物質も切れて当たり前の物。壊せて当然。

 

顔を上げてゴーレンに杖を向ける。

魔力探知の結果からゴーレムの左胸に特に魔力が集中している。

 

「『大体なんでも切る魔法(レイルザイデン)』」

 

再び振った杖から発射された魔法がゴーレムの左肩から右腰までを斜めに切りつけ、ゴーレムは真っ二つに地に伏せる。

 

裂かれた隙間から転がり落ちてきた心臓のような鉄の球体、おそらくコレがコア。

 

「この世界とお前の世界は文明レベルに差がありすぎる。だからこそ、私たちには想像をつかない魔法を、魔法で実現可能だとイメージできるのだろう。

それほどまでにお前と私たちの間ではイメージ力に差がある」

 

褒められているんだろうが少し大袈裟な気がする。

 

「でも、そんな認識の差は直ぐに埋まりますよ」

 

私の一言にゼーリエは視線を向ける。

 

「人間の学習能力の速度は恐ろしい。それは種族の存続がかかっていれば尚更。命をかけて学習し、習得し、改良を重ねる。技術の発展には戦争という背景が結ばれる。平和な時代ではないことですけど、兵器には人間は何処までも残酷になれる」

 

核開発は何処の国も我先にと手を出し、改良を重ねていく。他人が持っている脅威はなんとしてでも潰したい。自分も持っていることを示せば少なくとも蹂躙はされない。後は相手をどう上回るか。

この世界は地球との文明の差は歴然だけど、何十年後かに化学文明の始祖的な人間が現れても私は驚かない。

 

私の言葉にゼーリエは満足そうに頷く。

 

「謙虚なのは良いことだ。これから多くの人間が魔法を使う。そして魔法は大きく発展し、魔族への対抗手段としてありとあらゆる分野が発達する。人間が凡そ文明と呼べるものを築き上げるのも早かった」

 

ホモサピエンスが文明を築くまでって早いかな?万年単位だったような……?

エルフの感覚分からない。

 

「人間は兵器に何処までも残酷になれる、か。それはお前の経験談か?」

「ご想像にお任せします」

「お前は私やフランメ、フリーレンにあらゆる魔法の情報を流した。役に立つものもあればくだらん魔法も多かった。ただ一つ、お前は私たちに一切話さない魔法があるな?」

 

ゼーリエの言葉に心臓が少し跳ねた。

心当たりが一つあるから。

 

「………」

「お前が今言った言葉だ。技術の発展と戦いは表裏一体。魔法の発展とは戦いの歴史だ。必要に迫らなければ、人類は進歩しない。お前は自分の世界で人間同士の争いがあったと言った。なら、当然あるんだろう?敵を殲滅する、戦争のための魔法が」

 

ゼーリエが一歩近づく。

 

「人というものは悪意や害意を知っている分、時には魔族よりタチが悪い。人類共通の敵がいないお前の世界でソレが無い方がおかしいだろう。お前は当然、人を殺すイメージが持てているはずだ」

 

この人は別に殺傷を咎めたりしない。

正当防衛は当然のことだと受け入れてくれる。だが、隠し事は許してくれない。

 

魔法に関しては特に。

 

喉がカラカラに乾く。

 

ゼーリエと視線が合う時はいつもそうだ。別に悪いことをしているわけじゃないのにこの人の前では嘘も誤魔化しもすることが出来ない気分にさせる。

閉心術を疎かにしたわけじゃない。寧ろ気が抜けないのに追い詰められた小動物の気分にさせる。

 

こうなったら私が口を開くしかない。

 

はぁ。

ため息一つ吐いて私は重い口を開いた。

 

「……闇の魔術」

 

指先で杖を回しながら脳裏に浮かぶあの惨状を思い起こす。

 

「それは対象を害する、支配する、殺害するために使われる魔法の総称。膨大な魔力と、人の殺意を合わせて行使される、倫理感を持つ人の所業とは到底思えない非人道的な魔法……要するに禁忌魔法ですよ。

フリーレンにも質問されましたけど詳しいことは一切話しませんでした」

 

