三玖が、知らない男性に手を引かれている。
考えられるケースは?2つ浮かんだ。
あの男性は中野父か、それとも親戚など知り合いか。
違えば、誘拐という可能性がある。
どうする。突っ込むべきか。しかし間違えた時はどうする。謝れば許してくれるだろうか。
もう少し探るか。
そう思っていたが、三玖が明らかに困った顔をしているのを見て、何かが足を突き動かした。
「待ちな!」
「っ!」
男性と三玖の間に割って入り、手を引き剥がす。
三玖の手を掴んで、こちらに抱き寄せる。
「あんた、俺の友達とどういう関係だ!人さらいじゃないだろうな!」
「な、なんだね君は!?」
「ナ・・・・ナギ!?」
「全く今日に限って・・・・邪魔ばかり入って!キミは一花ちゃんの何なんだ!」
「喋った通りだ!俺はこの子の友達!あと教え子であり、同じ趣味を持つ同志である!」
「教え子?同志?・・・今はそれどころじゃないんだよ!一花ちゃん!」
よくわからないが、とりあえず人さらいではなかったらしい。
やっちまったかもしれん。まあ最悪のケースを想定しての行為なので、
後悔も反省するつもりはない。
しかし、今・・・・一花ちゃんと言ったが。人違いか。
「この子一花さんじゃないです。」
「何を言っているんだ!その顔は見間違えようがない!」
間違えてるんだよなぁ。
「うちの大切な若手女優から、手を放しなさい!」
「あの!」
・・・・若手女優?ん?一花さんが?
声が聞こえて振り向いたら、風太郎と一花さんが立っていた。
「・・・・人違いをしてしまったのは、すまなかったね。」
謎の男性から詳細を聞いた。
この人はカメラマン。想像できる通り、芸能関係の仕事をしている。
そして一花さんはその被写体。それも女優だというのだ。
中野家が五つ子だということはご存じなかったらしい。
風太郎が一花さんとなぜセットでいたかは聞けていない。
上杉公。おぬし三玖という者がありながら、浮気か。いつか成敗してくれる。
「一花ちゃんは、これから大事なオーディションがあるんだ!わかってくれるね?」
「そんな・・・・一花、良いのかよ!」
「・・・みんなに、宜しくね!」
風太郎が問いかけたが、花火は見れないらしい。一花さんが選んだことだ。
男性に連れられて行ってしまう。若干腑に落ちないような顔に見えたのは気のせいだろうか。
「・・・ナギ?」
「なんだい。」
「・・・・そろそろ、離してほしい。」
「あ。・・・・勘違い失礼しました。」
「・・・・大丈夫。お陰で誤解は解けた・・・・」
三玖を掴んだままだったので離した。
やっべ。さっきまで自分の胸の中で抱き寄せている格好だった。
相棒すまんな。三玖は俺が貰っていく。
「二人とも、一花をお願い。」
「だが、お前を一人にする訳には・・・・」
「はいはい。俺がいくよ。風太郎、三玖をよろしくね。あと行方不明の四葉ちゃんも。」
「凪。頼むぞ。」
「任せてくれ。俺を誰だと思ってるんだい?」
「・・・・お前あれから自信満々だな。」
「キミのせいでこうなったんじゃないか。」
いつまでも風太郎におんぶにだっこではいられない。
三玖も風太郎と一緒の方がいいだろうし。我ながら気が利く。
一花さんたちが去っていった方向へ歩き出す。うーむ。どういう形に持っていくべきか。
一花さんがオーディションを受けることを望んでいるというのが難しい。
まず円満な解決は期待できない。
「行くぞ、三玖。凪なら大丈夫だ。」
「うん。」
「凪は・・・・素直で、いつも冷めていて、時折考えすぎる癖があるが、
一度スイッチが入ると、あいつを止められる奴はいない。
今のあいつはスイッチが入ってる、問題ない。」
「うん。・・・・びっくりした、けど、格好良かった。でも・・・・」
「でも?」
「ソースの匂い・・・気になった。」
「焼きそばだな・・・・」
道を間違えていないか心配だったが、一花さんに追いついた。
コンタクトは出来た。しかし、女優ね。そう認識すると、
・・・ただ道端で佇んでいるこの光景もなんだが艶が出ている。
そんな見え方になる。ダメだな。肩書きは人を曇らせる。
「やぁ。絵になるね。若手女優さん。」
「ナギ君・・・・」
「あの人は?どこに行ったんだい。」
「車を取りに行ってるところだよ。」
気まずい別れ方をしたが、別に敵意を持っているわけではなさそうだ。
話し合いは出来るし、なんならフレンドリー。
「この間のバイトもこの仕事だったわけ?」
「そうだよ。」
「このオーディションは・・・・大事な仕事?」
「うん。とっても大事。上手く行けば・・・おっきいお仕事になる。」
やはり辞めるつもりはないそうだ。
一花さんがオーディションを喜んで拒否するという円満解決は消えた。
残るは2択。彼女を止めるか。止めないか。
「女優は・・・・これからも続けるんだね。」
「うん。見つけたんだ。私のやりたいこと。
・・・・だから、上手く行くように、練習、付き合って?」
「練習?」
手にしていたタブレットをこちらに見せてくる。
人名が上に書いてあり、その下に文字が書いてある。
・・・・話し口調であるのをみると・・・・台本だ。
「オーディションの台本?部外者に見せていいのかい?」
「言わなきゃバレないよ。これでナギくんも共犯だね。」
「あれまー。・・・・それで?俺は何を読めばいいのかな?」
「先生のところね。」
「あいよ。良いね。一度やってみたかったんだ、こういうの。」
この格好で先生かぁ。頭にタオル巻いて半袖でジャージの長ズボン履いて。
完全に体育教師だよ。まあ付き合ってあげよう。貴重な体験だな。
こちらは先生。セリフを見る限り、向こうは卒業間近の生徒のようだ。
「卒業・・・おめでとう」
「先生、今までありがとう。あの教室で先生に出会って、初めて私は・・・・
貴方が先生でよかった。貴方の生徒でよかった・・・・!」
「お前が変わることがで出来たのは・・・・お前自身の力だ。
僕は・・・・その、てだ・・・ふふふ。あはははははは!!」
「せ、先生?」
「もーだめだ!演技の才能ないわぁ!
