清水寺から離れ、一度ホテルに戻ってきた。
仮病を使って団体から離れて行動しているため、自由行動だ。
旅行なんだから、こうでなくては。片頭痛ってのはこういう時に便利だ。
ねつないけどあたまいたいです。うそじゃないです。ホテルに戻ったら治っただけです。
俺の頭の中など何人たりとも覗くことは出来ん。
あれ。毛利さんと川村さんがいる。なんでだろ。
毛利さんには覗かれてもおかしくないかも。
「あら。有坂くん。」
「毛利さん。外に出ていないのかい?」
「リンと回っていたのだけど、早めに戻ってきたわ。
濡れたアスファルトの匂い・・・・もうすぐ雨が降るはずよ。知らずに戻ってきたの?」
「そうなんだ。たまたまだよ。」
「わー、有坂くん。久しぶりだね。」
「こんちわリンちゃん。」
「き、急にどうしたの?ちょっと照れるー。」
そういう事らしい。中々フリーダムなことするなこの人も。
俺はそんな匂いには全然気づかなかった。
外には出れないらしいので、三玖の様子でも見に行ってみよう。
何と声を掛けようかな。
「なにそれ!?冷静に考えなさいよ!五つ子なのよ!
・・・・あんたもかわいいに決まってるじゃん!・・・・・じゃあね!」
姉妹の部屋から声が聞こえてくる。この声は・・・・
「ナギ?」
「二乃?外に出て友達と回ってたんじゃ・・・」
「三玖がこの調子でしょ。戻ってきたのよ。」
姉妹たちがいる部屋から二乃が出てきた。
キミもかよ。団体行動拒否の不良しかいねぇ。ついていきます姉御。
盗んだバイクで走り出すんですね。15の夜は3年前だけど。現在は高3の昼。
「三玖の様子はどうだい。」
「全然ダメ。ネガティブ全開って感じよ。
折角ライバルのあたしが励ましてやってるって言うのに・・・・」
効果がないらしい。参ったな。
今は一番効くであろうライバルである二乃の激励が効かないとなると、俺じゃ無理だ。
「一体どうしたらいいのよ・・・」
「ん?待った、二乃。キミは三玖に立ち直って欲しいのか?
風太郎を狙うライバルだろう?」
「確かにそうだけど、あれじゃ張り合いがなくてつまらないわ!話にならないわね。
・・・・あいつも同じ姉妹なのよ?
その気になればあたしと同じくらい戦えるのに。勿体ないわ!」
「二乃らしいな。」
三玖がネガティブ全開ならキミはツンデレ全開じゃないか。恋敵であろう姉妹を元気づけるとは。
風太郎を好きになっても、根っこは変わらなくて安心したよ。
「二乃。明日、風太郎は選択コースでEコースを選ぶ。
内容的に、三玖はDだろう。なんとかEに誘導できないか。」
Dは織田信長ゆかりの地を巡るコース。
他は宇治周辺散策、名庭めぐり、茶道体験。
この3つよりは信長だろう。三玖なら絶対そこに行く。
風太郎はEコース、映画村に行きたがっていた。
風太郎をコントロールするよりは三玖が合わせてもらった方が楽だ。
それに、多少は勇気を出してもらわないと。自分の意志を見せて欲しい。
そうでなければ、俺も応援してやろうという気にはならない。
待っているだけでは、何も得られない。行動あるのみだ。
いつまでも下を向くんじゃない。・・・どっかの誰かさんみたいにな。
「・・・・・・そうね。何とかするわ。
その後はどうするのよ。今の状態じゃあいつ一人で何とかできるとは思えないわ。」
「こっちで何とかしよう。不安ならキミも来い。
俺はAの予定だったが、Eにしておく。」
「わかったわ。あたしも何とかしてそっちに合流するから。」
「了解。」
俺も頑張ってはみるが、やはりキミたち姉妹が揃っていた方が安心だ。
Eコースの映画村に全員を招集しよう。写真の件も楽になる。
「予報、晴れだったよなぁ?」
「上杉くん、今までどこにいたんだい?さては、迷子だね?」
「まあ、ちょっとな・・・・」
「ふー!まさかこんなに降ってくるなんて。」
「ずぶぬれになっちゃいましたね・・・・」
「風邪を引く前にお風呂に入りましょう。」
風太郎達がホテルに帰ってきた。
武田くん、前田くん、一花、四葉、五月が一緒だ。
あの後、合流したみたいだな。
「みんなお帰り。部屋の風呂わかしてあるよ。」
「おう有坂、気が利くな。」
「凪、戻ってたのか。なら、早速頂くぞ。」