フランメにも聞かれたけど、はぐらかしたり話を逸らした。だってあんなもの知らない方がいい。二人が悪用するなんて微塵も思ってない。だが、万が一情報が他者の手に渡り、この世界に広まったら……。

アレの影響力は絶大すぎる。魔族より先に人同士の内乱が始まったら私は責任取れない。

 

だからどうしても慎重にならざるをえない。

 

「考えたことはありますか?昨日まで隣にいた隣人が傀儡に成り代わっていた気持ちが。魂を壊し、廃人を作る魔法を人同士が、まるで水を掛け合うみたいに狂って掛け合う姿を」

 

死の呪文は銃と同じ、命を奪った感覚を軽くする。人の体温を感じないからこぼれ落ちた物の重さを理解しない。

“思ったより平気。簡単に使えた”

 

まさにそう語った人間が見せる表情は本当に同族かと疑った。

 

「知りたいですか?麻薬のように使えば使うほど、無自覚に人格破綻しますよ。」

 

最初の一線を越えれば魔法を使うことに対する抵抗感がどんどん薄れる。罪悪感が薄れ、自分がやっていることに悪意を持たなくなる。

 

私はそんな奴飽きるほど見てきた。

 

人間の成長は早い。

だからこそ、この魔法は広めていけない。

 

1を教えればこの世界の人類は10も、100も発展させる。この世界の人類はまだまだ成長の可能性に秘められている。

それはいい意味でも、悪い意味でも。

 

私が教えずともこの世界の人間なら独自の精神魔法を開発できるだろう。それで争いが起こっても仕方ない。

 

でも、悪意の塊を、人同士の争いの種となる要素を私は自分から漏らしたりしたくない。

珍しく私がゼーリエを見下ろす。

 

知りたいか?

 

そう質問したが私の答えは初めから決まっている。

 

NOだ。

 

死んでも口を破らない覚悟はあの時からついている。

ゼーリエ相手にいつまで口を閉していられるか分からない。この人が本気を出せば私なんて一分も持たないだろう。でも、私にだって100年以上生きているプライドがある。ゼーリエは私と技術交換という利点があるから協力してくれている。対価を出し渋れる立場ではないのは分かっているが、無理やり聞き出してくるなら私も応戦させてもらう。

 

「フッ、確かに興味はある。私の知らない魔法があるというのは気に食わない。態と教えなかったお前にも腹が立った」

 

ゴクリ

 

「だが、コレを調べた後だとそうは思わん。趣味が悪い反吐が出る」

 

しかし、私の予想に反してゼーリエはいつものように食いつきはしなかった。それどころか逆転時計に対して侮蔑の眼差しを向ける。

 

肩透かしを食らい、呆然とする私に向かってゼーリエは爆弾を落とす。

 

「コレの正体は人間だ」

「は?」

 

脳がゼーリエの言葉を理解しようとするがなかなか飲み込めない。

この鉱石が、なんて?

嫌な汗が首筋に流れる。

 

「この鉱石は生き物の魂を抜き取り肉体を変換し石という形に変えたに過ぎん」

 

ついていけない私にお構いなしにゼーリエは説明を続ける。

そして、ゼーリエはその場でペンを取り、小さな丸を描く。

 

「わかりやすく言うとコレが魂だ」

 

そしてその周りを囲うように円を描く。

 

「溢れ出るこれを魔力とする。魂が肉体に収められ生きている限り、魔力は湧いてくる」

 

さらに外側を四角で囲み、物質的肉体として描く。いい加減飲み込めてきた。

喉が乾燥し、なんとか言葉を絞り出す。

 

「つまりコレは、変身術で石に変えられた人間だと?」

「流石に全部ではない。知能や魔力の高い獣も含まれているが、半数が人であることは確かだ」

 

自分の掌に収まる神秘に輝く結晶が、先程まで感じなかった温もりと生暖かい鼓動を打つ臓器に見え喉奥が引き攣り、放り投げそうになる。

しかし、慎重に扱うべき物だと言い聞かせ、なんとか踏みとどまる。

一度大きく深呼吸をし、首を左右に振る。

 

