翌日。
「ナギくん。ここってどうやって解くんですか?」
「これかぁ・・・・うーんとね。」
学校の休み時間、普通に五月の勉強を見ている。
教えてくれと言われたので教えている。それだけ。
「おい。凪。結局どうしたんだ昨日は。」
「は?何の話だ?」
「何って・・・・そりゃ、誰を選んだか・・・」
「うるさい。お前には教えない。まだ許してねぇからな。」
「だから何の話なんだ・・・・五月、教えてくれ。」
「あら。私が上杉くんに教えるんですか?珍しいこともあるんですね。
・・・・でも、ナギくんが喋らないのなら、私も内緒です。」
五月も秘密にしてくれた。まあ、わかってるだろうな。誰を選んだかは。
「クソ!そんな律義に・・・・気になって勉強に集中できん。」
「おや。キミがそんなことを言うとは。
まるで俺の彼女さんが出ている、続きが気になるドラマを見ているかのようだ。」
「ふふふ。そうですね。」
「・・・・一花か・・・・」
風太郎の勉強に支障が出てもらっては困るので、ネタ晴らしをした。
まあ全国3位なんだけどさ。こいつは返済免除の奨学金がかかってるからな。
まあこの辺で許してやるか。
よく思い出したら・・・・修学旅行の時は四葉くんが風太郎に
三玖の好意をバラしてしまったんだからな。気づいてて当然だ。
気が動転しててすっかり忘れていた。
「ナギくん。一花をよろしくお願いしますね。」
「はいよ。五月。」
今までは夏休み辺りから俺が五月の面倒を見ていたが、
この日から風太郎も五月の家庭教師を再開した。
俺もある程度は継続するが、あいつに任せておけば、何の問題もないだろう。
放課後。陸上部に顔を出す。
「あ!!来ましたね凪センパイ!もうここには立入禁止っす!」
「あん?どういうこったよ。」
茜と話をしようと思っていたんだが、そういう事らしい。
まあ、それならそれで手がかからなくて助かるが。マジに受け取って良いのかどうか。
陸上部の部室入口に手作りバリケードが敷かれている。
「金に釣られた男は身を滅ぼすっす!
もう自分に乗り換えようとしてもダメですからね!」
「あ、有坂先輩、お疲れ様です。」
「お疲れ様。コレなに?」
「あー、今どかしますから。ちょっと待ってください。」
「もー!!折角作ったのに!」
「遊んじゃダメだよー茜。」
部室の簡易バリケードは名も知らぬ後輩の手によってあっという間に撤去された。
傘をテープで張るなよ。こんなんで止められるわけないだろ。
ちったぁ勉強しろ。
そんな1件はあったものの、茜の様子を見ていた。
ただ、やはりちょっと冷たい。まあ、振ったからな。
これなら見に来ない方が良かったか。悪いことしちまったな。
「有坂先輩、茜と何かありました?」
「告白されたので振った。」
「ああ、そういう・・・・よくここに来れましたね。」
「けじめはしっかりつけておきたいタチなんでね。」
部員の一人に話しかけられたので素直に話した。
茜の様子がおかしいのははっきりしているからな。別に良いだろう。
「同じクラスなんですけど、朝から教室でうるさかったんですよ。
絶対全国トップになるんだーって。金持ちになるんだーって。」
「なんだそら。俺が金に釣られたと思ってる訳だ。」
「みたいですよ?お金持ちと付き合ってるんですか?体売ったりしてません?」
「・・・ノーコメントとしておくよ。」
「・・・・でも、結果的にその方が茜にとって良いんじゃないの?」
「・・・・・・そうですね?」
真面目に陸上やってくれるなら逆に良かった。振って正解。良いことしたわ。
後輩の一人を正しい方向へと導いたんだ。頑張りたまえ茜くん。きっと栄光は君に輝く。
「それでですね。茜があんな感じなので、
今なら有坂先輩に練習見てもらえないかなーと。」
「キミは3000だったな。俺の得意分野だ。」
「ダメっす!なんか嫌っす!」
「お前どっから現れたんだよ・・・・・」
後輩と楽しくおしゃべりをしていたら背後から練習中の茜がやってきた。
地獄耳が過ぎる。
「聞いたぞ茜。金持ちになんだって?」
「そうです!もう遅いっす!金メダル取っても首にかけてあげませんからね!」
「いらんよそんなもん。俺が取ったメダルじゃないしな。何の意味もない。」
「もー!ドライ過ぎませんかぁ!?」
「・・・そういう所が好きだったんだろ?」
「・・・・・・そうですけどぉ!ムカつくっす!!」
