葬送の吸血鬼   作:mituha

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好物は甘味と酸味のベリー系

 

十一歳になった年、遂にホグワーツからの入学案内が届いた。私はどうやら主人公たちより数年早く生まれたようで世代が被っていなかった。

そのことに安堵し、私はホグワーツに向かう列車ホグワーツ特急に乗り込んだ。

ホームには我が子との別れを惜しむ保護者の群れが殺到し、混雑している。

親と子、そのどちらもが暫く会えなくなることを惜しみ涙を浮かべて抱きしめたり、手を振っている。

 

そんな光景をコンパートメントの窓から眺めていると無意識に自分の異様に長い犬歯を撫でていた。

 

時間になり、列車が徐々に動き出す。

先程まで聞こえていた別れを惜しむ声は徐々にに遠ざかり、私は一人占領しているコンパートメントの一室で呪文学の教科書を捲りながら暇をつぶしていた。

すると、部屋の扉が外から叩かれ、幼い少年が重そうなトランクを片手に顔を覗かせた。

 

「あの、ここに座って構わないかな?」

 

その少年は私に問いかけてきた。

本当は一人で過ごしたかったが、いないものと扱えば一人と変わらないだろう。

ちらりと少年に目を向け、向かい側の席に視線を移し、手元の本にすぐ戻した。

 

少年は暫く困惑したように入口に立ち竦んでいたが、おずおずと向いの席に座った。

それから車内は無言だった。

私が本をめくる音だけがし、少年が視界の隅で居心地悪そうにこちらをチラチラ見ていることは分かったが、それなら出ていけばいいと思って放置した。

 

出発が午前11時だから車内販売のカートが来たのがその1時間後、丁度昼時だった。

 

ふくよかな魔女の老婆がカラフルなお菓子で盛り上がったカートを押して私達の部屋にもやってきた。

 

「坊っちゃん、お嬢ちゃん、車内販売はいかが?」

 

その声に少年はパッと顔を明るくさせて飛びつく。

 

「かぼちゃパイとかぼちゃジュース下さい」

「はい、どうぞ。お嬢ちゃんは?」

「………キャンディ一つ下さい」

 

昼食としてはあまり味気ないだろうが、前の注文を聞いただけで胸焼けしてきそうだ。

銅貨数枚と交換した安っぽいキャンディーをすぐに口に放り込む。

選んだベリー味の甘みと仄かな酸味。

 

「あの………よかったらこれ一緒に食べない?」

 

いきなり向かいに座る少年から差し出してきたのは2つに分けられたかぼちゃパイ。

一つでもかなりの大きさがあるソレを、食べきれないならなんで選んだ?そして私はあんまりかぼちゃパイって好きじゃない。

 

「いらない」

 

だから私はバッサリ切り捨てた。

少年の顔すら見ずに断った。

私が再び本を開くと少年は私に差し出してきたパイを自分で食べ始めた。

車内の空気はさっきより重いものとなったが、少年はもう話しかけてこなかった。

そのまま何時間か経過し、太陽が沈み始め車内が暗くなり始めた。

私はトランクから制服を取り出して少年に着替えるために此処を使え、とだけ残して自分はトイレで着替えそれから部屋には戻らず車内を彷徨き、列車は完全に外が真っ暗になってからホグズミード駅に到着した。

 

   ◇ ◆ ◇

 

フォル盆地。

それが私が現在フランメと暮らしている地名だ。

フランメからもらった地図で確認したところこの世界は一つの大きな大陸で出来ており、現在は大陸の殆どを統一帝国が支配している。此処も帝国の領地で森林地帯が広がって実に住みやすい。

フランメの拠点の一つがこの盆地にあり、私たちは最近此処に住んでいる。

フランメはこの世界で数少ない大魔法使いらしく、頻繁に人間の国の貴族に呼ばれて出掛ける。

魔族との戦争でフランメの作った結界は大いに役立っているらしく指図め軍事顧問みたいな仕事を受けている。

 

で、そんなフランメは現在留守である。

 

「退屈だ………」

 

机に散乱する羊皮紙や木管を宙に放り出す。

放り投げられたそれらに向かってピッと指を指して薙ぎ払う仕草をするとそれらはひとりでに本棚に収まる。

 