「………ありえない。人間を石に変えても発動時の魔力が切れれば魔法は解ける。永遠に発動し続ける魔法は存在しません」

 

だから変身魔法は術者の魔力に左右される。

大人の魔法使いでも効力を持続させるのは3日が限界だ。

 

「お前が秘匿し続ける闇の魔術とやらなら可能じゃないか?」

 

ゼーリエの言葉に真っ先に思い浮かんだのはバジリスク。あの蛇の王と言われる魔法生物の眼力を間接的に浴びると石化呪文とは違い、本物の石になる。それはマンドレイクの回復薬以外では決して元に戻らない。

 

普通の魔法とは比べ物にならない力を宿し、未解明な部分の多く神秘に溢れる闇の魔術。その力に魅了され、一途の希望に縋る魔法使いは減らない。

 

私が知らないだけで可能性はある。

いや、確実に出来るだろう。

しかし、一つ疑問が残る。

 

「大規模な魔法を発動する場合、一人の魔法使いの魔力だけでは足りません。複数人の魔法使いが同時に術をかけ合い威力を上げることもあります。コレのように闇の魔術の中にはヒトそのものを贄にして発動させる魔法もあるでしょう。でも、それでも!時間を遡るなんて規格外の大規模な魔法をたったこれだけの魔力量で賄えるとは思えません」

 

逆転時計自体の大きさはとても小さい。収められている砂の量も小さじ一杯分もない。一つ一つが膨大な魔力量でも圧倒的数が足りない。

 

「確かにコレ一粒は人間一生分の魔力が込められています。でも、逆転時計は使用が厳しく取り締まれているとはいえ使用禁止ではありません。使えば使うだけエネルギーは消費される。なのに何故ダイヤが残っているんですか?」

 

人間を石に変え、魂の魔力を動力としているなら砂の量が減らないのはおかしい。

逆転時計の最大遡行時間は5時間。これを100とした場合、時間遡行に必要な魔力量は10となる。

逆転時計が何度も使用可能な理由とは?

使用者の魔力が削られていたらとっくに死人が出ているだろうし、何処から減った分を調達している?

 

私の疑問にゼーリエは顔色ひとつ変えず淡々と事実だけを述べる。

 

「だからこれは人を鉱石に変えただけだ。ダイヤモンドという劣化しない鉱石にすることで外側は朽ちることなく、しかし魂を宿しているから永遠に魔力を生み出し続ける。私がわかる範囲では彼らは鉱石の中で生きているのではない。生かされているのだ。こんな姿になった後も、物を考えることも感情を宿すこともなく、永遠に魔力だけを生み出し続けるエネルギーとして」

 

顔から血の気が引き今度こそ掌のソレを手放す。

 

言葉が出ない。なんて恐ろしい。

人の命をなんだと思っているんだろう。

人間の所業じゃない。こんなもの悪魔そのものじゃないか。

 

魂を物体に定着させる闇の魔術を私は知っている。もしこれがそれを応用した物ならコレを作るだけで少なくとも犠牲になった命は千人をくだらない。心臓に銀のナイフを当てられたときのような気味悪さと悪寒が背筋を駆け巡り、震える。

 

「よくこんな方法を思いつく。悍ましい所業だ」

 

ゼーリエの言葉に首を振るしかない。

こんなものは魔法じゃない。魔法だとは認めない。

 

「どうする?私はコレにもう興味はない。時間という魔法については想像以上の一応収穫があったからもういらん」

 

ゼーリエはそう言うと逆転時計には見向きもしなくなった。そうなると、急に机の逆転時計の残骸を憐れに思う。

 

「………私もいりません。幸い時間差の問題は解決しましたし、コレには頼りたくない。処分………いや、供養するべきですね」

 

壊れた逆転時計と散らばる魂たちを一粒残さずハンカチに包む。

横からゼーリエが覗き込む。

 

「供養?」

「私の前世の国では長く使った物には意志が宿り、魂を持つと言う考えがありました。付喪神と呼ばれ、愛用品は大切に、長く使い続けることに恩を感じ持ち主を守ってくれる。

そんな物がもう使えないくらい壊れると持ち主は人間や普通の生き物のように物の魂も天国に旅立ったと考え、弔いをします」

 

