「どこ行ったんだ。やっぱりこの森は広すぎる。」
五月ちゃんを探していた。
この森はちょっと離れると崖があったはずだ。少し心配になる。
「おらー!!!驚けぇ!!!」
「ん?おつかれさま。」
「ギャアアアアアアアア!!!」
時々はルートに戻って探しているが、その度にオバケ役に絡まれる。
が、お面でことごとく返り討ちにしている。
驚くのは良いけど、そこから逃げて持ち場を離れないでほしい。
残り少ないけどまだ人来るんだぞ。プロ根性を見せろ。
「ここも分かれ道か・・・・じゃあ順路じゃないこっち。」
ある程度は探し回ったし、もう見つかるはずだが。
「二乃~~・・・・どこいっちゃったんですかぁ・・・・・」
しばらく探し回ったが、いた。
凄い所にいたな。隅も隅だぞ。声出してたからわかりやすかったけど。
お面を取って近づく。
「五月さーん。大丈夫かい。」
「あ・・・ナギく~~~ん!!怖かったです~~!」
抱きついてきた。よっぽどだな。
よーしよし。ナギおにいちゃんですよー。気分は一花おねーさん。
めっちゃ泣いてるし。着物が濡れる。
もう使わないものだから良いけど。
「はいはい。落ち着いて落ち着いて。帰ろうね。」
「はい・・・・一緒にいてください・・・・」
向こうから手を繋いできた。花火以来だな。
「二乃とはぐれてしまって・・・・」
「やっぱりかぁ。一花さんと三玖はセットで見たから、キミたちもセットだと思ったよ。」
「わたし・・・・怖いのが苦手で。ピエロとミイラをみて、走り出してしまいました・・・・・」
ピエロとミイラ。風太郎&四葉くんじゃないか。
そんなに怖いのかあの二人。今度は参加者として見たいな。
「ナギくんは・・・・なんで着物を着ているのですか?こ、腰から、か、刀も。」
「俺もオバケ役だったの。さっき白い鬼を見たでしょ。あれ俺なの。」
「ああ・・・・・」
「で、五月さん逃げる時に道間違えちゃったから。仕事投げて追いかけてきたの。」
「あ、ありがとうございます・・・」
「ちょっと遠回りだけど、ラジカセの回収をしないといけないからさっきの場所に戻るね。」
「はい。ついていきます。」
「お面被って刀出すから。驚かないでね。」
手っ取り早く済ませるために刀を抜いておくことにした。
また驚かれてどこかに行ってしまわれては困る。
「「しゃぁああ!!殺してやるぜぇえええ!!!」」
「キャアアアアア!!」
「なんじゃいオラァ」
「うわああああああああああ!!殺される!!!!誰かー!!!」
「お、おい!どこ行くんだよ!」
「キミも刀の錆にしてやろうか?」
「ひ・・・・人殺しだーー!!!人質もいるぞ!!!助けてくれー!!!」
五月ちゃんにラジカセを持ってもらい道を進んでいた。
刀を装備して攻撃力を上げておいて良かった。
度々辻斬りに会うが、お面と刀によって切り伏せている。この面と刀が目に入らぬか。
楽しくなってきたが、そんなに怖いのか?これ。
足音と会話で位置を判断してるんだろうが、
脅かすときはちゃんと相手の顔を見てからにしてほしい。
この二人の格好を見れば何かしらの事情があることはわかるはず。
水戸黄門の気分を味わえるのは悪くないが。
「ハァ・・・・ハァ・・・・」
「大丈夫かい五月さん。深呼吸深呼吸。いいよ。いくらでも待つから。」
五月ちゃんはかなり消耗している。回復を待つたびに足を止められる。
あまり時間がかかるのは良くない。暗闇がもっと深くなる。
あと手を繋いでいるので、体の驚きが俺にも伝わって、離してしまいそうになる。
別の方法を考える。
「ふぅ・・・・ふぅ。すみません。ナギ君、行きましょう・・・・」
「五月さん、肩を抱くよ。」
「え?・・・わ!」
肩を抱き寄せて密着させることにした。少し恥ずかしいが、仕方ない。
右手で刀を持ち、左手に五月ちゃん。良いね。気分は近衛兵。
またどこかに行ってしまうよりは良い。この方が五月ちゃんも安心するだろう。
ただ、これを二乃に見られたらまずいかも。
「二乃は・・・どこにいるのでしょうか。」
「中々見つからないね。もう帰った・・・・いや、ないな。」
姉妹想いの二乃の事だ、それはない。絶対に五月ちゃんを探すはずだ。
「・・・・今回もまた、ナギくんに助けられてしまいました。」
「良いってことさ。・・・・・・・今回も?」
「はい。上杉くんと和解できたのは、ナギくんのおかげです。」
「ああ。あれね。」
