「おい、凪。結局どうなったんだ。」
「うるさい。お前には教えない。自分で考えろ。」
「はあ!?」
「問題を解くのは得意だろう?上杉先生。」
翌日の教室。真っ先に風太郎に聞かれた。
教えるわけないだろ。まだ許してねぇぞ。ぼくこの人きらい。
・・・・まあ、ちゃんと思い出したら修学旅行は四葉くんによって
三玖の好意が伝わっていたから、風太郎があの時知ってるのは当然なんだけど。
俺も気が動転してて忘れてた。
「あの、ナギくん。」
「あいよー、どこだーい。」
「ここなんですが・・・」
「ここね。これは・・・・」
五月から勉強の依頼が入ったので快く答える。
今日は頻度が高い。まあ、そりゃそうだ。共同体だからな。
本当に遠慮はいらない。何でも来い。全て捌いてくれる。
「ほう。そういう事か。」
「だから言ったじゃん。んな事すぐばれるからな。」
ノンデリカシー上杉も流石に察したらしい。やればできるじゃねぇか。
「五月、どうだ!凪の教え方が悪ければいつでも俺が教えてやろう!
なんたって全国3位だからな!頭の出来が違う!」
「この場合の化学式は・・・」
「これちょっと面倒なんだよねぇ。」
「聞けよ!」
なんか一人うるさい奴がいるがシカトを決め込む。
この教え子だけは譲らんぞ。
「お前は四葉くんと遊んでこいよ。」
「しかしだな・・・・いざ付き合うとなると、どう接すればいいかわからん。」
「いつも通りで良いじゃないか。お前も勉強教えてやれ。
体育大学の進学でも多少勉強出来ないとダメなんだろ?」
「そうだが・・・・」
「一花も二乃も三玖も勉強の心配がほぼ要らないからな。
四葉くんはキミで五月は俺で良いじゃないか。ピッタリだ。」
「・・・確かに。それでいいか。」
「あと、デートでも連れてってやれさ。」
「それこそどこに行けばいいんだよ・・・・」
「一回デートしただろ?リボンを買いに行った時に。その時どこへ行った?
どうせ四葉くんにリードされたんだろ。同じことをそっくりそのまま返してやれよ。
当然、場所は変えてな。」
「同じことか、あの時は確か・・・・・・・・考えておくか。」
風太郎は考えながら去って行った。
心配はいらないと言ったが、正確には一花は卒業させるための学力が必要ではある。
今はあくまで休学中。
まあ・・・・こちらで面倒を見よう。一花なら問題ないだろう。
そこまで聞き分けのない子じゃないはず。
放課後。
「ナギくん。今日は家に来ますか?」
「うーんとね。陸上部にちょっと決着付けに行こうかな。」
「茜ちゃんですね。有耶無耶にしないで、片付ける事は片づける。そういう所、好きです。」
「ありがとう。そういう訳で、申し訳ないが、一人で先に行ってくれるかい。
・・・まあ、卒業まで陸上部には顔を出さないといけないかもしれないけど。」
「はい。待っています。」
「ああ。」
陸上部に顔を出す。
茜の様子を見に来た。あいつは2年だからな。高校もまだまだ現役。
さて、どんな事言われるかな。恐らく、五月を選んだという事まで理解しているだろう。
そこまで察しの悪「危ねぇ!!」ビュン
「あれ!外した!やるじゃないですかセンパイ!」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってやがる。見切った。」
ご挨拶と言わんばかりに視界外からタックルを決めてきた。
はえーよ。お前1年の時よりスピードが上がってキレが増してるんだから。
ケガするって。本当に。
「もー。ショックっす。乙女の純潔をささげたというのにセンパイには他の女が。」
「俺からしてみたらお前こそが他の女なんだが。
つーかお前が勝手にささげたんだろ。あと俺の盗んでったし。」
「酷いっす!本当に都合のいい女じゃないっすか!」
「ビジネスライクと言え。仕事上の付き合いです。」
全く変わらないやり取りを交わす。
特段変わっては居ないようだ。良かった良かった。
「卒業までは面倒見ると言ったからな。ちょっとだけ見てやる。」
「フツー来ます?振られた女の面倒なんか見に。」
「じゃあかえっていい?」
「ダメっす!見てくっす!全国2位の走りなんか早々お目にかかれないんですよ!損です!」
「1時間だけな。」
「つれないっすねー。まあ良いですよ。」
しばらく、練習を見ることとした。
もう普通にスタートは決めている。
11.6秒前半を連発。最初からやれやマジで。遊んでんじゃねぇよ。
中学校の俺よりよっぽどタチが悪い。
「よし。では俺はこの辺で帰る。」
「え~?もうちょっと居ましょうよ。」
「馬鹿言うな。凪センパイは一途だ。惚れた女を優先する。」
「ちぇー。」
1時間経ったので帰ることにする。
・・・・五月からメールが入っていた。
『今日はお父さんが帰ってきました 来ない方が良いかもしれません』
・・・らしい。
学園祭の後から中野父が定期的に帰ってきているとは聞いていた。
何かあったんだろう。無堂との一件を片付ける時、父親も巻き込むと言っていた。
その時だろうな。結果的に、家族の絆が深まったわけだ。
あのハゲも悪い事ばかりではなかったな。
『わかったよ。ありがとう。丁度今から帰るところだった。』
「言っておくぞ。これから先、陸上部にはそこまで来ない。センパイ離れの時間だ。
だが、言われた通りお前の活躍はチェックする。それでいいな。」
「う~~。もう一つ、追加条件をもうけるっす。」
引き上げようとした時にそんなことを言われた。
諦めの悪い奴め。
「あぁ?んだよ。」
「・・・もう一回だけ、今度はセンパイの方から、思い出、ください。」
「・・・・あのさあ。」
何を言い出すんだよこいつ。やれるわけないだろ。キスの事だろ。
絶対ダメ。繰り替えす。容易に想像できる。そもそもキスで満足するかどうか怪しい。
押し倒されるかもしれん。
「あといっかいだけ!それですっぱり諦めますから!」
「ダメだ。もうやらん。こんな事を続けたらズルズル引きずる。それは困る。」
「もー!!全国2位ですよ?上杉さんより凄いんですよ!
