年末。年の瀬である。
「貴様は・・・怪人、エアトータス!!またしても我が前に立ちはだかるというのか!
いいだろう・・・・今度こそ貴様を倒し、お前たちの野望を、この私が打ち砕く!」
バイト。ヒーローショーの中の人をやっていた。
マイクからラジカセを流している。収録した音源だ。
音響関係についてはバックで北条さんがスタンバイしている。
ただし、機材トラブルに備えていざとなったら自分で喋らなければいけない。
そのため近くで北条さんが待機している。
ちなみにさっきの収録したセリフは俺の声である。照れるぜ。
今日はこの役、北条さんの担当だったんだが、趣味のバイクでやらかして、足をやられている。
代役として俺がここにいる。本来なら俺は今頃家でゴロゴロしていたはずである。うらむぞ。
「みんなー!レジェンダリーがピンチです!
両手を高く上げて、彼にパワーの源を送ってあげて!」
進行役の佐野さんも頑張るなぁ・・・・意外とあの人、ノリノリ。
さて。ピンチから復帰してここからは大活躍のシーンだ。
俺の得意技をちびっこに見てもらおう。
この着ぐるみはヒーローショー用なので、運動出来るようにかなり軽く、薄い。
視界確保も十分。やりたいことが出来る。
そう。今の俺は窮地から脱する勇者。
片足で踏みこんで、思いっきり回転、ついでに軽くジャンプ。
踏み込んでない足の膝を折りたたんだ状態で、腰から回す。
踏み込んだ足を弧を描くように、回転方向に高く、広くぶん回す。可能なら、自分の頭の高さまで。
回転ジャンプ後の着地はしっかりと。態勢を崩してもいいので、ポージングだけしっかり。
よし。ちびっこたち大歓声。旋風脚と呼ばれる回転蹴りである。
先輩である北条さんから、お客さんを楽しませるには何か一つ必殺技があった方が良いぞと言われ、
練習して身に着けた。一応もう一つあるが、そっちは小さめの必殺技。
ちなみにこれ、カンフーの動きであるが、自分なりの工夫を加えているため、
喧嘩などでは実用性がなく全く役に立たない。隙がでかすぎ。
運動神経をチラつかせてビビらせることは出来るが、ビジュアルメイン。どちらかというとダンスの動きである。
「有坂~悪いな急に呼び出して・・・・」
「いえ。無事に終わったので。」
「ほら、ちゃんとお礼言って。」
「ありがとうございます・・・・」
子供かよ。北条さんが佐野さんに教育されてる。
別に良いんだけど。給料は出るし。
北条さんに機材と舞台の片づけはお願いした。
早々に引き上げる。
「有坂くんはお正月も屋台だっけ?」
「そうですねー。わたあめです。」
「ふふふ。頑張ってね。」
「この借りは返すからなー・・・・」
12月30日。
学校は終業式を終えて既に休みだ。
ただし、部活動はある。陸上部のグラウンドに来ていた。
「江場さん。お疲れ様です。駅伝優勝おめでとうごさいます。」
「有坂くん。来てくれたんだね。中野さんのおかげだよ。」
あのあとは和解したのでもう何もなし。
遠慮なく顔を出せる。茜も走ってるし。
「改めて、すまなかったね。あのあと陸上部の部員からも色々言われて、反省したよ。」
「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。先輩に対して無礼を。
まあでも優勝しましたから。他の人も納得してると思いますよ。」
「結果を出せていなかったらと思うと中々怖いね・・・・」
「茜は?真面目に来てますか?」
「うん。見ての通り。ホッとしたよ。あの子が来てくれなくなったら何を言われるかわからないから。」
「既に有名人ですからね。あいつは。」
「どうして茜くんはキミに懐いているんだい?」
「わかりませんよ。中学校の俺を見て陸上を始めたって言ってましたけど。」
「さぞかし早かったんだろうね。有坂くんは。どう?今から入部するかい?茜くんがセットでついてくるよ?」
「いやバイトがあるので。・・・・まあ、いいとこまで行きましたけどね。大見得きって威張れるような成績ではなかったです。」
「中距離って言ってたね。」
「ええ。最初はあいつも俺と同じ中距離ランナーだったんですが。スタミナ無くて。
まず色んなことやってみろって言ってやらせたら短距離がえらい早くて。そっちで頑張れと言いました。
なんか腑に落ちてない顔してましたけど。」
「よっぽど慕われているんだね。」
「あー!センパイ!居るなら声かけてくださいよ!」
「おう。お疲れ茜。11秒はまだかー。」
「12秒0までは来てるんですけど・・・・」
