五等分の花嫁 ~家庭教師の助手~   作:I-Ris

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「まだだ、まだ早い・・・・俺は最後まで諦めんぞ。」

「わかったわかった。最後まで付き合うから。」

「最後って言うな!」

「えぇ・・・・」

 

その言葉狩りはキツイ。ナーバスが過ぎる。つかキミから言っただろ。

別にもうすぐ最後だねなんて言ってないだろ。

 

 

あれから一度小休憩をしていた。今は二人でベランダにいる。1位の件はスルー出来た。

ミッションコンプリート。

 

 

「あんまりこう・・・・焦りなさんな。時には完璧をもってしてなお、

敗北することだってある。」

「まだ負けてねぇ!」

 

「はいはい・・・・・・・・部屋戻るね。」

 

 

まずいなこの反応。かなりキテるぞこの人。

俺が相手じゃリフレッシュにならない。どーしよっかな。

 

 

「わ。」

「おっと、失礼。」

ベランダの出入り口で一花さんとすれ違う。

・・・適任かも。

 

 

「一花さんちょい。耳かして。」

「ん?おねーさんにお願い・・・って近いよ?」

 

「内緒話だからねぇ。風太郎のやつ、試験が近いせいでちょっと張りつめててさ。

少しちょっかい出して気を紛らわせてやってほしいな。」

 

 

近いって言われても、いっつも授業中こんな感じじゃん。

事情を知っている俺と知らないはずの一花さんだと対応が違うはず。

風太郎は一花おねーさんに任せようと思う。

 

 

 

「え・・・っと・・・・うん。良いよ。任せて。」

「お願いね。訳あって、今の俺じゃちょっと無理なんだ。」

 

 

 

室内に戻る。三玖と四葉くんが自習していた。えらい。

 

「家綱、綱吉、家宣・・・・」

「なるほど。家綱、綱吉、家綱。」

「影武者がいるねぇ。」

 

 

「えっと・・・家綱吉、家宣。」

「仮面ライダーが混じってるねぇ。」

 

 

仲間外れでも探してるのかな?

成果は御覧の通りだが、姉妹同士で努力している。

良い傾向なので任せよう。このタイミングで向かう。

 

 

「四葉くん。五月ちゃんの好きな飲み物は?」

「え?」

「様子を見てくる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入ります。」

 

五月ちゃんの部屋をノックする。返事はない。

さっき三玖からヘッドホンを借りていた。聞こえていないかな。

勝手に開ける。

 

「・・・・・・」

 

 

机に向かって勉強をしていた。ヘッドホンはしていなかった。

・・・・俺に返事を出来ない理由があったか?ちょっと思いつかない。

 

数学の勉強のようだ。うわー参ったな。俺は数学あんまり得意じゃない。

 

 

 

 

 

 

机に飲み物を置く。返事はない。私は一人でも出来ます。背中はそう語っている。

あくまでも一人でやる気のようだ。変な意地を。

 

 

俺の良く知っているどっかの誰かさんに似ている。

空いている椅子があった。ちょっと座らせてもらい、時間を測る。

 

 

 

 

 

 

・・・3分経った。五月ちゃんは何も言わない。俺は背後にいるが、こちらを一切見なかった。

 

つまり少なくとも、邪魔さえしなければ俺はこの部屋に居ても良い という事。一安心。

 

さて、どうやって勉強を教える流れに持っていくかな。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・俺は、ちょっと独り言が癖でね。返事をしなくていいよ。」

「・・・・・・・・」

 

面白い話をしてあげよう。俺のとっておきだ。興味を持ってくれるといいが。

うるさいと怒られたら諦めて帰ろう。

 

 

「・・・・勉強をするとき、学生はノートに文字を書く。そうして学生は覚えていく。」

「・・・・・・」

 

「だが・・・・何故ノートに文字を書くと覚えるのか?考えたことはあるかい?」

「・・・・・・・・」

 

 

 

一切反応はないが、続ける。

 

 

「俺は中学生の時にこの疑問を持ってね。自分なりに調べた。

ノートを書くことで人間は覚えられる脳をしているからです 先生に一度そう言われ、いっとき、納得した。

 

けれど。文章の暗記をする時は?歌の歌詞を覚える時は?

