茜に連れていかれ、陸上部に来ている。
また今日もタイム計測をするようだ。
「やあ有坂くん・・・・・・・凄い体制だね。」
「誘拐ですよ誘拐。首根っこを掴むな。」
「はーい!じゃあストップウォッチお願いしまーす!」
「聞けよ」
いつも通りストップウォッチを手渡される。
「測るのは良いんだが、柔軟やるぞ。俺は忘れないからなその辺。」
「う~。準備運動してからにしましょう。」
「それで構わんよ。」
ウォーミングアップと柔軟を終え、タイム計測が始まった。
既に殆どの部員が走り終え、残り一人。
さあ、あいつが来るぞ。
「位置について!・・・・よーい!」
ピストルを鳴らし、計測を開始した。
スタートは・・・・良くなさそうだが。
ただ、走り方が少し違う気がするな。柔軟の効果が出てきているか。
果たして良い方向に出てればいいが、
これでタイムが悪くなったら俺はもう何もしない方が良いな。
目の前を音速が通り過ぎる。ストップウォッチを停止。
記録は・・・・・・・・・・・おお。杞憂だったな。
「・・ハァ・・・・・センパイ!どうですか・・・・?」
「おめでとう。」
「え?・・・11秒96!?こ、これ!?」
「ああ。12秒切ったぞ。」
「や・・・・やったぁーー!!やりましたよセンパイ!」
「ぐえー」
茜が抱き着いてきた。余程嬉しかったのだろう。
俺も嬉しい。ただ、茜の上の代は中々早い人がいるんだよな。全国一はまだ遠い。
これでスタートさえ改善できれば、まともな勝負になるんだが・・・・
「よしよし。よく頑張った。えらいぞー」
「えへへ・・・・」
わしわしと頭を撫でてやる。
そんな好きかコレ。俺も誰かに1回撫でられたい。
だれだろ。・・・・・一花か四葉くんかな。
「茜くん!やったみたいだね!!」
「江場さん。今若干向かい風ですよね?」
「うん。そうだと思う。」
「なら、実質11秒9の前半か。凄いなぁお前は。」
「センパイも優秀な後輩を持って鼻が高いですね!」
「・・・自分で言うか。まあ、そうだな。自慢の後輩だ。
あとは、公式記録で計測を目指すぞ。今のは俺の手計測だからな。誤差がありそうだ。」
「はい!」
「今日はもう充分だな。クールダウンやるぞ。」
「・・・・・・・・・・・」
「逃がさんぞオラァ!!」
「えへへ!捕まえてみなさーい!」
「甘く見られたもんだな!スタミナレースで俺に勝てると思うなよ茜ェ!」
「仲がいいなぁ・・・・」
「試験まで1カ月・・・・」
「この調子ならいけそうじゃない?」
「いや、まだ気が抜けん。油断するなよ。」
「うっす先生」
ある日の放課後。気分転換という事で学校で勉強会をしていた。参加者は四葉くんと五月。
が、四葉くんがアパートに書類を忘れたらしく、風太郎とともに一時Uターン。
戻っている間に御手製のプリントをやってもらい、あとでチェックすることにした。
「・・・・・・・」
「なんだお前、大丈夫か」
「!? ナギ君!?フータロー君!?」コーン
一花がなぜかアパートの部屋の中を外から窓で覗いていた。
ホントに何してるんだこの人。自分の家だぞ。
一花がこっちを振り向いたときに手を窓の鉄格子にぶつけてしまった。痛そう。
「っつ・・・・」
「なにやってんだ・・・・」
「二人とも、な、なんでここに?」
「四葉が参考書を忘れたって言うから・・・・」
「あー!それ、この前捨てちゃったかもー・・・・」
「はぁ!?」
二人が喋っている間に一花が何を見ていたのか覗く。
・・・・・・・・・二乃と三玖が見えた。
エプロンを付けているところを見ると・・・・・そういう事だ。
俺も手伝おう。
「どうした。凪。何か見えたのか。」
「・・・・・逆だね。暗くて何も見えないが・・・
一花、変な虫でも出たんでしょ?」
「そ、そうなの!大きいのが出ちゃって、びっくりしちゃって。」
「やっぱりね。・・・捨てたんならしょうがない。風太郎。参考書買いに行こう。」
「え?あぁ・・・・」
風太郎と一花、俺の3人で買いに行くことにした。
が、道中であることを思い出した。
「凪」「風太郎」
「「お」」
「そっちからどうぞ。」
「ああ。凪、俺は先に学校に戻って様子を見ておく。
一花と参考書を買ってきてくれ。」
「へ?いやいいよ。俺が戻るから。風太郎と一花で買ってきてよ。」
「・・・・・いや、一花が相手ならお前の方が良い。ここは頼む。」
話の内容から自然とヒソヒソ話になった。
「何言ってんの。その言葉そっくり返すよ。
この間見たんだよ。ケーキ屋で撮影してたの。
・・・・あの後、中々良い雰囲気だったじゃないか?」
「なっ・・・・お前、あの時まだ居たのか。いや、あれは・・・・」
「もー、照れるなって。たまにはそういう気持ちに答えてやろうぜ。
遠慮せず、二人で買ってきな。」
「いや、お、おい!」
「ナギ君?どうしたの?」
「先に学校に戻って四葉くんと五月の様子を見てくるよ。
あとは二人でごゆっくりー」
「あ・・・・うん・・わかった。」
二人をその場に残し、早々と立ち去った。
まーた良い仕事をしちまったぜ。
それにしてもモテるねぇ。三玖の次は一花かぁ。滅ばねぇかな。
