「え・・・・・・?ホント?」
「ある。1度だけ。」
2人隣り合って座っていたが、猫背がひどくなりそうだ。
姿勢を正し、体育座りで座りなおす。
「でも・・・・恋愛経験ないんでしょ?」
「そうだね。それは本当だ。」
「ということは、断ったの?」
「そう。」
「・・・・・」
「聞きたい?あんま喋りたくないけど。」
「・・・・・ききたいな。」
「笑い話じゃなくていいなら。」
「・・・・・おねがい。」
「キミの機嫌を、きっと損なう。」
「いいの。聞かせて。」
「・・・・・じゃあ、誰にも喋ってはいけないよ。」
一花さんはとても真剣な顔だった。
俺の雰囲気を察してくれた。
「はぁ・・・・・・・・・・・・喋ろうか。
・・・・・俺を殴る準備をしておいてほしい。気に入らなかったら、
キミの気がすむまでひっぱたいてもらっていい。
俺はつまらないから。木偶の坊になる事しかできない。」
まあ。もういいや。俺も喋りたかったのかもしれん。誰かに話したかったのかもしれん。
喋る気がないならさっき嘘をついたままでいろと。そういう話だ。
一花おねーさんに懺悔してみよう。
「じゃあ、心して聞いてもらおうか。ごめんね。真剣な話になる。
・・・・聞くべきではないかもしれないが。」
「・・・・・うん・・・・」
「小学校4年の時。俺は・・・・昔っからこんな性格じゃなかった。
もっとクソガキだった。キミたちと出会った時の風太郎みたいよりも酷い。」
「ふふ。フータロー君に酷いよそれ?」
「まあ、あんな感じでトゲトゲしてたんだよ。俺も。
ああ、先に言うけど、この話に風太郎は全く登場しないよ。」
今の風太郎は昔と違う。家庭教師をやって、かなり変わった。
驚くべき変化。大変喜ばしい。
「ガキの頃、俺は人を笑わせるのが好きだった。授業中も真面目に受けず・・・
ふざけたことをいう事しか考えてなかったよ。
俺の発言を聞いて、クラスのみんなが笑ってくれる。年の離れた先生までもが。
それが好きだった。主役になった気がした。」
「いつだったか、クラスの席替えがあった。今まで座ったことのない女子と隣になった。
同じクラスの中には居たけれど、今まではほとんど直接喋ったことのない子。
その子は・・・・はっきり言ってしまえば、その時は、あまり容姿の良い子ではなかった。」
「しかし、その時の俺に相手の容姿なんて関係なかった。
その子は・・・・よく笑う子だった。席も隣。真っ先に俺のジョークのターゲットになった。
忘れ物をして持ち物を借りる時、隣の人と一緒に問題を解く時、休み時間の休憩中。
いつも彼女を笑わせた。」
「・・・・・・・・」
一花さんは黙って聞いていた。
「そんなことを繰り返していた。・・・・・・ある日。出どこはわからないが、噂話が始まった。
隣の席にいる彼女は・・・・何と、俺の事が好きなのだと言う。そんな噂話が広まり、
とうとう、俺の耳にも入ってきた。」
「今だったら、光栄な事だ。こんな俺を好きになってくれるんだ。嬉しいことこの上ない。
喜んで、ハイ、お願いしますと、今ならそう返事をするだろう。・・・
・・・・しかし、あの時の俺は、違った。」
「その時の俺は・・・・・おかしなプライドがあった。
自分で自分をネタにし、笑いを取るのは良かった。
だけど・・・・他人から失敗やミスをバカにされ、辱めのような笑いの対象になる。
・・・・それが、我慢できなかった。・・・・・いわゆる、いじられキャラってやつだね。
今はもう平気なんだけど。」
「噂話は本人である俺にも聞こえてきた。当然、俺は想像した。
彼女と付き合ったら?どうなるのか?
