五等分の花嫁 ~家庭教師の助手~   作:I-Ris

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スタンドから各競技を見ていた。

今日は中距離の種目はない。残念だ。男子5000m見たかったのに。

 

他はどうにもな。選手同士は必死にやっているところ申し訳ないが、

陸上というのはジャイアントキリングが起こりにくい。

やはり見ていてワクワクしない。番狂わせが見たい。こっちの予想を裏切って欲しい。

中々最低の観客かもしれん。俺。

 

 

茜は順調だ。準決勝も難なくクリア。4位通過を決めている。

ただしやはり一人だけ抜けて早い選手がいる。

当然ながら地区ブロックでぶつかった浅井選手だ。

準決勝は11秒59とコンマ6秒を切ってきた。誰の目から見てもぶっちぎりだった。

 

 

まあ・・・・ちょっと厳しいな。

茜の方も余力を残して決勝を通過するくらいの力はあるんだが。

一人だけ外国人かよってくらい早い。

大会レコードが11秒50でコンマ1秒以下まで詰めてるからな。

本当に異常。年代によっては12秒を切る選手が1,2人しかいない時もあるってのに。

 

 

だからこそ・・・・番狂わせが見たいぞ。茜。

 

スタート、何とか決めてくれ。そこさえどうにかできれば対等に勝負できるはずだ。

・・・・あんま期待してないけど。

結局この大会中に1度もスタート決められなかったからな。

いっつも後ろ。いっつも一番後ろから全てぶち抜く。

 

 

「やっぱあの浅井だよなー。早すぎ。男だけどふつーに勝てねぇ。」

「でもあの朝倉って子も早くないか?予選の時、

一番後ろからだったけど、最後余裕で先頭だったぞ。」

 

始めて見る人にはインパクトがあるよな。

しかし俺は飽きている。その光景もう何回見たかな。ネタ切れです。一発屋芸人だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「茜。調子はどうだ。」

「センパイ・・・・決勝まで、来ましたよ。」

「知ってる。ずっと見てたもん。」

「…………」

 

決勝の時が近い。

スタンドから移動し、本人の様子を見に来た。

かなり緊張してるな。こっちの軽めのジャブに反応しなかった。

 

「・・・・覚えてますよね。優勝したら、お願い聞いてくださいね。」

「ああ。聞くさ。・・・ここまで来たんだ。

別に優勝しなくたって、一つくらい聞いてやる。」

 

「・・・・いえ、大丈夫です。優勝したら、聞いてください。」

「わかった。・・・・いいか。やりたいようにやれ。俺の事は気にするな。

俺にとっちゃ、既に胸を張って自慢できる後輩だよ。お前は。」

 

 

「はい。ありがとうございます。凪センパイ。」

「行ってこい。しつこい様だが、ケガだけはするなよ。ちゃんと体をほぐせ。

お前の人生も、選手生命も、まだ始まったばかりだ。

ここで燃え尽きるなよ。見届けてやる。」

 

 

言いたいことを言い、スタンドに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

スタンドに戻り、席に着く。

 

選手紹介が始まった。

 

「4レーン 旭高校 朝倉 茜」

 

茜の選手紹介。相変わらずカメラマンをガン無視でこちらに手を振っている。

観客席が少しざわつく。まあ、インターハイまで来たんだ。遠慮なく振り返してやる。

 

「あの・・・朝倉さんの関係者ですか?」

「え?ああ、はい。ちょっと訳がありまして。」

 

隣に座っていた見知らぬ男性二人組に話しかけられる。

 

 

「・・・・・あれ?もしかして・・・・有坂 凪?」

「え?俺の事をご存じなんですか。」

 

「も、もちろんです!中学校の時、キミのレースを見てたんだよ!超楽しかった!」

「そうですか・・・・ありがとうございます。ただ、今は陸上やっていないので。」

 

「残念だなあ・・・・」

「おい、その人そんなに有名なのか?」

「いや、有名ではないんだが、有名というか・・・・」

「・・・もうすぐ、始まりますよ。」

 

流石インターハイ。陸上フリークが多いようだ。

俺の事を知っているとは。中学の時にはしゃいでた弊害が出てる。

 

さあ。始まるぞ。

 

 

