彼女を追い詰める魔法使いは突如攻撃の手を止め、話しかけてきた。
果たして彼女の目的は………?
私がまだ五つか六つの頃、引きこもっていた家から珍しく外出したことがあった。
あれは……そう、イギリスの夏があまりに暑すぎて避暑地に行きたいと思ったからだ。あの頃は生活に慣れてきて少し心に余裕があったから、どうせなら前世行ったことない地に足を伸ばすのも悪くないと考えた。
某名作のアルプスの山の貸別荘を予約して、従者を連れて小旅行を楽しむつもりだった。
思えば、あれが運命の分岐点だった。
◇ ◆ ◇
「はじめまして、話し合いをしようか?」
「………」
警戒する。
警戒するなって言う方が無理だ。
この女の目的がよくわからない。
最初は不意打ちで攻撃してきて、私の魔法を尽く、無効化し、挙げ句の果てに結界内に閉じ込めやがった。
かと思えば英語を喋り出して私と話し合いをしよう?
「言語が通じないようだったからな。即興で作った魔法だが、今はこれで十分だろう?」
「魔法を、作った?」
正気か?こいつ。
そんな短時間で新しい魔法が作れるものか。
頭おかしいんじゃないの?
女は座り込む私に目線を合わせる。
「自己紹介をしよう。私はフランメだ」
「………」
私の本能がこいつを警戒しろと警告をする。
私と違って脅威的な能力は確認できない。魔力も脆弱、首を掴めばポキッと折れそうなのに。
いや、油断したらダメだ。
こいつはたった数言の会話から私の言語を翻訳する魔法を作り上げた。ダンブルドアだってそんなことできない。
とんでもないバケモノだ。
女は返事をしない私に呆れたような溜息を吐く。
「おいおい。通じてるだろ?返事をしろ」
「………不意打ちは許してない」
「お前が先に私を無視したからだ」
「生憎、理解できない言葉は雑音として捉えていたから」
「お前も私に攻撃してきただろう」
「攻撃はしてない。記憶を消そうとしただけだ」
「………それのどこが攻撃じゃないんだ?」
攻撃じゃないだろ。魔法を見られたら記憶を消すのは当然の処置だ。
別に記憶をいじくり回すわけじゃないし、精神に害はない……多分。
「まぁいい。で、お前の名前は?」
「………エミリア」
「では、エミリア。単刀直入に聞こう。お前は何者だ?」
「見てわからない?人間だ」
「分からんな。少なくともお前はただの人間ではない」
キンッ!
『
私の首元に冷たい感触が襲う。
ちらりと視線を落とすと氷の棘が私を囲み急所を刺している。
杖を握る手を数ミリ動かすだけで首元の棘が少しずつ皮膚に食い込む。
妙な真似をすればすぐ殺す、そういうことか。
「私は全て見ていた。異常な魔力の乱れ、そしてその中からお前が現れたこと。何よりお前からは死臭がする。………だいぶ薄まっているがな。一体何人殺した?」
「………」
「お前が人間たちを見る目は魔族のソレと同じだ。人間をエサとして見る目だ。だが、不思議なことにお前は魔族とは違う気配がする」
「………」
「私がお前を追い詰めるだけ、お前は焦りの感情をモロ顔に出す。それだけの魔力量を保持しておきながら魔力操作の腕はイマイチ。魔族らしからぬ姿に仕草は実に人間臭い」
フランメと名乗った女は動けない私に顔を近づける。
「もう一度問おう。お前は何者だ?」
………誤魔化せないか。
この数十年で吸血鬼としての気配とかを消して、人間ではない存在と悟られないようになってきたが、このフランメという女は稀に見る天才肌なのかもしれない。
ひょっとしたらダンブルドアよりも。
小手先の誤魔化しは効かないな。
向こうが警戒する間は離して貰えそうにない。そして、私には離脱の選択肢もない。
「………分かった。話すよ」
私は降参の意を込め、杖を手放す。
魔法使いにとって杖を手放すことは敗北を意味する。手放したら最後、自分の半身をあっさり折られるかもしれない。
なら最後まで抵抗するのが筋だろうが、どのみちこいつに勝てるイメージが湧かない。
まぁ、いいさ。私だって引き寄せ呪文なら無言杖なしで使える。
折るような仕草を見せたら取り返せる。多少痛めつけられても自己再生の範囲だ。
こちらに攻撃の意思はない事を察してフランメは首元の拘束を緩めるだけで終わり、私が手放した杖には見向きもしない。
それにそっと安堵の息を吐くと正面に顔を上げる。
私とフランメの視線がかち合う。
腹括ろう。
「私はエミリア・パヴィエル。魔法族生まれの吸血鬼だ」
◇ ◆ ◇
とりあえず私は全てを正直に話した。
「……なるほど、吸血鬼ってのは血を吸う種族なのか。人間を食ったりは?」
「するわけないだろ。さして美味しいわけでもない」
吸血鬼化しているが人間から生まれてきたことや異世界から来た事など、一通り身の上話をした後、私はフランメの質問に答えていた。
彼女は異世界から来たという話を完全に信じているわけではなさそうだが、この世界の言語が通じないことや、吸血鬼という種族がこちらには存在しないこと、何より私の魔力が人とも魔族とも微妙に違うことで納得している。
それでも拘束を完全に解いてくれないあたりまだ信用されてない。
「ほう、感想が出てくるということは食べたんだな?」
しまった言葉選びミスった。
「…………………昔、たった一回だけね。それ以降は食べてない。人は……私の世界では戦争があったから」
「ふーん」
「血を定期的に飲み続けていれば、飢餓状態で人を襲うことなんてないし。魔力も衰えない。人を食べる利点なんてないの」
「利点があれば食べるのか?」
「食べないよ。私は人の中で育った。それなりの倫理感くらい持ち合わせてる」
この女は人をなんだと思ってるんだ?
