「凪。次はお前の番だぞ。」
「は?何が?」
卒業式も終わり、上杉家で引っ越しの手伝いをしていたら、風太郎にそう言われた。
何の話だよ。主語が足りねぇ主語が。
「お前、俺たちのデートをつけてきてただろう。」
「ああ、あれね。」
「お兄ちゃんデートしたの!?」
「次はお前の番だぞ。」
「いやだから何がだよ。」
「四葉さんとどこ行ったの!?ねー!」
「俺たちもお前らのデートをストーキングする。」
「は?」
「ナギさんも五月さんとデートするの!?」
「という事だそうです。」
「は、はあ。そうなんですか。」
春休み中、五月をデートに誘った。今は中野家マンションの前にいる。
あいつが日取りを教えろと言ってきやがったので正直に教えた。
教えなかったところで五月の動向がわかる姉妹に多分バレるし。同じこと。
「しかし、いきなりデートと言われてもねぇ。」
「そうですね・・・レビューも来てません。」
M・A・Yさんは本日お休みらしい。
うーんどうしよ。・・・・卒業シーズンですからね。思い出を振り返ろう。
「よし。今までの事でも振り返るとしようか。」
「振り返り、ですか?」
「そう。五月とは大体一緒にいたけれど、当然、他の4人とも一緒にいた。
その4人とどんなところに行ったか、案内しよう。」
「良いですね。私も知りたいです。」
五月と手を繋ぎ、歩き始めた。
まあ、何処かからあいつらも見てるだろう。上手く隠れてくれよ。
見るのは構わないから。雰囲気さえ壊さなきゃいいよ。
「いらっしゃいませー。あ、有坂くん?久しぶりだね。」
「ごぶさたでーす。その節はウチの連中がどーも。」
「ナギくん?このお店は・・・三玖がバイトしてた?」
「そう、こむぎ屋です。」
ケーキ屋向かいのパン屋、こむぎやに来ていた。
店長お疲れ様です。マジ感謝っす。お陰で修学旅行の三玖は羽ばたきました。
結局振られちゃったけど。
ちなみに俺は顔と名前を覚えられている。
三玖がバイトする前から顔は覚えられていたらしい。
この店のチョココロネが好きで定期的に買いに来ていた。
「修学旅行の前、俺は四葉くんとここに来たんだ。
三玖はここでパンを作って、修学旅行に持って行って風太郎に食べさせる計画だった。
それを四葉くんと一緒に応援していたよ。真っ黒こげのパンが出てきたり。」
「あはは。懐かしいな。三玖ちゃん、専門学校受かったんでしょ?」
「そうなんです。おかげさまで料理の学校に。姉妹がお世話になりました。」
「いつかウチの店を継いでもらおうかな・・・・」
「んなこと考える年じゃないでしょう。」
気が早いって。この人年齢いくつよ。
わかんねぇ。
「なにか買っていこう。お昼はまた別のものを食べます。
歩きながらつまめるものを1つ。」
「ふふ。買い食いですね。まだ高校生です。」
俺はお気に入りのチョココロネを買い、五月はメロンパンを買って外に出た。
歩きながらあの日の道を、思い出を遡る。
・・・そう、あの時は四葉くんと帰っていた。
「・・・・この公園で、ここに座り、一緒にパンを食べていた。」
「四葉と・・・なんですよね。」
「そう。四葉くんとの思い出だ。そしてこの日は・・・俺が君に手紙を渡した日なんだよ。」
「・・・そうですか、確かにあの日、四葉と一緒に帰ってきていましたね。」
俺が二人の気持ちを知ってしまった日。
今となっては、これもまたいい思い出。
「春休み。あの旅館で五月に化けて、俺に話をしたのは・・・・四葉くんだった。
だから聞き出した。なんでそんなことを言ったのかと。」
「・・・・・・・」
「今思えば、理由はある程度予想ついていたし、聞き出す必要もなかった。
ただの答え合わせだったな。
このやり取りで、俺は気づいた。一花と五月に好かれていることを。
そしてあの手紙、屋上の1件とつながったわけなんだ。」
「そうだったんですか・・・・四葉に、感謝しなくてはいけませんね。」
「そうかい?」
「はい。それが無ければ、
きっと今ここでこうして、穏やかにパンを食べては居なかったですから。」
「それもそうだね。」
にこやかな表情。良い顔だね。相変わらず素直で真っ直ぐ。
そんなことを考えていたら、あいつらが見えた。公園の遊具の陰からこっちを見ていた。
もうちょっとちゃんとやって欲しい。らいはちゃんの髪が見えてんだよ。気づけよ兄貴。
一花まで居るし。仕事どうした。まあ、五月は気づいてないっぽいので良いか。
「さあ、次の場所へ行こう。移動したら、丁度お昼の時間かな。」
「わかりました。楽しみにしておきますね。」
「五月のお気に召せばいいけれど・・・・」
「このお店ですか?」
「そう。中々だよね。」
「まず入らないですね・・・・」
来たのはあの焼肉屋。俺はもう常連の域である。
