「風邪をひいた?」
「はい。」
朝食を食べて、スキー前の自由時間。
コートを返してもらおうと一花のところへ向かったら、五月が出てきた。
風邪を引いて微熱が出ているとのこと。
寒がっていたのを察知してコートを貸したが、遅かったようだ。
「あらー。やっちまった。もう少し早くコートに気付いていれば。ごめん。」
「ナギくんのせいではないと、言っていました。これをお返しします。」
「体調は?大丈夫そう?」
「多少熱はありますが、そこまで辛そうには見えませんでした。」
「そう。良かった。ちょっと待ってて。」
「これ。使って。」
持参していた薬とおでこに貼る冷たいやつを渡した。
「あ、ありがとうございます。持ってきていたのですか?」
「うん。俺は環境が変わるとよく体調を崩すから、これが手放せない。
薬は解熱の効果もあるはずだから、使って。1回2錠、1日2回まで。空腹時が望ましい。」
「わかりました。」
コートと薬などを交換し、その場を離れた。
風邪がうつると悪いからと五月に止められ、一花を見ることは出来なかった。
「さー!滑り倒しますよー!」
「・・・・・寒いし、寝かせてくれ。というか俺、滑れねぇし。」
「寝るなんて勿体ない!じゃあ、私と手を繋いで滑りましょー!」
「四葉くんはいつも元気だねぇ」
手を繋いで滑るなら、この長い板では無理だろう。短いやつじゃないと。
股を開く大きさを変えて、前後に二人重なればできるか。多分直滑降しかできないと思う。
三日目。自由参加のスキーをするため、俺と風太郎と四葉くんはゲレンデにいた。
風太郎と5姉妹は全員スキーだった。俺もそうした。
風太郎は大丈夫かな。少し顔が赤いようにも見えるが。
「あ、来た来た!」
「お。」
背後からゴーグルをかけてスキーをしている女性が現れた。
「誰だ?」
「・・・・三玖」
三玖でした。非視認性の悪いゴーグルだ。五つ子でなかろうと誰だかわからん。
「三玖か・・・・・外見が一緒だと本当にわからないな・・・・」
そう言いながら三玖の顔面を凝視する風太郎。
「え・・・あ・・・わっ!」
「おいおい・・・・平気か、ほれ。」
後ろに体重がかかり、バック。三玖がしりもちをついてしまった。
手を差し出す風太郎。お。いいぞいいぞ。
そのままそのまま。
「平気・・・・・・」
手を受け取ることなく、三玖は自力で立ち上がった。
あれ?ダメっすか今の。男の俺も悪くないと思ったけど。
そういえば、風太郎はキャンプファイヤーをどちらと踊るのだろう。
二乃か。三玖か。どちらを選んでも納得する。楽しみにしておこう。
しかし、今の手を受け取らないということはそういう事だろうか。
それともまだ三玖に伝えられてないだけか。
「いつもは教えられてばかりの私ですが、今日は二人に教えまくりますよー!
有坂さんは滑れるんですか?」
「ある程度は。曲がるときは八の字じゃないと無理だね。」
俺はそれなりだ。パラレルターンって名前だっけ。自由自在に動くのは。あれは無理だ。
四葉くんがが風太郎と三玖に教えるらしい。
うーん。風太郎×三玖の二人きりにしたいが。
無理だな。良い理由が思いつかない。
スキーをやめてもらえれば色々あるが。どっちも滑れないらしいし。
こんな時、お前みたいにとっさの機転の利く頭だったらな。
「だから俺は一人で滑っているよ。四葉くん。二人をよろしく。」
「まかされましたー!有坂さんはどこで滑るんですか?」
「あちこちと。他の皆を探そうかな。」
そう言って滑り出す。
男が一人抜けて、1対2にしてやる。
今の俺に出来ることはそれくらいかな。
広いゲレンデで、一人孤独に滑る。大回転の練習をしている。
オリンピックで見るようなやつだ。名前は知らない。素人なりに、見よう見まねでやってみる。
右端から斜めに滑って……左端で大きくターン。板と板ががつっとぶつかった。
あ。
転んだ。
体が右に落ちた。速度があったからちょっと痛い。慣れないことはするもんじゃないな。
やっぱアスリートってすげぇわ。
周囲のスキーヤーがこちらを見て笑っている気がした。カップルが多い。
散れ。見せもんじゃないぞ。イチャつきやがって。滅べ。
今から戻って面と刀持って来てやろうか。白銀のゲレンデを赤に染め暗黒をもたらしてくれる。
まあ、あの刀は塗装したプラスチックなので、殺傷能力はないけれど。
「見てたよ~ ナギくん、大丈夫?」
「あれ?・・・・・・・・・・・一花?」
フードをかぶった一花が現れた。
ゴーグルとマスクをフードをしている。その3点セットやめて。
取ってもらわないと誰だかわからない。
ゴーグルとマスクを取ってもらいようやくわかった。
「風邪引いてるんじゃなかったの?五月に聞いたよ。」
「ちょっと咳は出るけど。ナギくんから貰った薬、飲んだから。
折角の林間学校。楽しまなきゃ!」
「こじらせないでくれよ。女優さん。」
ちょっと不安だ。あの薬は咳には効かない。
顔が赤い気がするような、しないような。
さっきの風太郎の方が赤かったか?