心底失礼極まりない。
まぁ、人間にとって害ある存在か念入りに確認するのは分かるが、こうズバズバ言われるのは、それはそれで傷つく。
「私も質問いい?さっきから言ってる魔族って何?」
「魔族は人の言葉を話す猛獣だ。奴らに心は存在しない。人を食い、本能的に人間を殺す。人型の形を取り、頭にツノを生やした連中は皆魔族だ。見つけたら素早く殺せ。あいつらと対話なんて時間の無駄だ」
お、おぉ……。フランメは急に早口でそう捲し立て上げると物凄い殺意の篭った瞳をこちらに向けてくる。
実際に見たことないから判断つかないが、ツノがある人間は魔族か。
それにしても心がないってどう意味だろう?
本能的に人を殺すっていうのは人狼病と同じかな。食べる食べない関係なく人を襲うようにできているってところは似てるかも。
「じゃあ、人間、魔族以外の種族は?」
「エルフとドワーフがいる。私も数回しか見たことはないな」
エルフとドワーフ……。
「それってもしかして、耳がこんなふうに長くて、めちゃくちゃ長寿だったり、金属加工とか鍛治が得意な種族だったりする?」
「よく分かったな。お前の世界にもいたのか?」
「いや………全く同じじゃないけど……」
前世の創作物にはお決まりで出てくる種族だけど、生憎今世では見たことない。
魔法界には妖精はいたけど、エルフという種族は確認されてないな。
ドワーフと小鬼が似てそう。
洞窟とか廃鉱に精通してるところとか。
「御伽噺だよ。もしかしたら昔はいたかもしれない。似たような種族ならいまもいるけど」
もしかしたら妖精や小鬼たちは本当にエルフやドワーフの亜種なのかもしれない。魔法族による魔法生物の乱獲は割と長い歴史があるから純血の種族は滅んだのかも。
私の話を聞いたフランメは何かを考え込んでいたが突然ニヤリと笑う。
「ふーむ。よし、決めた。お前、私の弟子になれ」
「はぁ?!」
いきなり何言ってんだこの女?
「私はこれでも大魔法使いだ」
「自分で言うか?」
「本当だ。ほら、聖杖の証」
「何その骨董品?」
そんな錆かけの首飾り見せられても凄さは分からない。
いや、確かに一瞬の隙もない魔法の使い手というのは身をもって知ったけど。
「お前、異世界から来たんだろ?おまけに宿なし金なし言葉もわからない。私の弟子になれば寝起きする場所くらい用意するし、おまけに通訳もしてやる」
上から目線な物言いにいい加減カチンときた。
「必要ないね。今の会話からおおよそ知りたかったことは知れた。食事を取らなくても血さえあれば生きていける」
清めの呪文などを使えば身の周りを清潔に保てるし、食事も不要。睡眠だって適当に取ればいい。この女に師事する必要なんてない。
「衣食住の他にも私はお前を見つけた者の責任があるからな。お前が異世界から来た未確認の生物である以上、悪さしないか見張らなくちゃな」
「そっちの事情なんて知らない。心配しなくても私は人を殺すことまではしない。せいぜい血を貰うだけだ」
「その言葉に嘘がない証明は?」
「そもそもお前の指図を受ける筋合いはない」
同時に緩まった氷の拘束を引きちぎり、フランメの顔に蹴りを入れる。が、間一髪で避けられた。
「ちっ!」
鬱陶しい!
もう、放っておいてよ。
人間なんて襲わない。生まれつき病気で体質が違うだけ。
私は吸血鬼だけど人間なんだ!
「……悪いな『
フランメの指先から光が飛び出してきた。
雷鳴の音を認識したと同時に私の意識は落ちた。
オリ主が強い系の話もいいですが、しょーじきフランメさん相手だと勝つビジョン思い浮かばない。何しても無効化されそう。でも、いずれ勝つ。
師よりも強い弟子は存在しない?
弟子は師を乗り越えるものだ!
エミ)私は弟子になった覚えはない!!
フラ)なれ
オリジナル魔法
『
『