「♬~~~」
「上機嫌だね。そんなにこれが良いのかい?」
「とっても!」
「物好きだなぁ。」
風呂から出て、テレビを見ながらソファでくつろいでいた。
俺が一花に膝枕をしている。一花はまた鼻歌。俺の脚固くないのかな。
ちなみにこの鼻歌、あのデュエットの曲である。
今は甘えたい気分のようだ。俺と一緒だな。
ひとりぼっちの反動と一緒。
普段おねーさんは妹を甘やかすから、甘えたいときがあるんだろう。
ナギおにいちゃんですよー。
「ナギ君!」
「はい?」
「頭撫でて?」
「はーい」
「んふー・・・・満足~」
求められたので応じる。サラサラの髪だな。
完全に甘えたがりの末っ子。五月とは全く違うタイプ。
五月は甘えるというよりは活発的に連れまわす。振り回す。
「♬~~~」
「よしよし。・・・ほら、女優さん。貴方がテレビに出てますよ。」
「あ。ホントだ。ここ何回も撮り直したんだよー。」
「あれ。らしくないね。」
「私じゃないよ?手前のこの人が何回も笑っちゃうんだもん。」
一花が出ているドラマを一緒に見ていた。
よく見れるな。俺だったら絶対無理。顔から火が出る。
ロケーションは高校の教室。教室内で複数人が和気あいあいと会話していた。
一花はそのうちの一人。机を椅子がわりにして、
余裕のある笑みを浮かべながら、クラスメートと会話していた。
改めて、テレビに映っている一花を見やる。
こんな凛々しい演技をする女性が、俺の膝の上でにんまりした顔で寝てるんだから。
優越感に浸るったらない。画面のこの人は知らない人です。
誰ですかこのクールでショートカットな女優さん。知りませんよ。知らない子です。
ドラマを見終わって、一花の背中をマッサージしていた。
ソファにうつ伏せになってもらっている。
「今度、社長のところに一緒に来てくれる?」
「社長?・・・まさか俺を」
「違うよ~。一応、そういう関係だってことは伝えたの。」
「・・・なんか言ってたかい?」
「喜んでた。変な虫につかれるよりはナギ君の方が良いって。
あと正直に報告してくれて助かったって。」
「あらそう。意外だなあ。」
社長は割と歓迎ムードらしい。あんたそれでいいんか?怒られるよりはいいけど。
まあありがたくこの関係を満喫させてもらうが。
「ナギ君、腰のあたりをお願いしても良い?」
「腰ね。えーっと・・・この辺かい。」
「んー。良い気持ち・・・」
一花の体はそれなりに固い。上半身よりも股関節だな。
仕事柄、車や新幹線の移動が多いからだろう。
体は大事にして欲しい。唯一無二だよ。家族構成的にちょっと説得力ないかもだけど。
「ちゃんとしたとこ行かないと。結構キテますよお客さん。」
「スパは高いもん。ちょっとでも節約しなきゃ!」
「こんなマンション借りて言っても説得力がないですよー。」
「これは大事な事だもん!恋人とのおうちデートだよ?」
「そうだねぇ。クリスマスだし。特別だね。」
「コスパだよコスパ!ちゃんとしたお店のマッサージより
ナギ君とイチャイチャしたほうが満足するんだよ?」
「はいはい。わかってますよ。」
わかってるってば。一花テスト100点の生徒を舐めてもらっては困る。
偏差値100です。これに関しては風太郎より頭良いよ。
「だから、これからも専属マッサージ師、お願いね?」
「はーい。」
度々頼まれそうだ。素人なりにマッサージのやり方を学んでおくことにしよう。
受験が落ち着いてからだな。
「じゃあ、寝よっか?」
「そうだね。」
良い時間だ。縁もたけなわ。
寝ることにした。・・・プレゼントは無しだったな。良かった。
セミダブルのベッド。枕二つ。・・・・一緒だな。これは。
「ね。来て?」
「・・・・お邪魔しまーす。」
先にいつしかの白ニット姿の一花がベッドに入り、両手を広げてこちらを呼んでいる。
今度はキミが両手を広げるんだね。飛び込んであげよう。
就寝前だが、流石に裸ではなかった。良かった。
下はなんも履いてなさそうだけど。遠慮なくベッドへ入る。
「ここに来て?」
「ん?ここ?」
場所の指定があるらしい。少し体を下へずらす。
頭を胸の位置に移動させた。
「♬~~~」
「・・・・・・・・・」
