五月との一件から数日が経った。平日の放課後。
今日は図書室で勉強会だ。
統一模試以来、久しぶりにちゃんと復帰だな。
「有坂さん!」
「ん。四葉くん。勉強会出るんだろ?行こう。」
廊下を歩いて図書室を目指していたら、四葉くんが話しかけてきた。
「出るんですけど・・・・その前に、ちょっとお話がしたくて。」
「そう。良いよ。この場では話せないことなのかい。」
「はい・・・・あんまり人に聞かれたくないので・・・・」
「わかった。屋上にでも行こうか。」
四葉くんから話とは。珍しい。
大体検討はつく。五月が四葉くんに対して喋ったんだろう。
俺に風太郎の件を相談したことを。
しかし丁度良かった。色々細かい事を聞かせてもらおう。
屋上。夕焼けにはまだ、ほど遠い。
空は青かった。
「丁度俺もキミに話したいことがあったんだが、そっちから先に聞こうか。
要件を・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「はい。実は、有坂さんの「待った。四葉くん。動くな。」
「え!?」
手を引っ張り、こちらに引き寄せ、顔を両手でつかむ。
悪いね、強引で。しかし気づいてしまった。
こうして改めてお互いに正面を向き合った時に。
・・・・・テストのつもりか?
その眼はもう・・・・学習したよ。
「・・・・・・一花だね?」
「・・・・・正解。嬉しいな、ナギ君。」
「危ない危ない。今面と向き合って気が付いたよ。」
「ふふ。合格だよ?」
「俺の言うことが信用できなかったかい?」
「・・・うん、ちょっとだけ。・・・ごめんね?」
「そりゃ、ざんねん。・・・・あの事、五月に喋ってくれたかい?」
「・・・・・・周りに人がいると話せないから。今はチャンスを伺ってるとこ。」
四葉の変装をした一花だった。
危なかった。色々喋ってしまうところだった。一花テスト、はなまる。
疑り深いね。焦る焦る。
「映画、見てきたよ。花形だったね。」
「あ、見てくれたの?」
「うん。タダ券貰っちゃったし。スクリーンのキミは良い顔してたよ。」
タダ券をプレゼントされたので見てきた。
どうやらあの呪いのリプライではなく、また別の映画だった。
「・・・おかげでね、CMの主演、決まったんだ。」
「CM、それも主演だって?・・・・凄いね。いよいよ大女優だ。
成功の道を順調に歩んでいるね。おめでとう。」
CMって。マジかよ。一番目に付くじゃん。
本当にあの花火大会のオーディション。あれが分岐点だった。
良いサポートが出来たようで、俺も誇らしくなる。
「時間を無駄には出来ないな。今日は出れるんだろ?勉強会に行こうか。」
「あ・・・えっと、その前に。お願いがあって。」
「お願い・・・・うん。聞こう。」
「その、この前、ナギ君がホントに体調崩しちゃったでしょ?」
「うん。五月が来てくれた。おかげで助かったよ。」
「・・・・・そういう時は、わたしもお見舞いにいきたいなーって。
おうちの場所、教えてくれないかな?」
「・・・・ふむ。」
家の場所ね。教えるのはたやすいが。
・・・ただ。いくつかね、懸念が。
「・・・・遠慮しておくよ。お見舞いは大丈夫。
キミが来て大事な出席日数を減らしたら元も子もないから。教えるのはやめておこう。」
「でも。何があった時の為に、知っておきたいなー?」
「気持ちは嬉しいよ。ありがとう。でも、ダメ。
本当に一花が必要な時は、その時に連絡するよ。連絡先は知っているからね。」
「・・・・ナギ君。・・・・どうして、五月ちゃんは家の場所を知ってたの?」
「・・・・どうしてだろうね。そういえば謎だ。二乃と五月がケンカした、あの時。
五月は俺の家を目指していた。そして、何とかたどり着いていた。
その理由、今でもわからないな。」
思い返すと腑に落ちない。今度聞いておこうかな。
風太郎に聞いたのかもしれないが。
「わたし・・・もっと、ナギ君の事を知りたいの。
