とある駅の新幹線のホーム。
風太郎の荷物引っ越しが終わり、旅立ちの時となった。
見送りに来ている。武田くんと毛利さんも東京行きだ。
声をかけたら前田くんも見送りに来てくれた。
四葉くんは来ていない。向こうも向こうで引っ越しの準備をしているらしい。
一人暮らしだとか。風太郎はちゃんと把握していたし、
別れはすませてあるとの事で問題ないだろう。
「ちわーす。さよならを言いに来ましたよ。」
「あら、有坂くんと前田くん。来てくれたのね。」
「まさかお前まで来てくれるとはな。前田。」
「感謝しろよコラァ。暇だから来てやったわ。」
「前田くん?あれから松井さんとはどうなんだい?」
「おう。いつも通り、仲良くやってるぜ。」
「学園祭の魔力というのは、凄いものなんだね?」
「学園祭?前田くんと松井さんは学園祭の前から付き合っているのよ?」
「マジ!?」「なんだって!?」
「俺だって、いっつもおめーらにやられてばっかじゃねぇーんだよ。なあ、有坂。」
「ああ。全くだね。」
話の流れでネタ晴らし。今度は風太郎と武田くん、キミたち二人がピエロになる番だ。
一昨年の林間学校から付き合い始めた前田くんと松井さん。
関係は既に1年以上経過している。
「じゃ、じゃああの、告白するってのは・・・」
「おめーも踏ん切り付いたろ?あれで。感謝しろよ、コラァ。」
「前田・・・・・」
「まさか、あの前田くんにはめられていたとは、ね?」
「最高の仕事だった。名脇役だよ前田くん。」
「この俺が脇役・・・・ま、あの時の主役は上杉か。」
「男たちの熱い友情、素晴らしいわね。美しい。」
5人で学園祭を振り返っていた。高校生活最後の思い出だった。
そういえば卒業旅行、行かなかったな。
皆の都合が合うタイミングがなかったから仕方ないんだが。
卒業旅行に行く夢なら見た。沖縄にいた。ソーキそばばっかり食ってた。
あと四葉くんが宿の屋根にのってシーサーのポーズして風太郎に怒られてた。
「凪。」
「なんだい。」
「今まで・・・・世話になったな。」
「また改めちゃって。今昔の別れじゃないんだから。」
「お前がいなければ、今の俺はない。武田も毛利も前田もここにいなかった。
家庭教師も途中で投げ出していたかもしれん。」
「そっくり返すよ。お前が家庭教師に誘ってくれていなかったら、
俺は今ここにいないかもしれない。お互いの人生が変わった瞬間だった。
・・・・自慢の恋人も、お互いできたからね。」
「何だ有坂コラ。おめーにもよーやく出来たか。」
「誰なんだい?」
「五月さんでしょう?」
「なんでわかるんだい毛利さん。」
「簡単よ。あなたに関することならね。」
怖すぎる。大学で離れ離れになってよかった。
気が気じゃない。
「向こうに行ったら、また新たな推しを探さないといけないのね。残念だわ。」
「自分がアイドルになろうとは思わないのかい?」
「この身長よ?万人から愛されるには少し難しいわね。
それに、貴方と同じよ。私の性に合ってないわ。裏方が似合う女なの。」
人気出ると思うけどなぁ。
「間も無く、東京行きの新幹線が参ります。
危険防止のため、乗客の皆様は黄色いラインの後ろまでおさがりください。」
アナウンスが流れた。・・・時間のようだ。
「お別れだね。有坂くん。また会える日を楽しみにしているよ。」
「武田くん。いつも光るキミなら、人の多い東京でも目立つだろうね。」
「僕は完璧を目指しているからね。誰よりも光り輝いて見せるよ。」
武田くんとハイタッチ。
「また会いましょう。有坂くん。あなたはやはり面白いわ。定期的に連絡するから。」
「毛利さん。ライブステージではお世話になったね。最高のプロデュースだった。」
「あなたの恋も、応援しているわ。ファンの一人としてね。」
毛利さんと握手。
「ではな。凪。引っ越しの件は助かった。」
