映画で風太郎の志望校に二ノ宮大学という単語が文面で記載されていました。
今作ではそういうことにしています。
原作には名前が出てこなかったものと記憶しています。
「その・・・以前はお見苦しいところをお見せして・・・」
「ははは。良いんだよ。少なくとも嬉しかった。ありがとう。」
春休みの最中。俺の自宅に五月が来ていた。
以前の遊園地デートでほったらかしにして、
鬼ごっこをしに行った事を五月は気にしていたようだ。
別に俺は良いんだけど。楽しかったし。嬉しかったし。
まあ見られても良いよ。俺はね。まさか五月の方からキスをするなんて思わなかった。
おかわり欲しいです。お腹減りました。
「仕切り直しするかい。折角の春休みだ。またデートをしようか。」
「何か計画はありますか?」
「特にはないけど。特別な事をする必要はないさ。あちこち行ってみよう。」
「あ、一つ行っておきたい場所があるんです。」
「良いね。ついて行こう。」
「んだよ。やっぱりカレシだったんじゃねぇか。アタシに嘘つくなんて良い度胸してんなぁ。」
「あの時はダチでしたもん。カレシになったのはあの後です。」
午前中。五月の塾講師の現場へと来ていた。
お世話になった下田さんにお礼を言っておきたかったようだ。
既にアパートからマンションに復帰はしており、働く必要はないはずだが、
このバイトは大学に入っても続けるらしい。
教育の実務経験にはなる。今後においても良い事だろう。
「下田さん。この度はありがとうございました。」
「別に良いんだよ。改まってそんなこと言わなくても。
やっぱりお嬢ちゃんは礼儀正しいねぇ。お母さんにそっくりだよ。」
「ありがとうございましたー。」
「おめーにはもっと感謝してもらおうか?」
「うっす姐さん。マジリスペクトっす。」
塾講師だってのに口が悪すぎるだろ。元からこうだったのか、
講師になって生意気な連中に教えるためにこうなっていったのかわからん。
スレた女、下田。
「おめーも教師目指すんだって?向いてると思うぜ。」
「そうすか?」
「おう。自信もってやれ。男はどっしり構えろ。背中で語れ背中で。」
「はぁ。」
意味が分からないアドバイスである。
筋骨隆々で上半身裸で背筋でも見せつけろってのか。プールの体育教師ですらやらんぞ。
二乃の姉御にタトゥーでも掘ってもらおうかな。ただそしたら教師失格だよね。
「よし。アタシからのサービスだ。実践といこうぜ。」
「実践ですか?」
「おう。お前次の時間帯、中坊に教えてみろ。後ろから見届けてやんよ。」
突如そんな事を言われた。理屈は通ってるけどね。
しかしそんなつもりは毛頭ない。給料出ないでしょコレ。
「・・・サボろうって言ったってそうはいきませんよ。職務放棄です。」
「チッ バレちまったか。やるなお前。それなら大丈夫そうだ。
嬢ちゃんの事、しっかり頼むぞ。」
「はーい。」
「ふふ。よろしくおねがいしますね?ナギくん。」
「・・・本当に変わったなぁ。」
五月の変貌ぶりに下田の姉さんも驚いていた。
まあ、今までだったら顔を真っ赤にして反応するだろう。
しかし今は五月も余裕たっぷり。
そう言った冗談やジョークやら言葉遊びやらで動じなくなってきている。
俺と一緒に居たら、そうなるわな。
その後。家電量販店に来ていた。
大学生活に必要なものを買いに来たのである。
「ど、どれが良いとかってわかりますか?」
「ある程度は知っているよ。任せてくれ。」
ノートPCを買いに来た。
最近はちょっとした事情からオンラインで授業をすることも多い。
必需品だろう。
タブレットでも代わりにならなくはない。
が、今後の事を考えて、PCには慣れておいた方が良い。
社会人としての仕事を考えると、切っても切れないものだ。
適当なものを選んだ。流石にお金は中野家持ちである。
「イヤホンも買おう。マイク付きが良いよ。」