「まーまー茜。こんなところでそんな話しないでよ。」
怒らせてしまったな。調子に乗りすぎてしまったかな。まあいい。
じゃあ捨て台詞でサヨナラだ。仕方ない。俺を恨んでいいぞ。
「まあ、センパイセンパイと素人の俺に回っていたお前が、
将来金メダルを取るところは想像できんな。んな事無理に決まってる。」
「何言ってるんですか!今の自分は大本命なんですよ!」
「そら来年のインターハイの話だろ。その先を見とけよ。俺はお前とは手を切って、
浅井ちゃんのファンになるかな。同い年だし。あっちは200mも走れる2冠だし。」
「もー!あいつにはもう絶対負けませんから!!200は無理ですけどぉ!」
「お前の動向はこれからもチェックするからな。精々、俺を後悔させてみせろ。
こいつを選んどけば良かったなってな。」
「ちゃんと見てくださいよ!?絶対ですからね!」
「・・・・期待してんぞ。」
「・・・・はい。ありがとうございました!」
陸上部を離れた。
なんだ、最終的には思ったよりも良い別れ方になったな。
「また口内炎が出来た・・・・この位置は歯に当たる・・・・」
別の日の放課後。今日は真っ直ぐ帰った。
週末は一花の宿泊先に出向く予定だ。
珍しく、家で孤独に必死な勉強をしている。
が、下唇の前歯の辺りに口内炎が出来て痛い。集中できない。この位置は常時歯に当たる。
ビタミンのサプリメント買った方が良いのかな。大体いっつも口のどこかに出来てる。
時間が経ったら熱が冷めて見下される なんて、別に考えちゃいないが・・・
一花と肩を並べて歩くのならば、将来の事はしっかりと考えなければいけない。
・・・・何を目指そうかな。
まあ、最初に思い浮かんでしまうのは、あの織田社長である。
未だに俺を俳優にしようとしているからな。
何かを演じるのは好きだが・・・・ちょっとパス。理由は言わずもがな。
その次。色々あるが。
しかし。女優というものがわからないからな。
一花と一緒に色んな所へ行くのか、それともある1か所にとどまり、帰りを待つのか。
この違いは大きい。
とりあえずは、どの場所にいても仕事できる体制を整えた方が良いだろう。
そんな仕事あるかな?インターネット系の仕事にはなってしまうと思うが。
それなら良い大学じゃなくても問題ない気もする。
あまり良い物が浮かばないな。とりあえず勉強だけはするが。
誰かに相談してみよう。
まずは一花本人に相談だが・・・・回答がなんとなく想像できるんだよな。
「これってなんて読むの?」
「あー。これはね・・・・」
週末。
一花の宿泊先で家庭教師をしていた。ロケが終わって、その後の時間のみ。
一応、卒業の為には一定の学力が必要。忘れてはいけないが、一花は休学中なのだ。
「・・・・疲れてないかい?」
「うん。大丈夫だよ?気にしないで!」
口ではそう言ってくれるんだが、どうかな。
一花の本心を探るのは難しい。俺もまだ完璧にはわかりかねる。
聞いてくれれば答えてはくれると思うが。
人生相談をしてくれた時のように、ヒントでもあれば別なんだけどな。
「ねえねえナギ君。」
「うん?」
「今日、泊っていかない?」
「・・・・うーん。着替えとか欲しかったな。来週で我慢してください。」
「え~?」
そんなことを言われた。
確かにそうだな。ここはちゃんとしたビジネスホテルだから、泊まれるといえば泊まれる。
・・・シングル一人でチェックインしてるのに勝手に二人にして良いのかという所はあるが。
女優さんのコンプライアンス的にまずいと思うので、
俺が泊まるときはちゃんと部屋を取ろう。・・・痛い出費だ。毎週は無理だぞ。
「終電まではいるから勘弁してくださいよ、おねーさん。」
「じゃあ来週からね?部屋、こっちでとっとくから!」
「あ、そう?じゃあお金を・・・」
「いらないよ?私、女優だよ!いっぱい稼いでるんだよ~?」
「・・・・・・・・・」
やっぱり。こうなると思った。再認識した。一花は根っからのおねーさんである。
嬉しいけどさ。先が思いやられる。
今から相談することの解答がほぼ100%わかってしまう。
「あのさ。一花。」
「なーに?」
「悩んでるんだ。将来何の仕事しようかなって。」
「将来・・・・今度はわたしが相談相手だね。」
「そだね。」
「・・・大丈夫だよ。ナギ君は、ナギ君のやりたいことをやって。
わたしの事は気にしないで良いんだよ?」
ほらこれだ。絶対こう言うと思った。
