2月。受験シーズンの真っただ中。
休日、自宅で勉強をしていた。
正直、俺としてはそこまでプレッシャーはない。偏差値と比較すれば、楽々だ。
しかし落ちたら悲惨だからな。ちょっと真剣ではある。
でも一花なら多分浪人しても別に良いよとか言いそう。
まあ、1発で決めて見せるさ。それはちょっと格好悪すぎるからな。
試験勉強を終えて、今度は英語の勉強。
これは通訳用。英語が終わったらどうするか。
多言語が必要だろうな。出来るだけ時間はかけたくない。
脳が衰える前に色々覚えた方が良いだろうし。
ピンポーン
ん?自宅のチャイムが鳴った。
「お邪魔しま~す。」
「あれ?一花。今日休みだったの?」
「うん。急にスケジュールが変わっちゃったの。
だから来ちゃった。」
「嬉しいねぇ。会いに来てくれるとは。」
綺麗な女優さん、わが家へスタジオイン。
嬉しいね。良いドッキリだ。
玄関で出迎え出来ないのが辛い。
俺が顔を出したらちょっと危ないからな。週刊誌的な意味で。
「受験勉強してたの?」
「うん。まあそれなりにね。流石にもうすぐだから。ちょっと気合を入れてる。」
「私も何か手伝おっか?」
「うーん。そうだなぁ・・・・手伝えることか・・・・」
なんかあるかなぁ。
・・・家事くらいか。
「風呂掃除くらいかな。日中は両親がいないからね。家事は俺の分野なんだ。」
「お掃除ね!任せて!」
「あ、これ手袋ね。」
やる気だったのでお任せ。
この寒い季節。綺麗な手が傷ついてはいけないからな。
ちゃんとゴム手袋をつけてもらう。
こっちはありがたく勉強させてもらおう。
でもまあ、掃除が終わったらちょっと休憩かな。
おねーさんの相手をしよう。
・・・・・・・・ちょっと待った。よく考えたらまずくないか?
俺、今掃除を頼んだよな?
・・・・・一花のあの部屋。
・・・・大丈夫かな。掃除をしないというだけで、
掃除が出来ないという訳ではないはずだが。
信じて勉強させてもらうか。
「ナギ君。終わったよ?」
「あら。本当?見せてもらおうか。」
清掃員一花の仕事ぶりをチェック。
・・・・問題なかった。風呂の元栓が閉まってなかったくらい。
これはまあいいさ。沸かすボタンはまだ押してなかったし。
まあ、一緒に部屋を片付けたこともあったしな。心配しすぎか。
「ありがとう。助かったよ。」
「いいよ。ゆっくりしてね。・・・そうだ。ナギ君。受け取ってくれる?」
「ん?これは・・・・」
ラッピングされた小さなボックスが2つ。
・・・・・あ。今日は2月14日じゃないか。
「バレンタインかい?」
「そうだよ~。ごめんね?四葉みたいに手作りじゃなくて・・・・」
「いやいや。ありがたいよ。そんな暇はないだろう?
しかし・・・どうして2つ?」
「うーんとね?こっちは甘いの。そっちの青いのは・・・苦いの。
二乃から聞いたの。高カカオはカフェインが入ってるから、眠気覚ましになるって。」
「ああ。なるほど。」
「これを食べて、受験勉強頑張ってね。歯も磨かないとダメだよ?
