五等分の花嫁 ~家庭教師の助手~   作:I-Ris

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「ふー。よし、もう大丈夫。ありがとう。いつもの有坂です。」

「うん。お疲れさま。」

 

時間が経って楽になった。

しばらく首を下に向けていたせいか、ちょっと痛い。

最低なエピソードだからな。嫌われただろう。

 

 

「あー。首いったい。全く。悲しい思い出を作っただけだ。」

「・・・・・悲しい思い出は、楽しい思い出で上書きしなきゃ。」

 

 

そう言って、彼女は立ち上がり、こちらに手を差し出してきた。

 

 

 

「ね?一緒に踊ろ?」

 

 

 

 

 

「え?」

「キャンプファイヤー、踊れないんでしょ?明日。」

「うん。」

「だから、今ここで、私と踊って。思い出をつくろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倉庫の中央、スマホで音源を探していた。

 

なんだ?この流れは。

どうしてこうなる。あれか?吊り橋効果ってやつか。

絶対嫌われたと思ったんだけど。だって俺のやったこと最悪じゃん。

カスだよカス。ゴミの中のゴミ。

一花さんなりの慰めかな。

 

 

窓から差し込んだ月の光が四角く、地面に映っている。

スポットライトのようだ。そこに、俺と一花さんは手を繋いで立っていた。

 

 

 

「フォークダンスだったっけ。」

「そうだよ。」

 

 

 

動画サイトにフォークダンスと打って音源にする。

あの曲の正式名称はわからないが・・・出てきた。

オクラホマ・ミキサー。

 

「良し。じゃあ一花さん。行くよ。」

「待って。」

 

え?なんすか急に。やっぱやめる?

 

 

「名前で・・・・呼んで?」

「一花さん?」

「違う。『さん』はいらない。」

「一花?」

「そ。これから、ずっとね?」

「急にどしたの。」

「・・・・・・五月ちゃんのこと、いつの間にか呼び捨てだったでしょ。わたしもいいじゃん。」

 

 

顔をプクーと膨らませる一花さん。かわいい。

まああなたが言うならいいですけど。五月はなんか気づいたらそう呼んでたな。

四葉くん。キミだけ仲間外れになったね。まあいいか。

キミが茜に似ているのが悪い。俺のせいではない。

 

 

 

 

「じゃ、じゃあ、行きます。」

「うん。」

 

動画の再生ボタンを押す。

そうそう。この曲。これ何回繰り返すんだろ。動画は2分だったが。

 

♬~~~~

 

 

「2分間です。」

「うん。」

 

 

ステップを踏む。一花の右側につき、歩く。

フォークダンスって一組でやるもんだったか?まあ良いや。適当。

 

右足を前に出し、俺の手を掴んで、一花がクルっと回る。

運動神経が良い。大体、20秒に一回はお互いの顔を見るタイミングがある。

 

 

さっきと同じだ。お互い何も言わない。

だから、表情を見て感じ取るしかない。

 

 

「・・・・・」

「・・・・・」

 

 

満面の笑み というと、ちょっと語弊がある顔だ。

 

穏やか。一言でいうのであればそうだった。慈愛に満ちた、とも言える。

よくわからんが満足しているようだ。よかった。

 

 

あまり乗り気じゃなかったが、こんな美人と踊れるんだ。

たしかに、良い思い出だね。

俺は今どんな顔をしているだろうか。

自分で自分がわからない。今日は感情がめちゃくちゃだ。

 

 

だが、今このいっとき、心が軽いのはわかる。

俺の目の前で踊る、キミの軽やかなダンスのように。

それはきっと、見ている者を幸福にする力がある。

 

 

 

 

 

 

 

1分30秒くらい経ったと思う。

しかし改めて聞くと、良い曲だね。口笛を吹きたくなる。

 

 

「そろそろ最後かな」

「・・・・・・」

 

 

パートナーは何も言わない。

次のメロディで最後だと思う。また、一花が目の前で回転し、

お互いの右足を差し出し、首を傾げる。そして、こちらの手元に戻ってきた瞬間。

曲が終わった。

 

そして・・・・・・・・倉庫の扉が開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・おつかれー。一花、大丈夫・・・・・って・・・え?」

 

 

