遊園地。
姉妹と来たのは、1度だけ。バイトでは何回か来ているが。
あの2年次3学期末試験。あの時のリフレッシュで来た。
「アトラクションに乗れる元気はありそう?」
「なんだか元気が出てきました!ジェットコースターに乗りましょう!」
めっちゃ元気だった。俺より元気。末っ子だった。
血が騒いでいるらしい。俺の気分はやっぱり一花おねーさん。
「お二人ですか?」
「はい!隣の席で!」
「はーい。こちらへどうぞー。」
ジェットコースターの発着場。係員に二人掛けのシートへ案内される。
乗るの初めてかも。五月は乗ったことあるのでノリノリ。
「ほら!手を繋ぎましょう?」
「え?危なくないっすか?」
「危ないですけど・・・・片手でバーを掴んでくれればいいですよ。」
係員がそんな事を言い出した。いやだめっしょ。
「え?安全的に大丈夫なんですかそれ?」
「良くないですよ?だから自己責任でお願いしますねー。ではいってらっしゃーい。」
「は?ちょ。」
「行ってきまーす!」
五月ノリノリ。右手をがっちりと掴まれた。
あの店員ふざけてるのか。適当過ぎてちょっと親近感湧いたけど。
マニュアル人間からは得られない何かがある。
「お疲れ様でしたー。」
「お疲れ様でした!」
「・・・結構怖かったなぁ。」
ジェットコースターを満喫させられた。
中々怖いんだな。途中で180度ひっくり返ったぞ。死ぬかと思った。
こんなコースを作るから事故が起きるんだ。
世の中には安全バーを上げてジェットコースターに挑むようなバカが結構いるんだぞ。
「次はあれに乗りましょう!」
「え。あ、はい。」
そのまましばらく連れまわされた。
ジェットコースターを降りてからは手のつなぎ方が変わっていた。
恋人繋ぎという奴だ。
「疲れましたね!」
「疲れたねぇ・・・・」
ホントに疲れてるのかな。元気だと思う。
俺にあわせているだけのような気もするが。それはそれで嬉しい。
テーブルで一休みし、一緒にポップコーンをつまんでいた。
「そういえば、なんでここに来たのか聞いていませんでした。」
「ここに来たのは・・・あれだね。」
観覧車を指さした。
「観覧車ですか?」
「そう。あれが目的。それを食べたら、乗ろうか。夕方だし。」
すっかり夕暮れである。
あの日もそうだったな。午後からはオフにしよう は上杉先生の談。
そうだ。風太郎にあの本を後で譲ってもらおうかな。
「特に連絡も打ち合わせもなく今日のデートが始まりましたが・・・・楽しかったです。」
「そう?」
「はい。100点です!」
「わー。」
かわいらしい彼女は満足してくれているらしい。良かったよ。
キミのいない間に何があったのか、話しておきたかったから。
今日のこれだけでは説明しきれなくて、まだまだたくさんあるけどね。
おいおいだ。
「いつか私も、お返しをしなきゃいけませんね。」
「期待しているけれど・・・・別の事が知りたいな。
俺は五月の事、まだよくわからないかもしれない。」
「そう、ですか?」
「うん。今までは、俺が自分の事を喋ってばかりだった気がする。
・・・ステーキや焼肉。肉が好きって気づいたのも最近だ。」
「わ、わかってしまいましたか。お恥ずかしい・・・」
「いや。良いじゃないか。俺も好きだし。良かったよ。満足してくれてさ。」
顔赤くして下向いちゃった。かわいい。嫌いな食べ物とかあるのかな。
今度、色々聞いてみよう。
しかしまあ、これもじっくりね。大学は一緒なんだ。いくらでも時間はある。
「では、観覧車に行こうか。」
「はい。」
「お二人ですねー。どうぞー。」
「はーい。」
二人手を繋ぎ、観覧車に乗る。
当然、隣同士。手を繋いだままに。
係員にドアを閉められ、観覧車の時間が始まった。
邪魔者はいないし、邪魔はさせない。
俺とキミ、2人だけだ。
前後の部屋にさえ、誰もいない。
「・・・・ここで、三玖の相談を受けたんだ。
3学期の期末試験で1位になったら、風太郎に告白するんだと。」
「期末試験で・・・・そのころから、三玖は上杉くんの事を。」
「そう。知らなかったかい。」
「私が知ったのは・・・・3年生になる前に、旅行に行った時です。」
かなり遅いな。
・・・・ん?では、あれはどういう事だったんだろう。
てっきり三玖の恋心に気づいていたと思っていたのだが。
「・・・林間学校、リフトに乗っていた時に言っていたよね。
姉妹の誰かが風太郎に惹かれていることを知ったと。
それは誰だと思ったんだい。」
「それが、わからなくて。初日の旅館の時、
朝に一度、ナギくんを外に探しに行って、部屋に戻ったら・・・・寝ている上杉くんの隣で、
誰かが起きて、寄り添っていて。窓から差し込む光で、誰かはわかりませんでした。」
「・・・・・ああ。あの時、部屋の前で立っていたのはそういう。」
あの時、俺は一度朝風呂に入っていた。
五月は俺の後に起きた。一度俺を探しに部屋を出る。
見つからずに部屋に帰ってきたところ、その光景を見てしまい、驚いて一度部屋を出たと。
そしてどうしようかと考えていたところ、俺が風呂から戻ってきた。という事らしい。
誰だろうな。タイミング的には四葉くんか三玖のどっちかとなるが。
「・・・懐かしい。風太郎と一緒の布団に入ってたな。俺。」
「みんなで悩んだんですよ?誰が隣で寝るのかを。
折角みんなわからないように髪型を変えたのに。」
「俺たち二人は最初からど真ん中で寝るって決めてたけどね。
ただ・・・・君たちが風呂から帰ってきた時、風太郎は寝てたが、俺はまだ起きていたんだ。
そういえばあの時、隣で寝ていたのは・・・一花だったな。」
右隣は風太郎。左には一花が居たはず。
ん?・・・・まさか、一花はあの時から俺の事が?