「はい。・・・試用が出来るんですね。」
「うん。これ結構大事だよ。高ければいいという訳でもない。」
「使ってみて確かめてみます。」
「違いを確かめるために、同じ曲で試用することをお勧めします。」
イヤホンも購入。
合ったものを買ってもらいたいので実際に使ってもらう。
最近は色々ある。が、マイク付きの有線タイプを勧めておいた。
利便性の観点からの助言だ。
「決まったかい?」
「二つで悩んでいて・・・ナギくんも聞いてもらえませんか?」
「もちろん。」
イヤホンの片側を貸してもらう。
左側のイヤホンは五月の左耳に。
右側のイヤホンは俺の右耳に。
・・・・お、これは。
お顔が近いです。
「良いね。」
「・・・ふふふ。そうですね。」
「もう少し、近づける?」
「はい。大丈夫ですよ・・・」
肩を抱き顔をさらに近づけさせてもらう。良いよね。恋人なんだから。
・・・綺麗だねぇ。音楽も祝福してくれている。そんな歌詞の内容だった。
この選曲、もしかしてわざとかい?わざとだったら嬉しいね。
キミの計画にはめられちゃったわけだ。
顔を近づけ合い・・・そのまま20分程度、音楽を一緒に聞いていた。
買ったPCとイヤホンを一度家において、また外に出ていた。
大学生活というのがどんなものかはまだわからないが、ゆっくりできるのは入学までだ。
たっぷりと遊ばせてもらおう。
「たくさんありますね・・・・!」
「そうだねぇ。」
五月おかーさんは絶賛末っ子に戻っていた。素直で真っ直ぐな眼が輝いていた。
素敵よ。あなたキラキラしてるわ。
近くのショッピングモールでグルメフェスが行われていたので来ていた。
様々なものが取り揃えられている。昼食にはうってつけだ。
「食べたいものはあるかい?」
「あり過ぎて迷ってしまいます!」
「そ、そうですか。」
とても元気な回答であった。わんぱくムスメ。
食べ過ぎ厳禁・・・いや、良いか。この間はちょっと我慢してたみたいだし。
沢山お食べ。
「このテーブルを取っておこう。好きなものをお互い買ってこようか。」
「はい!」
テーブルに取られても良い荷物を置いて席を確保。
数多き出店ブースの中から吟味して、持ち合わせることにした。
どうしよっかなー。
「上杉くん。このフライドトマトだけ食べてもらえないかい?」
「なんでハンバーガーのセットにしたんだよ・・・・」
「あれ。武田君と風太郎じゃないか。何してるんだい。」
「やあ、有坂くん。奇遇だね。」
フェス会場内をグルグル回っていたら二ノ宮大学コンビがいた。
二人で出かけるくらいには仲が良かったようだ。
「中野さんは今忙しいらしくてね。代わりに僕が上杉くんの相手をしているんだ。」
「どういう意味だよ・・・」
「上杉先生今度は何やったの。」
「なんもしてねぇよ。四葉はらいはと出かけてる。」
風太郎にプレゼントでも買ってるのかな。
それか、さっきの五月と同じように大学で必要な物でも買ってるんだろう。
「らいはちゃんと四葉くんでデートかぁ。寂しいねぇ。」
「有坂くんもそう思うだろう?僕に感謝したまえ、上杉くん。」
「さっきばったり会っただけだろう・・・・まあ、奢りで飯を食えるのは助かる。」
待ち合わせかと思ったら偶然会っただけのようだ。
しかし武田くんだからな。待ち伏せという可能性がある。
釣り野伏。武田島津である。
「武田くんも大学は受かったんでしょ。おめでとう。」
「ありがとう。有坂くんは地元のこちらかい?上杉くんは任せてくれたまえ。」
「ウチのノンデリをよろしくお願いします。」
「もう何も言うまい・・・・ああ、そうだ。凪、あそこに前田がいたぞ。見に行ってこい。」
「前田くんが?何してるんだ。」
「らっしゃい!注文は・・・・ぬお。有坂じゃねぇか。」
「この季節に半袖か。やるねぇ。」
「暑ちーんだよここ。サンドで良いか?」