どっちを応援しようか悩む。・・・どっちもだな。
「ただいまー。」
「おかえりなさい。」
「有坂さん!ありがとうございます!」
「あーごめん。参考書、もうちょっとかかるんだ。
その内、一花と風太郎が来るよ。」
図書室で勉強していた四葉くんと五月に合流。
勉強を再開。
「これ、できました!確認お願いします!」
「こちらも終わりました。」
「うむ。・・・・・・・・よし。五月は良いね。
四葉くん、一部が違う。さあ、ノートの準備を。復習と行こう。」
「わかりました!」
返事は良い。やる気はあるようだ。
結構長い間、席を外していたが、まだ集中力が残ってそう。
「よし。明日、同じものをもう一度やるよ。よく覚えておくように。」
「はい・・・・」
「ん。元気がないね。どうしたの。」
いつも元気だから異変がすぐわかるな。
復習に何か問題があっただろうか。
「いえ・・・・五月は出来てるのに、私はダメなんだなぁ・・・って」
「四葉、気にしないでください。人には向き不向きがあります」
「・・・・比較か。ただ、キミたちはそっくり姉妹だからね。
いつか、4人に追いつけるはずだよ。」
「そうでしょうか・・・・」
「それに、今のプリントは2人とも問題が異なる。単純な比較はできない。」
結構ショックだったらしい。らしくないな。
今もなお姉妹の中では一番勉強が出来ないから、さすがに劣等感が出来てしまったか。
「・・・・・姉妹に限らず、あまり他人と比較しない方が良い。
それは、自分の価値を下げる行為だ。俺はそう思う。」
「え・・・・?」
「人ってのは、いつもそう。相対的な評価をしてしまうものだよ。
・・・言い方が難しいか。いつも、周りや誰かと比べ、良い悪いをつけてしまう。
自分は優れているのか、劣っているのか。平均的なのか、突出してるのか。」
「小学校のころ、俺は逆上がりが出来なかった。知ってるね。鉄棒の話だよ。
なんとか頑張って練習して、出来るようになった。
・・・・嬉しかった。小さな努力が実った瞬間だ。
両親に報告までしちゃったよ。」
「けど・・・・いざ、体育の授業で鉄棒の種目が始まると6、7割。
大半の子は何もしなくても逆上がりが出来た。
それを見て、気づくわけだ。・・・逆上がりが出来たことは、
大したことじゃなかったんだって。」
「だが・・・・だから、何なんだ?俺は井の中の蛙だった。それは間違いない。
でも、出来ないことが、出来るようになったんだ。
決して恥じる事ではないし、ショックを受ける事じゃない。
周りは普通にできるのに、練習しないと、逆上がりすら出来なかったのか。
・・・なんて、俺はそんな考え方はしない。
あの時の俺と、今の俺は違う。今は努力して、
逆上がりが出来るようになった。ただ、それだけ。
あの時の自分が誇らしいよ。俺は諦めず、やり遂げたんだ。」
「・・・・四葉くん。キミもこの考えになれるといいね。
ちょっと前のキミは・・・申し訳ないが、酷かった。
中間試験。国語は30点ぴったり赤点回避。合計点数は2桁。五分の一も出来ていない。
だが、次の期末試験。社会でも赤点を回避、理科、英語でも20点台をマーク。
点数も128点。合計3桁まで成長している。
あと少しで赤点を全て回避できる。キミの学力はそのラインまで確実に上がってきている。」
「有坂さん・・・・」
「・・・・それで良いじゃないか。何を周りと比べる必要がある。
キミは頑張っている。それは試験結果に出ている。
疑いようのない証明。素晴らしい進歩じゃないか。
周囲を見渡さなくていい。キミは駅伝の時のように、
前だけみて走っていればいい。雑音や風景は気にするな。
そんなもの、鼻で笑ってしまえ。
さあ、全教科赤点回避はもう少しだ。落ち込んでいる暇はないよ。続けよう。」
「はい!おねがいします!」
ただし、世間一般での評価基準は、基本的に相対評価。
センター試験なんてまさにそうだ。全員が満点を取れば話は別だが、
そんなことはありえないので、成績の良い順番から拾っていく。
重要なのは、自分の考えと世間の考えが一致しないからと言って、
自分の意見を捻じ曲げたり、世間から目を背けてはいけないという事。
「ナギ君。」
「五月?」
学校からの帰り道。
結局あの二人、来なかったな。どこで何をしてるのやら。
逢引きだね。
「どうしてナギ君は・・・・そうやって考えることが出来るのですか?」
「さっきの話かい。」
「はい。さっきの考えは・・・とても、立派でした。
わたしも・・・あなたのように強く、立派になりたいです。」
「あんま良い事じゃないねそれ。」
「はい?」
俺みたいなのが巷にあふれると思うとぞっとする。
「別に俺みたいにならなくたっていいじゃない。キミはキミのままで良いさ。
きっとこの世に一組として全く同じ人間は存在しない。
だから、完璧に俺になるのは無理な話さ。」
「・・・・あなたのそういう考えに至れる所を、わたしは尊敬しているんです。」
照れるね。
しかし……尊敬か。
……そうだったな。キミはまだ、俺に対して勘違いをしている。
……いつかは、伝えなければいけないだろうか。