「上杉さん!私結婚しました!ご祝儀ください!」
「あ、ああ。」
休日の日の家庭教師。人生ゲームに勤しんでいた。
勉強の合間の休憩時間ではあるんだが・・・・
風太郎は当然、心ここにあらずだった。
「ゲームでも貧乏な俺・・・・って、エンジョイしてる場合か!
勉強を再開するぞ!」
「えー!今日はもうたくさんやったよ?」
「無理はよくない・・・・」
その通りだ。今日は既に充分やったと思う。
追加でやるのであれば、もう少し休憩時間を延ばしたい。
リフレッシュは必要だ。
「なーんだ。勉強終わって遊んでるんじゃない?そこ変わりなさいよ。」
二乃が帰ってきたようだ。五月ちゃんも後ろにいた。
五月ちゃんはこっちの担当だ。どうアプローチするかな。
いつもなら訳ないんだが、今は風太郎が近くにいるというのが難しい。
「あんたらも今日のカテキョ終わったんでしょ?ほーら帰った帰った!」
「む。」
二乃に追い出されそうになるが、五月ちゃんに対してはまだ用がある。
今追い出されるのはまずい。どうしよう。
「ちょっと二人とも!今日は泊まり込みで勉強会でしょ?」
一花さんから助け舟が出た。頭をフル回転させて肯定するか否定するか考える。
肯定一択。
「そうだったね。」
「「ええええええええええっ!!!??」」
二乃と風太郎の声が響く。
風太郎、せめてお前は上手く対応してほしかった。
「上杉さんお風呂長いね!」
「きっと美少女たちの残り湯を堪能してるんだよ。」
「発想がエロオヤジのそれだよ一花さん。」
勉強会はひと段落し、休憩時間と入浴を兼ねている。
姉妹は全員入り、あとは風太郎と俺だけだ。
「お風呂・・・・」
「呼びに行く?」
「・・・・・・・」
「せっかくフータロー君がいるんだから積極的にアプローチしなよ~」
「な、なんの事だかわからない。」
「ナギ君もそう思うでしょ?」
「そうだねぇ。あいつには直球勝負が一番だと思うよ。」
リビングは三玖の恋を応援する会となっていた。会と言っても俺と一花さんだけだが。
四葉くんはなんか自分のリボンを見てあーでもないこーでもないと言っている。
「ナギは・・・・?」
「ん?」
「お風呂上りに声を掛けられたら、どう思う?」
「自分の裸を異性に見られたら、・・・・その人の事を意識せざるを得ないだろうね。」
「本当ですか!?」
「四葉くん?なんで君が返事をするんだい?」
意識。これが良い意味かは悪い意味かは人によって変わりそうだが。
三玖はどうだろう。まだ風太郎が好きであるという気持ちがわからないのだろうか。
三玖は風太郎が好き とそう思っていたが、それを確定するには決定的な何かが足りない。
90%を100%にしてくれる何かが。
本当に好きとはっきりわかれば、応援してやりたいが。
はっきりしないまま応援してしまうと、完璧に迷惑だ。
「ま、待たせて悪かったな。」
風太郎が風呂から出てきた。めっちゃ汗出てるやん。
ちゃんと体拭けよ。
「じゃあ俺入ってくるよ。上杉先生、勉強頑張ってね。」
「あ、ああ・・・」
「ひっろ。足たたまなくていいとか。」
流石タワマン。やはり風呂場ではくつろぎたい。それをかなえてくれる家。
あとシャワースペース広すぎない?
「色々あるけど全部女物だな・・・・誰がどれを使ってるんだ。」
自分の髪に会いそうなシャンプーを探す。髪がゴワゴワするのって結構ストレスなんだよな。
しかし何故男物がないんだ。中野父はこの家に帰っていないということか?
あとリンスとコンディショナーとトリートメントの違いってなんだ。ここは日本だぞ。ジャパニーズで頼む。
「あん?」
風呂場に持ち込んだスマホで違いについて調べていたら、通知が鳴った。
リンスとコンディショナーってほぼ同じかよ。統一しろよ。
どうせ銘柄によって成分違うんだろ。シャンプーを見習えシャンプーを。
と思ったらこれリンスインシャンプーって書いてある。貴様も敵か。
じゃあボディソープを見習え。
「風太郎からメール?」
通知の主はまさかの風太郎。ドアを2,3枚隔ててすぐそこにいるであろう我が相棒だった。
嫌な予感しかしない。すぐ近くにいるのにメールを出すということ。
姉妹には聞かれてはならないということだ。
そして今伝えてくるということは早急性が高いかもしれない。
『二乃にクビの事がバレた』
最悪のお手紙が届いた。読まずに食べればよかった。
これもう詰んでね?
