「もしもし?」
「もしもし。・・・・有坂 凪君かな?」
「はい、有坂ですが。」
「私は中野。娘たちが世話になっているね。」
「娘・・・・中野さんたちの親父さんですか。」
「その認識で合っているよ。」
知らない番号だったわけだ。そういえば今まで会ったこともない。
母親は既に居ないと三玖から聞いていたけれど。
「家庭教師の方は順調かね。」
「ええ、少しずつ進めています。あくまでも俺は助手なので。
上杉くんのサポートが主です。」
「中間試験が近いと聞いているよ。その調子で進めてくれたまえ。」
俺のスマホの電話番号はどこからの経由で知ったのか。
いや、風太郎は俺の事を中野さんに喋ったのか。それしか考えられない。
「娘から家庭教師が1人ではなく2人いると聞いてね。
確認のためにこうして電話をかけさせてもらった。」
「ええ、間違いありません。」
「君の存在は予定になかったが、娘たちからの評判は悪くない。
上杉くんと同じ謝礼を払うことを約束しよう。」
「謝礼ですか。」
評判はついさっき悪くなってしまった。
「ありがたいのですが・・・・自分は助手ですので。
業務量に違いがあります。上杉くんと同額は受け取れません。
それに別の仕事でいけない日もありますので。」
「その点に関しては心配はいらない。家庭教師を行った日は娘たちが集計をしている。
その日数分のみの謝礼を支払う。謝礼の額は誤差に等しい。気にする必要はない。」
「いえ、仮にも教師といての示しがつきませんので。謝礼には差を設けてください。
それに実績もまだ上げていません。」
「・・・君がそこまで言うのなら、そうしよう。」 「ただし」
「・・・・・何かね。」
「補佐がいるからと言って上杉くんの謝礼を当初の額から下げられるのは困ります。
そこはお約束いただけますか。」
「・・・・約束は出来ないが、キミの進言についてはよく覚えておこう。」
「はい。それで充分です。」
「では、失礼するよ。」
「はい。ありがとうございました。」
少し緊張した。親父さんと言ったが、そんな言葉が似合う雰囲気は持っていなかった。
謝礼・・・・元から給料が発生するとは思っていなかったので、嬉しい誤算だ。
幾らになるかね。風太郎の給料を下げられると本末転倒なので、そこは釘を刺した。
約束は出来ないと言っていたが、恐らく守ってくれるだろう。
そういう人のように感じた。
「ふー。」
ある程度の気持ちのリセットにはなった。
給料を貰う。となれば、責任が生じる。これからは中途半端なことは出来ない。
「・・・・・行くか。」
早めにけじめをつけとこう。二乃のもとへ向かう。
何を話せばいいかわからないが、代わりに玄関口を開けてやるくらいは出来る。
それだけはやっとこう。そう思いマンションの玄関口に向かったが。
「5人の家にあいつの入る余地なんてない。あの時そう言ったよな?」
!? 風太郎?戻っていたのか!
とっさに隠れる。
「俺たちが嫌いってだけじゃ説明がつかないんだよ・・・・
5人の姉妹が大好きだから、異分子である俺たちが気に入らないんだ。」
「・・・・・なによ。・・・悪い?」
成程。そういうことだったのか。男嫌いとは・・・・・・見当違いも良い所だ。
風太郎は凄い。俺はわからなかった。一見は金の為と乗り気ではなさそうだが、
真剣にこの姉妹たちに向き合っているんだ。
だから気づいた。俺は・・・・違った。
「二乃。凪の事は・・・・「風太郎、まだ居たのか?」
そこまで言わせるわけにはいかない。前に出る。お前から勇気をもらったよ。
「凪・・・・お前を待っていたぞ。電話は済んだか。」
「申し訳ない。待たせてしまったね。早くカレーうどん食いたいだろうに。」
「心配いらん!食いたいときにいつでも食えるからな!」
「ふふ。愛されてるねぇ。うらやましい。」
「愛?・・・マザコンなの?あんた。」
「我が相棒には妹がいるんだよ。こんど写真を見せてもらうと良い。」
気持ちのリセットね。風太郎、お前が一番の薬だったよ。
「二乃。」 「・・・・なによ」
「申し訳ない。君達を・・・傷付けてしまった。」
「・・・・・ふん。気にしすぎよ。そもそもあれは一花が言い出したこと。
あんたに謝られても困るわ。」
「慰めてくれるのかい?立場が変わっちゃったねぇ。ありがとう。」
「そうは言ってないでしょ!」
被害者の二乃にまで気を使われるとは。相当だったな。
こっちはもう吹っ切れたけど。
「全く何よ・・・・どいつもこいつも!そうよ!悪いのはあたしじゃないわ!バカみたい!」
「決めたわ!・・・・あたしはあんたらを認めない!たとえあの子たちに嫌われようとも!」
ん?どういうこと?なんでその流れになる?
風太郎の顔ひきつってるし。
「二乃・・・いつまでそこにいるの。早く入る。」「三玖?」
「二人もいたんだ。そういえば、明日なんだけど・・・・・」
「三玖!来なさい!帰るわよ!」
「ちょっと・・・・・まだ話が・・・・」
半ば強引に三玖を連れていき、マンションの中へと戻っていった。
あーもう。何が何だか。バカバカしくなってきた。
ついさっきまでの自分も含めて。
「・・・ふふ。あははははは!」
「・・・あの、凪さん?急にどうした。怖いぞ。」
「いや・・・・・ちょっとね。帰ろうか!風太郎。」
「ああ。・・・久しぶりに聞いたな、お前の高笑い。」
「そうだっけ?・・・いやー、相棒が俺の事をかばってくれたと思うと嬉しくなってね。
つい出ちゃったよ。」
「何の事だ。解けない問題があったからあそこで解いてただけだ。」
「はいはい。ありがとうねぇ。風太郎くん。」
「うるさい。お前には一生カレーうどん食わせねぇ。」
色々あった。ヘビーな1日だった。
だが・・・・最終的にはここ最近で最も良い1日だった。
「・・・・・を。9時前か。」
今日は家庭教師が休みの休日。
二度寝を決め込んでやっと9時。父さんと母さんは仕事に行ってるだろう。頭が下がる。
のんびりさせてもらおう。12時までくつろぐ。
リビングのテレビをつけてみる。ローカルテレビのニュースはまだ終わっていなかった。
昼が近いのでバラエティとニュースの合いの子のような番組だ。
『・・・・今日は花火大会があります!・・・・・』
母さんが作ってくれた朝食を朝食兼昼食として食べる。
あーそっか。花火大会なんてあったな。だから家庭教師休みか。
花火大会かぁ・・・・・風太郎は・・・・行かないよなぁ。
時間と金の無駄だ とか言いそう。人込みで動けないし、屋台は割高だからな。
屋台?
「・・・・ああ。バイトじゃん今日。」
14時からだったな。ま、焦ることはない。ゆっくりしよう。