それくらい良いじゃないっすか!」
「どういう理論なんだよ・・・・・」
わけがわからない。しかし何かしらをしてやらないと収まらないらしい。
・・・・仕方ねぇな。特別だぞ。あの子直伝だ。よく味わえ。
「・・・・わかった。1度だけだ。そして口にはしない。」
「え!!良いんですか!!」
「一瞬だ。よく覚えておけ。二度としないからな。」
「は、はい!」
真正面から向き直り、茜の顎をくいっと持ちあげる。
「え!?せ、センパイ・・・・」
「動くな。照準がずれる。」
なんだ?唇に来るとでも思ったか?
言っただろ。口にはしないと。今の俺にはお前をからかう余裕がある。
あの時とは違うんだよ。女優さん直伝の技を見せてやるよ。
途中まで顔を近づけて
から急に進路変更。左の頬に口づける。顎を掴んでいた俺の手がびくっと震えた。
「あ・・・・は・・・・えへ・・・」
「これでおしまいだ。じゃあな、失礼するぞ。」
「・・・・・・・・・・・・・・あ、あの。もういっかい」
「もう絶対ダメ。言っておくぞ。
またやったらもうお前には二度と連絡しない。絶交だ。
これまでの記憶も含めお前の事を頭から抹消する。
お前の方からやっても同じだぞ。次やったら、お前だろうが平手打ちを喰らわせる。」
流石にもう線をバッサリとひかせてもらう。二人を分かつ線。
一方から近づいてきても、その線でバリアをする。
二つの線は交わらない。平行を成立させる補助線。
というか、困らせることはしないというのは何だったんだよ。
ちゃんとやってくれ。
「ぐ・・・・ぐぬぬ・・・・ただ・・・・ビンタを喰らってみたい気も・・・・」
「どちらか選べ。もう一度やって俺を永遠に断ち切るか。
それとも諦めて今後も友達として付き合っていくか。
絶交を選んだところで、一度しかしないからな。」
「むむむ・・・・諦めます。」
「よし。良い子だ。ちゃんと覚えておけ。値千金だぞ。」
「・・・・・はい。今までありがとうございました!」
1カ月に1回くらいは見に来てやる。
卒業まではな。巣立つ時が来たんだよ。
「え・・・・今日はフータロー君が来るはずじゃ。」
「違うんだなぁこれが。フータロー君は四葉くんとイチャついてます。」
「ほ、本当?」
一花の宿泊先であるビジネスホテルに出向き、家庭教師を実施。
こちらも早めにケリをつけておく。風太郎に連絡して順番を変わってもらった。
一花はデスクの前の椅子に座っていた。俺はベッドに腰かける。
「おらー。勉強すんぞ。解説用の教科書開けー。」
「待って待って。今日はこの紙でしょ?終わってるから・・・」
「なんと」
そういってお手製問題集を見せられる。
風太郎から指示を受けて俺がパソコンで作っているものだ。
・・・・確かに。終わってる。
「じゃあその続きからやるぞー。」
「い、いや。今日はほら。久しぶりに会えたし、おはなししたいなー?」
「・・・・まあ、いいけれど。」
話だけならメールでも出来るんだけどな。
雰囲気やムードが無いか。
「五月ちゃんとはどうなの?順調?」
「順調じゃないね。」
「え”!?」
「だって告白の返事保留されたからね。」
実質OKだとは思っている。大学合格したら正式にってだけで。
まあそこまで話さなくてもいいだろう。この人に手の内を全て明かさない方が良い。
今の俺のメンタリティなら一花おねーさんに対してだってイニシアチブが取れる。
誰にも負ける気がしねぇ。どいつもこいつもかかってこいや。
有坂 凪は最強であり無敵。覇道を歩む者。
恋っていいもんですね。好きです五月さん。一生一緒に居てくれや。
「ほ、保留?確かにあの手紙にはわからないって書いてあったけど・・・」
「まあ、重要なのは俺は誰を好きなのか。その一点だけだし。」
「そうだけど・・・・何とも思わないの?」
「いんや?五月らしくて良いじゃないの。
俺とのことを真剣に考えてくれてるんだ。俺は散々キミたちを待たせたからね。
今度は俺が待つ番だ。考える時間なら、いくらでもあげるさ。どうぞどうぞだ。」
俺が時間くれって言ったのに、いざ俺が待たされる立場になったらダメです。
それは通らない。ダブルスタンダード。当然ながら俺も五月を待つ。