あれから何があったか詳しく聞いていないので、今聞いてみよう。
「作戦は上手く行ったんだね。」
「はい、上杉くんに三玖と呼ばれて・・・・あとナギ君がこの格好をさせた理由を考えて・・・
三玖のふりをしました。」
「うん。予定通りだ。良かったよ。」
「ありがとうございました。」
「いいんだよ。」
「花火大会の時も・・・試験の時も・・・今も。あなたは私を導いてくれます。」
「たまたまだよ。花火大会は偶然だったし。」
「感謝、してます。・・・・だけど、まだ一つ、直したいことがあって。」
「ん?」
「上杉くんです。彼とは、やっぱり相性が良くなくて。
売り言葉に買い言葉でムキになってしまうことがあります。」
「うーん。」
導く。・・・・ちょっと前に同じ単語を聞いたな。
試験の時に完璧に仲直りしたと思ってたんだが、
携帯のアドレスを交換した時にそうは見えなかった。そういうことらしい。
「大丈夫。まあ、この間もちょっと喋ったけど。相性が良くない人間はいるもんだ。特に気にしなくていい」
「ですが・・・・」
「時間をかけても良いって意味だよ。相性が良くない人間はいるけど、
仲良くなれない人間はそうはいない。焦せらなくていいんだよ。きっと変われるさ。」
家庭教師をする以上、風太郎も良好な関係を築きたいと思っているはずだ。
いつかは歯車がかみ合ってくれるはず。
「難しいよね。人付き合いって。俺もちょっと苦手なんだ。」
「ナギくんが・・・苦手なんですか?あんなに色んな人に囲まれてるのに。
さっきの飯ごう炊さんも・・・・」
「うん。ちょっと特別でね。初対面の人とかと話すのは大丈夫なのに、
まだ仲良くない知り合いとかと話す時は、とても緊張して、ストレスが貯まるんだ。
さっきは大丈夫だった。俺がなんとかするしかない。そういう気持ちだったから。」
「そう・・・・なんですか。」
「多分わからないと思う。この気持ち。だから理解しなくていい。
友達と呼べるまで仲良くなれば、緊張しなくなった。
だから、出来るだけいろんな人と仲良くするようにした。
一度仲良くなれば、もうストレスは感じないから。・・・仲良くなるまでが大変なんだけどね。
だから正直に言うと・・・・最初は嫌だった。キミたちの家庭教師。また気の許せない知り合いが増えると思った。けどあいつに頼まれたからね。頑張った。今はもう、大丈夫。」
「あなたは・・・・なんでも出来る人だと思ってました。けど、違うんですね。」
「当たり前さ。例えば、俺カナヅチ。泳ぎが得意じゃないんだ。息継ぎできなくて。」
「ふふふ。怖いですよね。・・・でも、そういうあなたの知らないところを知ることが出来て・・・嬉しいです。」
「それは良かった。じゃあ五月、二乃を・・・・探そう。」
「はい。ナギくん。」
かわいいな、五月。素直だし。なんだか良い雰囲気になってきた。
そんな素直で真っ直ぐな眼で俺をじっと見ないでよ。
あれかな。ストックホルム症候群かな。
早いとこ二乃を見つけて正常な状態に戻そう。
「見つかりませんね・・・・」
「うん。向こうも歩き回ってるんだろう。一旦戻ろうか。」
「はい。」
もうすぐゴール地点というところまで近づいた。
しかし二乃が見つからない。一旦引き返す。
オバケ役はさっきから全然見ていない。全員成敗してしまったかもしれない。
じゃあもうこの態勢で歩かなくていいんじゃ。まあいいか。隣の子かわいいし。役得。
「正面から誰か来ます・・・・」
「え?わかった。」
らしい。なんでわかったんだろ。刀をしまう。正面から来るなら、オバケではない。
「・・・五月!・・・・ってなによ!その隣にいるバケモンは!」
「待て!あれは、・・・・・・し、知り合いだ!」
二乃だった。そうか。お面被ったままだ。だからわからなかったんだ。若干視界が狭くなる。
男の声がした。二乃の隣に誰かいるようだ。面でよく見えない。
「これは・・・ナギくんです。」
「有坂?」
「そうですよー。有坂くんですよー。」
「あんた・・・・なんて格好してんのよ。」
「五月を守るためにこれが手っ取り早かったんだ。
ん?隣のその人は?」
二乃の隣に金髪の青年が立っていた。
お面でちょっと誰かわからないが。
「この人が助けてくれたのよ!」
「そうなの。」
「キャンプファイヤーで踊る約束もしちゃった!」
「そうなの。」
二乃のテンションが凄い高い。何があったんだろう。
しかし、キャンプファイヤーを共にするということは、そういう事か。