林間学校の倉庫で泣いたのも・・・・
「・・・・・・・・・」
「ど、どうしました?ナギくん。」
「いや・・・・俺はアホなんだなぁって。
女性の気持ちを理解するのは、簡単じゃないね。難題だ。」
そういえばこうやって三玖と観覧車に乗っていた時、
一花も風太郎が好きなんだよなと考えていた。
改めてひどすぎる。相当鈍感だぞ。俺。
「ふふふ。・・・・じゃあ、今、私が何をしたいかわかりますか?」
今したいこと?手は・・・繋いでる。
なんだろ。
「・・・・・・・・・・・」
「ヒントは・・・さっき、言いました。」
「さっき・・・・」
どの発言の事だろう。
・・・・・・
少し自信が無いが、これかな?相棒、技を借りるぜ。
「・・・・・これでどうだい?」
「ふふ。正解です・・・・」
一度繋いでいた手を離し、五月の左肩に手を回す。
体をこちらに預けさせ、俺の体……肩を枕代わりにさせる。
上杉先生直伝。
「・・・本当に疲れていたんだね。俺に合わせてくれたんだとばかり。」
「はい。楽しかったです。だから、疲れているんです。」
「・・・では、疲れているところ申し訳ないが、正解のご褒美を頂こうか。」
「え・・・・あ、はい。ご褒美、ですか?」
観覧車は頂上。前後に誰もいないのは確認済み。
先ほど外を見たら、あの6人はその辺にいた。観覧車には乗っていない。
俺たち二人が乗ったのを見て、諦めたんだろう。
やりたい放題出来る。
……だから。
俺の体を少し左に向け、右手を五月の顎にかける。
顎下、喉との境目の部分を少し撫でる。
ネコの喉を鳴らすかのように。
少し顔を近づけ、目の前で一度止まる。
・・・・・確認の為。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
薄眼と視線を交える。
そう。この眼。俺が好きになったのは、この曇りのない愛おしい眼。
愛する眼から視線をそらさずに、じっと見つめあう。
「・・・・・・・・・」
五月が、目を瞑った。
つまり、そういう事。
顔を近づけ・・・・口づけを交わした。
・・・・別に、これだけ。舌を絡める?そんな馬鹿な真似はしない。
言ったはずだよ?インファイトにはまだ早い。
だが・・・唇を併せる時間は長く。
長く。この感覚に浸っていた。
「・・・・・・・・」
唇を離す。・・・俺は満足した。
場所、反対にすればよかったかな。ごめんね。・・・キミには眩しかっただろう。
俺の後ろで、夕焼けが輝いていた。
忘れるなよ そう言っているかのように。
「・・・・ははは。本当に眠そうだ。一度、ゆっくりすると良い。」
「・・・・はい・・・」
「俺の膝で良ければ、貸そう。」
五月を寝かせて、膝を貸す。
ちゃんと眠そう。時間をかけすぎてしまったかな。硬い枕だろう。ごめんね。
長い髪が地面に落ちないように。座席の上に梳き上げる。
「・・・・おやすみ・・・・なさい・・・」
「・・・・うん。」
頭を撫でられながら、五月は眠りに落ちていった。
「・・・・・・・・」
もうすぐ観覧車が終わる。出発地点近くまで下がってきた。
まだ五月は寝ているようだ。外に向かって手を振り返す。
そろそろ起こさないとだな。つか、足しびれてきた。
動けないって辛いんだ。献血の時も辛いし。
「・・・・そろそろ・・・」
小さく呟きながら、また髪を撫でる。
耳を、頬を。・・・やわらかく、綺麗。美術品のよう。
髪を、顔を。あちこちを撫で回し、優しく起こす。
グー
「・・・・遠慮してたのか。ちゃんと食べればよかったのに。」
五月の腹の虫が鳴った。あらら。
やっぱり昼の量では満足していなかったらしい。遠慮なく食べれば良いのに。
でもさっきポップコーンも食べたんだけどなぁ。
俺はもう少し彼女さんへの理解が必要なようだ。
「・・・・・ん・・・」
お。薄目を開けてくれた。
悪いね。二人の時間はここまでだよ。
・・・・いや、もう一周って手もあったかな。
気が利かなかったな。・・・・・・いや、待ってる連中もいるか。
まあいい。もう五月を色々いじくってしまったし、起こして
「・・・・・お返しです!」
急に頭の後ろに手を回され
五月の方から、唇を求めてきた。