「上杉くんが入浴するのなら、僕もだね?」
「今回はマジでついてくんな・・・」
先に班のメンバーを部屋に帰した。明日の打ち合わせをしよう。
「ナギくん。明日の選択コースは何を選ぶんですか?」
「三玖のサポートをしなければいけなくなったからね。
風太郎と同じEになるね。」
色々と予定が狂ってしまったので、もう正直に喋る。
別に俺はどこでもいいし。遊んでいられる状況ではなくなった。キミたちも同じだろう。
姉妹のピンチなんだから。
「E?三玖はDを選びそうだけど・・・・」
「そこは二乃に根回ししてあるよ。キミたちからもお願いね。」
「わかりました!仲良し作戦実行ですね!」
「・・・自然な感じで頼むよ。四葉。」
そういえば、風太郎の二乃三玖仲良し作戦は失敗だったな。姉妹喧嘩の発端にもなった。
今回はしくじれない。責任重大。
翌日。3日目が実質の最終日となる。
「Eコースはこっちのバス!出発するわよー!」
ホテル前にバスが到着し、参加者が集められる。
さて、三玖はどこにいる。DかEだと思う。
もしDを選んでいたら、それはもういい。俺も諦める。
「ナギ・・・?」
「ん。やあ。三玖。」
背後に三玖が居た。・・・よし、それでいい。
「キミもEコースか。うちの班は毛利さん以外Eだよ。風太郎もいる。」
「う、うん。」
「話は聞いたよ。・・・・人づてに伝えられるのと、
本人から直接伝えられるのとじゃ、まるっきり違う。あいつと向き合ってきな。」
「む、無理だよ。私なんかじゃ・・・」
「心配はいらない。そのために俺がここにいる。
信じろ。今日、俺達がキミをあいつの元まで飛ばしてやる。
俺だってキミを信じてる。・・・・だから、キミも俺を信じろ。
キミたちは、まぎれもない五つ子。姉妹の中なら誰にだってなれる。
一花にだって変装できた。一花になれたんだ。
二乃にだって、負けないし、負けられない。・・・そうだろう?」
あれだけ料理に難があったのに、パンだって頑張って作っただろ。
自分を認めさせてやるぞ。
「有坂。早く乗れコラァ」
「ああ。・・・行こう、三玖。勇気が出るまでは大人しくしてていいから。」
「うん・・・・」
俺の隣の席に三玖が座る。
まだ、風太郎に近づくメンタルが出来ていないようだ。
大丈夫。今日中で良い。
現地に何があるかを確認して、きっかけになりそうなものを選ぶか。
「Eコースを選択された皆様!本日の目的地、映画村です!」
「凪。どこに行く。」
「そうだね。来たばっかりだし、その辺歩いてみよう。」
「・・・お化け屋敷まであんのかよ。」
東映太秦映画村。
時代劇のドラマのセットとして使用されるが、
こうしてレジャー施設として一般開放される。
毛利さんを除き、風太郎、俺、武田くん、前田くんの4人セット。
忍者屋敷や立体迷路。
手裏剣投げや弓矢が出来る。前田くんの言った通りお化け屋敷も。
あとは、季節により変わるイベントやショー。
調査はしてあるが・・・・・変身体験かな。江戸時代の人にコスプレ。
三玖にはいつもの格好から浴衣でも着てもらおう。
風太郎にも何かしらの格好で。そこまでやれば何とかなりそうだが。
引っ込みつかなくなるし。
とりあえずは変に怪しまれないよう風太郎と行動している。
後ろから三玖がついてきているが・・・・ちょっと遠い。認識されない距離だ。
三玖なりにチャンスを掴もうとはしているようだが。まだ勇気が出ないか。
誘導してやる。このポイントだ。
「さて、ぐるっと回ったな。どうする。着替えにでも行くか?」
「衣装体験か。刀持てねぇのか?コレ。」
「小さめの刀ならあるみたいだね。前田くん、振り回してはいけないよ?」
「武田くんは何を着ても光ってそうだね。」
曲がり角を曲がった直後に会話の為、急停止。
こうすれば三玖の視界から外れる。すなわち、
目視に入れようとこちらに近づいてくるはずだ。
「あ・・・・」
「やあ!中野さん、また会ったね!」
よし。狙い通りだが、近すぎたか?
2m程度の距離だ。
「・・・っ!」
「おや?・・・また逃げられちゃった。」
「武田、三玖さんに嫌われてんじゃね?」
走って行ってしまった。
うーむ。まだ心の準備が足りなかったか。不意打ちだったしな今の。
俺が焦り過ぎただろうか?
