いつ再開するか分からず、原作重視の私にとってはストーリー構成に関わる重要な帝国編。
執筆が進まないから早く再開してくれ。
私は花が好きだ。
あの小さな蕾から大輪を開かせる愛らしい姿。
宝石や装飾品にはない、命そのものが輝く美しさがある。
だから、両親が私を喜ばすために贈ってくれた魔法は私の世界をもっと華やかにしてくれた。
一瞬にして咲き誇る花畑。
世界が鮮やかなキラキラした光で満たされた光景は今でも網膜に熱く焼き付いている。
自分でも花を出してみたくて両親の使った魔法を必死に覚えた。
好きな花が季節を問わず咲かせられる。
嬉しかった。
自分だけのお気に入りの花壇を作ったりして、村で自慢したりすれば私の花を誰もが褒めてくれた。
もっと沢山、もっと綺麗に。
自分の魔法を改良させていくうちに、魔法そのものに惹かれていった。
私の大好きな物に魔法が増えた瞬間だった。
私にとって【魔法】とは綺麗で、幸せになれる物を生み出せる奇跡の力だ。
「ふらんめおねえちゃん!スゴイね。わたしもおはなのまほーつかえるかな?」
「きっと使えるぞ。こんど教えてあげるからな!」
村の年下の子供にそう約束した。
尊敬の眼差しを向けてくれる彼女たちにも私と同じ気持ちを抱いてほしかった。
でも、その約束が果たされることはなかった。
ある夜、頭に角をはやした人型の魔物が村を襲い、村は蹂躙された。
兵士たちは紙切れのように切り捨てられ、女子供は喰われた。私は両親を探し必死に逃げ惑った。
多少魔法の心得があったから負傷しながらも私は自分の身を守ることが出来た。
逃げながら私は泣いた。
なぜ?どうして?
魔物は魔法を使っていた。
私の大好きな魔法で。
私の大切な人たちを殺している。
そこに咲く紅い花は決して綺麗じゃない。
私はその時、魔法とは優しく、美しいだけのものではないことを思い知った。
魔物たちは何故か私を殺すことを後回しにした。
それは私が魔法使いだと見抜いた後に魔族と名付けた魔物が正々堂々正面から叩き潰そうとしたという下らない矜持だということを後に知った。実に滑稽な話だ。そのせいで彼奴等は私を殺せなかった。あの時、偶然通りかかった師匠に助けられなければ私の人生は終わっていただろう。
そして、私を殺せなかったことが後の魔族にとっての大きな障害となる。
実にいい気味だ。
精々、私の作った結界に大いに苦しみ、嫉妬しろお前たちでは千年かかっても破れまい。
私は魔族のせいで全てを失った。
しかし今思えば、村が襲われたのは私のせいかもしれない。当時の私は魔法の鍛錬をすれば、するほど魔力量が増えていた。
基本魔力は修練を積んだ期間に比例して増えていくものだが、私は生まれつき一定量の魔力を保有していた。自分でも言うが才能と素質に恵まれていた。そんな素質ある私が鍛錬を数年重ねた結果、10歳になる前には私の魔力量は成人の魔法使いに届くほどになった。
若く、健康で制御されていない膨大な魔力を持つ獲物が目の前を彷徨いていたら猛獣が取るべき行動は一つ。
成長する前に叩く。
実力主義の世界とはそういうものだ。
あの時、私が魔力を制限できていたら…………そう思わない日はない。しかし、当時の私は自分の魔力量に誇りを持っていた。誰もが私を褒め称え、一度見れば簡単に習得できる才能にも。
だから常に誇示するように魔力を垂れ流していた。
あぁ、今の魔族と同じだ。
自分の腕にクソみたいな驕りと油断をしていた。
私より強いやつなんているのは当然なのにな。
そんな私の愚かさがみんなを殺した。
私が魔法を学ばなければ目をつけられることもなかった。私が………私のせいで。
「そんな訳あるか」
私が女神様に向かってする懺悔を屑篭に丸めて捨てた師匠は私に杖を持たせた。