花火大会からある程度態度が軟化しているものの、先ほど追い出そうとしたくらいだ。
間違いなく、二乃はまだ敵である。その敵にこちらの決定的な急所がバレた。
色々考えたが、結論。
終わった。完全に終わった。
諦めました。試合終了です。コールドゲームです。
短い付き合いだったな。風太郎。折角友達出来たのに。
俺はこの間あんなに格好いいこと言ったのに。全部無駄になったよ。
『おつかれさまでした』
そう返しておいた。
「家庭教師はもうおしまいかぁ・・・・・・早かったなぁ。」
本日の勉強会の疲労感がどっと出た。思わずそんな声を出してしまった。その直後。
ガタン
物音。脱衣所に誰かがいたようだ。俺が入っているのは服で分かっているはずだが。
今の独り言を聞かれてしまったらしい。誰だ?
5姉妹のうちの誰かであることは間違いないだろう。
「・・・・・まあでも別に良いか・・・・・・」
聞かれたところで結末は変わらないと思う。
そもそも現時点の問題は二乃だけではない。次の問題は四葉くんだ。
単純に他よりレベルが一頭地を抜いて低い。
やる気がある分他のやつよりマシ 風太郎はそう言っていたが、そうだろうか。俺は思わない。
やる気がある、やるべきこともやっている。なのに進歩がない。成果が上げられない。
それが一番絶望的だと思う。
まあでも、あいつらしいか。やる気があるなら問題ない!俺が何とかしてやる!
そう考えているのだろう。
「お風呂ごちそうさまー」
「美少女の残り湯、おいしかった?」
「あれはもう風太郎と俺の茹で汁です」
風太郎と3人は勉強を続けていた。うちの上司は諦めてないらしい。
後ろでこれ見よがしにドヤ顔でスマホをポチっている二乃が非常に気になる。
勉強の邪魔をしてこないだけマシともいえる。
この状況。二乃は少なくとも3人にはクビの事を喋ってはいないらしい。
喋ったら勉強しろと詰められてケンカになってるだろう。もしくは諦めて誰一人勉強しないか。
「有坂さん!討論って英語でなんて言うんですか?」
「debate。デバテね。」
「ちゃんとした発音は?」
「今は覚えなくて良いよ。文字と意味だけ覚えてほしい。」
リスニングで点を稼ぐのは無理だと思ったので諦める。元々対した点数配分ではない。
リーディングとライティングに集中してもらおう。
ディスカッションも討論という意味を持つが、ディベートの方が文字数が短い。
そこはしっかりと考慮している。
俺なりの見えない効率の上げ方だ。覚えるものは少ない方がいいに決まっている。
「・・・・教えてほしいこと、ある。」
「はい、三玖くん。」
「・・・・好きな女子の、タイプは?」
一瞬、場が凍った。急に何を言い出すのか。
「・・・・それ、今関係ある?」
「はいはーい!私は俄然、興味ありまーす!」
「だそうです。では、上杉先生、どうぞ。」
「凪!聞かれたのはお前だぞ!」
「え?いや違うよ。風太郎だよ。」
いやお前察してくれよ。明らかに三玖の目はそっちに向いていたぞ。
そら俺が指名はしたけど。
「もー二人とも話しちゃえばいいじゃん!早く!ほらほら!」
「えー。」
「・・・・・そんなに知りたければ教えてやる!
俺たちの好きな女子の要素TOP3!ただし、ノートを1ページ埋めるごとに発表します!」
「強制っすか?」
「お前も協力しろ!」
3人とも無言で勉強に取り組み始めた。効果てきめんである。
ノート埋めるだけじゃ意味ないんだけどなー。
「はい!出来ました!」
「四葉くん見せなさい。・・・・先生、ちゃんと埋まってます。」
「では!第3位!・・・・・・じゃん!いつも元気!」
へーそうなんだ。ちょっと意外。振り回されるのが好みなのか?