物は丁寧に扱う、生まれた時から擦り込まれていた当たり前の考え。

 

「私には閉じ込められている魂を解放することはできません。僧侶でもないし、お祓いの仕方も知らない。物は本来の役目通り使ってあげることが存在意義でしょう。でも、最後には休ませないと。彼らは今まで十分に働きました」

 

包んだ逆転時計を鍵付きの箱に丁寧に収める。

 

「土に帰すのか?」

「いいえ」

 

ゼーリエの問いに首を横に振る。

 

「この地に埋めるのは少し違うと思います。彼らは私が元の世界に戻った時にあの地に眠らせます」

 

怨念や霊が出てきても困る。

聖水も一緒に入れて保管しておこう。あと塩と日本旅行で買ったお守りも念のため。

 

故郷の地で眠らせることが供養になるか分からない。こんな姿にさせられた彼らの怒り、悲しみ、怨みは私の想像を超えているかもしれない。が、見ず知らずのこの地で骨を埋めるよりいいだろう。知らなかったとはいえ、これは私たち魔法族の問題だ。闇の魔術が施された品を壊せる道具はないわけでない。

向こうに帰れば、彼らの魂を解放できるかもしれない。

 

「ありがとうございました、ゼーリエ様。帰還の手がかりにはなりませんでしたが、得る物はありました」

 

改めてゼーリエに向かって頭を下げる。彼女がいなかったらここまでくることはなかった。やはり強力な協力者だった。

 

「あったのか?魔導具が呪物だと判明したくらいだ。知らない方が良かったのではないか?」

 

それに対してゼーリエは疑問の顔を浮かべる。確かにこれはただの魔導具から触れることも拒絶する呪物へと見方が変わった。知らない方が幸せだったことだろう。

 

「無知は罪ですから。知らなかった、それで済めば警察は入りません。知らずに後悔する事と知った上で手を尽くして後悔するなら私は後者を選びます。少なくとも今は、彼らを故郷の地で眠らせるという新たな目的が出来、私のモチベーションは上がったので」

 

箱には厳重に封印魔法をかけ、トランクの奥に仕舞う。

 

「フランメが背中を押してくれなければ、私は力尽きていた。何か一つでも違っていたら今、私はここにいない。だからどんな結果であれ、彼女が紡いでくれた糸が途切れない限り私は最良の未来を掴むために最善を尽くします」

 

もう下を向かない。

 

「それに、これで呪いと召喚魔法の研究に集中できますし」

 

成果はなかったが、するべき事を厳選できた。

そうだ、忘れるところだった。

 

「今回の報酬はこれで如何ですか?」

 

トランクの中から一冊の魔導書を呼び寄せ、ゼーリエに渡す。受け取ったゼーリエは興味深そうに本を開くが文字が読めず真顔になる。

 

「これはなんの魔法だ?」

「守護霊の呪文です」

 

円を書くように杖を振る。

 

「エクスペクト・パトローナム」

 

ブワッと杖先から白い霞が吹き出し、それは白鳥の姿に形を変えて私達の周りを羽ばたく。

 

「守護霊の呪文は大抵の闇の魔法生物への抑止力になります。人の幸福の感情そのもの、プラスエネルギーで構成されているので闇の魔法生物は嫌がるからです」

 

クルクルと私達の周りを旋回する守護霊。

心なしかこの空間の温度も上がった気がする。

 

「温かいな」

「私は闇の魔術を教えるつもりはありません。でも、対抗策は教えることができます。コレは万能ではありませんが、大抵の悪いものからは守ってくれます。魔法を使うコツはさっき言った呪文を唱えながら一番幸せだった記憶を強く思い出すこと。満たされた幸福の感情がそのまま実体を得ます。私が知る一番難易度の高い魔法です」

 

ゼーリエが杖を持ったところは見たことがない。というか、杖の材質も違うこの世界の杖て果たしてこの呪文が成功するか分からない。でも、大丈夫だろう。フランメに教えた他の呪文は成功したんだし。