「いいか、フランメ。お前が生き残ったのは魔法使いであるお前を彼奴等が警戒したからだ。鍛錬を積んでいなければ他の村人と一緒に価値なしと判断されて切り捨てられただろう。そもそもお前が少し強かろうが、弱かろうが村は滅びた。一つ正しいことがあるとすれば魔法が好き、その想いに嘘をつかず従ったからお前は生き残ったんだ」
「後ろを振り向くな、前を見ろ。憎いなら敵はお前が撃て。間違っても、お前のこれまでの努力を卑下することは私が許さん」
師匠の言葉は厳しくもあり、薄情でもあり、慈愛に満ちていた。
だから私は学ぶことをやめなかった。
魔族は嫌いだし、憎かった。
魔族を一匹残らず駆逐してやりたいとも思った。
しかし、こうも思った。
魔法が好きな人が増えればそれだけ多くの人が生き残れる。世界中の人々が魔法を自由に使えれば魔族に怯えて暮らすこともないのでは?、と。
師匠にそんな世界になる夢を語った際にはあの人は何も言わなかったが鼻で笑っていた、と思う。
私することを何でも褒める師匠に初めて馬鹿にされたと感じ、幼心に傷つき同時にそれが悔しかったから絶対実現させてやろうと誓った。
師匠は私にあらゆることを教えてくれた。
魔物との戦い方、野宿の仕方から読み書き計算など教養も教えてくれた。私に才能があったからか師匠も教え甲斐があったのだろう。私も師匠から教わる時間が楽しかった。飯は不味かったが。
師匠に弟子入りして3年が経った頃、師匠が魔力を常に制限していることに気がついた。
何故、師匠がそんなことをしているのか疑問に思ったがあの人は理由を教えてくれることはなかった。
魔族を欺くためだと気付いたのは街で傭兵紛いな稼ぎを始めてからだ。
実践によって経験を積むことが目的で、他の傭兵と協力し、連携の仕方を学べた。師匠とは違い、共に戦う仲間が出来たことは当時の私には新鮮でその後の大きな糧となった。
魔族との戦いの中で私は、奴等が私の存在が有るか無いかで態度を変えることに気がついた。
私がいれば奴等は明らかに警戒し、いないと仲間を奇襲で瞬殺する。
あの時と同じように私の魔力を感知していると察し、私は自分の魔力を誇示するように大きく見せた。そうすれば獣の本能で奴らは私に敵わないことを理解し、手を出さなくなる。
だが、その方法は間違いだった。
私の存在が近くから消えると奴等は再び暴れ回る。
そして、私が駆除するために探せば奴等はそれを察して巧みな魔力操作で魔力を隠匿し、決して姿を表さない。
私はそれから自分の魔力を極力隠すようになった。
魔法使いだと知らしめなければ奇襲される危険性もあったので完全には消さず、自分の魔力量を偽りはじめた。だが、魔力を常に制限する特有の揺らぎが発生し、魔力に敏感な魔物や魔族にはすぐに気づかれてしまう。
魔力を制限して欺いて殺す。
そんな非効率な方法を取るより、普通に鍛錬を積んで総魔力量がだれであっても敵わないくらい強くなればいい話だと師匠にはよく言われた。
自分はやってるくせにな。
同族の魔法使いにも自分の研鑽を否定するような最低な行為だと罵られたこともあった。
矜持を守って死んでも意味がないだろ。
当時の私は度々仲間を失ったことで魔族への憎悪が膨らみ、如何に奴等を苦しませて殺すか。
そればかり考えていた。
魔力制限も自分より雑魚だと判断した魔族がプライドをへし折られ絶望し、歪んだ顔を見るためだけに続けた。
「なんて卑怯な……!」
粒子になって消えゆく死体を見下ろす。
知っている。だが、お前たちは意味のない鳴き声で誘う分もっと卑怯だ。
「魔法使いとしての誇りがないの?魔力を偽るなんて………貴方のことは買っていたのに」
ある時はお貴族様のお抱えの魔術師をしていたが、私が魔力を制限して決闘したら不正だと言われ解雇された。