・・・・・・・・・想像するまでもなかった。それは、既に姿を現していた。
噂は駆け巡る。当時の俺の友達も聞いていた。
その噂話を聞いてから、そのネタでおちょくられるようになった。
彼女は当時・・・・容姿が良くなかった。俺も・・・・クラスのピエロだった。
だから、こいつと有坂が付き合う、マジか!・・・・そうやって茶化す奴が多かった。」
「もし、彼女とそういう関係になれば?・・・・・周りから、死ぬほどバカにされるんじゃないかと、俺は考えた。というか、現に噂話の時点でバカにされている。
いや、違うかな?・・・・・・・・・・・・今考えれば、容姿なんて問題じゃなかった。
そもそも、だ。・・・・小学4年だ。男子と女子が付き合う、
そんな話、周りでまともに聞いたことがなかった。背伸びしすぎだ。
それだけで・・・・彼女の容姿とは関係なく、バカにされていたかもしれない。
あの時の俺みたいな芸人タイプは、適当にいじくってくる奴が多かった。
・・・小学生なら、なおさらだ。良いサンドバッグになる。
その方が、笑いもとれて俺が喜ぶと思ったのかもしれない。
でも、そのネタでからかわれるのは・・・・・全く、気に入らなかった。
・・・・・・・からかわれる度、俺は顔を真っ赤にして、反撃していた。
本気で・・・・・嫌だった。」
「ムキになって反撃する俺。周りは俺の姿を見て笑う。それを見て、茶化しはもっと酷くなる。
ああ、周りが笑っている。有坂も嬉しいだろう・・・・・なんて、思っていたんだろうね。
・・・・・・・・・・・・あの連中・・・・ふざけやがって!!
・・・・それであの時の俺がどれだけ苦しんだか・・・・!!
ああ!!思い出すと今でも腹が立ってくる!
謝れば全て元通りになるとでも思っているのか!!!」
隣にあった木製の扉に、怒りをぶつけた。
痛い。何をおかしなことを。あいつらより、今の俺の方がバカだな。阿呆だ。
「・・・・・痛い。・・・・・痛いけど、後悔はしてない。
・・・・それにあいつら・・・・思い出せば結局、謝罪の言葉を一度も聞いてない。
イラつくな。もう1発・・・・・・・・・やめよう。」
頭に血が昇った時の方が、俺は最高に冷静になるのかもしれない。
絶対に格好悪いので、隣人の顔は見ない。
「・・・・・・・・」
「続けると・・・・・まあ、彼らもガキんちょなりにデリカシーはあった。
俺と彼女がセットでいる時は、笑い話のネタにしたことはなかった。
その点だけは感謝してる。そしてまあ、そんな噂話があったわけだけど。
俺は正直、そんな話を信じてはいなかった。」
「なぜなら。授業中、一緒にいるのに・・・・キミが好き、なんて1回も言われなかったから。
そんなことを言われた覚えはない。彼女は、俺の笑い話でいつも通り微笑んでくれた。
こんな話が出てても、彼女は何も変わらない。
だから、噂話を聞いても、彼女を笑わせることはやめなかった。
俺が好きなら、直接そう言ってくるはずだ。そう思った。
・・・・・・やっぱり俺もバカだった。勿論、今ならわかる。少しは大人になったからね。
そんなこと、言ってくるわけ、ないじゃないか?
・・・・・クラスの中で、直接気持ちを伝えるのは恥ずかしい。
そして、放課後はいつも友達と一緒に帰る俺。当然無理だ。
恥ずかしい。けど抑えられない。そんな自分の気持ちを・・・・
彼女は他の誰かに伝えたんだ。そして、それが無情にも拡散された。
だから、こんな噂話が出回っているんだ。」
「時は過ぎ、席替えがあった。彼女とは離れ離れになった。違う女子が俺の隣になった。
彼女は俺の傍からいなくなった。・・・・消えたわけじゃないよ。
勿論、クラスの一員だ。一緒に授業を受けてた。
まあ、噂話は続いていたけれど。・・・・ああ、中学校まで続いたかな。これは。
途中から俺が上手く対応できるようになって、
それを連中が見てつまらんと思い、終わったけどね。
対応できるのは中学生になってからの話。心がクソガキから子供に成長したから。
小学生の時は、だれかれ構わず、キレてた。」
「席替えがあっても、俺のやることは変わらない。クラスのみんなの笑いを取るだけ。
俺が彼女に直接アプローチすることはなくなった。それだけだ。
そうやって日常を繰り返していた。・・・・・・・・・・あるイベントがやってきた。」
「2月14日。・・・・皆さんご存じ、バレンタインだ。その日は休日。
金曜日に・・・・彼女の一番の友達だという人物から、連絡を受けた。
あの子があんたにチョコを渡しに行くよ。受け取ってあげてね。と。
そんなはずないだろう?嘘だ。彼女の友達であるお前までもが、あの話を信じているというのか?