「ここは、二乃と来た。ちょっと前は三玖もいたな。」
「二乃がこのお店に?良く入りましたね・・・・」
「連れてきたのは俺だからねぇ。」
あの6人入れるのか?ここ狭いぞ。
まあ良いか、そんなの気にしなくて。ついてこれないキミたちが悪い。
俺は悪くない。
「おススメはありますか?」
「ミスジだね。まあ、これはこっちのタイミングで注文するよ。
食べるタイミングが大事なんだ。好きなものを選んでいいよ。」
「わかりました。」
五月、意外と肉が好きなんだよね。
この間のステーキを食べてる風景で気づいた。
妖怪カレー食い女ってどっかの上杉さんが呼んでたからカレーの事は知ってたけど。
焼肉はピッタリで良かった。
「ここは、五月と二乃がケンカした時、二乃と一緒に来たんだ。」
「あの時ですか。・・・その件については真にご迷惑を・・・」
「ははは。良いんだよ。お陰で二乃が俺の事を名前で呼んでくれるようになった。
五月も、俺の家にきてくれたからね。
・・・・そういえば、なんで俺の家を知っていたんだい?」
「上杉くんが、教えてくれたんです。」
「風太郎がね・・・・」
「最初は、知らなかったので、上杉くんの家に行こうとしてました。
でも、向かっていた途中にメールが入って・・・・ナギくんの家の場所が書いてありました。」
「なるほど。聞いたわけではなく、向こうから教えてきたと。
その時点からあいつは・・・・・」
風太郎は、この時点から五月が俺に好意を寄せていることに気づいていたという訳か。
林間学校が終わった直後だ。かなり早いぞ。クッソ。気づいてなかったのは俺だけか。
五月からは尊敬の念だと思ってたのに。
まあ・・・・仕方ない。あの1件があってから俺は恋愛に関して心を閉ざしていたから。
見ない振りをしていたのかもしれない。
そんな事があるわけないから、そもそも考えから外れている という事。
「お待たせしましたー」
「「いただきます」」
「「ごちそうさまでした。」」
そこそこ食べたな。
五月は思ったよりも食べなかった。さっきのメロンパン、結構重かったのかな。
「あんなお肉があるんですね。」
「そう。素晴らしい肉だと思うよ。もっと皆に知って欲しい。」
「レビューの題材として良いかもしれませんね・・・・
それにしても、食べたタイミングも良かったです。
ナギくんに任せておけば、全部うまく行きます。凄いです。」
「お褒めの言葉どーも。君のカレシは案外出来る男なのです。」
こういったスケジュール管理は、事前調査が成功失敗の8割を占めていると思う。
残りの2割は現場でのトラブルや変化にうまく対応できるかどうか。
しかしそれも保険を事前に調べておけば、ある程度はカバー可能。だから比重は軽い。
「用意周到。仕込みと下準備をどれだけ詰めるかが、大事だと思うよ。
これは何事においてもそうだね。・・・指導においても。」
「指導、ですか?」
「うん。最初の中間テスト。五月に覚え方の話をした時、風呂場で話を組み立ててたんだ。
・・・どうすれば、話を聞いてもらえるかなってね。」
「ふふふ。そうだったのですね。とても、大事です。」
「さあ、出ようか。次の場所へ案内しよう。」
「はい。」
五月は満足そうに見えた。良かったよ。キミはグルメだからね。
「あ。」
「げ」
「あ、あはは。ナギ君、五月ちゃん、偶然だね?」
「な、なぎさんこんにちわー・・・・」
店の外に出たら順番待ちをしている6人に遭遇した。
風太郎、らいはちゃん、姉妹4人である。
君達まさかテーブル席が空くの待ってたのか。そう簡単には開かないよ。
2つしかないもんこの店。小さいし。
そして2つのうち1つは俺たちが使っていた。
テーブルは4席の物が2つ。全員で同時に同じ場所で食おうとするとテーブルが2つ必要。
つまり、俺たち二人が出るまでは入れないのだ。
「凪・・・・一つ言わせてもらうぞ。」
「なんだい。」
「デートでこの店を選ぶのはどうかと」
「上杉くんは何もわかってないんですね・・・・」
「な、なんだと五月?」
風太郎が何か言いかけたが、五月がカバーしてくれた。
まあね。この店はね。外観がね。肉食至上主義 ってでっかく書いてあるし。気持ちはわかる。
「今日はここで良いんです。そういうデートなんですから。
ほら、次の場所へ行きましょう!ナギくん!」
「うん。行こうか。」
「ちょ、ちょっと待て!俺たちが食い終わってから」
「お次にお待ちの6名様~」
店員が店から出てきた。俺達二人の後片付けが終わったんだな。
「上杉さん!私達の番ですよ!いきましょー!」
「ま、待て四葉!」
「お兄ちゃんお腹減ったよ~!」
「まあまあ、フータロー君。あとは五月ちゃんたち二人でゆっくりさせてあげよ?」
