ある平日。風太郎に早朝に呼び出される。
中野家に向かうらしいが。
「うす。」
「来たか。悪いな。」
「どしたのさ。」
「生徒手帳を昨日二乃に渡したままだ。」
「なるほど」
そんなんで俺呼ぶ?まあどうせ俺早起きだからいいけど。
お前の生徒手帳は大事だけどさ。あの写真だろ。
金髪の少年風太郎と謎の美少女。美少女の方は良いけど、金髪は見られたくないよな。
生徒手帳に入れなきゃいいのに。確か小学校高学年の時の写真だ。
あの少女とあってから、風太郎は劇的に変わった。
悪ガキだった風太郎の学力が上がったのもそれからだ。
修学旅行でたまたま出会ったそうだが。
「信じらんない!こんな朝から乙女の部屋に無断に入るなんて!」
「私が・・・許可した。」
「あんたに何の権限があるのよ!」
風太郎が二乃の部屋を物色し、見つからなかったので本人をたたき起こした。
当然怒られている。まあ気持ちはわからなくもない。二乃に見られるのは一番まずい。
「ナギ君、フータロー君、おはよ!」
「おはー。朝からお騒がせしております。」
「二乃!これ。・・・・昨日言ってたもの。」
そういいながら一花さんは何かをテーブルに置いた。
これは。耳にピアス穴をあけるやつだ。懐かしい。
昔、風太郎があけたあけたと喜んでいた。俺は怖くて出来ん。
「一人で出来る~?」
「で、出来るって言ってるでしょ!バカにしないで。」
二乃は風太郎を連れて部屋に向かった。風太郎に開けてもらうつもりか。
良い人選だ。経験者だからな。開ける方ははじめてかもしれんが。
「二乃がピアスするの?」
「あれ。よく知ってるね。あれがピアス穴をあける道具って。」
「有坂助手はものしりなのです。」
ピアスなんとかという名前だった気がするが。なんだっけ。
「それにしても、ナギ君が助手を続けてくれて安心したなー。
あの時の会話で・・・・おねーさん、もう終わりなんだって思っちゃった。」
「続けられるってわかったからね。
二乃が進言してくれなかったら、俺も風太郎もいなかったよ。」
「でも・・・・趣味の悪い冗談が・・・・」
「それについてはごめんなさい。」
まだ言うか。もういいじゃん。
こうして俺はユーモアというものが嫌いになる。冗談くらいキミたちも言うだろ。
どうして俺は許されないんだ。
ガチャ
二乃が部屋から出てきた。小さな本を持っている。
「二乃!もう、終わったの?」
「・・・よく考えたら、焦る必要はなかったわ!
花嫁衣裳を着る時までに開ければいいんだもの。」
日和ったな。まあ怖いよね。わかるわかる。
開けるのは良いとして開けたところに付けたピアスを引っ張られたらどうなるんだろうか。
耳ちぎれる。想像したくもない。穴開けるよりそっちの方が怖い。
「それより、この写真見て!」
「あ!5人の写真だ!みんなかわいいねぇー!」
小さな本はアルバムだったらしい。思い出に浸っている。
「有坂!あんたも見ていいわよ」
「いいの?あざすあざす。」
二乃の機嫌が何故か良いので、俺もアルバムを見せてもらった。
「へー。昔は髪型もみんな同じなんだねぇ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ーーーーーー!!!
「・・・・・・何だ。この写真は!」
なんだ、これは。
透き通るような色をしたロングヘアーの少女が5人、映っている。
5人ということは、つまり。
「この写真!・・・・・キミたちなのか!?」
「そ、そう。私達の小さい頃の写真だけど・・・・どうかしたの?」
「いや、どうかしたのは俺じゃなくて・・・・・!」
2階にいる風太郎を見やる。自分の生徒手帳を似て優しそうな顔を浮かべていた。
生徒手帳を見ているということは・・・・キミも見たんだな。
「有坂さん?どうしたんですか?」
「・・・・いや、何でもないよ。」
「あ、有坂?だいじょうぶ?取り乱したみたいだけど。」
「大丈夫。何でもないんだよ。」
風太郎が見たのなら、問題ない。俺が騒ぐことじゃない。
キミは・・・・知っていたのか?知っていてこの家庭教師を引き受けたのか?
「有坂くん。顔が怖いよ?大丈夫?」
「川村さん。大丈夫。ちょっと朝っぱらから悩み事があってね。
おかげで今日は授業に手がつかなかった。」
「そーなの?手伝えることがあれば言ってね。ばいばーい。」
「ああ。さようなら。」
放課後。授業中ずっとあの写真の事を考えていた。
ちなみに席替えがあって一花さんが隣ではなくなった。クラスのムードメーカー、
川村さんが隣になっている。
あの写真は5姉妹の小さいころである。
あの姿。忘れるはずもない。風太郎の生徒手帳にいる謎の美少女。全く同じだった。
つまり。生徒手帳にいる美少女はあの5人のうちの誰か。
しかし。今まで風太郎と5人にそんなそぶりはなかった。
だから、恐らく風太郎は最初知らなかったはずだ。
忘れている?5人の方が忘れているのならまあわかる。
風太郎が忘れるはずがない。今でも写真を生徒手帳に入れるくらいなのだ。
だから風太郎はあの写真を見たら聞くはずだ。
俺と昔にあったことある奴はいないか と。しかし、あのリビングの場では聞かなかった。
ということは、あの美少女は二乃なのか?