だから、教えてほしいな。」
やけに食い下がってくるな。
帰り道をストーキングされても困るが。突き放してみよう。思う事もあるし。
「今までの俺とキミなら、教えているだろうね。・・・・ただ、今は状況が違う。ダメだ。」
「どうして?・・・五月ちゃんは良くて、私はダメなの?」
「この間はありがとう。楽しかったよ。・・・・良い、デートだった。」
「そうだね。デートだったね。わたしも楽しかった。また、付き合ってくれる?」
「・・・・もう、あんなことには付き合わない。
帰り際・・・・覚えているね。二人で顏を見つめあっていた時、通行人に目撃された。」
「・・・・うん。」
「・・・・キミは女優だ。とりあえず大丈夫だったようだけど、
1歩間違えば、スキャンダルだよ。その瞬間、全てが崩れるかもしれない。」
「・・・・まだ、わたしはそこまで有名じゃ」
「CM。決まったんだろう。しかも主演。いつ流れるかは知らないが、
それは既に立派な芸能人。もう、火遊び厳禁だ。だから、あの次はもうない。」
「・・・わたしとナギ君は、同じ学校に通う生徒。
別に一緒にいても不思議には思われないはずだよ?」
「そうだね。そうかもしれない。
・・・・だが、俺の家に来るのはまずい。俺が中野家へ行く分には良いんだ。
色々言い訳が出来る。姉妹だからね。キミじゃなくて、他の子に用があったといえばいい。
だが、君が俺の家に一人で来たら、それはちょっと言い訳がしづらい。
基本的に俺は家でひとりぼっち。玄関で出迎えている、俺、
そして訪れているキミの写真。そんなものを撮られたら・・・・ちょっと宜しくない。
リスクが大きすぎる。・・・特に最近は、世の中に悪意が渦巻いている。
細心の注意を払うべきだ。」
「そう、だね。うん。わかった。
ごめんね。困らせちゃって。あはは。ナギ君の言う通り。」
「・・・・友達としても残念だ。けど、仕方ない。
キミの足枷になりたくはないからね。」
とりあえずはOK。
腑に落ちていない雰囲気はあるが。
「行こう。きっとみんなが待ってる。」
「うん。」
・・・危ないな。色々と。
早急に確認をするべきだろう。早くケリをつけてしまおう。
最近の一花は時々怖くなる。また一瞬、あの虚ろな眼が見えた。
我を忘れている。・・・・そんな雰囲気を感じ取れる。
それからまた1週間後。ある日の休日。
「これ・・・・パンだよね?・・・・石じゃなくて。」
「焼き過ぎだねぇ」
「ま、まあ。中野さんはバイト始めたばかりだし・・・・」
四葉くんと一緒に三玖のバイト先のパン屋に来ていた。
目の前には暗黒が存在している。
これパンなの?真っ黒。消し炭になあれ。
三玖が作ったらしい。店長のフォローが身に染みる。
「も、もう一度作るから・・・・!」
「・・・・なんか、ぺちゃっとしてる。」
「焼けてないねぇ」
「おかしい・・・・・手順通り作らせているのに、不思議な力で失敗する・・・・・」
今度は真っ白い若干ゲル状のパンが出てきた。
水分多すぎるのかな。焼き時間足りないのかな。
パン屋の店長大丈夫かな。心が折れたら一人で休むことをお勧めします。
俺はいっつもそうする。
「才能無いのかな・・・・」
「じ、自信もって!前より食べ物に近づいてる気がする!」
「う、うん。もう一度!」
「パンだ!これ、本当に三玖が作ったの?」
「よく焼けてるねぇ」
「うん・・・・!」
ちゃんとしたクロワッサンが出てきた。
さっきまでとは雲泥の差だ。おいしそう。
なんてこった。出来ちまったよ。三玖も腰に手を当て胸を張って誇らしげ。
「まだ、お店に出せるレベルじゃないけど・・・・
三玖ちゃんがここまで作れるようになれて嬉しいよ!」
「店長さん・・・・ありがとうございます・・・!」
良い人だなぁパン屋の店長。惚れちまうわ。女性だけどかっけぇ。
ケーキ屋の店長、話が違うじゃないですか。糞パン屋とは何だったのか。
それとも何、好きな子には意地悪したい人?