 

「使いこなせれば、メッセージを吹き込んで飛ばす事もできます」

 

ついでた。フリーレンへ苦言を吹き込んで送らせよう。目の前に降り立った白鳥に向かってメッセージを込め、窓を開ける。

窓から外に放った守護霊はあっという間に見えなくなった。

守護霊が消えた方向を眺めていると隣にゼーリエが並ぶ。

 

「勿体ないな。せっかく、お前には私たちと同じ無限に等しい時間があるにも関わらずお前はこの地にいる間全てを帰還のために捧げるのか?」

「へ?」

 

残念そうに(*´ω`*)ショボーンの顔で俯くゼーリエ。

その顔、フリーレンも玉ねぎ見るとよくする……って、いやいや!そうじゃなくて。

 

「魔法の高みに辿り着きたいと思わないのか?」

「………まさかと思いますけど、ゼーリエ様は私を勧誘しているんですか?」

 

その可能性は微塵も考えた事なかった。

 

ゼーリエは多くの弟子を育てている。彼らの多くは魔法使いになりたくてエルフの大魔法使いの噂を頼りに弟子入りしてくる。ゼーリエのお目がねに叶えば、弟子入りを許され、その反対でゼーリエの方から誘いを受けることもある。そんな例はごく僅かだが、ゼーリエの人を見る目、いや、直感は確かだ。

 

その証拠にスカウトした弟子たちは他の魔法使いとは違い、その他大勢とは異なる才能を開花させた。それはゼーリエが“ご褒美”と言う形で、弟子たちに望む魔法を授けたお陰で更に人間離れした魔法使いを生んだ。

 

「私は貴方が望むような魔法使いではありませんよ」

 

確かに私は強い魔法使いだ。

自画自賛だろうが事実だ。

吸血鬼としての種族性を生かし、100年以上研鑽を積んだ実績。ゼーリエが言ったような認識の差。それが私を人より強い魔法使いにさせる要因だが、私は彼女が望むような特別な才能はない。私がここまで強くなれたのは全て持たざる者なりの努力の結果。

 

私は昔から才能なんて一つも持っていなかった。

 

私の言葉にゼーリエは頷く。

 

「確かにお前には目を見張る特性はない。だが、時間だけは無限にある。才はなくとも、時間をかければ私ほどの高みにたどり着けるかもしれない。センスは悪くないからな。それに魔法に対する姿勢も共感できるところがある」

「魔法はただの手段。道具という考え方がですか?」

「そうだ。実に戦い特化した優秀な魔法使いの考えだ。魔法とは使う人間を選ぶ物であり、高みにたどり着ける者はそう多くない。それ故に扱えること自体が誇り高い。それなのにフランメはそれを否定したからな」

 

フランメの名前を出したゼーリエは口ではなんとでも言いつつも表情を少し曇らせた。

 

「あの子はなんて言ったんですか?」

「“魔法”とは人を幸せにするきっかけだ、と言った。戦う武器でも、守る盾でもなく、人生を幸せにするほんの少しのスパイスだ……と、訳がわからん」

 

その時のことを思い出し、理解不能と顔を歪めるゼーリエが少しおかしく笑ってしまう。

 

「何がおかしい?」

 

不愉快そうに顔を曲げるゼーリエ。その顔はフランメの不機嫌顔にそっくりだ。

 

「いえ、フランメらしいなっと。可愛らしいじゃないですか。マセた女の子みたいな名台詞だ」

「実際、これはあいつが私より背の低い女の子だった時に言った言葉だ。そして、私より背の高い老婆になっても言い続けていた」

 

師の考えを弟子に共感してもらえなかったことは彼女にとっては相当心残りだったのかもしれない。普段私にこんな胸の内を曝け出したりしないのに、ゼーリエの顔には寂しさが滲み出ている。

でも、それなら………。

 

「それなら、少なくともフランメにとっては魔法とは人生を彩るスパイスだったことは事実なんじゃないですか?」

 

魔法を抑制すると思い出を汚している気分になる。

本当は好きなのに、嬉しくて、幸せなのに、その気持ちを表に出せず、自らの手で歪めている。

 