誰もがノートに文章を、歌詞を書き写すだろうか?」

 

「・・・・・・」

 

 

「・・・・・違う。そんなことはしない。」

「え・・・・?」

 

 

「暗記をするとき、歌詞を覚える時、何故かは多くの人は、実際に口に出して音読する。

その言葉を発してみる。では・・・・何故、そうやって覚えるのだろう?

そんな自由研究をすることにした。」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

持っているペンの動きが止まった。明らかに興味を持っているはずだ。

手応えあり、続けよう。

 

 

 

 

 

 

「この事に関して調べていた最中、ある一人の学生の体験が気になった。

彼は落ち着きのない学生。いつもふらふらしている。あまり大声で言うことじゃないけれど、

彼は気が付くと貧乏ゆすりをしている。

ある時、テストの答案を書き終わって膝をかくかくと揺らしていると・・・・思い出せなかったことが思い出せた。そんな経験があると言った。」

 

 

 

 

「面白い。そう思い、もっと調べた。・・・・また一人、似たような体験をしたことがあるという学生がいた。

彼女は一人で勉強する時、いつも音楽を聴いているらしい。

テストの時に思い出せない単語があった。思い出せない公式があった。

そんな時・・・・悩んでいる彼女に頭の中でいつも聞いている曲のメロディが流れる。

そのメロディに意識を傾けると・・・・・なんと、メロディと同時に、忘れた公式が、

単語が、漢字が、消えた知識が蘇ったと、語った。」

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

「面白い。とても面白かった。嘘をついているのではないか?最初はそう思った。

けど、違うということが分かった。なぜなら・・・・・俺も似たようなやり方で、

忘れたものを思い出したことがあった経験があったから。」

 

 

「昔の事だから、細かい部分はもう忘れちゃったよ。

でも調べた結果として、人間が何かを覚えようとする時、きっと、人の五感が強く関係している。そういう結論に至った。」

 

 

「五感・・・・ですか。」

 

 

「そう。手や足を使い、触れた時の固さ、暑さを知る、または体の動きによる触覚。

 

耳を使い音を聞き、何から出された音か、言葉を正しく判断する聴覚。

 

鼻を使って、周辺の状況や香りを感じ取る嗅覚。

 

舌を使い、口に入り込んだものが自分に害を与えないものか、自分好みの物かを判断する味覚。

 

そして、目を使って目の前の光景を感じ取る視覚。この5つだよ。」

 

 

 

 

「今までの経緯を思い出すと・・・・五感の何かがどこかで関わっている。

足を動かす貧乏ゆすり、これは触覚。流れるメロディへの紐づけ、これは聴覚。

 

黒板や教科書に書いてある文字を見て、手を動かしてノートに書く。これは視覚と触覚の二つ。

 

文字をみて、口に出して音読する。口に出せば自分でその音を聞く。

文字を読む視覚、口を動かす触覚、音読した声による聴覚の3つ。

 

まあ、勉強に使えるのはこの3つだね。嗅覚と味覚は現実的じゃない。

文字を食べることが出来たら、また別だけど。

でも、食べ物の好き嫌いを忘れることは稀だ。

世の中には無数の食べ物があるけど、そう簡単に忘れないよね。」

 

 

「ふふ。そうですね。・・・・・とても、為になりました。」

 

「お気に召してもらえて嬉しいよ。でも・・・重要なのはここからなんだ。」

「え?」

 

 

 

「五感を使うことで、物事を強く覚えていられる。俺はそういう結論を出した。

でもこれで満足してはいけない。

その結論を出した上で、俺に一番覚えやすいやり方はなんなんだ?そう考えた。

 

 

貧乏ゆすりで思い出す人がいる。音楽で思い出す人がいる。

既にこの時点で2つのパターンが生まれている。

人間という種類は一緒でも、全く同じ人間というのは存在しない。

 

 

であれば、人に好みがあるのと同じように、

その人に適した覚え方というのが存在するはずなんだ。・・・・そう思った。

五月さん。・・・・・・君にはどんなやり方が向いているだろうか?」

 

 

「私の・・・・・覚え方・・・・・」

 

 

「いきなり言われてもわかんないよね。今は良いんだよ。

そんなものは後回しでいい。優先順位を付けることは大事だ。

テストも近い。そんなことを探している場合じゃない。

でも、キミのこれからの勉強と人生に役立つといいね。

 

ついさっきこの話を改めて調べたら、えらい人の書いた論文なんかが出てくる。

間違いはないと思うよ。俺の体験談だけじゃない。」

 

 

風呂場の中で調べておいた。今は嗅覚による記憶がアツいらしい。論文的な意味で。

題名しか見てないが、アロマでも炊きながら勉強するのか?

