林間学校当日。スマホに通知が来ていた。風太郎からだ。
『らいはが熱を出して面倒を見なくてはならん。行けないと伝えてくれ』
「先生。上杉くんから連絡がありまして、これを。」
刀の回収をして集合場所へ来た。1組の先生にメールを見せる。
・・・ついてないな。しかし今回は俺一人じゃないんだ。
何とか、何とかしなければ。どうするかな。考えろ。
「これは・・・わかった。中野!中野 五月!」
「はい?」
「すまないが、肝試しの実行委員、代役を頼めないか。」
「え・・・・?どうしたんですか、ナギくん。」
「これを・・・・」
五月ちゃんにもメールを見せる。
「お父さんにお願いして車を手配できないか聞いてみます!」
「・・・・なるほど。良いねそれ。先生。上杉くんはバスに乗れないだけです。
途中から合流します。」
「そんなことが出来るのか?」
「できるかもしれません。」
「ナギくん。手配できました。一緒に上杉くんの家に向かいましょう。」
「あいよ。じゃあ俺も自分の担任に声かけてくるよ。
姉妹は・・・呼ぶ?」
「勿論です。」
「じゃあそっちはお願いね。」
「先生、そういう事です。途中から合流するので、
明日のスケジュールからは欠員を設けないでください。」
「わかった。何かあったらキミの担任経由で連絡しなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
うちの担任にも声を掛ける。
「先生、ちょっと親友を迎えに行ってきます。」
「有坂か!事情は1組の方から聞いたぞ!行ってこい!」
「お手数おかけします。」
「ただし特例だ!連絡先を教えろ!今どこにいるのか逐次報告するように!」
「はい。わかりました。」
「有坂くん来れないの?」
「今日だけだよ。川村さん。キャンプファイヤーの役は俺がやるから心配ないよ。」
「ふふ。お願いね。もう私踊る相手決めてるんだ。行ってらっしゃい!」
リムジンに乗って上杉家へ向かう。連絡しとこう。
『荷物を片づけるなよ。林間学校はまだ始まってないぜ』
しかしまぁ・・・・・驚いたな。風太郎が来れないとみるや、すぐに迎えに行こうとするとは。
こんなにスムーズに事が進むとは。愛されてるよ。うちの相棒は。
愛されるように・・・・変わったんだ。
上杉家に到着。
「迎えに行ってくるよ。」
「俺だよ。行こう、相棒。」
「凪・・・・」
「五月ちゃんにお礼言っときなよ?」
乗ってきたリムジンに向かう。
「フータロー・・・」
「おそよー!」
「こっちこっち!」
「ったく、なにしてんのよ。」
姉妹の歓迎。
「上杉くん。私はオバケが怖いので・・・・ちゃんとあなたが、
肝試しの実行委員をやってください。」
リムジンに乗せられて、林間学校の目的地へと向かう。
吹雪だな。道路は混雑。時間がかなりかかりそうだ。
このリムジン雪で埋まるんじゃないか?悪天候対応してるのか?