熱いねぇ。恋しちゃったんだ。
じゃじゃ馬娘の二乃、堕ちる。相手はなかなかの強者だな。是非とも顔を見ておきたい。
「その子、この子と友達でね。誰だかわからないが、助かった。」
「あ、ああ。」
この状態で挨拶するのもあれなので、お面を外す。
「俺は有坂。キミの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なまえは?」
「・・・・き、金太郎って言うんだ。よろしくな!」
この人知ってる。
ぼくのともだちです。なんでこんな事をしてる。金髪のカツラなんか被って。
しかし、さっきの二乃の会話。そして今の名前。二乃はこいつが風太郎だと気づいていない。
ここは口裏を合わせた方が良い。
「じゃあ、知り合いが見つかったんならこれで!悪かったな!」
「・・・・・ああ!ありがとう!」
「あ、ちょっと!金太郎君!」
「二乃!彼に迷惑をかけたんだ、引き止めるな。」
「だって・・・・!」
「キャンプファイヤーの日にまた会えるんだろ?」
「・・・・・・・そうね。その通りだわ!たまにはあんたも良いこと言うじゃない!」
背中を叩かれた。痛い。どーすんだろこれ。
キャンプファイヤーのカップリングが風太郎×一花と風太郎×二乃になったぞ。
どっちの姉妹ショー。まあでも事情を話して風太郎×二乃が安定かな。
おねーさんなら我慢してくれるさ。なんか最初からあんまり乗り気じゃなかったし。
あとで風太郎から話を聞こう。
「二乃。」
「なあに、五月」
「・・・・・写真、撮ってください。」
・・・・・・キミもかぁ。慣れちゃったんだね。
しかし、さっきの風太郎。・・・いや金太郎。昔のあいつに似ていたな。
「ナギっち聞いたー?肝試しの話なんだけど。」
「屋代さん。なんだい。」
部屋に戻って班内への伝達事項を喋っていたら、屋代さんが話しかけてきた。
「最後の方に参加したウチの友達がさ、オバケ全然見なかったんだって。
拍子抜けでゴールしたら、オバケの仮装した人たちが先生に詰め寄ってたらしいの。
日本刀をもった白い鬼の殺人鬼が出たって。」
「・・・・うん。」
「あんまりにも見た人が多いし、みんな凄い形相だったから、
先生が目撃者を連れて一度コースを周回したの。
でも、どこにも居なかったんだって。ナギっちもオバケ役っしょ?なんか知らん?」
「・・・・・片倉くんは?知ってるかい?」
「・・・・・・いや、私は知らない。」
「そう。・・・・・・・・・・俺も知らない。そんなものは見なかったな。」
「じゃあマジの幽霊じゃん!人によって見えたものが違うって話だよ!その殺人鬼だけじゃなくて、隣に女の子がいて、人質を取ってたように見えたって人もいるんだって!こわー!」
「キャンプファイヤーの準備に行ってくるね・・・・」
「・・・行ってこい。班長」
片倉くんがすっとぼけてるので俺もすっとぼけた。
すいません先生。やり過ぎてしまったようです。
本来の担当であるキャンプファイヤーの準備へ向かった。
後日、林間学校に肝試しの殺人鬼の伝説が追加された。
出会っても殺されることはないが、刀と面が血で濡れているらしい。
時々、女の子を従えて現れるので、
昔この近くで死んでいった姫とその護衛である、と噂されている。
2人の距離がかなり近かかったので、姫と護衛は、
禁じられた恋に落ちていたのではないか とのこと。
姫と護衛のセットを目撃出来たら、近いうちに恋が訪れるらしい。
目撃した美術部員が、絵を描いた。他の目撃証言と合わせこみ色々修正を行い、スケッチは完成。
・・・・・伝説の為か、要所要所で都合のいい修正が行われているな。
鬼の仮面の人物が、右手で刀を持っている。このスケッチを見ている人物に対して、
それを向けている。
隣には、長い髪の女性がいる。左手には・・・・提灯を持っていた。
女性の顔は書かれていない。そこまで覚えていなかったのだろう。
・・・・・白黒のスケッチで良かった。
そして両者は、空いた手を使い、仲睦まじそうに手を繋いでいた。描写が細かい。
恋人繋ぎということまでわかる。
俺が殺人鬼の正体と知っている人がそこそこいるはずなのだが、面白いから黙っているようだ。
だから俺も何もしゃべらないことにした。先生まで黙っているのはどうかと思うが。
真相は有坂 凪と中野 五月が肝試しを仲良く満喫していた なのである。
それが広まったら俺も彼女も恥ずかしい。