「いただくよ。」
武田くんがブースの一つで働いていた。
修学旅行でたこ焼き屋台のバイトは経験あると言っていた。
これもその一つのようだ。俺とやってること変わらないな。
黒の半袖Tシャツで頭にタオルを巻いて大きな肉の塊と格闘している。
円柱状に巻きつけられたような肉を、外側から薄く薄く切っていく。
肉の塊はゆっくりと回転し、ローストされている。
そう。ケバブであった。
慣れてるなー。大きめのナイフとヘラを用いて器用に切っていく。
黒のTシャツというのもいい。白よりも汗が目立ちにくいからだ。
やるな前田くん。今度屋台で対決しよう。
「ほらよ、一丁上がりだ。500円だぜ。」
「はーい。」
「肉増し200円のところをサービスだ。たんと食って力付けとけ。」
「あざす兄貴。」
「前の悩み事は解決したか?なんかあったら言えよな。
たまには俺にも借りを返させろよコラァ。」
「ははは。心配いらないよ。本当に困ったらその借りを脅しにこき使うから。」
「言ってくれんじゃねぇか。楽しみにしとくぜ。」
松井さん絡みで前田くんには色々恩がある。そこを気にしていたようだ。
前田くんからケバブサンドを受け取って、テーブルに戻ることにした。
肉多いなぁ。普通の肉増しより多い気がする。
「ごめん、遅くなったね。」
「大丈夫ですよ。私も今来たばかりです。」
「待っていてくれたんだね。ありがとう。」
テーブルに戻ったら既に五月がついていた。
食事に手は付けていなかった。こういうの見ると嬉しいね。
いただきますのタイミングを合わせるため、待ってくれていたんだ。
先に食べててくれてても良かったのに。
「「いただきます」」
五月の方は・・・ハンバーグに目玉焼き。そこに肉汁を活かしたであろうグレイビーソース。
脇にはサラダ。ハワイアンなロコモコ丼である。
ふむ。これだけか。もっと食べるものだと思ったんだが。
前回のデートもそうだが、食事量をセーブしているように見えるんだよな。
何かを気にしているようだ。体重増えたのかな。絶対聞けないけど。
「ひ、一口貰っても良いですか?」
「これ?良いよぉ。それもちょうだいね。」
ケバブサンドを食べてみたかったらしい。五月に手渡す。
前田兄貴の漢気入りです。たまんねぇぜ。俺もロコモコ丼を貰う。
・・・おお。クオリティ高いよコレ。ソースが良いねソースが。
「辛いわけではないんですね。意外でした。」
「うん。香辛料の匂いは強くてスパイシーではあるけれどね。
甘辛いという程度だ。これも美味しいね。良い目利きだよ。」
「はい!悩んだんですが、これにして正解でした!」
悩んだ。何と悩んだのか知らないが、
二つ頼むという選択は無かったという事か。食べる量を抑えているのは間違いないらしい。
「もしかして、食事の量を抑えてるのかい?」
「う・・・・わかってしまいますか。」
「うん。観覧車で寝てた時、お腹なってたもん。」
「お、お恥ずかしい・・・・その・・・・私も殿方の彼女となったのですから。
慎ましく、淑女でありたいと・・・・」
「なるほど。五月らしいね。」
嬉しいなぁ。彼氏のナギくんは大満足です。
ただ、無理はしないで欲しいね。いっぱい食べるキミが好き ってやつだ。
でも気持ちもわかる。好きな人が太るっていうのは正直、自分が太るより悲しい。
「彼氏としては嬉しいですー。
ただ、無理はしないでね。五月が元気でいてくれることが一番だ。」
「はい。私も同じ気持ちです。ナギくんも、無理はしないでくださいね。」
「五月おかーさんに見守ってもらおう。・・・さて。実際それでは満足していないだろう?
それを食べ終わったら、デザートを食べに行こう。」
「え・・・い、いや。大丈夫です!今日は決めたんです!」
「ふふ。目が揺らいでいるよ。大丈夫。健康的に行こう。
食った分、消費したらいいんだ。足は大丈夫かい?