出会って間もない頃、魔力制御の練習中にフランメが私に打ち明けた本音だ。コレに関しては未だに共感出来ないが。

 

「フランメは確かに魔法が大好きでした。私と違って。だから、そんな魔法が引き合わせてくれた貴方やフリーレンの存在を最後まで大切に思っていた。魔法がなければ貴方の弟子にならず、フリーレンに未来を託すこともない。そう考えると魔法とは私たちの人生に欠けてはならない重要な要素なのかもしれないなーと、思いまして」

 

もし、私が魔法族に生まれていなければ。

きっと魔法界は原作通りにことは運んだだろうけど、私は前の人生を引きずってつまらない人生を歩んでいた。もしかしたら人としての道を踏み外していたかも。

 

「………ふん」

 

少し上擦った声色で鼻を鳴らしてそっぽを向くゼーリエ。

多分、嬉しいんだ。素直じゃないなぁ。

 

「それで私の誘いにのるのか?のらないのか?」

「あ、お断りします」

 

ほぼ反射的にお断りを入れるとゼーリエの顔がまた萎んだ。

 

「何故だ?」

「何故って……」

 

フランメが私にやる修行は命懸けの内容だった。それなのにフリーレンにはそこまでハードな内容を課さなかったのは身体の強度の問題があった。私は負傷してもすぐ再生するから。

フランメを育てたのはゼーリエ。

 

つまりフランメの教え方はゼーリエから習ったもの。親が親なら子も子。それはこの数十年、彼女の弟子たちと此処で暮らしで実感した。

それは修行の内容に限らず、フランメが生活能力が皆無だった理由。それは師であるゼーリエが日常生活で必要なこと全てを魔法で済ませていたからだ。

 

いや、別に魔法を使うことが悪いとは思わない。魔法族だって魔法で家事をこなすし。

 

ただ、『皿をきれいに洗う魔法』

『服の汚れをきれいに落とす魔法』

『庭の草を刈る魔法』

 

この辺はまだいい。

日常生活であれば便利だから。

だが、ゼーリエの場合はレベルが違う。

 

『人参を乱切りにする魔法』

『鍋が沸騰したら火を消す魔法』

『火力を3段階に調節する魔法』

『鍋の中身を20周して混ぜる魔法』

『服のボタンをちゃんと留める魔法』

『風呂に入るときに脱いだ服を畳む魔法』

『シャンプーを詰め直す魔法』

『背中の届かないところを掻く魔法』

『一週間前の晩ごはんを思い出す魔法』

『本のページを捲る魔法』

『蝋燭を吹き消す魔法』etc

 

それくらい手を使えと思うことすら魔法でやるのだ。想像以上の怠惰っぷりに暫く口が塞がらなかった。

 

納得だ。

 

本人が自力でやれないことを弟子のフランメが教わっているはずない。

 

そして、私が危惧していることは“ご褒美”でゼーリエが自分の魔法技術を弟子に譲渡していることだ。譲渡すると魔法は一から習得し直さなければならない。つまり習得し直すまでゼーリエは自力で生活できなくなる。

 

私はまた死にかけたくないし、終わりのない介護するのも御免だ。

彼女のことは尊敬しているが、それとこれは話が別。大きな子供の世話は二度とやりたくない。

 

「私が師事したのはフランメだからです」

 

なーんて事を素直に言ったら吹っ飛ばされかねないのでもちろん言わないが。

 

「全く、何故あいつに関わった奴は悉く私の言葉を聞かないんだ」

 

呆れと疲れを滲ませた態度に私の他にもう一人の存在を思い出す。

 

「フリーレンのことですか?」

「他に誰がいる。あいつは特に気に食わん」

 

そういえば30年前。

少し私が席を外し二人きりなった時、たかが5分で一触即発の雰囲気なった。結局何があったんだろう?