お姉さんとの約束だぞ~?」
「はーい。」
姉御の仕業か。この間俺の好みを聞いたのはそれだったか。
苦いのは嫌いだが、そういう事ならありがたく頂こう。
流石おねーさん。気遣いのできる子ね。そういうとこ好きだわぁ。
prrrrrr
「あ!ごめん。電話が・・・・」
「おかまいなくー。」
「はい、もしもし・・・・」
一花のスマホに電話。仕事絡みかな。
人気者だねぇ。まさに引っ張りだこ。
・・・・・電話が長いな。
・・・・ふむ。いたずらしたくなってきた。
何しようかな。聞いている限りは仕事の電話だが。
電話に出ているところにいたずら出来る機会は少ないからな。
「・・・今からですか?・・・・」
・・・・仕事の連絡だしな。過激なのはやめとくか。
程よいイタズラをしよう。
空いている手でも握ってみる。
「!・・・・出来れば明日に・・・・・」
ちょっと驚いてるようだ。だが、それだけ。
・・・・を。一花の方から手を組み替えて・・・・
恋人繋ぎになった。
一花はこちらに微笑みながら会話を続けている。
空いた手で何をしようかな。
・・・・その綺麗な首、ちょっと触らせて頂こう。
もう片手で一花の首を撫でる。
指がなめらかに滑る。・・・良いね。絹のようだ。
・・・・そんなうっとりとしたような顔しないでくれよ。
少し顔を赤らめちゃって。
そんな顔を俺に見せたら・・・・その口を塞いでしまいたくなる。
参ったな。自爆だ。こんなことしなきゃよかった。
顔を背ける。ダメだ、直視してはいけない。俺が抑えられなくなる。
しかし向こうが手を離してくれない。体を逃がすことは出来なかった。
視線だけだ。
「・・・では、失礼します。」
電話が終わったようだ。
「もう~。ちょっとびっくりしちゃった。」
「ごめんね。ちょっとしたいたずらさ。でもしなきゃよかった。」
「えー?どうして?」
「いや、うん。・・・・キスしたくなった。」
「え・・・・あははは。ホント?・・・・これで、我慢してね?」
そう言って頬にキスしてきた。
あら。修学旅行以来。
・・・・口じゃないのかぁ。焦らすなぁ。
今回は・・・はっきり覚えられそうだ。
「ごめんね。ナギ君。急なお仕事の打ち合わせが入っちゃって・・・・」
「うん。タクシー呼ぶよ。チョコレートありがとね。」
「受験勉強、頑張ってね?」
「ああ。」
その後、タクシーに乗って何処かへと向かっていった。
織田社長め。空気読んでくれよ。オフの日に仕事を入れるな。
でも、本来は仕事だったんだっけ。なら仕方ないか。
さて、勉強を再開しよう。
受験日当日。
会場へと向かっていた。今日は一花は仕事。
この日くらいは顔を見ておきたかったが・・・・仕方ない。
俺のワガママだからな。
そんな時、スマホにメールが来た。
『会えなくてごめんね 受験頑張ってね』
愛する彼女さんから激励のメールだ。
良いねぇそれ。気分上がるよ。やる気出るね。
さて、粋な返しをしてやろうかな。なんと返そう。
『何を言う 頑張るのはキミもだ 仕事頑張って 好きだよ』
ははは。どーだこの返し。
今頃赤面してるだろ。最後の一言は完全なる蛇足。だがそれが良い。
あれ。すぐにメールが帰ってきた。
『わたしもナギ君のこと好きだよ』
・・・・・・・負けた。
全然効いてなかった。ダメだな。
クリスマスのあの一件からは、一花にかなり余裕があるようだ。一筋縄では行かないな。
くやしい。もっと変化球で行くか。それとも速球のスピードを上げるか。どうしようかな。
多分一花なら剛速球投げた方が効くけど。
一応、手はあるんだよな。ただあんまり使いたくない。
受験前で少しナーバスだったが・・・おかげで緊張はほぐれた。
しっかり合格してこよう。
そして、3月前半。
合格発表の日。
・・・無事、あっさりと、合格した。
とりあえず、第一歩だな。
合格発表の翌日。
「受かったのか、凪。」
「当たり前だよ。どうせ風太郎も受かってるだろ?だから来たんだ。」
「まあな。」
「ナギさんおめでとーございます!」
「ありがとーらいはちゃん。俺も東京だから引っ越しだ。」
「わたしもお引っ越し手伝いますね!」
上杉家で引っ越しの手伝いをしていた。
旭高校が誇る天才、上杉風太郎は当たり前のように合格していた。
そらそうよ。知ってた。なんにも驚かない。むしろ落ちたらこの世の中は終わってる。
黒すぎ。裏口入学だらけ。
「武田くんと毛利さんは?」
「あいつらも受かっていたぞ。」
「やったねぇ。友達いるねぇ。」