「On Your Mark.」

 

 

スタートの合図。

 

選手たちがクラウチングスタートのポーズをとる。

 

茜は・・・胸に手を当てて目をつぶっている。

 

8人の中で一番遅く、スタートについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Set.」

 

 

 

 

この12秒間。

 

俺に瞬きは許されない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァン

 

 

スタートが切られ パァン

 

・・・・フライングのようだ。仕切り直し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰がやったかはわからない。少なくとも茜ではなかった。

やっぱり一番遅かったし。まあ、あいつらしいか。

ちょっとだけ俺の緊張がほぐれた。

 

別にいいって。優勝なんかしなくても。

1つくらいなら聞いてやるから。お願い。終わったら後で聞こう。

 

 

さっきは俺も中々バカだったな。

これから決勝だってのに別に優勝しなくていいよだなんて。

 

出来るかどうかは別として、優勝したいに決まってるじゃん。

だからあんなこと言ったんだろ。自分を鼓舞するために。

それくらい察しろよな。俺もテンパっていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「On Your Mark.」

 

 

スタートの合図。

 

今度は茜が真っ先にスタートに付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Set.」

 

 

 

行ってこい。

俺にとってはこれが最後のランだ。

思うがままに走れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァン

 

 

始まった・・・・・何!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

茜が、完璧なスタートを決めている!

 

 

 

 

 

 

 

スタートは他よりも間違いなく早い!

 

しかしライバルも完璧なスタートを決めている。

完全に互角だ、実力勝負。これはわからない。

1レーンと4レーンの完全なるマッチレース。他は離される一方。

 

 

 

残り50を切ったがまだ並んでいる。

 

どっちが先頭なんだ。この角度からでは全くわからない。

 

早く結果を教えてくれ。

 

 

 

・・・・・そのまま、並んでゴールに入った。

 

スタンドからではよくわからなかったが・・・・正面のモニターを見る。

 

 

ゴールライン真横からのスローモーションが映し出されているが・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・間違いなく、わずかに・・・・ライバルの方が前に出ていた。

ここに来て、体格の差が出てしまっただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トップランナー浅井は11秒55。この決勝でパーソナルベストと同タイムを出してきた。

なんという勝負強さ。・・・王者だな。

茜は・・・11秒59。・・・・大したものだ。これは名勝負だった。

明日のニュースで話題になるだろう。こんなハイレベルな勝負、今まであったんだろうか。

 

 

ほぼコーチ無しのお前が全国トップにここまでやれるんだ。

ちゃんと陸上に専念すれば、この先間違いなく逆転できる。

 

将来を楽しみにしておこう。俺高校のときあいつの面倒見てたんだぜ。

そう自慢できる日は遠くないかもしれない。後で証明のツーショット写真撮っておこう。

 

 

スタンドから降りて、控室に向かうことにした。

インタビューが終われば、帰ってきてくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「茜!よくやった!素晴らしい走りだったぞ!」

「・・・セ、センパイ・・・・」

 

茜は顔をくしゃくしゃにして泣いていた。

・・・・悔しいよな。あと少しだったのに。

 

「・・・惜しかった。だが、大差をつけての2位だ。胸を張っていい。」

「・・・・・・はい・・・・」

 

「・・・そう泣くな。大丈夫だ。これから先、充分逆転の芽はある。

大学、社会人になれば、お前の方が前に立っているはずだ。俺にはわかる。」

「わたしも、そう思います・・・・でも・・・・・そうじゃないんです・・・」

「・・・・え?」

 

 

「センパイ・・・・自分は・・・・弱い人間です・・・・

信念を曲げたのに・・・勝てませんでした・・・・」

「・・・・・・茜・・・?」

 

 

茜はそう言って、いつまでも泣いていた。

 

 

 

・・・・なんだ?どうしてこんなに泣いている。

 

 

 

わずかに届かず、悔しかったとは思うが・・・・自己ベストを大幅に更新したんだぞ。

いつものお前なら、喜んで抱き着いてくるだろう?

地区ブロックでは2位だったのに、こんな事にはなっていなかったじゃないか……

 

 

涙の理由がわからず、俺はこれ以上声もかけられずに、その場に立ち尽くしていた。

 

 

 

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