でも思い出したいときにアロマを炊くわけにはいくまい。

 

 

「ふふふ。参考程度に自分の覚え方を話しておくと・・・・

俺は、文字を見て、読んで、口に出た自分の声を聞きながら、歩くこと。

これが、一番覚えやすかった。」

 

「文字を見て、読んで、歩くこと。」

 

「そう。さっきの文字や歌詞を覚える時に近いね。

そこに歩きという動きによる触覚をさらにプラスする。

どうやら俺は触覚に頼っている部分が大きいみたいだ。

おかげで、動きながらの独り言が癖になってしまった。」

 

「ふふふふ。大変ですね。」

 

良い顔。面と向かってまじまじと笑顔を見たのは、初めてかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一人で頑張るのは良いけど、ONとOFFの切り替えは大事だ。休憩しよう。」

 

 

差し出した飲み物に手を付けてくれた。

良い仕事したね。俺。深イイ話。

 

「有坂くんは・・・・凄いです。私の知らないことをたくさん知っています。」

 

「普段役に立たないくだらないことばっかり覚えてるからねぇ。

だからテストの点数が中途半端なんだよ。

もっと別の事に労力さけばいいのにね。」

「ふふ、自分の事ですよ。」

 

 

「ただ、興味を持てないことは忘れやすくてね。疑問に思ったら、

すぐに調べるようにしていたんだよ。

 

AはBである。では、何故そう考えることが出来るのか?

その背景が大抵の場合は省略されてしまっている。

 

そこを理解しないと、他の人に対してちゃんと説明ができない。

 

何故なら、自分が何故と疑問に思ったことは、大体他の人も疑問に思っているはずだからだ。

 

俺は平々凡々だ。天才じゃない。なら、他の人もきっと同じ。」

 

 

 

 

「そんなことを繰り返していたら、いつしか周りに対して厳しくなってしまった。

知らないのは構わない。元から全てを知っている人はいない。

忘れるのも構わない。そんなこともあるだろう。忘れたら、また覚えればいい。

興味が無いのも、構わない。知りたいことだけ知っていればいい。

俺もそう思っている。

 

でも、興味があり、知らないとわかっていながら、面倒くさそうだから、時間がかかりそうだからと言って、それを構うものかと放置して目を背ける。

これが・・・・許せなかった。

 

興味を持ったのに、何故触れようとしない。何故関わろうとしない。

それを知ることは、自分の世界を広げる何かに繋がるかもしれないんだぞ!

 

・・・・・そうして度々自分の中で他人にムカついていた。次第にそれに疲れるようになって・・・・他人の事を気にかけなくなった。」

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

「いつしか、そんな考えに至ってしまった。難儀な性格だね。

自分のお節介に気付いて、今はもう怒らなくなったけど。

五月さんは真似しちゃいけません。情報の取捨選択はちゃんとしましょう。」

 

 

「ふふふ・・・・はい。でも何でですか?」

「なにが?」

 

 

 

 

「あなたは・・・花火大会の時に私を助けてくれました。

他人の事を気にしなくなったのなら・・・・」

「俺から明確な発言が必要かい?であれば答えよう。」

 

「・・・・・・」

「キミと俺はもう既に友達。それで充分じゃない?」

「!」

 

 

 

 

 

「あれ?それともこれって俺の片思いかい?恥ずかしいな。」

「・・・・私から明確な発言が必要ですか?」

 

「欲しい。とっても不安だ。」

「もちろん私も、あなたを友達だと思っていますよ。」

 

「光栄だね。でもまだ信じられない。だから・・・・誓いの握手をしよう。」

 

 

右手を差し出して、握手の用意をする。

笑顔で、快く受けてもらえた。今まで変なギクシャクがあったが、これでもう問題ない。

 

良い顔だ。素直で真っ直ぐな眼が、俺を捉えている。

 

 

 

 

 

「さあ、お喋りはここまでだ。良い気分転換になったかい?

勉強を再開しよう。一緒にね。」

 

 

 

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