「これ、上杉さんに食べてもらおうよ!きっと驚くよ!ね!有坂さん!」
「そうだねぇ」
「まだ美味しいパンじゃない・・・・・」
「修学旅行って言ってたっけ・・・」
修学旅行。そうだな。行先は京都。
その話題がもうすぐ出るころだ。まだ班決めすらしてないが。
「1日目のお昼が、自由昼食・・・・そこで、一番いい出来のパンを
フータローに食べてもらう。侵略すること火の如し・・・・」
「絶対に喜んでくれるよ!」
「でも、同じ班じゃなきゃ、お昼を一緒にできないかもしれない・・・・
なにより、一緒に京都を回りたい。」
「三玖・・・!わたしと有坂さんに任せて!」
「え?俺も?」
「もう!そこは俺も手伝うって言ってくださいよー!」
「急に言われても・・・・」
パン屋からの帰り道。
四葉くんを中野アパートに送っている。
近くにあった公園で一休みし、買ったパンを一緒にかじっていた。
三玖の事を応援するそうだ。
・・・・やっぱりな。キミはそういう考えをする。予想通りだよ。
さて・・・聞きたいことがいくつかあるが。何から処理しようかな。
「四葉くん。任せるって言ったってどうするんだい。」
「上杉さんと三玖で班を組ませるんです!学級長権限です!」
「まあ、そうだね。ただ多分俺はセットでついてくるね。」
「そこはいつもみたいに気を利かせて二人きりにさせてあげてください!」
「良いけど。二乃どうする?」
「二乃?・・・・・あー!忘れてました!」
二乃の恋心にも気づいているようだ。
やはり人の気持ちを感じ取るのが得意な子だな。
どこかで直接話をしたのかもしれないが。
「じゃ、じゃあ、上杉さんと有坂さんと二乃と三玖で組みましょう!1対2です!」
「二乃と三玖でケンカしないかなぁ。」
「大丈夫です!上杉さんを好きなのは2人一緒です!仲よくしてくれるはずです!」
「・・・・そうかなぁ。そうそう。ところで四葉くん。」
「なんですか?」
「いや・・・・四葉。」
最優先はこれだろう。
「春休みの旅館の時、五月に変装して、なんで俺にあんなことを言ったんだい。」
「・・・え・・・?」
「もうわかったよ。キミしかいない。あれからずっと考えていた。一時も忘れたことはない。
23時、俺を中庭に呼び出して、話をしたのはキミだ。四葉。」
「な、なんのこと」
「しらばっくれるな。もう全てわかった。無駄だよ。理由を聞かせてもらおうか。」
「・・・・・・はい。」
よし。ハッタリ成功。恐らく四葉だと思ったが、決定的な証拠はなかった。
やはり強めの押しは効く。普段、俺は優しいからね。
最初は一花だと思っていたが・・・・あのやり取りで一花の眼は覚えた。
・・・あれは一花の眼ではなかった。当然五月の眼でもない。
・・・・二乃の前で妹扱いの話をしたことはないはず。
まあ、姉妹同士で情報共有をして、二乃が妹発言の事を知っている可能性もなくはないが。
それにしたって彼女の心境を考えれば、俺にそんなことを言うメリットは薄い。
二乃ならそんなまどろっこしいことは恐らくしない。直接真正面から言ってくるだろう。
そうなると三玖と四葉の2択。50%。
あの変装をした理由を考えると・・・可能性としてはどちらもあり得る。
【あ・・・・ナギくん。来てくれたんですね。】
【あ!ナナナナギくん!?】
【!? ナナナナナギくん!上杉くんと一花は付き合ってるんですか?】
・・・あの時、ケーキ屋の時の五月とは反応がわずかに異なった。
顔を近づけて驚いたから とも言えなくもないが。
・・・驚きのあまり、とっさに「有坂」と呼ぼうとしてしまった。
そう考えることも出来る。既にキミしかいないんだ。俺の事を苗字で呼ぶのは。
