葬送の吸血鬼   作:mituha

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一週間かけて書きました。
これから週一の投稿を目標に頑張ります。
今回過去話長いです。


別に魔法じゃなくたって……

 

 

学年末試験総合評価第三位。

最高順位、変身術第一位。

最低順位、魔法史第八位。

 

一年目ということを考慮してもなかなかの成績だと思う。

 

変身術は予想通り。

歴史は…………人物名覚えるの苦手なんだよなぁ。

全然顔と名前の区別がつかない。

あと飛行訓練の成績もそんなに良くなかったのも関係しているかもしれない。中古の箒なんて使うからスピードが出なかったんだ。

あれなら自前の翼で飛んだほうが早い。

 

それでも長かったホグワーツ一年目がやっと終わり、明日から夏休み。約二ヶ月間の休息を取れることに少し肩の荷が降りる。

大して多くない荷物をトランクに詰めながら夏休みをどう過ごすか考える。と、言っても出かける予定はないし、ずっと家でダラダラするだけだろうな。いくら太陽が平気でも進んで真夏の炎天下の中出かけたいとは思わない。

やっと息の詰まるこの監獄からの一時帰宅に胸を弾ませ、トランクを引きずって女子寮から出ると入口の前で人だかりができていた。

気分が急降下する。

 

邪魔だ。

 

どうやら複数人の女子が一人の男子生徒を囲んでいるようだ。

マジで邪魔だ。

 

「邪魔」

 

あ、やばい。

穏便に荷物を魔法で浮かせて隙間を通ろうと考えたが、呪文を唱えて荷物を浮かせるより先に口から勝手に言葉が飛び出た。

 

女子たちが一斉に話すのを辞めてこちらを睨みつける。

大して大きな声で言ったわけじゃないが、耳聡い彼女たちの耳にはバッチリ聞こえたようだ。

 

談話室で他の談笑をしていた生徒たちも急に静まり返りこちらを見ている。

あー面倒くさいことになった。

 

「あらあら、流石、学年成績第三位様は私達の会話が耳障りみたいね。あんなに勉強しても三位だったあなたのプライドを保つためには今から二年の勉強をしなきゃいけないものね?」

 

一人の女子が私をニヤニヤしながらそんな言葉を投げかけて来る。

 

「今日はいつもみたいに本を抱えて歩かなくていいのぉ?残念だったわね、一位じゃなくて」

「入る寮間違えたと思うわよ。貴方、レイブンクローに行くべきだったわ。ガリ勉で協調性のない人たちの仲間にね」

 

意味が理解できない。

三位だったから残念?

別に十分高いだろ。

本を抱えて歩く?

図書室の本まで嫌がらせの的にされたら堪らないから持ち歩いていただけ。

あと最後のレイブンクローに失礼。

 

別に総合評価ベスト3に入った成績は悪いわけないし、十分誇るべき内容だと思う。

それなのに何故私は話したこともない赤の他人にいきなりコケ降ろされているんだろう?

 

余裕の笑みでこちらを見下ろす彼女たちを見、他の周囲の表情をチラ見する。

割と年の近い上級生たちは彼女たちと同じ、こちらを面白い見世物を見るような顔をしているのに対し、3つ以上年の離れた上級生たちは心配そうに様子をうかがっている。

 

……………なるほど、どうやら彼女たちの中で私は、「他の凡人と違って、才能があるから試験でも一位になって当然と思い込んだ、御高くとまった自信過剰な嫌味な奴」で、今は「あれだけ自信満々ぶってたくせに、首席が取れなかった間抜け」ということか。

首席を狙ってるなんて一言も言った覚えないんだけど…………。

 

「あんたと違ってセドリックは凄いのよぉ。なんと学年一位!」

「いや、あの………」

 

あぁ、よく見たら囲まれている男子はセドリック・ディゴリーだったのか。この頃から女子にモテたんだ。

大変そう…………。

 

「あんたもセドリックに勉強教えてもらったら次は一位を取れるかもよぉ?」

「いや別に欲しくないし」

「強がっちゃって」

「マジでいらない」

 