がっちりと頭を両手でホールドされ、抱き枕にされてしまった。
また、俺の頭を撫でてくる。
・・・・どうやら、今度は俺を甘やかしたくなったらしい。
今は俺が弟。一花おねーさんである。
気まぐれだね。そういう予想つかないところが好きなんだけど。
「おやすみ。」
「うん。おやすみなさい。」
そのまま床に就いた。
翌日は当然俺が早く起床した。
しかし・・・・・頭をホールドされたままだったため、しばらく動けなかった。
困った彼女だ。なんだよ。寝相悪くないじゃないか。
翌日のクリスマスは余った食材で朝食を作り、
一花が午後から仕事だったため、早々に別れた。
クリスマスから年内一杯は特に何もなく。1月1日。正月。
また、去年と同じメンツで初詣に来ていた。
風太郎、らいはちゃん、俺。そして五つ子の8人だ。
「ナギさんあけましておめでとー!」
「はい。あけましておめでとう。どーぞ。」
「ありがとーございます!」
「俺にはないのか?」
「あるわけないだろ。むしろくれよおとーさん。」
らいはちゃんにお年玉を渡す。
中学生になったのでちょっと増やした。3000円から5000円。
なかなか痛い。
「ナギ君。フータロー君。あけおめだね!」
「今年も、この8人で集まれたわね。」
「フータロー、受験は大丈夫?」
「むしろ私の方が危ないです!」
「胸を張って言う事ではありませんよ・・・」
「ようやく来たか。・・・・あけましておめでとう。」
「おめでとー。」
五つ子も来た。
二乃の言う通り、去年と一緒。
今年もこの8人でお送りします。長寿番組。
「では、参ろう。8人横並びで良いんじゃないか。」
「丁度いい横幅だね。」
賽銭箱に100円玉を投入。
5円玉は無かった。まあ、人との縁はもう足りているので良いだろう。
二礼、二拍手、一礼。
ここは神社なので構わない。お寺だとやり方が異なるとどこかで聞いた。
別にその辺にマナー講師なんていないだろうから、どこであろうともこのやり方をするが。
・・・・一花の無病息災を祈願しておいた。
「ナギ君、フータロー君。この後って時間大丈夫?」
「ああ。今日はフリーにしている。」
「俺も。まあ、俺はそんなに頑張らなくても良いからね。大学のレベル的に。」
「じゃあ、今からウチに来てください!」
四葉くんが元気よくそう言った。
中野家に行くことになった。
正月の中野家マンションにお邪魔していた。なんとも珍しい光景がここにあった。
「風太郎、持てるのかい、コレ?」
「ああ・・・・多分・・・・大丈夫だ・・・・」
「声が大丈夫じゃないぞ。」
ベランダに杵と臼を用意され、餅つきを実行しようとしていた。
風太郎がハンマー役である。俺は米を回す役。
「風太郎頼むぞ。この時期に手をやったら受験終わるからな。」
「わかっている。心配するな。というより俺の手の方が心配だ。」
「なんで?振り下ろすだけだろ?」
ハンマーが手にヒットして文字をかけなくなったらヤバいので、
利き腕は使わずに片手で頑張る。どっちの腕がやられたらまずいかというと風太郎なので、
俺が回し役になった。有坂くんはこんな時でも最悪のケースを考えます。
「準備は宜しかったですか?」
「ええ。お願いします。江端さん。」
「では、少々お待ちください。」
「上杉くんと有坂くん・・・・中々見ものだね。
ケガをしてしまったら、私に任せておきたまえ。」
「ちょっと笑えないっすねそれ……」
本日は正月という事で中野父と江端さんも家にいた。普通に歓迎してくれた。
学園祭からは中野父が定期的に帰ってきているらしい。江端さんは家族とかいないのかな。
姉妹とらいはちゃんは部屋の中からこちらを覗いている。
中野父は椅子に座り足を組んで同じベランダから見物している。
この人に見られると緊張感が出るからやめて欲しい。
バイト代で年下の高校生に餅をつかせるという圧倒的愉悦。
「参ります。」
江端さんの掛け声で、臼の中へもち米が投下された。
「ふー・・・・せいっ!」ガン
「あぶねぇ!」
「す、すまん。一度やってみたかったんだ。」
「細かくやってくれよ。無茶しなくていいから。」
風太郎が杵を体の後ろから満月を描くように回し、フルスイングで叩きつけた。