 

「たった2回しか会ったことないでしょう?あの時なにがあったんですか?」

 

あの時のことをフリーレンにも聞いてみたが彼女の説明ではイマイチ話が見えない。ゼーリエのくだらない話に相槌打ったらブチギレられた……と言っていたが。椅子に腰掛け、膝を曲げて背を丸めるゼーリエはまるで拗ねた子どもだ。

 

「……フリーレンが悪い」

 

そういうとゼーリエはポツポツと当時のことを話した。

 

 

『ゼーリエはなんでそんなに弟子をとるの?』

『いきなり何だ』

 

大魔法使いフランメの死から30年前。

帝都に住むゼーリエとエミリアの所にフランメとフリーレンが立ち寄り、積もり積もる話をしていた。フランメとエミリアが所用で席を立ち、残されたフリーレンはゼーリエに唐突に問いかける。

 

『フランメを弟子にしたのは分かる。あの人の才能はとんでもないし。でも、さっきの給仕の子は魔力も低いし探知が鋭いわけでもない。実力に見合ってない。鍛錬を積んでも並程度の魔法使いにしかならない』

 

ゼーリエはフリーレンからの酷評に眉毛をピクっと動かす。

 

『何が言いたい?』

『どうして、時間が無駄になることするの?人間なんてすぐ死ぬ。フランメみたいな偉業を残しそうな人間からなら得られるものもあるけど、ない人間を育てるなんて非効率的で見返りもないのに』

 

先程、給仕をしたゼーリエの弟子はフリーレンの目から見ると未熟な子供もいいところ。しかし、自分の修練の邪魔になりそうな人間を態々育てる賢者。

フリーレンは何故そんな子供を弟子にするのか好奇心からゼーリエに質問したのだ。

 

一方、ゼーリエは暫し思考を回す。

フリーレンの物言いに悪意はない。

それをゼーリエは分かっている。この同族は幼いうちに集落を失い、集団で生活する上で必要な空気を読む、相手の気持ちを察する、オブラートな物言い等を身に付けられなかった。それらは周りの大人の態度を見て学習していく事だが、生憎フリーレンの面倒を見ているのは人間。人が早ければ1年足らずで身につけられる自然なことをエルフは数年、数十年、下手をすると数百年かけなければならない。

 

『馬鹿にするな、あいつは歴史に名を残せる魔法使いになる。フリーレン、私が弟子を取ることに見返りは求めていない』

 

しかし、ゼーリエは寛大だ。

フリーレンと同じエルフなのでその辺の事情を汲み、フリーレンの悪意なき言葉を聞き流した。

 

『強いて言えば、求めているのは魔法の発展だ。技術とは違う人間がそれぞれの見方を共有することでさらに枝分かれに発展していく。私一人では見える範囲が限られる。優秀な魔法使いがそれぞれの得意とする魔法を改良、派生させていくからこそ、魔法の高みとは常に終わりがなく、手が届かない』

 

ゼーリエはかつて育てた弟子の顔を一人一人鮮明に思い出した。印象が一番強いのは後にも先にもフランメだが、全員それぞれがゼーリエを慕ってくれた。最後は皆、ゼーリエが長い人生で孤独にならぬよう何かしらの形でゼーリエの記憶に留まろうと足掻いた。

 

ある者は子孫をたくさん増やし、今でも誇り高い魔法使いの一族を築き、ある者は世界に一つしかない魔導具を製作し、またある者はエルフのゼーリエを生涯口説き続けた。

 

『弟子たちが編み出した魔法は100年後の新たな魔法を生み出す。昔育てたある弟子の言葉だ。私が生涯一人でも、自分達が側にいた証だ、いつも師匠を側で見守っていると言い残して逝った。実にくだらんだろう?』

 

口ではなんとでも言うが本心では嬉しかったことをゼーリエは態度に滲み出していた。

 

現在、ゼーリエが魔法の研究にマンネリを感じていないのは人間が新たな魔法を生み出すスピードが早いから。フランメが発見した数多くの理論は聞き及んでいるので、これから先も魔法の探究が行き詰まることはない。そして、そんな満足感に満たされていると、ありえないと分かっていても見守られている穏やかな気分になる。

 

それを教えるためにここまで分かりやすく本心を見せて説明したのに、このチビエルフはそんなゼーリエのツンデレ自慢を理解できなかった。

 