言葉の通じない人間ってこういう人のことを言うんだろうな。

 

「私のことより自分の心配したら?少なくとも貴方たちは私より成績が悪いみたいだし。そんなんだとフクロウ試験で苦労しそうだけど?なんのために学校通ってるわけ?」

「っ!」

「なっ」

 

下見たらキリがないけど、少なくともこいつ等に心配される筋合いは今のところないし、さっさと帰りたい。

私の台詞に顔を赤く震わせる彼女は私をキッと睨みつける。

 

「気がついてないようだから言わせてもらうけどね、あんたがいると寮の雰囲気が悪くなるのよ。自覚ないわけ?」

「あるから、寮でなるべく顔を合わせないように気を使ってるじゃない」

「はぁ?」

 

同級生の心底呆れた顔に疑問を抱く。

何故そんな顔をするのだろう?

私なら嫌いな奴がいれば視界にすら入れたくない。当然のことだろう。

すると、ディゴリーが私達二人の間に割って入る。

 

「あの、ミス・パヴィエル。大きなお世話かもしれないけど、君が努めるのは人を避けることじゃなくて、もっと寮で仲間と打ち解けることだと思うよ」

「は?」

 

マジで大きなお世話だ。

なんで、私は十一歳のガキにコミュニケーション能力を重要性を説かれているんだろう?確かに私はここ数年、人との関わりが皆無だった。そのせいでコミュ力が低下した自覚はあるが、それでも前世はほぼ成熟した年齢だった。最低限の礼儀と一緒に他者を不快にしない接し方ぐらい弁えている。現に教師たちは私の態度に問題があると言って指摘されたことない。

 

「僕たちはハッフルパフだ。仲間との輪を重んじている。それは他の三寮と比べると劣等生の集まりという勘違いを拭えないからだし、スリザリンからはマグル生まれが多く入る寮と思われて攻撃される。だから、仲間内で固まって身を守るんだ。みんなで強くなって、他寮に分かってもらうんだ。それなのに君が寮内で仲間たちを見下していると思われる態度でいるから、彼女たちも君に突っかかってしまうんだ」

「そ、そうよ。あんたがもっと協力的なら私達だって、キツい言い方しなくていいの」

 

………………器物破損は私の協力性を促すための行為だとは思えないけど。

はぁ…………話せば話すほど溜息が出てくる。

 

「要するに……私がもっと友好的で、無償の親切を提供し、愛想を振りまけばいいわけ?」

「そこまで言ってるつもりは「めんどくさ」」

「他者に四六時中気を使って過ごしたくない。私はこの寮で仲良しこよしをするために入ったわけじゃない。誰にも迷惑かけてない、不快を与えるなら視界に入らない。私のことは空気と同じように扱ってくれて構わない。分からないようだからはっきり言わせてもらう。私は一人でいたい。貴方たちの相手は時間の無駄、面倒くさいから関わりたくない。以上」

 

言いたいことは言えたし、これ以上ここにいる意味はないな。呆気にとられている彼女たちを押しのけて通ろうとしたところでまた声をかけられた。

 

「ねぇ、ミス・パヴィエル?」 

 

今度は少し年上の上級生が会話に割って入ってきた。ブラウンの髪を伸ばし、穏やかな目元をした女子生徒だが、その瞳の奥には油断ならない気配を感じる。

まったく、次から次へと。

なんなんだ、今日は厄日か?

 

「みんな貴方のことを心配しているのよ」

「心配されるようなことは何もありません」

 

流石に上級生が出張ってきたのは想定外だ。

この言い合いが教師の耳にまで入ったら厄介だな。

適当に話を終わらせて逃げよう。

荷物を抱え直して無理やり立ち去ろうとする。

しかし、

 

「そうかしら?お家、大変なんじゃない?」

 

ドキッ!