「ああ。寂しくなったらいつでも連絡してくれよ。」
「それはないな。・・・・・だが、一応覚えておいてやる。」
風太郎と拳を突き合わせた。
新幹線が完全に出発するまでは、前田くんと二人で見送った。
二人掛けの席をひっくり返し、4人掛けの席にして3人とも座っていた。
「・・・・行っちまったなぁ。」
「寂しいかい?」
「まァ・・・・少しな。なんだかんだ、あいつらとはダチだったし。修学旅行も一緒だった。」
「元気出せって!かわいい彼女が地元にいるんだろ?」
「いっつ・・・慣れねーことすんなよコラァ。加減がなってねぇよ。」
前田くんが元気なさそうだったので、背中に一発ヤキを入れた。
前田くんと松井さんは地元の大学に行くらしい。場所は知らないが、俺達とは違う所だ。
「では、行こうか。」
「おう。飯でも食って帰ろうぜ。」
「みんなー!今日はラストライブに集まってくれてありがとー!」
風太郎達と別れた後、バンドメンバー4人のライブを見に来ていた。
人が多すぎる。もっとでかい会場にすればよかったのに。
遅れたためか一番後ろから見ている。まあいい。音さえ聞ければ構わない。
学園祭の後、観客が倍くらいに増えたらしい。
チケットが売れて結構な収入が入ったらしく、伊達くんはホクホク顔だった。
♬~~~~~
ラストライブには、自前の曲を1曲だけ、演奏していた。
・・・・うん。良いね。歌詞作りには俺も関わったから、俺好みだ。
「有坂。悪かったな。特等席の用意をしてやれずに。」
「いや。良いよ。」
「これでウチらも解散かー・・・・さびしー・・・」
「またいつか演奏できる日が来ると良いな!」
「そうだね。また、集まろ?」
控室でメンバーの4人と交流する。
中学高校と一緒だったこの4人も、ここからは離れ離れになるらしい。
「有坂くんが正式に入ってくれれば、バンドで食べていけそうなんだけどね。」
「なに言ってんの。そんな訳ないでしょ。」
「果たして、それはどうかな。屋代、見せてやってくれ。」
「片倉くん?」
「ふふふ。ナギっち知らないでしょー?この動画!」
屋代さんからスマホを受け取り一つの動画を見せてもらった。
・・・過去のライブ映像を動画に起こしたものか、ライブステージ・・・
学園祭のあの時のステージが映っている。
1日目、2日目、3日目と動画は分けられていた。
「これがどうしたってのさ。」
「有坂!コメントと再生数を見るんだぞ!」
再生数・・・・1日目、35万再生。2日目、4万再生。3日目、41万再生。
高評価も多数。コメントもこのライブを称賛するものばかり。
・・・ライブというか、このバンド。マイナーロール,マスカレードへの誉め言葉である。
そんな全てを肯定するようなコメントを見て俺はいたたまれなくなり、左手を大きく振り上「ちょっとナギっち!それウチのスマホ!!」
「ああ・・・・ごめん屋代さん・・・・」
コメントを5件くらい読んだところで羞恥心に耐え切れなくなった。
気がついたら地面に向けてスマホを振りかぶっていた。危なかった。
やめろお前ら。見るな。この動画消せ。誰だよAって。調子乗ってんじゃねぇよ。くたばれ。
また一つ黒歴史が増えた。動画の削除申し立てを行っておこう。
コメントの一つに 来年は絶対見に行く があった。見に行くじゃねぇよ。
見に行ってどうすんだよ。俺はもういねぇから。すまんな後輩のみんな。
めちゃくちゃハードル上がるぞ。
「そういう事だ。誰もがあのライブで熱狂した。現地にいない観客までもがな。」
「・・・・もうやだ・・・仮面付けててよかった・・・・・」
「凄い事じゃないかー?みんなに自慢できるぞー?」
「顔から火が出る・・・あとから振り返りたくない・・・・」
「あ、あははは。そこまで落ち込むとは思わなかった。」
「・・・はぁ・・・・」