フランメと出会いて半年。

 

自分の魔力をやっとコントロールできるようになってきた。

 

まぁ、魔物を閉じ込めた結界の中に杖なしで放り込まれて生き延びろと一日放置されれば嫌でも火事場の馬鹿力が働くか。

なんて鬼畜な女だ。

闇祓い試験だってあんな事しないぞ。

あれはまだ許してない。絶対許さない。

 

未だに魔力を視認することは出来ないが、目に頼らない探知の精度を上げるというのは正解だったようだ。

フランメは魔力探知の修行のために三つの水桶を用意した。

一つにはそこそこの量の魔力が込められ、一つには些細な量の魔力が、一つには全く魔力が込められてない。

 

これらがどの水桶か正確に当てる修行から始め、今ではこの森を使って、魔力を完全に消したフランメとのかくれんぼが主流になった。今のところ勝敗は25勝24敗1引き分けで私がリードしている。

 

その他にもこの世界の文字や言葉の取得も忘れていない。

字はアルファベットに似ていたからさほど難しくなかった。

言葉もフランメが翻訳を挟みながら会話したおかげで問題なく喋れるようになった。

 

訳もわからないパーセルタング*1やマーミッシュ語*2、ゴブリディグック語*3に比べたらなんて易しいんだろうか。

 

そして、当初の目的である言語の習得、魔力の探知をクリアした私は次なる目標この世界の魔法の習得に励みたいと思ったのだが、一つ問題がある。

 

この世界、魔法の習得は魔導書を読んで覚えるのが一般的だ。そこには魔法の理論、魔力の込め方、陣の図、魔法の取得に必要な物や付随効果などが記されている。

 

そして、その魔導書は古エルフ語で書かれているものが多い。

 

うん………フランメからはちゃんと聞いた。

神話の時代、天地創造の女神が舞い降りた時人類に、魔族との対抗手段を残してくれた。

魔族の魔法を改良した人類の魔法もその一つ。

しかし、その伝承の多くは人類の短い寿命では殆ど残せなかった。

まぁ、文字文化なかったみたいだし。

出来て壁画とかだろう。

しかし、例外はいる。

エルフだ。

エルフは何千年と悠久の時を生きる種族で今でも神話の時代から生きているエルフはザラにいるらしい。

そんなエルフが文字文化が出来てから自分達独自の文字で魔導書を作り、他者に魔法を教える目的で使い出した。それが時を巡り人類の間に流れ、人間も同じ方法をとりだした。

 

神話の時代から使われている魔法が記された魔導書は古エルフ語でしか書かれていない。

じゃあ、その古エルフ語を教えろと言ったタイミングであいつは出掛けた。

 

拠点に残されている魔導書の殆どは古エルフ語の物ばかり。人類の語で書かれている魔導書は所謂、民間魔法と呼ばれる人類が生活する上で便利さを追求した魔法らしい。

でも、記されているのは「飲み物を適温にする魔法」とか、「上手にリボンを巻ける魔法」とか、「水垢を消す魔法」などくだらない魔法ばかりしか記されてない。

 

グレシアス(凍れ) 

フェルーラ(巻け) 

エバネスコ(消えよ) 

 

そんなのこれで全部解決する。

しかもこれ、本当に限定的で飲める液体にしか魔法がかからないし、リボンじゃなくて包帯にするとピクリとも動かないし、油汚れは消えない。

この魔法を作った奴らの考えが理解できない。

思わず魔導書を地面に叩きつけた。

 

汎用性の高い魔法を開発しないのか、此処の人間は!

フランメが目から鱗が落ちたように私の魔法を学ぼうとする訳だ。

 

まぁ、そんなわけで現在できることがなくて暇なのだ。

移動手段、交通網が未発達な此処だと移動は徒歩しかない。

近くの街に行くまで二、三日とかかる。

フランメが何処に行ったかなんて知らないが、今回は一ヶ月内に帰ってくれば早い方かな?