 

「っ!」

 

その一言に心臓が跳ね、足を止めてしまった。

 

「パヴィエル家。聖28一族に加えられていないながらも由緒ある魔法族の家系、その当主夫妻は今から八年前に突如の死去された。その前の年に『例のあの人』の影響をあなたのお家も受け、その時一族で生き残ったのはその当主夫妻と一人娘だけだったはず」

 

ドクン!

 

淀みなく語られた私の家の情報に、冷や汗が伝う。

 

「…………よく知っていますね」

「まだ、名乗ってなかったわね。私はベル・フォーリー。私の家は聖28一族のフォーリー家だから魔法界の事情は小さいものから大きいものまでよく耳に入ってくるのよ」

 

聖28一族か……確かに狭い貴族コミュニティなら私の家の話が聞こえてくるのも納得だ。当時、情勢が大きく変化したせいで私の家のニュースが目立たなかったのは幸いだったが、子どもを残して魔法族の家系の当主夫妻が死んだ話はそれなりに耳に残ったのだろう。

 

急に激しく波打つ鼓動。無意識に口に持っていきそうになった手をグッと握りしめる。

大丈夫、あの事は知られていない。知られるはずない。

平静を努めてフォーリーの顔を見る。

 

「私の家の話に関心がある生徒がホグワーツにいるとは思いませんでした」

「あなたが心配で見ていたの。早くに両親を亡くされて、しもべ妖精に育てられたのでしょう?パヴィエル家は何故か、他家との繫がりが極端に薄くてあなたには後見人すらいない。人とあまり接する機会がなくてホグワーツの生活で何か不便があるんじゃないかと」

 

その割にこの一年間何も接触はなかったが?

 

「お気持ちは感謝しますが、その心配は不要です」

「そうかしら?現に今彼女たちと言い合いになっているわ」

「互いに干渉し合わないことですべて解決でしょう」

 

これ以上こいつと会話はしたくない。

 

「………ミス・パヴィエル。貴方はとっても大人びているのね。育った環境が貴方をそうさせたのかしら?」

 

なんの脈絡もなく放たれた言葉に疑問符を浮かべる。

 

「だから、貴方は彼女たちと会話は噛み合わない。同級生、同寮同士、別け隔てなく打ち解けたい年頃の彼女達と年齢に見合わず、達観した考えを持つが故に一人で過ごしたい貴方とでは」

 

あぁ、そうか。

彼女言葉に何処か納得した。

言葉の通じない奴らだと思ったら私と彼女らは大きく精神年齢に差がある。私が、大人の対応だと思ってやっていた接し方は同級生たちからしてみれば、自分たちを赤子扱いし、見下した態度と捉えられていたのか。そりゃあ、理解を得られなくても仕方がないか。

 

「貴方は私達に仲間意識なんて感じていない。ハッフルパフの生徒らしさの欠片もない」

 

そんなこと私が一番わかってる。

 

「でも、私は完全にそうは思えないの」

「気の所為ですよ。自覚はあります。私は私以外のことなんてどうでもいい」

 

そこで無理やり会話を断ち切り荷物を抱え直す。

大勢の視線が集中しているのが分かる。その殆どが好ましく思っていない感情だということも。トランクを引き摺りながら寮の出入口に手をかけた時、再び背後から声をかけられた。

 

「なら、何故貴方はこの寮に入ったの?貴方にもこの寮の素質があったからじゃないの?」

 

私が、ハッフルパフを選んだ理由?

そんなの決まってる。

ハッフルパフの素質を持ってる?

そんなものあるわけない。

 

「将来のためですよ。そうでもない限り、こんな面倒くさい連中のいる寮なんかわざわざ選ばない」

 

そして、今度こそ振り返らずに寮を跡にした。

 

   ◇ ◆ ◇

 

「つ、つかれたぁ」

 

無事地上に戻ってこれたことに喜びと安心で胸がいっぱいになり、その場に大の字で倒れる。やっぱり人類は地に足を付けておくべきだ。何のために足があるんだって話になるからな。

 

ふぅ〜……。

いつもなら魔物や魔族を警戒してこんな無防備なことしないが、今はフランメとフリーレンもいるし大丈夫だろう。正直、魔力切れで立っているのもやっとだった。魔力切れを起こすなんて何年振りだろう?

