「凪。次はお前の番だぞ。」
「は?何が?」
何の話だよ。主語が足りねぇ主語が。
卒業式も終わり、俺の家で引っ越しの準備をしていたら、風太郎にそう言われた。
風太郎とらいはちゃんに我が家に来てもらい手伝いをお願いしている。
「一花が俺たちのデートをつけてきていたんだ。」
「ああ、あれね。俺はいなかったが。」
「お兄ちゃんデートしたの!?」
「次はお前の番だぞ。」
「いやだから何がだよ。」
「四葉さんとどこ行ったの!?ねー!」
「俺たちもお前らのデートをストーキングする。」
「は?」
「ナギさんも一花さんとデートするの!?」
「だそうです。」
「あはは。フータロー君らしいなぁ。」
「どこか行きたいところはあるかい?」
風太郎にそんなことを言われたのでデート先を考えていた。
今は一花と電話で通話している。仕事でこちらには居なかった。
「うーん・・・でも、折角だからみんなで卒業旅行、しない?」
「良いけど、一花のスケジュールは大丈夫なのかい?」
卒業旅行。確かに。アリだな。
しかし最優先は一花の仕事。そこにみんな合わせてもらおう。
「3日間くらいなら、連続で空いてる日があるの。そこでいいかな?」
「ああ。良いんじゃないかい。みんなには声を掛けておこう。」
「場所は・・・・・ナギ君にお任せしよっかな?」
「俺か。うーむ・・・・・・」
ボールをこちらに渡してきたか。
少し考える。適切な場所ね。卒業旅行だ。かなり広い選択肢がある。
一度電話を切って考え直すでも良いが・・・・
・・・・・・ああ。一つあるじゃないか。
一花が出来なかったことが。それをしに行こう。
「北海道に行かないか?」
「北海道?」
飛行機を使い、風太郎、らいはちゃん、俺、五つ子の8人は北海道に来ていた。
例のごとく、卒業旅行を兼ねている。お金は中野家持ちである。ゴチになります。
白銀のゲレンデ。スキーをしに来ていた。
「天気が良くて良かったわね。」
「お兄ちゃんってスキーできるの?」
「もう忘れたな・・・」
「また私が教えましょーか?」
「懐かしい・・・かまくらはないの?」
「今回はゴーグルもマスクもつけなくて済みますね。」
行き先を聞かれてパッと思いついたのは、
一花が風邪で参加することが出来なかった林間学校のスキー。
思えばあの時は一花だけが仲間外れだった。
五月が一花の変装をしていたからな。
あの時ようにゴーグルとフードをつけていれば、一花だとは思われまい。
スキャンダル対策としても良い。
と思ったが、みんなで一緒に居れば大丈夫か。
「林間学校のスキーかぁ。あはは。そういえばそうだったね。
私もすっかり忘れちゃってた。」
「俺はすぐに思い出したよ。一花もスキーは出来るんだろ?」
「うん。今日はスノーボードにしよっかな。」
「おー。」
道具は当然現地でレンタル。持参してはいない。
姉妹みんな出来るからな。二乃もスノーボードだけど。
俺は・・・・ショートスキーにでも挑戦してみようかな。
好きなんだよな、見た目が。ストックを使わず手が空いているのが良い。
軽々しく飄々と滑っているように見えるのが良い。
「じゃあ、一緒にリフトに乗ろっか!」
「ああ。」
一花と一緒に二人乗りのリフトに乗った。
後ろを見ると、各々ついてきている。
風太郎は四葉くんと。
らいはちゃんは五月と。
二乃は三玖と。
・・・・人間関係が色濃く映し出されている。
「ナギ君はどれくらい滑れるの?」
「ノーストックのショートスキーは初めてだからね。未知数だ。
後ろから見ていてくれるかい?」
「うん。任せて!」
頂上について、まずは二人きりで滑る。
ボードには慣れている一花に後ろから見てもらう。
広いゲレンデだが、人は比較的まばら。
平日だからな。春休みの特権だ。
左端から切り込んで、右端で大きくターン。
そしてその逆を繰り返す。
・・・よし、案外行けるぞ。普通のスキーと比べてバランスを取るのが難しいな。
腰を落として膝を深く曲げた方が良い。
手にストックはないんだ。どれだけ態勢を落としても大丈夫。
ストックで雪を引きずることはない。
まだ慣れてはないから、手で重心のバランスを取ろう。
両手をだらんと下げた状態で自由自在に動けるのが理想だな。
その方が見た目が格好いい。
「上手だねー!」
「ああ!案外やれるもんだ!」
後ろからついてきている一花と大声で会話。
向こうもかなり上手い。目線をこっちからそらさない。地面を見てない。
相当だぞ。
すると一花が逆方向に方向転換。
左端にいる俺、右端にいる一花。
中央でお互いがクロスし、すれ違う。
右端にいる俺。左端にいる一花。
また中央でクロス。
・・・・良いね。白銀のゲレンデをキャンパス代わりに、
二人で自由気ままにシュプールで線を描く。
そうやって、二人のスキーを楽しんだ。
「あ”あ”あ”ああああぁぁぁ!!!」
