五等分の花嫁 ~家庭教師の助手~   作:I-Ris

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冬休み。

この日は家庭教師もバイトもなく、しばらく、町をひとりぼっちでぶらついていた。

充電の時間だ。ただ、面白いものは見つからなかったな。

ベンチに座りながら、町の騒音に耳を傾ける。

 

 

・・・・この時間が、結構好きだ。

待ち時間にスマホをいじるのは良いが、自分の好きな情報しか入ってこないからな。

未知なる何かを求めたい。今はそういう気分。

 

 

・・・・・今流れている曲、良いね。

曲名を知らないのが残念だ。歌詞を覚えておいて後で検索すれば探すことができるが、

しかし、これは洋楽。そう簡単にはフレーズは聞き取れないし、

歌詞を打ってもマイナー所は出てこないことが多い。

音楽に対して一期一会の機会を大切にしたいんだが。それも叶わない。

 

 

休憩は終わり。さ。帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

町を歩き、帰路につく。

すっかり暗いな。雪が降っていなくて良かった。

ボスッ

 

「おっと。すいません。失礼しました。」

「失敬。」

 

近くのカフェから出てきたスーツの男性とぶつかってしまった。

しっぱいしっぱい。

 

 

「・・・・・待ちたまえ。有坂 凪くん だね?」

「はい?俺の事をご存じ・・・・・知り合いでしたか?」

「私は中野。・・・娘たちが世話になっているようだね。」

「ああ。これは。ご無沙汰しております。」

 

 

 

 

スーツの男性の正体は・・・・・なんと中野父だったようだ。

 

「折角だ。これからの予定は開いているかね。」

「ええ。暇ですが。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所を変えて、中野父と会話の場を設けた。

カフェから出てきたのにまたカフェなんだけど。良かったのかな。

 

「アイスコーヒーで。砂糖とミルクもください。」

「かしこまりました。」

 

店員に注文する。

コーヒーは好きなんだが、ブラックは好まない。苦いのは嫌いだ。眠気を覚ますなら悪くないが。

 

日本人はブラックを好む人が多い。世界では少数派のようだが。

恐らくは俺のように眠気覚ましのように使う人が多いんだろう。

栄養ドリンクの代わりのように飲んでいるんじゃないだろうか。

昔の、24時間働けますか と言う奴だ。

俺はそういう勝手な予想を立てている。実際の正解は知らないが。

 

 

「改めて・・・・中野 マルオだ。顔を合わせるのは初めてだったね。」

 

 

「こちらこそ。有坂 凪です。よろしくお願いします。」

 

 

「よろしく。」

 

 

冷静沈着。そんな言葉が似あう人だ。

顏も幾分か白い。血が通っているのだろうか。そんな気配すら感じさせない。

 

 

「先ほどの会話・・・・キミも聞いていたのかい。」

 

「会話?・・・・あそこで誰かと話をしていたんですか?今日は他のバイトをしてて、

あそこを通ったのはたまたまですが。」

 

「・・・・・その反応だと、知らないようだ。五月くん、四葉くんと話をしていた。

・・・・二乃くんと、上杉くんも居たようだがね。」

 

「へぇ。初耳です。どんな話をしていたのか、聞いても?」

 

「今後についての話だ。キミにも話しておこう。

率直に言うと・・・・次のテストで一人でも落ちたら、

転校してもらう。知り合いの理事がいる学校に、編入の話をつけた。」

 

「なるほど・・・・それは・・・・気合が入りますね。」

 

 

びっくりだ。まあ、今の調子なら問題ないと思うが。

モチベーション、実力ともに問題なし。順調なら赤点ナシだとおもう。

 

 

 

 

 

「キミは上杉くんと違い、賢い青年だ。

江端から話は聞いているよ・・・・私の気持ちを理解してくれるかい。」

 

「ええ。勿論。親として、当たり前の措置ですね。」

 

「結構だ。助かるよ。」

 

「しかし・・・・それで、納得したんですか。みんなは。

すんなり首を縦に振ったとは予想しづらいのですが。」

 

「最初は・・・・プロの家庭教師を付け、

プロと上杉くん、もしくはプロと有坂くんの二人体制を考えていた。

しかし、それで五月くんと四葉くんが納得しなくてね。

結果、そのような条件にさせてもらった。」

 

「理解しました。勝負ってことですね。良かったですね。遅めの反抗期ですよ。」

 

 

 

 

「子供のワガママを聞き、叱る。それが親の仕事のようだね。

 

・・・・・それにしても、良かった、とは。・・・・・どういうことかね。」

 

 

「俺は、昔色々ありまして。ガキの頃から早々に人の顔色を窺うようになりました。

人の顔色・・・・自分の親も、それに含まれていましてね。

機嫌を損ねないか不安でしょうがなかった。

だから、反抗期なんてなかったんですよ。」

 

 

 

「・・・・・」

 

 

 

 

「例え親でも、血のつながりがあろうとも、なくとも。

人と人である限り、衝突は避けられませんよ。

 