 

「おつかれ」

 

首を傾けるとフランメとフリーレンがこちらに近づいてくる。フランメはおもしろいものを見て満足そうで、フリーレンは眉間に皺が寄っている。

 

「勝負あったな。最後はどうなることかと思ったが、まさかの逆転勝利とは」

「さっきの魔法は一体何?直前まで何も感じなかった」

 

そっか、アレはどうやら有効的な手段だったらしい。ダルい上半身をなんとか起こす。

辺りを見回し、見つけたソレを手の中に引き寄せる。

 

「コレだよ」

 

拾ったソレをフランメの手の中に落とす。

それはなんの変哲もない、私が魔法で飛ばし、フリーレンが砕いた岩のかけら。

 

「石?」

「なんの魔力も感じない」

 

その石には辛うじて文字のような模様が彫られているが、私から見ても今は魔力の痕跡すらない。

 

「私が魔法を学んだ学校では3年目から選択で好きな魔法教科を受講できる。これはその一つ、古代ルーン文字学で習った魔法だよ」

 

ルーン文字。

ゲルマン人がゲルマン諸語の表記に用いた古い文字体系であり、音素文字の一種。

現代魔法の多くに使われており、魔法族には馴染み深い言語だ。

 

「簡単に言うならこれは、時限式自動発動魔法かな。正しい手順、正しい魔力量、正しく丁寧な文字を彫ると文字に沿った魔法を発動させることができる。事前に魔力を文字と一緒に彫るから誰が持っていても、時間になれば勝手に発動する。私が世界を超えて消えても、この石は同じタイミングでなんの問題もなく魔法を発動する」

「そんな便利な魔法があるのか……色々使い道がありそうな面白い魔法だ」

 

フランメは手の中の石をいろんな角度から観察する。

 

「そうでもない」

 

しかし、瞳をキラキラさせるフランメから魔法の残骸を取り返す。

私の彫ったルーン文字は形も歪で辛うじて文字と認識できるが、本来彫った箇所に流し込む血も薄く、既に消えかかっている。

 

「さっきも言った通り、これは正確性さえあれば誰がやっても発動する魔法だけど、その分、発動させるまでの工程が恐ろしく細かくめんどくさい。本来戦闘とかには使われず、何か大事な物を封印したり、遺跡を守るために防護術式の一部として長時間かけて施す分類の魔法だよ」

「防御や封印に優れた魔法なのか。持続時間は?」

「まぁ、モノによるかな。お守り程度のアイテムだとせいぜい一年くらいしか効力を発揮しないけど、歴史上の偉人の墓とかに刻まれているのは半永久的に続いてる」

 

ルーンの説明に二人は感心したようで、ますます興味を示す。

そういえば、ホグワーツの壁や装飾品には必ずと言っていいほどルーンが刻まれていた。恐らくアレらが城の強力な防護魔法の一部を担っていたのだろう。そして、アレらは多分今でも生きている。

 

「ルーンが刻まれた魔法はその箇所を削り取れば効果を失うこともあるけど、強力なモノだと文字自体が複雑な暗号化してる場合が殆どだから、解読して効果を打ち消すルーンの魔法を作成する必要がある」

「なるほど………魔力が感じられなかった理由は?魔力も一緒に込めるんだろ?」

「う〜ん、考えられる理由は幾つかあるけど、有力そうな仮説は本来は人間の魔法じゃないことかな」

 

私の言葉に二人の頭にハテナマークが浮かぶ。私も詳しく調べたわけじゃないけど……。

 

「ルーン文字って私の世界の神話で神様の一人が自分を、痛めつけた?修行した?生贄にした?結果、習得した文字って言われててね」

「何で疑問系なの?」

 

そんなの北欧神話をちゃんと読んでないからだよ。確かオーディンが手に入れてアースガルドに持ち帰った、はず。

 