待たなければ不公平。
「ナギ君に、はっきり好きって言った、わたしの事は・・・・・
選んでくれなかったんだね?」
「そうだね。真っ先に頭に浮かんだのは五月だったね。一花じゃなかったね。どんまい。」
「むむむ・・・・そんなにバッサリと・・・・うぅ・・・」
女優としてのプライドが刺激されているらしい。
仕方ないじゃん。だって俺は五月が好きなんだもん。君とあの子は似て非なる者。
一花くんNO THANK YOU。これからも友達でいましょう。
「まあでも、ナギ君なら安心だね。五月ちゃんのこと、お願いね?」
「勿論。絶対に合格させて見せるさ。」
「これなら・・・・口にキスしとけばよかったなあ。
茜ちゃん、頭良いんだね。やっぱり・・・・」
「なにもきこえませーん。ほっぺで我慢しなさーい。」
危険な発言をしたので検閲。頬にキスは修学旅行の時にされた。
しかしマズいぞこれ。茜と同じ流れになりかねん。
「ねえ・・・ナギ君。今なら他にだれもいないよ?」
「そうだね?」
ここは密室。ホテルの一室。
イスが無いので俺はベッドに座っていたんだが、
椅子から立ち上がって一花がこちらににじり寄ってきた。
「ここなら、何をしてもバレないんだよ?」
「・・・そうだね?」
・・・軽く押され、ベッドに倒された。仰向けの形。
「キス以上のことだって、できるよ?」
「・・・・・・そうだね?」
・・・・・仰向けの俺、そこへマウントを取ってきた。
いや、あの・・・・・身動きが取れない・・・・
あとはだけたワイシャツから谷間が見えるんですが……
「・・・試してみたく、ならない?」
「いや全然?」
「もう!淡泊~!」
「だって五月が好きだし。そんなドラマみたいに媚び売っちゃダメです。
その手は通用しません。・・・・五月の変装をしてもわかるからね。
学園祭のあの一件から、俺にも少しは愛が芽生えたようだ。キミと五月は簡単にわかる。」
濡れ場を狙った女優さんを遠慮なく弾いて脇に転がす。全く抵抗はなかった。
おねーさんなりのシャレだったようだ。
俺が首を縦に降っていたら、どうなったかはわからんが。
学園祭の時は遠目からでも一花が二乃だと気付くことが出来た。
四葉くんがいつしか言っていた。愛さえあれば見分けられると。
そして撮影現場は散々見てきている。
修学旅行でもウソ泣きに一度騙されている。
プールでは一花の肌にまで触れている。
もう効かんよ。そのファシネイションは。良い予防注射でした。抗体が出来ている。
この有坂 凪には正しいと信じる愛がある。そして今の俺は鋼の意志がある。
茜は身内じゃないから1万歩くらい譲って最悪良しとしたが、
五月の身内である一花には、はっきりと否定しておきたい。
二つの線は平行。交わらない。
キミが上に折り曲げたのなら、俺も同じ角度だけ折り曲げる。
しかし、あくまで五月の身内。関係を悪くしてもメリットがない。
下に折り曲げて離れようとするのなら。同じ角度だけまた下に折り曲げて追尾する。
つかずはなれずの距離をキープ。
「ドラマと一緒にしないで欲しかったな・・・・」
「俺としては一緒の方が良かったよ?」
潤んだ眼でこっちを見つめてくる。
あらー。優しくて決意にあふれた眼が。こんなんなっちゃった。
今の君の眼はいつものように凛々しくないねぇ。その眼には憧れません。
「う、うう・・・。」
「はーいそんな目で見てもダメでーす。勉強しますよおねーさん。」
「おねーさん・・・・そっか。五月とナギ君が結婚したら、わたしはナギ君のお姉さん!」
「そうだね?幾分か気が早いけど。」
「それで我慢しよっか。頑張ってよ!おとーとくん!」
「いってぇ!」
背中をバシンと叩かれる。
なんか知らんが一花は満足したようだ。
「前のお父さんの事があって、五月ちゃん、恋愛に対しては潔癖だから。
そのあたり、ちゃんと考えないとダメだぞー?」
「肝に銘じておきましょう。」
一花と茜の二人とは一応こんな関係だ。変にぎくしゃくした感じはない。
他の誰がこれを見てどう思うかは知らないが。俺は良いと思う。
俺と五月がどう思うか。それが一番大事なのだから。