 

ぐ〜きゅるきゅる。

 

「お腹すいた」

 

お腹すいた。

今日で丁度一週間か。

気が進まない体を引きずって台所に行き戸棚から小壺を取り出す。

蓋を開けた途端鼻をくすぐる匂いに思わず喉を鳴らす。

そんな自分に少し嫌気がさし、顔を顰める。黙って盃に中身を移す。

紅い、少しドロッとした液体が並々と注がれ縁まで紅が満たされる。

 

盃を持ち上げ、それを一気に飲み干す。

ダンッと空になった盃を叩きつけ頭を抱える。

前世で自分の口の中を切った時は鉄臭くて不味いとしか思わなかった。

でも、今世では好物のブルーベリータルトより甘くて美味と感じる。

 

何十年とこれだけは欠かさず続けているけど慣れないなぁ。

慣れたらダメだよな。

例えコップ一杯だけでも飲めば魔力は忽ち回復して、一週間他は飲まず食わずでも生きていられるといっても。

これ(吸血行為)に忌避感を持たなくなれば、私は本当に人間じゃなくなる気がする。

 

だから、血よりも美味しいと思える物を決めて普段の食事もちゃんと食べるようにしてたんだけど………フランメが作ったものはあまり美味しくない。

フランメに限らず此処は衛生環境が最底辺だ。食糧事情も違うからあっちと比べること自体間違っているけど、進んで食べる気になれなくて、この半年偶に貰う果物以外血液しか摂取してない。

 

フランメが毎日少量の血をこの壺に入れて溜めて置いてくれるから、今のところ困らない。壺には保冷魔法をかけてあるから腐ったりもしない。でも、フランメは人間だしいつまでも一緒ってわけにはいかないんだよな。

そんな時、どうしよう。

 

無闇矢鱈に人から貰うのは好きじゃないし、かと言って帰還の手立ても今の所ない。

もしかしたら、一生この世界で過ごす羽目になるかも。

魔法に慣れたら帰還方法を探さないと。

そうなったら必然的にフランメと行動を共にすることもなくなるよな。

 

はぁ………本当に、不便な体だ。

 

「おーい。エミリア!」

 

玄関からフランメの声がする。

帰ったのか。

思ったより早かったな。

 

もう一度指を振り、小壺を元の場所に戻し盃を水につけて玄関に向かう。

 

「早かったね。一ヶ月くらい帰ってこないか、と………………は?」

 

玄関先にいたフランメの姿に私は間抜けた声を出してしまった。

 

フランメが血だらけだった。

 

でも、フランメにじゃない。

お前の心配なんかしない。

 

視線がフランメが背負っていた気絶した子供の方に向いたからだ。

白髪の長い髪。

背格好は十四、五の少女。

そしてその少女の耳は長く尖っており、その少女が出血や浅い呼吸を繰り返して重症だったから。

 

「あー、悪いが湯浴みと手当ての準備してくれるか?」

 

気まずそうに頼んでくるフランメ。

 

背負われて瀕死のエルフの子供。

 

二つの間に視線が行き来し、私は最悪な結論に辿り着いた。

 

「フランメ…………流石に見損なった。確かに古エルフ語を習いたいとは言ったけど、エルフの子供攫ってくるなんて………」

「誤解だ!!」

「はいはい。事情は署で聞くよ。エピスキー(癒えよ)

 

なんか喚いているフランメを放置して取り敢えず少女を受け取り、杖を傷口に当てて癒しの呪文を唱える。

 

ウィンガーディアム・レヴィオーサー(浮遊せよ)エピスキー(癒えよ)スコージファイ(清めよ)ヴァルネラ・サネントゥール(祝福の癒し)

 

急患な為、使い慣れた杖を使い傷を癒して、汚れを落とし、浮遊呪文でエルフを浮かして寝室に連れて行く。

その様子にフランメが感心した声を上げる。

 

「神話の時代に存在した伝説級の魔法をこうもポンポン見られる日が来るとは思いもしなかったな」

「ただの清めの呪文じゃん」

 

ついでにフランメにも杖を振る。血のついた服は洗い立てのように真っ白になり満足そうに胸を張る。

 

「私もいつか「しつこい油汚れを取る魔法」とか「カビを消滅させる魔法」を手に入れたい」

「だからなんでそんな限定的なの?」

 

これ、覚えればいいんじゃん。

油でも水垢でも綺麗に落とせるのに。

 

「いいか。エミリア、魔法ってのはな、探し求める時が一番楽しいんだよ」

「よく分からない」

 

態々不便な使い勝手の悪い魔法より、攻撃性の高い魔法や汎用性の高いものを優先したほうがいいのでは?