「で、それが別の神の手によって人間に伝わって……今の魔法族の魔法形態に組み込まれたって言われてる。文字そのものに魔法的効果が宿ってるからか、それとも地上の物質と融合する際に何かしら変質が起きているからか………未だ未解明な部分も多い学問でもある。ただ分かっているのは魔法が発動するまではルーンを刻んでも物質はただの物質と変わらないんだよ」

 

向こうの魔法検知道具もルーンには反応を示さなかった。ルーン刻んでいるときは魔力反応を示すのに終わると反応が消える。

不思議だなぁ。

 

案外本当に神話は実際の歴史でオーディンは実在しているのかも。

 

まぁ、この仮説は有力視されているけど私はあまり信じていないんだよね。神様の存在なんてくじ引きの時に本気で願う程度に信じているくらいで丁度いい。どんな宗教も教本には『常に信じる人間の味方』と書いてあるくせに必ず助けてくれる保証なんてない。なら、世の中の理不尽だけでも全て押し付けて、都合いい時に利用してやるくらいの方が気が楽だ。

罰当たりな性格?別に結構。

 

「しかし、狡いな。こんな面白そうな魔法があったのに今まで私に黙っていたなんて」

「忘れてたんだよ。こんな面倒臭い魔法なんて戦闘には役立たないし、本来はちゃんとした道具を使って刻むし。その道具も今ここに無いから使うこともないと思ってた」

 

本来は杖と同じ勝手に魔力を調節してくれる魔道具の彫刻刀を使ってルーンを彫るが、学生の頃に使ってたやつは今頃、自宅の部屋かトランクの中で埃をかぶっている。精密品で軽く壊れやすいのでやたら重たいケースに入れなくてはいけないので杖と違って持ち歩かなかったのが運の尽きだな。

 

「それに、発動するまでの時間も出来によって違うし、読みづらい。炊飯器みたいに細かく時間指定なんて出来ないし」

 

あ、うーん。二人がスイハンキって何?って、顔してる。

この比喩表現は通じなかった。

 

「でも、役に立たないと言いつつ使ったんだ」

 

フリーレンの言葉に肩をすくめる。

 

「上手くいくか分からなかったけどね。一度道具なしでしたことがあったから、出来が悪くなるけど、初見の相手なら一瞬くらい隙がつけることは分かってた」

 

実際、フリーレンは私の大幅な魔力の減少を盾呪文のせいだと誤認し、勝利を確信した無防備な瞬間に付け入ることができた。

 

でも……。

視線を下落とす。

自分の左手は爪が剥がれ血まみれ、火傷痕の様に皮膚も爛れ、ボロボロのひどい有様。

自分の爪を一時的に伸ばして彫刻刀代わりにルーンを刻んでみたが、手元を見ずに戦闘中に無理やり作ったから発動も中途半端、粗悪品も良いところだ。

たった一回の製作でこのダメージ。

媒体を介して製作しなかったせいか、無駄に多くの魔力を消費してしまって、戦闘にも支障が出たし、この手は二度も通じないな。

 

「でも、まぁ。今回フリーレンに勝てたし、無駄だと思ってたけどなんでも学んでおくものだね」

 

そして、もう何の効果も持っていない石を手の中で握り潰す。選択授業でルーン文字を薦めてくれた先輩には感謝しとこう。

 

「クククッ、なーんだ」

「?」

 

フランメが突然含みのある笑いを上げる。

何で急にこっち見て笑うんだ?

気持ち悪いぞ。

 

「いや、なに。お前は自分が使う魔法に大した感情も、誇りもはないと言ってたが、私には言わせればお前も十分魔法にプライドを持ってるように見えてな」

 

はぁ?

なんだいきなり。

 

「どうしてそう思うの?」

 

ボケたか?