「上杉さーん!?止まるには八の字ですよー!」
楽しく滑っていたらなんか聞こえてきた。大変そうだな。
ちょっと様子を見に行こう。
「・・・・大丈夫か。風太郎。」
「四葉・・・・・教える時はしっかり教えてくれ・・・・
止まり方を習ってねぇぞ・・・・」
「ご、ごめんなさい・・・上杉さん、林間学校の事を忘れちゃったんですか?」
「あはは。フータロー君、また風邪引いちゃうよ?」
「大学合格後で正解だったね。」
直滑降しかできなかった結果、
最下層まで猛スピードで滑り降り、木に激突。
衝撃で木から雪が落ちたのだろう。
風太郎は頭だけ外に出し、体は仰向けに雪の中に埋もれていた。器用に埋まりましたね。
「フータロー!大丈夫?」
「凄い声聞こえてきたわよ・・・・って、あら。
フー君大丈夫なの?」
「大丈夫じゃない。早く掘り起こしてくれ。」
声が聞こえたんだろう。二乃と三玖も来た。
ふむ。これは丁度いい。良い事を思いついてしまった。
「姉御、今ならこの人身動きできないっすよ。」
「ナギ、それ本当でしょうね!?良い事聞いたわ!」
「ダ、ダメだよー!私もいるんだからー!」
「何をする気なんだ・・・・・・・」
二乃を炊きつけようかと思ったが四葉くんがいたのを忘れてた。
R-18にはならなかった。でもこれだとR-15どまりかな。
体埋まってるし。顔しか出てないし。
雪から風太郎を発掘して休憩所で一息ついた。
「じゃあ、また追いかけっこしましょう!
私が鬼ですね!2分後にリフトに乗るので、そこでスタートしましょー!」
「おお。良いね。懐かしい。」
林間学校の案件再び。
あの時は普通に捕まったっけ。誰かさんが金太郎になっちまったからな。
各位リフトに乗って散らばり始めた。
「あ!ナギさーん!」
「おや。らいはちゃん。五月も。」
「お疲れ様です。ナギくん。」
「林間学校の時のように追いかけっこをするようだよ。」
姿が見えなかったらいはちゃんと五月を発見した。
五月が隅っこでのんびりらいはちゃんの面倒を見ていたようだ。
おかーさんモード発動中。
「大学、受かったんだって?おめでとう。」
「ありがとうございます。ナギくんも受かったんですよね。」
「ああ。楽勝さ。」
「東京・・・・寂しくなりますね。」
「定期的に帰ってくるさ。」
五月は地元の教育大学で教師を目指す。
離れ離れだな。まあ五月だけじゃない。
風太郎、武田くん、毛利さんくらいしか会えない。
・・・・そうか。よく考えたら毛利さんがいるじゃないか。
ちょっと怖いんだが。
俺の家に押しかけてきたりしないだろうな。
いい加減誰か別の被害者を探さないと。
風太郎じゃダメかな。どうですか毛利さん。この人やればできる子なんですよ。
武田くんは・・・・多分ダメだな。あの人完璧すぎると興味を持たないんだ。
「では、俺は散らばるよ。そういう事だからよろしく。」
「ええ。」
「ナギさんばいばーい!」
二人と別れて、単独で散らばることにした。
リフトの終点。係員の待機所の建物の陰で一人黄昏ていた。有坂充電中。
灯台下暗し。四葉くんならここはバレないだろう。
真っ直ぐコースに向かってしまうとまず見つけることは出来ない。
コースに降りてから一度後ろを向かないと気づかないからな。
「あ・・・見つけた!」
「おや。流石だね。キミにはわかってしまったか。」
「ナギ君の事だもん。ここだと思ってたよ?」
「大正解です。ナギ君博士の称号をあげよう。」
一花に場所がばれてしまった。
嬉しいね。最初に見つかったのがキミだよ。
俺の事をよく理解しているようだ。
・・・・そうやって理解されちまってるから、
最近俺のいたずらが効かなくなってるんだよな。
うーむ。このままではいかんぞ。
最近の勢力図は圧倒的一花おねーさんだ。
たまにはナギお兄ちゃんになりたい。
「何を考えてたの?」
「まあ、ちょっとね。大したことじゃないよ。
この間みたいな真剣な事じゃないさ。大事な話なら一花に相談するよ。」
「ふふ。ちゃんと頼ってね?」
「勿論。」
「あー!一花と有坂さん!見つけましたよー?」
「バレちゃった。」
会話が聞こえてしまったか。リフトから出てきた四葉くんに見つかってしまった。
「四葉!まだ捕まってないからねー?ほら!ナギ君、行こ!」
「え。マジ?じゃあ・・・・二人で駆け落ちと行こうか。」
「逃がしませんよー!」
一花が俺の手を引いてコースへと案内された。
四葉くんから逃げるらしい。
スノーボードとショートスキーで手を繋ぎながら滑って行った。
恋人同士、二人で手を繋ぎ、四葉くんから逃げる。
・・・逃避行だね。
楽しいスキーを終えて、ホテルへと向かった。
ちなみに風太郎は翌日筋肉痛になっていた。
少しは体力付けとけって。受験終わったんだから。
それじゃこの先四葉くんのパワーに勝てないぞ。