「ナギ君。・・・・昨日の事なんだけどさ。」
「ああ。どうしたの。・・・・・・・まさか、俺のあの話、誰かに喋ったのかい?」
背筋が凍った。
勘弁してくれ。死ねる。切腹だ。転校を考えるレベル。
すまん親友。俺はお前と袂を分かつことになった。
「え・・・・、い、いや、言ってないけど。」
「あー・・・・・・良かった。あんなんペラペラ喋られたら、人間不信になる。おねがいね。
あれは誰にも喋らないでほしい。風太郎に直接喋ったこともない。キミしか知らないはずだ。」
「う、うん。」
「じゃあね。俺は行くよ。あっちに風太郎と四葉くんと三玖がいるよ。」
「ん。わかった。」
一花と別れた。
びっくりしたが、一安心。もう少しわかりやすい冗談にしてほしい。
あの時の3人の気持ちがわかった。ごめんな。俺が悪かった。
慣れないことはせずに、のんびり滑る。目的がないとつまらないので、
風太郎たちを陰からストーキングしていた。家庭教師の最初のころを思い出す。
俺はあんな見つかるようなヘマはしないぜ。
と思ったら、なんかみんな散らばりだした。
四葉くんだけがその場から動かない。
「どうしたんだい。四葉くん。」
「あー!有坂さん!追いかけっこしましょー!私が鬼です!」
「なるほど。良いね。」
そういうことらしい。
逃げることにした。どこがいいかな。隠れよ。
「あったけー。」
完全にスキー板を脱いで、休憩所の中にいた。
酸っぱいホットレモンで一服。疲れがとれそうだ。四葉くん、ここはわかるまい。
鬼ごっこを諦めて疲れ切ったときに再会しよう。
スキー・・・ウインタースポーツはそもそもそこまで好きじゃない。
寒い中厚着で体を動かしてあったまる?矛盾してないか?
暖かい部屋の中にいればいいだろう。
しかしそこが魅力なんだろうな。相反する行動。
誰がこたつに潜ってアイスを食べる事を止められる。
それと一緒だ。スキーの方は俺にはちょっとわからないが。
でも、たまにはいいな。1年に1回でいいかな。確かに、林間学校にはベストだ。
お。ポケットに携帯していたスマホに新着メールが来ている。
一花からだ。結構前のメール。
『スキー楽しんできてね 薬 ありがと』
????
なんだこのメール。わからない。怪文書か?
さっき会っただろ?キミもスキーしているだろう。
どういうことだ。考える。
スキーを諦めようとして、このメールを送ったけど、
薬を飲んで熱が下がったから出てきた。そういう事だな。
よし。100点。一花クイズ大正解です。まる。
休憩所を出て、あたりをうろつく。四葉くんに見つかったらそれはそれでいいや。
隣の建物と休憩所の間の細い通路に、かまくらがあった。
いいね。秘密基地。男のあこがれ。高校生の有坂くん、
やはり心はまだまだクソガキです。名探偵とは反対だ。
スキー板とスノーボードで扉なんか作っちゃって。心躍るものがある。
誰が作ったんだろう。中見てみようかな。でも人いたら気まずいな。
「ハァ・・・・・ハァ・・・・・」
「ん?風太郎?」
相棒が走ってきた。
「な、凪・・・・二乃を止めてくれ!」
「・・・・ああ、わかった。」
二乃がその辺に居るらしい。何があったか知らないが、焦っているので従う。
風太郎は通路の反対側へ走っていく。
「まずい・・・・・・四葉ぁ!」
通路を出たところでこっちに帰ってきた。
四葉くんが居たらしい。そんなに捕まりたくないのか?