「「「「「五つ子ゲーム!!」」」」」
俺は車の助手席に座り、姉妹たちと風太郎の会話を聞きながら、寝たふりをしていた。
何故だろう。あまり気が乗らなかった。体というより心が疲れているようだ。
まあ、最初風太郎が来れないと知ったときに気が気じゃなかったからかな。
冷静で的確な対応だったが、今思えば心はかなり焦っていた。
さっきまでの記憶もあまり覚えていない。刀回収したっけ。
もう少しクールタイムが欲しい。ちょっと休憩させてもらおう。
風太郎はやたら元気だった。バランスが取れてるな。その元気を少し分けてほしい。
「有坂さんが寝てますー。」
「もう疲れちゃったの?」
「電池切れだな。寝かせてやれ。こいつは本来、一人孤独が好きなタイプなんだ。」
ふとパチリと目を覚ます。
ん?本当に寝てしまったようだ。余程疲れていたらしい。
普通ならこんなうるさい所では寝れない。
「・・・・ここは・・・」
まだ雪の中。目的地は遠そうだ。
後ろを見ると・・・・みんな寝ていた。一番後ろの席まで見えないが。
「皆様お休みになられました。」
「そうですか・・・」
運転手の白髪の男性と話す。
「この雪です。まだまだ時間がかかりそうだ。少し話し相手になっていただけませんか。」
「俺でよければ、喜んで。」
運転手さんは江端さんと言う人。
姉妹が子供のころから面倒を見ているとのこと。
中野父の秘書だそうだ。
「上杉様と有坂様が家庭教師を始められて・・・・お嬢様たちは変わられました。」
「それは・・・・申し訳ありません。」
「いえいえ。責めているわけではありません。良い事なのです。
できることならば、是非ともこのまま家庭教師をお続けになってください。」
「ありがとうございます。恐縮です。」
「差し支えなければ・・・・何故睡眠のふりをしていたか、私に教えていただけませんか。」
「わかっていましたか。・・・・たまに、心が酷く疲れる時があるんです。
何にも影響されず、一人になりたい。
例え親友であっても、静かにしてほしい。そんな時が時々あり、先ほどは丁度その気分でした。」
「それは・・・・・邪魔をしてしまい、申し訳ありません。」
「いえ。もう大丈夫です。立ち直っているので。お話しできて嬉しいです。」
「わたしも同じ経験があります、辛さはよくわかります・・・・」
「恐縮です。・・・ただ、自分は頻度がかなり高いと思うので。少し嫌気もあります。」
「有坂様。人というのは適度に休むべきだと、私は思います。
あなたはその休憩をしているだけです。あまりお気になされない方が、良いように思います。」
「・・・・・・ありがとうございます。お話が上手いですね。良いカウンセリングになりました。
中野さんたちは・・・・・どういう子だったんですか、子供のころは。」
「お嬢様たちはーーー」
「おお、良い部屋だな!!」
「4人部屋にしては広いけど・・・・7人かぁ。」
雪のせいで足止めを食らい、道中の旅館に泊まることになった。
担任に連絡したが、バス組も同じことになっているらしい。
どこに泊まっているかは聞きそびれた。
江端さんは帰っていった。別の仕事があるらしい。
良い人だ。結構話をしたが、やはり・・・・人生の先輩という言葉を体現するような人だった。
「文句言ってないで、楽しもうぜ!」
「元気だねぇ。」
凄いなホントに。そんなに嬉しかったのか。
俺頑張った甲斐があったよ。ホント疲れたよ今朝。
一度に多くの知り合いと関わると疲れる。
知り合いというのがポイントだ。初対面や友達なら良いのだが。
なんかの病気かなぁこれ。
「・・・・はーい女子しゅーごー。」
二乃の号令で密談が始まった。まあ、男女混合だもんな。警戒するわな。
でも家のお泊りはしたことあるんだけどな。
そんな中、懐から風太郎がトランプを取り出した。
「やろうぜ!7並べだ!」
「ト、トランプ?」
「な、懐かしいなぁ~」
5姉妹は警戒しているようだが、風太郎に限ってそれはないだろう。
俺もいるし。お互いの同性が抑止力になるはずだ。
「ふー!熱い戦いだったね。」
「うん・・・・・」
「売り切れが多いなぁ」
一花さんと三玖につきそい、飲み物を買いに来ていた。
7並べは俺が負けた。ハートばっかり固まり過ぎなんだよ。
9で止められて途中から何もできなかった。
「三玖。昨日言ってたキャンプファイヤーの相手、私で、良いの?」
「うん。その場しのぎで私が決めちゃったから・・・・」
「・・・・そっか。じゃあぼっちの風太郎くんの相手を、私がしてあげますか。」
先日の前田事件の事を話していた。
一瞬、一花さんの顔が曇ったように見えたのは、気のせいではないだろう。
三玖は風太郎の事が好き。それは一花さんもわかっているはずだ。
だが本人から遠慮されたら、従わざるをえない。
無理やり三玖に押し付けるくらいでいいと思うけど、それをしないのが一花おねーさんである。
あくまで、姉妹の自主性を尊重する。
「・・・無理はしなくても良いんだよ?私は別に、他の人とでも大丈夫。ナギ君とか。」
「気にしないで。・・・独り占めは、しない。」
「一日、それもキャンプファイヤーの時だけなら、独占しても許されると思うけどねぇ。」
「・・・・・・・・」
独り占め。前田くんが言ってた事を気にしてるのか。
風太郎を独り占めにしない。三玖もまた、姉妹に対して遠慮している。
三玖らしいと言えば三玖らしい。
となると、もっと三玖の恋愛欲が強くなるのを待つばかりだ。自分の殻を破ってほしい。
独り占めといっているが、風太郎の事が好きなのが三玖だけなら、問題ないと思う。
俺が知らないだけで他にも誰かいるのだろうか。
ちなみに俺は諸事情があってキャンプファイヤーには参加できないんだが、
一花さんは気づいていないらしい。
さてはキミ係決めの時に寝てたな。それとも欠席だったか?