「フー君来なさい!この店のミスジをあたしが焼いてあげるわ!」
「二人とも、ごゆっくり。」
風太郎は店の奥へ連れていかれてしまった。
アホだなぁ。もう少し考えればいいのに。先に俺はカウンターで食うから とかさ。
店の下調べをしないからこうなる。準備が足りない例。
風太郎くんもこういう段取りを学びましょう。
彼はデートプラン立案とか初心者だから仕方ない。俺よりもインドア派だし。
「・・・・行こうか。食べた後だ。ゆっくり歩こう。」
「ええ。食後の運動ですね。」
まあ、ついてくるだろ。多分。
行き先は教えないが。
旧中野アパートへ向かい、共に河川敷を歩いていた。
取り壊しの工事は・・・・まだ始まってはいない。
ただ、工事業者による準備が入っているらしい。アパート周囲を仮設足場が取り囲み、
その足場の周りにグレーのカーテンがかぶせられていた。
恐らく、工具などの落下防止用の物だろう。
「・・・・3年に上がってから、2回、俺は学校を休んだ。
2回目の方は、五月が助けに来てくれたね。」
「はい。1回目も頭痛と聞きました。」
「あれはね・・・嘘なんだ。あの日、初めて仮病を使って学校を休んだ。
そして・・・一花とデートをしていた。」
「一花と・・・・デート・・・・」
「そう。登校中に一花と遭遇した。
途中までは一緒に通学していたけれど・・・・
急に手を掴まれて、学校をサボっちゃおうよ。ってね。」
「・・・・・・・」
この場所は、一花との思い出。他にもあるけどね。屋上と悩んだが、卒業後だしこっち。
「理由を聞いてもイマイチパッとしないから、話せない理由があるのだと思った。
だから、一日付き合って、はっきりさせようと思ったんだ。
・・・・結局、大した理由ではなかったね。午前中は一緒にアパートで勉強をして、
午後は風太郎の誕生日プレゼントを買いに行った。その後、カラオケボックスで俺のコンサートが始まった。」
「ソロコンサートですか?・・・・うらやましいです。」
「ははは。お望みとあらば、いつでも行こう。
そして、帰り道。この河川敷を歩いていたら、ある質問をされた。
旅館の時の五つ子ゲーム、どうして五月ちゃんだけわかったの。と。
・・・・・仮病を使った簡単な理由。嫉妬だったようだ。」
「一花がそんなことを。・・・・でも、わかるかもしれません。」
「そうなのかい?何か予兆があった・・・・」
「いえ、その後の話なのですが・・・・ナギくんが手紙をくれなければ、
私はその過去を知りませんでした。一花に避けられていたし、話をしてくれなかったので。
・・・・自分だけがナギくんの秘密を知っている。
きっと、その状況を手放したくなかったのかも・・・・」
「おお・・・・怖いね。独占欲かぁ。」
あの頃の一花、ちょっと怖かったんだよな。
俺の家を聞いてきた時も・・・・
夏休みが終わってからは、そんな様子はなかった。
夏休みが終わってから……そうか。自主退学の時だな。あれで落ち着いたのか。
風太郎が一花の相談に乗ったから。
「・・・まあ、そんなことがあってだね。その後、一花にあることをされた。
・・・・こんな風にね。失礼するよ。」
「あ・・・」
五月を抱き寄せて、顔を両手で優しくつかむ。
至近距離で見つめあう。
「・・・・ナギ・・・・くん。」
「・・・・こうして、わたしの顔を覚えて・・・・ってね。」
顏のホールドを離す。
が、まだ近いまま。
離れない。二人とも。
「・・・・・五月。」
「ナギくん・・・」
綺麗だね。見とれてしまうよ……
「ハァ・・・・ハァ・・・・ここに・・・」
「!?」
「はぁ・・・・・お前にはがっかりだよ。風太郎・・・・」
お邪魔虫登場。おいおい。折角チャンスだったのに。
キミは何回そのちゃぶ台をひっくり返すんだ。しかも今日は人の物だぞ。
俺のご飯だったのに。なんか意地になってるみたいだな。
まあ、この間は二乃が邪魔をしてしまったし。1度は許してあげよう。
「参ったね。もうお構いなしのようだ。次の場所に行こう。次が最後かな。」
「はい。」
「つ、次は・・・どこに・・・・」
「上杉さーん!隠れるところないんだから出てっちゃダメですよー!」
四葉くんの言う通り。ここはアパートの前の河川敷。遮蔽物が全くない。
言われてるじゃないか。ストーキングで四葉くんに言われるのはよっぽどだぞ。
後で一花とらいはちゃんによる鉄拳制裁が入るだろう。
「遊園地に行こうか。足は大丈夫?疲れてない?」
「はい。どこまでも、ついていきます。」
「ゆ、遊園地・・・・な、バカ!何をする!」
「…………アンタちょっとこっちに来なさい!」
違った。二乃の姉御によるヤキ入れが入った。首根っこを掴まれて引きずられていった。
正義は勝つ。悪は滅びた。