前にも話したけど魔法族には魔法自体を誇りに思うことなんて……。

 

反論しようと口を開くより先にフランの言葉が被せられる。

 

「確かにお前は魔法自体に関心はない。だが、お前は母校で教わったこと、師の教え、自分が積み上げてきた技術や時間そのものを大切に思っている。違うか?」

「………」

 

フランメの言葉が、私の胸に何故かスッとつき刺さる。

 

「習ったものが魔法でなくてもよかったんだろう?剣でも、ただの勉学でも、医術でも。その時、その場所で、師たちと、同胞たちと過ごした時間そのものがお前の誇りで、お前を心を支える柱となっている」

 

フランメの言葉に私の中であの城の光景が蘇る。

画面越しで見た煌びやかな世界ではなかったけど、失望したことはない。

もし、私が一年早く産まれていたら?

 

彼らと出会ってはいなかった。 

 

他者との繋がりを初めから諦めたままだったら?

 

私はあの世界を生き残れただろうか?

 

あぁ、そうか。

私はあの時の時間が大切なだけ。

思い出が私の魔法を、イメージを強固なモノにする。

気がつくと自然と口元が緩んでいた。

 

「そうだね、そうかも」

 

もう二度と会うことのない、かつての戦友たち。

教えを受けた恩師たち。

全員の最後を私は看取った。

全員、先に逝ってしまった。

 

顔を上げて二人を見る。

フリーレンはエルフだから私の想像以上の年月を生きるだろう。私より長生きかも。

しかし、フランメは。

 

今は若い、体力にも、気力にも溢れている。後20年くらいは右肩上がりに成長し生きるだろう。

でも、確実に私より先に死ぬ。

 

胸の奥がチクリと痛む。

 

「フランメはさ……不死とか不老に興味ある?」

 

私の問い怪訝そうな顔をする。

 

「何だ、いきなり?まぁ、そんな魔法があるなら魔法使いとしての探究心はくすぐられるな」

「そう………なら、人生の先達者としての忠告だよ。万が一、そんな魔法を知って、或いは見つけたり開発しても使用しないこと。人の理を超える力は後々碌でもない結果を産む。私はそんな人間を山ほど見て来た」

 

死を克服しようとしたものは、碌な目にあってない。ペベレル三兄弟も、グリンデルバルトも。

ヴォルデモートは結局、何がしたかったのだろう?

 

自分の魂に直接手を下してヒトでないモノに自ら成り下がってまで魔法族を支配しようとした。ヒトでないモノなんて虫ケラ以下としか思ってないくせに。

 

………いや、理解する必要はない。

したくもない。

頭のネジがイカれた奴は歴史に名を残しているけど、良い書かれ方はしてない。

 

頭を振って余計な思考を飛ばす。

 

「お前の世界では何があったんだ?」

「ただの戦争だよ。たった一人の人間が、くだらない理由から始めたね。面白い話じゃない」

 

胸糞悪いし、終わってみれば傍迷惑な戦争だった。

 

「教えてくれ」

「話聞いてた?面白い話じゃない」

 

呆れた私の横にフランメが腰を下ろす。

 

「私はな、知りたいんだよ。お前の魔法が、お前の歩んできた人生そのものが、今のエミリアという存在を形作っているから。だから教えてくれ、お前の軌跡を」

「知ってどうすんの?」

「私が未来に語り継ぐのさ、お前が死んだ後も残るくらい」

 

フランメが言葉に少し呆気に取られて長い溜息を吐いた。

 

「バカなの?フランメより私の方が寿命は長いよ。見た目で分かるでしょ」

「だが、お前はいつまでもこの世界にいるわけじゃない。いずれ自分の居場所に帰るんだろう?」

「………」

「エミリア。人が死ぬのはその存在を知る者が誰も居なくなり、思い出されなくなって、忘れ去られた時だ。せっかく今後二度とないような奇跡の出会いをしたんだ。人類史に残すべきだな。お前の魔法をこの世界の人類の魔法体系に組み込み、未来に残す。そうすれば、例えお前が元の世界でひとりぼっちになっても、この世界でお前の存在を忘れる者はいない。私やフリーレンが死んだ後もな」

「…………」

 