・・・・そういえば社長に動画消せって言ってないな。
言っておこう。角度的にこれは社長の物ではない。
学校側で付けたカメラだろう。
「私達としては、有坂くんと一緒にやりたかったけど・・・・ね?」
「そうだな。有坂の事を考えたら、辞めようという事になった。この調子だ。正解だった。」
「ごめんね・・・・ホントむり・・・」
「才能あるのになー。」
「ナギっち、教師目指すんでしょ?音楽の先生で良いんじゃない?」
「いや俺はピアノも楽器も弾けない…………」
メンバーからも散々な言われようであった。
この日をもって、マイナーロールは一度解散した。
・・・・・一度。
3月31日。
明日から大学へ行くこととなる。
合格の日にも来ていたんだが、五月と一緒に母親の墓へ参りに来ていた。
五月は、お墓に向かって会話をしている。
「お母さん・・・・私も、お母さんのような教師になります。
ごめんなさい。言う事を聞けない子で・・・・」
「お母さんは、一人で頑張っていました。
・・・・今、私達がこうして裕福に生活できているのも、
私が夢と目標を持ったのも、全部、お母さんのお陰です。
……お母さんはたった一人で……教師という仕事も、大変だったと思います。」
「でも・・・・私には、ナギくんが隣にいてくれます。
一人では、大変でも。二人なら。・・・・きっと大丈夫です。
だから、お母さん。・・・・これからも私を……私達を見守っていてください。
・・・・明日から、行ってきます。」
「終わったかい。」
「はい。ありがとうございました。」
「いや、こちらこそ。挨拶をしておきたかったから。」
五月がこちらに来た。
俺は簡易的にお墓へ挨拶を済ませ、傍を離れて五月を母親と二人きりにしていた。
邪魔してはいけないと思ったから。
「明日から、いよいよだね。」
「楽しみです。・・・・でも、不安もあります。」
「きっと、何とかなるさ。・・・俺も最近、少しは楽観的になってきた。」
「ナギくん、行きましょう。」
「そうだね。五月」
五月と二人で、共同墓地を離れた。
「あ”っ」
「・・・・・・・おや」
「お、お父さん?」
墓地から離れようとしたところ、中野父と遭遇してしまった。
この人も墓参りに来たらしい。
・・・・・ばっちり見られた。手を繋いでいるところを。
「奇遇だね、有坂君。五月君と一緒に来ていたのかい。」
「・・・・・ええ。明日から大学生という事もありまして。」
「そうか。良い心がけだ。・・・・ところで、どうして五月君と手を繋いでいるのかね?」
中野父には俺と五月が恋人関係であることが伝わっていないのである。
言い訳どうしよ。思いつかない。助けてくれよ相棒。
俺はとっさの機転が利かないんだ。
「お父さん。・・・私は、ナギくんと付き合っています。」
「え”」
言っちゃったよ。今まで秘密にしてたのに。
だってなんて言われるかわからないじゃん。一件冷たいけど相当親バカだと思うよ。
だって学園祭、無堂の件の3日目だけじゃなくて2日目もこっそり来てたもん。
ちょっと前に風太郎から聞いた。娘が楽しんでいるところを陰から見に来ていたんだろう。
クッソ。なんて返答が帰ってくるんだ。娘さんをください。
まだ付き合って1カ月くらいしか経ってないけど。
いや、俺からの告白を考慮すると半年近く経ってるんだが。でもみじけぇ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なんも喋ってくれない。放心してるのか?
それはそれで中野父のイメージが崩れるが。
「・・・・有坂君。」
「は、はい。」
「まず、五月君は君のお陰で大学に合格できたと聞いているよ。
それについては、礼を言おう。」
「はぁ。恐縮です。」
「そして・・・・今、五月君が言ったこと、本当かね?