日々の戦い続ける生活に次第に心は荒れ、解放されたいと思いつつも死んでいった彼らの意志を受けている身としての責任感と板挟みになり、死に場所を求めるようにより過酷な大陸の北へと進んでいった。
そこでだよ。
私は魂の眠る地を発見した。
先に逝った戦友たち、両親や村人と再会したお蔭で私は自分の壊れかけた心を修復し、再び立ち上がることができた。
そして、私は気がついた。
自分が本当にしたいことは私一人の力で魔族を駆逐することではなく、強い魔法使いになりたいわけでもない。
昔両親と見たような、花畑。
戦闘には役に立たないくだらない魔法を人類の誰もが楽しめる、誰もが魔法を使える世界になること。
そうなれば人類全体の戦闘力も上がり、数に圧倒的な人類が
魔力制限も鍛錬もそのための過程、手段に過ぎない。誰に文句を言われても、師匠にだって未来では私が正しかったと思わせてやる。
そう決心した。
パチパチパチパチ
「実に素晴らしいですね。その後彼女と出会ったのですか?」
目の前で機嫌良さそうに拍手する女。
「あぁ」
私はただ白い空間にポツンと置かれた椅子に座っていた。自分の目の前には小さなテーブル。それを挟んだ向かい側には白いベールを被り顔の見えない女が座っている。
視線を下に下ろすと昔見た貴族が使っていたような茶器と砂糖がふんだんに使われた菓子が並べられている。
まるでお茶会のようなセットから女は菓子を一つ摘むとベールを少し捲って頬張る。
女の顔はほぼ分からない。声や肌年齢からして随分若そうだが、ゾッとするほどよく透き通る。
着ている服装も髪も白く、背景と溶け込みそうで認識しづらい。
私は女に対する恐怖を誤魔化すようにカップを持ち上げ中の液体を飲み干す。
「一つ分からないのですが、貴方にとって彼女はそこまで特別なのですか?友人というだけで吸血鬼の永遠そのものの時間を気にするくらい?」
女は頬に手を当て優雅に首をかしげる。
「だって、全然釣り合いませんよ。歴史に名を残すお膳立てに衣食住の保障、最後の魔法の置き土産はただの魔法技術交換だけでは対価として私は釣り合わないと思います」
「釣り合ってるさ」
女は不満そうな口ぶりだが私はそれを否定する。
そう、魔法技術交換だけじゃない。
あいつから貰ったものは。
"フランメ!もっと腰落として!90度姿勢をキープ!"
私は平民生まれだから教養がなかった。師匠から最低限の礼儀は学べたが上級貴族たち相手、皇帝相手に通ずるものではない。宮廷魔法使いになるまで、魔法研究の解禁を実現するまで、色々な貴族と交流する場、コネづくりの仕方、作法や社交術の手ほどきを受けたのは全てエミリアからだ。
本人は大したことをしてないと言い張るだろう。
実際、あいつの出自からすればそれらを当たり前に学べる環境だったのだろう。羨ましい限りだ。
だが、あいつがいなければ私はそこにたどり着くまでにどれだけ時間を消費したか分からない。
"フランメ、貴族相手なら交渉相手の情報だけを集めても意味はないよ。貴族は縦の繋がりより横の繋がりを気にするから"
"立場が上になっても爵位とかないなら『殿』呼びは避けたほうが良いと思う。『閣下』と呼んだほうが良い。自分の立場を奪いかねない平民上がりからの嫌味に聞こえる"
"マウント取られたぁ?だったらいい方法教えてあげる。そういう相手にはね、大観衆の前でさらに褒め殺しにすればいいんだよ。より誇張し、拡大解釈をつけました大袈裟な褒め言葉を浴びせれば否定したくても出来なくて逃げ出すから"
目を閉じれば昨日のことのようにあいつの声が聞こえてくる。本当に色々なことを教わった。
「あいつと出会えたことは幸運だった。女神様の導きのお陰かもな」