『ゼーリエ、それは気のせいだよ。ゼーリエのその弟子はもう死んでるんでしょ。生き物は死んだら無に帰るんだから。死んでも側で見守るってアンデットになるつもりだったのかな?その弟子頭大丈夫?』

 

フリーレン()の如く差し込まれた一撃にゼーリエはブチギレた。

 

 

「あー、それはフリーレンが悪いですね」

 

聞かされたフリーレンのやらかしに頭を抱える。確かに本人の言い分は間違っていないが、状況が悪すぎる。

 

「だろ?エルフは感情が希薄だが、あいつは特に酷い。人の心というものが欠落している。あれでは人並みの情緒を持つのに千年はかかる」

 

長っ!

 

「それなら嫌がっても連れてくるべきでしたね」

「フリーレンをか?」

「はい。一人にしておくのは不安だったので」

 

あ、でもゼーリエの方もフリーレンを嫌っているなら一緒に生活することを許してくれないだろうな。

亡くなった人の思い出を語って「でもその人死んでるじゃん」は確かに不味い。そんなこと言われたら相手を嫌いになるのも分かる。

 

今度会ったらお説教だな。

 

「…………(フランメ亡き今、同族の後輩であり、孫弟子のフリーレンは一人で修行の旅……態度は兎も角、その強さは期待できる。孫弟子の成長を見守る、若しくは私自ら直接指導すれば……ふむ、悪くないかもしれん)」

 

実際、私はゼーリエの住居を拠点にしているが滞在期間は一週間から一ヶ月ほどでそれ以外は各地を回っているが、人間基準だとそこまで頻繁ではないけどエルフ基準ではどうだろうか。

 

あ、ほら今もすごく考え込んでる。

 

「(それに時間さえかければ、あいつも私に懐くかもしれない。何せ此処には魔法使いにとって宝の山しかない。野心がないのが残念だが、好奇心は高いからな)」

 

眉間にめちゃくちゃ皺が寄ってる。

そんなに嫌なのか。エルフの性格も十人十色だなぁ。

 

頭を振って考えを打ち消す。

 

うん。やめといて正解だったかもしれない。

たとえ血縁でも相性の問題で仲が悪くなることはある。

数少ない同胞とは言え、ゼーリエはフリーレンと相性がよろしくないみたいだし一定距離を保っておいた方がお互いのためだ。

間違っても意見のすれ違いで本気の喧嘩とかされたら被害が尋常じゃないし。

 

「ま、まぁ!あいつがどうしてもと言うなら考えてやらんことも……」

「安心してください。私も学生時代、性格の合わない相手はいました。孫弟子だからってゼーリエ様が無理して気を使う必要はありません。フリーレンには自由にしろと言っておきましたから。暫くは顔を合わせる必要はありませんよ。会いにも来ないと思います」

 

「……」

 

え、何でそんな顔するの?

無言は逆に怖いんだけど。私、何か不味いこと言いました?

え、ゼーリエ泣いてるの?

 

なんでぇ!?





エミリア
考えすぎると行動が空回りする。祟りとか割と信じるタチ。

フリーレン
ゼーリエが何故怒ったのか分からない。白鳥の幽霊みたいなのが突然現れ、驚いて魔法をぶっ放したのでメッセージは聞かなかった。

ゼーリエ
愛弟子の弟子を本当は可愛がりたいけど、可愛げがないから嫌い。

“ご褒美”
フリーレンにも望む魔法を聞いていたし、自分の期待に応えた他の弟子にもこの時代から魔法を譲渡してたと思う。

逆転時計
いつ、何処の誰が作ったか一切不明。
美しい砂時計の見た目に反して人の肉体、魂全てを動力として起動する魔導具。

作者自身も存在を否定的なのでその秘密はより重く、見た目とは想像もつかない悪魔的な成り立ちを盛り込みたくて考えました。

いつも、お気に入り登録と評価ありがとうございます。
気になる箇所、誤字脱字の報告ありがたいです。
感想頂けたらモチベーション上がります(土下座


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