「風太郎を呼び出したのもキミかい?」
「いえ・・・違います。」
「そう。」
そっちは違うのか。・・・それとも嘘かな。
「それで?なんであんなことを言ったんだい。家庭教師の関係を解消したい、
あと妹扱いするなと言った。」
「はい・・・・でも、それは言えません。絶対に。」
「その理由、当ててあげよう。」
「え・・・・」
「あまりこんなことは言いたくないけど・・・・
姉妹の誰かが、俺の事を好き。そうなんだろう?」
「ちがいま「それも、二人。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・やっぱりね。誕生日プレゼントは2つ。そういう事だったわけ。」
「・・・・ぜ、全部、知っているんですか。
二人の気持ちを知っていて、あんなことを言ったんですか。」
「いや。知ったのは今だね。今までは疑問だった。
それが疑いようのない現実になった。それだけ。自惚れたくはなかったからね。」
「・・・・・・・」
「一花と、五月なんだろ。もうその二人しか残ってない。
キミはどちらかと言えば風太郎だからね。
その二人が俺に対して恋心を抱いているのを、君は知った。しかし、昔俺はこう発言した。
キミ達は妹にしか思えない と。だから恋愛対象から外れてしまうと考えた。」
「だったら、その意識を変えなきゃ 姉妹の為に ってことなんだろう?
・・・・キミのその考えは見習いたいけど。」
「う・・・・・うう・・・」
「よし、とりあえず・・・・要件は済んだ。送っていくよ。」
ちょっと四葉へのダメージが大きかったかもしれない。
・・・・ごめんね。風太郎の事は今度聞こう。
「あ、有坂さんは、この後どうするんですか。」
「決着は早めにつけないとね。五月にあの話をしてから、答えを出そうかな。
いま、五月は家にいるのかい。」
「は、はい。たぶん」
「そう。手っ取り早いな。一度俺の家によっても良いかい。
取りに行くものがある。」
「わかりました。」
一応あれを取りに行く。恐らく必要ないと思うんだが。
中野家アパート。
四葉が玄関を開ける。
「た、ただいま・・・・」
「おかえりなさい、四葉。・・あれ?ナギくんも。」
五月が居た。・・・五月だけのようだ。ちょうどいい。
「五月、こんにちは。あの話、一花から聞いたかい。」
「いえ、それが・・・・どうにも避けられているみたいで。」
「避けられている?」
「はい。いざ二人きりになっても、別の話題になってしまったり、その場を離れてしまったり。」
まだ、話していなかったのか。時間がかかるとは言っていたが、2週間近く経っているぞ。
・・・・まあ、あれは人からする話じゃない。嫌な役回りだしな。
こいつを書いて正解だった。今回すぐに使うとは思っていなかったが。
「五月。これを。」
「これは・・・・手紙ですか。」
「うん。この手紙の中に、昔、俺が何をしたかが書いてある。」
「・・・!?」
「これを読めば、一花から聞く必要はないよ。俺がここを去ったら、読んでみてくれ。」
「わかり・・・ました。」
「気に入らなかったら、読んだ後破いて捨てても良い。」
「絶対に、そんなことはしません。」
「そう。それを読んだ後でもそう言ってられると良いね。
・・・明日は学校だ。昼休み。キミと一花に話がある。屋上に来てほしい。
一花が明日学校に来れるかどうかは確認してないけど。」
「わかり、ました。」
「ではまた。明日学校で。」
決定事項を引き延ばすのは性に合わない。
答えは既に決まっているのだ。さっさと済ませよう。
次回は3100文字と少し短いです。申し訳ありません。