そうでなければ、この地球上に戦争や争いなんてものは生まれていません。

けど、反抗期と言うのは、大した犠牲のない、親と子供の小さな戦争です。

それもまた、互いの絆を深める経験や思い出になる。俺はそう思います。

だから・・・良かったですね。と言いました。

 

今回の一件もまた、父と子。家族とのふれあいですよ。

止まない雨はないんです。いつか、その雨は終わる。

そして雨が降った後は・・・・地が固まるんです。」

 

 

 

 

 

 

「・・・五月くんはキミの事を随分と信頼していた。その理由がわかった気がするよ。

・・・・・キミはその年にして、中々に人生経験を積んでいるようだ。」

 

 

 

「・・・・俺は、自分の意見を第一に考え、大切に考えているだけです。

 

あらゆる物事に正解は存在するでしょう。

しかし・・・・正しいだけが正義だとは、思っておりません。

 

複数の正解があり、多方面から見た正義があると思います。

俺の考えも、もしかしたらその正解や正義の一つではないか。いつもそう思います。

 

だから、自分の意志や考えは、誰にも邪魔をさせない。自分だけの、唯一無二かもしれないから。

・・・人の意見に耳を貸さないわけでは、ありませんので、そこは安心してください。」

 

 

 

 

 

「・・・・面白い話だったよ。キミと言う人物が、よく理解できた。

江端から自宅の鍵の件も聞いている。近いうちに、キミに礼をさせてもらおう。」

 

 

「ありがとうございます。・・・次のテストに受かれば、ですが。」

 

 

「キミには期待しているよ。しばらく娘たちを預けよう。・・・では、これで失礼するよ。」

 

 

「はい。ありがとうございました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰宅して、夕飯を作る。

今日はオムライス。久しぶりにやったが、腕は落ちていないようだ。

 

 

それにしても・・・・・緊張する会話だった。

あの受け答えで良かったんだろうか。思いのほかカードキーの一件が効いていたようだ。

大して効果はないかもと思ってたんだが。

 

 

近いうちに礼、ね。あの人は恐らく、約束を守る人だ。

期待させてもらおう。マンション一部屋ポンとくれたりしないかな。

そしたら娘さん一生面倒見ますよ。江端さん的ポジションって意味で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日も中野アパートで勉強会。

 

 

「試験まで2カ月!お前ら!勉強を始めるぞ!」

「ぞー」

「ぜひやってください!そして確かめてください!試験突破に何が必要なのかを!」

 

「お、おう・・・乗り気なのは助かる。」

「押されてますねぇ」

 

運命の試験まで残り2カ月。

五月はイケイケドンドンだった。

中野父との約束が裏にあるからな。発端は五月らしいし、そらこうなるか。

 

 

「とにかく、授業だ!そして30点越え・・・・!」

「どうした相棒。血圧でも上がったかい。」

 

 

喋っている途中で風太郎から鼻血が出た。

大きい声出すから。

原因はある人のチョコ攻撃である。

 

 

「こいつのせいだ・・・・なぜか最近、チョコを無理やり食わせてきやがる・・・・」

「今日も持ってきた。」

「うらやましー」

「ナギもひとつならどうぞ。」

「やったー」

 

三玖である。

 

この季節。バレンタインに向けての事である。決して風太郎には話さないが、

チョコの作り方を教えてくれとこの間言われた。市販のチョコを溶かして固めなおすだけなので、

じゃあ市販のどのチョコが良いのか という話になり、風太郎にチョコの絨毯爆撃を行い、

好みのリサーチをしているのである。良いねぇ。熱いねぇ。

 

風太郎、よかったなぁお前チョコ貰えて。

 

 

「全部食べて感想教えて。」

「なんの罰ゲームだ・・・・・」

「これちょっと苦いなぁ」

「ナギには聞いてない・・・・」

「ごめんなさい」

 

ちょっとは構ってよー。ナギおにいちゃんさびしー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日の勉強会は終わったが、

とある理由から俺は中野アパートに泊まることになった。

 

「なんか変なもん入れた?見た目が・・・」

「うん。隠し味。」

 

目の前のチョコっぽい塊からドクロマークが出ている。

一瞬席を外したタイミングで何かしたようだ。

 

「それか・・・・・ちょっと味見るよ。」

「どう・・・・・・?」

 

「・・・・・・・・ソース入れたの?これ。」

「コクがでておいしくなるって・・・」

 

「・・・・絶対ダメ。コクは出るかもしれないが入れすぎ。隠れてない。主役レベル。」

 

ソースがステージの上でスポットライト浴びながら頭ついてブレイクダンスしてる。

なんなら観客がチョコ。

 

今日の勉強が終わり、三玖にチョコ作りを教えていた。

市販のやつ溶かして形作るだけでいいのに。何故かオリジナリティを入れたがる。

何でもおいしく食べる風太郎も最近は三玖の料理がトラウマ化しているので、

変なもんは食わせられない。

 

風太郎、どんまいだなぁお前チョコ貰えて。

 

 

 

 

 

 