席が隣だったのはだいぶ前の話だぞ?最近じゃ・・・・直接喋った記憶も・・・・ない。
・・・・・彼女から一度も好意の言葉を受けたことがない俺は、そう判断した。
・・・・思えば、彼女はあまりしゃべらない子だった。声も小さかった。
・・・・もう、そんなことは関係ないがね。」
「運命の日は訪れる。バレンタイン。日曜日。その日は小学校の部活の日。
部活の間はすっかりその事を忘れていた。部活を終え、自転車で家に帰った。
家に帰った後も何もない。母親から今日バレンタインだねと言われて、
ようやく思い出す。そういえばそうだった。
・・・・・なんだ、何もないじゃないか?
やはりそうだ。あれはただの噂。そんなものはなかったのだ!
そう考え、家でいつものようにマンガを読んでいた。母親の発言から30分後、だっただろうか。
・・・・・・・・・玄関のチャイムが鳴った。」
「母親が来客に対応した。と思ったら、母親からこっちにこいと呼び出される。
・・・・・・・・・・・・・あの子が立っていた。リボンがラッピングされた、
チョコレートの入ったボックスを持って。
俺に・・・・・・・差し出してきた。」
「好きです と。」
「頭が一瞬・・・・凍り付いた。ちゃんとした判断が出来なくなった。
何故だ?・・・・何故この家にいる。・・・・家の場所を教えたことはない。誰が住所を教えた?どうやって知ったんだ?
俺の後ろで母親はとても喜んでいた、・・・・・・・でも、そんなものはどうでもよかった。
使えない凍り付いた頭を使い、必死に考えた。・・・・・・結果は、こうだった。
席が変わってかなりマシになったのに・・・・・・・・・・また、あの辱めを受けるのか?俺は。
・・・・・・そう・・・・・考えて・・・・しまった。」
「いらない と。 突き返した。」
「ごめんなさい と。 彼女は言った。 そして、去っていった。」
ふと気になって、一花さんを見る。確認できたのは横顔だったが、泣いていた。
可笑しいな。どうして?なんでキミが泣くのさ。俺だって泣いてしまいたい。
あの時の彼女にごめんなさいと、今でも伝えたいのに。
ああ、また一人泣かせてしまった。
思わず目を背ける。
もうすこし。
ここまで来たんだ。最後まで続けよう。
「翌日・・・・・いや、丸々1週間だったか。彼女は・・・・・学校を休んだ。
彼女が学校に来なくなって、俺はようやく気づく。
ああ、自分の身を守る為に、彼女を傷つけてしまったんだ。
自分のしたことに気が付き、動揺する俺に、追撃が入る。
彼女の親友に呼び出され、言われた。
あの子は泣いていた と。
自分の容姿が醜いから、断られたのだ と。
・・・・・・笑えない。全く笑えない。
あんなに人を笑わせることが好きだった俺が、自分の体裁の為に、
彼女のコンプレックスを刺激し、一人の女の子を泣かせてしまったのだ!
・・・・・・・・・・・その事実が頭から離れなくて、俺も体調を崩した。」
「しばらく、学校に行けなかった。・・・・・我ながら、かなりメンタルをやられていた。
思えば・・・・・状況がおかしい。
・・・・・・・・あの時、何をしていたんだ、俺は?
・・・・・・・・・・俺が彼女を傷つけたのに。
・・・・・・・・・どうして俺が砕け散っている?
