101-5
・・・・・・・玄関は既にドアが閉まっている。施錠はされていない。
ドアを握りしめ・・・・
開く。
下駄箱から上履きを取り出し、履き替える。
足音を殺し、階段を昇る。
目的のところへ移動する。
・・・・着いた。ドアに手をかけ・・・・・
開く。
「・・・電気はつけるべきだ。キミは目が悪いだろう?」
「五月。」
「え・・・あ・・・・な、ナギくん・・・・」
教室の電気をつける。
イスに座り、机に本とノートを開いていた。筆記用具もある。
座っている場所は自分の席ではない。窓から光が差し込む場所で勉強していた。
「なんだよ。やっぱり勉強してたんじゃないか。予想通りだ。」
「・・・・ここへ、何をしに・・・・」
「おいおい。キミが呼んだんじゃないか。俺と二人きりで話がしたいんだろう。
嘘でもついたのかい。一本取られてしまったね。」
「確かに・・・そう、書きましたが・・・・」
「さて。それは・・・・社会か。この時間だ。30分だけなら付き合おう。」
「・・・・え!あ、でも・・・・」
「ペンを持ちたまえ。時間は無駄にしない様に。
五月が大学に落ちたら俺も落ちたようなもんだ。言っただろう。俺達二人は、共同体だと。
キミだけ落ちてしまうのは許さない。俺が落ちてしまうのと同じくらいおおごとだ。」
「は、はい!」
「始めよう。」
「お願いします!」
「あちゃー。電気、ついちゃったなぁ。
・・・おめでと。五月。私も茜ちゃんみたいに強引にキスしちゃえばよかったかも。
・・・・ほっぺたで満足しちゃった。」
「教室の、電気が・・・・
・・・・・この前、思い出を貰っておいて正解でした。
えへへ。これから何をしようとも、凪センパイの初めては私のものっす。
それで・・・・・がまん、します・・・・」
「・・・・よし。30分。頑張ったね。」
「ありがとうございました。」
いつも通り、勉強を終えた。これでいい。何も変わらない日常。
求めていたのはこれ。
これがいつまでも続いてしまえばいいのにね。
「・・・・とりあえず、外に出ようか。いつまでも学校にはいられないよ。」
「はい。」
「俺がさっきまで居た公園に行こう。」
ある公園に来た。ベンチに二人座る。
見上げれば、既に星空。満月に照らされている時間だ。
「これで良ければ、飲むかい。」
「あ、ありがとうございます。」
「悪いね。流石にカレーは売ってない。」
「そ、そんなジュースはありません!」
「いつか出るんじゃないか?コーンポタージュの缶もあれば、
カレーうどんのカップ麺もあるくらいだからね。」
自販機で買った酸っぱくてあったかい奴を渡す。
冷えるからな。風邪をひかないように。
「無堂との一件は、しっかり片付いたのかな。」
「はい。今の私達なら、負けません。お父さんも来てくれました。」
「よかった。結局俺は見に行っていなかったからね。少し不安もあった。」
「約束、守ってくれたんですね。嬉しいです。」
中野父も参戦したならまず負けないな。
あの人こわいもん。違う世界でヤクザの組長とかやってそう。
「さっき、四葉くんとここで出会ってね。
どうやら、風太郎に言われて俺の様子を伺っていたらしい。」
「四葉と、上杉くんが?・・・そうですか、二人が心配するほど、
ナギくんを追い詰めてしまいましたか。申しわけありません。」
「そうだね。でも終わってみれば簡単な事だったよ。
俺が一番会いたかったのは・・・・五月。キミだった。」
「・・・ほ、本当に、そうなんですか。」
「信じられないのかい。・・・・目を瞑れば。思い出すのはキミの顔さ。
今でも脳裏に焼き付いている。あの時、最初のテスト、
一人で自習をしていた時にした俺の独り言。
あの後、初めて俺に対して面と向かって微笑んだ。・・・・とても素直で真っ直ぐな眼。
その顔がいつも思い浮かぶ。だから、五月だけはわかったんだよ。旅館の五つ子ゲーム。」
「そう、なんです、か・・・・」
「そう。今もそうして俺から視線を外さない。だから、自然と覚えてしまう。
礼儀正しさというのは大事だね。話を聞く人をちゃんと見つめる。
これだけで印象が良くなる。・・・・本当に素敵な眼だ。」
武田くん。頼りにならないと言ったが、あれはいいアドバイスだった。
【一体彼女たちの誰から見分けられるようになったんだい?】
それが決め手だったかもしれないな。
色々吹っ切れるのに少し時間がかかってしまったが。
「五月。・・・俺も、風太郎と同じように皆が好きだ。
だけど・・・・他の4人とは違い、五月が特別に好きだ。」
「はい。」
「答えは・・・・聞かないことにしよう。手紙に書いてあったね。まだ、わからないと。」
「いえ。・・・もう、わかりました。」
「おや、そうかい。」
「でも・・・・今は、喋りません。」
「私は・・・・まだ、あなたに憧れを抱いています。対等な立場に立ってません。
・・・・大学に合格したその日に、答えても良いですか。」
「良いね。楽しみだ。なら、明日からも一緒に勉強しないといけないね。」
「はい。お願いします。」
「約束をしよう。指切りだ。小指を出して。」
五月とゆびきりげんまん。
切りたくないなあ。これ。離したくない。
まあいいか。明日からもいつでも会えるし。しばらくの辛抱だ。
「送っていくよ。」
「はい。」
「では、ありがとうございました。」
「ああ。また、明日。・・・・あ、ちょっと待った。失礼。」
「え?・・・きゃ!」
腕を掴んで、こちらに引き寄せる。
ちょっと強引だったかな。五月の体を真正面から抱きしめる。
・・・うん。良いね。幸福を感じるよ。
やはり、俺の気持ちは間違っていなかったらしい。
「あ・・・・」
「悪いね。急にこうしたくなった。」
「・・・・いえ。びっくり、しましたが。」
「ごめんごめん。・・・・うん。満足だ。」
五月を解放した。充電出来た。
「では、さようなら。また明日を楽しみにしているよ。」
「はい!」