「ナギ・・・ごめんね。こんな時間まで。」

「良いよ別に。どうせ俺寝れないし。」

不眠症の弊害である。

 

「あれ?・・・・・二人とも。まだ起きてたの?」

「おこして・・・ごめん。」

 

一花が起きてきた。もうかなり夜遅い。俺は泊まってこたつで寝ることにしている。

風太郎は普通に帰った。

 

「どう?そろそろフータロー君の好みはわかった?」

 

「うん・・・・」

 

「・・・・ナギ君。このチョコ、ドクロマーク出てるけど。」

 

「食べてみるかい。さっき俺は食ったよ。」

 

「どうだった?」

「目が覚めるね。」

「やめとく・・・・」

 

こんなもんこの時間に食ったら徹夜しますと言っているようなものだ。

 

 

 

「もっと、シンプルなレシピが良いんじゃない?溶かして固めてーとか。」

 

「ほらー。一花もそう言ってるじゃないかー。背伸びしなくていいって。

そのためにチョコの好み聞いてるんだから。好みを知ってもそれ変えちゃったらダメだよー。」

 

「うん・・・・・そうだね。」

 

 

賛同者が現れたのですかさず援護射撃。

成功。折れてくれた。二段撃ちで良い。三段撃ちはいらなかった。織田軍楽勝。

 

「ナギは・・・・チョコ貰える人、いるの?」

「茜がいっつもくれる。小さい四角いやつ。」

「あはは。あれかー。」

 

皆さんご存じのアレである。

色んな種類が入ってるアソートをいつもくれる。

 

 

「でも、ナギ君がいっつもチョコ作りに付き合ってくれる訳じゃないでしょ?

わたしの知り合いに料理上手な人がいるから、その人、紹介してあげる!」

 

「おお。専門家が居るならそっちの方が良いね。

俺も教えてはいるけど、どうもうまくいかないんだ。」

 

「うん・・・おねがいします」

 

誰の事か少し想像はつくが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1月14日。

 

「三学期開始から1週間・・・・折角の日曜日なのに、何故五月が居ない!

是非やってください!そして確かめてください!・・・とか言ってたじゃん!」

「ちょっと上手いなモノマネ」

 

 

 

ご説明の通り、今日は4人がいるが、五月が不在だった。

 

「五月はあれよ。今日はアノ日なのよ。」

 

「あの日?」

 

女の子のあの日?・・・・そういう事?

 

 

「あぁ?なんだよそれ。はっきり言え!」

「キミさぁ・・・・」

 

風太郎に気遣いのようなものはなかった。

流石は俺達のミスターノンデリカシー、上杉大先生である。

 

 

 

 

ただ、確認したところ、14日は母親の月命日とのこと。

毎月14日、墓参りをするそうだ。

 

 

「ナギ・・・・」

 

「はい三玖さん」

 

「五月、迎えに行ってあげて?」

 

「うん?なんで?そのうち帰ってくるんだろ?」

 

「ナギ、行ってやりなさい。あんたはもっと五月の事を知っておくべきだわ。」

 

「そうだ凪。もう少しあいつの事を学んだ方が良い。」

 

「ははは。冗談キツイね。風太郎にそんなことを言われるとは。」

 

「全くだわ!アンタにそんなこと言う権利ないから!」

 

「お前ら俺をなんだと・・・・・」

 

 

 

 

「とにかく!有坂さんが五月を迎えに行ってあげてください!」

 

「え?あ、そう?・・・・じゃあ、場所教えて。」

 

「ここです!」

 

「うん。この墓地ね。行ってきます」

 

「・・・・・・・いってらっしゃい。ナギ君。」

 

 

何故かはわからないが催促を受けたので迎えに行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

墓地に到着。

ここに来るまでにすれ違わなかったので、恐らく今もなお墓参りの最中と思われるが。

 

 

「ここを曲がって・・・・この場所。あれ、居ない。」

 

五月は居なかった。

中野家之墓と書いてある。間違いない。

ロウソクに火がついている。比較的新しいものだ。

恐らくこれは五月がつけたんだろう。という事は、もう墓参りは終わっている。

 

 

道中の道が違い、すれ違いになってしまったか。それともこの墓地のどこかにまだ居るのか。

墓の前で手を合わせ、周辺を探すことにしたが、

 

 

 

 

・・・・いない。

もう帰ってしまったようだな。仕方ない。俺も帰ろう。

 

 

それにしても、毎月14日とは。大変だね。・・・いや、好きでやっている事か。

母親の代わりになるんです そう言っていた。

五月は母親に対して、一番の思い入れがあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「あー凪センパイ!見つけたっす!」

 

「ん?ああ。茜か。」

 

「さーセンパイ!陸上部に行きますよ!」

 

「いやこれから中野姉妹のところへ・・・いや、おま、話聞けや。連れてくな。」

 

「わたあめの約束すっぽかしたんだから、今日は自分の言う事聞いてもらうっす!」

 

 

帰りの道中で茜とエンカウントし陸上部へ拉致されてしまった。

今日の有坂助手はお休みのようだ。風太郎にメールを出しておいた。

 

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