部屋の中でアルバムを見せてそこで完結しているかもしれない。
じゃあ、二乃なのか。
しかしそれもなんだか。
明らかに二乃と風太郎は仲が良くない。
仮に二乃が昔の事を忘れてるとしてだ。
アルバムを見せました。昔にあってます。感動の再会。
なら、もっと二乃と風太郎は仲良くなって出てくるだろう。
しかしそんな様子はなかった。
それともあれか?風太郎のあの慈悲に満ちた優しい表情。
聞かずとも誰かわかっているというのか。
ああダメだ。わからん。自分の事じゃないのに考えすぎだ。
頭痛くなってきた。もうやめよ。
「ナギ君?」
「ん?なんだい一花さん。」
「朝のアルバムの事、考えてたんでしょ?」
「うん。そうだよ。」
あ、ノリで言ってしまった。まあいいか。内容を喋らなければ。
「どうしたの?・・・おねーさんに、教えて?」
「悪いけど、やたら無暗に話すわけにはいかないんだよ。誰であろうと。」
これ以上喋るわけにはいかない。
「そう?何か事情があるんだね。・・・いつか、教えてくれると嬉しいな。」
「心配してくれるのは嬉しい。ありがとう。でも俺が教える日は永遠に来ないよ。
俺に関することじゃないからね。」
突き放す。下手に絡まれてボロを出すのは良くない。だから、この件で絡んでこないでほしい。
当の本人である風太郎があんな態度を取っているのだ。あいつに合わせなければならない。
「今日は撮影でしょ?いってらっしゃい。明日は林間学校だ。楽しみだね。」
「う、うん。」
一方的に話を打ち切って一花さんを帰した。
「うーえーすーぎさん!」
「がっ・・・・よ、四葉!」
風太郎と三玖と並んで廊下を歩いていたら、四葉くんが風太郎に背後からタックルを決めた。
どこぞの陸上部後輩に似てきたな。
「林間学校!明日ですよ!」
「興味ねーよ。」
「えぇ・・・・・」
興味ないってことはないだろう。泊まりだぞ泊まり。
「楽しいイベントが一杯ですよ!飯ごう炊さんに、スキーに、釣りとハイキング!
そして最後はキャンプファイヤーで・・・・結ばれるんです!
それがきっかけで付き合い始めるカップルもいるんですよ!」
「言っただろ。学生同士の恋愛なんて時間の無駄だ。」
「えー」
三玖の前でその発言はやめてほしい。明らかに沈んでる。
「・・・・なんで、好きな人と付き合うんだろ。」
ふと、三玖がそう呟いた。
「それはね・・・・その人の事が、好きで好きでたまらないからだよ?
三玖も心当たりがあるんじゃない?」
「な・・・ないよ!」
背後から恋の伝道師、一花おねーさん登場。ん?撮影は?
なんでここにいるんだい?
「よし!みんな揃ったし、勉強始めるぞ!」
最近のみんな揃った = 二乃、五月ちゃん抜きである。
「一花おねーちゃん。撮影は?」
「そうだよ。今日は撮影なの。メールしたんだけどな?」
「メール・・・・あ。」
風太郎のもとにはメールが行っていたらしい。読めよ。
お前とメールしてくれる貴重な8人のうちの1人だぞ。
「それで、三玖。クラスで林間学校の打ち合わせがあるの。
いつもの、おねがい。」
「わかった。」
「打ち合わせ?・・・・・そんな話は聞いていないが。」
放課後に打ち合わせ?そんな話してたっけ?
あれ?俺もしかしてクラスでハブられてる?
「きっと、うちの班だけじゃないかな。三玖、おねがいね!」
「そうかなぁ。」
カツラ・・・・ウィッグを受け取った三玖は女子トイレへ向かった。
まさか、入れ替わるつもりか?
「どうした、凪。」
「いや打ち合わせ聞いてないから・・・・俺クラスでハブられてるのかなって。」
「それはないだろ。お前はどちらかというと人気がある方だ。」
「さんきゅ。」
素直な慰めの言葉を頂いた。珍しい。
皆さんこの風太郎、貴重です。テストに出ます。
けどこの人は俺と同じクラスではないので気休めの言葉にしかなりません。
風太郎はあのアルバムの一件から変わっていないように見える。
だから俺も、深く気にするのはやめることにする。