ん?四葉くんを見てこっちに帰ってくるということは・・・・相棒、まさか俺を売る気か?
貴様見損なったぞ。罰として三玖は俺が貰っていく。
「な、凪!隠れる場所はないか!」
俺を犠牲にするという意味ではないらしい。こいつなら犠牲になれってはっきり言う。
信じてたぜ相棒。それで充分だ。結局俺見つかるけど。
「隠れるって・・・・このかまくらの中しかないな。」
「かまくら!恩に着る!」
そう言って風太郎はかまくらの中へ潜った。
詰まった様子はない。中に誰もいないようだ。
扉を閉じておく。
「あ、有坂!ここに金太郎君が来なかった?」
「あー!有坂さんと二乃みっけー!」
「みつかっちゃったー。」
直線の通路。目の前から四葉くんが、背後から二乃が来る。
・・・・わかった。察した。
何故かは知らないが、風太郎をあの金髪風太郎だと勘違いした二乃。
追いかけられたところに四葉くんと遭遇。捕まれば、金太郎ではなく風太郎とバレる。
という感じか。
「二乃?彼がここにいるのかい?見ていないよ。」
「そんな・・・・たしかにここに入ったはず・・・」
「ここにいた俺を追い抜いて1人通って行ったな。その人か。
四葉くんもすれ違っただろう?」
「・・・・・あれ?・・・・そんな人いましたっけ?」
その認識は正しい。だが四葉くんなら力で押せる。
「間違いない。通った。その通路を出て左に走っていった。
四葉くんは右から来たから、気にしてなかったんだね。」
「わかったわ!サンキュー有坂!」
二乃は巻いた。あとは四葉。
「さあ四葉くん、他の人を見つけに行こう。今から俺も鬼だね。」
「上杉さんを見ませんでした?」
「向こうに行ったよ。」
二乃が来た方向を指さす。二乃は金太郎を探しに行ったので、今ならこの方法が使える。
「上杉さんは私が捕まえますねー!」
行った。作戦完了。
風太郎に懐いている四葉くんならそう言ってくれると思っていた。
まあ、別の事を言われたら、追いかけるように催促するだけだ。
ん?別に四葉くんを追い払う必要はなかったのでは?
まあいいか。見つかったら面倒かもしれない。
「ふう」
ほっと一息。良い仕事だった。
それにしても二乃から逃げるということは、
風太郎=金太郎とバレてしまう何かがあったということになる。なんだろう。
金太郎だと思った、けど風太郎だった。見間違いでした。 なら問題は無いのに。
気になるから聞いてみよっかな。
「・・・・風太郎、二人は何とかした。ところで」
かまくらの中を覗く。
「な、凪・・・・・た、助かった。」
「ナ、ナギ・・・・・・?」
三玖もいた。
「・・・・・・・・・・・悪いね。何でもない。俺は行くよ。」
かまくらの扉を閉じて立ち去った。
おめでとうらいはちゃん。
多くは言わん。上手くやれ、風太郎。
「もう、どこに行ったの・・・・・」
「・・・・リフトに乗ってしまったかなぁ。」
二乃に付き合って金太郎を探していた。
いるわけが無いのだが。
かまくらの扉は念入りに閉じておいた。出る時、時間がかかるだろう。
またいい仕事をしてしまった。二人の初めての共同作業です。
「二乃、昨日は悪かったね。ありがとう。」
「別にいいわ。これで借りはナシ。」
借り・・・・飯ごう炊さんの話かな。
助けといて良かった。
「それにしても、一花と何をしてたのよ?」
「見たまんまだよ。フォークダンスだって。それ以外何もない。」
「どうしてそんな流れになるのよ・・・・・」
適当に嘘をつく。
「倉庫に閉じ込められたのは俺のせいで、俺が落ち込んだ。
励ますために、フォークダンスを踊ってくれた。それだけだよ。
今日踊れないのはマジだからさ。」
「そ!・・・・まあいいわ。一花から聞くから。」
嘘だな。・・・・・恐らく昨日のうちに聞こうとしたはずだ。
一花は喋らなかったんだ・・・・助かった。