 

「お前もわかる日が来るさ。魔法を集める楽しさに」

「なるわけない。民間魔法は私をイラつかせる」

 

そして、その前に帰還する。

 

傷を綺麗さっぱり治したエルフの少女をフランメのベッドに寝かせて、当人に向き直る。

 

「で、何やらかしたの?」

「おい、何故私がやらかした前提なんだ?」

 

何を言ってんだこいつは?

 

「才能がある奴好きのお前のことだ、大方エルフの子供に魔法の才能を見出して、弟子にしようとしたけど拒否されたから、結界の中に魔物と閉じ込めて「じゃあ、こいつ倒せるくらいの実力持ってんだろうな?」とか言って瀕死になるまで………」

「風評被害にも程がある!私がそんな鬼畜な真似するやつに見えるか?」

 

自信満々に胸を張るフランメにイラッときて視線が鋭くなる。

 

「私にはやった。怖かった、久々に死ぬかと思った。人間だったら死んでた」

「それは………ゴメン」

 

割とガチトーンで言ったら素直に謝った。自分でもあれはやり過ぎた自覚があったようだ。

なら、さっさと謝れ。

 

「……近くの大きな街で依頼があったから、終わらせて帰る途中に魔族の軍団を見たって報告が上がってな。念の為、調査に向かったら魔族に襲撃されたエルフの集落を見つけたんだよ」

「エルフの集落?」

 

私が聞き返すとフランメは傷ましそうな顔をしてエルフを見る。

 

「あぁ、酷い有様だったさ。魔王軍の将軍玉座のバザルトが率いていた。集落のエルフは皆殺しだ。唯一生き残ったのはコイツだけだ」

 

そう言って、フランメは寝ているエルフの少女の頭を撫でる。

エルフということはやっぱり見た目通りの年齢じゃなくて私より年上なのだろうか?

 

「コイツを始末しようとした追っ手の魔族は私が始末した。いかに魔法に長けたエルフ種とはいえ、相手が不味かったな。魔族の将軍クラスを複数も送り込むとは魔王は余程エルフが邪魔らしい」

「将軍って?」

「魔族の中でも熟練の戦士のことだ。身体強化の魔法に力を注ぎ、何百年と研鑽を積んだ戦士もいる。バザルトも人間側に記録が残るほどの脅威だ」

「倒したの?」

「コイツがな。だが、瀕死になってた」

 

この少女からは確かに強い魔力を感じるが今は何処か魔力の波が弱々しい。傷は癒せても体力や気力までは回復できないから仕方がない。

 

「強いの?この子」

「お前の見立ては?」

「魔力は私やフランメに追いつくほどあるけど、教科書通りの魔法使いって印象かな。この子に限った話ではないけど」

 

フランメに連れられてこの世界の魔法使いの戦いを観戦してみたが、魔族や魔物相手でもどこか隙が多いし、狡さが足りない。

 

「そうだな。多くの魔法使いに足りないのは実践と狡猾さだ。だが、こいつ……フリーレンには才能があるぞ」

 

フリーレンっていうのか。

ふぅん、フランメがそんなこと言うなんて珍しい。

 

「コイツはな、魔力制限している私の実力を見抜いた。しかも何故わかったか聞いたら「なんとなく」だとよ。直感なんだよ」

 

面白い物を見るようにクツクツ笑うフランメを見て私も口角が上がる。

 

「それは凄いね。どこの世界も才能がある奴の特徴は勘が鋭くて、自分の直感を信じる奴だ」

*1
ヘビ語

*2
マーピープルという半魚人独自の言語

*3
ゴブリン語




エミリア
順調に修行をこなしている。
吸血は好きじゃない。
好物はブルーベリータルト。でも砂糖が貴重だから暫く食べられない。
民間魔法に苛ついている。

フランメ
魔法が大好き。
エミリアにも血と果実以外の食事を取ってほしいと思って料理に奮闘中。なお、その行動が逆効果になっていることを本人は気づかない。エミリアが来てから家の中が綺麗。

フリーレン
現在睡眠中。
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