彼女は俺とは違った。・・・・・・彼女は1週間後、学校にちゃんと来ていた。
・・・・強い、人だ。尊敬、する。素晴らしい。
だが・・・・なおさら学校には行けなくなった。
・・・・・俺は彼女に合わせる顔がなかった。
・・・・・・同じ空間に居たくなかった。
・・・・・・・・・・・・あったところで・・・・・・一体何を話せば良い?
時が過ぎるのを待った。両親には心配されたが、家でちゃんと勉強はしていた。
1ヶ月とちょっとが過ぎた。バレンタインからその時間が過ぎると・・・・・卒業式だ。」
「卒業式も、出なかった。さらに時間が過ぎ、4月1日。
学年が上がり、組が変わる。家に新しいクラスの名簿が届く。
同じクラスに、あの子の名前はなかった。別のクラスに、あの子の名前を見つけた。
・・・・・それを確認して・・・・・・俺は通学を再開した。」
「・・・おしまい。」
パチパチ と、自分で拍手をする。
ビンタされなくて、良かった。食らってもおかしくないと思っていた。
我ながら最低なことをしたと思っている。
「追加で言っておくと、その後は何もなかった。5年、6年、中学校も一緒だった。
しかし、同じクラスになることはなかった。高校は別のところへ行った。
聞いた話だと、彼女は今、中々かわいいらしい。よかった良かった。俺も心から祝福する。
あれからは、1度も喋ったことはない。顔を合わせることはあったけれど。」
「今更、彼女に謝る気はない。そもそも覚えているかどうかもわからない。
覚えているのは俺だけかもしれない。
んなことを今から蒸し返したって迷惑だ。
彼氏もいるかもしれないし。引きずっているのは俺だけだ。
だから、この話の続きはない。はい、本当におしまい。」
「・・・・・・・・感想は?」
久しぶりに一花さんを見る。
さっきよりはマシかな。でもまだ泣いている。
・・・・何もしゃべってくれなかった。
床がかなり濡れている。先ほど俺が彼女を見る前から、彼女は泣いていたかもしれない。
「・・・・・・・・・・・・どうしてキミが泣く。
泣きたいのは俺・・・・・ではなく、彼女だ。
彼女を傷つけたのは誰か?・・・・・俺だ。
だから、俺は決して、なかない。泣いてはいけない。泣いていいのは彼女だけ。
一花さん。この話をしたキミも・・・・泣かないでほしい。」
加害者の俺が何故泣く?その権利は被害者の彼女にある。
言語道断だ。馬鹿者。涙など一粒たりとも出ない。
「・・・・・ああ。どうしてこんな話をしたんだ。
こんなはずじゃなかったのに。今日の俺はどうかしている。
どうして俺はこんなところに閉じ込められているんだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・ああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・どうして俺は・・・・・・・こんなに馬鹿なんだ・・・・・・・・・・・」
何もかも嫌になった。懺悔すれば、スッキリするかなと思ったが、違った。
悲しみに満ちた人を一人増やしただけだった。
この阿呆め。いったいお前は何時になったら学ぶのだ。
馬鹿は死ななきゃ・・・・・・治らないのか?
何かに耐え切れなくなって、頭が重くなる。思わず下を向く。
猫背・・・・もっと、悪くなるな。
体育座りの態勢。足と足に頭を挟む。前は手で押さえる。
光が少なく、視界が暗い。暗闇。暗黒に吸い込まれてしまいたい。
消えてしまいたい。
そう思っていた。
体ごと、何かに抱きしめられた。
扉が開いた音はしなかった。
・・・・・彼女しか、いない。
花の香りに包まれた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
正体を知っている、が、別に俺は何も言わない。
すると、頭をなでてきた。
・・・・・・・・・・・キミはやっぱり優しい。流石だよ。一花お姉さん。
・・・・・・・・・・・泣いてくれたんだね。俺の代わりに。
お互い、しばらく何も言わなかった。
彼女は、・・・・・何も言わないでいてくれた。