笑いがこみ上げてきちゃって抑えきれないわ!」
「そ、そんなに変だった?私の演技?」
「いや違うよ。俺こんなところで急にシリアスになって、
何やってんだろうって思ってさ!バッカバカしい!」
ちゃんと努力はした。演技しようとは頑張った。
しかし自分の体から漂う焼きそば臭がそれを妨害し、俺に目を覚ませと言ってくる。
Tシャツ着替えたんだけどなぁ。
「あーごめんね!台本、返すよ。」
「う、うん。・・・ナギくんも、今みたいな笑い方するんだね。」
「昔っから高笑いが癖でね。人によっては不快に思うから、直そうとはしてるんだよ?」
雰囲気をぶち壊しにしてしまったところで、車が1台、目の前に止まった。
お迎えが来たようだ。
「じゃあ、行ってくるね。とりあえず役、勝ち取ってくるよ!」
「・・・いや、その状態じゃ厳しいね。」
「・・・・え?」
「さっきは自分のバカさ加減に高笑いかましたけど、
・・・・その愛想笑いは、笑えないね。緊張してるのかい?
らしくもない。もっとリラックスしなよ。俺がわかるんだから、審査員の人にだってわかるよ。」
今日の彼女はどうもらしくない。さっきの一件からそうだ。
みんなに、宜しくね。
ああ言った時も、愛想笑いだったと思う。
「・・・・どうして、愛想笑いだと思ったの?」
「キミじゃなくて他の4人ならわからないだろうねぇ。俺がわかるのは一花さんだけだよ。」
「え・・・・?」
「考えてもごらん。学校にいる時に・・・誰が一番近くにいるのか。
風太郎じゃない。中野姉妹でもない。この俺だよ。」
隣の席のクラスメート。授業中に仲良く密談。
一花さん。キミとは喋り過ぎた。他の4人よりも。
だから・・・・わかってしまった。
「教室の時の休み時間や、授業中に先生に当てられてしまった時、そんな時によく見る笑顔だ。さっきの顔は。けど、この間、風太郎裁判があったでしょ?
・・・・あの時は姉妹のみんなと一緒だった。
姉妹のみんなと一緒にいる時の笑顔と、学校の時の笑顔は・・・・違うんだ。」
【今まで見たことないくらい良い顔してる】
あの時、俺はそう思った。それは何故か?・・・・さっきの演技で、全てわかった。
「・・・・以上。旭高校2年、有坂 凪の主張でした。」
「凄いね。ナギ君には・・・お見通しだったんだね。」
「気づいたのはさっきの演技のお陰。リハーサルして正解だ。」
ピピー
車のクラクションが鳴る。
「一花ちゃん!もう時間ないよ!早く乗って!」
「行ってらっしゃい。一花さん。」
「うん。・・・止めないんだね。」
「キミのやりたいことなんだろう?止めるわけないじゃないか。
夢に向かって努力している人を止めるほど、無粋じゃないよ。」
「けど・・・簡単なことじゃない。いつも不安になるの。このままでいいのかなって。」
わかる。その気持ちわかる。将来って不安だよね。
高2よ?遊べる時間は限られてる。一花さんのソレは遊びじゃないけど。
「北海道の銅像の人物・・・知ってるかい?」
「指さしてる銅像の人?」
「良く知ってるね。えらい。彼の言葉を少し借りよう。」
明後日の方向を指さし、そして両手を広げる。
「少女よ、大志を抱きたまえ!志を持って成し遂げたい夢があるのならば、
私はキミの力になろう!」
「・・・・・・!」
なに言ってんだろ俺。さっきより恥ずかしくなってきた。
まあいいか。今日は俺が主役になろう。感謝したまえ。
「ありがと。ホントに・・・先生みたいだった。」
「それじゃ、さよならだね。大丈夫。
4人と風太郎はこっちで何とかしておくよ。」
「うん。行ってきます。」
車に乗って、向かうべきところへ向かっていった。
あの時の三玖の反応から見る限りは、他の姉妹も女優の仕事を知らなかったのだろう。
喋っちゃえばいいのに。間違いなく応援してくれる。
心でため息をついていたら、スマホが鳴った。上杉 風太郎。
着信はそう告げている。
お叱りの時間が来るの、早かったなぁ。
「はーいもしもし。ナギくんですよー」
「凪。上手く行ったか?」
「上手く行ったけど上手く行ってないです」
風太郎はさっきの女優バレのくだりを知っているので、事の経緯を正直に話す。
「え?・・・・・・それ買ってくればいいの?わかった。」
クラーク博士は会社を経営していましたが、
知人が横領と逃亡を行い、その後破産しているそうです。
人付き合いをするときはちゃんと人を選びましょう。