「あ。おい三玖!前見ろ前!」
「・・・あっ!」
手拭いを頭に巻いた通行人みたいな人とぶつかってしまった。
・・・ん。あの後ろ姿。少しだけ見える髪。多分知り合いだぞ。
「大丈夫か?すいません・・・」
「・・・・・・・・・・」
倒れた三玖の元に風太郎が駆け寄る。
お、良いぞ。ナイスアシスト。通行人Iは何も言わず去っていった。
「ちゃんと前見ないと危ないだろ・・・?ほら、立てるか?」
「・・・・・っ!」
風太郎の差し出した手を受け取ったものの、
立ち上がったら逃げてしまった。
これ、予想よりもかなり時間がかかりそうだぞ。どうするかな。
「「戦国武将の着付け体験、如何ですかー!」」
狙ったかのように声掛けがかかる。
三玖の足が止まった。チャンス。俺が捕まえてやる。
まどろっこしいので後戻りできない位置にまで引き上げる。
「よし。風太郎。三玖を誘って、まずは着替えてこよう。」
「あ、ああ。そうだな。」
「ほーら三玖ちゃん。お着替えしましょうねー。」
「あ、ナギ!」
三玖の手を掴んで強引に持っていく。
ちょっと荒療治するか。
「とりあえず、着替えてきな。三玖。風太郎も衣装を着るから。」
「う、うん。わかった・・・けど・・・・」
「大丈夫。任せておけ。
・・・うし。じゃあ俺ちょっとトイレ。」
「先に入ってんぞコラァ。」
全員を着付け体験の建屋に誘導し、一度離れる。
どうやら、問題なく映画村に来ることが出来たようだ。
「ナギ君。良いお仕事だね?」
「一花・・・・あ、みんな居るじゃないか。」
「来てやったわよ。」
「有坂さん!」
「心配なので、ついてきてしまいました。」
一花、二乃、四葉、五月。映画村に姉妹全員がそろった。
衣装も既に着てる。シャッターチャンスだな。適度に撮っていこう。
「あとは、武田くんと前田くんを剥がそうかな。誰か手伝ってくれ。」
「あたしに任せなさい。」
「では、頼んだ。」
二乃とともに作戦を実行することとなった。
武田くんと前田くんには悪いが、今日の二人はお邪魔虫なんでね。
二人でランデブーしててくれ。今なら姉御がついてきます。
「武田くーん。前田くーん。風太郎はさっさと着替えを終えて
他の場所へ行ってしまったぞー。」
「なにぃ?あいつはどうしたんだ。」
「さあ?何処か行きたいところがあったようだよ。」
「上杉くんのところに行こうか。前田くん。」
「この人が場所を知ってるそうです。俺は中で着替えてきまーす。」
「おや?中野さん!キミもEコースを選んでいたのかい?」
「フー・・・上杉はあっちよ!ついてきなさい。」
二乃に侍な武田くんと忍者な前田くんを引き渡す。
案内は任せた。俺なら時間の稼げそうな立体迷路かな。
でも着替えた状態でアトラクションブースって行けるんだろうか。
「お。凪。武田と前田はどうした。」
新選組隊士と化した風太郎が出てきた。
中々サマになってるじゃないか。一緒に池田屋行くか?
「どっかアトラクションを見に行ったよ。
俺も着替えてくるから、三玖と一緒にどっか行ってきなよ。」
「三玖と二人でか?・・・また逃げられるんじゃ」
「この頭でっかち。お前がそんな弱気でどうする。手を離すな。逃げられるなら掴め。
折角武田くんと前田くんの3人でここまでお膳立てしたんだ。
覚悟決めてくれよ色男。お前も聞いてしまったんだろ。三玖の事を。」
「あいつらまで・・・・そうか、わかった。すまんな。」
嘘だけど。彼ら何にも知らないけど。
とりあえずそういう事にしておく。
「じゃあ俺も着替えてくるから。その間に二人でどっか行ってなよ。」
「お兄さん、割とがっちりしてますね。
普段はやらないんですけど、特別にこれをお勧めします。」
「眼帯・・・・伊達政宗ですか。」
「兜もありますよ。」
「でっか。これ邪魔じゃないです?」
「パパっとメイクもしちゃいますねー」
あれよあれよと促されるままに伊達政宗の格好をさせられた。
軽いメイクまでされている。頬に黒い線を描かれている。
結構高かったぞ。1万円もするとは。つか伊達政宗って。
この映画村、戦国時代のイメージじゃないでしょ。平定後でしょ。
ちょっと浮いてるぞ俺。何でもアリか。
建屋から出たら誰もいなかった。
二人は上手く行っているかな。少し探してみよう。