膝枕の態勢から、俺の頭の後ろに手を回され、顔をホールドされた。
予想外・・・・だったな。
・・・・サプライズってのは、嬉しいもんだね。
俺の唇、渇いていないと良いが。
・・・・リップクリームというのはこういう時に必要か。
首の後ろ。五月のうなじを撫でながら、先ほどと同じくらい長いキスを続けた。
ただね。あなた・・・・一つ忘れてますよ。
俺は良いよ。嬉しかったし。別に気にならない。
でも、キミはどう思うかな。
「。・・・・どう、でしたか?」
「・・・・100点。やられた。予想してなかった。」
「どうですか?私だって、いたずらできるんです。」
「そうだね。みんな驚いてると思うよ。」
「ふふふ。これで私も貴方に・・・・・・・・え?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・みんな?」
「・・・・・・観覧車の出入り口を見てごらん。」
五月が体を起こし、観覧車の入り口……出発地点を見る。
すると・・・・6人が勢ぞろい。
この人達、開き直って待っていたのだ。
だから俺も先ほど手を振った。四葉くんとらいはちゃんに振られたから。
既にこの部屋はほぼ下まで下がり切っている。
つまり、こちらの部屋の中は外から筒抜け。
係員に見られるくらいなら別に問題なかったが・・・・・・
6人中4人が赤面。
あの風太郎ですら顔を赤くして驚いている。
一花は目をキラキラさせて両手を顔の前で開いてる。わぁー見ちゃった! って感じ。流石女優。
らいはちゃんも似たり寄ったり。年上の恋愛を見てわくわく。目が輝いてるもん。夕焼けのよう。
他4人は顔が赤い。
・・・まさか五月があんなことをするなんて そう思っているに違いない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そういうことなんですよ。」
あらー。お顔だけでなく全身が真っ赤に。今まで見たことないよこの色。真紅。
「おつかれさまでし」
「あ、あ、あああなた達はーー!!人の恋路を何だと思ってるんですかぁーー!!!」
観覧車の扉が開いた瞬間、五月が脱兎のごとく飛び出した。
まあ脱兎ではなくて狩人。捕まえる側なんだけど。
「まずい!逃げるぞ!散らばれ!」
「お兄ちゃんはあっちねー!」
「あははは!写真撮っちゃったー☆」
「五月!なかなかやるじゃない!見直したわ!」
「フータロー、待って。一緒に逃げないと・・・道連れが・・・」
「みんなで鬼ごっこするのも久しぶりだねー!」
係員をガン無視して五月は全力疾走で6人を追いかけていった。
大丈夫かな。五月の頭から湯気が出てたけど。
不意打ちでサプライズをするのは良いけど、ちゃんと下調べをしてからにしましょう。
本日の五月先生による教訓でした。言ったよね?用意周到ですよ。
「・・・・・・・・・・・お疲れっした。」
「・・・・・元気な彼女さんですね。」
係員が話しかけてきた。ちょっと呆れていた。
まああんなもん見たらね。
「良いでしょ。自慢の彼女なんですよ。たまにドジやっちゃうんですけどね。」
「でもそこが可愛いんでしょ?」
「その通り。」
観覧車の係員からサムズアップを受ける。
慣れているんだろうな、こういう恋人がいちゃつく光景。
俺はそのまま一人で帰路についた。五月もみんなと帰ってるだろ。たぶん。
帰って夕飯を作っていた時にメールが2つ届いた。
1通は五月。
『今日はありがとうございました 最後 一人にしてしまって申し訳ありません』
もう1通は一花。画像が一枚付いている。
『五月ちゃんのファーストキスの瞬間です♡』
あの時の写真がばっちり添付されていた。
『ファーストキス?冗談だろ それは五月にとって2回目だ』 と返した。
悩むがいい。どこでやったのかわかるまい。その場所から観覧車の頂上は覗けんだろ。
『こんなんが一花から送られてきました』
画像をつけて、ついでに五月に密告しておいた。多分今頃また怒ってると思う。
ファーストキスをいつ済ませたの と聞きに行く一花を、
五月が 余計なお世話です その画像は消してください と激おこで対応。
そんな光景が、俺には見えるね。全く持って、仲の良い姉妹だよ。