「すっげぇ・・・・・タッパーに入れて持ち帰りたい。」
「まだ初日だ、帰りまで持たないよ。刺身なんかどうする。」
夕食時。結構豪勢な食事が出てきた。
というか林間学校にタッパー持ってきてたのかよ。
確かに凄い料理だ。当日宿泊でこんだけ出てくるのは凄い。
「こんなの食べちゃったら、明日のカレーが見劣りしそうだね?」
「あんたの班のカレー楽しみにしてるわ。」
「うるさい・・・」
「そういえば、林間学校のスケジュール、覚えてなかったなぁ。」
「二日目の主なイベントは、オリエンテーリング、飯ごう炊さん、肝試し。
三日目は、自由参加の登山、スキー。釣り。そして夜はキャンプファイヤーだ!」
「フータロー君暗記してるの?」
めっちゃ覚えてんじゃん。うっきうきじゃん。
良かったなぁ来れて。俺頑張った甲斐があったよ。
俺より五月ちゃんの方が頑張ったけど。
「あ!新しい情報です!キャンプファイヤーの伝説はフィナーレの瞬間に」
「またその話か・・・・」
「伝説?」
「どーせ誰も踊る相手いないんだから、そんなの知っていてもしょうがないじゃない。」
居るんだよなぁ。ここにワンペア。
風太郎×一花。カップル成立です。
「あれ~?二乃、踊る相手見つからなかったの?」
「ああ、確かに。」
「うるさいわね!」
「誘われなかったんだ・・・・・」
ミーハーで結構好きそうなイメージがあったが。彼氏が居たら絶対踊ってるだろうな。
しかし残念ながら三玖曰く面食い。お眼鏡にかなう相手はいなかったようだ。
んでまあ、あんな態度をそこかしこで取っていたらとっつきづらくて誘われもしないと。
「ごちそうさま。じゃ、風太郎。先に風呂入ってるよ。」
「ああ。すぐに追いつく。」
「のんびりで良いよ。それよりちゃんと食べときな。」
入浴は露天オンリーというなかなか攻めた旅館だった。
雪がやんでたから良いが。吹雪なら地獄だったな。
「上がったよ・・・・ってあれ。誰もいない。」
「あいつらも風呂に行ったようだな。」
部屋に所せましと布団が6つ並んでいる。
並んではいるものの、所在なさげに枕が隅にもう一つ。
どこかで2人寝ないといけない。
「どこにする?」
「一番広い真ん中だな。」
「確かに。寝返り打ちやすいようにね。」
特になんの話し合いもせずに俺と風太郎が一緒の布団に入り、
枕を二つ、簡易ダブルベッドになる。
考えていたことは同じだったようだ。姉妹の誰かが2人という線もあったが。
「おやすみ。凪。」
「おやすみ。風太郎。」
多分俺しばらく寝れないけど。
案の定寝るのに時間がかかっている。眠気はあるのだが。
風太郎はしっかりと寝ている。いびきがなくて良かった。
こんなところでも優等生か。
ガタ
姉妹が帰ってきたようだ。寝たふりはしておく。
「二人で・・・・真ん中に寝てる・・・・」
「・・・・相談の必要なかったわね。」
「私たちもねよっか?」
向こうも同じことを考えていたのだろうか。
ぞろぞろと周りの布団の音が聞こえる。特に何のトラブルもなく眠れるようだ。