「神様………ね。案外本当にいるかもしれませんが、運命は貴方が生まれたときから決定づけられているものですよ」
女は意味深そうに顔を下に向ける。
つられて視線を向けるとそこには干乾びた赤子のミイラが時折苦しげな声を上げている。
ファンシーなお茶会に似ても似つかない
ミイラは私に助けを求めるように這って近づこうとするが女はミイラを足で踏みつけ、決して私には近づけさせない。
「だめですよ。彼女には次に行くべきところがあるんですから。私や貴方と違って暇ではないのです」
「なぁ、ソレは一体何なんだ?此処は一体……」
実は今の状況もよく分かっていない。
気がついたらこの空間にいて見るからに怪しい女にお茶に誘われ、昔話を洗いざらい吐かされた。
「そうですね。もうすぐ貴方とはお別れですし、少しくらいなら教えてあげましょうか」
女が立ち上がるとテーブルと椅子は自動的に消える。女はミイラに一瞥することもなく歩き出し、私はそれを追いかける。
「はじめに貴方は何処まで覚えていますか?」
「何処まで?」
「此処に来る前、貴方は何をしていましたか?」
この奇妙な体験をする前私は………………。
そう、食事をしていた弟子のフリーレンとエミリアの料理を。相変わらずとても美味で贅沢な味で。
「エミリアとフリーレンと食事をしていた。久しぶりにあいつの料理を……ん?『久しぶり』?」
女は振り向き私を黙って指差す。
すると自分の手が段々と皺がよりはじめ体の節々が痛みはじめる。
そして最後の記憶は自宅の寝具の上で眠りについた。
「貴方はとっくに気がついているものと思いましたよ」
「そうか、私はもう……」
自分の状況をようやく概ね察した。
肩を竦め、諦めの気持ちが湧き上がる。
「此処は死後の世界か?昔見たものと随分違うな」
白い世界だけが無限に続く此処には私たち以外誰も何も無い。
私の質問に女はゆっくりと首を横に振る。
「違いますよ。此処は中間地点です」
女がパチンと指を鳴らすと一瞬で景色が変わる。赤い石が積み上げられ作られた神殿のような建物。真ん中には鉱山などのトロッコの下に引かれるレールと怪物のような黒い外壁と煙を出し続ける大型トロッコ。
大きい………貴族の屋敷並みに横に大きい。
「これに乗って行けば終点まで連れて行ってくれます。そこがあなたの言う天国ですよ」
女に促され私はその列車と呼ばれる乗り物に乗せられる。
中は通路に面して座席のついた個室がいくつもあり広い。
窓を開け、顔を出し女に声を掛ける。
「お前も乗らないのか?」
「私と彼は乗れません。貴方だけ行ってください」
彼と呼ばれた先程のミイラは女の言葉に反して列車に乗ろうと近づくが、女はまたしてもミイラを踏み抜く。
「押さえておくので早く行ってください。こいつ気持ち悪いでしょう」
「あ、あぁ」
正直、そいつと同じ空間にいることは勘弁願いたい。その想いを汲み取ったように列車は笛の音を吹いたと思うと大きな振動とともに動き出した。
窓から顔を出しどんどん離れゆく女に向かって一つ聞き忘れたことを問いかけた。
「お前の名前を聞き忘れた!私はフランメだ!」
すでに風の音が強く、ちゃんと聞こえなかったのか女はただ黙って手を小さく振っている。
その時より大きな突風が吹き荒れ、女の顔のベールが舞い上がった。
その顔は私の心臓を再び止めるには十分な衝撃だった。
透き通るような白い肌と薄紅の唇。
左右色の違う真紅と黄金の瞳。
そして微小を浮かべる口元から覗く鋭い牙。
記憶の中の人物と寸分違わぬ容姿。
しかし、それは一瞬のことで瞬きの間に女の顔は見えなくなった。
「見られちゃった。でも、彼女は死人。もう会うことはないでしょう」
「ヴォ……………ぅ゙ぅぅ〜、ぁ゙ぁ゙」
「どうしました、ヴォルくん?もう、貴方はあの列車に乗れませんよ。さぁ、行きましょう」