フォークダンスを踊り終えた態勢。俺と一花は両手を繋いでいる。

なんでまたこんなタイミングで・・・・。まあいいか。楽しかった。

この後どうなっても良いや。

ただ、来たのは二乃だけじゃない。

 

 

二乃、三玖、四葉くん、五月。そして、片倉くん、川村さん。6人いた。

あれ?二人ともメール届いてたの?もっと早く来てよ。

・・・・風太郎はいない。良かった。

 

 

 

「ちょっとあんた一花に何してんのよ!」

 

 

当然ながら詰められる。

 

 

しかし今の俺は最強だった。今なら二乃であろうが負ける気はしない。果てしなく爽やかな気分。

宙を舞っている。空に陰り、雲一つない。じきに落ちるのに、それを全く気にも留めない。

 

「ふふふふ・・・・・・あはははははは!!」

 

 

「ちょ・・・・ちょっと、どうしたのよ。」

 

 

思わず高笑いが出た。

やはり今日の俺の感情はめちゃくちゃだ。ミキサーにかけられている。

さっきはなんで懺悔なんかしたんだと思ったが。いつの間にかかなり楽になった。

一花カウンセリングのおかげだ。なにも怖くないぜ。

 

彼女から手を放して、6人に向き合う。

 

 

「待つのが暇だから、フォークダンスを踊っていたのさ。

ありがとう二乃くん。素晴らしい活躍だよキミは。」

 

「なんでフォークダンスなんか・・・・!」

 

「いやー明日俺アナウンス担当でキャンプファイヤー踊れなくてさ。

見かねた一花が付き合ってくれたんだわぁ。

秘密の予定だったんだけどバレちゃった。」

 

 

 

「ナギ・・・・・明日踊れないの?」

 

「そうなんだよ。お前ダンス中の写真撮ってこいって言われてさ。参っちゃうよね。

まあ俺がやるって言ったんだけどさ。」

 

 

 

「有坂さん!ごめんなさい!私が鍵をかけてしまって・・・・」

 

「いや、こっちこそごめん。四葉くん。俺がちょっと隅っこで寝てて、

一花に看病を頼んだんだよ。キミのせいじゃない。」

 

 

 

「それにしても・・・・・よくこの状況でそんなことを。」

 

「ごめん!迷惑かけた!申し訳ない!後で借りは返すから!

こうなったのは事故なんだ。意図してやったわけじゃない!」

 

 

 

4人を適当に相手して、片倉くんと川村さんに合流する。

 

「一花!ありがとう。楽しかったよ!」

 

返事は無かったけど、いいや。

あの顔だ。別に文句言ってこないだろう。もし、あるのなら後日聞く。

 

 

「すまない、有坂。遅れた。」

「大丈夫だった?有坂くん。」

 

 

「二人とも・・・・よくも俺のメールを無視してくれたねぇ?」

「すまん・・・・お前を探し回っていたら、彼女たちと会ったんだ。」

 

 

「ははは。わかってるよ。圏外だったんだろ。冗談冗談。ごめん。迷惑かけたね。」

「伊達くんと屋代さんはマズいかなと思って、部屋で待たせといたよ。」

「やるね。川村さん。完璧だよ。迷惑かけてごめんね。帰ろう。」

 

「ああ。」

「無事でよかったよー」

 

 

 

 

5姉妹をその場において、自分の部屋に戻る。

明日、ちょっと面倒かもしれないな。スキーだっけ。

とっとと寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

起床。

あんなことがあっても、やはり早起きだ。まだ他の4人は寝ている。

5時46分。早すぎる。旅館みたいに大浴場があるわけじゃない。

なにも出来ない。

 

 

スマホとにらめっこする。1件、メールが入っていた。

差出人:中野一花。

『ありがとう かばってくれて』

 

 

ありがとうだって?お礼を言いたいのはこちらの方だ。

途中まで最悪だったが、結果、楽しかった。

今メールを送ると、通知で起こしてしまう。少し後に送ることにする。

 

 

 

いいか、メール帰さなくても。直接言おう。

 

 

 

スマホの電源を切って、目を閉じた。

昨日の記憶に、思いを馳せる。

 

 

 

 

 

・・・・コートを返してもらってない。

後で回収しよう。

 

 

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