お金なら私が稼ぐから何したって問題ないよ って感じのパターン。
この流れになるとは考えていた。嬉しいよ。嬉しいんだけどさ。
それはあんま良くないだろう。
俺がニートになって寝っ転がってても別に良いと言ってしまいそうだ。
キミも知ってるだろ。俺の性格を。キミが良くても俺が良くない。
俺の場合だと恋人の力になれないという罪悪感が勝るんだよ。ソレ。
でも・・・思い返せば、俺も散々、一花の好きにしたらいいって言ったし。
ちょっと酷か。
とりあえず、隠し事はしない。
こちらの気持ちを正直に言ってしまおう。
「俺はね、ちゃんと考えてるんだ。
どうしたらキミに負けないくらいの男になれるかって。」
「そんなに無理しなくてもいいんだよ?ナギ君はナギ君らしくして欲しい。
・・・ただ、出来るだけ一緒に居たいなー?」
「うーむ。」
ダメだこりゃ。一花おねーさんのお姉さん力が大爆発。
相変わらず優しいなあ。そういう所が好きなんだけど。
やりたいことって言われてもさぁ。
それが稼げる仕事か、キミの役に立てそうな何かじゃないと。引け目を感じる。
一緒に居たいというありがたいお言葉は頂いたので、
やはり仕事場所を選ばず、どこでも出来るネット系の仕事かな。探そう。
「あ!じゃあさ。ナギ君も私と一緒に」
「俳優は最終手段です・・・・」
「じゃ、じゃあミュージシャンに」
「無理です・・・・」
それ一緒だから。
あとから恥ずかしさで死ぬ。
「一花まで俺にそういう事をやらせたがるのかい?」
「む~。だって出来ると思うし・・・」
「・・・ありがたいけど。」
「・・・それに、ナギ君は凄い人だって、皆に知って欲しいから。」
・・・悪い気はしないけど。
出来れば、ちょっと遠慮したい。ホントのホントに最終手段。
というか得意であるという自覚はあるんだが大成出来る気がしない。
例の羞恥心により。
そもそも日頃から目立ちたくはない。全国的な知名度という意味で。
ネットの悪口なんかに影響はされないが、現実で面と向かって批判されたら俺はへこむ。
舞台やステージに立ってパフォーマンスをし、
自分から注目を浴びるのは良いんだ。それは得意。バイトのショーもそうだし。
ただ、プログラムが終わったらちゃんと一般人に戻りたい。
俺はパブリックスペースで一人ぼっちになりたい時もあるんだ。例の反動なんだろうな。
俳優やミュージシャンになったところで多分それが原因で長続きしない。
その仕事は常日頃から注目を浴びてしまう仕事だ。
「ほら!今日の勉強はおしまいでしょ?こっち来て?」
「はいはい。」
イスに座るよう促され、二人手を繋ぎ、テレビでドラマを見た。
ドラマは一花の出演したもの。撮影の時の裏話をされ、二人で笑いあっていた。
だが、俺の頭の中は将来の事でいっぱいだった。
今は2学期中。冬休みに差し掛かる前の学校。
ある日の昼休み、学校の食堂。
「将来の仕事か・・・・」
「確かに一花なら、何でもいいって言いそうね。」
「深く考えずに、その通りで良いんじゃ・・・・」
「有坂さんはやりたいことないんですか?」
「ちょっとなくてね。絶賛困っているんだよ。はぁ・・・・」
「どこでも出来る仕事・・・あまり思い浮かびません。」
学校の食堂で風太郎、二乃、三玖、四葉、五月と話をしていた。
フルメンバーが集まってくれた。
一花があんな回答をするのは予想出来てたので、皆にも相談。
「通訳とかどうかしら。一花なら海外飛びかねないわよ?旅行好きだから。」
「通訳か・・・・金を稼ぐ仕事ではないね。」
「でも一緒には居られますよ?それに有坂さんは英語が得意です!」
「国内にいる間は翻訳のお仕事があるのではないですか?」
「あー。確かに。」
一花は英語ダメだもんな。数学は出来るけど。
選択肢の一つではある。
「凪、いっそのこと歌手に」
「却下。キミもそれを言うのか。出来るわけないだろ。」
「ナギなら出来そうだけど・・・・」
「やめてください・・・・」
風太郎と三玖はそこを押してくる。
真面目に考えて欲しい。そこは真面目と俺は認めない。
つーか俺カラオケで90点以上出したことない。無理だって。
あと一緒に居れないじゃん。
「投資は?場所は関係ないじゃない。」
「・・・嫌だなぁ。一花が稼いできたお金俺が溶かしたら絶対へこむ・・・・」
「お前ならうまくやれそうだがな・・・」