しかしコントロールがそれてもち米ではなく臼に激突。
危なかった。もう少し反れていたら俺の脳天に炸裂していた。
流石照準のずれた最終兵器。前田くんのひたいをカチ割った実績は伊達じゃない。
ぺったんぺったんと餅を作っていく。
「どうだ。もう少し早い方が良いか?」
「いいや?風太郎のペースで良い。」
「なら、速くする」
「あぶねぇ!いきなり速くするな!」
「うるさい。たまには俺にもいたずらをさせろ。」
こいつ、何考えてやがる。さっきから俺に恨みでもあんのか。
なら の時点でハンマーのスピード上げやがった。
ちゃんと報連相してくれ。左手が逝っちまうだろ。
受験勉強のストレスを俺にぶつけてくんなよ。自分だけ辛いからって。
つーか全国3位なら流石にあの大学も楽勝だろ。ちょっとは楽にしろよ。
俺だって楽にしてんだから。
「切り分けは私めにお任せください。」
餅が出来あがったのでその後は江端さんにおまかせ。
江端さんもち食えるのかな。喉つまらないのかな。ちょっと気になる。
「旦那様。」
「ありがとう。江端。」
客人ではなくちゃんと雇用主を最優先する使用人の鑑。
こう言うとこちゃんとしてるよね。
そして次は当然。
「申し訳ありません。」
「いえ。わかっておりますとも。」
「?何の話ですか?」
そう。雇用主の娘である五つ子に先にもちを渡す。
ベランダに俺と風太郎がいるが、室内にいる五つ子に先に渡さなければいけない。
ベランダのドアを開けて室内へと向かっていった。
すぐ近くにあなた方がいるのに、向こうの姉妹達を優先してごめんなさい
そういう意味の申し訳ありません である。
しかしやっぱり俺たちの誇るノンデリカシーは期待を裏切らなかった。
当然のようにこの会話の意味をわかっていないのである。
この先大丈夫なのか。大学のサークル活動とかさ。気配り大事っすよ?
俺まだ高校生だから実情知らんけど。
「有坂くん。」
「? はい。なんでしょう。」
江端さんからもちを受け取った後、中野父から呼ばれる。
「一花君と男女の仲にあると聞いたが・・・・本当かね?」
「え・・・・・あ、はい。」
知ってたの?誰から聞いたのさ。本人かな。
「・・・・彼女の仕事は精神的にとても厳しい仕事だろう。
キミの豊富な人生経験で支えてやってくれたまえ。」
「・・・・あまり自信はないですが。」
流石に知ってるよな。一花の仕事。
ただ、気になるのは何時から知っていたか。・・・・聞けないけど。
だが、とりあえず関係をあっさりと認めてくれた。
まあ、女優なんて仕事をやるくらいだしな。中野父も若干諦観気味なんだろう。
好きにしてくれと。一花が中野父と喋っているところを見たことないしな。
一度見てみたい。
部屋に入ってみんなでもちをつつく。
風太郎、俺、中野父、江端さん、らいはちゃん。五つ子。
中々無いぞこの光景。10人か。
10人もいるのに全然手狭じゃないんだよな。流石タワマン。
まあ何人かは立ちっぱなしだけど。ちなみに俺のもちはきな粉です。むせるくらいかける。
「五月、受験勉強は調子どうなんだ。」
「上杉くん、丁度見て欲しい所があるんです。」
「一花さんはつぎなんのお仕事するんですかー?」
「それはね・・・・ヒミツにしとこっかな~?」
「えー!」
「江端さん・・・これ、どうぞ。」
「ありがとうございます。三玖お嬢様。」
「喉が詰まるといけないから。」
いろいろと珍しい光景が見れるな。ここまで人が多いと。
風太郎は五月と喋ってるし。
三玖は江端さんにお茶を渡してるし。
ウチの彼女はらいはちゃんに取られてしまった。
ふむ。俺は誰と喋ろうかな。残りは二乃と四葉くんと中野父だが「有坂さん!」
「ん?四葉くん。なんだい。」
四葉くんの方からこっちに話しかけてきた。
「その・・・・受験勉強、どうですか?」
「俺?俺は別に。楽勝だよ。行くところはちゃんと決めた。
明確な目的があって行くんだけど、別にレベルが高い場所じゃない。」
「それはよかったです!その、お願いがありまして・・・・」
四葉くんから俺にお願い?珍しい。
聞いてあげよう。受験勉強にはそこまで時間を割かなくていいからな。俺は。