「そうか。まだ2年あるし。ゆっくりやれ。ケガだけはしないように。」
「はい!」
「お前練習終わったけどクールダウンやったんだろうな?」
「・・・・・・・・・まだっす!」
「・・・・こっち来い!ちょっとツラ貸せ!ストレッチの時間だオラァ!」
「い”や”~~~~~」
「茜くん、行ってらっしゃい。」
「ぐ~~」
「少しは柔らかくなってきたな。良い傾向だ。」
「に~~~」
「そんなに嫌なのかよ。」
「伸びた状態でじっとしてるのが嫌いっす・・・・・」
「特に下半身だ。可動域を広げると劇的に良くなるはずだ。」
「はいぃぃぃ~~~・・・・センパーイ、明日は暇ですか~~」
「大晦日だぞ。俺は暇だけどな。除夜の鐘を打ちに行くくらいだ。ハイ次、ブリッジ。」
「年越しそば食べに行きましょ~~~~」
「良いぞ。・・・・ハイ終わり。お腹出てますよー。」
「ちょ!触らないでくださぁい!冷たいっす!くすぐったいっす!」
「ははは。冬は寒いなぁ茜くんや。」
翌日。
「で。家庭教師はまだやってるんですか?」
「そうだ。暇な時に何回かね。」
「中野さんたちがうらやましいっす。」
「なんでだよ。昼ならたまにお前のも見てるだろ。放課後も陸上部来てるだろ。」
「えへへ・・・そうでした。」
蕎麦屋に来て茜と食事に来ていた。
流石大晦日。混んでいるな。ちゃんとした店を選んでしまったからかもしれないが。
「好きなもん食いな。」
「え!良いんですか!」
「大晦日くらいはな・・・・」
「ありがとうございます!」
こいつ。天せいろかい。
俺はえび天だけで良いや。
「そういや期末はどうだったんだ?赤点回避したんだろうな。」
「余裕っす!平均70ですよ!」
「いいじゃん。もう俺勉強面でいらなくね?」
「ダメっす!センパイが来ないとそもそも勉強をやる気になりません!」
「・・・あのさぁ。いつまで凪センパイに頼るのよ。少しはセンパイ離れしなさい。」
「そしたら陸上やめます!」
「・・・・・・・・・・・はぁ」
脅迫するなよ。こえーから。
普通に陸上部サボるからなこいつ。マジでやりかねない。
別に暇だから付き合うけどさ。
「お待たせしましたー」
「あれ?センパイ、海老天だけですか?」
「うん。エビ好きだし。」
「ダメっすそれだけじゃ!足早くなれませんよ!このよくわかんない天ぷらどうぞ!」
「キスは俺あんま好きじゃない。かぼちゃ頂戴。」
「かぼちゃは自分が好きなのでダメです!れんこんで!」
「・・・まあいいか。」
よくわからないのに頼んだのかよ。魚だよ。しっぽついてるだろ。
ちゃんと調べてから頼んでくれ。
「明日は初詣行くんですか?」
「行くけど行かない。明日は屋台のバイト。」
「正月からおしごとですか。おつかれっすねー。」
「稼ぎ時なんだよ。人が休んでいるからこそ働くのだ。」
「なんの屋台なんですか?」
「わたあめ。」
「自分見に行きます!」
「はいよ。でも来ても奢らんからな。」
「わたあめなら大した金額じゃないでしょ?」
「2000円。」
「ちょっと!おかしいっすそれは!」
「うちは時価でやらしてもらってますんで。人によって値段が違います。」
「もー!!」
大晦日の夜。
神社で待ち合わせをしていた。
「待たせたな。凪。」
「うす。風太郎。」
「らいはは寝ちまった。会えるのは明日だな。」
「それは残念だ。」
お参りをし、鐘を打つ列に並ぶ。
「今年は・・・いろいろあり過ぎたな。」
「あの子たちとの出会いの年だったね。」
「あいつ等に関わって・・・・ロクな事がなかった。」
「入院までしたからねぇ。」
「そうそう。これ。」
「お。・・・問題集、出来たのか。」
「ああ。貰った分は作った。一応軽くチェックしてくれ。」
「助かる。凄いな、パソコンと言う奴は。」
「スマホでも似たようなことは出来るけど、こっちの方が効率が良いんだ。」
「明日は?どこでバイトしてるんだ。」
「わたあめ作ってる。場所は聞いてないな。」
「そうか。らいはと一緒に顔は出しに行く。」
「楽しみに待っているよ。」
順番は俺達の番になった。
風太郎がまず鐘を打ち、次に俺が鐘を打つ。
「・・・・お前の方が音がでかいな。」
「男はパワーっすよ兄貴。ちったあ筋トレしな。」
「そういうお前こそ、少しは真面目に勉学に励め。」
「返す言葉もございません。」
「お。12時だな。」
「あけましておめでとう。凪。」
「あけましておめでとう。風太郎。」
「これからも、宜しく頼む。」
「こちらこそ、頼むよ相棒。」
風太郎とグーパンチを真っ直ぐ突き合わせ、新年を迎えた。