「ダメです上杉くん。賭け事は良くありません!」
五月の頭の中では投資=ギャンブルらしい。
何とも言えない。俺もあまり知識は無いし。
中途半端に調べて興味を持ちたくないので詳しく調べないことにしている。下手の横好きっていうし。
「じゃあ、経営。一花のお金で、ナギがお店をやる。
いない時は、スタッフに任せれば大丈夫。」
「うーん。それもなあ。失敗した時のリスクが。」
「大人数をまとめるのは得意だろ。」
「いや・・・・大見得きってリーダーシップを取れるかどうか。
細かい所に目を付けて修正するのは得意だけど。」
「あのライブやっといて何言ってんのよ?」
「あれは仮面がなかったらあそこまではしゃいでない。」
悪くはない。しかし、これもちょっと一花に依存気味。資金的な話で。
そして一花がもし女優を出来なくなったら、大変なことになりかねない。
借金問題という可能性まである。リスキー。
「はぁ・・・とりあえず、皆ありがとう。悪いね。集まってくれて。」
「アンタには散々世話になったからね。お安い御用よ。」
「一花とのこと、真剣に考えてる。協力したい。」
「お前がこういうちゃんとした頼みごとをするのは珍しいからな。」
「あまりお力になれずすいません・・・」
「ナギくん、またいつでも相談してください。」
「ありがとう。・・・持つべきものは友達だ。
俺もちょっと、これからはちゃんと勉強することにしたから、失礼するよ。はぁ・・・・」
信頼できる友人たちと別れて、その場を離れた。
他にも友達はいるが・・・一花と付き合っていることを考えると、
気軽に相談できそうなのはこの5人だけかな。
話を聞いてくれたおかげで、気持ちは楽になった。
もっと考えよう。歩きスマホで調べものをする。
「・・・・ネット系となると自営業か・・・」
「ナギ、だいじょうぶ?」
「へ?三玖?」
食事のトレイを食堂の返却口に返していたら、後ろから三玖がついてきていた。
「大丈夫って、何が?」
「その・・・・なんというか、ナギらしくないから。」
「らしくない?俺が?」
「うん。最近はいっつも真剣だから。」
「・・・・そらね。彼女の為なら真剣になるさ。」
おいおい。失礼だな。
俺だってやるときはやるさ。
いつもふざけてばかりではいられないんだ。
帰宅。
「そうか、これは・・・・熟語か。」
今日もまた、一人孤独に勉強。
とりあえず、やれることをやろう。通訳の件は少し頭にあった。
受験の勉強をある程度したら、英語の勉強を重点的にやった。
ただ・・・問題は、通訳の仕事であれば、
大学での勉強はあまり意味がないような気もする。
外国語の教室でも行けば代わりになるかもしれない。調査が必要だが。
卒業することによるメリットのある大学。
つまり、卒業により特定の資格が取得できる などなど、そういったものが理想。
そもそも、東京の大学に行くと決めつけていたが、それはどうなんだろう。
一花が東京に来ることもあるだろう。
ただ、所属している織田芸能プロダクションは地元のここだ。
どちらをメインにして仕事をするか。
一緒にいて欲しいと言ったんだから、それを最優先するべきだが。
一度、織田社長に話でもしてみたいが・・・・
社長に相談したら恐らく一花に話が行くだろう。ちょっとな。
恋人に心配はかけたくない。
それに社長は俺と一花が付き合い始めたことを知ってるんだろうか。
知らないと思う。知ったらキレると思う。
有坂くん!一花ちゃんを弄んだ罰として、看板男優になってもらうからね!
絶対こうなる。目に見えてる。頭がちょっと痛くなってきた。
俺の頭痛はこういう不安やストレスによって引き起こされるところがある。
気圧変化などは全く関係ない。余計な事を想像してしまった。とっとと忘れよ。
そんなことを考えていたら、風太郎からメールが来た。
『勉強は捗っているか こちらは余裕がある 手が必要なら言え』
へぇ。俺に家庭教師をするつもりか。その発想はなかった。
心配いらんよ。気持ちだけ受け取っておく。自分の事は自分で面倒を見れる。
ありがとな。
『心配いらないよ 代わりに五月を見てやってくれるかい』
しかし・・・あいつがそんな事を言ってくるとは。らしくないな。
何を心配しているんだか。
もう一通メールが来た。三玖からだ。
・・・昼に話した仕事内容に関するメールだ。
・・・・・面白いな、それ。アリかもしれない。
詳細を調べてみよう。