「別にいなくても構わんがな。」
「いやいや。居てもらわないと俺が困る。」
「お前は俺の何なんだよ・・・・」
「相棒だっつーの。東京でもちょくちょく会いに行くからな。」
「お兄ちゃんナギさんにお礼言わないとダメでしょー!」
「わ、悪い。助かる凪。」
「どーいたしまして。」
見かねたらいはちゃんからお叱りが入った。風太郎お兄ちゃん弱すぎる。
中学1年に指導される高校3年。
らいはちゃんも風太郎のとっつきづらさは理解しているからな。
ただ、こいつも今は初対面の人にもある程度コミュニケーションが取れるだろう。
変化のおかげで。
あの二人が一緒なら、とりあえずは人付き合いに問題ないだろう。
俺も東京にはいるものの。毛利さんに風太郎をよろしくと言っておこう。同じ大学だし。
武田くんは何も言わなくても大丈夫だな。あれは風太郎の事が好きすぎる。
ほっといていい。むしろ武田くんが風太郎を放っておかない。
上杉くん どちらがより高評価の論文を書けるか 勝負だね
絶対こんな感じになる。いとも簡単に想像できる。
越後の龍も大変だぁ。甲斐の虎がしつこすぎる。
「なあ、凪。」
「なんだい。」
「四葉のバレ「却下。自分で選べ。」
「ぐ・・・・・」
チョコはちゃんと貰ったらしいな。
そのお返しを一緒に考えろと。そういう訳だ。
勘弁してくれよ。俺だって一花に何を返すか考えなきゃいけないのに。
今年は本当にお前にかまってられねぇんだわ。余裕がない。
経験豊富なウチの彼女の裏をかかないといけないからな。
「お兄ちゃんまだお返し考えてなかったのー?」
「うーむ・・・・」
「問題集はもう上げられないぞ。四葉くんも大学受かったんだから。」
「それくらいは俺もわかっている!」
わかってたか。ごめん。わかってないと思ってた。
お前を見くびってたわ。だって本当にやりそうなんだもん。前科あるし。
「そう言えばなんだけど。四葉くんはこの家に来たことあるのかい?」
「この家?・・・・・ないな。五月しかないはずだ。」
「じゃあ上杉家でハウスパーティでもしたらどうだ?
ホワイトデーには間に合わないかもしれないが、
理由を喋っておけば許してくれるだろ。四葉くんは。」
「あー!確かに!お兄ちゃんそうしよー!」
両家顔合わせしとこうや。
だってこの人プロポーズしたらしいぞ。
俺はその時は受験勉強でいなかったけど。後で一花から聞いた。
姉妹全員で風太郎と四葉くんのデートをストーキングし、
最後に風太郎が公園でプロポーズをしたらしい。そして四葉くんはそれを無事受諾。
まごうことなき結婚である。ブライダル成立。この度はおめでとうございます。
丁度いいじゃん。
「親父が早めに帰ってこれる日を選ぶか・・・・」
「お兄ちゃん、四葉さんって何か好きな食べ物あるの?」
「みかん置いとけばいいぞ。」
「それだけじゃダメでしょー!」
「まあ、ちゃんとやってくれよ。流石に俺は行かないぞ。」
上杉家のハウスパーティーにお邪魔するわけにはいかない。
3人で四葉くんをおもてなししてもらおう。
どうせホワイトデーには間に合わないんだし、親父さんの都合の良い日でいいだろう。
「そう言えば、凪。あのチョコレート・・・お、お前が考えたのか?」
「ん?・・・あのリボン型チョコの事かい?違うよ。
四葉くんが金型持ってきたんだ。うさちゃんリボンを作りましょうって言ってたよ。」
「という事はあいつ・・・・・自分で考えたのか?あ、あんな事を・・・・・」
「? なんかあったのかい。」
「な、何でもない!引っ越しの続きをするぞ!」
風太郎は手で口元を隠し、柄にもなく顔を赤からめていた。
一体バレンタインに何があったんだろう。
あのチョコリボンは等身大だから、つけようと思えばいつものように頭につけられるが。
本当につけたのかな。四葉くんそれは髪がべっとべとになるんじゃないかい。
髪ごしとはいえ体温で溶けるんじゃないか。
しかし四葉くんならやりかねないな。でも自分の頭につけてその後どうするんだろ。
ちょっと俺は思いつかない。四葉くんは未知数だなあ。
その後。ホワイトデー。
こちらはこちらでバレンタインのお返しをしなきゃいけないんだが・・・・・
一花は仕事であり、こちらに居なかった。まあしょうがない。別日にしよう。
モノはどうしようかな。じっくり考えよう。
事前に会えないという連絡は貰っていたので、結局まだ買っていない。
一度遅れてしまったからな。3月中に済ませられればいつでもいいだろう。