君の口からも聞いておこうか。」
「・・・・・・はい。本当です。お付き合いをさせて頂いております。」
「ほう・・・・・」
彼女にああ言われて否定するわけにはいかない。男が廃る。
しかし、怖い。怖すぎる。
なんてこった。江端さん来てくれ。ズッ友だろ。
「有坂君。キミは、もう少し利口な男だと思っていたのだがね。・・・考えを改めよう。
君がそういう道を歩むのならば、僕もこれから手加減はしないよ。覚悟をしておくことだ。」
「はぁ・・・・お手柔らかに・・・」
風太郎の気持ちがちょっとわかる立場になってしまった。
こえーよ。
「・・・・五月。」
「は、はい。」
「・・・僕から言えることは、以前と同じだ。
君が君の信じた方へ進むと良い。・・・お母さんも、同じ思いのはずだ。」
「お父さん。」
あれ。優しい。
マジっすか。認めてくれるんすか。
「では、僕も挨拶をしてくるとしよう。有坂君。」
「は、はい・・・」
「・・・・・僕はまだ、認めたわけではない。だが、しばらくは君に五月を預けておこう。
今までの礼だ。精々頑張りたまえ。」
「・・・・ありがとうございます。」
「一つ忠告しておくのならば、その手を・・・・離してはいけないよ。」
俺にはあんまり優しくなかった。
反応は・・・・ちょっとよくわからなかった。
この人なりに応援してくれている
そう受け取っておこう。将来かなり手ごわそうだな。
というか本人は医者だろ?教師で許してくれるかな。
中野父はお墓の方へ歩いて行った。
「・・・・ごめんなさい。ナギくん。喋ってしまいました。」
「いや。良いよ。いつかはバレる。この方がかえって良かったかもしれない。」
割とスッキリした終わり方だった。問題ないだろう。
ただし、中野家のマンションでいちゃつくのは絶対にやめた方が良いな。
最近はちょくちょく帰ってきているらしいし。
4月1日。
ついに大学生となる日が来た。
バス停に二人で待ち合わせ、大学に向かう。
東京では、風太郎達も同じことをしているのだろう。
「人、ちょっと多いな。」
「そうですね。・・・みんな、そうなんでしょうか。」
「どうだろうね。」
バスの車内。結構人が多かった。
全員学生・・・・ではないと思うが。
イスは埋まっていたので、二人で立っていた。
これから毎日こうやって立つのかぁ。電車じゃないのにこうなるとは。
すると。
「・・・きゃ!」
「お。ナイスキャッチだ。」
「あ、ありがとうございます。」
バスの急停止により五月がこちらに飛び込んできた。
体で受け止めて、つり革を持ってない左手で抱え込む。
これね。ラッキーです。ハプニングは喜ぶべき。ありがてぇ。
ただし周囲の乗客の目線が厳しくなった気がする。不可抗力だ。俺は何もしてない。
その程度の視線では俺は滅ばんぞ。目で殺すには物量が足りんなぁ。
「今日から毎日これか。悪くないねぇ。」
「も、もう。次はちゃんと捕まっていますから。」
「いつでも頼ってくれていいよ?キミの彼氏は案外頼りになるのです。」
彼氏面しとく。乗客のお前らナンパしたら半殺しにするからな。生徒も何人かいるんだろ。
視線がさらに強くなった。ははは。いい気味だ。僻んでやがる。
キャンプファイヤーの時の彼らの気持ちがわかった。
「お疲れさま。」
「思ったよりも短い時間で、助かりました。」
バスを降りて大学のキャンバスの前にいる。
ここが、今日からお世話になる場所。4年間か。何が待ち受けているかな。
「では、参りましょう。」
「そうだね。お手を拝借。」
「ええ。もちろん。」
五月と手を繋ぎ、歩き出した。
そしてそれから・・・・五年の歳月が過ぎる。