30分ほど歩いたところにクレープ屋があるから、そこまで運動しよう。」
「あ・・・わかりました!」
歩いてクレープを食べ、自宅に戻ってきていた。
俺の自宅であり、マンションではない。
先程買ったPCの試運転をしていた。
初期設定って結構時間がかかるんだ。
「こんなもんで良いかな。おまちどーさまです。」
「やっぱり便利ですね。スマートフォンだと画面が小さくて困るときがあって。」
「慣れれば文字入力もこっちの方が早くなる。
それに職場とかならこっちが主流だからね。未来の為でもあるね。」
お手製問題集づくりのお陰でタイピングはかなり鍛えられた。
実用的なレベルまで発展している。教師がダメだったらライターでもやろう。
パパラッチ有坂はチンケなネット記事でデタラメ書いて小遣い稼ぎをします。
やっぱ質より量だよね。
「おススメのデートスポット・・・」
五月はたまたま見つけた記事に見入っている。こちらを見向きもしない。
集中すると独り言の癖が出てしまうようだ。
ちなみに今は背もたれのないイスを二つ用意して、隣同士座っている。
よし。イタズラしてみよう。
もうちゃんと彼女だし。今は自宅で二人きりだし。
そろりそろりとイスと共に後ろに回る。
ギュッと。
「わ!・・・ふふ。どうしました?」
「んー?こうしたくなった。五月おかーさんに甘えたくなった。」
「もう。びっくりしましたけど・・・良いですよ。」
お腹から手を回して後ろから密着した。
長い髪が触れてくすぐったい。しかしこれも今は幸せ。顔を肩に乗せる。
「凝っちゃいそうですね。」
「後でマッサージするので勘弁してください。」
「楽しみにしてますね?」
さて。本番はここからなのだよ。五月先生。
狙っているのはこの綺麗な長い髪の下。口を近づけて。
「ひぁっ!?」
耳たぶを食べる。もちろん歯で噛んでいるわけではいない。
上唇と下唇でサンドしているだけ。
「・・・・・・」
「びっくりした?」
「し、しましたよぉ!」
「あはは。ごめんごめん。かわいいかわいい。」
「もう・・・」
久しぶりにそのほんのりとした赤面を見れた。実にいい気分だ。
満足は・・・していない。
驚かせつつも、俺が抱きしめている手は離さない。
五月も今のでこちらを向いている。
顔をじっと見る。
「・・・・・」
「失礼・・・・」
腰を抱いている手を、五月の頭の後ろにゆっくりと回し、
当たり前のように、キスをする。
うーん・・・・・良いね。この行為が好き。
ずっと、こうしていたいくらいに。
心はとても落ち着いている。
・・・お、少し口を開いてきた。意外だなぁ。嬉しいけど。
経験済みのせいか、積極的だね。
・・・良いよ。もっと深く繋がろうか。
ただし、舌は入れないよ。
・・・俺の方の歯止めが利かなくなりそうだからね。
「・・・・うん、満足しました。ありがとう。」
「いえ・・・私も、その・・・嬉しかったので・・・」
ようやく満足。唇を離した。
彼女さんもご満足いただけたようだ。良かった良かった。
また機会を見つけていたずらしよう。
「ナギくんは・・・この先に進もうとは、思わないんですか?」
「この先?・・・キスの先ってことかい?」
「え、ええ。」
キスの先。・・・そういう事だろう。
興味が無いとは言わないが・・・・少なくとも今、俺はこれで満足している。
それに、おねーさんからのお言付けもあるしな。
無堂のしでかしで異性には潔癖であると。そう言われている。
あと、そういう行為はまだ早いと思う。
社会人になってからにしたい。避妊具付けてたって、
子供が出来る確率は完全な0%にはならない。
大学生の間にそんなことになってみろ。一番困るのは五月だぞ。
「今のところはないね。俺はこうして、五月とゆったりしているのが好きだ。
・・・それに。そういうことは大学を卒業してからかな。」
何故かはわからないが、俺はとても満足している。
いざ付き合ったらサルみたいになるかもしれんとも思ったんだが。
男子高校生としてはそっちの方が正常かもしれないし。
「そうですか・・・ちょっと、緊張していました。
もしかしたらそういう事をするのかなって・・・・」
「大丈夫だよ。約束する。
・・・まあ、もしかしたら俺も暴走してしまうかもしれないけれど。
その時は頑張って止めて欲しい。」
いつ俺の心が変わるかはわからない。言い切れる自信はないよ。
だって、キミは綺麗でかわいいからね。
「ふふふ。わかりました。任せてください。」
「・・・肩が凝ったでしょ。ほぐしてあげるよ。」
そうして、恋人と二人、のんびりとした時間を過ごし、一日が終わった。
そして、春休みがもうすぐ終わりを告げ……別れと出会いの時期、4月がやってくる。