「はい・・・・出来た。」
「はい三玖くん。・・・・よろしい。先生出番です。」
「第2位は!・・・・じゃん!料理上手!」
貧乏舌にその要素必要か?こいつ適当言ってるんじゃないだろうな。
「ちょっと待ってよ!ナギ君は?」
「えー、助手の有坂です。権利の重複は認めません。
俺のランキングが全部聞きたかったら追加で3ページを埋めてください。」
「・・・・けち。」
「終わったよ!」
「一花くん。はい、埋まってますね。じゃあ先生、第1位を」
「ナギ君の3位が聞きたいなー?」
そこで俺に来るのか。
「第3位は・・・・首のキレイな人です。」
「首?」
「そう。自分うなじフェチです。」
あんまり言いたくなかったが仕方ない。背に腹。
「有坂さん!第2位教えてください!」
「四葉くん。・・・・・はい、いいね。第2位は、髪の短い人です。」
「そうなんですか!?」
「女性の特権であるロングはあんま好きじゃない。さっきの首フェチに繋がるものがあるよね。
我ながら。」
「・・・出来た!」
「三玖くん・・・・・はい。よくできました。どっちの1位がお望みかな。」
「まず・・・・フータローの方。」
「では満を持して先生、お願いします。」
「第!1位は!」
なんでそんなにノリノリなんだ、お前?
「だらららららr・・・・お兄ちゃん想い!だ!」
そういうことね。あれ?
・・・・結果的に身を削ったの俺だけ?ちょっと恥ずかしかったのに。
「ソレあんたの妹ちゃん!」
「ん?」
二乃からツッコミが入った。気になってたのかよ。あんたも好きねぇ。こういう話。
「なんだよ二乃?聞き耳するならお前も一緒に勉強を」
「聞きたくなくても耳に入るわよ!」
「ごもっともです。」
茶化しのネタになると思ったが反論の余地もなかった。
「らいはちゃんですよね?頑張ったのにずるいですー!」
そうだね四葉くん。me tooです。俺は悲しいよ。なんでお前そんな時だけ機転が利くんだよ。
俺は利かなかったよ。つかよく考えたらその3つの要素、三玖と真逆じゃないか。
「前にも言ったろ・・・・・俺は恋愛なんて・・・・。」
「まあまあ上杉先生、そういうこと言わないの。これから先何が起こるかわからないだろう。
諦めるのは良くない。」
「諦めてる訳じゃねぇ!」
良いツッコミだ。信じてたよ親友。適当に茶化す。
これ俺の1位スルーしてくれるかも。話の脱線に全力。
「お!三玖、もう課題終わらせてる!
フータロー君、頑張った人は褒めてあげないと!ほら!」
一花さんが風太郎の手を取り、三玖の頭に乗せる。
お。いいねおねーさん。これではっきりするかも。
「・・・・・・・・・」
「どう?ドキドキするでしょ!」
調査員の有坂です。三玖さん顏真っ赤です。これ確定で良いんじゃないかな。
らいはちゃんおめでとう。キミのお兄ちゃんに春の訪れです。俺も嬉しいです。
友人代表のスピーチは任せてください。
式の友人席は俺一人だけかもしれないけど。
「別に・・・・」
前言撤回。春は来たけどまだこいつ冬眠中だわ。意地でも叩き起こす。
「むむむむ・・・・・四葉とナギ君チェーック!!」
「わーーーーー!」「わー」
「はぁ!?こ、こっちに来るな!」
なんか追いかけっこが始まったので俺も追う。
もう俺の1位有耶無耶になれば何でもいいや。
「四葉隊長!目標を捕獲しました!至急確認願います!」
「お、お前ら何を!」
「どれどれー?」
早々に風太郎を捉えて四葉隊長にチェックを願う。
隊長が風太郎の胸に耳を当てる。聴診器ね。
心音チェック。
「上杉さんドキドキしてます!」
「たった今走ったからな!!」
確かに。お後がよろしいようで。
「騒がしいですね・・・・勉強会とはもう少し静かにやるものではないのですか。」
「ごめんね。」
五月ちゃんが降りてきた。流石にうるさすぎたようだ。
マンションの隣人が文句を言ってこないことを考えると、部屋ごとの防音はしっかりしているな。
「三玖・・・・ヘッドホンを貸してもらえますか。集中したいので。」
「いいけど・・・・」
「五月!お前の事を信頼していいんだな・・・?」
「・・・足手まといにはなりたくありませんから。」
微妙な仲の悪さだ。やはり今は・・・・俺のアシストが必要らしい。