フランメの言葉が心の奥深くに入り込む。

そうだった。誰にもありのままの自分がいたことを思い出してもらえない、それって、とっても虚しいことだった。

私のことを知る人間はあっちでも減りつつある。

私の顔を覗き込むフランメとフリーレン。

両者の顔を見てから口を開く。

 

「………聞いといて文句は言わないでよ?」

「当たり前だろう。ほら、フリーレンも座れ。あっ、勿論、魔力制御は二人とも続けた状態だぞ?」

「まぁ、エミリア話は興味深いから聞くけど」

 

一見興味ないように見える無表情なフリーレンも僅かばかりの期待を向けている。

本当につまらない話なんだけどなぁ。

でも、私もホグワーツ生なんだと自覚する。母校の話を聞いてもらえて喜んでいるんだから。

さて、何処から話そうか。まぁまぁ長い人生だし、いっそのこと転生から話したほうが都合が………あ。

 

「忘れるところだった。一つやり残したことがあったんだ」

「「?」」

 

私は二人をその場に置いて立ち上がり、話している間に負傷した左手と魔力が程々に回復したのを確認する。

うん、このくらいなら問題ない。

杖持ち直し

 

「フランメ」

「ん、なん、だぁっ!?」

 

ちっ。

避けられたか。

完全不意打ちで放った呪いの呪文を間一髪フランメは回避した。

運のいい奴。まぁいい。

 

「エ、エミリアさん?」

「どうしたの?」

「フランメ、さっきは私のこと散々煽ってくれたよね?何だったかな……口だけの無駄に年取った魔女だっけ?お話は第二ラウンドが終わってからでもゆっくりしよう。フリーレン、巻き込まれたくなかったら離れておきなさい」

「うん、わかった」

 

あっさり師匠を見捨てるフリーレンにフランメは慌てて縋る。

 

「待て!フリーレン。ほら、一緒にエミリアの呪いについて研究しよう。実際に受けたほうが魔法の解析力は飛躍的に上がるぞ!」

「嫌だよ。私はさっきまで戦って疲れてる。師匠は何もしてないんだし、体力だって有り余ってるじゃん」

「待て待て待て!!頼むから見捨てないでくれ!あの顔したエミリアには慈悲の心なんかないんだよ!」

「やだ」

 

無情にもフリーレンはフランメの懇願を振り解き森の奥へと姿を消した。

まるで油の切れたブリキ人形のように鈍い動きで私の方を向くフランメに、優しい私は選択肢を提示してやる。

 

「さて、フランメ?鼻が醜いできものだらけになる呪いと、前歯が伸び続ける呪いどちらがいい?あ、前に嫌がったナメクジを吐き出し続ける呪いでもいいよ」

「いや、今、いい感じの雰囲気だったよな?!何で思い出すんだよ!」

「思い出しちゃったものは仕方ないじゃん。どうせこの報復は早いか遅いかの違いだよ」

 

安心しな、痛みはない。

私の言葉にフランメは顔を青く…を通り越して白になってその場に頭と手を地面に擦り付ける。

 

「あ、あのだな、エミリア。その節の戯言についてはこの通り反省してるから、どうかここは穏便に怒りを収めてもらいた(汗」

「フランメ」

「っ!」

 

私の声にフランメの肩が跳ね上がる。

 

「私は鼻呪い、歯呪い、ナメクジの三つ選択肢がある、と言ってる。四つ目はない」

 

私の宣言と同時に杖先から銀色の光線が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、フランメがエミリアの呪いを無事回避したかどうかは分からない。ただ、一番弟子のフリーレンによると、激しい戦闘音の合間に聞こえてくるフランメの命乞いは、その後に聞いたどの命乞いよりも必死だったとか、そうじゃないとか。

 

 

 

 

 




エミリア
報復完了でスッキリした。
フランメの惨状については本人の威厳のために話さない。
昔はコミュ障だった。

フランメ
二度とエミリアを煽らないと誓う。


フリーレン
師匠の情けない姿を見てちょっと師事する相手間違ったかもと思った。

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